月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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少々短いですが更新です。
そろそろ朝日が実力を取り戻せた理由が明らかになって来ます。

秋ウサギ様、烏瑠様、エーテルはりねずみ様、えりのる様、獅子満月様、誤字報告ありがとうございました!


八月中旬(遊星side)8

side遊星

 

 はー、色々あって疲れた心と体が癒される。

 3ヶ月ぶりに入る鳳翔の露天風呂は、やっぱり気持ちよかった。家のお風呂もりそなが気を利かせてくれたのか広いお風呂だけど、やっぱりこっちの方が伸び伸びと出来る。

 空に広がる星空も綺麗で、最高の露天風呂だ。

 

「何年かぶりに来たけど、やっぱり美しい露天風呂。こうして入っているだけで日本の美を感じる」

 

 一緒に入っていたサーシャさんも露天風呂を堪能していた。

 本当は僕一人の部屋を瑞穂さんは用意してくれていたんだけど、今日遭った事を考えて急遽サーシャさんが同室になった。

 実際、衝動的に自殺したくなったので何時またぶり返しても可笑しくはないから判断は間違っていない。サーシャさん以外の皆は女性だし。

 

「それにしても朝日。随分と元気を取り戻せたようで良かった」

 

 女装していないからサーシャさんも男性口調だ。そう、これは男同士の会話。

 お互い女装するが、今は裸なので男同士。……お父様やりそな以外で遊星として会話出来る。駿我さんは年上で目上の人だから、礼儀正しくしていたので自然と朝日の方で会話してしまったけど、久々に遊星として他の人と会話している。

 凄く嬉しい! だから、ちょっとお願いしてみよう。

 

「あの……出来れば今だけでも遊星君と呼んで貰って良いですか?」

 

「そんなに男同士の会話に飢えていたの?」

 

「はい、自分でも信じられないぐらいに」

 

「……今日は色々とあってショックだったろうし、君に付き合って僕も男性として会話するとしましょうか。それと名前の方もちゃんと呼ぶよ」

 

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 

 本当に感謝します、サーシャさん。

 

「良いの。でも、よりにもよってフィリア学院にまた通うなんて勇気あるね」

 

「……勇気なんてありません」

 

 そう、僕がフィリア学院にまた通う決意をしたのは勇気なんかじゃない。

 

「最初は才華さん達の事を助ける為と、少しでもりそなの力になりたいと思ったから決意を決めました。それが悪い事なのは分かっています……結局、僕は同じことを繰り返している……あの方はそんな僕を知って、どう思うんでしょうね?」

 

 僕の主人だった桜小路ルナ様。

 あの方に対して僕は謝罪する事も出来ない。それなのに、どんな経緯があったとしても同じ事をしている僕をあの方は許してくれるだろうか?

 こっちの皆は大丈夫だと言ってくれる。でも……もしかしたらそれは落ち込んでいる僕を励ます為の言葉なのかも知れない。

 

「会う人皆……桜屋敷に勤めていた鍋島さんや百武さんに、他のメイドの方々にも、ルナ様なら許してくれると言ってくれました……でも、違うんですよ、僕は……桜小路遊星様と違って、僕は何も成し遂げられなかった。お兄様の期待に応える事も出来なかった。そしてただあの方の人生に消えない傷を残し掛けてしまった。あっちでの僕の最後の行動の結果は……それだけなんです」

 

「……相変わらず難しく考え過ぎていると思うけど……それが遊星君だから仕方ないか。だけど、遊星君。前にも言ったけど、君はまだ若い。何時までも過去に囚われていたら、作品にも影響が出てしまう。そうなったら、今の君の目標である桜小路遊星を超えるなんて無理。彼の作品は何処までも桜小路の奥様のデザインにひた向きで、それでいて前を向いている明るい作品。後ろ向きな気持ちで製作した作品じゃ勝てないよ。これ、プロとしての意見だから」

 

「はい」

 

 流石はプロのサーシャさん。貴重な意見をありがとうございます。

 

「でも、桜小路のお嬢様に君が製作した衣装は、とても良い作品だった。あの時の気持ちで製作していけば、これからも良い作品を製作出来ると思う。その時の気持ちを忘れないようにね」

 

「ありがとうございます……あれ? 僕がアトレさんの衣装を製作したの。サーシャさんに話しましたっけ?」

 

「ああ、湊様から教えて貰ったの。ユルシュール様も雑誌を見た時は驚いていたよ。何せ友人の娘が表紙に載っているんだからね……ところで遊星君?」

 

「何でしょうか?」

 

「興味本位で聞くけれど、君のクラスの担任って誰かな?」

 

「あっ、それはサーシャさんも知っている人です。僕と才華さんのクラスの担任は、樅山紅葉先生です」

 

「樅山ッ!?」

 

 ん? 急に大きく目を見開いて、どうしたんだろう、サーシャさん?

 

「……だから、あの作品は……あんなに……衣遠の奴……見逃したわね」

 

「あの? どうかしましたか? 何か樅山先生に問題でも?」

 

「何でもないよ。久々に懐かしい名前を聞いて驚いただけ」

 

「そう言えば、樅山先生は八十島さんと一緒に桜屋敷で働いていたんでしたっけね。やっぱり、サーシャさんも会った事が?」

 

「ウィ。一緒に教室に通って桜屋敷で過ごした仲さ。桜屋敷を辞めた後は、フィリア学院で教師をしているって聞いてたけどね。それがまさか君と桜小路の若様の担任になるなんて」

 

「樅山先生の授業は分かりやすくて助かっています。実力を思っていたより早く取り戻せたのは、樅山先生のおかげかも知れません」

 

「……それは覚えやすいでしょうね……だって、彼女に服飾を教えたのは……」

 

 さっきからどうしたんだろう? 何だかサーシャさんの様子が変な様な気がする。

 詳しく聞こうかなと思ったところで……

 

「それはそれとして、そう言えば、今のフィリア学院の学院長はアイツだったっけ?」

 

 話を逸らされてしまった。聞き返すのも何なので、このまま話をしよう。

 

「アイツ? ……ラフォーレさんの事ですか?」

 

「げえっ。やっぱ、駄目。悪いけど、僕の前じゃアイツの事は総学院長って呼んで貰える。僕もやっちーと同じぐらいアイツの事は嫌いだからさ。名前を聞くだけで気分が悪くなる」

 

 どうやらラフォーレさんは八千代さんだけじゃなくて、サーシャさんにも嫌われているようだ。

 

「と言うか、何でアイツまだ美きてるの? 相変わらず馬鹿やっているようだし。てか、いつ死ぬの。ほんとに美きてるのが不思議」

 

「そ、其処まで嫌いなんですか、ラ、じゃなくて総学院長の事が?」

 

「遊星君には悪いけど、僕が鼻くそと思っている衣遠が、アイツと比較したら天使に思えるぐらいに嫌い。特に今のアイツの作品は、もう何馬鹿やっているんだかって感想しか出て来なくて。ジャンの作品をアイツが出来る訳無いってのに」

 

「僕が言える事じゃないんですけど、総学院長も、本当の自分のデザインを描いた方が良いと思います」

 

「そう思うだろう? なのに、アイツと来たら……って……遊星君。アンタ、何でアイツの本当のデザインを知ってるの? アイツが本当の自分のデザインを描いたのなんて、もう十数年以上前だよ。そんな昔のアイツのデザインが残っている訳が……」

 

「いえ、昔のデザインじゃなくて最近のです。詳しい事は話せませんが、総学院長自身のデザインを描いて貰って頂ける機会があったので」

 

「マジで!? アイツがジャンに似せたのじゃなくて、自分のデザインを描いて君に渡したの!? うわあ、驚き……信じられないような話だけど、君が嘘をつく理由なんてないから、本当なんだろうけど……やっぱり君は周囲を良くしてしまう才能があるよ」

 

「いえ、そんな事は……」

 

「冗談じゃなくて。あの馬鹿に社会に出てから本来のデザインを描かせる事なんて、あのジャンでも出来なかった事なんだからさ。学院に関する事だから、部外者の僕が聞く事は出来ないけど、君は本当に凄い事をした。これは本当の事だって事は自覚するように」

 

 サーシャさんはゆっくりと温泉から立ち上がった。

 

「僕はそろそろ出るよ。長風呂好きの君は、もう少しゆっくり浸かっていて良いからさ」

 

「はい、そうさせて貰います」

 

 一人、温泉に残された僕は考える。

 サーシャさんの言う通りだ。後ろ向きな気持ちが籠もった作品で、桜小路遊星様に勝てる筈が無い。何よりもそんな気持ちが籠もった作品を作るのは、一緒に頑張ってくれると言ったりそなに失礼だ。アトレさんの衣装の時には、後ろ向きな気持ちなんてなかった。だから、あの作品は認められた。

 その事は僕も分かってる。でも……僕は本当にこのまま服飾を続けて良いんだろうか? いや、本心を言えば続けたい。服飾を続けて、桜小路遊星様に勝ちたい。そして超えたい。

 この気持ちだけは捨てたくない。

 ……それでも胸の内に押し込めている罪悪感が、僕を止めようとする。

 

「……まだ、駄目」

 

 胸を思わず手で押さえた。

 もう少し、せめて今年だけは耐えたい。耐えきれれば、乗り越えられるなんて思っていない。

 でも、今はまたりそなと再会する(・・・・)前の僕に……。

 

「……あれ?」

 

 違う。一緒に暮らしているりそなとは再会じゃない。

 何で今頃になって気がつくんだ。

 りそなは、いや、一緒に暮らしている彼女。大蔵里想奈は、僕があっちで一緒に暮らしていた妹じゃない。

 自分が桜小路遊星様に見られたくないのに、彼女をあっちの妹と同一視して見ていたなんて……僕は……。

 

「……最低だよ」

 

 顔が下に俯いてしまう。

 だけど……どうしたら良いんだろうか? もうあっちのりそなと彼女を同一視したくない。彼女は彼女として、一人の女性。大蔵里想奈として僕は……。

 

「えっ?」

 

 ドクンっと胸が高鳴ったように感じた。

 いや、違う。……高鳴りが続いて行く。以前心の奥底に封じたはずの感情。それを押し込めていた蓋が……僅かに開いてしまった(・・・・・・・)

 

「駄目!」

 

 すぐに温泉から出て、備えられているシャワーの下に走って頭から水を被った。

 頭を冷やさないといけない。だって、そうだ。世界は違っても、彼女とは血の繋がりで言えば兄妹になる女性だ。母親が違うとか、世界が違うからとかは関係ない。兄妹であるという事実だけは、どうやっても変えられないんだから。

 

「……気の迷いだよね」

 

 充分に頭は冷えた。……蓋も戻った。

 色々あって冷静さが保てなかっただけだ。もう一度温泉に入って身体を温めなおそう。

 温泉から出た後は、今日はもう寝よう。明日は明日で色々とあるんだから。

 

 

 

 

 翌朝、鳳翔の旅館のベッドで起きた事にちょっと落ち込んだ。

 うぅ、出来る事なら東京の家で起きて、昨日一日が無かった事になって欲しかった。

 はぁー、一日経った今でもショックだ。才華さんが日本に帰国する前から女装していたかも知れない事も。そしてその原因が桜小路遊星様かも知れない事もだ。

 しかも、その事を今日大蔵本邸からやって来るお父様や駿我さん、そして何よりもりそなに報告しないといけないと思うと憂鬱だ。三人とも桜小路遊星様は女装を止めたと思っているだろうから、聞いたらショックだろうなあ。

 しかも、影響されて才華さんが女装を始めたかも知れないなんて知ったら……僕と同じぐらいにショックを受けると思う。お父様は桜小路遊星様が『小倉朝日』だった頃のおかげで、女装に対して寛容になっている。と言うよりも、今では事情があるとはいえ進んで僕に女装させているし、才華さんの女装に関する提案も受け入れていたから余りショックは受けないと思うけど、りそなは絶対にショックを受けるだろうなあ。

 まさか、自分の提案が巡り巡って甥にまで影響を与えてしまうなんて考えていないだろうから。いや、僕も考えたくない可能性だったけどね。

 でも……状況証拠的に認めるしかないし。はあー、本当にどうしてこんな事に。

 

「おはよう、朝日。いまさっき北斗に聞いて来たんだけど、朝食の準備はもう少し掛かるそうだから温泉にでも入っていたら?」

 

 うぅ……出来れば昨日と同じように遊星君って呼んで欲しかった。落ち込みながら部屋に備わっているタオルを用意する。

 

「そうさせて貰います」

 

 少しでも温泉に浸かって、心の傷を癒させて貰おう。温泉、大好き。

 

「ところで朝日。気になったんだけど。アナタ、寝ている時に自分の横を抱き締めるように身体を動かすなんて変な寝相しているわね」

 

 答えたくない質問だったので、僕はすぐに外にある露天風呂に入った。

 はぁー、やっぱり気持ちいい。心が癒される。

 でも、朝食には間に合わせないといけないから、洗い場で髪と身体を洗わないと。髪が長いと洗うのに時間が掛かってしまうなあ。やっぱり伸ばすんじゃなかった。

 そのまま僕は朝の温泉を堪能し終え、浴衣に着替えて朝食の席に向かった。

 

「おはようございます」

 

『……』

 

 あれ? 返事が無くて、無言で視線を向けられた。

 朝食の席には、既に湊、ユーシェさん、そして瑞穂さんがいたんだけど、何故か三人から訝し気な視線を向けられた。

 

「えーと、どうかされましたか、三人とも?」

 

「いやー……何か凄い違和感を感じてね」

 

「違和感?」

 

「そうね。前の時はアトレちゃんの事があったから気にしている余裕がなかったけど、こうしてみると違和感を感じてしまうの」

 

「あのー、違和感って何ですか? 私の何処に変なところが」

 

「髪が長くて顔も朝日ですのに……胸がない事に違和感を感じてますの」

 

 ……其処ですか!? 浴衣だから何時も付けているパット付きのブラは外して……。

 

「……」

 

「えっ? どうしたの? 急に顔を手で覆ったりして?」

 

「……パット付きのブラを何時もしている自分に……悲しくなって……」

 

「ごめん。聞かない方が良かったね」

 

 うん、聞かない方が良かったよ、湊。

 温泉で癒された心がまた悲しみで包まれながら、僕は席に着いた。

 

「それにしても、やっぱり違和感は感じてしまいますわ。そう言えば、昔、ルナが『胸の無い朝日を、私は断固として認めない』と言った事がありましたわね」

 

「ああ、言ってたね、そんなこと。あの頃は何言ってるんだろうなあって思ったけれど、こうして直接見るとあの頃のルナの気持ちが少しは……ごめん。もう言わないから、そんな、泣きそうな顔をしないで」

 

「朝日。今は良いけど、衣装を着る時はちゃんとパットを付けてね。胸のサイズも衣装には入っているから」

 

「……はい」

 

 落ち込みながら僕は瑞穂さんに頷いた。

 悲しくなるけど仕方ない。でも……女の人に、しかも瑞穂さんに『パットを付けて』なんて言われるのは悲しくなるよ、やっぱり。

 

「それで今日の予定だけど、衣遠さん達が来るのは午後からになるから午前中の内に会場に移動して軽いリハーサルをしましょう。これを機会に朝日も、舞台での歩き方を学んでね」

 

 言われてみれば、僕は着物とか和風系の衣装の歩き方を知らない。

 お兄様の付き添いで参加したコンクールは全部洋風だ。今後、和風系の衣装を取り扱う機会があるか分からないけど、瑞穂さんの言う通り学ぶには良い機会だ。

 

「学生時代を思い出しますわね。二年目からは私と瑞穂、そしてルナはそれぞれ別の班になって、フィリア・クリスマス・コレクションで競いあったものでしたわ」

 

「因みに私は三年連続、ルナの班」

 

「皆さん、本当に色々とあったんですね」

 

「そう言えば朝日はフィリア・クリスマス・コレクションには参加しますの?」

 

「はい、参加します。今のフィリア・クリスマス・コレクションは、皆さんの頃と違ってグループ参加ではなく個人参加ですけど。生徒は事情がない限り参加しないといけませんから」

 

「……忘れていましたけど、今の朝日は従者ではなく生徒としてフィリア学院に通っているのでしたわね。でも……個人参加となると……」

 

「朝日……その……デザイン。大丈夫なの?」

 

 うぐっ。余り聞かれたくない部分。僕と言うか桜小路遊星様のデザインの実力は三人とも知っている事だし。

 服飾から一年以上離れていた僕のデザインの出来なんて、簡単に察せるだろうから。

 だけど、僕がフィリア・クリスマス・コレクションで参加しようと思っているのは、本来の方のショーじゃない。

 

「だ、大丈夫だよ。実は僕がフィリア・クリスマス・コレクションで参加しようと思っているのは、本番前の説明の為の衣装の製作だから」

 

「あら? そんなイベントがフィリア・クリスマス・コレクションにありましたでしょうか?」

 

「毎年ゆうちょとルナに誘われて、動画を見ているけど、朝日が言うようなイベントはなかったと思うよ」

 

「そうよね。私も母校のイベントだから毎年欠かさず見ているけど……朝日が言うようなイベントはなかったと思う」

 

 それは仕方がない。今年、ジャンと皆が来るから追加されたようなイベントだから。

 

「今年は皆さんとジャンが来るという事で、例年とは違う形でフィリア・クリスマス・コレクションは開催される事はご存じですよね?」

 

「りそなから連絡は来てるよ。確か開催日時が2日間じゃなくて3日間になったんだよね?」

 

「それと私達が審査するのは、『演劇』、『服飾』、『総合』の3つだとも聞きましたわ」

 

「それぞれ一日ごとに審査するのよね。『演劇』にはどんな衣装が出て来るか楽しみ」

 

「私はやっぱりメインの『服飾』ですわね。フィリア学院の卒業生として、後輩達がどのような衣装を出して来るか。大変興味深いですわ」

 

「『総合』の方も気になるよね。毎年見てるけど、どの出し物もレベルが高くてさあ。まあ、衣装が出て来ない出し物もあるけどね」

 

 『総合部門』は、ゲーム科なんかも参加するからね。

 絶対に衣装が出て来るとは限らない。でも、衣装関係が出ないとも限らないし。出来れば皆が喜んで楽しめるような出し物が出ると良いなあ。

 

「……で、話は戻すけどさあ。朝日が言っているイベントって、服飾部門で追加されたイベントなの?」

 

「うん。そうだよ。来客される方々の説明の為に、衣装を製作するんだけどね。その衣装の為のデザインはりそなが描く事が決まってさ」

 

「えっ? りそなが!?」

 

「うん。それで生徒の中から応募者を募る事も決まっていて。それに応募しようと思ってる。勿論、ショーの流れの説明の為に使われる衣装だから、賞とか与えられない。でも……」

 

「誰よりも早く観客に衣装を見て貰えるのは大きいですわね。衣装の出来次第で、その後のショーへの期待度も変わるでしょうし……ですけど、朝日? アナタは参加出来ますの? 衣装のデザインを描くのがりそなさんとなりますと、身内だから選ばれたとか言われかねませんわよ」

 

「そうなる事は覚悟出来ています。本来でしたら、製作者の名前が発表されるそうですけど、名前の発表は辞退しても構わないとも考えています」

 

 このイベントに僕が参加したい理由は、舞台に出すりそなの衣装を製作したいという気持ちからだ。

 身内という立場があるから選ばれないのだとすれば、製作者の名前が発表されなくても構わないし、称賛されなくても構わない。

 それに今回みたいな機会でも無い限り、舞台に出すりそなの衣装を製作出来る機会は学生の僕にはない。りそなのブランドのフロアマネージャーの人は……モ、モデルなら考えてくれるかもしれないけど……実績がない僕にいきなり、例えりそなが頼んでもショーに出す衣装の製作は任せてくれないに違いない。

 僕としても、これまでりそなを支えてくれたスタッフの人達に認められて製作の現場に入りたい。だからこそ、この機会だけは何があっても逃したくないんだ。

 身内だから選ばれたと指をさされてるのは仕方ない。そんな意見が出ないぐらいの衣装を製作すれば良いんだから。

 

「決心は堅いようですわね。朝日の衣装を審査出来ないのは、少々残念ではありますけれど、私が見惚れるほどの衣装を製作するのならば構いませんわ」

 

「朝日、頑張ってね。審査に関係ないのなら、私、朝日の事を応援しているから」

 

「りそなのデザインだとゴスロリ系だよね。どんな衣装が出て来るのか。楽しみ!」

 

 審査と関係ないと分かって、皆個人的に応援してくれている。

 期待に応えられるか分からないけど、他ならぬりそなのデザインから衣装を製作するんだ。全身全霊を込めて衣装は製作するつもりだ。

 

「皆様、お話しのところお邪魔しますが、朝食の用意が出来ましたのでお席の方に」

 

 少し長話になってしまった。

 仲居さんに言われて、瑞穂さん、湊、ユーシェさんも移動したので僕も続く。今日も色々とある一日になりそうだ。

 皆に本格的なメイクをした姿を見られるのは……お、思うところがない訳じゃないけど、もう覚悟は決めて来た。

 今日も一日頑張ろう。……色々な意味で。




因みに紅葉本人に問題がある訳ではありません。
朝日が紅葉に教わるという行為自体に問題があります。詳細は本編で。
後、以前朝日が心の奥底に封じ込めた感情の正体は、恋愛感情ではなく、此方のりそなを妹ではなく、一人の女性として見てしまいかねない感情でした。この感情から恋愛感情が発生するのかは今後の展開です。
次回は遂に朝日モデルデビュー! その後は大蔵家を加えて今後の対応に関しての話。
そしてその後はりそなとのデートイベントです。

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