月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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またもや遅れて申し訳ありません。
予定通り、次回からは中旬になります。

秋ウサギ様、烏瑠様、どうぞう様、えりのる様、誤字報告ありがとうございました!


十月上旬(才華side)11

side才華

 

「そう。山県先輩が音楽部門でのピアノの演奏者の1人に……じゃあ総合部門に誘うのは……」

 

「諦めるしかなさそうです、お嬢様」

 

 エストの部屋にやって来た僕は、先ほどあった顛末を説明し終えていた。

 ルミねえが参加してくれる事を了承した時には一緒に喜んでくれたけど、元々望み薄だったとはいえ、やっぱり提案してくれた山県先輩の参加が実質不可能になったことは残念そうに溜め息を吐いている。

 直接彼のリサイタルに行った訳じゃないけど、小倉さんから貰った彼のリサイタルの様子が映っているDVDを観賞している時のエストは楽しそうにしていたからね。気持ちは僕も分かるよ。

 まだ、彼を誘ってくれるように頼んだジュニア氏から直接連絡は来てないが、ルミねえの話で望みはもう無いに等しくなっている。

 

「でも、ルミネさんが参加してくれるのは本当に良かった……引っ越ししたら会える機会が少なくなると思ってたから」

 

「そうですね。以前ほど頻繁に会える訳ではありませんが、やはり会える機会があると分かっているだけでも嬉しく思います」

 

 尤も、僕の場合は今年の終わりまでだ。

 アメリカに帰国したら、ルミねえが来てくれない限り直接会える機会は以前のようになくなると思う。一応、卒業するまでは何とか通うつもりのようだけど……あの様子だと途中でリタイアして退学する可能性もあると思う。

 ルミねえが中退とか、個人的に凄いショックだ。

 

「それじゃあ朝陽。こうして最後のモデルの人も決まったんだし、そろそろ一度全員で集まれないかな?」

 

「集まると言うのは、モデルになってくれる方々も含めてですか?」

 

「そっ。ほら、朝陽は私にモデルになる人を話してくれたし、他の皆は大体班員の人達だけど、まだいせたんさんとカトリーヌさん以外の、ジャス子さんのモデルの人達の事は皆知らないしさ」

 

 そう言えば、僕もジャスティーヌ嬢に与えられている残りの二枠のモデルになる2人を知らなかった。

 いけない、いけない。自分の事ばかりでうっかりしていた。ただ、前にジャスティーヌ嬢から聞いた話では、参加自体の了承は既に貰っているそうだ。

 それなら名前ぐらい教えてくれても良いと思うけど、ジャスティーヌ嬢には何か彼女なりの考えがあるのだろう。一見すれば暴君に見えるが、ちゃんと筋は通す相手だという事はもう良く分かってるからね。

 おっと、何時までも考え事ばかりはしていられない。

 

「分かりました。先ずは皆様にお話ししてみましょう。ですが、お嬢様。そろそろ学院に向かいませんと」

 

「うん。行こうか」

 

 僕らは揃って部屋から出て学院に向かった。

 もう半年以上通う道のりなのに……少し寂しさのようなものを感じる。これはアレだ……昨夜のお父様の話で、明確に僕に残された時間が分かってしまったからだ。

 エストと一緒にこの通路を歩くのも、残り二ヶ月と少し。何だか胸に小さな穴が空いたような感じがする。

 

「どうかしたの、朝陽? 何だか少し元気がなさそうだけど」

 

「あっ、いえ……やはり、少々私達のショーで流れる音楽が録音になってしまう事を残念に思ってしまっているみたいです」

 

 本当の事は言えないで、取り敢えず誤魔化す事にした。

 

「………」

 

 何故か誤魔化したら不機嫌そうな顔をされた。

 やっぱり誤魔化しは不味かったか。だけど、流石にエストにはまだ……。

 

『僕らの主従関係は今年のフィリア・クリスマス・コレクションが終わるまでです』

 

 何て言える訳が無い。

 此処最近と言うか、文化祭が終わってからのエストは妙に押しが強くなった。原因は間違いなくアレだ。

 双子の姉であるエステル・グリアン・アーノッツとの関係の変化だ。文化祭の一件で、エストの中にあった姉に対する遠慮がなくなった。その影響もあって積極性が増したに違いない。

 個人的に嬉しいけど、その積極性のせいで誤魔化しが通じなくなるのは困る。最悪……増した積極性のせいで僕の正体に気がつく恐れもあるから。

 何を口にするのかと内心で戦々恐々としていると……。

 

「……朝陽は、山県先輩の事をどう思っているの?」

 

 そっちか!? 何を言われるのかと思っていたら、恋愛方面の話。

 エスト。君も音楽部門の女生徒達と同じように勘違いしているのか。何だか大変気分が悪い。

 

「お嬢様。確かに彼に対して好ましいという気持ちはありますが、それはあくまで彼個人に対する印象の事であって、恋愛感情は一切ありません」

 

「でもね。山県先輩は朝陽の事を気になっているみたいだし。もし彼が一緒に総合部門に参加してくれたりしたら、朝陽も彼に惹かれたりするかも」

 

 いや、無いからね。あくまで僕が彼に抱けるのは親愛の情だ。

 男女関係の気持ちを、僕が彼に抱く事はない。彼が女生徒達から人気があるのは知ってる。そのせいで音楽部門の女生徒達から警戒されて、総合部門への勧誘に失敗してるんだから。

 彼に直接会ったのはほんの2回ぐらいだけど、紳士的な男性だと言う事は分かった。だからと言って、恋愛方面に発展する可能性は本当に皆無だよ。

 

「何度も言いますが、彼と恋愛するつもりはありません」

 

「……そう。良かった」

 

 いや、何故安堵する?

 君が好きなのは、桜小路才華であって、小倉朝陽じゃないよね。まさか、僕の正体に気づいていないよね?

 深く追求したいところだが、これ以上話を進めたら不味い気がするので此処で話を一先ず終わらせよう。

 学院でジュニア氏も待っているだろうから。彼には無駄足を踏ませてしまい、悪い事をした。この件に関しては謝罪しなければいけない。

 そう思いながら、僕とエストはホールに続く階段を上がって行く。

 

「ヘイハニー!」

 

「おはようございます、ジュニアさん」

 

「おはようございます」

 

 彼は既にホールの入口付近で待機してくれていた。

 何時もなら丁度僕らがホールを通っている時間帯に来るのに。きっと山県先輩の件を報告しに来てくれたに違いない。彼に出来るお詫びは何が良いかなと考えていると……。

 

「大瑛君の件だけど、今日の放課後に直接会って話したいそうだぜ」

 

 ……ん?

 

「結果はハニーの交渉次第になると思うが、結構本人も乗り気だったから大丈夫だと思う」

 

 ……あれ?

 

「しかし、1年目から大瑛君とも組んで総合部門に参加か。最初は驚かされたが、ハニーの提案に乗ったのは正解だった。魅力的な女性達にも知り合えるし。おっと、俺は勿論ハニーの髪一筋だぜ」

 

「い、いえ、あの……」

 

「ん? どうしたんだい、ハニーにそのご主人。まるで鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔になってるぜ」

 

「……本当に山県先輩が勧誘に応じてくれたんですか?」

 

「勿論だぜ、ハニーの御主人。俺も聞いた時は驚いたが、まだ大瑛君は何処の総合部門の参加者の勧誘に応じてなかったんだ。去年総合部門で1位を獲得したメンバーの1人だったから、俺も勧誘されていると思ってたけど、大瑛君は判断を保留にしていたんだ」

 

「その理由はもしかして……音楽部門でピアノの演奏者に選ばれるかも知れないからでしょうか?」

 

「多分そうだと思うぜ、ハニー。詳しい話は流石に聞いてないがな」

 

 親しき仲にも礼儀は必要なので当たり前だ。

 しかし、今のジュニア氏の話からすると、もしかして山県先輩はまだ音楽部門棟にある掲示板を見ていないのだろうか? とすると、ジュニア氏が山県先輩に話を持ち掛けたのは、話をする前?

 ……此処で考えても分からない。とにかく、ジュニア氏のおかげで完全に目が消えてしまったと思っていた山県先輩参加の可能性が出たことを喜ぶべきだ。詳しい話は山県先輩本人から話を聞けば良い。

 取り敢えずは、話をしてくれたジュニア氏にお礼を言わないとね。

 

「ありがとうございます、ジュニアさん。おかげで悩んでいた音楽関係に日が差したような気分です」

 

「良いって事さ、ハニー。寧ろ俺も1年目からこんな大仕事に関われる事が嬉しいんだ。俺達のカッティングと素晴らしい衣装を着て舞台上で輝くハニー達。そしてその舞台を奏でる音楽を弾くのが大瑛君。想像するだけで最高の舞台だ。そんな企画に誘ってくれたハニーには心から感謝してる」

 

「ジュニアさん……」

 

 とても紳士だ。あのアンソニーさんの息子とは思えないよ。

 

「………」

 

 ……そしてエスト。君は何故男性と僕が仲良くしようとすると不機嫌になるんだ?

 ジュニア氏に別れを告げ、不機嫌そうなエストを宥めながら教室に向かう。もしかして今日の山県先輩の話の時に付いて来ないよね?

 

 

 

 

「それじゃあ、朝陽。行こうか!」

 

 付いて来た。しかも班員の皆を説得して。

 いや、本当に何で付いて来るんだろうか? 散々山県先輩との恋愛はないって言ったのに。

 

「お嬢様。出来る事なら作業に集中して欲しいのですが?」

 

「今回は男性相手への交渉だって皆に説明したら、いせたんさんもマルキューさんも一人じゃ心配だからって言ってくれたよ」

 

 山県先輩がどんな人なのか意図的に説明しなかったよね、エスト。

 確かに僕が会いに行く相手がどんな男性なのか知らなければ、心配されるのは当然だけど。

 ……パル子さん達のアルバイトの皆が『イケメン?』って、質問して来た事は一先ず忘れよう、うん。

 

「……分かりました。ですが、説明や交渉は私がしますので、お嬢様は静かにしていて下さい」

 

 どうにも男性が僕に関わると、何故かエストが過剰に反応するようになってしまった。

 エスト。君はノーマルだろう? 桜小路才華の事が気になって……止めようこの件に関して考えるのは。

 今はそれよりも山県先輩との交渉に集中しないと。彼が僕らの音楽部門での最後の砦なんだから。

 会う場所はホールにした。

 音楽部門棟で会ったりしたら、隣で疑っているエスト以上に危険な音楽部門棟の女生徒達を本気で敵に回しかねない。いや、もう僕は彼女達にとって敵みたいなものなんだけどね。

 弾薬庫に火種を持ち込む行為はとにかくできない。幸いにも、山県先輩の迎えにはジュニア氏が行ってくれている。彼が山県先輩とは友人だと言う事は、音楽部門の生徒達も知っているそうだから誘う事に問題は無い。本当に頼もしくて頼りになる。

 

「ヘイハニーとそのご主人。大瑛君を連れて来たぜ」

 

「こんにちは朝陽さん。5月のリサイタル以来だね」

 

「朝陽さん?」

 

 だが、何故君はそんなに反応するんだ。

 

「お嬢様。小倉お嬢様の事があるので、私から頼んだ事です。失礼しました、山県先輩。此方私の主人のエスト・ギャラッハ・アーノッツお嬢様です」

 

「主人? ああ、そう言えば朝陽さんは特別編成クラスの生徒なんだっけ。じゃあ彼女の付き人さんをやってるんだ?」

 

「はい、此方のお嬢様にお仕えしています」

 

 エストが少し嬉しそうに微笑んだ。機嫌が少しよくなったみたいで良かった。

 

「それでジュニアから僕に朝陽さんが相談があるって聞いたんだけど、どんな内容かな?」

 

「はい……率直にお話します。山県先輩に、私が考えている総合部門に参加して頂けないでしょうか?」

 

「えっ? ……総合部門? もしかして朝陽さん。何処かに参加メンバーに誘われたの?」

 

「いえ、誘われた訳ではありません。私が考えて企画した内容に山県先輩をお誘いしたいのです」

 

 驚かれた。

 

「大瑛君。ハニーの話は本当だぜ。俺もハニーに誘われて、美容科の仲間達と一緒にメイク担当で参加する予定なんだ」

 

「そうなんだ。いや、驚いたよ。まさか、1年目で企画を考えて総合部門に参加しようとしているなんて」

 

 山県先輩が驚くのは無理もない。

 と言うよりも、入学した頃の僕だって総合部門に自分で企画して挑む事になるなんて想像もしていなかったよ。しかも、一緒に参加は無理だと考えて諦めていたエスト、八日堂朔莉、ルミねえも加えての企画だ。

 人生何が起こるか本当に分からないと、この1年で嫌と言う程に自覚させられた……失敗してたら終わってたもん、僕の人生。

 

「それで僕に参加して欲しいって話だけど、どんな風に参加させるつもりなのかな?」

 

 どうやら少し興味を持って貰えたようだ。

 

「では、私が考えた企画をご説明します」

 

 僕は山県先輩に総合部門でファッションショーをやろうとしている事を説明した。

 

「面白い企画だね。確かに僕も総合部門でファッションショーをしたって話は聞いた事が無いな。ジュニアが参加しようと思ったのも納得だね」

 

「だろ。俺も最初にハニーの企画を聞いた時は驚いたが、充分に一次審査を突破出来る内容の企画だと思ったし、何よりもハニー達のような綺麗どころをメイクアップする事が出来るんだ。美容師を目指している者として、こんなにやりがいのある企画はないぜ。まあ、俺はハニーの専門担当だから、ご主人様達の方は他の仲間達がやる予定だ」

 

「そう言えば、僕も文化祭で行なわれた服飾部門のコンペは大いに盛り上がった、って話をクラスメイトから聞いたよ。もしかしてその時に最優秀賞を獲得したのって……」

 

「はい、私達のグループでモデルはお嬢様に務めて貰いました」

 

「うん。朝陽さんのご主人様がモデルを務めたら、それは確かに凄そうだね」

 

「そんな……事はありますけど」

 

 褒められて顔がにやけているよ、エスト。だけど、その陰でこっちが苦労した事は忘れないでね。

 

「それで朝陽さんは僕を音楽担当で誘いたいのかな?」

 

「はい、その通りです。山県先輩のリサイタルに行ったのは一度きりですが、その時の興奮は今も忘れていません。今も時々ですが、お嬢様と一緒に録画した映像で楽しむ時もあります」

 

「嬉しいなあ。その話を聞いたら、僕だけじゃなくて他の皆も大喜びしそうだ……それで誘いに関してなんだけど……」

 

 何処か悩むような顔をする彼を見て、やっぱり駄目かと思った。

 仕方がない。だって、彼は音楽部門でピアノの演奏者に選ばれて……。

 

「条件付きで良いなら参加して良いかな」

 

 ……あれ? 今、彼はなんて言ってくれただろうか?

 

「えっ? あ、あの参加して貰えるんですか?」

 

「ん? いや、寧ろ朝陽さんの方が僕を誘いに来たんだよね? それなのに何で戸惑うのかな?」

 

「いえ、あの……今日の朝に友人から山県先輩は音楽部門でピアノの演奏者に選ばれたとお聞きしまして。話しても断られるのを覚悟していたのですが」

 

「情報が早いね。うん。確かに選ばれて、もう書類に同意のサインをしてあるよ」

 

「でしたら、何故私の企画に? 言ってはなんですが、私の企画は他の総合部門の参加を目指している方々と違って見切り発車です。それを何とか形に出来ているのは、協力してくれている皆様のお力があってのことです」

 

 小倉さんに相談し、次にエスト、その次にパル子さん達と。

 僕だけの力じゃなくて、皆が参加しても良いと思ってくれて漸く此処まで形になってくれた。もうこの企画は皆の企画なんだ。

 

「山県先輩が参加してくれるのはとても嬉しく思います。ですが、ご迷惑にならないでしょうか?」

 

「迷惑だなんて。寧ろこんな楽しそうな企画があったなんて驚いてるよ。朝陽さんも気がついていると思うけど、僕は他の総合部門の参加者達に誘われている」

 

 やっぱり。

 

「だけど、大体が動画やアニメの効果音とか曲の演奏者役ばかりなんだ。勿論、僕の音を気に入って貰えるのは嬉しいけど、演奏者を目指している者としてはやっぱり舞台上で弾きたいって気持ちもあってね」

 

 なるほど。確かに僕らのショーでは演奏者が直接音楽を弾ける。メインが僕らである以上、場所は端の方になるが、動画やアニメで流す音楽を弾くよりは演奏者としては魅力的に映るかも知れない。

 

「誘ってくれた人たちには悪いから謝らないといけないけどね」

 

「では、まだ他の企画に対する返事は?」

 

「うん。してなかったよ」

 

 よし! まさかの大逆転に小躍りしてしまいそうだ!

 ……いや、まだ聞かないといけない事があるから冷静にならないと。

 

「私の企画を選んで貰えて本当に嬉しく思います。ですが、音楽部門の方は?」

 

「朝陽さんは服飾部門の方も参加するつもりなんだよね?」

 

「はい。其方も頑張って最優秀賞を目指しています」

 

「相乗りするような形になってしまうけど、僕も最優秀賞を2つ目指してみようと思うんだ」

 

 なるほど。確かに僕だけが目指せるものじゃないからね、最優秀賞を2つ取る事を目指すのは。

 後聞かないといけない事は……。

 

「先ほど条件付きでと仰いましたが、それはどのような条件でしょうか?」

 

 出来れば衣装を製作して欲しいは止めて欲しい。

 今の段階で本当にギリギリだから。簡単な服だって製作している余裕はないよ。

 

「条件と言うのは、朝陽さんも知っているだろうけど、僕が個人的にリサイタルを開く時に、一緒に弾くバンドのメンバーがいるんだけど、彼らも参加させて欲しい。実は音楽部門の演奏者に選ばれなかったら、彼らと冬にまたリサイタルを開こうって話になっていたんだ」

 

「寧ろ此方からお願いいたします」

 

 ピアノだけじゃなくて、他の楽器の演奏者も参加してくれるようになるなんて嬉しい誤算だ! これならいけ……。

 

「朝陽。朝陽」

 

 何故かエストに裾を引かれた。一体なんだ?

 少し待って貰うように言って、山県先輩とジュニア氏から距離を取る。

 

「何でしょうか、お嬢様?」

 

「ルミネさんが参加する事をちゃんと話しておいたら?……ほら、彼って音楽部門の生徒だし」

 

 …………しまった。

 その問題が残ってた。うわー、せっかくここまで来たのに。

 いや、でも確かにエストの言う通り説明しておかないといけない事だ。内緒にしておいて後で問題が起きるよりも、きちんと彼に話して置こう。

 覚悟を決めた僕は、山県先輩とジュニア氏の元へ戻った。

 

「実は言い忘れましたが、モデルを務める女性の中に大蔵ルミネお嬢様がいます」

 

 山県先輩とジュニア氏は驚いた。うぅ、これは不味いかも知れない。

 もしこれでせっかく参加してくれる気になった山県先輩が参加を止めてしまうかもしれない。その事をルミねえが知ったらまた落ち込んで……。

 

「いや、驚いた。まさか、彼女まで参加するなんて。でも、彼女は綺麗だから選ばれてもおかしくないね」

 

「ハニー。君は本当に悩ませてくれるぜ。あの人も姉御に負けないぐらい綺麗な黒髪だからな。メイクに選ばれた奴に嫉妬を覚えそうだ」

 

 あれ? 2人とも……別に不愉快に思っていない?

 

「あ、あの……つかぬ事をお聞きしますが、お2人はルミネお嬢様をどう思っているのでしょうか?」

 

「どう思っているって……普通に1年下の後輩だよ。特別に仲が良い訳じゃないし、接点は殆どないね」

 

「俺も同じだぜ、ハニー。別に彼女に関して思うところは何もないさ。まあ、近づき難いってのあるかな。前に姉御と彼女が一緒に相席しているところにお邪魔させて貰ったんだが、彼女はすぐに去った事があって」

 

「ああ、アレは一緒に食事していた小倉さんに悪い事をしたよ」

 

 ルミねえぇぇぇぇぇぇ!?

 えっ? つまり、これってもしかして……山県先輩もジュニア氏も、別にルミねえに対して悪感情を持っていないの? 特に山県先輩が持っていない事に驚きなんだけど。

 

「えーと……お2人はルミネお嬢様に挨拶された事はありますか?」

 

「入学式が終わった頃とリサイタルの時にね。ただ余り関わらないで欲しいって雰囲気だったから、距離はとってしまってたかもしれない」

 

「俺も同じだぜ、ハニー」

 

 ……つまり、個人的に凄く認めたくないけど……ルミねえの対応がもっと良かったら、音楽部門で一番味方になってくれないと思っていた山県先輩が、実は味方になってくれていたかも知れないって事?

 エストも気がついたのか、隣で冷や汗を流してるよ。

 

「でも、朝陽さん。彼女が参加するなら、僕が参加するのはやっぱり不味いんじゃないかな?」

 

「……いえ、寧ろ良い事だと思います」

 

「えっ? そうかな?」

 

 悩むような顔を山県先輩はしているが、僕は寧ろチャンスだと思う。

 ルミねえはひいお祖父様に総合部門のショーを見せると言っていた。其処で僕らが製作する衣装を着て、輝くルミねえを奏でる音楽を山県先輩が弾いているのを見たら、ひいお祖父様の印象も大きく変わるに違いない。

 そうなれば良いと僕は願う。尤もひいお祖父様がやらかした数々を認めるつもりはないけどね。ちゃんと反省して罪を償って下さい、ひいお祖父様。

 山県先輩はすぐにリサイタルのメンバーに連絡してくれて、彼らも参加してくれることになった。

 書類にも名前を書いて貰い、遂に僕らの総合部門の企画に参加する面々が揃った。

 

「本当に今日はありがとうございました」

 

「ウォーキングの練習をする時は連絡をくれれば、すぐに準備できるようにしておくよ」

 

「分かりました。日程の方は後ほどお伝えします」

 

 山県先輩とジュニア氏に最後に頭を下げて、2人と別れた。

 

「やったね、朝陽!」

 

「はい、お嬢様! 遂に私達の企画のメンバー全員が揃いましたね」

 

 しかも考える限り最高のメンバーじゃないか。書類を見て、改めて参加する人達の名前を確認する。

 この人達が僕の考えた企画に参加してくれる。胸がドキドキして顔が熱くなりそうだ。

 だけど、喜んでばかりはいられない。一次審査を通る自信はあるけど、まだ確定している訳じゃないんだから。

 油断せずに頑張ろうと思いながら、エストと共に僕は皆が待つ教室に向かった。




次回は漸くあの人が先ず出ます。
多分、遊星sideからになる予定です。
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