月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~ 作:ヘソカン
とある重大なイベントを引き起こすのに、りそなと対になる才華のヒロインはこの人と決めていたのですが、それだと今までの話に違和感が出来そうでやっぱりとか、いやあのイベントの為にと考え続けて更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。
あとリアルでも少々ゴタつくことが発生してしまったので、今後も更新が遅れてしまいそうです。出来るだけ、早めの更新を心がけますが。
前回と同じように選択肢の結果は本編と後書きで明らかになります。
■■■の部分は次の更新で修正します。
エーテルはりねずみ様、秋ウサギ様、笹ノ葉様、烏瑠様、獅子満月様、えりのる様、ライム酒様、誤字報告ありがとうございました!
side才華
「それではデザイン画のテストを返却します。成績はいつも通りAからEの5段階評価。文字に丸が付いていれば少し上、ダッシュの時は少し下だと思って下さい。じゃあ出席番号順にエストさんから」
『ア』-ノッツの姓のエストは、出席番号が一番早い。名前順に返却や提出が行なわれるときは、いつも一番先だ。つまり、何が言いたいのかと言うと……一番最初にダメージを食らうという事だ。
「ただいま」
「お嬢様。既に顔から血の気が引いていますが、結果は聞かない方がよろしいでしょうか?」
「朝陽。私の名前を言ってみて。きっとそこに、私の成績のヒントはあるから」
「お嬢様のお名前は『
「『Est』の『E』……」
最低評価じゃないか。
分かっていたとはいえ、こうして現実を突きつけられてしまうと、気の毒過ぎて何も言えない。普段の僕と一緒にいる時だけの実力を発揮すればA゜評価も貰えるのに。
……流石に今回の結果は重く受け止めて欲しい。もう年末に行なわれるフィリア・クリスマス・コレクションまで半年も無くなってしまった。
アメリカ時代に僕と竜虎相打つの関係にあったほどの実力者なのだから、無意味な真似をしているとは思えないけれど……。
「朝陽さん。デザイン画を取りに来て下さい」
「はい」
呼ばれて紅葉のところに行く途中で小倉さんとすれ違った。
「……C評価」
少々残念そうにしていたが、貴女は既にエストよりも日本で大きな実績を上げていますよ。
今日の朝の朝礼前は、小倉さんとジャスティーヌ嬢の席の周りは大変賑わっていた。あのジャスティーヌ嬢がクワルツ賞に参加する事に悔しさを感じていた梅宮伊瀬也も、素直に『おめでとう』の言葉を送っていた。
それだけ小倉さんが製作した衣装は素晴らしいものだったし、賛辞を受けて当然だと思える出来栄えだった。
「はい、此方がデザイン画です」
僕の成績はいつもと変わらずA゜だった。今更感慨深いものがあるわけでもないけど、こうして成績で示されるのはやはり大変気分が良い。
他にA評価という声は聞こえてこない。ほとんどの人が、ほどほどの結果であれば上等のようだ。ジャスティーヌ嬢も、やはり手を抜いたのかA評価という声は聞こえなかった。
初年度の一度目のテストだけ在って、結果を気にしている人すら少なかった。悪い成績が付いたと話す生徒が、楽しそうにしている。
「『B』……」
その中で、梅宮伊瀬也は自分の成績を真顔で見つめていた。
クラス内ではそれなりに良い成績にも関わらず、もしそれが自分の中で納得いっていないのであれば、彼女はプライドが高いのだろう。
その悔しさは、きっと彼女の力になる、それと、僕はそういう人が大好きだ。
初めて出会った日にアトレと対立していたから、印象自体は余り良くなかったが、今では素直に良い同級生だと思える。出来る事ならば桜小路才華として接して、仲良くなりたいところだが……彼女本人はともかく、梅宮伯母様や桜小路家のお爺様に僕の存在を知られるのは不味い。ひいお祖父様ほどではないが、梅宮伯母様や桜小路家のお爺様も僕がしている事を知ったら何をして来るか分からない。
このまま梅宮伊瀬也とは、偶然一緒のクラスになった同級生で関係が終わるのが一番だろう。
「はい。じゃあデザイン画の成績を返し終わったところで、ついでに夏休みの宿題の説明をします」
遂に来た! 僕はずっとこの機会を待っていたんだ!
「どうしてまだ終業式の日じゃないのに? と思うでしょうが、いま返却したデザイン画が夏休みの宿題になります」
事前に紅葉に聞いて確認しておいた。
デザイナー科の夏休みの宿題は、数名のグループを組んで、衣装製作する事。その製作する衣装のデザイン画は、今返されたデザイン画の成績が良かった4名だ。本当なら御付きのメイドも加えて6名のグループで、衣装が製作されるのが本来の形らしいのだけど、このクラスの付き人を除いた総勢は16名だ。
これは調査員として小倉さんがクラスに入って来たから、本来よりも1名増えた。だから、今年は紅葉が言うのには四組のグループが教室内で作られる。
僕はこの衣装製作にルミねえの衣装の製作依頼を持ち込むつもりでいる。ひいお祖父様が悔しがりながらも、文化祭でのルミねえの衣装を学院の生徒で製作したものとして納得する為にはこんな周りくどいやり方をするしかない。
僕というか、桜小路才華が製作した衣装を文化祭でルミねえが着るなんて知ったら、どんな手を使っても邪魔してきそうだ。だから、対外的にどうしても桜小路才華が関わっていないように見せておかないといけない。
問題は付き人の立場にある僕のデザインが使って貰えるかどうかだ。
事前に紅葉に確認したが、夏休みの宿題は生徒のデザインが選ばれると教えて貰った。
でも、グループのリーダーに選ばれた生徒が、どうしてもと頼めば付き人のデザインも使う事が出来る。
この手段に賭けるしかない。
「というのが、例年の夏休みの宿題なんですけど」
……あれ? 今、紅葉はなんと言ったのだろうか?
えっ? 例年の夏休みの宿題? もしかして……今年は違うの!?
驚き目を見張る僕に、紅葉は一瞬だけ申し訳なさそうな顔を向けて来た。
「今年は皆さんも既にご存じでしょうが、年末には著名なデザイナーの方々が審査員としてやって来ます。皆さんの中にも年末で行なわれるフィリア・クリスマス・コレクションに参加しようとする方々もいると思います。ですが、皆さんは二年生や三年生と違って、フィリア・クリスマス・コレクションを経験していません。その事を考えた総学院長からの指示で文化祭で、フィリア・クリスマス・コレクションルールを用いたコンペが開催される事が決定しました」
……。
「今から呼ぶグループの中で、衣装を製作して貰い、その衣装を決めたモデルの方に着て貰って参加して貰います。これが今年の夏休みの宿題です」
………。
「私達の製作した衣装で文化祭で行なわれるコンペに出るの!?」
「ど、どうしよう。お父様達も見に来るよ」
「でも、ショーで着て貰えるとか夢みたいだよね」
そ……そんなあぁぁぁぁぁぁ!?
余りの事実に頭を抱えたくなってしまった。これじゃあルミねえに衣装を着て貰う事が出来ないじゃないか!
本来の夏休みの宿題を利用するつもりだったのに!?
「ただ年末に行なわれるフィリア・クリスマス・コレクションでは、個人参加出来ますが、文化祭で行なわれるコンペに関してはグループ作製で製作された衣装になっています。元々夏休みの宿題は、皆さんに企業で服を作る際は、各工程ごとに専門の人間がいることを学んで貰う為です。型紙を引くにはパタンナーという職種がありますし、デザイナーにしても、企業ではアシスタントから入る場合が多いので、リーダーの指示に従って動く形になります」
紅葉が夏休みの宿題に関して教えてくれているけど、僕はそれどころではない。
夏休みの宿題が文化祭で行なわれるコンペに出される事が決定しているという事は、同じように文化祭で行なわれるピアノの演奏会に参加する事が決まっているルミねえに着てもらう事は出来ない。
コンペとピアノの演奏会が開催される時間が同じでなくても無理だ。両方に参加して貰うなんてルミねえに頼めるわけが無い。個人的に衣装を製作する事は出来る。
問題はその衣装をルミねえに着て貰う方法だ。付き人が製作した衣装なんて、ひいお祖父様が文化祭という大きな学院の舞台で着る事は認めないに違いない。エストの名前を利用するのも無理だ。
そもそも悪名が流れているアーノッツ家の人間と接触していること自体が、ひいお祖父様の不興を買ってしまいそうなんだから。
「この夏休みの宿題は、共同製作を学べる数少ない機会です。この半年間の成果をご家族の皆さんや来賓される方々に見せて上げましょう。青春ですよ青春!」
青春も良いが、今はどうやって文化祭でルミねえに衣装を着て貰うかだ。何とかしないと。
「ではリーダーになって貰う人ですが、デザインの成績で今回は決めさせて貰いました」
ああ、つまり……小倉さんがリーダーになる可能性は低いという事か。
デザイナー科だけあって、何よりも優先される成績はデザインだ。という事は、僕の隣に座っている『E』評価のエストもリーダーに選ばれる事は無いね。
「ではリーダーになって貰う人ですが、一番成績が良かったのは温井さん」
「えっ?」
予想していなかったのだろうか。最初に名前を呼ばれた彼女は、目を丸くして驚いていた。
でも僕からすれば、そうなるのではないかなと思っていた。彼女のデザインの相談には何度か乗った。開いている時間の時に自分から僕に見せに来て、感想や意見を聞かれたこともあった。
僕なんていう、生活とデザインが密着している人間を『基本』にしてしまったせいで自覚がなかったかも知れないが、実のところ、彼女は相当真面目に描き続けている。他の同級生達が気付かぬ間にもだ。
「え、私がリーダーで、しかもデザインの成績が一番良い……ほんとに?」
困惑する彼女が真っ先に見たのは、僕の顔だった。人の努力が実った瞬間を目撃出来るなんて、これほど心躍る瞬間も無い。彼女に喜びに応える為に、少しはしたなく、Vサインを見せてしまった。
しかし……彼女が一番に選ばれたという事は、予想通りジャスティーヌ嬢は手を抜いたか。
「次に遊佐さん」
「えっ、私も?」
仲の良い友人同士で続けたことも良かった。強制ではなくても、さぼりにくくなる。悪い感情を抱かずに競争できることは、本当に良い事だ……お腹が痛くならずに済むから。
「良かったですねお嬢様、御父上もお喜びになります」
「お嬢様、心を込めてお手伝いします。お役に立てる機会があって良かった」
「あ、あはは。私達、同じ班になれないね」
「残念だけど仕方ないね、あはは……」
残念だと言いつつ、二人とも嬉しそうだ。紅葉が言う青春というのはこういうものなのか。何だか胸が熱くなってくるよ。
そして残り三名も名前が呼ばれ、リーダー4人が決定した。他の生徒は喜んでいたけど、最後に呼ばれた梅宮伊瀬也だけが難しい顔をしていた。
「各班のリーダーは、文化祭に出すデザインと何処のパーツを誰が担当するのかを記載して、夏休み前までに名簿を提出してください。このクラスは16名だから、メイドさんも合わせて各8名の班になりますね。デザインが選ばれなかった人も、共同製作は来年もあります。年末のショーで衣装を披露する機会もありますから、今回は班での製作に力を注いでください」
これで一通りの説明が終わったものの、教室内は、まだ軽くざわついていた。
夏休みの予定が変更になりそうで困っている子もいるし、友人を班に誘っている子もいる。
「それじゃあ、黒い子。また一緒にやろうね?」
「あ、あの、ジャスティーヌさん。まだ、授業中ですし、私達は班のリーダーに選ばれていませんよ?」
「そうだったね。でも、黒い子と一緒の班で私はやるよ」
そしてジャスティーヌ嬢は、即座に小倉さんを勧誘していた。
飯川さんや長さんなど、小倉さんと一緒の班になりたかった人達が誘うのに二の足を踏んでいるのが見える。
小倉さんはともかく、ジャスティーヌ嬢が一緒の班になるのは怖いようだ。クワルツ賞の衣装の一件で、多少なりとも好意的な視線を向けられるようになったジャスティーヌ嬢だが、容赦の無い駄目出しをして来るのは変わりないので、恐れるのは無理もない。
……そうだ。夏休みの宿題を利用出来ないのなら、先月頼んでいた通り、小倉さんに協力して貰おう。というよりも、もうそれ以外に僕に手段はない。そうと決まったら、カリンを経由して頼もう!
「はい、じゃあお喋りは其処までにして、今日のデザイン画の課題を……」
今となっては幸いだが、付き人である僕のデザインが夏休みの宿題で使われる事はない。寧ろこのまま、一緒の班になるリーダーのデザインのままで……。
「待って下さい」
ん? なんだろうか、急に梅宮伊瀬也が声を上げた。
しかもやけに攻撃的な声だった。お喋りをしていた生徒達が一斉に口を噤むほどだ。どうしたんだろうか?
紅葉も不思議そうに梅宮伊瀬也を見つめている。
「どうしたの、梅宮さん?」
「4人の成績優秀者の中に、朝陽さんが入っていないのはどうしてですか? 納得出来ません」
「それは……」
僕がメイドだからだよ。いや、それよりも待ってくれ。
正義感で君が声を上げたのは、分かるけれど、本当に今は待ってくれ。
そもそも、今梅宮伊瀬也が上げた問題は過去にもあっただろう。尤も梅宮伊瀬也のように正義感からではなく、寧ろ逆の感情で。
雇用主側の人間が『なぜ自分ではなく当家のメイドが?』という事態が、以前にあったことは容易に想像出来る。これは事前に紅葉に僕も確認したから間違いない。
学院側としては、付き人をサポートとして扱っている。だけど、授業では通常の生徒と同様に採点しているし、内容については差を付ける事はしない。
付き人の立場でも年末のショーへの参加も認めている。生徒は強制参加で、メイドは希望した人間のみという違いはあるけど、一度は栄光に輝ける場を用意してくれている。
以前は班での製作が、個人での衣装に変わったのも、そのままでは付き人の作品が世に出る事はないだろうから、という学院の温情だろう。
ただその代わりに、ショーをメインとするから、文化祭などのお祭りでは雇用主を優先してくれ。という暗黙の了解が、これまでのデザイナー科の歴史の中で出来上がっていたのだと思う。
先ほどまでこの暗黙の了解を僕は壊そうとしていたが、今は寧ろ暗黙の了解のままでいてほしい!
でも、誇りを重んじる梅宮伊瀬也は許してくれなかった。
「朝陽さんがメイドだから駄目なんでしょうか。それと、ジャスティーヌさんも」
「私、今回も手を抜いて描いたから仕方ないよー。日本のテストなんてキョーミないけど、叔母様が怖いから少し頑張ったけどね、先週はクワルツ賞やハリネズミの『難攻不落』が風邪ひいちゃっていたし。まあ、アトレと黒い子のおかげで何とかなったけどね」
『難攻不落』ってハリネズミに付けた名前なのか。いや、それよりもアトレの事も名前で呼んだという事は、相当仲良くなっている事なんじゃ? あだ名以外でジャスティーヌ嬢が名前を呼ぶのを初めて聞いたよ
因みにジャスティーヌ嬢が広げたデザイン画は、明らかに手を抜かれているが、それでも『C』評価が付いていた。それが意味する事は……。
「ジャスティーヌさんが『C』評価!? という事はこのクラスで一番デザインが駄目なのは私! オーマイガー!!」
「ジャス子は分かったけど、朝陽さんは納得出来ません。温井さん達だって、普段から朝陽さんに教わったって言ってたのに、その人が選ばれないはずがないです。納得出来ないです。実際、朝陽さんの評価はなんですか? AかA゜悪くてもA'じゃないんですか? それを聞かないと納得出来ません」
今すぐ手元にある戻ってきたデザイン画を見せて、梅宮伊瀬也を納得させたい!
十分ほど前は今の展開を確かに期待していたが、今は寧ろ選ばれたくないんだよ!
「ただ、それを聞いたところで、多分納得出来ないと思います」
納得しないのか! ……不味い。この様子だと、今の梅宮伊瀬也には何を言っても納得する気はないに違いない。
「私も朝陽さんの実力は認めているし……認めてるから、励まされて、元気が出た事がありました。それで遠慮しているとかじゃなくて、励まされて力になるほど認めてるから、自分の成績の方が下なのを分かってるつもりです」
君の気持ちは正直言って本当に嬉しいけど、時と場合に依っては本当に困るんだよ! こっちの事情を知らないから仕方がないけれど、本当に今は不味いよ。
「自分の実力が及んでないのに、はっきり上だとわかる相手を差し置くなんて、私、嫌です。朝陽さんの成績が私より下ならともかく、そうじゃなければ、私と朝陽さんでリーダーを入れ替えて下さい。最初に選ばれた4人の中では私が一番下の成績だし、妥当だと思います。それで良いよね朝陽さん。私、あなたの手伝いに回るから!」
「栄光ある決断」
固まっている僕の隣でエストが席から立ち上がった。
付き人である僕の一存では何も決められない。その決定権を持つ主人は、梅宮伊瀬也に向けて手を叩いていた。
「私が育った大英帝国は、名誉という単語を好みます。名誉革命。名誉ある孤立。人間の誇りを尊びます」
その大英帝国は、エストの故郷であるアイルランドを侵略する時は無茶苦茶をしたけれどね。まあ、今それは良い。いや、良くない! この流れは本当に良くないよ!
「ウメミヤさんの決断はまさに名誉あるものです。ですがこの場合は、彼女の将来での成功を願って、栄光ある決断と言います。栄光ある。彼女の将来には、必ず栄光があります。先生さえ認めてくれれば、彼女と、彼女の認めた自分の従者に私も協力します」
……事前にエストに僕の文化祭での目標を話しておかなかった事を、心から後悔した。
話しておいたら、問題は無かったかも知れないのに!
後悔と状況の変化で僕が混乱していると、更なる追い打ちが襲い掛かった。
「賛成」
ジャスティーヌ嬢まで手を上げてしまった。その隣で顔を青褪めさせている小倉さんを目にする。
小倉さんは僕の事情を知っているから、この流れの不味さが分かっているのだろう。その隣にいるジャスティーヌ嬢は、楽しそうな事を見つけたと言わんばかりの笑顔で梅宮伊瀬也を見つめていた。
「白い子が描いたデザインなら退屈しなさそう。楽しそう」
あの教室内で一番学院生活に意欲がなかったジャスティーヌ嬢まで、僕のデザインに興味を覚えてくれるのは大変気分が良いけど……どうしよう。
「私、考え方変えるね。今まで、才能ないのにプライドが高い子が嫌いだったけど、それより、才能なくてプライドもない子の方が何倍も嫌い。いせたんのこと少し好きになったよ。自分の未熟を認めて、相手の実力を立てるなんて、気位がないと出来ないよ。イングランドの事は知らないけど、気位のある上品な女性をフランスではこういうの。『
珍しい事に、ジャスティーヌ嬢が他人を誉めている。
もちろん失礼なことを言っているのだけれど、普段から教室内で針を立てているハリネズミが、一日だけ針を寝かせて甘えてきたら、可愛いと思ってしまう。
「今後、伸びるだけの才能がいせたんにあるのかまでは知らないけどね」
「なにそれ。誉めてるの馬鹿にしてるの?」
案の定、梅宮伊瀬也はまんざらでもない顔だった。明らかにジャスティーヌ嬢は下に見ている。
つまり馬鹿にされているのだけど、それでいいのだろうか?
「というわけで、私と黒い子もいせたんと白い子と一緒にやるね。いいよね?」
そう言えば、小倉さんはジャスティーヌ嬢と一緒にやるんだっけ。
あの人と一緒に製作するのは楽しそうだ。心からそう思えるんだけど……現実逃避はそろそろ止めないといけないよね。
「わ、分かりました。梅宮さんがそれで良いというのであれば、あ、朝陽さんのデザインで衣装を製作して下さい」
申し訳なさそうな顔を紅葉は僕に向けて来るが、この状況では断れないのは良く分かっているので無言で頷いた。
「ああ。お姉様のデザインで、しかも小倉お姉様まで一緒に作業してくれるのなら、私達も一緒の班で作りたかったのに」
「いつの間にか班員が決まってしまっている」
僕や小倉さんの事を慕ってくれてありがとう。
さて……そろそろ覚悟を決めないといけない。先ず僕は文化祭でルミねえの衣装を製作する。これはもう心に決めていた事だから、どんな手を使ってもやり遂げるつもりだ。
夏休みの宿題が使えなくなった今、新しい手段が必要だけど、それは今は置いておこう。この状況を乗り越える事が先決だ。
服飾部門の文化祭で開催されるというフィリア・クリスマス・コレクションで使われている、ルールを使用したコンペ。ルミねえの件が無ければ、舞台には立たなくても経験を積めることに喜んでいたに違いない。
此処でハッキリとすべきだ。文化祭でコンペに出す衣装の相手も考えないといけない。
まあ、実を言えばその相手は思い浮かんでいる。隣にニコニコと座っている僕の主人、エストだ。
八日堂朔莉も脳裏に浮かんだが、彼女は彼女で演劇部門の文化祭での出し物があるから、候補に入れる訳にはいかない。
それにエストに僕の衣装を着て貰う良い機会だ。この主人は容姿に関しては問題が無い。
後、色々と迷惑をかけていながら相談に乗って貰ったり、便宜を図ってくれているこの主人に一度は贈り物をしたいと思っている。だけど、そうなるとルミねえの衣装の製作に問題が出てしまうかも知れない。
エストとルミねえ、僕はどちらの衣装を優先して製作しようか?
エストの衣装を製作する。
本当に悩んだ。だが、この状況で文化祭のコンペに出せないルミねえの衣装を優先して製作するのは難しかった。
僕がハッキリ言えば良い事だが、それだと隣に座る主人の好意を台無しにしてしまう。ルミねえの衣装も全力で頑張るつもりだが、最悪の場合はエストか事情を知っている小倉さんに協力して貰おう。というよりも、小倉さんの協力は必要だし。
エストの衣装にも手を抜くつもりはない。誇り高き僕の主人を貴族らしく着飾る。素晴らしい発想だ。そうしよう。そうしよう。
だから、此処は決意表明をかねて口を開かないと。
「ありがとうございます、お優しい皆様方。梅宮様と我が主に感謝し、小倉お嬢様とジャスティーヌお嬢様のお力添えもいただいた上で、一年目の製作物とは思えないほどの衣装を作りたいと思います。最高のデザインを新たに描いて、文化祭のコンペに出す事をお約束いたします」
「よかったね、デザインが選ばれて。成績も最高のA゜だし、流石は朝陽。E評価の自分が恥ずかしいよ」
「フフフフ」
「明らかに何かを企んでいる笑みを浮かべて、朝陽が私を見ている……私、どうなるの? 悪い成績をとってしまったから、この後で怒られるの?」
隣でエストがぷるぷると震え始めた。それはすぐに感動の震えに変わらせてあげるよウフフ。
決して君に対する嫌がらせなんかじゃない。これまで迷惑をかけたお詫びと、アトレのようにこの主人にも輝いて貰いたいという気持ちがあるからだ。
ルミねえの方も勿論、頑張る。二つのデザインを考えて制作しないといけないから大変だが、エストとルミねえに着て貰いたいと思えるデザインのイメージは見えて来ている。文化祭に向けて頑張るぞ!
ちなみに次の授業で返却された服飾史のテストの結果は散々だったため、その後でエストを叱った。
選択肢
【エストの衣装を製作する】←決定
【ルミネの衣装を製作する】
《才華side! エストルート完全確定!!》
と言う訳で、才華sideはエストがヒロインに決定しました。
ルミネの衣装は勿論製作しますが、以前の後書きで書いたようにルミネが才華のヒロインになる条件は『才華が一人で衣装を製作する』ことなので、その条件を満たさないといけません。
ヒロインでは無いので、ルミネの問題は解決までにはいきませんが、ある程度までの救いは与える予定です。あくまである程度ですが。
因みに遊星のヒロインがルミネだった場合は、遊星一人での製作になります。
後、地味にいせたんの実力が上がっていたのは、ジャス子がクワルツ賞に参加するので負けたくないという気持ちで頑張ったからです。最も頑張っても上手くいかないのが服飾の世界なのですが。