月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~ 作:ヘソカン
そして中旬。漸く待ちに待ったあのイベントが書けます。
烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!
side遊星
帰宅すると共に、僕はテーブルに倒れ伏した。それだけ衝撃を受ける事が襲い掛かって来たから。
……求婚された。男性の方に。思い出すだけで謎の汗が全身の毛穴やそれ以外の穴から出て来そうだ。と言うよりも……求婚された瞬間に謎の汗が噴き出した。男に求婚なんてされたくなかった。
うぅ……駄目だ。本当に思い出すだけで涙が零れてしまいそう。
「帰って来ていきなり倒れ伏すなんて……今度は一体何があったんですか?」
「……された」
「はい?」
「求婚……された」
「うわー、ナンパを通り越して遂に其処まで……で、相手は誰ですか? 妹、すぐにその相手を潰しますから教えて下さい」
かなり怒りに満ちた声だ。流石にこの声を聞いたら、倒れている場合じゃない。
ゆっくりと顔を上げて、腕に力を込めてテーブルから体を起こす。
「青山に才華さんと買い物に行った時に会ったんだけど、海外の人で、全然知らない人だった」
「ああ、それで青山で有名なスイーツ店の『ピエラナイ・エルメ』の箱がテーブルに置いてあるんですね?」
「うん。桜の園から帰ろうとしたら、才華さんが買い物に行くって話をしていたから、僕も付き合おうと思って誘ったんだ」
その時の才華さんの服装はメイド服だったけど、流石にあの格好のままで行く訳がないよね?
僕が誘ったらちゃんと着替えて来てくれたし。……でも……才華さんには悪いけど、行かない方が良かったかも知れない。まさか、ナンパを通り越して求婚されるなんて夢にも思ってなかった。
しかも……僕だけじゃなくて才華さんまで求婚されていた。
喉元から奇声が飛び出なかったのは奇跡だ。いや……奇声も上げられないぐらい放心していたからなあ。
カリンさんが呼びかけてくれなかったら、意識を取り戻せなかったかも。
忘れよう。僕の記憶から抹消。うん、僕と才華さんはカリンさんと一緒に青山で買い物して来ただけ。それだけだ。
「しかし、下の兄はあの甘ったれと一緒に買い物したそうですが、帰りも桜の園に送ったんですか?」
りそなもどうやら話題を逸らしてくれるようだ。ありがとう、りそな。
「ううん。才華さんはタクシーに乗って帰ったよ」
「ああ、やっぱりアメリカの下の兄とは違いますね。あっちだったら、間違いなく送り迎えしていたでしょうから」
そんな事は……っと思いたいんだけど、アメリカで八千代さんから桜小路遊星様の才華様に対する過保護を聞いているからなあ。
買って来たマカロンをお皿に移して、二人分の紅茶も用意する。
「製作の方はどうですか?」
「順調かな。怖いぐらいに」
以前、ルナ様のクアルツ賞の衣装を製作していた時よりも順調だ。
それと言うのも、僕らの班は、梅宮さんと大津賀さんを除いて全員が服を製作した経験を持っているからだ。他の班の人達は、樅山さんに学院で教えて貰いながら製作しているそうだから、僕らの班はクラス内で最も恵まれている班に違いない。
「楽しそうですね? 下の兄」
「うん! グループ製作は、自分一人でやるのと違って皆で頑張って製作するから、別の楽しさを感じるよ!」
皆で一つの衣装を製作する。ルナ様のクアルツ賞の衣装の時にも感じていたけど、今度は間違いなく完成させる事が出来る。
楽しみだなあ。
「妹もその気持ちは良く分かります」
「あ、りそなもグループ製作した事があるんだ」
「それはありますよ。パリコレで賞を取った時は、今の個人製作参加じゃなくてグループ製作だったんですから。妹も、あの時、協力してくれた皆への感謝は忘れていません」
……駄目なのに嫉妬と悔しさを僅かに覚えた。
出来る事なら……僕もりそなが大舞台に参加する瞬間をこの目で直接見たかった。きっと、桜小路遊星様は動画かも知れないが、それを見ることが出来たに違いないから。
あれから、内緒でりそながパリコレで賞を取った時の映像が残っていないかと思って、動画サイトを検索してみたけど、流石に十数年以上前の動画は残っていなかった。本当に残念だ。
あのデザインが現実で衣装となってりそなが着ているところを、動画や写真でも良いから見てみたかったのに。
「え? どうしました? 何だかちょっと嫉妬した顔をしてますよ?」
顔に出てしまったようだ。首を横に振るう。
「何でもない。それよりもマカロン食べよう。新作だそうだから美味しいと思うよ」
「そうですね……あ、本当に美味しい。結構いけますね」
「うん。美味しい」
買って来て正解だった。
「ああ、それと、今日の役員会議でですね……正式に私が描いたデザインが、フィリア・クリスマス・コレクションで使われる事が決まりました」
「本当!?」
「ええ……まあ、妹も今年のフィリア・クリスマス・コレクションに京都の人やスイスの人、ミナトン。それに貴方の憧れの相手であるジャン・ピエール・スタンレーを呼んだりと、舞台を盛り上げる事ばかりして来ましたから。それに貴方とあのラグランジェ家の娘が、十数年ぶりにクアルツ賞を取ってくれて、今年の服飾部門は盛り上がっています。だったら、更に盛り上げようと妹のデザインから製作した衣装を、舞台の説明に使おうという事になりました」
「絶対に応募するから」
「頑張って下さい。妹も下の兄に出来れば製作して貰いたいので」
うん。最高の衣装をりそなのデザインから、必ず製作して見せるよ。
「あ、でもこの場合、ファッションショーの参加の方はどうなるのかな?」
付き人のメイドの方は参加しなくても良いけど、生徒の方は参加するのが決まっている。そっちも参加する事になると、二着衣装を製作しないといけなくなるから製作が大変だ。
「其方の方は安心して下さい。受かった生徒は、ファッションショーへの参加は免除と言うか、私の描いたデザインが作品という事になりますから」
「良かった」
「正式な発表は文化祭が終わった後になると思います。総学院長としては、先ず文化祭の方に集中して貰いたいそうなので」
「それが良いと僕も思うよ」
元々文化祭でのコンペの話だって急な事だったんだから。
「デザイン。楽しみにしてるね?」
「ええ、妹も頑張って描くつもりです」
そのデザインを最高の衣装にする為にも、勉強を頑張らないと!
やる気に満ち溢れながらアトリエに向かおうとしたところで、携帯が鳴った。
「ん? 誰だろう?」
こんな時間に誰かなと思って画面を見てみる。
「あ、湊からだ」
「ミナトンですか?」
「うん。急にどうしたのかな」
もしかして、例の瑞穂さんの衣装の事かなと思いながら電話に出てみる。
「はい、もしもし」
『やっほー! 朝日。久しぶり』
「うん、久しぶり、湊」
『ゆうちょ』とあだ名で呼んで貰えない事に寂しさを感じる。
でも、仕方がない。こっちの湊にとっての『ゆうちょ』は桜小路遊星様なんだから。
……結局、僕は湊にちゃんとしたお礼を返すことも出来なかった。正体を知っても、隠してくれていたのに。謝って済む事じゃ……いや、直接謝ることも出来ないけど、ごめん、湊。
『あれ? 朝日、どうかした? 何かちょっと声が暗いように感じたけど』
「ううん。何でもないよ、湊。それで今日は何の用?」
『いや、用って程の事じゃないんだけどね。ちょっとした頼み事があったのと、朝日、元気にしてるかなって思って、連絡したんだ』
「僕は元気にしてるよ。心配してくれてありがとう」
『そっ。良かった。それでさあ。頼み事なんだけどね。瑞穂の衣装を見に行った時になんだけどさあ……そのね』
湊にしては、何だか歯切れが悪いような?
何時もの湊なら、頼み事でもずけずけと言って来るのに。それなのに、この言い淀むような歯切れの悪さ。
……少し不安を感じてしまう。湊だけならともかく、傍にルナ様がいるからなあ。
才華さんが服を贈ってくれた時のように、写真を要求して来そうだ。もう、カメラのレンズを向けられるのがトラウマになりかけているのに。
『あのさ。ルナから教えて貰ったけど。朝日って、今、バーベナ学院に通ってるんだよね?』
「う、うん。そうだよ」
うぐっ。湊にまで嘘を吐いてしまっていることに、ざ、罪悪感が。
でも、本当の事は言えない。もしかしたら電話先には湊だけじゃなくて、ルナ様や桜小路遊星様が傍にいるかもしれないんだから。
目の前にいるりそなも、同じ事に思い至っているのか、両手を交差させてバツ字に示しているから話すことは出来ないよ。
「僕が日本で通っているのは、バーベナ学院で間違っていないよ」
『そっか。だよねえ。今のフィリア学院は男子部が無いんだし、朝日が通える訳がないよね』
「う……うん。ハハハハハ」
ま、不味い。話題を変えないとボロが出てしまいそうだ。
み、湊に嘘を吐くのが心から辛い。わ、話題を変えないと。
「そ、それで。バーベナ学院がどうかしたの?」
まさか……日本に帰国した時にバーベナ学院を案内してくれとかじゃないよね?
それは無理だ。バーベナ学院に通っていない事がバレてしまう。いや、こうなったら瑞穂さんと同じように、日本に来た時に湊にも本当の事を話すしかないかも知れない。
りそなに視線を向けると……。
『この場は何としても誤魔化して下さい! ルナちょむがミナトンの傍で聞いているかも知れません!』
そう書かれたメモ用紙を僕に突き付けて来た。
無言で頷き、湊からの返答を待つ。
『いやね。朝日には悪いんだけど、京都で会った時にバーベナ学院の制服を着た姿を写真に撮らせて貰って良いかな?』
「制服の写真!?」
『うん。そう……何だか良く分からないんだけどね。ルナが、朝日が本当にバーベナ学院に通っているか調べてくれって頼んで来てね。後、才華君達の様子も見て来てって頼まれたんだよ』
冷や汗だーらだら。だーらだら出て来てる。
か……確定だ。ルナ様……間違いなくこっちの事を怪しんでいる。先月の電話で何とか誤魔化せたなんて思っていたけど、それがどれだけ甘い考えだったのか思い知らされた。
……そうだよね。僕なんかがルナ様を誤魔化し切れる筈が無いよ。
だってあの方は、僕の思考を簡単に見抜けるお方だし。こっちでは桜小路遊星様と長年夫婦関係にあるんだから、尚更見抜かれても可笑しくないよ!
「み、湊……そ、そのごめん……実は色々あって写真を撮られるのが凄く、に、苦手になって。ほ、ほら。湊も知ってるでしょう? お父様が大蔵家で女装した僕の写真を見せた事を…あの事と、勉強の為に写真を撮る事になって、その……」
『ああ、ルナから聞いたよ。瑞穂のところで衣遠さんから出された課題をやって、沢山写真を撮られたって』
「う、うん。だから、写真はその……」
『一枚ぐらいは駄目かな? 瑞穂の衣装の写真を撮るついでに。それに、才華君が朝日に贈った服を着た写真は撮ったんだよね?』
「そ、それも知ってるの?」
『ルナから写真見せて貰ったけど、才華君。本当に良い服を朝日に贈ったよねえ。うちのブランドってさあ。基本的なお客様って芸能人とか俳優とかの有名人だから、あーいう普段着とかは取り扱ってないからさ。だから何だか逆に新鮮さを感じちゃった』
こっちの湊は、僕が知っている湊と違って長年ルナ様を営業としてサポートして来た。
アメリカに居た時に聞いた話では、ルナ様のデザインに意見したりもしているそうだ。営業関係で口論になったりする事があっても、最後にはルナ様は湊に感謝すると教えて貰った。
その湊に此処まで誉めて貰えるのは、大変光栄な事には違いないんだけど……どんどん追い込まれて来てしまっている!
『本当に一枚ぐらい駄目かな? 瑞穂の衣装を着た時にも写真を撮るんだし。っていうよりも、撮って持って帰らないとルナのモチベーションが下がりそうで、営業部長としては困るから』
ぐっ! ル、ルナ様のモチベーションが僕のせいで下がってしまう。
……だ、駄目だ。は、吐き気まで感じてしまう。胸の奥に押し込めている罪悪感が、溢れ出て来てしまいそう。
『逆に朝日の写真を持って帰ったら、テンション上がって逆にやる気を出すと思うんだよね。実際、瑞穂から写真が送られて来た時は、良いデザイン沢山描いてくれたし』
「……わ、分かったよ。で、でも一枚だけね」
『ありがとう、朝日! いやー、ほんとに助かった。今年はゆうちょがこっちにずっと居るから大丈夫かなって思っていたんだけど、朝日の晴れ姿と別の学校の制服姿の写真が欲しいって騒いでさ、困ってたんだよね』
晴れ姿って言わないで。と言うよりも、女装姿の写真を求めないで!
「そ、それで用件はそれだけなのかな?」
『うん。それだけだよ。日本で会った当日だと準備出来ないと思ったから電話したんだ』
出来れば当日に話して貰いたかった。そうすれば、制服が無いって言い訳が使えたのに。
いや……そうさせない為にルナ様が電話させたのかも知れない。
『それじゃあ、朝日。またねー。日本で会えるのを楽しみにしてるから』
「ぼ、僕も楽しみにしてるよ」
動揺で声が震えていないか心配しながら、僕は電話を切った。
そのまま再びテーブルに倒れ伏した。
「……遂に、本格的に怪しみだして来ましたね、ルナちょむは」
険しい表情でりそなは考え込んでいる。
うん、その考えは間違っていない。もう少し余裕があると思っていたんだけど……どうやら僕の勘違いだったようだ。
「ど、どうしよう!?」
「……まあ、元々ミナトンには日本に帰って来た時に事情を説明するつもりでしたが……まさか、バーベナ学院の制服を着た貴方の写真を要求して来るとは考えてもみませんでしたよ」
「うん。それは僕も考えてもみなかった」
まさか、通っている証拠となる写真をルナ様が求めて来るなんて!
……いや、考えられる事だったかも知れない。僕に直接頼むのは不味いから、湊が日本に来る時を狙って来た。しかも、例の瑞穂さんの衣装はパリに居た時に僕自身が撮っても良いと言ってしまっている。
それに便乗して写真をルナ様が要求しても可笑しくなかった。現に瑞穂さんから教えて貰ったところ……あの京都で撮った課題の写真の中には、ルナ様が要求したものが交じっていたそうだ。
それを気付かずに撮らせてしまった僕は……桜小路遊星様に土下座するしかない。一体何度土下座したら良いのかな?
「で、でも、本当にどうしたら?」
「言いたいことは分かりますよ。バーベナ学院の制服を用意するのは、妹の力を使えば簡単です。でも……」
「新品だって、写真を見られたらすぐに分かるよね?」
普通の人なら写真を見ただけじゃ分からないと思う。
でも……服飾の世界で活躍するルナ様なら一目見ただけで分かってしまう。新品の制服だという事が。或いは桜小路遊星か八千代さんが気がつくかもしれない。
誰かに制服を借りる? そもそもバーベナ学院には僕の知り合いなんて一人も居ないので、制服を借りられる相手はいない。たとえ制服を借りられたとしても、その相手に罪悪感が募ってしまうから無理だ。
「えーと、ルナ様に汚れた制服なんて見せたら不味いから、新品を用意したとかじゃ駄目かな?」
「貴方が服を大切にする人間だって事を、ルナちょむは妹と同じぐらいに知っていますよ」
「だよね」
服を汚したままになんて僕には出来ない。洗濯はきちんとしてアイロンがけもしている。
こうなったら……非常に苦しい言い訳だけど……。
「前日に夏休みの課題で学院で作業していたら、飲み物を溢したとかはどうかな?」
「……それぐらいしか言い訳はありませんね。事情をミナトンに説明した時に、口裏を合わせて貰いましょう……何時まで誤魔化せるか本当に分かりませんが」
「うん」
此処まで来ると……年末まで隠し通すのは無理かも知れない。
この問題は僕とりそなだけで話し合って良い問題じゃない。となれば……。
「とにかく、お父様にも報告しておくね?」
「お願いします」
電話に出てくれるかなと思いながら携帯を耳に当てる。
『俺だ』
良かったあ! 出てくれた。
「お父様。じ、実はご報告しないといけない事が」
『何があった?』
僕はお父様に湊との会話を報告した。
『……なるほど。桜小路は言葉だけではなく、直接的な証拠を求めて来たか』
「いかがしましょうか? 湊の方は日本に来た時に、事情を話すつもりですが、制服の方は」
うぅ……出来れば知り合いに事情を話したくはないんだけど、そうも言っていられない。
だけど……間違いなく湊からも親子そろって何をやっているのかという視線を向けられそう。湊が来るんだったら、七愛さんも来るだろうから……『キモイ』と言われそうだ。
『先ずはお前とりそなが考えた策を使って誤魔化すようにしておけ。バーベナ学院の制服に関しては、前日ではなく明日にでもりそなに用意させて家で着るようにしろ』
確かにいきなり新しい制服を用意するよりも、少しは着ていた方が良いかも知れない。
視界の先でりそながバーベナ学院の制服の手配をしているのを確認した。
『才華達の方には、俺から柳ヶ瀬に関して話しておく。丁度日本に戻った時に会うつもりだったからな』
「お願いします」
多分、湊なら僕の方を優先して来ると思うけど……ルナ様や桜小路遊星様に頼まれたら才華さんの方に先に向かっても可笑しくない。此処はお父様に任せた方が良い。
『ところでグループ製作の方はどうなっている?』
「はい。此方は順調に進んでいます。班の皆全員が一丸となって頑張っています」
『ククッ。そうか。グループ製作においては、チームの足並みが揃うことが何よりも重要だ。その足並みが乱れれば、完成する衣装はいかに実力がある者たちが製作しても駄作になりかねない。その事を肝に銘じて今後も製作にあたることだ』
「分かりました。お父様の教えを大切に想いながら、製作を頑張ります」
『では、俺は仕事に戻る。それと、中々に興味深い土産話があるから楽しみにしておけ』
電話が切れた。興味深い土産話?
お父様が言うんだから間違いないんだろうけど、どんな話かな? ちょっと僕も興味を覚える。
でも、今は何よりも湊の件を考えないといけない。
ルナ様は間違いなく此方を疑っている。こうなって来ると、八十島さんが元桜屋敷のメイドの先輩方に話を通しておくべきだという判断は間違っていなかった。
鍋島さんも百武さんも、そして他のメイドの先輩方も、今でもルナ様を敬愛している。事情を教えて貰ってなかったら、すぐにルナ様にご報告していたと皆、会った時に口を揃えて言っていた。
離れてもルナ様を大切に想っている皆様の優しさに感動し、それを向けられている、ルナ様には改めて尊敬の念を抱かせて貰った。
「ねえ、りそな。どうすれば良いかな?」
「……はっきり言いますけど、ルナちょむは結果を出さなかったら私以上に怒りますよ。一応、アトレは貴方のおかげもありますが、結果を出せたので認めてくれたようですが、あの甘ったれはまだ何も結果を出していません。ルミネさんの衣装の写真を見れば、ルナちょむも頑張っているなと認めてくれるでしょう……問題は、桜小路家の存続を危ぶんだ事実を、あのメイド長が知った時です」
「うっ」
た、確かに……ルナ様や桜小路遊星様以上に八千代さんが怒りそうだ。いや、絶対に怒る!
八千代さんはルナ様を妹のように大切に想っている。そして……ルナ様が興した桜小路分家を大切にしている。
僕を桜小路家から追い出したのだって、ルナ様を護る為だ。
此方でもその気持ちが変わっていないのは、アメリカで会った時に分かっている。
「……八千代さんに怒られる覚悟は出来てるよ」
次に会った時に最初にするのは……土下座しかない。
トラウマになっているけど、何とか耐えよう。それが隠し事をし続けた僕の罰だ。
「……ところでりそな?」
「まだ何かあるんですか? 正直、妹もう休みたいんだけど」
「一つだけ教えて?」
念のため。そう念のために、聞いておかないといけない。
「バーベナ学院の制服って、男性物と女性物どっちを依頼したの?」
「……女性物を依頼しました」
あっ、やっぱり。
『電話を終えた後の湊とルナ様』
「これで良かったの、ルナ?」
「ああ、良くやってくれた湊。しかし、やはりそう簡単にはボロは見せてくれないか」
「いや、でも……朝日がフィリア学院に通っているかも知れないって、本当なの?」
「可能性は高いと私は思っている」
「だけど……あの朝日だよ? パリやこっちにいた時に比べたら、ずっと元気になっているみたいだけど、フィリア学院に通うのだけは無理だと思うよ。男子部廃止になったんだし」
「確かに男子部は廃止になった。だが、湊。私も忘れかけていたが、今の朝日は、戸籍上は女性だ。あのサーシャと同じ立場なんだから、フィリア学院に通うのは可能だ」
「いや、戸籍上はそうだよ。サーシャさんって言う前例もあるから、りそなが力を貸せば通えるのも分かるんだけど……朝日の心情的に無理だと思う。だって、あの朝日は……」
「そうだな。あの朝日は、フィリア学院に複雑な気持ちを抱いている。湊が言うように、りそなが準備をしたとしても拒否するだろう。だが、もしも……他に通うだけの要因が出来たとしたらどうだ?」
「要因って?」
「……息子と娘だ。私と夫が甘やかし過ぎたせいで、あの二人は何か起きても助けて貰えて、解決してくれると考えている節がある。最近は朝日のおかげで改善して来たようだが……もしも改善する前に何かやらかしていたとしたらどうだ?」
「流石にそれはないんじゃ……」
「朝日が才華達と初めて会った時に、才華は男子部を存続させる為に、大蔵ルミネと結婚して大蔵家当主の座に就くなどと言う大それた提案をしたそうだ」
「……ごめん。フォロー出来る言葉が思い浮かばない」
「私も朝日から聞いた時は言葉を失った……そんな事を提案した才華と止めなかったアトレが、急に変わって来ている。先ず間違いなく朝日が要因に違いない」
「んー。普通に友達付き合いしてるんじゃないかな? 前に聞いた話だと、朝日は才華君とアトレちゃんの事は親戚の子供だと思っているそうだしさ」
「それならばまだ良い。だが……才華とアトレは、朝日の真の事情をまだ知らない。これまで二度、いや、私が知らないだけで、もしかしたら他にも何度か朝日の心をあの二人は傷つけているかもしれない。私が最も恐れているのは、あの二人が取り返しのつかないほど朝日の地雷を踏み抜いた時だ」
「……うん。分かった。日本に行ったら調べてみるね」
「頼むぞ、湊。ユーシェにも頼んではいるが、二人……いや、七愛とサーシャもいるか。四人なら大丈夫だと信じている。特に七愛は朝日に容赦しないからな」
「瑞穂や北斗さんは駄目なの?」
「八千代にも言ったが、瑞穂は既にりそなと大蔵衣遠側だ。従者の北斗は瑞穂の指示に従うだろうしな。そして瑞穂があっちについているなら、間違いなく何かが起きているという事だ」
「いや、それ不味いじゃん! 瑞穂がりそな達の方に着くなんて、本当に不味い事が起きてるって事だよね!?」
「そうだ。だから、頼むぞ、湊」
「分かった。何があっても本当の事をルナに報告するから安心して」
「ああ……それと朝日の写真の方も頼む」
「ハハハハッ……や、やっぱりそっちもなんだ……ごめん、朝日」