月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~ 作:ヘソカン
今回は中旬に向けての布石を入れました。
秋ウサギ様、烏瑠様、獅子満月様、えりのる様、誤字報告ありがとうございました!
side才華
「と言う訳で、本日は学院が終わったら其方に戻ります、お父様」
『分かった。待ってるよ、才華』
朝起きて学院に行く準備を終えた僕は、桜屋敷にいるお父様に電話をしていた。
ルミねえが学院に行く頃を見計らって電話をしてみたんだけど……。
「お父様……本当にルミねえはまだ桜屋敷にいるんですか?」
『いるよ。今、僕はルナの部屋で電話に出ているんだけど、ルミネさんはまだ食堂でメリルさんと一緒に朝食を食べてるよ』
まだ、ルミねえは桜屋敷にいた。
気をつかって別室で話してくれているお父様には感謝するけど……正直、驚きしかない。
今、桜屋敷に電話を掛けている時間帯は、7月頃に偶然エストの部屋に向かう途中で会えた頃を見計らってかけた。なのに、ルミねえはまだ桜屋敷にいて食事中だとお父様は言う。
朝早くに桜の園を出て、学院で練習していると言っていたあのルミねえがだ。
その事がどうしても気になってお父様に聞いて見たところ……。
『ルミネさん。桜屋敷で過ごすようになってからは、ピアノの練習はしていないんだよ。学院の授業でも弾けなくて、辛い思いをしているみたいなんだ』
あの1日の内、最低8時間のピアノの練習を義務付けていると言っていたルミねえがピアノの練習をしていない?
お父様の話じゃなかったら、何の冗談だろうかとしか思えないよ。どうやら伯父様の言う通り、ルミねえの状態はかなり深刻なようだ。
「……学院ではルミねえがどんな風に過ごしているかお父様は聞いていますか?」
『……才華だから教えるけど、ルミネさんは保健室で過ごす事が多いみたい』
ルミねえが保健室!?
……これはもう間違いない。今のルミねえは、学院に通う前の2月頃の僕と同じだ。
あの……人生初めての挫折で追い込まれていながらも、逃げることが出来ず、何とか頑張ろうとして辛かった時、僕はルミねえに励まされた。だったら、今度は僕がルミねえを助ける!
総合部門や服飾部門の衣装製作で忙しいから、何処まで力に成れるか分からないけど、何もしないでいる事は出来ない。
「お父様。これから学院に行かないといけませんからすぐには見せられませんけど、桜屋敷に行った時に僕がルミねえの為に描いたデザインの感想を聞かせて下さい」
『分かった。どんなデザインをルミネさんの為に描いたのか楽しみに待ってるね、才華』
「それじゃあ、失礼します」
電話を切って一息つく。
本当だったら小倉さんが回復した事を教えてくれなかった事に対して、文句の1つも言いたい気持ちは少なからずあるが、ルミねえの現状を考えればそれどころじゃない。
どうやってルミねえに、総合部門のショーに参加して貰えるよう説得するかを考える方が大切だ。
『匿名希望』の件は勿論説明するけど……それだけで納得して貰えるとは、集まった情報を吟味するまでもなく無理だ。
多分だけど、舞台に立つ事すらトラウマになってしまっているかも知れない。
学院の文化祭で舞台に立ったら、知っている相手の顔ばかりが会場に広がっていたとか……僕だってトラウマになるよ。本当に。
嫌な光景が思い浮かんで、少々落ち込みながらも部屋から出る。
「おはようって、また朝から暗い顔をしているけど、今度はどうしたの?」
何時も通りに八日堂朔莉が待ち構えていた。
「少々、ルミネお嬢様が経験したという舞台を想像してしまい」
「その話止めて! 私も聞いた時は夜眠れなくなりそうになったから!」
君もか。珍しく意見が一致した僕らは、この話題をなかった事にした。
うん。年末に行なう楽しいショーの光景を思い浮かべる。この光景を必ず実現させるという意欲を燃やす。
「それで今日はちょっと部屋から出るのが遅かったけれど、やっぱりフィリア・クリスマス・コレクションに向けての準備が忙しいからなの?」
「少なからず関わりがあります。実はルミネお嬢様をショーの最後のモデルとしてお誘いしようと考えています」
「へえー……良いんじゃないかしら。ルミネさん美人だし。舞台慣れはしているでしょうから、ショーに参加するのは賛成ね。友人と一緒に舞台に立てるとか学生時代の素晴らしい思い出になりそう」
「そう言って頂けて感謝します」
「感謝される事じゃないわよ。純粋にあなたの話を聞いて、私も楽しみが増えたの……ただまだルミネさんには話していないのよね?」
「はい。今日部屋を出るのが遅れたのは、今ルミネさんが泊まっている屋敷の主人に伺う許可を貰う連絡をする為です」
「……一応聞くけど、ルミネさんを説得出来そうなの?」
一度ルミねえの様子を見に、音楽部門に行っただけに八日堂朔莉はもしかしたら僕よりもルミねえの状態を把握しているかも知れない。
その彼女が心配そうに僕を見ている事から考えて、相当難しいと彼女は思っているようだ。いや、難しいに決まってる。
「出来るだけ頑張るつもりでいます。その為のデザインは既に完成しています。此方がそのデザインです」
丁度良いタイミングなので、鞄からルミねえの衣装のデザインを取り出して八日堂朔莉に渡した。
彼女は演出担当なだけに、ショーで一番大切な衣装のデザイン画は全て渡してある。ジャスティーヌ嬢もパル子さんのデザインもだ。
当然まだはっきりとは決まってないけど、ルミねえの衣装のデザインも渡しておかないといけない。
「……服飾の事は素人だけど、この衣装を着たルミネさんはさぞかし綺麗な姿でしょうね。彼女が黒髪じゃなかったら襲っていたかも」
……不穏な事を言わないでくれ。
「朔莉お嬢様の衣装の型紙は昨日の夜にお嬢様と一緒に完成いたしました。近々仮縫いを致しますので、時間を空けておいて下さい」
「嬉しい報告をありがとう。出来ればその仮縫いをする時は、朝陽さんと2人っきりが良いのだけれど、時間的に無理だから諦める」
ほっ。少し安心。
どうやら自分も参加する舞台の準備なだけに、八日堂朔莉も変態的な行動で時間を浪費するつもりはないようだ。
……もし余裕があったら、あの白い部屋で勝負下着姿で待ち構えているとかやりそうだから少し不安だったよ。
「ところで最後のモデルにルミネさんを誘うつもりなのは分かったけど、演出担当の私にとって必要な相手の音楽担当者の方はどうなっているのかしら?」
うっ! や、やっぱり気になるよね。
「ねぇ、どうなの?」
少し意地悪そうに微笑みながら質問された。
忘れてはいけない。彼女は僕と同じでSだと言う事を。
とは言え、この件に関しては素直に謝罪するしかないので素直に頭を下げる。
「申し訳ありません。音楽担当者はまだ探している最中です。最悪の場合は、学院にある録音されている音楽を流すことになるかも知れません」
「そう……まあ、仕方ないかも知れないわね。朝陽さん、音楽部門の人達に警戒されているそうだから。彼女達の王子様に興味を持たれているんだったっけ?」
覚えていたのか。
「個人的には事実無根なのですが、どうやらそのようです。男性の方々も女性の目を気にしてるのか、話しかけても逃げられてしまいます」
「朝陽さんの美しさに気圧されているとかありそうね」
そうだったら若干複雑な気持ちもあるけど、少し嬉しいなあ。
「ただ当てはない訳では無いので、その方が駄目だった場合はすぐにご連絡いたします」
「分かったわ。出来れば音楽が奏でられながらの舞台をやりたいけど、こればかりは勧誘が成功するかしないかだからね」
出来る事なら成功させたいなあ。ただ彼の人気ぶりを考えると、無理そうだ。
いやいや、最初から諦めたらいけない。もしかしたら応じてくれる可能性だってあるんだから。
とりあえず、八日堂朔莉との打ち合わせは今のところこれぐらいかなあ? ……そう言えば……。
「朔莉お嬢様。一応お聞きしますが、新しい担任になられた教師からフィリア・クリスマス・コレクションに主役として参加しろと頼まれませんでしたか?」
以前の八日堂朔莉の担任だった教師は、学院からいなくなった。
当然、新しい教師が彼女のクラスの担任になった訳だけど、その教師がどんな人物なのかまだ聞いていなかった。流石に以前の担任と同じような人ではない事を祈りたい。
「新しい担任の先生? 前の先生よりもずっと良い先生よ。演劇に真摯で、余りやる気のない生徒は叱ってくれるし。私の演技も駄目出しは普通にしてくれるしね。最初に会った時に、『特別扱いはしない』ってハッキリと宣言もしてくれたから」
どうやら以前の教師よりも、遥かに良い教師が担任になったようだ。
「それで私が『フィリア・クリスマス・コレクションには総合部門で参加する予定があるから、出来れば裏方にして欲しい』と頼んだら、『クラスメイト達の様子を見たら、その方が良いでしょうね』と言ってくれたから、演劇部門の方は裏方で準備作業をやらされる事になってる」
世界的女優であるイトウ・サクリを裏方に回すなんて大胆な。
今度の彼女の担任は、以前の担任と違い八日堂朔莉を利用して自分の立場を良くしようとは思っていないようだ。だけど、学院側が良く八日堂朔莉を舞台に出さない事を了承したものだ。
一大イベントのフィリア・クリスマス・コレクションに彼女が出れば、それだけで学院の知名度が上がるに決まってるから。新しい教師を通じて、参加を促したりしてきそうだと思っていたんだけど。
文化祭やクラスメイトで嫌な思いをしている事を察して、フィリア・クリスマス・コレクションは八日堂朔莉の自由にさせる方針なのかも知れない。
僕個人としては助かった。
「それではそろそろ失礼します」
「ルミネさんの説得に成功したらすぐに連絡してね。彼女も加えたショーを考えないといけないんだから」
何処となく楽しそうにしている八日堂朔莉から離れて、僕はエレベーターに乗ってエストの部屋に向かった。
side遊星
「才華さんがルミネさんを総合部門に誘おうとしているんですか、お父様?」
『そうだ。昨夜、才華から連絡が来た』
朝食をりそなとカリンさんと一緒に食べている最中に掛かってきたお父様からの電話の内容に、僕らは驚いた。
まさか、才華さんがルミネさんを総合部門に誘おうとしているなんて思ってもいなかったから。でも……悪い事じゃない。
何か目標を持つ事は良い事だし、ピアノも弾けず、会社の方も長期休暇でよほど急を要する重要な案件以外では関われず、学院に通うのも辛いそうだから。
……うん、才華さんの案はとても良い案だと思える。
「あの甘ったれにしては中々良い事をしようとしていますね。今のルミネさんには、目標があった方が良いですから」
「『匿名希望』で名を隠されるのでしたら、警戒は最小で済みそうですね。正直申しまして、これ以上難儀な事は起きて欲しくありませんので、安心いたしました」
りそなもカリンさんも才華さんの案には賛成なようだ。
だけど、才華さんの前では言わないだろうなあ。
「お父様も才華さんの案には賛成なのですか?」
『無論だ。学院に通っている間ならば、此方もフォローはするが、そう何時までも叔母殿のフォローは出来ん。今後の事を考えれば立ち直る切っ掛けは必要だ。才華の行動がその切っ掛けとなるのならば、邪魔などする必要は無い。尤も手を貸すのも無理だがな』
「まあ、そうですね。此方が睨みを利かせているとはいえ、ルミネさんが少しでも関わっていると分かったらお爺様が何かやらかす可能性はあります。私達の評価を変えるために、今度こそルミネさんを批判できないぐらい輝かせようとするとか」
……余り祖父……今の僕の立場だとひいお祖父様になる人を悪く言いたくはないけれど……これまでの事を考えると何もフォロー出来ません、お爺様。
『我々は才華の案を知らなかったという事にしておくのが良かろう。遊星、お前も叔母殿の相談ならばともかく、才華の相談には今後も余り乗らないようにしろ。それに今は日本に実の父親がいる。お前ばかり才華に相談されていては父親の面目がないからな』
「分かりました」
お父様の言う通り、今は日本に桜小路遊星様がいる。
僕ばかり相談に乗るよりも、親子の仲を深める為に桜小路遊星様が相談に乗った方が良いよね。
『……ところでりそな』
「なんですか、上の兄? 妹、もう暫らくは厄介ごとはごめんなんですけど。フィリア・クリスマス・コレクションに向けてデザインもそろそろ本格的に描かないといけませんし。もう暫く下の兄との生活を満喫させて……」
『セシルが我が子の存在を知った』
「ブゥッ!!!」
セシル? 誰だろうか? 聞き覚えのない名前に僕は首を傾げたが、りそなは知っているのか動揺し切っていた
「じょじょ冗談ですよね、衣遠兄様!? なな何であの人に下の兄の事が」
『プランケット家の現当主が洩らしたようだ』
「エッテェェェェェェ!? なななんてことをしてくれたんですか!? あああ不味い! あの人にだけは知られたら本当に不味かったのに!? はい! 妹! もう暫くパリには行きません! あの人がこの件を忘れるまで、パリの本店の経営は全部他の人に任せます! 良いですね、衣遠兄様!」
此処までりそなが動揺して怯える姿を見るのは、此方に来てから初めて見る。
だけど……幾ら考えても『セシル』と言う名前を持つ人に心当たりはなかった。りそなの今の発言からすると、パリに在住している人みたいだけど、パリにいた時は会った覚えもない。
思わずカリンさんに顔を向けてみたが、彼女も知らないのか首を横に振られた。
そうなると大蔵家の関係者でもないようだ。気になるけど、パリに住んでいる人じゃ日本にいる僕が会える訳が無い。りそなの動揺が治まったら聞いてみようと思いながら、食べ終えた食器を片付ける。
『そのセシルから言伝を貰っている。『近い内に日本に行くから会った時は覚悟しておきな』だそうだ』
「何で日本にあの人が来るんですか!?」
ドンっと大きな音を立てながらりそなはテーブルに両手を置いた。
あ、危なかった。もう少し遅かったら食器が床に落ちて割れてたかも。
「遊星様。此方もどうぞ」
「ありがとうございます、カリンさん」
渡された醤油入れとソースを取り敢えず退かしておく。
今、テーブルに戻したら、今度こそ落とされかねない。それに……まだ明らかにりそなは動揺しているし。
「ほほ本当に来るんですか!? いい幾ら下の兄の事を隠していたからってわざわざ日本にまで来るなんて……」
『無論。我が子の事だけが理由ではない。どうやらセシルが日本に来るのは、ラフォーレが関わっているようだ』
「……はっ?」
……えっ?
『詳しい経緯はこの俺にも怒りを抱いているのか教えはしなかったが、どうやらラフォーレは今回のお前の衣装の審査を外部の人間に依頼するつもりのようだ。その内の1人がセシルのようだ』
「……りそな。その話は?」
「いやいや、私も知りませんでしたよ。多分、私が正式に理事長を今年で辞める事が決まった後に、あの総学院長が決めたんでしょう……まあ、彼からすると例の教師の件で学院内の教師陣に審査を任せるのは危険だと判断したのかも知れません」
『恐らくはそうだろう。ラフォーレはジャンが関わる事に関しては手を抜く事はない。今回の外部への審査の依頼は、学院内の教師陣に危機感を持たせる意味合いもあるはずだ』
総学院長であるラフォーレさんからの信用と信頼を失ったら、確かに学院の教師の誰もが危機感を抱いてしまう。だけど……。
「あ、あの、りそな、お父様。先ほどから話してるセシルと言う方は、どのような方なのでしょうか?」
『……そう言えば、お前は知らなかったか』
「うっかり話して、アメリカの下の兄がパリで過ごしていた時期に気づかれるのを恐れていましたからね。前に少しだけ話しませんでしたか? 野心に満ち溢れていた上の兄に真っ向から意見を言えた大家の話を?」
「ああ、確かに言ってたね。じゃあ、セシルさんって言う人は、桜小路遊星様がパリで過ごされていた時の下宿先の大家さんなの?」
『そうだ。だが、ただ下宿していた先の大家と言うだけではない。セシルは嘗てジャンの創業期であると共に、地獄の修羅場だった『始まりの2年』を共に駆け抜けた『伝説の7人』の1人だ。その縫製の腕はこの俺から見ても化け物としか評せないほどだ』
お父様が其処まで言うなんて……本当に凄い人のようだ。
『実際アメリカの我が弟がパリで過ごした期間は僅か半年足らずだったが、その期間、セシルに縫製を気紛れで見て貰っていたようだが、縫製の技量が上がっていた』
「は、半年で、しかも気紛れで見て貰ってですか?」
『奴はそれほどの実力者と言う事だ。あの女は、こと衣服を触れて確かめる上では、指の感覚が常人の枠に無い。着て、動き、見せる。即ち、良く馴染み、丈夫であり、糸の止め方による皺の垂れ方まで身体で計算している。奴の指そのものが技術と言っていい。正式な弟子は取っていないが、奴が大家をしているアパートメントで過ごした者達は縫製に関してはそれなりの実力を得ている』
そう言えば、カトリーヌさんもその下宿先で過ごして縫製を学んだと言っていた。
僕も知らない縫製の技術。それはお父様も認めるセシルと言う人から学んだものだったんだ。
「私もパリ校在学中はとても良くして貰いました。アメリカの下の兄と言うか『朝日』の事も気に入っていたんですよ……だから、バレたら不味かったのに」
「ええと、一応聞くけど、セシルさんっていう人は、『朝日』の正体に関して……」
「話してませんよ。純粋に女性の良い子としか思っていません。ただうっかりアメリカの下の兄が下宿先に忘れていった物は、今でも大切に保管してるらしくて」
「そ、それってりそなが回収すれば良かったんじゃないの?」
「いや、私もそうするつもりでしたよ。でも、『忘れて行ったんだったら、何時か自分で取りに来るだろう? そん時まで預かっておくよ』。なんて善意で言われたら無理強いできませんよ」
うん。出来ないね。話を聞く限り、凄い人だけど良い人のようだ。だからこそりそなも困っているみたいだ。
「えーと、取り敢えず日本に来るんだったら挨拶はしておいた方が良いよね」
「して下さい、下の兄! じゃないと妹、本気で泣きますから!」
この怯えよう。どうやらりそなにとって、セシルと言う人は嘗てのお父様と同じように怒らせたらいけない人だと認識しているみたいだ。
僕も色々と覚悟しておかないと。……『小倉朝日』は亡くなっている事にした方が良いのかな? 最悪……凄く落ち込むけど、桜小路遊星様に『小倉朝日』として会って貰う必要があるかも。話を聞く限り、電話だと駄目そうだから。
……何だか、これから『小倉朝日』として桜小路遊星様と会う事が増えるような気がして来た。
いやいや、流石にそれはないよね? アメリカの桜小路の屋敷の使用人の人達は八千代さん以外、『小倉朝日』を知らないんだし。うん、僕の考え過ぎに決まってる。
でも、せっかく縫製の技術が凄い人に会えるんだから、カトリーヌさんの時のように縫製の仕方を教えて欲しいなあ。
『多少縫製のやり方を聞くのは構わないが、本格的に弟子入りするのは勧めん。何せこの俺が天使だと思えるほどに、奴は弟子に厳しい』
「えっ」
『奴は一流の技術を学んだ高級メゾンで働いていた職人を相手にしてさえ、出来が悪いと見れば、一晩掛けて縫い上げた袖付けの糸を目の前で引き千切る女だ』
とても厳しいですね……一晩掛けた成果を目の前で引き千切られるのは、今はともかく、前の僕だったら心が折れそうなぐらい辛いなあ……でも、お父様。僕はそれをやられた事がありますよ、お兄様に。
『話は此処までだ。失礼するぞ』
電話が切れた。
「あああ、何でこう厄介ごとがまた来るんですか!?」
「でも、別にセシルさんていう人は邪魔しに来る訳じゃなくて、ラフォーレさんに頼まれて来るんでしょう?」
「それがちょっと意外なんですよね。あの大家が幾ら頼まれたからとは言え、日本に来るなんて。実際、私はパリ校の在学中頃には、総学院長の話を大家から聞いた事はありません」
「そうなの?」
「ええ……まあ、来た時に聞けば良いでしょう」
ちょっと僕も気になるけど、流石にそろそろ家を出ないと不味い時間帯だ。
だけど、ジャンを支えた『伝説の7人』の一人、セシルさんかあ。カトリーヌさんに縫製を教えた人だとしたら、会ってみたい。
基礎だけでも教えて欲しいなと思いながら、僕はりそなに挨拶をしてカリンさんと一緒に学院に向かった。
と言う訳で、朝日と才華達の実力底上げの為に2でも少しだけ出た衣遠でさえ縫製の化け物と評するセシルが日本に来ます。後、ネタバレですがもう一人来ます。
この作品ではエストルートでも才華も朝日も修学旅行でパリには行きませんので。
りそなにとっては悪夢ですが。因みに衣遠と桜小路遊星、メリルは入れ違いで日本から去るのでセーフです。