月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~ 作:ヘソカン
何が起きたのかは其方で明らかになります。
烏瑠様、秋ウサギ様、獅子満月様、誤字報告ありがとうございました!
side才華
色々と大変な一日ではあったが、終わってみれば満たされた一日となった。
部屋に戻った僕は、ソファーに座りながら今日一日あった事を回想していた。
やはり一番嬉しかったのは、エストの内心を漸く知る事が出来た事だ。何処か心の中で感じていた壁が漸く消えたように思える。
次に浮かんだのは調理部門で行なわれていたモンブラン決定戦に出場していたアトレと九千代の勇姿。
まさか、1年生で決勝戦まで出場出来る程にアトレが腕を上げているとは思っても見なかった。九千代の腕前がお父様以上だったのは知っていたけど。
勝負の結果は、九千代が優勝。アトレが準優勝だった。取り敢えず、アトレの目標だった優勝を阻む事だけは成功した。
悔しそうにアトレはしていたが、『コクラアサヒ倶楽部』として行なっていたローズガーデンパーティーの企画の方は大成功。僕や小倉さんのファンの子達と抱き合って喜んでいた。そろそろ正式な部活として認められそうだが、『コクラアサヒ』という名前を部活名に正式登録されるのは色々と危険だ。
現にアトレから教えて貰ったけど、名前に惹かれてメリルさんとその友人が来たそうだ。アトレとしては、小倉さんが正式に大蔵家の一員となるまでは学院には部としての申請はしないようだけど。
他にもパル子さんやマルキューさん、そしてその班員の人達が僕らの班の衣装を認めてくれた。動画に映っていたパル子さん達の班の衣装も素晴らしかった。
互いの健闘を称えあって、そして正式にパル子さん達は総合部門への参加を約束してくれた。
勿論、僕もメインデザイナーとしての参加を認めて貰えた。既に総合部門への参加申込書には、パル子さん達の名前が記されている。後はこの参加申込書にジャスティーヌ嬢、カトリーヌさん、カリン、そして小倉さんの名前が記されれば、服飾系でのメンバーは全員だ。
……ただ気になる事がない訳でもなかった。
文化祭が終わり、桜の園に戻って来て何時ものように屋上庭園に行った。
しかし、其処には八日堂朔莉の姿しかなく、ルミねえの姿はなかった。八日堂朔莉の話では、ルミねえは参加した音楽部門のピアノの演奏会で金賞を受賞したらしい。
その金賞を受賞した筈のルミねえは、結局僕らが屋上庭園にいる間に来る事はなかった。
……もしかしたら娘が金賞を受賞した事に喜んでいるに違いないひいお祖父様の相手をしているのかも知れない。今日は忙しい大蔵家の親族も来てるし。お父様からもメールで『今日は用があるから、会うのは後日に』って届いている。
伯父様からのメールも……ん?
携帯を見てみると、コンペが終わった後から一通も届いていなかった。
やっぱり、何かあったのかなと疑問に思って、パソコンを起動させた。もしかしたら携帯には届いてなくてもパソコンの方には届いているかも。
そう思ってソフトを起動させたが、伯父様からのメールはなかった。代わりに才華宛でエストからメールが届いていた。
サブジェクトから『ありがとう』と感謝の言葉が書かれていた。
内容は、返事が遅れた事へのお詫び、今まで話していなかったこと、今日の文化祭のこと、僕とのこれまでのメールでの会話、そして何時か僕を罵ってしまった事に対する深い謝罪。
彼女の気持ちの殆どが僕と同じだった。朝陽に気持ちを晒すことが出来た。今一番身近な人に踏み込めた。自分達の衣装が、文化祭のコンペで最優秀賞として認められたこと。
そして最後に書かれていたのは、文化祭前に僕が送ったエストの告白に対する僕の返事について。
『文化祭までの日々を過ごす間、私は『君を卑怯だと思わない』という貴方の言葉に救われ。自分を更に支える事が出来ました。私は……とても弱い人間です。何度も、大切なものを捨てたり、目の前のものからも逃げたりしようとしました。決意を固めているつもりでいながら、本番が近づくに連れて固めた筈の決意が揺らいだりもしていたんです。そんな私が固めた決意を達成させる事が出来たのは、貴方からの言葉があったのもあります。何度も見返した貴方の言葉は、とてもありがたかった。認めて貰える人の存在がいるという事の喜びを、今日ほど感じた事はありません。以前の私はそれが出来ずに、理由も聞かない内から貴方を罵りました。本当にごめんなさい。何時か、今日までの立場が逆になった時は、私が貴方を認める人でありたいと思います。ありがとう。私を救ってくれた人、桜小路才華さんへ。胸に溢れる親しみを込めて』
メールの内容を全部読み終わったあと、すぐに返事を書いた。
『会場から君の素敵な姿を見ていたけど、とても素晴らしかったよ。会場の全てが衣装を着て舞台に立った君の姿に釘付けになっていた。出来る事なら年末の舞台でも素敵な衣装を着た君の姿を見てみたい。これから僕の親友となる人。エスト・ギャラッハ・アーノッツさんへ』
……親友なんて書いて少し胸が痛んだ。
エストは僕に本当の事を話してくれた。……でも、桜小路才華としても小倉朝陽としても僕はエストに嘘をついている。
年末には謝罪するつもりでいるけど、それが終わった後に彼女はまだ僕を親友と呼んでくれるだろうか?
不安な気持ちで一杯だ。覚悟を決めているつもりだったのに、こうしてエストの心の内を知った今では、とても辛い。
………これが小倉さんが言っていた事なのだと改めて実感させられた。
その後は、伯父様に感謝と報告のメールを送り、そのままデザインを描き始めた。思うところはあっても、興奮が治まらず、明日が休日なのを良い事に、夜通しとにかく頭の中に浮かんだデザインを描き続けた。
「………出来た」
結局一睡もすることなく、僕は2枚のデザイン画を描き終えた。
強い眠気を感じるが、そんな事が気にならないほどの達成感と満足感が胸に満ちていた。早速このデザインを最高の親友であり、主人であるエストに見せようと僕はエストの部屋に向かった。
だけど、どうやら興奮で眠れなかったのは僕だけじゃなくて、主人であるエストも同じだったみたいだ。
「お嬢様、おはようございます。今朝は大切な話があります」
「おはよう。こんな寝間着姿でごめんなさい、ずっとデザインを描いていたから……朝陽の前で恥ずかしい」
「お気になさらないで下さい。実は私も殆ど寝ていないんです。今日は休日ですし、もしお嬢様がこれから休まれるのであれば、私も部屋で仮眠を頂いても良いでしょうか?」
「そうしましょう。私も、とても眠たくて……だけど、どうしても朝陽に見せたいものがあって、来てくれるまで待っていたの」
そう言うエストの手には、僕と同じように2枚のデザイン画を手にしていた。
どうやら僕もエストも大切な話は同じ内容みたいだ。僕の手にも2枚のデザイン画があるからね。
僕達は、相手に見やすいように、頭を自分の側に向けたデザイン画を同時に差し出した。
「年末の総合部門と服飾部門のショーで着る自分の衣装のデザインが完成しました」
「私も! 『大切な人』朝陽の主人として相応しい自分でいる為の衣装」
「その誇り高き『大切な人』である主人と共に並び立つ為の衣装。この日だけは主従ではなく、対等でいたいと思いますが、お許しいただけるでしょうか」
「勿論。だって素敵な衣装だもの! ……それで折り入って相談が朝陽にあるの」
うん。何となく言いたい事は分かるよ。
総合部門と服飾部門の両方に参加する事が決まっている僕は2枚のデザインが必要になる。だけど、総合部門にデザイナーとして参加する予定の無い筈のエストが2枚のデザインを描いた。
これはつまり……。
「今更遅いし、勝手な事だというのは分かっているけど、私もデザイナーとして総合部門に参加してみたいの」
やっぱりか。いや、僕もそれは企画を考えていた時点で考えてはいた。
『1年生で才能あるデザイナー達の作品に拠る舞台芸術』。そのメンバーは、僕、パル子さん、ジャスティーヌ嬢。そしてアメリカで賞を取ったエストも、『才能ある』という条件を満たしている。
だけど……。
「……先ずお聞きしますが、お嬢様。宜しいのですね?」
総合部門にデザイナーとして参加するなら、学院で描いているデザインは使えない。
本当のエストのデザインを総合部門に参加する全員に見せて、参加を認めて貰う必要がある。それはつまり、エストが一番見せたくなかったジャスティーヌ嬢にも見せる事になる。
そうなったら、もうエステル・グリアン・アーノッツのゴーストにエストはなる事が出来なくなる。
「うん。もう決めたから」
真っ直ぐにエストは僕を見ながら告げた。
瞳に揺らぎはなかった。幼い頃からの夢を諦めて、今エストは一歩踏み出そうとしている。その姿はとても誇り高く、美しかった。
「分かりました……ですが、お嬢様。残念ながら今からではお嬢様をメインデザイナーのお一人として加える事は出来ません」
エストの気持ちは嬉しい。
でも、その気持ちに全部応える事は出来ない。
「それも分かってる。私には日本での実績がないし、教室での評価もE評価だから」
実績はどうしても必要になる。
現に僕も自分で考えた企画なのに、実績がないのでサブデザイナーになってしまいそうだった。それに総合部門に1年生で参加しようとするなら、やっぱりネームバリューは必要だ。その点で言えば、学生ながら小規模のブランドを経営していて雑誌にも載ったパル子さんと、外国人でしかも十数年ぶりにクワルツ賞を受賞したジャスティーヌ嬢のネームバリューは十分だ。
僕も昨日のコンペでそれなりの実績は得たつもりだけど、2人と比べると劣ってしまっている。
それでもメインデザイナーの1人としてパル子さん達は認めてくれた。
だけど……エストには日本での実績がない。今からではメインデザイナーの1人として加わることは出来ない。
たとえアメリカ時代の実績を明らかにしても。
「朝陽の言いたい事は分かってる。でも、この総合部門に向けて描いた一着だけでも参加出来ないかな?」
言われてエストが示したデザイン画を改めて確認する。
……とても良いデザインだ。文化祭前までのエストのデザイン画は毎日見ていたけど、此処最近のデザイン画の中では別格の出来だ。服飾部門の方のデザイン画も同じぐらい素晴らしい。
どうやら僕と同じようにエストもデザイナーとして一皮剥けたのかも知れない。
「……パル子さんとマルキューさん、そしてジャスティーヌ様に確認して頂きましょう。一着ぐらいなら認めて貰えるかもしれません」
「ありがとう、朝陽!」
嬉しそうにエストは笑顔を浮かべた。何だったら僕の分のデザイン画の数を減らして貰って構わない。
それにしても何だか感じていた眠気が高揚感で吹き飛んでしまった。それはエストも同じだったのか、そのまま2人でアトリエに入りそうになったところで、呼び鈴が鳴った。
「あっ、誰か来たようですね」
誰かなと思いながら入口に向かい、扉を開けると其処には。
「やっぱりエストンの部屋にいたね、白い子」
「おはようございます!」
ジャスティーヌ嬢とカトリーヌさんが立っていた。
「おはようございます、ジャスティーヌ様、カトリーヌさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「白い子が私に持ちかけた総合部門の件だよ」
なるほど。その件に関しては、明日学院で此方から聞くつもりだった。でも、こうしてわざわざ訪ねに来てくれたという事は……。
「分かりました。話の内容が内容ですので、どうぞおあがり下さい」
逸る気持ちを抑えながら、ジャスティーヌ嬢とカトリーヌさんをリビングに案内する。
2人の来訪にエストは驚いていたけど、総合部門の件に関してだと説明すると、真剣な顔をして頷いてくれた。
手早くお茶とお菓子を用意して、対面する形で僕らは座った。
本来なら従者の僕とカトリーヌさんは、主人の許しがなかったら立っていないといけない立場だけど、総合部門の件となればリーダーである僕が対応しないといけない。
「それでジャスティーヌ様。ご用向きは総合部門の件に関する事のようですが」
「うん。総合部門に白い子の企画で参加してあげるよ」
……やった!
あのジャスティーヌ嬢が参加を了承してくれた! 飛び上がらんばかりの嬉しさが湧いて来る!
「おめでとう! 朝陽!」
エストも嬉しそうにしている! でも、抱き着かれるのは不味いので手で制する。
「お礼を申し上げます、ジャスティーヌ様」
「結構悩んだんだけどね。やっぱり服飾部門のショーの方に集中したかったし。でも、パル子達の班の衣装は伯母様が言うように良い衣装だったから組んでも良いかなって思えた」
「私も良かったと思います」
2人ともパル子さん達の衣装は高く評価して認めている。やっぱりパル子さん達を勧誘したのは間違っていなかった。
「ただ条件はあるよ」
当たり前だ。ジャスティーヌ嬢は服飾部門に集中するつもりだったのに、此方の都合もあって総合部門に勧誘したんだから。
……大抵の事は叶えられるようにしたい。ただパル子さん達への相談は必要だ。
「叶えられる範囲での条件でしたら、出来る限り力を尽くします」
「そんなに大きな事じゃないから。ただ私のデザインのモデルになる子は、私に決めさせて欲しいだけ。今回のテーマに沿ってデザインを描きたいから」
……なるほど。
ジャスティーヌ嬢の出して来た条件は、尤もな条件だ。今年のフィリア・クリスマス・コレクションの服飾部門のテーマは、『大切な人』。
総合部門に参加するにあたっても、このテーマは関わって来る。僕だって総合部門と服飾部門に向けての両方のデザインはそれを意識したから。
「ジャスティーヌ様が提示された条件は尤もな事なので問題ありません。パル子さん達にもご了承頂けると思います」
満足そうにジャスティーヌ嬢は笑みを浮かべた。
この様子だと、彼女は既に自分のデザインのモデルをする相手を決めているのかも知れない。それが誰なのか気になるけど、此処は質問せずにいよう。
しかし、こうなると梅宮伊瀬也と大津賀かぐやの衣装のデザインは僕がする事になりそうだ。
……そうだ。忘れてはいけない。
「ジャスティーヌ様。お時間が宜しければ、年末のショーに向けてお嬢様が描いたデザインを見て頂いても宜しいでしょうか?」
「エストンのデザイン? ……白い子のじゃなくて?」
明らかに嫌そうな顔をされた。横に座っているエストが涙目になっている。
いや、これまでの君の学院でのデザインの数々を見ていたジャスティーヌ嬢からすれば当然の反応だと思うからフォロー出来ないよ。
それにフォローする必要も無い。だってこれからジャスティーヌ嬢は君に対する認識を大きく変えるからね。
「此方がお嬢様が年末に向けて描いたデザイン画です」
「ん」
「あっ……才能……」
一目見ただけで不満そうにしていたジャスティーヌ嬢と、その横に座っていたカトリーヌさんはエストのデザインに惹かれた。
「…………これだけじゃないよね? 他のデザインも見せて」
「すぐに持って来ます!」
どうやら本当に隠す気はないのか、エストが素早く此処最近のデザイン画を持って来た。
そのデザイン画を見るジャスティーヌ嬢の反応をドキドキしながら僕とエストは待つ。
「良い、ゴミ、良い、無駄、ゴミ、ゴミ、良い、無駄、良い、良い、無駄、ゴミ、ゴミ」
そして以前僕がやられた時と同じように、お眼鏡に適うものと、そうじゃないものに選り分けていた。再び涙目にエストはなっているけど仕方がない。彼女は天才だから。
「……まあ結構良いデザインだと思うよ。エストンが私の認めるデザインを描けるなんて思っても見なかったよ。何でこっちの方のデザインを学院では描かなかったの?」
「あ、新しいデザインに挑戦していて」
流石に姉のゴーストをやるつもりだったので隠していたとは言えないようだ。
いや、言ったりしたらプロ意識を持っているジャスティーヌ嬢がキレかねない。絶対に言わないでね、エスト。
「ふーん……まあ、エストンの事情なんてどうでも良いけどね。で……最初に見せたデザイン画2枚あったよね。1枚は服飾部門の方だとして、もう1枚は……」
「ジャス子さん! 一生のお願い! あの1枚だけで良いから私にも総合部門のデザイナーとしての参加の枠を下さい!」
「私からもお願いします。最大15着の中で私に与えられる枠を一つ減らして頂いても構いません。どうかお嬢様のデザインを使わせて下さい」
エストと僕は深々とジャスティーヌ嬢に向かって頭を下げた。
ジャスティーヌ嬢は無言で、両手に最初に見せた2枚のデザイン画を手に持って眺めた。
「……カトリーヌ。貴女はどう思う?」
「とても良いデザインだと思います。これほどのデザインを描ける方は、パリでも少ないます」
「……パル子にも確認して良いって言われたら、私は良いよ」
「ありがとう、ジャス子さん!」
「使うデザインの枠は白い子のが減るだけみたいだしね。それにエストンのデザイン画は、これまで日本で見て来た中で三番目ぐらいに良いデザインだったから」
「私からもお礼を言わせて頂きます、ジャスティーヌ様」
「別にお礼なんて良いよ……それで、黒い子の勧誘の方はどうなってるの?」
うっ! あ、あまり聞かれたくない質問をされてしまった。
僕の様子から察したのか、ジャスティーヌ嬢は目を細める。
「その様子だとまだ勧誘していないんだね」
「申し訳ありません! 小倉お嬢様の勧誘はまだしていません」
ジャスティーヌ嬢も総合部門への参加を認めてくれた。残る難関はただ一人。小倉さんだ。
カリンの方は小倉さんが了承すれば、そのまま頷いてくれると思う。でも、小倉さんは目の前にいるジャスティーヌ嬢よりも間違いなく勧誘するのが難しい。これだけ状況が整っていても、頷いてくれる小倉さんの姿がイメージでも浮かばない。
小倉さんは名誉とか賞とかにも興味が無さそうだから、ハッキリ言って一番説得が難しい。
「私も一応勧誘には参加するけど、服飾部門の方での勧誘が断られているから期待しないでよね」
「はい……」
本当にどう小倉さんを勧誘すれば良いのか。
結局この場にいる全員で話し合っても答えが出せず、ジャスティーヌ嬢とカトリーヌさんは帰った。
その後、僕とエストはジャスティーヌ嬢とカトリーヌさんが総合部門の参加を決めてくれた事への興奮を抑える為にお互いの衣装の型紙を引いた。
エストが僕の事を想いながら描いたデザインの型紙を引く。
僕がエストの事を想いながら描いたデザインの型紙をエストが引く。そうする事で、僕らの衣装は最高の出来になるに違いない。
型紙の実力も大切だけど、きっと想いも衣装には必要だから。
思えば、僕はニューヨークで暮らしていた頃は、何時も一人で製作をしていた。
でも、認め合える人と共に製作をする楽しさを僕は知った。皆と製作する時間も心地よかったけど、エストと2人で製作する時間も心地良い。
もし将来デザイナーを続ける事が出来て、僕が独立してアトリエを持つ時が来れば、広い造りにしようかな。
「あ、ところで朝陽。文化祭に才華さんが来ていたみたいだけど、見掛けた?」
……気持ちよく型紙を引いている時に答え難い質問がきてしまった。
「……いえ、残念ながらお見掛けする事は出来ませんでした。会場の方にいらしておられたのだと思います」
「あっ。そっか。朝陽は控室の方から見ていたんだよね。それじゃあ会場の方にいた才華さんを見かけられる筈がないよね」
「ええ……一応メールで訪れていたとは書かれていましたが、結局文化祭中はお会いする事が出来ませんでした」
直接会える訳がないんだけどね。
取り敢えず会っていない事を強調したら、何故かエストに訝し気な視線を向けられた。
「あの……お嬢様? どうされました?」
「……朝陽は才華さんに惚れてないよね?」
「惚れてません」
またなんて質問を君はするんだ。同じ質問に以前も答えたじゃないか。
「以前も申し上げましたが、才華様には恋愛感情の類の感情は持ち合わせていません」
「でも、素敵な人なんでしょう?」
「逆にお聞きしますが、そう質問されるお嬢様は惚れていらっしゃるのですか?」
「ま、まだ、顔も見ていないし!」
つまり性格的には惚れたって言う事?
ただのメールのやり取りで女性とは男性を好きになるものなのだろうか? いや、でも僕がエストに励ましのメールを送れたのは、朝陽としての情報もあった訳だから。メールに書いた内容に偽りの気持ちはないけど。
……しかし、何だろうか? 余り悪い気持ちじゃない。嬉しい気持ちはあるよ。
でも……真実を話した時の事を考えると気が重くなってしまう。
そのまま僕らは時間が来るまで他愛無い話をしながらそれぞれの型紙を引き続けた。
明日からは本格的に総合部門に向けて準備しないといけない。差し当たって明日は決まったメンバー同士の顔合わせと、小倉さんの勧誘。そして演出担当となる人物を探さないと。
文化祭が終わっても、総合部門と服飾部門の両方で最優秀賞を目指す僕には休みはない。
明日から頑張るぞ!
だけど、休みを終えた次の日、決意とやる気に満ちる僕を待っていたのは……。
「皆さん、残念なお知らせがあります。小倉朝日さんが都合により、暫く休学する事になりました」
……小倉さん。貴女に一体何が起きたんですか?
と言う訳でジャスティーヌとカトリーヌも総合部門への参加が決まりましたが、朝日は一時学院から退場です。
遂に蘇りの話が始まります。
カウントダウン
■■■活まで残り……3