月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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今回で中旬は終わりです。
次からは下旬となります。

秋ウサギ様、獅子満月様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!


十月中旬(遊星side)18

side遊星

 

「では、今を以て君達への私の授業は全て終える」

 

 今日は遂にケス先生が日本校の見学を終え、彼の授業を受けられる最終日。

 クラスメイト達の中には通訳されたケス先生の言葉に、安堵の息を吐いている生徒もいた。服飾の授業をケス先生がしてくれたのは、本当に短い期間だったけど、僕を含めたクラスメイト全員に忘れられない思い出を刻んだ。

 ……本当に今日まで行なわれたケス先生の授業には、一切の無駄がない。事前に覚悟していなかったら、僕も危うくついていけなくなりそうだったから。

 

「私は明日までは学院に来る予定なので、その間に授業に関して何か質問があるのならば聞くつもりだ。では、失礼する」

 

 用件を言い終えると共に樅山先生を伴い、ケス先生が教室から出ていった。

 クラス内が漸く解放されたという空気で溢れるのを感じる。

 

「すこぶる最近の授業は緊張した」

 

「あの先生の授業についていける生徒なんて、おそらく学院でも少ないと思う。私達にはメイドがついているから良いけど、一般クラスの生徒はもっと大変だと思う」

 

「修学旅行の時に確かパリ校の見学もあったよね? あの先生にまた会うのかなあ?」

 

 ……修学旅行か。

 僕は残念だけど、日本に残る事になっているからクラスの皆とはいけない。いや、修学旅行に参加するしない以前に僕にはこのまま学院に残れるかどうかの問題があるんだけどね。

 今日の朝、僕は仮縫いまでだけど、審査の為に製作を終えた衣装を学院に提出した。後は明日の休日に学院で行なわれる審査発表会で僕の製作した衣装が選ばれるかどうかだ。

 自分に今できる全てを込めて衣装を製作したけど、選ばれるかどうかは分からない。

 審査が厳しいのは、一次審査で100名以上いた筈の生徒が、僕を含めた20名ほどしか残らなかった事で分かっている。

 神様は僕を嫌いだから、仏様ルナ様! どうかお力を!?

 何故か脳裏に渋そうな顔をしているルナ様の顔が浮かびながら、僕はカリンさんを伴って教室を出た。

 

「本日はどちらに参りましょうか?」

 

「そうですね……一般食堂の方に行きましょう」

 

 ケス先生の授業を受けているのは、僕らのクラスだけじゃない。

 一般クラスの生徒も受けているから、彼女達がどんな反応をしているのか見に行こう。久しぶりにパル子さんやマルキューさんに会えるかもしれないし。

 そう思って一般食堂に行ってみると。

 

「どうも……お久しぶりです……小倉さん」

 

「ちぃーす。小倉さん。会うの久しぶりですね」

 

 疲れた顔と言うか何処かおどおどしているパル子さんと、何処か心配そうにしているマルキューさんと会えた。

 

「お久しぶりです、お2人とも。相席良いですか?」

 

「ああっ、良いですよ」

 

「どうぞ座って下さい」

 

 許可を貰えたので席に座らせて貰った。

 改めてパル子さんを見てみると、やっぱり何処か不安そうにしている。気になったので声をかけてみよう。

 

「あの、パル子さん。どうかされたんですか? なんだか緊張しているみたいですけど」

 

「いや、そのですね……午後の授業が始まると思うと、どうしても緊張しまして」

 

「かなり厳しい先生ですからね。小倉さんも授業を受けてますよね。ほら、例のパリ校から見学に来てる先生ですよ? 私はアパレル科なんで授業は受けてないんですけど、デザイナー科のパル子は授業を行なわれてまして」

 

「その授業の速さが凄くて、ついていけませんでした」

 

 パル子さんもエストさんと同じでついていくのは無理だったんだ。一般クラスの場合、特別編成クラスの生徒と違って付き人もいないから尚更に大変だ。

 

「いや~、ケメ子先生の授業も厳しいですけど、そっちは何とかなってました、はい」

 

「聞く限りじゃ、本当に厳しい先生としか思えないもんな……まあ、そんな厳しい先生からデザインの評価で『優』を貰えたんだから、凄いと思うよ、私は」

 

 『優』?

 

「パル子さんは、デザインの評価は『優』だったんですか?」

 

「あっ、はい。でも、あの先生からは『優良』に近い『優』だって言われてます」

 

「日本とフランスの価値観の違いが理由とからしくて、パル子のデザインの衣装があっちで評価されるのは時間が必要らしいです。まあっ、フランスにパル子の服が出るなんてないんですけどね」

 

 ……いや、もしかしたらあるかも知れません、マルキューさん。

 確かお父様に定期的にパル子さんの服が渡されていた筈。確証はないから言えないけど、お父様が認めた衣装が何処かの店に並べられるとかは……ありそうだ。

 パリにはりそなのお店の本店もあるし。何時かは銀条さんの服が並ぶかもしれない。

 あくまで僕の考えだから、確証はないけどね。

 でも、パル子さんもケス先生から高評価を貰えていたんだ。うん、評価は間違っていないと思う。

 

「ところで小倉さんの評価はどうだったんですか?」

 

「……『不可』でした」

 

 パル子さんに何度も頭を下げられた。

 マルキューさんも聞いたらいけない事を聞いてしまったという顔をしている。大丈夫です、自分でもその評価を受け入れていますので。

 

「ところでお2人は、朝陽さん達と一緒に総合部門に参加されるんですよね? 製作の方は大丈夫ですか?」

 

 話題を変える意味もあって、総合部門の方を聞いて見た。

 

「そっちの方は順調に進んでます」

 

「この前、カトリーヌさんでしたっけ? その人の先生にあたしも含めて縫製を見て貰えたんですけどね。本当にあの話を受けて良かったと思いました」

 

「だよな、きゅうたろう。皆、あの人に教えて貰ったら縫製上手くなったし」

 

 ケス先生と違い、セシルさんの方は好印象のようだ。

 僕は審査関係があるので、まだ教えて貰えてないけど、縫製を見て貰う時が楽しみだ。

 

「パリに修学旅行に行った時に、経営しているアパートメントにも寄らして貰える予定になってるんですよ。小倉さんも一緒にどうですか?」

 

「お誘いは嬉しいですけど、実は私は修学旅行には参加しないんです」

 

「ええっ!? 小倉さん、パリには行かないんっすか!?」

 

 2人に驚かれた。個人的には修学旅行に参加したいという気持ちはあるけれど……男の僕が参加できる筈がない。

 空港の審査する人から驚かれるのは、本当に嫌だし、性別がバレる危険性を考えたら修学旅行に行けるわけがない。

 

「パリに旅行に行くなんて人生であるかないかなのに」

 

「いえ、パリでしたら今年の1月中はずっと過ごしていました」

 

 説明したら何故かパル子さんとマルキューさんが崩れた。

 

「ああ、こうして普通に話せてるけど」

 

「そう言えば、小倉さんもお嬢様だった」

 

 ……出来ればお嬢様とは言わないで貰いたい。

 もう色々とあって傷だらけだけど、僕の男としての尊厳が更に傷つくので。

 

「パリでお勧めのお店ってありますか? 生地屋とか教えて貰えると助かるんですけど」

 

「お勧めのお店ですか? ジャスティーヌさんとも一緒に行くんでしたら、私よりもジャスティーヌさんに聞いた方が良いと思います」

 

「いや、勿論ジャスティーヌさんにも聞くつもりですけど、やっぱこういうのは他の人の意見も聞いてみたいんで」

 

「だよな。やっぱ旅行とかって事前にリサーチもしておきたいしな」

 

 なるほど。そういう考えなら……。

 

「でしたら、私の親戚がやっている仕立て屋にも寄って見て下さい」

 

「えっ? 親戚のお店って? 小倉さんの親戚の人がパリで仕立て屋なんてやっているんですか?」

 

「はい。もしかしたらジャスティーヌさんか、カトリーヌさんに案内して貰えると思います。私の親戚とカトリーヌさんは親友らしいので」

 

「世間せまっ!?」

 

「マジか……そんな繋がりが偶然あるなんて、何か凄いっすね」

 

 本当にメリルさんとカトリーヌさんの関係を知った時は驚いた。

 カトリーヌさんの近くの席に座る事になったのは、ジャスティーヌさんが理由だったんだけど。

 パル子さんとマルキューさんにメリルさんのお店の名前と住所を教えて、後少々気難しいけど品物が凄く良い生地があるお店の場所も教えておく。

 ……ただあのお店の店主は、本当に気難しい人だからなあ。りそなは思い入れがあるみたいで、パリで一番信用できるお店だって言ってるんだけど。

 一応、パル子さんとマルキューさんにはその辺りを注意しておいた。気難しい店主と説明して、他にも行った事がある生地屋の場所も教えて、僕らは別れた。

 パル子さん達も頑張っている。僕も負けないように頑張らないと。

 

 

 

 

 翌日。僕は1人で学院に訪れて審査結果が発表される会場に向かっていた。

 カリンさんは自分も行こうかと言ってくれたけど、これはあくまで僕個人で参加したものだし、説明会の時にいなかったカリンさんがいるのも変なので、僕1人で良いと思ってやって来た。

 審査結果が発表される会場は、以前とは違い空いている教室。説明会の時には100人以上の生徒が参加するからホールを使われたけど、二次審査を通った生徒は僕を含めて20名。

 教室に入れる人数しか残れなかった。

 今日の審査結果で、僕が学院に残れるかが決まる。緊張と不安で心臓がどきどきと鳴っているのを感じながら、僕は教室に足を踏み入れた。

 時間前に来たつもりだけど、既に何名かの生徒は椅子に座って発表の時を待っていた。

 ただ、僕が入ると……。

 

「あの子って確か?」

 

「理事長の身内の子よね? えっ!? もしかしてあの子も受かってたの!?」

 

「み、身内の依怙贔屓とかじゃ?」

 

「でも、そんな事今回の審査で出来るの? だって、学院側は凄い手間をかけてるよ。それに一年の子に聞いた話だけど、あの子。クワルツ賞で最優秀賞を受賞した作品を、殆ど1人で製作したそうだし?」

 

「純粋な実力って事? う~ん、どっちなのかしらね?」

 

 やっぱり前の時と同じで疑われてしまっている。

 こればかりはどうしても起きてしまう事なので、諦めるしかない。疑われてしまうことは覚悟していたし、受け入れよう。

 僕の後に続いて他の女子生徒も入って来るけど……大半が3年生。2年生は3名ぐらいで、1年では僕だけだ。

 元々1年生での参加者は少なかったのでおかしくはない。

 緊張しながら待っていると、教室の前で待機していた先生が声をかけて来た。

 

「そろそろ審査員の方々が来ますので、皆さん、席に着いて待っていて下さい」

 

 雑談をしていた先輩達も席に座って待っている。

 祈るような気持ちで待っていると、扉が開き、ラフォーレさんを先頭にケス先生、セシルさん、樅山さん、ケメ子先生、そして1年での型紙科の先生が入って来た。

 

「こんにちは諸君。本日は休日だというのに学院に来て貰って申し訳ない。ですが、私は今嬉しい気持ちで一杯で仕方がない。その理由は君たちが提出してくれた作品の数々が素晴らしかったからに他ならない。時間がなくて仮縫いまでが審査範囲にしかならなかった事が悔やまれる。出来る事ならば、衣装として完成した作品を見たかったと心から思っています」

 

 本当に惜しそうにラフォーレさんは口にした。

 僕も出来ることなら最後まで製作したかった。

 

「しかし、選ばれるのは1人だけ。厳正な審査の結果、選ばれた受験者の番号を発表する前に、直に君達には私達が選んだ作品を見て貰う。その作品を見れば、君達も納得してくれると思います」

 

 ラフォーレさんが手で合図を送ると共に、仮縫いで製作した衣装を着せられたボディが運ばれて来た。

 あ、あの衣装は!? 驚きで僕は固まり、自分が製作した衣装でなかった事に気が付いた先輩達は口元を押さえるか、感嘆の吐息を洩らしていた。

 参加者全員が衣装を見た事を確認したラフォーレさんが、宣言するように口を開く。

 

「合格者の番号は、『327』番の生徒だ! この生徒には後日、私の執務室に来て貰い理事長が描いたデザインを渡す事にします」

 

 や、やったあああああ!

 ご、合格できた! 思わず飛び上がってしまいそうなぐらい嬉しいけど、本当に飛び上がる訳にはいかないので我慢する。

 

「落ちた生徒は残念ですが、君達が提出した作品は後で理事長本人も確認する事になっています」

 

 落ち込んでいた何人かの生徒の目に光が戻った。

 直前にラフォーレさんは悩んだという様子を見せていたので、まだこの審査に隠されていたプロへの近道が消えていない事に気が付いたようだ。

 

「では、審査結果を発表し終えたので本日は終わりです。君達のフィリア・クリスマス・コレクションでの作品も、楽しみにしていますよ。では、失礼」

 

 ラフォーレさんは言い終えると共に、他の審査員の人達と共に教室を出て行った。

 落ち込んだり、慰めたりしながら先輩達も教室を出ていく。僕は彼女達とは余り交流をした事がないので、声を掛けない方が良い。

 ……でも、本当に良かった! 合格できたよ! ありがとうございます、仏様ルナ様! 後今回は助けてくれてありがとうございました、神様!

 内心で喜びの涙を流しながら、もうそろそろ良いかなと思って教室の外を出てみると……。

 

「おめでとうございます! 小倉さん!」

 

「おめでとう」

 

「おめでとうさん。アンタ本当に良い作品を製作したね」

 

 樅山さん、ケス先生、そしてセシルさんがお祝いの言葉を言いに来てくれた。思わず嬉しくて涙が出てしまう。

 

「ありがとうございます。ありがとうございます!」

 

「アンタも嬉しいと母親みたいに良く泣くね」

 

「ハハハッ」

 

 セシルさんの言葉に、樅山さんは乾いた笑い声をあげた。

 そうなりますよね。涙を拭って改めて3人に顔を見る。

 

「あの……皆さんは私の作品だと分かって投票されたんでしょうか?」

 

「このタイミングでは誤解されるのは仕方がないが、君の作品だと知ったのは審査を全て終えた後だ。型紙の審査の時から、提出された型紙の中で、一際君の作品には注目していた。型紙において『優良』の評価を君に送ろう」

 

 とても嬉しくて涙がまた出てしまいそうです、ケス先生。

 

「あたしもケスと同じだよ。仮縫いだからって、手を抜くようじゃ良い衣装なんて出来ないってのに、ちょっと注意が疎かになってる作品があってね。勿論、そう言う心構えの作品ばかりじゃなかったけど、アンタの作品が一番想いが篭っているように思ったから選んだのさ」

 

 ありがとうございます、セシルさん。

 

「私は担任なので、小倉さんの作品じゃないかなって思っていたんですけど、私情を挟まずに選びました。だから、安心して下さい」

 

 樅山先生の言葉に不安が消えた。うん、胸を張ってこの審査結果をりそなとお父様に伝えよう。

 

「お言葉を頂き、本当に嬉しく思います。ありがとうございました」

 

 改めて僕は3人にお礼の言葉を述べた。

 こうして直接、言いに来てくれただけで胸一杯の嬉しさが溢れそうだ。

 

「しかし、これで油断してはいけない。あくまで本番は年末のショーなのだから。其処で君の作品が本当に評価される」

 

「油断したら駄目だからね。アンタはまだスタート地点に立ったに過ぎないんだから。恥をかかないように頑張りな」

 

「はい!」

 

 厳しいケス先生とセシルさんの言葉を胸に刻む。

 そうだ。僕は漸くスタート地点に立っただけ。本番はこれからなんだ。その事を忘れないようにしながら、3人に頭を下げて歩き出す。

 先ずはお父様に連絡して、それから……りそなに言わないと。名前で呼んでくれるよね?

 『遊星』って、りそなには呼んで貰いたいと願いながら、僕は学院を出た。




審査関係は今回で終わりです。
漸く朝日はスタート地点に立ちました。次回は才華sideとなります。
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