月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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大変遅れて申し訳ありませんでした。
取り敢えず遊星sideを更新です。

秋ウサギ様、烏瑠様、獅子満月様、どうぞう様、誤字報告ありがとうございました!


十月中旬(遊星side)12

side遊星

 

「初めまして諸君。私はこの度日本校の総学院長から呼ばれたパリ校の教師だ」

 

 朝のホームルームに、樅山さんと一緒に現れた結構年配の強面な顔をしたフランス人の角刈りの男性が通訳されながら自己紹介をした。

 教室内の其処かしこで、残念そうなため息が聞こえて来る。ラフォーレさんのようなかっこいいフランス人の教師が来る事を期待していたクラスメイトは多かった。中には固そうな雰囲気に委縮している人もいる。

 

「諸君らは既に担当の教師から聞いていると思うが、私は2週間日本に滞在し、最初の1週間は日本校がどのような授業をしているのか見学させて貰う。君達の授業の様子も見学に来る予定だ」

 

 更にため息が零れる音が、僕の耳に届いた。

 あんなに固そうな先生に、授業を見られながらするのは嫌だと言う事なのだろう。

 

「それと残りの一週間は私が授業をする事になっている。先に言っておくが、私はこの学院の総学院長からパリ校での授業と同じやり方でやるようにと言われている。その事を肝に銘じておきたまえ」

 

 これはかなり覚悟しておいた方が良いかも知れない。

 パリの教師は職人を育てる為に授業をすると聞いた事がある。そして見た限りこの人はかなり固い性格そうだから、間違いなく授業には遊びが一切無いに違いない。

 ただ個人的にはこの人の授業を受けられる日が来るのを楽しみにしている。

 りそなから教えて貰ったけど、この人は何とあのジャンの創業期を支えた『伝説の七人』の内の1人で、型紙を担当していた人だそうだから。教えて貰った話では一ミリの狂いもない許さない人だったらしく、『型紙大尉』と呼ばれていたらしい。

 そんな人に短い間でも授業を教えて貰えるなんて、パタンナーを目指している今の僕からすれば嬉しくて仕方がない。

 因みに僕の隣に座っているジャスティーヌさんはと言えば……。

 

「クラスの子達って、本当にパリの授業についていけるのかな?」

 

 本場のパリからやって来てその厳しさを知っているだけに、余り気を引き締めていないクラスメイトの皆の様子を見て首を傾げていた。

 自己紹介が終わり、樅山先生とともに彼は教室から出て行く。彼の通訳を学院側から仰せつかっているそうだから、この2週間は樅山先生も忙しい。何か差し入れ出来れば良いんだけど、余りそう言う事を教師と生徒の間でするのも不味いから、八十島さんに渡して貰うように頼んでみよう。

 

「……」

 

 あれ?

 今、一瞬、教室を出る前に僕に視線が向けられたような? 気のせいかな?

 疑問に思ったけど、樅山先生の代わりの先生がやって来て僕らの授業も始まった。

 そして午前中の授業が終わり、昼休みの時間帯になると……。

 

「初めまして、マダム朝日」

 

 どうやら僕に向けられたと思った視線は気のせいじゃなかったようだ。ホームルームで自己紹介された先生がわざわざこうして訪ねに来たんだから。

 えっ? 本当に何で?

 

「驚かせて済まない。だが、どうしても君に尋ねたい事があったのでこうして来てしまった。樅山教諭からは君はフランス語が出来ると聞いたのだが、大丈夫かね?」

 

「は、はい。フランス語は話せますから大丈夫です」

 

 僕はフランス語で彼に返答した。

 顔には変化はなかったけど、何処となく彼は安堵した様子だった。

 

「では、余り君の時間を使わせたくないので率直に聞かせて貰うが、君の母親は息災かね?」

 

「えっ? ……あ、あの母ですか?」

 

 今の僕の母となっている人と言えば、『小倉朝日』。

 脳裏に『小倉朝日』となって桜屋敷で応対してくれた桜小路遊星様の姿が過ぎる。

 ……全力で脳裏から打ち消した。思い出しただけで背中に嫌な汗が流れたよ。

 

「顔色が悪いが大丈夫かね?」

 

「あっ、いえ、何でもありません……それで、どうして母の事を尋ねられたのでしょうか?」

 

 もしかしてこの人って……。

 

「もう十数年以上前になるが、君に良く似た女性が短い期間ではあったがパリ校に通っていた事があった」

 

 や、やっぱりぃぃぃっ!

 この人、パリ校に通っていた頃の『小倉朝日』を知っている人だあぁぁぁ!

 

「今でも思い出すと怒りが湧いて来るが、当時のパリ校の学院長をしていたジャン……君にはジャン・ピエール・スタンレーと言った方が良いか。彼はいきなり私に対して受け持つクラスを半年間変えるように命じて来た」

 

 ジャン! 何やってるの!?

 ……いや、でも、ジャンならやりそうだ。うん。思い出で美化しているけど、ジャンって結構適当で奔放だったし。

 

「だが、受け持ったクラスがデザイナー科でありながらも、型紙の才能に溢れている生徒がいた。彼女は日本校からの短期留学生だったが、その型紙の才能においてはパリでも通じるレベルだった」

 

「……」

 

 それが誰なのかもう聞かなくても分かる。

 ……桜小路遊星様。貴方は『伝説の七人』。しかも、一番評価して貰えると嬉しい型紙担当だったこの先生にも認めて貰えていたんですね。

 

「……どうやら君には悪い質問をしてしまったようだ」

 

 僕が暗くなったのを察したのか、先生は申し訳なさそうに声を出した。……顔は全く変わってないけど。

 

「あっ、いえ……母は私にとって目標であり、超えたいと願っている人なので」

 

「そうか……既に知っていると思うが、私はこの学院の理事長の作品を製作する生徒の審査を受け持っている。君がその製作者に応募している事も、担任の教師から聞かせて貰った。審査には一切私情を挟むつもりはないが、君がどのような型紙を引くのか楽しみにしている。では、呼び止めて済まなかった。失礼する」

 

 先生は去って行った。

 ちょっと……じゃなくて心から安堵した。いやだって、『母親である小倉朝日はどうしているか?』なんて聞かれたら、凄く答え難いよ。以前だったら、嘘をついていることで心に罪悪感を感じるだけで済んだけど、今は……。

 

「…………」

 

 思わず、僕は壁に手を付けて項垂れた。脳裏にどうやっても、桜屋敷で応対に現れた『小倉朝日』が浮かんでしまう。

 

「小倉様。随分とお母上の話になると暗くなるようになられましたね」

 

「……いや、その……どうしても今の……母の姿が浮かんでしまって」

 

「難儀ですね」

 

「はい……もう言葉に出来ないほどに難儀です」

 

 天国に居られるお母様。親不孝としか言えない私をお許しください。

 ……落ち込んでいても仕方がない。僕と桜小路遊星様は、どうやっても女装と言う運命から逃れられないんだから。

 心の中で泣きながら、カリンさんと一緒に昼食を取る為に前を進む。

 

「しかし、彼が理事長のパリでの先生を務めていたという話は初耳でした。小倉様は何か聞いていますか?」

 

「いえ、私もりそなさんから話は聞いていません」

 

 そのりそなと言えば、日にちが過ぎる度にパリからやって来るセシルさんって言う人にどう言い訳をしたものか悩んでいる。

 当てになりそうなお父様、メリルさん、そして桜小路遊星様はそれぞれの外国に戻ってしまっている。

 ……桜小路遊星様がアメリカに帰国してくれたのは、不謹慎だけど嬉しかった。だって、追い込まれたりそなが『いっそアメリカの下の兄に、小倉朝日になって貰って会って貰いましょう』なんて言い出したんだもん。

 僕は全力で反対した。もしそれをされていたら、僕と桜小路遊星様の精神の方が死んでいたと思うから。

 ……これ以上、思い出さないようにしよう。主に僕の精神衛生上の為に。

 それよりも今は、今日の昼食はどちらにするか考えないと。一般食堂にしようかな? 特別編成クラスの食堂には昨日行ったし。一般食堂の方で話を……。

 

「ク、ク、ク」

 

 ……どうやらまだ昼食には行けないようだ。

 いや、失敗するとまた一緒に食事をさせられるかも知れない。

 隣にいるカリンさんも警戒を強めていた。当たり前だ。この声の人は、既に僕達が調査員である事を知っているんだから。

 

「お久しぶりですね、小倉さん。学院へ復帰してくれたことを心から喜ばしく思います」

 

「……ラフォーレさんもお元気そうで、私も嬉しく思います」

 

 振り返った先には、この学院の総学院長であるラフォーレさんが嬉しそうに笑いながら立っていた。

 

「先ほどケスと話していたようですが、少々驚きましたよ」

 

 ケスと言うのはパリから来られた先生の愛称だろうか?

 ラフォーレさんが誰かを愛称で呼ぶなんて珍しい。

 ……いや、おかしくはないか。お父様が言うには、ラフォーレさんはジャンを支えた『伝説の七人』の筆頭。

 そしてあの先生も『伝説の七人』の1人なんだから、ラフォーレさんとは苦難の時を乗り越えた仲に違いない。

 

「何故私とあの先生が話しているのに驚かれたのでしょうか?」

 

「彼が初日から、しかも私も目を掛けている君に話しかけた事がです。彼は生粋のパリの職人でしてね。自分の授業についていけない生徒は置いて行ってしまうのです」

 

 予想はしてたけど、やっぱりあの先生はそういう人か。

 これはあの先生の授業が始まった時に、真剣にやらないといけない。

 

「勿論、彼の教師としての能力が低い訳ではありません。彼の授業を乗り越えた生徒達は、パリでも活躍できるレベルの職人になっていますよ。現に今のジャンのパタンナーは、彼の教え子達ですからね」

 

 凄い! そんな人の授業を僅か一週間でも受けられるなんて光栄だ。

 

「嬉しそうな顔をしてくれて良かった。わざわざ渋っていた彼を呼んだ甲斐があると言うものですよ……さて、こうして廊下で話すのも悪いのですが、少々お時間を頂いても宜しいでしょうか? 個人としてではなく、この学院の総学院長として君と少しばかり話しておきたい事がありましてね。勿論、其方の付き人も一緒で構いませんよ?」

 

 これは……行かないと不味いよね。

 横目でカリンさんに視線を向けると、無言で頷いてくれた。

 どうやら僕と同じ事を考えていたようだ。

 

「分かりました。ご同行させて頂きます」

 

「では、此方に」

 

 歩くラフォーレさんの背を追って、僕とカリンさんも歩き出した。

 案内された場所は彼の学院での執務室である総学院長室。

 りそなの理事長室には行った事があるけど、総学院長室に入るのは初めてだ。促されて部屋の中にあった応接用のソファーにカリンさんと一緒に座り、対面するようにラフォーレさんも席に着いた。

 

「では、先ず最初にすることは……やはり謝罪でしょうね」

 

「えっ……?」

 

 いきなりの発言に僕が面を食らっている間に、ラフォーレさんは僕に向かって頭を下げた。

 

「この度は我が校の教師が規則を破り、君の情報を外部に漏らした。総学院長と言う統括する立場にいる者として謝罪したい」

 

「ラ、ラフォーレさん! 顔を上げて下さい!」

 

 てっきり調査員に関する件での話が来ると思っていたのに、いきなり謝罪されて僕とカリンさんは面を食らってしまった。

 とにかく頭を上げて貰わないと話が進められないので、お願いして頭を上げて貰い、改めて向き合う。

 

「今の謝罪に関しては偽りのない私の本心です。君はちゃんと学院の規則に則り行動したのに、直轄で無いにしてもこの学院の教師が率先して規則を破り、賄賂を受け取っていた。理事長が率先して動いてなければ、私自ら彼には引導を渡していました」

 

「そ、そうですか」

 

 ちょっと怖い。ラフォーレさんが本気で言ってるのが目を見れば分かるから。

 

「さて……謝罪に関しては此処までとして、次は君達の本当の立場についてです」

 

 きた! 

 どんな事を言われるんだろうか? 才華さんに自分が関わる事に手を出すな?

 それともりそなよりも先に情報を伝えるようにしろ? どちらにしてもラフォーレさんの意見を聞く事は、僕とカリンさんの立場では出来ない。

 既に学院に影響力が殆どないりそなだけど、僕とカリンさんの立場はあくまで理事長直轄の調査員。その立場をなくしたらいけない。

 

「今後も今まで通り、理事長の直轄の調査員として動いて貰って構いません。いえ、寧ろ私としてはそうして貰った方が助かりますからね」

 

「えっ? ……あの……良いんですか?」

 

 てっきり何か要求される事を覚悟していたのに。カリンさんも驚いて目を見開いている。

 何時も無表情で過ごしている彼女も驚くぐらいに、ラフォーレさんの言葉には驚くしかなかった。

 

「疑われるのは仕方ありませんね。私と理事長である大蔵りそなさんとは学院の方針で対立していました。ですが、私の方針が行き過ぎた方向に進み始めていたのに気づき、才在る生徒の未来を守ったのは理事長と君達2人、そして大蔵君です。この事実は悔しいですが、受け入れるしかありません」

 

「……」

 

「それに彼女のおかげで、この学院にジャンが来る機会がやって来るのです……今回の件に彼女の身内が絡んでいるのは知っていますが、それが彼女の意思に反するものだということは分かっています。出来る事ならば、今後は彼女とよりよい関係を築ければと思っていましたよ」

 

 ……どこまで本気なのかは分からないけど……ラフォーレさんの言葉に偽りはないと思う。

 だって、彼はパル子さん達に起きかけた事を知った時、深く後悔して悩んでいたから。でも、同時に油断もしちゃいけない人だと言う事も分かってる。

 

「そして君が私に掛けてくれた言葉の数々にも、打算はなかったと心から思っています。君達の立場上調査員としての立場を明るみに出来なかった事も理解していますから安心して下さい」

 

「ご理解して頂きありがとうございます」

 

 僕とカリンさんは揃ってラフォーレさんに向かって頭を下げた。

 顔を上げてみると満足そうに彼は笑みを浮かべていた。今のところ、彼の本当の本心は分からないけど、僕達の調査員としての仕事の邪魔をするつもりはないようだ。

 でも、やっぱり油断だけはしてはいけないと思う。何せ彼はまだ僕と才華さんが男性であることを知らない。

 僕の場合は言い訳出来ない訳じゃないけど……才華さんはアウトだ。性別がバレたら、『自分のところで作品を製作しなさい』なんてラフォーレさんなら言いかねない。

 

「そうそう言い忘れていました。遅ればせながら、文化祭で行なった衣装コンペティションでの最優秀受賞をおめでとうございます。あの衣装のデザインをした彼女にも言いましたが、実に期待通りの作品でした」

 

 ……才華さん。衣装コンペが終わった後にラフォーレさんに会っていたんですね。

 横に座っているカリンさんも動揺したのか、僅かに肩が震えてる。多分、僕がお父様とりそなに運ばれて病院に向かっていた頃だと思う。

 偶然なのか、或いは自分から会いに行ったのか分からないけど、前者だった場合はラフォーレさんの才華さんに対する関心が更に高まってしまったという事だ。

 ……やっぱり、この人を相手に油断は出来ない。

 

「ありがとうございます。ですが、あの衣装は私だけではなく班の皆が一丸となった事で製作出来た衣装です」

 

「ク、ク、ク。では君の個人での衣装製作を楽しみにさせて貰います。その為に今月は早めに学院に戻って来たのですから」

 

 つまり、りそなの衣装製作者の審査員の1人にはやっぱりラフォーレさんがいると言う事ですね。

 

「一つ確認しますが、理事長の衣装の製作を選ぶ審査員は、総学院長である貴方とパリから来られた先生のお二方なのでしょうか?」

 

 カリンさんが無表情ながらも、少し険しさが混じった声で質問した。

 調査員としてバレたのならば、その立場で意見を聞きたいと言う事なのだろう。セシルさんという方が審査員に選ばれている事を知っているのは、どうやら内緒にするつもりのようだ。

 ……でも、これって? 僕は参加するからこの話を聞いちゃいけないような……席を外した方が良いかな?

 だけど、僕が席を外す前にラフォーレさんがカリンさんの質問に答える。

 

「いいえ、審査員は私とケスだけではありません。大蔵君の身内ならば知っているかも知れませんが、もう1人。審査員として相応しい相手を呼んでいます。他にも学院側から3名の教師を審査員として選ぶつもりでいます。先に言っておきますが、学院側の審査員に選ぶ教師の基準は、応募している生徒が最も少ない。或いはいないクラスの教師ですよ」

 

「……ご質問に答えて下さってありがとうございます」

 

 問題無いと判断したのか、カリンさんはラフォーレさんに向かって頭を下げた。

 ……今の話を聞く限り、僕もラフォーレさんの審査員を選ぶ選考基準に問題はないと思う。やっぱり、直接教えている生徒とそうでない生徒では、見る目が変わってしまうと思うから。

 けど、応募している生徒が最も少ない、或いはいないクラスの教師の人が審査員に選ばれるのか。そうなると、1年生の担当の教師から選ばれるかも知れない。2、3年生は応募している人が多いそうだから。

 

「流石にこれ以上は今は教えられません。君が応募していなければ、学院側の審査員を教えても良かったのですけどね」

 

「ご配慮して貰ってありがとうございます。私も今の総学院長の審査員の判断基準には問題はないと思います」

 

「理解して貰えて此方も嬉しく思います。審査には勿論個人の私情を挟むつもりはないので、安心して下さい……そうそう、文化祭で君の班員だった生徒達が総合部門にエントリーしている話は知っていますか?」

 

 此処で才華さん達の話題が来た!

 どんな話をされるんだろうか? と、とにかく当たり障りのない事を話そう。うん。

 と言うよりも僕も今は才華さん達の考えた総合部門の内容は詳しく知らないんだけどね。

 

「はい。私も誘われましたが、フィリア・クリスマス・コレクションではやりたい事が決まっていましたので辞退しました」

 

「そうでしたか。それは実に惜しい事をしたかも知れませんよ。詳しくは話せませんが、彼女達が考えた内容は十分に最優秀賞を狙えると思えるだけの企画でした。これならば確実にジャンも驚いてくれるだろうと確信させられましたよ」

 

 ラフォーレさんが其処まで言うなんて。

 才華さんは、一体どんなショーを総合部門でやろうとしているんだろうか?

 個人的に、フィリア・クリスマス・コレクションで総合部門を見るのが楽しみになって来た。

 ……その前に僕は審査に合格しないといけない。じゃないとお父様に学院を辞めさせられてしまうし、りそなが悲しむ。絶対に審査に合格しないと!

 

「小倉様。そろそろ昼食を取りに行きませんと、次の授業に間に合わなくなります」

 

 内心で意気込みを強くする僕に、カリンさんが冷静に時間を示唆してくれた。

 あっ、不味い。言われて時計を確認してみると、大分昼休みの時間が過ぎていた。残りの時間だと一般食堂に行って食事を頼める時間はない。

 となると、既に食事が作られているバイキング形式の特別食堂で昼食を今日は取るしかないようだ。

 

「おっと、もうそんな時間でしたか。君と話していると、どうにも時間が過ぎるのが早く感じて仕方ありませんね。私の話は終わりなのです。付き合ってくれてありがとうございました」

 

「此方こそ。では、失礼します」

 

 挨拶をして僕とカリンさんは立ち上がり、総学院長室の扉に手を掛ける。

 

「……ああ、最後に一つだけ。君は以前私に『たとえ自分の完成図があっても、その完成図にはなりません。私は……私に成りたい。誰でもない。私になりたいです』と言っていましたが、今もその考えは変わっていませんか?」

 

 …………。

 

「……変わっていません。でも、完成図を目標にしても、私はその完成図を超えたいと思っています」

 

「……質問に答えてくれてありがとうございます。では、次は試験の時に会いましょう。オ・ルヴォワール」

 

 最後に振り返って頭を下げ、僕とカリンさんは総学院長室を出た。

 

「……少々不気味ですね」

 

 警戒するような声音でカリンさんは呟いた。

 ……同意したくないけど、カリンさんの意見には頷くしかない。今のラフォーレさんが何を考えているのか分からない。

 お父様が言っていた通り、今もジャンを作り上げようとしているのか? それとも何か他に別の狙いがあるのか?

 ラフォーレさんの真意が分からない。少なくともフィリア・クリスマス・コレクションでジャンを驚かせたいと思っているのは間違いないと思う。でも……その後どうするのか分からない。

 出来る事なら彼も純粋にフィリア・クリスマス・コレクションの舞台を期待して欲しいと、僕は願った。




次回は才華sideで、ショーのモデルになるメンバー全員集合します。
つまり、いせたんが遂に彼女達と顔を合わせます。
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