月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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お待たせしました。
今回より十一月編に突入します。
予定では、そんなに長くはならない予定ですが、どうなるかは少し未定です。

獅子満月様、秋ウサギ様、百面相様、烏瑠様、ライム酒様、誤字報告ありがとうございました!


十一月編『りそな&エストルート』
十一月上旬(才華side)1


side才華

 

 本日からフィリア学院は三泊四日の修学旅行。学生達の皆は海外に行くことを喜び、級友の皆と一緒に楽しく過ごしてくるに違いない。

 ………その筈なのに………。

 

「滅法残念」

 

 僕の妹は、『桜の園』に住んでいて楽しそうにしながら学院に向かっている生徒達と違い、朝から暗かった。

 その原因は言うまでもなく……。

 

「お姉様は仕方がありませんが、まさか、小倉お姉様も修学旅行に参加しないだなんて……パリで小倉お姉様と一緒に観光するのを楽しみにしていましたのに」

 

 小倉さんが修学旅行に参加しないからだ。

 多分、僕が参加しないと知った時よりも落ち込んでいるよ、今のアトレは。

 

「でも、桜小路さんの修学旅行の行き先は同じパリだけど、自由時間でもない限り、一緒に観光できるわけじゃないでしょう?」

 

 八日堂朔莉の言う通りだ。

 アトレは調理部門のパティシェ科の生徒。対して小倉さんは僕と同じで服飾部門のデザイナー科の生徒だ。

 修学旅行の行き先は同じでも、パリは広いし、学生として一緒に行動する時間も行く場所は全然違う。そう思っていたんだけど……。

 

「パリには私と小倉お姉様の親戚の方が暮らしていますので、ご一緒に挨拶をしたいと思っていたのです」

 

 ……メリルさんか。

 よくよく見るとアトレの手が微かに震えている。その背後にいる九千代も緊張した面持ちだ。

 メリルさんも僕達のやらかしを既に知っているそうだから、会うのはやっぱり緊張してしまうよね。というよりも、お父様の世代の人はアンソニーさんを除いて、僕が女装してフィリア学院に通っている事を既に知っているらしいから……どんな反応をするのか結構怖い。

 メリルさんは優しい人だけど、今回ばかりは注意じゃ済まないかも。2人と一緒に申し訳なさを感じるけど、言ったら言ったで問題が起きそうなので無理だ。本当にごめん。

 

「ああ、朝陽さんと4日間も会えないなんて辛い。幾ら私でも、ロンドンから日本に戻って来て、毎朝来るなんて無理だもの」

 

 八日堂朔莉と言うか、演劇部門の行き先はロンドン。

 エストの実家がある場所だ。伯父様の海外での拠点でもあるけど、同時に僕が嫌いなエステル・グリアン・アーノッツもいるから、行きたい気持ちと行きたくない気持ちが半々になってしまっている。

 流石にカリンが教えてくれた総学院長に連絡して、姉が嫌がらせを行なってきた件はエストには話せなかった。

 姉妹仲が悪くなるのも不味いけど、あんな姉でもエストにとっては大切な家族だからね。家族の嫌な話は聞きたくないと思って黙っている。

 他にも情報源がカリンからと言うのも不味いし。

 

「ふぅ、ルミネさんも修学旅行には行かないそうだし。これだったら、私も不参加にしておけば良かったかも。楽しくない同級生達と過ごすよりも、ルミネさんと朝陽さんと一緒に総合部門のショーの話をしていた方が有意義だから」

 

 ……さらりと重要な情報を教えてくれた。

 えっ? ルミねえも修学旅行に参加しないの? 以前桜の園に住んでいた時に屋上のお茶会で、修学旅行の話題が出た時はウィーンに行ける事を喜んでいたのに。

 僕だけじゃなくて、お茶会に一緒に参加していたエストとアトレも驚いて八日堂朔莉を見ている。

 

「えっ? ルミネさんも参加しないんですか、修学旅行に?」

 

「そう……文化祭が終わってすぐに不参加を教師に頼んだそうだから、エストさん、アトレさん、そして朝陽さんが知らないのは、無理ないと思うけどね。私が知っているのは、一緒にショーの演出を考えている時に教えて貰えたからだけどね」

 

 確かにそうだ。

 あんまり学院関係の話題は出されたくなさそうだったから、総合部門の打ち合わせで会う時もルミねえの前では控えていた。

 でも、八日堂朔莉は重要な情報を教えてくれた。そうか、ルミねえも学院に残るんだ。

 ……うん。製作を第一にするけど、ちょっとぐらいはルミねえと話をしよう。いや、小倉さんも残るんだから、一緒に昼食を取るのも良いかもね。

 重要な情報を教えてくれた八日堂朔莉に感謝だ。いや、彼女の事だから、何気ない風を装って教えてくれたのかも知れない。

 

「そうだ、朝陽。ルミネさんや小倉さんと話をするのは良いけど、夜には時間を空けておいてね。メールで画像を送って、朝陽が欲しい生地や糸を確認するから」

 

「ありがとうございます、お嬢様」

 

 ちょっと面倒だが、やっぱり僕も本場のパリで使われている生地や糸を使って総合部門と服飾部門に挑みたい。

 主人であるエストに面倒を掛けてしまう事は、本当に申し訳ないけど、エスト本人があんまり気にしていないのは幸いだ。その分、日本に残る僕は仮縫いでの衣装製作を頑張らないと。

 

「ジャス子、お店についたら生地や糸の良し悪しとか教えて貰って良い?」

 

「私達が行く予定のお店って、品質は保証されてるから大丈夫だよ、いせたん」

 

「そうなの? 良かった。私が選んだのが悪い品質だったらどうしようかって思ってたから」

 

 まだまだ残念ながら素人の域を出ていない梅宮伊瀬也だけど、学ぼうとしている姿勢は立派だ。

 こうしてアトレがいる場所にも来てくれるようになった。まあ、総合部門に一緒に参加するんだから今更だけど、そうなる前の事を思えば大きな一歩だ。

 ……だけど、そんな一歩を奈落の底へと落としかねないのが僕だ。

 正確に言えば、僕のしてしまった事を梅宮伊瀬也が知れば、間違いなくアトレとの関係も破綻してしまう。少々思うところはあっても、梅宮伊瀬也との関係は『小倉朝陽』として終わりにすべきだ。

 代わりにアトレとはどんどん仲良くなって欲しいなあ。

 

「じゃあ、そろそろ行くね」

 

「ロンドン土産にコンドーム買って来るから」

 

「女性同士でどうやって使うのか謎ですが、渡されたら警察に連絡させて頂きます」

 

 意味深に微笑みながら、エストと共に八日堂朔莉はエレベーターに乗り込んだ。いや、本当にどう女性同士で使うんだろう?

 

「では、お姉様。私の方もお土産を買ってきますので、待っていてください」

 

「行って参ります、朝陽さん」

 

 アトレと九千代も続き、ジャスティーヌ嬢とカトリーヌさん。

 梅宮伊瀬也もエレベーターに乗って地下に降りて行った。

 気付けばエントランスに残っているのは、学院に行くと言う事で制服姿の僕だけだ。

 ……アレ? 今、誰かの姿がなかったような? 疑問に思っていると、壱与が近づいてきた。

 

「アトレお嬢様の周りにあれだけの友人がいて、しかもその中にあの梅宮のお嬢様までいらっしゃるなんて感激しています」

 

「ええ……私も少々寂しく感じますが、桜小路のお嬢様の楽しそうなお姿は嬉しく思います」

 

 妹であるアトレは、僕から漸く離れる事が出来た。

 その事に一抹の寂しさは感じるけど、同時に心から嬉しく思う。

 

「出来る事なら朝陽さんもパリに行かれたかったでしょうが、申し訳ありません。クロンメリンさんからの忠告もありましたので、お力はお貸しできませんでした」

 

「いえ、それは仕方がありません。まさか、あのような行動に出るとは私も思っていませんでしたので」

 

 本当にエステル・グリアン・アーノッツは、何を考えているんだろうか?

 ……丁度良い機会だから、文化祭の時に桜の園に残ってくれていた壱与に聞いて見よう。

 

「そう言えば、文化祭の日に八十島さんはあの方の去り際を見られたのでしょうか?」

 

「ええ、まあ、その時のクロンメリンさんの疲れ具合はかなりのものでした。私も途中から説得に参加する事になり、それでも学院に向かおうとされたので、最後の手段として警備員に動いて貰う程の大騒動に」

 

 うわー! 改めて知らされる事実に頭を抱えたくなったよ。

 流石にこれ以上は何も出来ないと信じたいけど、あの悪い意味で行動力があるエステル・グリアン・アーノッツなら何かしかねないという不安がどうしても過ぎってしまう。

 

「……まさかと思いますが……お嬢様のご両親に私の事を悪く伝えて解雇させるとかは……」

 

「それは難しいと思います……経緯自体は問題はありましたが、朝陽さんはルミネお嬢様がお勧めになった使用人ですので、よっぽど悪く言われない限りは大丈夫だと思います」

 

「……そのよっぽどを言いかねないお方なのです、彼女は」

 

 ううっ、かなり不安になってしまった。

 エストの成績の問題もあるし……いや、文化祭での動画をエストはご両親に見て貰うように頼んだと言っていた筈だ。あの衣装を着たエストを見れば、簡単に解雇の話は出ないと思う。

 それでも一抹の不安を感じてしまうのは、エステル・グリアン・アーノッツが予想外の方法で嫌がらせをして来たからだ。

 本当に厄介な相手がいたものだと頭を悩ませながらも壱与と分かれて、僕もエレベーターに乗って地下に向かう。

 もう集合時間だから、地下に学生はいないだろうなと思っていたら……。

 

「あっ、どうも」

 

「大津賀さん。どうして此方に? もう集合時間ですよ?」

 

 梅宮伊瀬也の従者である筈の大津賀かぐやが地下を歩いていた。

 この方向だと、桜の園に戻るつもりだったんだろうか? どうしたのかと疑問に思って近づいてみると、彼女は説明してくれた。

 

「実は今朝から熱が出て……測ったら体温も高かったので、地下の病院へ行って来たんです」

 

 言われてみれば少し顔が赤い。まさか、修学旅行当日に熱を出してしまうなんて、大丈夫かな?

 

「伊瀬也お嬢様が、向こうで悪化したら目も当てられないからとー……旅行も休む事にしまして」

 

「それは残念ですね」

 

 当日に問題が発生するのは聞いたことがあるけど、まさか知り合いにそんな不運が起きるなんて。

 

「でも地下の病院で、1時間ほど点滴を打ったらすっきりしましたー……どうやら風邪ではなく、疲れから来た熱だったみたいですね。ここのとこ、縫製を頑張りすぎていたみたいでー……」

 

「ええ、大津賀さんは、伊瀬也お嬢様の型紙が出来てからは、特に作業が丁寧になったと思います」

 

 自分の衣装よりも丁寧に作業していたよ。

 

「まあやっぱり嬉しいですからね。お嬢様の衣装を縫うのは……朝陽さんはこれから学院ですか?」

 

「そうなります。日中は授業と言っても大半が自習なので、総合部門や服飾部門の衣装の作業の方を進めるつもりです。大津賀さんはやっぱり本日はお休みになるおつもりですか?」

 

 疲れからの熱とは言え、油断してはいけないからね。

 

「そうですねー……。実は身体が回復したことを連絡したら、調子が戻ったのなら、当日のチケットを取ってパリへ来ても良いよとお嬢様が仰ってくれたんです……だから今から部屋に戻って、もう少し休むつもりでいます」

 

 僕やエストのように、良い主従関係を梅宮伊瀬也と大津賀かぐやも築けているようだ。

 

「それでしたら、コンシェルジュの方にチケットの予約の方は頼んでみたらいかがでしょうか? お休みになられて体調は万全にした方が良いと思います」

 

「そうさせて貰いますー……じゃあ、また。お土産は買って来ますからー……」

 

 大津賀かぐやは頭を下げて去って行った。

 彼女の疲れの原因には、僕にも少なからずあるから少々申し訳なく思ってしまう。

 

「それにしても……」

 

 こんなこともあるのだと改めて感心してしまった。

 もし、在り得ない事だが僕がエストの提案に乗ってパリに行くつもりだったら、大津賀かぐやと一緒の便になってしまっていたかも知れない。勿論、そうならないようにあらゆる手は打つだろうけど、手痛い出費を支払う事になりかねない。

 沢山の出費が出たら、お父様とお母様に何があったんだと連絡が来そうだし、一番不味いのは八千代にバレてしまう事だ。

 お父様がアメリカに帰国される前に、僕とアトレは『くれぐれも八千代さんにだけは知られないように』って言われた。もう僕がしている事をお父様とお母様は認めてくれているけど、八千代にだけは知られないように細心の注意を払っている。

 まあ、そもそも行くつもりはなかったから問題は無いんだけどね。

 そう思いながら僕は学院内を歩いて行く。何時もなら僕や小倉さんを見に集まって来る生徒達がいるけど、今日は修学旅行でホールは閑散としている。寂しさを少し感じてしまう。

 お母様と違って、僕は賑やかなのは嫌いじゃないからね。

 久々の1人での登校に複雑な気持ちになりながら、教室に来てみると……。

 

「おはようございます、朝陽さん」

 

「おはようございます」

 

 小倉さんとカリンが既に来ていた。

 

「おはようございます、小倉お嬢様にクロンメリンさん」

 

 僕の事情を知っている小倉さんとカリンしかいないけど、学院では小倉朝陽として接しないと。

 自習とは言え、時々残っている教師が見に来るのだから、気を付けておいた方が良い。

 

「もう作業を始めているんですね」

 

「はい。自分に今できる最高の型紙を引かないといけませんから」

 

 小倉さんは、どうやらやる気マンハッタンのようだ。

 何せ、小倉さんは参加を望んでいた例のフィリア・クリスマス・コレクションの服飾部門で行なわれる総裁殿が描いたデザインの衣装での製作者に選ばれたそうだ。

 参加者は主に2、3年生でしかもかなりの人数が参加していたのにも関わらず選ばれるなんて凄い。しかも、紅葉に確認したら贔屓なんてしようがない選抜手段を使われていたそうだから、流石と言うしかない。

 僕も負けていられないとすぐに作業に取り掛かる準備を始める。でも、その前に小倉さんが話しかけて来た。

 

「朝陽さん。昼食の方はどうされるつもりですか?」

 

「お弁当を持って来ています」

 

 上級生は残っているけれど、クラスの皆やパル子さん達もいない中で食堂に行くのも何だから4日間はお弁当にするつもりでいたので、今日は勿論準備をして来た。

 

「それでしたら一緒に食事をしませんか? 私もお弁当で、ルミネさんと昼食は一緒に食べようって話していましたから」

 

「是非ご一緒させてください」

 

 小倉さんとルミねえと一緒に昼食なんて、凄く嬉しい!

 カリンも一緒だろうけど、そんなのは関係なく楽しい昼食が出来そうだ。まさか、考えていた事が向こうからやって来るなんて幸先良い話じゃないか。

 ……そうだ。後、エスト関連で相談に乗って貰おう。

 小倉さんもルミねえもそれぞれ事情を抱えているから申し訳ない気持ちはあるけど、事は恋愛事と言う僕が想像だにしていなかった分野での問題に発展してしまっている。

 今のところは僕自身が彼女の気持ちに応えられないので、何事もない。でも、エストは最近恋愛関係ではぐいぐい攻めて来ている気配がある。もしかしたら修学旅行後に話を出してきて、一緒に暮らさないかと言われてしまう恐れがある。

 そうなる前に此方も手を打たないと不味い。恋愛方面で小倉さんとルミねえが的確なアドバイスをしてくれるかは分からないけど、取り敢えず相談という形で話を聞いて貰おう。

 

「場所はサロンで良いですか?」

 

「はい、構いません。ですが、わざわざルミネお嬢様が此方に来てくれるのでしょうか?」

 

 サロンがある場所は服飾部門棟。

 ルミねえがいるのは、音楽部門棟。移動時間を考えると来て貰うのは、申し訳なく思ってしまう。

 そう思っていたんだけど……。

 

「その……ルミネさんが言うには、他の部門棟で食事をしていた方が安心するそうです」

 

 うっ……そう言えば1年生はいなくても、上級生は学院に残っている。

 ルミねえに対して当たりが強いのは、1年よりも寧ろ上級生の方だから、確かに他の部門棟で食事をした方が良いかも知れない。

 大好きな姉の現状に改めて溜め息を溢しながら、僕も作業を開始する。出来れば、この4日間でエストの衣装の両方とも仮縫いを終わらせたいなあ。




次回は遊星sideで才華の恋愛相談で頭を悩まされます。
自分も厄介な恋愛に入っているだけに大変です。
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