月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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長らくお待たせしました。
最新話の投稿になります。改めて応援してくれる方々も厳しいご意見をくれた方々にも、感謝いたします。ネタバレになってしまいますが、新たなこの話では総合部門の内容が大きく変わります。
今話の話は以前と大体同じ内容ですが、次話から大きく変わっていきます。
それと『八月中旬(遊星side)10』での後書きに書かれている『朝日が眠った後の話し合い』の内容を変えました。其処で一番のミスの部分でしたので。

秋ウサギ様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございました。


八月下旬13

side遊星

 

「……できた?」

 

 自らの手でしつけ糸の屑を外しながら、エストさんは自分に問いかけるように声を出した。

 

「……できたよ?」

 

 次は僕達に顔を向けて問いかけた。その意味が完成だと分かっている僕や才華さんは笑顔を浮かべ、カトリーヌさんも嬉しそうにしている。ジャスティーヌさんも満足そうに口元に笑みを浮かべていた。

 ただ伊瀬也さん、大津賀さん、そしてカリンさんはエストさんの言葉が完成という意味とわからずに、戸惑っていた。

 僕が教えても良いけど、この衣装の完成を告げるに相応しい相手は他に居る。

 

「はい、これでほぼ全ての工程は終了です。お疲れさまでした」

 

 才華さんの言う通り、工程はほぼ終了した。

 後残っているのは、エストさんが実際に着て行う微調整だけだ。とは言っても、衣装としてはもう形になっているから、完成と言っても良い。

 

「凄い。私達の衣装、夏休みが終わる前に完成しちゃった。他の班の皆はまだまだ掛かりそうって言っていたのに」

 

「まあ、私もこんなに早く終わるとは思ってなかったよ。文化祭前ぐらいを目安かなって思ってたから」

 

「そうだよね。本当に夏休みを過ぎてからの完成だと思っていたから」

 

「一応いせたん進行管理なんだから、本当に終わらせる気持ちでいなくちゃ駄目だよ……自信がある人なのか、無い人なのか、いせたんってどっちなの……」

 

 普段とは逆のやり取りをしている伊瀬也さんとジャスティーヌさんの様子は微笑ましい。

 でも、僕はこの結果をある程度予想していた。だって、僕らの班は誰もが衣装の完成に意欲を燃やしていた。

 その意欲がこうして結果として表れた事を、とても嬉しく思う。

 

「……何とか無事に完成させる事が出来て一安心です。とは言え、今後も警戒は続けなければ。難儀ですね」

 

「あのカリンさん。どうしたんですか?」

 

「何でもありません、カトリーヌ」

 

 カリンさんとカトリーヌさんは、部屋の隅の方でフランス語で話している。

 この2人は同じ外国の人なのと年齢が近いからなのか仲が良い。……はたから見ると年の離れた友人同士にしか見えない事は目を逸らそう。

 外見に関しては僕も苦労しているどころか、最近は泣いているので。

 目を逸らす意味も込めて、改めて完成した衣装を見る。

 とても良い出来だ。この衣装を着たエストさんが舞台に立ったら、きっと観客の人達は歓声を上げて、審査員の方々も感嘆するに違いない。

 ただ……。

 

「……」

 

 僕やジャスティーヌさん、伊瀬也さんが製作を担当した衣装の部分に入っている刺繍に目を向けた。その刺繍はエストさんに入れて貰ったものだ。

 りそなとの相談の結果、僕はエストさんが勝手に刺繍を入れてしまった件に関しては注意しない事にした。だけど、衣装の完成度に関しては別だ。

 エストさんの刺繍は本当に綺麗だ。だからこそ、一か所だけに入っていると審査の時に減点対象にされかねない。遠目では見えないからといって安心したら駄目だ。観客の人達ならともかく、審査員の人達は近くで見るんだから刺繍に気がつくと思った方が良い。

 そういう訳で京都から戻って来て、また皆でこのアトリエに集まった時にリーダーである伊瀬也さんに提案した。元々エストさんの刺繍を気に入っていた伊瀬也さんは同意してくれたし、ジャスティーヌさんもその方が良いと言ってくれた。

 この刺繍はエストさんのオリジナルだから、エストさん本人以外には入れる事が出来ない。だから、エストさんに入れて貰うしかなかったんだけど。

 

「気になってるの?」

 

 顔を向けてみると、ジャスティーヌさんが隣に立っていた。

 

「黒い子の提案は間違ってないよ。私も刺繍自体の出来はともかく、審査の時に減点対象にされないかちょっと心配だったから」

 

 少し機嫌悪そうにジャスティーヌさんは、完成した事に喜んでいるエストさんに視線を向けた。

 

「勝手なことして。黒い子が提案してくれなかったら、どうなっていたと思ってるんだろう?」

 

「エストさんも悪気があった訳ではないと思います。ただ衣装を良くしようとして……」

 

「分かってる。だから、今回は何も言わなかったの。良い衣装を作る為だから」

 

 やっぱり不満に思っていたんだ。でもその気持ちを抑えて、衣装の為に頑張ったジャスティーヌさんは偉い。

 

「お嬢様、せっかく完成したのですし、全員で乾杯などしてはいかがでしょう」

 

「あ、いいね。そうしよう。でもアトリエだと衣装を汚したら大変なことになるし、いっそのこと、もっと広々としたところで……屋上の庭園へ行きましょう」

 

「じゃあお祝いとして、私がはっきり……はりきってケーキを御馳走するね。コンシェルジュに頼んでおく」

 

「え。ケーキ? やったあ! それなら私も行く。黒い子も行くよね?」

 

「ご一緒させて貰います。ありがとうございます、伊瀬也さん」

 

「良いよ。私はリーダーなんだし、このくらいはね」

 

 持ち前のリーダーシップを発揮するかのように、伊瀬也さんは先頭に立ってエストさんの部屋から出て行った。

 才華さんと大津賀さんはアトリエの片付けを簡単に済ませてから来るそうだ。

 皆でエレベーターの前に辿り着いた時に。

 

「あっ。そうだ。ちょっといせたんとエストンは先に行ってて」

 

「えっ? どうしたの、ジャス子?」

 

「黒い子とちょっと話があるの」

 

「小倉さんと?」

 

「そっ。だから先に行っててよ。大事な話なんだから」

 

 大事な話? 何だろうか?

 伊瀬也さんとエストさんも疑問に思ったようだが、ジャスティーヌさんは2人には話すつもりがないのか口を閉ざした。

 無言で僕は伊瀬也さんとエストさんに向かって頷き、2人も了承してくれたのかエレベーターに乗って屋上に向かった。

 

「それで話と言うのは?」

 

「衣装が完成したから改めて聞くけど、私とフィリア・クリスマス・コレクションで衣装製作を組む気はある?」

 

 ……わ、忘れてた。

 そう言えばジャスティーヌさんから言われていたんだっけ。言われたすぐ後に、グループでの衣装製作に入ったからそっちに集中してしまっていた。

 

「で、どうなの? 組むの組まないの?」

 

 ジャスティーヌさんとフィリア・クリスマス・コレクションに一緒に挑む。

 魅力的な提案だ。僕のデザインの実力では、間違いなく最優秀賞は疎か入賞も無理だ。幾ら型紙が良くても、やっぱり良いデザインがなければ衣装は製作出来ない。

 その点で言えば、天才であるジャスティーヌさんと組めば最優秀賞も夢ではないと思う。だけど……。

 

「ジャスティーヌさんの提案は、大変光栄に思います。ですが、私はフィリア・クリスマス・コレクションでどうしてもやりたい事が出来てしまいました」

 

「やりたい事ってなに?」

 

 話して良いのだろうか? まだりそなの衣装の件は正式に学院からは発表されていない。その事を話して良いか悩む。

 ジャスティーヌさんの顔を見る。真剣な眼差しを向けてくれていた。

 彼女は本気だ。本気で僕と一緒にフィリア・クリスマス・コレクションに挑みたいと思ってくれている。

 だから僕も、嘘をついたり誤魔化したりせずに答える事にした。

 

「実は、まだ学院からは正式な発表をされていませんが、フィリア・クリスマス・コレクションの服飾部門のショーの時に、私の保護者である大蔵りそなさんのデザインが舞台説明の為に使われる事が決まったそうなのです。このりそなさんのデザインの製作は学生に任せて貰えるとのことで、私はこれに応募するつもりでいます」

 

「大蔵りそなって、プロのデザイナーでしょう? そんな人のデザインから作られた衣装を出して大丈夫なの?」

 

「その衣装は審査される事はありません。本当に舞台説明の為に用意される衣装です。だから、学生に製作を任せても問題ないとの事です。私は……どうしてもりそなさんの衣装を製作したい。ですから、ジャスティーヌさんには申し訳ありませんがご協力は出来ません」

 

 頭を下げた。でも、これが僕の本心だ。

 フィリア・クリスマス・コレクションで、りそなが描いたデザインの衣装を製作したい。周りから身内だから選ばれたと陰口を叩かれたって構わない。

 やがて、ジャスティーヌさんから残念そうな溜め息が聞こえてきた。

 

「仕方ないか。今年は諦めるね」

 

「すみません」

 

「謝らなくて良いよ。黒い子が本気で取り組もうとしているのは分かったから。それとありがとう」

 

「えっ?」

 

 何故お礼を言われたんだろう? ジャスティーヌさんの提案を断ったのに。

 

「私ね。日本に来たのは、プロとして足りないものを叔母様から見つけて来いって言われたから。その足りないものが黒い子に製作して貰った衣装と、今回皆で製作した衣装のおかげで分かった気がする」

 

「それを言ったら私もです。ジャスティーヌさんのデザインから衣装を製作出来たおかげで、自信が付きましたから」

 

「だから黒い子ともう一度組みたかったんだけど」

 

「申し訳ありません」

 

「別にもう良いよ。黒い子がフィリア・クリスマス・コレクションで製作する衣装に負けないぐらいの良い衣装を、私も製作するからね」

 

「はい。その時を楽しみにしています」

 

 りそなの衣装を製作する以上、ジャスティーヌさんと一緒に製作する事は出来ない。

 でも、フィリア・クリスマス・コレクションに出されるジャスティーヌさんが製作した衣装を見るのを楽しみにさせて貰おう。

 ジャスティーヌさんなら素晴らしい衣装を出すに違いないから。僕らはそのまま伊瀬也さんとエストさんが待つ屋上に向かった。

 

「……ジャスティーヌ・アメリ・ラグランジェ様はあの事実を知っている可能性が高い人物。要警戒対象だと思っていましたが、距離が離れるならどうやら一安心出来そうですね」

 

 

 

 

side才華

 

「いせたんの実家、楽しかったね」

 

 大津賀かぐやと少し長話をして遅れて来た僕を待っていたのは、衣装の完成を祝う声ではなく、思い出を共有出来なかった人間に対するいじめだった。

 

「日本の古都は本当に素敵だったね。私、いつかまた行こうと思うの。次はキョウトという古都に行って見ようかな」

 

「私も賛成。今回の旅行で行った金のお寺や残念だった銀のお寺とか、ダイブツも良かったけど、別の古都も見てみたい」

 

「沢山の真っ赤なトリィは良かったよね! 何処までも続くから、ワクワクしちゃった」

 

「本物の舞妓さん見た時のジャス子のテンションの上がり具合、凄かった。そんなに着物気に入った?」

 

「あれほんと良かったよ。また見に行きたいよ。私、あーいうの大好き! 展示された中で『ミズホ』って人の描いた柄が好きだったな」

 

「ああ、瑞穂さんの着物を見たんですか。本当に綺麗ですからね、瑞穂さんの柄」

 

「うん、そう! って、何で黒い子が『ミズホ』の事を知ってるの?」

 

「友人なので。京都に行った時は、一緒に旅館で過ごしてました」

 

「嘘!? 小倉さんって、あの花乃宮瑞穂さんの友達なの!?」

 

「確かその方は年末のフィリア・クリスマス・コレクションに審査員として来られるのでしたね。会えるのが楽しみになりました」

 

「えっ? そうなの?」

 

「そうだよ、ジャス子。先生から言われたじゃない」

 

「私、スタンレーとジャンメールしか興味なかったから。でも、今は興味を覚えたから楽しみ!」

 

 羨ましいっ……!

 遅れて来たとか関係なく、話を聞いているだけで楽しそうだ。しかもエスト達とは違う場所に行った小倉さんも、共通の話題(瑞穂さん関連)があるからちゃっかり話の輪に加わってるし。

 皆、旅行という素敵なイベントに参加して来たのに対して僕はと言えば、桜屋敷で文化祭に着て貰うルミねえの衣装製作をしていた。勿論、ルミねえの衣装の為なら旅行なんてしてる暇はないけど、こうして楽しそうな出来事や会話を聞いていると羨ましく思うのが人だ。寂しくて泣きそう。

 尤も梅宮伊瀬也の実家には絶対に行けない。行ったら僕の正体がバレかねないし、何よりも容姿のせいで梅宮の伯母さまが騒ぎかねない。なら、行かない方が良い。寂しいけど。

 

「あ、そういえば、一人だけ何処にも行けなかった子がいるよね。かわいそー」

 

「でも朝陽にはお土産を買ってあげたから。喜んでくれたよねウフフ」

 

 いただいた京銘菓アジャーリ餅や、お抹茶は美味しかった。他にも小倉さんが京都の老舗のお菓子を買って来てくれたし、柳ヶ瀬さんからのお土産も渡して貰えた。

 そう……伯父様から訪ねに来るかも知れないと言われていた柳ヶ瀬さんは、結局桜屋敷に来る事はなかった。だけどこれを喜ぶ事は出来ない。伯父様からのメールや、お土産を持って来てくれた小倉さんから教えて貰ったところ、柳ヶ瀬さんは日本で僕がしてしまった事に大変ご立腹されたそうだ。

 直接会ったりしたら怒りを抑えられないかも知れないから、会わずにアメリカに戻ったと教えて貰った。ただ僕がフィリア学院に通っている事は、現状ではもう止められない事は理解してくれて、更にフィリア・クリスマス・コレクションでも審査もしてくれる。これだけは本当に救いだった。

 更に、何とユルシュールさんも審査するのを認めてくれた。コレクション時期で忙しい筈なのに、京都に来ていたそうだ。でも、やっぱり僕の評価は落ちてしまったそうだ。

 流石にフォローは出来なかったと、お土産を持って来てくれた小倉さんに言われたけど、審査して貰えるだけでも本当にありがたかった。

 最悪、男性の僕が女装姿で舞台に立った時点で審査対象外に指定されても可笑しくなかったんだから。

 それにしても……何で小倉さん。お土産を持って来た時に、僕と顔を合わせようとしなかったのかな? しかも何だか申し訳なさそうにしていたし。

 寧ろ、貴方には感謝しかありませんよ。本当に。

 

「健康上の理由だと、冬休みも来られないのかな。朝陽さんの着物姿なんて、きっと目立つと思うなあ。あっ、小倉さんはどう? 冬休みは来られない?」

 

「申し訳ありません。冬休みからは、私も本格的に大蔵家の一員としてやらないといけない事が多いので伊瀬也さんの実家には行くことは出来そうにありません」

 

「そうなんだ。大変なんだね。良いの。家が大きいと大変な事は、私も分かってるから」

 

 僕もそうだけど、小倉さんが梅宮家に行くのは大変そうだ。男性と女性の違いはあるけど、お父様と小倉さんの容姿は凄く似ている。

 梅宮の伯母様がお父様の容姿を知っているかは分からないけど、梅宮の伯父様の方は知っているかも知れない。変な邪推をされたりしたら、小倉さんの精神が大変危険だ。この人はそれもあって表舞台に立たないようにしていたぐらいだから。

 

「冬休みどころか、来年の夏休みも来られないのかな。次は夜の行動を中心にするから一緒にお邪魔する? 朝陽も一緒ならきっと楽しいよね?」

 

 エストの優しさに感動を覚えそうだけど……ごめん。来年どころか今年の冬休みも一緒には行けないよ。

 行き先が梅宮家とか関係なく、その時の君は間違いなく僕を心の底から嫌っているだろうから。

 

「あ、来年……このグループ製作、来年もあるんだよね。それならまた皆で一緒に出来ると良いね!」

 

「私、黒い子が一緒ならどの班でも良いよ……まっ、結構面白かったし、いせたんぐらいなら同じ班に入れても良いかも」

 

 ……エストがいない。

 やっぱり、あの件はミスだったかも知れない。

 

「私ね、今回のメモはしっかりとったし、年末のショーの工程もちゃんと記録するんだ。来年は自分で工程表書けるようになるからね」

 

 純粋に頑張ろうとしている梅宮伊瀬也の言葉が、耳に痛い。

 先ほどこの場に来る前にアトリエで行なった大津賀かぐやとの会話も実は耳が痛かった。

 大津賀かぐやからは僕が梅宮伊瀬也をリーダーに推した事を感謝されたが……僕は本当の意味で梅宮伊瀬也をリーダーとして見ていただろうか? その疑問を抱いたのは、旅行から戻って来た小倉さんが梅宮伊瀬也に進言した意見を聞いてからだ。

 小倉さんはエストが担当していた部分の衣装に入れた刺繍が綺麗だから、他の部分にも入れないかとリーダーである梅宮伊瀬也に告げた。

 それを聞いて正直言って僕はハッとした。エストが本気で僕のデザインから製作する衣装に取り組んでくれた事は、大変嬉しかった。だけど、小倉さんと梅宮伊瀬也のやり取りで気づいてしまった。

 あの衣装に本気で取り組んでいたのは、僕やエストだけじゃない。

 リーダーである梅宮伊瀬也。授業の時とは違って真剣に製作に参加しているジャスティーヌ嬢。難しい部分を率先してやってくれる小倉さんやカトリーヌさん。素人ながらも自分に出来る事をしてくれるカリンや大津賀かぐや。

 グループ全員が真剣に製作に取り組んでいた。そのおかげで予定よりも早く衣装を完成させる事が出来た。だからこそ今は思ってしまう。

 僕やエストは、刺繍を衣装に入れる前に班員の皆に入れても良いか確認すべきだったのではないかと…。

 刺繍をエストが入れると言ってくれた時は、嬉しさの余り、他の班員の皆の事を忘れてしまった。

 あの衣装は、僕やエストだけじゃない。皆の衣装だったのに。

 思えば、エストが衣装に入れた刺繍を見せた時、梅宮伊瀬也と大津賀かぐやは喜んでくれたが、小倉さんとカトリーヌさんは、即座に微調整に入ったりしてくれたし。ジャスティーヌ嬢は呆れたように溜め息を吐いていた。

 これは今思えば、完全に僕のミスだ。エストに刺繍を入れて貰う前に、リーダーである梅宮伊瀬也に言ってから刺繍を入れようと言うべきだった。

 学院ではエストは実力を隠しているし、アメリカでの功績も班員の中では僕と小倉さんしか知らない。

 特にジャスティーヌ嬢からは色々あって、エストは余り好かれていない。今のグループになって、漸く仲が良くなって来たところだったのに。

 その証拠に、明らかにジャスティーヌ嬢はエストとは同じ班でやりたくないという意思が……見えてしまった。

 反省するしかないよ。

 

「私も、来年こそは自分のデザインが選ばれるようにがんばろうっと」

 

 幸か不幸か、エスト本人はせっかく上がったジャスティーヌ嬢の評価が再び下がった事に気づいていないようだ。

 

「エストンのデザインじゃ無理だよ」

 

 ……このままではいけない。僕のミスで主人の交友関係が荒れる可能性があるのは見過ごせない。

 何とかしてエストの評価を上げないと。だけど……此処は一先ず静観だ。先ずはエストも刺繍の件をミスだと認識して貰わないといけない

 全員で頑張って衣装を製作し終えた事に満足感を抱いているエストに言うのは、心が少し痛むけど、ちゃんと自分のミスを認識した方が良い。

 将来的にエストも服飾の世界でプロとして生きていくつもりなんだから。

 だけど、このまま旅行の話をされるのは心が痛いので、ちょっと話題を変えよう。

 

「皆様、それほどグループ製作は楽しめましたか?」

 

「うん! 衣装製作は一人が基本だけど、こういう作り方もいいなって思えた」

 

「私もまだ分からないこと多いし、皆と一緒にやった方が勉強になるよ」

 

「暇つぶしにはなったかなー」

 

「とても楽しかったです。機会があればまた皆さんと一緒に製作してみたいと思いました。朝陽さんはどうでしたか?」

 

「私も凄く楽しかったです。これまでの製作は一人でやっていましたから」

 

 うん、ちょっと苦い思いをしてしまったけど、本当に今回のグループ製作は楽しかった。

 出来る事なら年末のフィリア・クリスマス・コレクションでもこのグループで何かをやって見たいと思ったぐらいだ。

 ……フィリア・クリスマス・コレクション?

 

「朝陽さん? どうしました?」

 

 急に黙った僕に小倉さんが心配そうに声を掛けてくれたが、僕は深く考え込んでいた。

 今、僕の頭の中では一つの案が漠然と浮かんでいた。でも、この案を実行して良いのか。

 僕の事情が大きく関わっているし、何よりもまだ漠然とした形だ。果たしてこの案を提案して良いのかどうか……。

 旨くすれば、悩んでいた2つ目の最優秀賞に関して解決出来るかも知れない。そうなると、先ずしないといけない事は……。

 

「そう言えば、皆様は年末のフィリア・クリスマス・コレクションはどうするつもりなのですか?」

 

 突然の質問に、その場に居る全員の視線が僕に集まった。




次話は明日の0時に投稿いたします。
エストはとある事情でジャス子にだけは本来のデザインをどうしても見せられません。
その内容は本編で明かされます。
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