月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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遅れてすいません。そして前話を不愉快に思った方々にお詫びします。
ただ今後に関しては、前回のように修正出来る部分と出来ない部分にはご了承していただきたいと思います。共通ルート付近では修正出来ますが、ルートが確定した話には修正出来ない部分もありますので。

百面相様、獅子満月様、ライム酒様、秋ウサギ様、エーテルはりねずみ様、えりのる様、禍霊夢様、笹ノ葉様、一般通過一般人様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!


六月上旬8

side才華

 

 予想外のジャスティーヌ嬢の援護に、僕は内心でガッツポーズを取った。

 本来なら渡し終えた後に僕が小倉さんに『サイズが合っているか心配なので、一度着て貰って構いませんか?』と尋ねるつもりだった。僕が小倉さんのサイズを知る事が出来たのは、お母様を経由してサイズを知っている瑞穂さんから教えて貰ったからだ。その事を知らない小倉さんに言えば、着て貰えるに違いないと思っていたんだけど、ジャスティーヌ嬢の言葉で尚更に着て貰えるチャンスが出来た。

 

「あ、あのジャスティーヌさん……さ、流石にこの場で着替えるのはちょっと」

 

「へっ? ……何言ってるの黒い子? こんな人の目がある場所で着替えろなんて言ってないじゃん。一階下の桜小路のこの部屋で着替えてくれば良いでしょう?」

 

「で、ですよね……あ、あの、アトレさん」

 

「私は構いません! 寧ろお姉様が作った服を着た小倉お姉様の姿を見てみたいです!」

 

 よし! アトレも予想通り興味を持ってくれた!

 本来なら僕はジャスティーヌ嬢じゃなくて、アトレに今の発言を期待していた。……道を誤らないか心配だが、僕が製作した服を小倉さんが着るとかは、絶対に興味を持つに違いないと確信していた。小倉さんの人の好さを利用するようで、少し嫌な気持ちもあるけれど、服を着るまでは問題は無い筈だ。

 小倉さんが苦手としているのは写真を撮られる事だ。五月に沢山の服を着ていたところから見て、服を着ること自体には苦手意識はないと思う。

 何よりも、先ずは僕が作った服を着て貰わない事には始まらない。

 

「で、でもこの服ってドレスとかじゃないですよね?」

 

 ん? ……ああ、なるほど、どうやら小倉さんは僕が渡した服がコンクールに出すような衣装じゃないかと心配しているようだ。

 アメリカに居た頃に、僕がコンクールに出すような服しか製作したことがない事をお父様やお母様から聞いていたのだろう。実際、自分じゃなくて誰かが普段から着られるような服を製作したのは今回が初めてだ。小倉さんが勘違いするのも仕方がない。

 

「小倉さん。安心して下さい。朝陽が渡した服は、普段でも着られるような服ですから」

 

「ふ、普段着……ですか?」

 

「はい。日常でも普通に着られる服ですから、安心して下さい」

 

「……わ、分かりました……アトレさんの部屋に行って着替えて来ます」

 

 何だか決意したような顔をしながら小倉さんは立ち上がり、カリンを伴って屋上庭園を出て行った。

 あれ? アトレと九千代は一緒に行かないのかな? 小倉さんが他人の部屋を漁るような真似をするとは思えないけど……いや、小倉さんはともかく調査員の役目を持っているカリンはやりそうだが、今のところアトレを調査する理由は無いだろうから大丈夫だと思う。何よりも小倉さんが許さないだろうし。

 

「あれ? アトレさんと九千代さんは行かなくて良いの? 小倉さんなら大丈夫だと思うけど、念の為に一緒に行った方が良いんじゃない?」

 

 どうやらルミねえも僕と同じ事を考えたようだ。

 だけど、アトレも九千代も首を横に振った。

 

「勝手に部屋を漁られる事はないと思いますので、大丈夫です……それに小倉お姉様は人に肌を見られるのを苦手とされていますから」

 

 あっ、そう言えば、小倉さんは誰かに肌を見られるのも苦手なんだった。

 まあ、あの渡した服は、夏が近いから風通しが良い布を使っているし、腕こそ肌を見せてしまっているが、学院の夏服と同じぐらいだ。小倉さんも夏服を着ているから、問題はないと思う。ないよね?

 一抹の不安が出来てしまった事に僕が考え込んでいると、ジャスティーヌ嬢が顔を向けて来た。

 

「黒い子って肌を見られるの苦手なの?」

 

「……そう言えば、ジャスティーヌ様はあの時にいませんでしたね」

 

「私も知らない。朝陽、どういう事なの?」

 

 授業でサイズを測った時にはエストもいなかった。傷跡とかは余り話題にして良い類の話じゃない。

 僕だけじゃなくて聞いていたクラスメイト達も、この件を教室内で話題にする事はなかったから、聞いていなかったエストとジャスティーヌ嬢が知らないのは無理もない。

 

「えっ? それ本当?」

 

「あら? ルミネさんは知らないの? 小倉朝日さんって、ルミネさんの親戚なんでしょう?」

 

「親戚と言っても、小倉さんの事は、去年の10月頃に会うまでは親戚だと知らなかったので……小倉さんの背中に大きな傷跡があるなんて、今初めて知りました」

 

「まあ、女性にとって体に傷があるとかは、知られたくない話だからね」

 

「本当は知られたくなかったのでしょうが、服飾部門は授業の初めに自分のサイズを測らないといけませんので」

 

「サイズを……」

 

 厳しい眼差しを向けないで、ルミねえ。

 ちゃんとその時は保健室に行くって事にして教室から退出したし、主人であるエストは学院を休んでいたんだよ。サイズの方は、後からエストに教えて貰った数字を記入したんだから。ちょっとは、他のクラスメイトの下着姿を見てしまったけど、その時だって出来るだけ見ないように顔を下に俯けていたんだ。

 第一……その後、小倉さんとカリンと一緒に保健室に行くなんて事になったから、恥ずかしさでクラスメイト達の下着姿なんて脳裏から消し飛んでしまった。

 ……それはそれで失礼かなあ?

 

「でも、前に桜小路さんが小倉朝日さんと一緒に露天風呂に入ったとか言ってなかったかしら?」

 

「私が小倉お姉様とお風呂に入れたのは、露天風呂の入口のところで一緒に入っても良いか確認したからだと思います。それにタオルを体に強く巻いていましたから」

 

 それでも追い返したりしなかったんだから、小倉さんは本当に優しい人だ。

 

「本当は露天風呂の中ではなく、部屋で話をするつもりだったのですが、小倉お姉様はかなり長風呂なお方でして。何度訪ねても部屋から返事がなく、もしかしたら何かあったのではないかと従業員の方に頼んで部屋の鍵を開けて貰いました」

 

「部屋を開けて貰ったって事は、個室に露天風呂が付いている造りなんだ。そう言えば、一緒に泊まった旅館の名前を聞いてなかったね。何処の旅館?」

 

「花乃宮家御用達の『鳳翔』と言う名前の旅館です、ルミねえ様。私も瑞穂さんの御好意で一泊させて頂きましたが、とても良い旅館でした」

 

「ふぅ~ん」

 

 ちょっと興味ありそうにしてるね、ルミねえ。

 実を言えば僕もだ。身体の事もあるが、幼少の頃にアメリカに渡ったから日本の文化である露天風呂に入る機会がなかった。それを偶然にも堪能したアトレを少し羨ましく思う。

 だけど、同時に嬉しさも感じていた。以前のアトレなら僕に遠慮して、露天風呂に入ったなんて話題を出す事はなかったに違いないから。間違いなくアトレは変わろうとしている。

 その事を実感出来て兄として嬉しく思う。

 

「ああ、あの一夜の出来事を思い出すだけで心が温かくなります。泣いていた私を優しく抱き締めてくれた小倉お姉様の姿と感触は忘れる事が出来ません」

 

 ……だから、危険な発言は止めてくれ。

 演技だよね! 僕の時と同じで演技なんだよね!? 頼むから百合の道になんて向かわないでアトレ!

 

「何だか流石に不安になって来た」

 

 ルミねえもアトレの様子に顔を俯かせているよ。

 流石にお父様とお母様に報告を……いや、お父様はともかくお母様に報告したら不味い気がする。お母様は小倉さんを大切に想っているから、下手をしたら『娘が危険な道に入りそうだから、朝日は家で引き取る』なんて事を言いかねない。

 普通ならアトレをアメリカに戻すのが当たり前なんだけど、総裁殿だけじゃなくてお母様もアトレにはお怒り中だからなあ。何よりも、小倉さんを家族と思っている総裁殿がお母様の行動に怒らない筈が無い。

 うん、どう考えてもろくな結果が待っていない。お母様に伝えるのは絶対に止めよう。

 それにしても早く戻って来ないかな、小倉さん。あの服を着た小倉さんの姿を、早く見たいよ。

 

 

 

 

side遊星

 

「……な、何でこんな事に」

 

「難儀ですね」

 

 66階のアトレさんの部屋に入ると共に、僕は才華様から服が入っている袋を丁寧に床に置くと共に四つん這いになった。

 いや、才華様からのプレゼントは本当に心から嬉しい。寧ろ僕なんかが桜小路遊星様やルナ様を差し置いて貰って良いのかとさえ、思う程に光栄な事だ。では、何が問題なのかと言うと……。

 

「……女性物……ですよね」

 

「それ以外には見えませんね。素人目ですが、良い服だと思います」

 

「はい。とても良い服です」

 

 袋から取り出して広げた服。とても良い服だと一目で分かった。

 コレクション系統のような華やかさが溢れるような服ではないけれど、普通に着ていて過ごしているところを見ると、思わず視線を向けてしまうような服だ。それに普段から着られる事も意識して製作されている。

 これが初めて才華様が製作した普段着だとは思えない程に、良い服だ。こんな素晴らしい服を着られる事に感激を……じゃないよ!!

 何で女性物の服を貰えたことに感激しているの僕! 才華様に服を貰えたことは本当に嬉しいんだけど……よりにもよって女性物。あっ、でもスカートの丈は長い。良かったあ。もしもミニスカートだったら、どうしようかと思って……。

 

「大丈夫ですか、遊星様?」

 

「あ、ありがとうございます、本名を呼んでくれて……本当にありがとうございます」

 

 再び膝を床に突いて項垂れていた僕に、カリンさんは救いの言葉をくれた。

 あ、危ないところだった。もしも本名じゃなくて、小倉朝日の方で名前を呼ばれて居たら、遊星としての自分が終わっていたかも知れない。

 ……何故か脳裏に笑顔のサーシャさんの姿が浮かんで来る。

 

『さあ、こっちにいらっしゃい! 私達に翼はないのよ!』

 

 そんなことありません、僕はまだ翔べます!!

 

「せめて髪の毛を切れさえすれば……」

 

「腕の良い美容師を知っていますが、切ったりしたら、衣遠様がお怒りになられるでしょうから、お勧めはいたしません」

 

 はい、脳裏に烈火の如くお怒りになったお父様の姿が普通に浮かんで来ました。

 うん。髪の毛を切るのは絶対に無理。なら、他に男として見られる方法はないものだろうか? 内緒で遊星の姿に戻ろうにも、腰辺りまで伸ばした髪の毛を纏めるとしたらポニーテールか才華様のように纏めるしかない。

 前者は先月にポニーテールにしたときに女性にしか見られなかったので駄目。後者は……才華様と同じ髪型にするとりそなが不機嫌になるので……やっぱり……駄目……。

 家の中で男性物の服を着ればと思っても、どうしても気が付いたら桜屋敷のメイド服を着てしまう。あれ? もしかしてこれって、八方塞がりで手遅れになっているんじゃ……。

 

「遊星様。余り彼方を待たせると、この部屋に確認に来られてしまうかも知れません。取り敢えずは、着替えだけでも済ませた方がよろしいかと」

 

「そ……そうですね。先ずは確かに着替えないといけませんよね」

 

 複雑な気持ちはあるけれど、才華様が僕の為に製作してくれた服だ。

 本当に複雑だが……もう着ないという選択は出来ないので着させて貰おう。洗面所の方に移動し、扉の前にカリンさんを待たせて僕は着替えを始める。

 ……あれ? 何だかやけにサイズがピッタリのような? 才華様に僕のサイズって教えたかな?

 疑問に思いながらも、着替えを終えた。

 そして洗面所にある鏡で、自分を見てみる。

 

「……やっぱり、サイズが合ってる」

 

 此処までサイズに問題が無いという事は、サイズを知らないと製作する事が出来ない。

 一体何処で才華様は僕のサイズを知ったんだろうか?

 疑問に思いながらも脱いだ制服を畳んで、今着ている服が入っていた袋の中に仕舞う。

 今日の作業は残念だけど、此処までになりそうだ。もう時刻は11時近くになっているし、八十島さんが運んでくれる夕食を食べ終えたら家に帰ろう。明日の放課後は学院に時間ギリギリまで残って、その後にアトレさんの部屋で作業を進めよう。

 片づけを終えた僕は洗面所から出た。

 

「……似合っていますね」

 

「ハハハッ……あ、ありがとうございます」

 

「遊星様。一応行く前に、メイクを直しておいた方が良いかも知れません」

 

「えっ? メイクをですか?」

 

「はい。作業で汗をかいたのもあるでしょうが、少し崩れています」

 

 言われて洗面所に戻って、顔を見てみた。

 そんなに崩れているかな? と思うけれど、女性のカリンさんが指摘するんだから間違いは無いだろう。

 手早く落とさせて貰って、薄いメイクを顔に付けた。……本当はメイクなんてしたくないんだけど、やらないと正体がバレかねないし、我慢我慢。

 

「これで写真を撮られても問題は無いでしょう……本格的なメイクの方での写真は撮らせて貰いましたし」

 

 何だか洗面所の外からカリンさんの声が聞こえるが、良く聞こえなかった。

 さて、屋上の庭園に戻らないと。才華様にもこの服のお礼を言わないと。本当に良い服だ。

 普段着として着ていける。

 

「……」

 

 本当に良い服なんだけど……やっぱり女性物だから複雑だ。

 ふふ、こんな姿を桜小路遊星様が見たらどう思うかな? これが貴方と同じ人物ですって知ったら……気絶じゃ済まないだろうなあ。

 もう土下座じゃ謝りたりないかも。ごめんなさい、桜小路遊星様。……はぁ~、男に、遊星に戻りたい。冗談抜きで、切実に戻りたいよ。

 落ち込みながらアトレさんの部屋を出て、エレベーターに乗り込み屋上庭園に僕とカリンさんは向かった。

 

 

 

 

side才華

 

 ……遅い。アトレの部屋に向かった小倉さんが戻って来ない。

 待っている間に壱与がやって来て、ジャスティーヌ嬢達が頼んでいた夕食も来てしまったよ。

 美味しく夕食を食べているジャスティーヌ嬢とアトレの姿に、エストが物欲しそうな顔をしているが、他の人から見えないように手を伸ばして何時でも抓る準備はしてある。意地汚いのはめっだ。

 八日堂朔莉とルミねえもまだいる。二人とも僕が製作した服を見たいようだ。ただ八日堂朔莉はともかく、ルミねえは大丈夫かな? さっきメールを確認する時間がどうとか言っていたから、小倉さんには早く戻って来て欲しい。

 

「お、お待たせしました」

 

 来たあ! 内心でワクワクしながら僕は振り返り……言葉を失った。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「とても良くお似合いです、小倉お姉様!」

 

「うん。良いと思うよ。普段着だから華やかさとかは少ないけど、黒い子が着ると本当に良く似合ってる。白い子のデザインが良いのは知っていたけど、製作の方も出来るんだね」

 

「私も良いと思う。出来れば、今度は私にも服を作って貰いたい」

 

「……良いんじゃないかな」

 

「私もそう思います。あ、朝陽さんの製作した服はアメリカに居た頃から見ていましたが、今まで見て来たどの服よりも良い出来だと思います」

 

「……良い服です」

 

 ……皆が僕の服を褒めてくれている。その事はとても喜ぶべきなんだろうが、今はそれ以上の感動に僕は包まれていた。

 アメリカに居た頃の僕は自分が輝ける衣装を考えてデザインし続けて来た。だから、誰かの為にデザインを描いて、服を一から製作したのは今回が初めてだった。コンクールに出すような華やかな衣装じゃない。

 普段から着て貰えるような思いを込めて、僕が小倉さんの為に製作した服。その服を着て貰えた事実に、僕の心は嬉しさと感動で包まれていた。

 これが誰かの為に服を作る感動。お父様はこんな感動をずっと感じていたんだ。

 また一つお父様の事を知れた事を実感していると、横に座っていたエストが肩を優しく叩いて来た。

 

「朝陽……良かったね」

 

「はい……お嬢様」

 

 こんな感動も服飾の世界にはあるんだと実感させられ、ますますこの道を進みたいと僕は心から思った。

 

「え~と……朝陽さん。本当に良い服をありがとうございます。この服は大切にさせて貰います」

 

「小倉お嬢様……色々と迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

 

 これまでも何度か謝罪したが、そのどれよりも心が籠もっていたと思う。

 そんな僕に小倉さんは優しく微笑んでくれた。ああ、その微笑みを向けられて大変嬉しいです。

 

「ただですね」

 

 ん?

 

「何処で私のサイズを知ったのでしょうか? 朝陽さんには教えていませんよね?」

 

 ……しまった。その言い訳は全く考えていなかった。

 そうだよね。ある程度のサイズの違いがあるならともかく、小倉さんのサイズピッタリに製作したんだから疑問に思うのは当然だ。

 小倉さんの背後に立っているカリンが険しい視線を僕に向けている。アレは、僕がまた紅葉から聞いたんじゃないかと疑っている目だ。前科があるだけに疑われても仕方がないが、今回は違う。勘違いされたままなのは、不味いから説明しないと紅葉にあらぬ疑いが掛かってしまう。

 

「アメリカの桜小路家の奥様にお聞きしました」

 

「ル、ルナさ……まじゃなくて、さ、桜小路家の御当主様にですか?」

 

「はい。奥様が花乃宮家の当主様に確認して、私にお教え下さいました」

 

「つ、つまり……この服の事を桜小路家の御当主様は……」

 

「知っています」

 

 何だか小倉さんが遠い目をした。一体どうしたんだろうか?

 

「……あの方が知っているなんて……と言う事は間違いなく……」

 

「難儀ですね」

 

 席に着いた小倉さんは落ち込んでいる。

 本当にどうしたんだ? ……もしかして僕の目的に気がついているんじゃ?

 

「あ、あの小倉お姉様? どうされたんですか? お母様が何か?」

 

「だ、大丈夫です、アトレさん……覚悟を決めているだけです」

 

「えっ? か、覚悟って一体何の覚悟でしょうか?」

 

「……朝陽さん」

 

「は、はい! 何でしょうか、小倉お嬢様!?」

 

 いきなり声を掛けられて驚いたあ!

 俯けていた小倉さんは何かを決意した顔をして……えっ? 何でそんな決意に満ちた顔をしているんですか、貴女は?

 

「アトレさん。一緒に写真を撮りませんか?」

 

「しゃ、写真ですか!? あ、あの大変嬉しい申し出ですが、確か小倉お姉様は写真を撮られるのを大変苦手とされていた筈ですが?」

 

「……苦手と言ってられない状況のようですから」

 

「はぁ? 良く分かりませんが……小倉お姉様とのツーショットは心が惹かれますので、一緒に写らさせて貰います!」

 

 ……何だか僕の予想外の方向に話が進んでしまった。

 本来なら服を着て貰った後に、話をしてその流れで旨く記念にという形で話を運ぶつもりだったんだけど。本当にどうしたんだろうか?

 まあ、予想外の事態だが、これでお母様からの依頼を果たす事が出来る。アトレの指示を受けて部屋からカメラを持って来た九千代が、僕が作った服を着た小倉さんとアトレのツーショット写真を撮った。

 色々と考えていただけに釈然としないものを感じてしまうが、とにかくお母様からの指示も果たす事が出来た。その事だけはとりあえず喜ぼう。




次回から中旬です。六月はとりあえず四月や五月に比べると話が少なくなりそうです。
そして久々の後書きの話と、才華sideでのルート選択肢発生です。

『その日の深夜のチャット会話5』

蜘蛛『とても良い話が聞けたよ。うん、アトレさんを輝かせたいだなんて彼女らしくて良いね』

蛇『ククッ、流石は我が娘と言うべきだろうな』

蝶『いや、本当に下の兄らしいんですけど、何だか今日は帰ってきたらそのままベットに倒れましたよ。何かあったのかと思って聞いてみたら、甘ったれが下の兄に服をプレゼントしたらしくて』

蜘蛛『良い話じゃないか。遊星君は才華君から服を貰った事なんてないそうだよ』

蝶『……それが女性物じゃなければ、下の兄も心から喜べたんでしょうですけどね』

蛇『ククッ、是非ともその姿を見てみたいものだ』

難儀『写真は撮っておきました。本格的なメイクのものと薄いメイクの方の両方を』

蜘蛛『良くやった。特別ボーナスを振り込んでおく』

蛇『此方もだ』

蝶『こ、この二人は……本当に……』

蜘蛛『それで話は戻すが……』

蝶『無視ですか……いや、もう良いんですけどね、はいはい話を進めましょう』

蜘蛛『アトレさんがクアルツ賞とやらのモデルに参加する事にはルミネさんが参加するよりも問題は無いが、『クワルツ・ド・ロッシュ』だったかな? その雑誌に最優秀受賞者の作品が載るんだろう? それに関しては問題は無いのか? 聞いた話では、その雑誌は桜小路さんも遊星君もわざわざ取り寄せて読んでいるんだろう?』

蛇『問題は無い。アトレと我が娘が仲直りしたことは桜小路とアメリカの我が弟とも知っている。それに受賞者の名前にラグランジェ家の娘の名前が載っているのなら事情の説明はし易い』

蝶『ルナちょむもアメリカの下の兄の婚約者候補に、真心の人がいた事は知っていますから、こっちの下の兄と口裏を合わせれば誤魔化せるでしょう。12月まで誤魔化せれば良いんですから』

蜘蛛『二人がそういうなら大丈夫なんだろう。なら、俺は安心して状況を見させて貰うよ。じゃあ、また今度』

蛇『遊星の作品を楽しみにしているが良い』

蜘蛛『そうさせて貰うさ』



選択肢
【パンクの依頼を聞きに音楽部門棟へ】(ルミネルート(才華side)フラグゲット! 朔莉ルート消失!)
【アイドルの依頼を聞きに演劇部門棟へ】(朔莉ルートフラグゲット! ルミネルート(才華side)消失!)

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