月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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少し短めですが才華sideです。
因みに少し時間が戻っていて才華側の話は桜屋敷で話した次の日からとなっています。

秋ウサギ様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!


九月下旬(才華side)27

side才華

 

 鳴り響く目覚まし時計を止める。

 朝が弱い僕にしては珍しく、一つ目の目覚ましで目が覚めた。いや、それだけ眠りが浅かったという事か。

 

「……はぁー」

 

 もう起きたので鳴らす必要がない他の目覚まし時計を止めながら、思わず暗く重い溜め息が出てしまった。

 昨日桜屋敷に行く前とは打って変わって、今の僕の心は暗くなっている。

 それと言うのも、知らない所で起きていた事の数々をお父様、伯父様、そしてルミねえから聞かされたからだ。

 まさか、ひいお祖父様があんなとんでもない事をしていたなんて思ってもいなかった。

 ルミねえを輝かせたいという気持ちに関してだけは、僕も共感できるし理解も出来る。大好きな姉が舞台で輝く姿を見たいと思うのは当然の事だ。

 ……でも、ひいお祖父様がその為にしたことには全く共感できない。だって、どう考えてもルミねえが傷つく。

 現に昨夜会ったルミねえは、酷く傷ついていた。音楽部門の様子から、何れルミねえに辛い時が訪れるのは覚悟していたけど、僕の予想を超えてその時は最悪の形で訪れてしまった。

 しかも……。

 

「……小倉さんまで」

 

 正直言って、あの人になんて謝れば良いのか分からない。

 僕が相談して書類上のルミねえの衣装の製作者になって貰ったばかりに、あの人がフィリア学院に居る事をひいお祖父様に知られてしまった。

 それに……伯父様は口にしなかったけど、ひいお祖父様の動きを止められなかったのは、エストの件も関わっている筈だ。エストの方の問題に、カリンが動いていた。

 本当なら文化祭ではカリンはひいお祖父様を見張る予定だったに違いない。だけど、その少し前にエストが過去に双子の姉であるエステル・グリアン・アーノッツと一緒になって、モデルの入れ替わりを行なっていた事が判明してしまった。

 其方の方の問題だって大事だ。何せ伯父様も言っていたけど、下手をしたら国際問題になりかねない程だったんだから。

 他にも僕が学院で名乗っている名前の事もある。

 『小倉朝陽』を名乗っているだけに、もし放送なんかで呼び出されたら僕は向かってしまっていたかも知れない。その事もあったから尚更に小倉さんは、ひいお祖父様に会いに行ったに違いない。

 それがどれだけ辛い事だったのかは、当事者ではない僕には分からない。

 

「…………」

 

 部屋にあるキッチンの方に顔を向ける。

 昨晩帰宅してすぐに、伯父様の指示通り総裁殿から貰っていた正体がバレた時の為の特別入学許可書は破いて燃やした。

 これで学院内で正体がバレてしまった時の僕の護りはなくなった。

 伯父様から頂いた偽の診断書の方は残っているけど、アレは僕個人を守る物じゃなくて桜小路家の方に累が及ばないようにする為の物だから当てにするのは危険だ。

 

「……それにしても、まさか、小倉さんの主人だった人がいないだなんて」

 

 聞いた時は言葉を失うしかなかった。

 アトレなんて、顔を両手で覆って大泣きしてしまった。以前、アトレは小倉さんが主人に謝罪していない事を責めてしまった。その事は既に小倉さんとアトレの中で和解は済んでいた。

 だけど、まさか、謝罪しなかったのではなく、謝罪出来なかったとはアトレも思ってもいなかった。

 僕だってそうだ。これまでは小倉さん自身の心情が理由で、総裁殿や伯父様はその意思を尊重していると思っていた。でも、それは誤りだった。

 今更ながらにお母様の言葉が脳裏に浮かんで来る。

 

『朝日は……失った。何もかもをだ』

 

 意味が分からなかったその言葉の意味が今なら分かる。

 本当に小倉さんは、あの人は沢山のものを失っていたんだ。心から慕っていた主人に謝罪する機会までも。

 もし、僕がエストに謝罪する機会を失ったとしたら?

 

「っ……」

 

 想像するだけでも吐き気を感じて、思わず手で口元を押さえてしまった。

 去年の僕からでは考えられないくらいに、エストには親愛の情を抱いている。それこそ最初にルミねえ達に気軽に女装して学院に通うなんて提案は、もう絶対にしたくない。

 本当にエストと一緒に過ごす日々はデザイナーとして、個人としても、そして従者としても心の底から楽しくて最高の日々だ。

 ……だから、そんなエストを欺いている事に罪悪感を感じずにはいられなかった。年末に行なわれるフィリア・クリスマス・コレクション後に謝罪する事に恐怖も少なからず感じていた。だって、どんな結果が待っているにしても、僕とエストの関係は大きく変わるのだから。

 

「……でも、今は違う」

 

 僕が感じていた恐怖なんて、恐怖じゃなかったと思い知らされた。

 本当の恐怖は、謝罪したいと心から願っている相手に、謝罪も出来なくなってしまう事だと知った。

 以前、僕は伯父様に偶然を装って小倉さんに以前の主人の方と会わせられないかと尋ねた事があったけど、それは最初からどうやっても不可能だったんだ。

 小倉さん自身が、以前の主人の方がもういない事を知っていたから。

 

「……どうしたら良いんだろう」

 

 知らなかったからでは済まされない。

 改めて事情を知ったんだから、僕もアトレと同じように小倉さんに謝罪したい。だけど、伯父様は小倉さんが入院している病院の場所を教えてくれなかった。

 

『悪いがお前達に我が子が入院している病院を教える訳には行かない。謝罪したい気持ちは分かるが……お前達は我が子の事情を深く知らない。奴の精神状態が以前よりも悪くなっているのは明らかだ。故に事情を知らない者を会わせるつもりはない』

 

 尤もな意見だったので反論も出来なかった。僕とアトレはやらかしているだけに。

 あっ! そう言えば! 僕は急いで内線でアトレの部屋の部屋番号を入れた。

 距離を取る事にしているけど、今は緊急事態だし、昨日駐車場で別れた時のアトレの様子を思い出すと、電話せずにはいられない。

 

『はい、此方桜小路アトレの部屋です』

 

「あっ、九千代。僕だよ」

 

『若! おはようございます」

 

「うん、おはよう。朝早くに電話してごめんね。それでアトレの様子はどう?」

 

『……本日は学院の方はお休みになられるそうです』

 

 やっぱり、昨日の件はショックだったみたいだ。

 

「そう……僕は学院に行かないといけないから、アトレの方をお願いね、九千代」

 

『はい、分かりました、若。旦那様も午前中は此方に来られるそうなので』

 

 お父様が来るなら安心……だと、今回ばかりは言えないか。

 これが病気とか怪我とかなら、それこそ僕らを全身全霊で介護して助けてくれるお父様の姿が簡単に頭の中に浮かんで来る。

 だけど……今回の問題は僕達自身のやらかしが原因だから、流石のお父様でもフォローは難しいに違いない。

 因みに昨夜の帰りにお父様から……。

 

『才華。今は状況が状況だから言わないけど、落ち着いたら2人で話そうね。特にジャンの件に関しては』

 

 これまで向けられた事の無い(というよりも人生で初めて)険しい視線を向けられた。

 ……2度と僕はジャン・ピエール・スタンレーを侮辱するような行為はしないよ。

 おっと、今は九千代との会話を続けないと。

 

「お父様は午後も桜の園にいるの?」

 

『いえ、旦那様は午後には此方を離れて、お忙しい総裁殿と衣遠様の代わりにメリル様の手伝いに向かわれるそうです』

 

 そう言えば、メリルさんも日本に残っているんだっけ。

 やっぱり小倉さんの状態は、相当深刻なようだ。お見舞いに行きたいけど、伯父様から止められたし。そうだ!

 

「九千代。悪いんだけど、お父様が来たら、次に桜の園に来る日を聞いて貰って良いかな?」

 

『それは構いませんが、どのような御用でしょうか?』

 

「うん。直接小倉さんが入院している病院には、僕らは行けないから。お見舞いの品をお父様に頼んで持って行って貰おうと思って」

 

『分かりました。旦那様が此方に来られたら尋ねておきます」

 

「お願い。じゃあ、僕はエストの部屋に行かないといけないから」

 

 電話を切って、学院に行く準備を始める。

 とは言っても……凄い気が重い。昨日エストから小倉さんの件を何か分かったら教えて欲しいと言われてたけど……言える訳がないよ。

 家が絡んでいる事情だし、僕が隠している事情も少なからず絡んでいるから尚更に話すわけにもいかない。

 制服に着替え終えた僕は、鞄を手に持って部屋から出た。

 

「おはよう……」

 

「おはようございます、朔莉お嬢様。今朝は随分暗い様子で何かありましたか?」

 

 今朝も何時ものように僕が部屋を出るのを待ち構えていたようだが、今日の八日堂朔莉は元気がなかった。

 

「もう何日も皆で集まっていた夜のお茶会が行なわれていないのよ? 私の楽しみの一つだったのに」

 

 ああ、そう言えば文化祭の日もルミねえがいなかったから、八日堂朔莉の言う通り、もう何日も皆で集まってのお茶会をしていない。そして……その夜のお茶会は行なわれるとしても、1人いなくなる。

 

「…………」

 

「その様子だと何かあったみたいね?」

 

「……はい、昨夜ルミネお嬢様とお会いしたのですが……この桜の園を出るそうです」

 

 八日堂朔莉は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに沈痛な顔に変わった。

 

「そう……覚悟はしてたけど……ルミネさん。知ったんだ。文化祭の日からずっと部屋の明かりが点いた様子がないから、もしかしたらと思ってたんだけどね」

 

 言動に反して八日堂朔莉は面倒見が良い女性だと僕は知っている。

 ルミねえはどう思っているか謎だけど、八日堂朔莉は友人と思っていた筈だ。

 

「少なからず一緒に過ごしていた友人が、このマンションを去るのは寂しいけれど、此処は何も言わずに見送るしかないわね」

 

「ルミネお嬢様を引き止めるつもりはないのですか?」

 

「ないわ。ルミネさん自身が決めた事だし、それに家の事情も関わっているんでしょう?」

 

 頷いた。ルミねえの問題はひいお祖父様が関わっているだけに、家の事情もある。

 ……いや、待って。今の八日堂朔莉の言葉。もしかして彼女は……。

 

「もしや朔莉お嬢様は、ルミネお嬢様がご参加された演奏会のご様子を知っておられたのですか?」

 

「直接は見てないわよ。私だって演劇の方で忙しかったから……ただ演奏会で金賞を取ったはずのルミネさんが、当日に桜の園に戻って来なかったから、何かあったんじゃないかとは思ってた」

 

 僕はと言えば、抱えていた問題が解決した事に浮かれて、部屋で朝までフィリア・クリスマス・コレクションに向けてのデザインを描いていた。

 今更ながらに、もう少しルミねえの方にも気を配っておくべきだったと後悔する。前日に八日堂朔莉から金賞を取ったと聞いていたから油断していたとしか言えない。

 会場に来た観客の方に問題があったなんて、夢にも思ってなかったよ。

 

「それで、何時頃ルミネさんは部屋を引き払うの?」

 

「その辺りの事は詳しく聞いていませんが、業者の方に全て依頼すると思います」

 

「と言う事は、もう本当に此処には戻って来ないって事ね」

 

「そう……なると思います」

 

 遊びに来るぐらいはあるかも知れないが、桜の園でルミねえが暮らすという事はない。

 今のルミねえは僕と同じようにこれまで持っていた自信を全て失っている。事実を知った時に、そうなるかも知れないと思っていたけど、その被害は僕の想像を超えていた。

 何せルミねえが自信を失ってしまった原因には、ひいお祖父様が関わっている。これまで築いて来た実績や成績。その全ての裏でひいお祖父様が動いて、ルミねえに与えられていたものかもしれない。被害妄想が混じっているかも知れないが、そうと言い切れる証拠はないし……逆の証拠なら僕自身も幾つか確認してしまっている。

 本当にひいお祖父様はなんて事をしてしまったんだ。

 大好きな姉を傷つけられた怒りを抱く。でも……僕はこの問題に関われない。

 僕は大蔵家の人間じゃなくて……桜小路家の人間だから。悔しく感じても、ひいお祖父様の問題は既に個人の問題を超えている。

 現に伯父様から、『関わるな』と言われてしまった。大蔵家の出であるお父様も、残念ながらこの問題に関わるのは無理だと言われていた。下手をしたらアメリカにいるお母様に迷惑が掛かってしまう。

 お母様を大切に想うお父様が、その選択をする事が出来る筈が無い。

 

「悩んでいるところ悪いんだけど、ねえ、朝陽さん。今日の夜って時間ある?」

 

「時間ですか?」

 

「うん。前に断っておいて恥ずかしいんだけど、総合部門参加に関して、ちょっとね」

 

 驚いた。参加を此方を思って断ってくれた八日堂朔莉が、総合部門に関する事で話があるなんて。

 もしかしたら……参加してくれるのだろうか? 実を言えば、いまだに演出関係を依頼する相手がいなくて困っていた。時間がある時に、去年や一昨年のフィリア・クリスマス・コレクションでの作品や演劇を見て、誰か良い人がいないか探してみたりしたが、これだと思える人がいなくて困っていたんだ。

 最悪の場合、自分達で演出に関しても考えないといけないと思っていたところで、諦めていた彼女の参加はとても助かる。

 それに小倉さんとカリンの参加が絶望的となった今、僕に残されている2枚分のデザインのモデルも決めないといけない。

 

「分かりました。まだ総合部門に関しては始まったばかりで、パル子さんとジャスティーヌ様もデザインを描き終えていませんから、今日の夜に其方に伺わせて貰います」

 

 総合部門の参加メンバーは、一部を除いて服飾に明るい人達ばかりだ。

 最後にはリーダーの僕が確認しないといけないけど、その前にマルキューさんやジャスティーヌ嬢にパル子さん、そしてエストも確認するから僕の確認はあくまで形式上のものでしかない。

 今日は既に完成しているエストのデザインの型紙を製作するのが、僕らのメインになると思う。僕の方は、大津賀かぐやの衣装のデザインをしないといけない。本格的に僕らが忙しくなるのは、全部のデザインが完成してからだ。

 八日堂朔莉と会う時間を決めて、僕はエストの部屋に向かった。

 

「おはよう! 朝陽!」

 

 部屋に行くと僕の主人は元気に朝の挨拶をして来た。良い事の筈なのに、今は少しだけ恨めしく思ってしまう。

 

「おはようございます、お嬢様。今朝もお元気ですね」

 

「うん! 今とっても充実しているから」

 

 あの姉のゴーストを辞めるという決意はとても良い事だよ。ただ……その元気もこれから報告する内容を聞いたら、間違いなく曇る。

 主人に悪い報告をしないといけない事に沈痛な気持ちを抱いていると、僕の様子から察したのかエストは心配そうに声を掛けて来た。

 

「え、えーと……もしかして桜小路さんの家で何かあった?」

 

「……はい。昨日も言った通り、家の事情が絡む話でしたので詳しい事は話せませんが……小倉お嬢様は学院にお戻りになられないかも知れません」

 

 エストは心の底から驚いたと言うように口を大きく開けた。

 小倉さんの服飾に対する熱意は、同じクラスで学んでいるエストも知っている。その小倉さんが学院に戻って来ないなんて、僕のクラスの人なら誰だって驚く事だ。

 言った僕だって、信じたくない気持ちなんだから。

 

「小倉さんに会う事は出来ないかな?」

 

「残念ですが無理だと思われます。それと言うのも昨夜私とアトレお嬢様が桜小路家のお屋敷を訪ねたら、丁度小倉お嬢様の養父である大蔵衣遠様も来られました。その衣遠様にご確認したところ、事情を知らない者を会わせる事は出来ないと言われました」

 

「うーん……やっぱり樅山先生の言った通り、家の事情で小倉さんは休学したんだね」

 

「その様です」

 

「ジャス子さん、残念がるだろうね」

 

 もしかしたら小倉さんが総合部門に参加してくれるかもと一縷の望みを持っていたけど、こうなってしまったら諦めるしかない。

 その事をジャスティーヌ嬢に報告するのは、やっぱり気が重くなる。本人は小倉さんが参加しなくても、総合部門には参加してくれると言っていたのが僕らにとっては助かった。

 ……おっと、落ち込んでばかりもいられない。エストにはもう一つ、残念な報告をしないといけないんだ。

 こっちもこっちで気が重くなるよ。

 

「……お嬢様。実はもう一つ。悲しいご報告があります」

 

「えっ? か、悲しい報告って……一体何?」

 

「ルミネお嬢様が、このマンションを引き払うそうです」

 

「大蔵さんが!?」

 

「実は昨夜お会いしたのは桜小路の旦那様と衣遠様だけではなく、ルミネお嬢様も一緒でした。此方も詳しい内容は話せませんが、ルミネお嬢様がこのマンションを引き払うのは間違いありません」

 

「そんな……小倉さんだけじゃなくて大蔵さんまで……その……大蔵さんに会う事は出来ないかな?」

 

「学院で会うのは問題ないと思います。ただ今ルミネお嬢様は桜小路家のお屋敷で過ごされているので」

 

「そのお屋敷の場所って何処なの?」

 

 純粋に心配そうな目でエストは質問してきた。

 桜の園から歩いて5分も経たない場所にあるけど……エストには教えられない。

 桜屋敷の場所がエストに知られたら、其処に訪ねにエストが行くのが容易に想像出来る。以前、エストは僕に内緒でジャスティーヌ嬢の件でフランスの大使館まで行った事がある。

 その事を考えたらエストに桜屋敷の場所は教えられない。主に桜小路才華の件が問題で。

 心苦しいが、此処は嘘をついて誤魔化すしかない。

 

「場所は此処からそれなりに離れています。それとお嬢様。残念ですが、桜小路家のお屋敷にルミネお嬢様を訪ねに向かわれるのは不味いと思います」

 

「どうして?」

 

「昨夜お会いしたルミネお嬢様は、かなり深刻なご様子でした。今はルミネお嬢様のお心が落ち着くのを待った方が良いと思います。それに今、ルミネお嬢様は他家にお泊りしている身の上です。直接赴く為には、先ず桜小路家側のご了承が必要でしょう」

 

「あっ、そうだよね。大蔵さん。今は桜小路家のお屋敷に泊まっているんだよね」

 

 まあ、大蔵本邸にエストが行くよりはずっと難易度が低いと思う。

 と言うよりも、エストが大蔵本邸に行ったりしたら大問題が起きる。門前払いどころか、裏社会と繋がっているアーノッツ家の人間が訪ねに来たりしたら、ひいお祖父様が八つ当たりでアーノッツ家を潰しかねない。

 本当に僕は何て怖いもの知らずだったんだろうか…。 過去の自分の所業を思い返す度に、お腹が痛くなりそうだよ、本気で。

 

「じゃあ、アトレさんに確認して」

 

「いえ、あの……お嬢様。実はそのアトレお嬢様も本日は学院を休まれるそうです」

 

「アトレさんも!? えっ? あ、朝陽? 本当に昨日の夜に何があったの?」

 

「尤もな疑問ですが、今はお待ち下さい」

 

 僕はエストに向かって頭を下げた。

 本当にエストからすれば訳も分からず混乱するばかりだろうが、事情を話すわけにもいかない。

 何せ冗談抜きで世界に名だたる大蔵家の不祥事が絡む大問題だから。幾ら心から心配してくれているエストだからとは言え、流石に教えられない。

 疑問ばかりで混乱しているエストに謝罪しながら、僕は朝食の準備を始める。

 ……はあ、学院に行ったらもう一人質問してくる相手がいるだろうから、それを考えると本当に気が重くなるよ。

 

「と、ところでね、朝陽。こんな時になんだけど、桜小路家に行った時に才華さんとアトレさんのお父様に私の事は……」

 

「……あっ! そう言えば話が重大な事ばかりで、お嬢様の事をお話する暇がありませんでした!」

 

「オーマーイガァァァァァァッ!」




因みに才華は大蔵家の問題に関われません。関わったら逆に爺にりそな達が弱みを握られるので、衣遠と遊星が全力で止めます。
勘の言い方はお気づきでしょうが、実は爺のやらかしで朔莉にも影響が起きています。
詳細は多分次回で説明できると思います。

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