月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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大変遅れて申し訳ありませんでした!
予定通り今回は遊星と才華の両方で、最後の波乱の幕開けです。

烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!


十一月上旬6

side遊星

 

「それじゃあ、小倉さん。私は行きますね」

 

「はい。その……頑張って来て下さい」

 

 学院の駐車場で送迎用の車から一緒に降りたルミネさんに、僕は複雑になりながら声を掛けた。

 同じマンションに暮らすようになってから、登下校は基本的にルミネさんと一緒に送迎用の車に乗ってしている。一緒に帰らない時は、ルミネさんはタクシーを使って帰宅している。

 ルミネさんとしては出来れば車移動はしたくないようだけど、今はお爺様の事もあるので渋々ながら了承してくれていた。

 でも、ちょっと不安だな。今日からは修学旅行に参加していた1年生の生徒達も戻って来る。

 針の筵の状態にルミネさんが戻ってしまう事に僕は不安を感じてしまう。

 

「大丈夫ですから、安心してください。後は、今日は朔莉さんと打ち合わせがあるんで、帰りはタクシーを使います」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、また」

 

 ルミネさんは軽く僕に手を振って、音楽部門棟の入口がある方に去って行った。

 僕もカリンさんと一緒に教室に向かおうとしたところで……。

 

「小倉お姉様! お会いしたかったです!」

 

 ……数日ぶりに聞くお姉様と言う呼ばれ方に、思わず力が抜けそうになってしまった。

 脱力しかけたが何とか耐えて、声の聞こえた方に顔を向けてみるとアトレさんが輝かんばかりの笑顔を浮かべて手を振りながら駆け寄って来た。

 

「小倉お姉様! 本当にお久しぶりです!」

 

「お、おはようございます、アトレさん」

 

「ああっ! 数日ぶりに聞く小倉お姉様のお声! パリで過ごしていた時は、小倉お姉様とお会いできず寂しくて仕方ありませんでした」

 

「部長のお気持ちは良く分かります。私達も小倉お姉様とお姉様のお2人とご一緒にパリの大通りを歩けたらと考えていました」

 

「あのパリの街並みを小倉お姉様とお姉様が夜に歩く光景は、是非とも目にしたいと願っていました」

 

 アトレさんに続いて飯川さんと長さんもやって来た。アトレさん達の背後の方に目を向けると、九千代さんと飯川さんと長さんのメイドの2人もいる。

 3人とも僕に向かって頭を下げてくれた。軽く僕も会釈を返して、改めて飯川さんと長さん、そしてアトレさんに顔を向けた。

 

「おはようございます、飯川さん、長さん。3人とも修学旅行は楽しんでこられましたか?」

 

「はい、勿論です、小倉お姉様! 私は調理部門なので、飯川さんと長さんとは一緒にパリを観光する事は出来ませんでしたけど、楽しく過ごせました」

 

 良かった。

 どうやらアトレさんは前に言っていたハラハラが起きることなく、修学旅行を過ごせたようだ。

 確かめるように九千代さんに視線を向けてみると、問題ないと言うように力強く頷き返してくれた。

 まだ、安心はできるとは言い切れないけど、少なくともそれなりの期間は才華さんから離れても大丈夫になれたようでホッと安心した。

 飯川さんと長さんも笑顔で頷いてくれた。3人とも修学旅行は楽しんで来たようだ。思わず笑顔が浮かんでしまう。

 

「それじゃあ、そろそろ校舎に入りましょう」

 

「はい、小倉お姉様!」

 

「ああ、こうしてまた小倉お姉様と校舎に入れるなんて」

 

「幸せ過ぎて言葉が出ません」

 

 何故か顔を赤くしたアトレさん、飯川さん、長さんと共に校舎に入ろうとする。だけど……。

 

「丁度良かった!」

 

 校舎に入ったところで聞き覚えのある声が聞こえたので顔を向けてみると、少し慌てた様子の樅山さんが僕とカリンさんを見て安堵していた。

 

「樅山先生? どうされたんですか?」

 

 此処は駐車場からホールに向かう為の通路の途中。

 教員である樅山先生も車に乗って来るからいてもおかしくないけど、荷物を持っている様子もないし、明らかに誰かを探しに来たと言うように僕らが進もうとした方から来ている。

 何かあったんだろうか?

 

「小倉さん。クロンメリンさん。朝早くになんですけど、少し一緒に来て貰って良いですか? フィリア・クリスマス・コレクションでの件で少し話があるんです」

 

 樅山さんの話に僕は少し首を傾げた。

 フィリア・クリスマス・コレクションでの件となると、当然りそなの衣装製作の事だと思う。

 でも、こんなに朝早くに、しかもわざわざ樅山先生が直接僕を迎えに来るなんて。

 チラッと隣を見てみると、カリンさんも訝し気に目を細めている。

 

「飯川さんと長さんも居たんだった。じゃあ、クラスの委員長の梅宮さんに伝えて貰える? ちょっと先生と小倉さん、クロンメリンさんはホームルームに遅れるかも知れないから」

 

「わ、分かりました」

 

「梅宮さんには伝えておきます」

 

 飯川さんと長さんがいたことで、幸いにと言うように樅山さんは2人に頼み事もしている。

 ……これは何かあったのかも知れない。カリンさんも警戒するように樅山さんを見ている。

 

「じゃあ、小倉さん、クロンメリンさん。一緒に来て」

 

「分かりました。そう言う事ですので、アトレさん。私達は行きますね」

 

「は、はい……小倉お姉様。どうかお気をつけて」

 

 アトレさんも、樅山さんの様子に察したのか、心配そうに僕達を見ている。

 安心させるように微笑んで、僕はカリンさんと一緒に樅山さんの後をついていく。

 何時もだったら人が集まって来て通り難い通路だけど、今日は教師である樅山さんも一緒にいるから、何事もなく廊下を歩ける。

 出来れば、何時もこんな風に朝は歩きたいなと思っていたところで、違和感を感じた。

 てっきり職員室に向かうものとばかり思っていたのに、樅山さんが進んでいる方向は職員室じゃない。

 この先に在るのは……総学院長室だ。

 

「樅山教諭。此方は職員室に向かう通路ではない筈ですが?」

 

 カリンさんも気が付いたのか、警戒心を高めて僕らの前を進んでいた樅山さんに尋ねた。

 樅山さんは周囲を見回して、人が少ない事を確認すると、僕らに顔を向けて小声で話し出す。

 

「実は、小倉さんとクロンメリンさんに用があるのは私じゃなくて総学院長なんです」

 

 ラフォーレさんが僕らに?

 警戒心が心の中に湧き上がって来た。カリンさんも警戒するように目を細めている。

 滅多な事では顔色も変えないカリンさんが、こんなに警戒するなんてかなり不味いかも知れない。実際、僕もかなり嫌な予感を感じている。

 

「今朝、私が職員室に訪れたら急に総学院長がやって来て、小倉さんとクロンメリンさんを至急呼んで来てくれって頼まれたんです」

 

「私だけではなく、カリンさんもですか?」

 

「はい」

 

 これは間違いなく何かあったに違いない。

 僕がフィリア・クリスマス・コレクションで製作する衣装の点検は、担任の樅山さんがすることが決まっているから、ラフォーレさんがその件に関わって来る理由は少ない。樅山さんの事はラフォーレさんも信用しているみたいだったし。

 何よりも僕だけじゃなくてカリンさんも名指しで呼んでいたと言う事は……調査員関連なのかも知れない。

 

「樅山教諭。既に総学院長は私と小倉お嬢様が調査員だと言う事を知っています。ですが、貴女がそれを知っていると悟られた場合は非常に不味い事態になりますので……くれぐれも悟られないようにお願いします」

 

「は、はい! わ、分かっています」

 

 ちょっと脅すような言い方だけど、カリンさんの言う通りラフォーレさんに樅山さんが事前に僕らが調査員だと知っている事を知られるのは不味い。

 ラフォーレさんだって文化祭の一件があって漸く気付けた事実なのに、調査対象に含まれている樅山さんが知っているのは変なんだから。

 とにかく今は総学院長室に急がないといけない。そう思ってやって来ると……。

 

「やあ、待っていましたよ」

 

 ラフォーレさんが出迎えてくれた。

 

「樅山教諭。少し席を外して下さい。ただ職員室には戻らず、外で待っていて下さい。彼女達とは少々……いえ、かなり難しい話題の話をしなければなりませんので」

 

「……分かりました。外で待っています」

 

 樅山さんは頭を下げると、部屋を出て行った。

 僕とカリンさんはラフォーレさんに促されて、ソファーに座って対面するように顔を向け合う。

 

「こんなに朝早くに呼び出してしまい申し訳ありません。ですが、事はかなり重大な事ですので」

 

「いえ、大丈夫です。それで私だけではなく、カリンさんも名指しで呼んだと言う事は……調査員としての方面の話でしょうか?」

 

「ええ、その通りです。少々難しい問題に直面してしまいまして、どうすればいいのか私にも判断がつかずに困っています。ですので、君達の意見を参考にしたいと思い、こうして急に呼び出させて貰いました」

 

 ラフォーレさんの様子は、本当に困っているという様子だ。一体何が彼を困らせているのだろうか?

 

「その難しい問題と言うのはなんでしょうか?」

 

「先ずは此方を見て下さい」

 

 言いながらテーブルに置かれたのは服飾の雑誌。その雑誌は……アメリカの古い雑誌!?

 しかも、あの雑誌は僕がアメリカで過ごしている時に、桜小路遊星様から見せて貰った雑誌だ! 才華さんがコンクールで最優秀賞を受賞した作品が載っていたから良く覚えてる。

 ま、まさか……。

 

「此方の雑誌がどうされたのでしょうか?」

 

 心臓の動悸が早くなって来ている僕と違い、カリンさんは冷静にラフォーレさんに問いかけた。

 お、落ち着こう。まだ、そうと決まった訳じゃない。確かこの雑誌には才華さんだけじゃなくてエストさんの作品も載っていた筈。

 ラフォーレさんが指摘する作品はそっちかも知れないんだから。

 

「此方のページを見て下さい。アメリカで行なわれたコンクールで最優秀賞を受賞した衣装がデザインと共に載っています」

 

 だけど、僕の気持ちに反してラフォーレさんが雑誌を開いて指摘したのは、一番指摘されたくない才華さんが製作した衣装が載っているページだった。

 

「……此方の作品がどうかしたのでしょうか? 綺麗な衣装だと言う事は分かりますけど」

 

「気付きませんか? いや、流石の君でも入学してから1ヶ月ほどの作品には目を通し切れていなかったようですね。しかし、こればかりは仕方ないかも知れない。何せ5月以降の彼女のデザインは、急に良くなり、この雑誌に載っているデザインとは比べものにならないほどに変わっていましたから」

 

 ……冷や汗が背中を流れていくのを感じる。これはもしかしなくても……。

 

「時間がないので率直に告げます。私は今ある疑いを得ています。この雑誌には『桜小路才華』と言う人物が最優秀賞を獲得したと書かれていますが、実はそうではなくこの学院に通っている女生徒。君と同じ名前の『小倉朝陽』が描いた作品ではないかと疑っています。つまり、ゴーストを務めていたのではないかと言う事です」

 

 バレたあぁぁぁぁぁぁーーーー!!!???

 一番不味い事はバレていないけど、多分才華さんがエストさんに使ったカバーストーリー的な部分がラフォーレさんに気付かれた事実に、もう僕の背中は冷や汗でびっしょり濡れてしまっている。

 

「な、何故そう思ったのでしょうか?」

 

「動揺は隠せないようですね。それは仕方ありません。まさか、クラスメイトにゴーストを務めていた人物がいると言うのは、服飾の世界を生きる者として思うところはあるでしょう……私も目を向けていた生徒がまさかと思うところはあります」

 

 いえ、僕が動揺しているのは其処じゃありません。

 でも、真実は言えないのでこのままラフォーレさんの勘違いに便乗させて貰います。

 

「先ず私がこの事実に気付いたのは、彼女の主人であるエスト・ギャラッハ・アーノッツに関して調べていたからです。君達からの報告を信じない訳ではありませんでしたが、学院を預かる者としてやはり確認は必要な事ですので」

 

「其方に関しては構いません。私も同様の立場なら、同じ事をしていましたから」

 

 動揺している僕と違い、カリンさんはあくまで冷静にラフォーレさんの行動を受け入れた。

 この件に関しては確かにラフォーレさんの行動は、総学院長として必要な事だから僕もカリンさんも受け入れるしかない。

 多分、りそなとお父様も同じ事が起きたらしていたと思う。

 

「理解してくれて助かります。現在学院は不正に関してかなり神経質になっています。その一環もあってエスト・ギャラッハ・アーノッツのアメリカ時代に関して調べていました。その中で偶然彼女のライバルだと目されている『桜小路才華』と言う少年の作品が目に移り、見てみれば私が学院で目を向けていた生徒の作品とよく似ていると思ったのです」

 

 エストさんの調査が、まさか才華さんに行きつく事になってしまうなんて。

 

「ただ、彼女の作品は5月頃から急に良くなっています。私はこれをゴーストの立場から解放された事で、彼女自身が伸び伸びと作品を描けるようになったからなのではと思いました。本来ならば構わずに生徒として過ごさせたいところです。だが、現在の学院が置かれている現状では、やはり直接尋ねなければなりません」

 

 ……確かに、ラフォーレさんの言う通り見過ごして良い事じゃない。

 こうしてラフォーレさんが気付いたように、もしかしたらフィリア・クリスマス・コレクションで才華さんの作品を見た時に、『アレってアメリカで賞を取った作品に似ていない?』とか疑いの目を向けられる可能性はある。

 フィリア・クリスマス・コレクションは海外の人も目を向けているところに加え、今年はジャンが来るから尚更に目が集まっている。

 その中で疑いを抱かれるようなことを、ジャンの『狂信者』とまで呼ばれているラフォーレさんが赦すはずがない。

 

「……聞きますが、この後に此方に朝陽さんを呼ぶつもりなのでしょうか?」

 

「事が事ですので、早急に確認したいのです。何せ彼女は総合部門にも参加を示し、既に彼女達の企画が選ばれて張り出されていますから。(ヲレ)個人としてもこの件に関して早急な確認は必要だと思っているのです。勿論、彼女だけではなく彼女の主人にも確認しないといけません」

 

 ……これは凄く不味い。

 才華さんだけでも不味いけど、エストさんも同席したら偽りを述べる事は出来ない。最低でもエストさんに述べたカバーストーリーを才華さんは話さないといけない。

 でも、問題はそれだけじゃない。ラフォーレさんに『桜小路才華はゴーストを使って名声を得ていた』と認識されてしまうのが本当に不味い事だ。

 ラフォーレさんはジャンの『狂信者』だけど、それと同じくらい服飾の世界に対して真摯な気持ちを持っている。

 基本的にヨーロッパ方面が主な活動場所だけど、世界の流行を知る為に、当然ラフォーレさんも世界中の雑誌に目を通している筈だ。そんな中で桜小路才華の名前で出された作品を見たら……気付いて何をするか分からない。

 

「それで私達に彼女達の調査を依頼したいと言う事でしょうか?」

 

「いえ、そうではありません。君達は理事長に問題ある学生を報告する義務があるのは分かっていますが、今回の件に関しては私に全て任せて頂けませんでしょうか?」

 

「そ、それはどう言った理由ですか?」

 

 とても嫌な予感がする。此処まで来てしまったら、才華さんを調査員の権限を使って退学させる事も出来ない。

 りそなの立場の事もあるけど、それ以上に今の才華さんはジャスティーヌさんや梅宮さんを含めた大勢の人達で総合部門を目指している。才華さんが学院を辞めたりしたら、総合部門への参加は取り消しになってジャスティーヌさん達に大変な迷惑が掛かってしまう。

 個人の迷惑どころの騒ぎじゃ済まなくなってしまったのだから、才華さんを退学させるのは無理だ。

 

「安心して下さい。悪いようにはしないと約束します」

 

 微笑みながら告げるラフォーレさんに、僕は嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

side才華

 

「ヘイ、ハニー! 美容師科はニューヨークへ旅行したんだ! どうせ朝は渡せないのは分かっていたから、放課後の打ち合わせの時に大瑛君と一緒にお土産を持って行くよ!」

 

 遠くから聞こえて来るジュニア氏の声に応じるように、僕は其方に向かって頭を下げた。

 何せ僕らの周りには、久々に沢山の生徒が集まって来ていて話をしている余裕は無い。とは言っても、僕がこうして朝に沢山の人達に囲まれるのも残り僅か。

 僕が居なくなった後、エストは大丈夫かな? 彼女は面倒見が良いから、後輩の生徒が出来たら更に慕われそうだ。慕われ過ぎて遅刻しない事を願いたい。

 

「キリッ」

 

「きゃーっ!」

 

「素敵ーっ!」

 

 皆に慕われて楽しそうだね、エスト。気持ちは分からなくもない。

 自分を歓迎してくれる人達に囲まれて、嬉しい気持ちを抱かない人はいないからね。小倉さんのように困惑する人はいるけど。

 

「お姉様とエストさんも流石ですね」

 

「ああっ、お姉様。小倉お姉様とは駐車場で待っていれば会えますけど、お姉様はあんなに遠い存在になってしまわれて」

 

「少し寂しい気もするけど、お姉様なら当然のことだもの。仕方ないよ」

 

 遠くからアトレ、飯川さん、長さんの声が聞こえて来た。

 アレ? その3人の声がすれば、小倉さんが来ているという事になるのに、全然人通りが減らない。

 おかしいなあ? もしかして今日は小倉さんとカリンは遅れているのだろうか?

 疑問に思うけど、2人の事ばかり気にしていられない。何せ小倉さんが来れば減る筈の人通りがそのままなんだから、ホームルームに遅れてしまいかねない。

 遅れない程度に急がないと。

 

「今日小倉さんとクロンメリンさん、どうしたんだろうね?」

 

 エストも疑問に思っていたようだ。

 

「分かりません。教室で飯川さんと長さんに尋ねてみましょう」

 

 小倉さんと同じく車通学でやって来て、朝僕に近づけない分、必ず小倉さんと落ち合うようにしている2人なら何か知っているに違いない。

 そう思って教室に辿り着き、2人に話を聞いて見ると……。

 

「実は、小倉お姉様は従者の方と一緒に先生に呼ばれて行ってしまったんです」

 

「先生はフィリア・クリスマス・コレクションの事でと仰っていました、お姉様」

 

 何と小倉さんとカリンは登校した直後に、紅葉に呼ばれたそうだ。

 修学旅行が終わってすぐに呼び出されるなんて、一体何が?

 取り敢えず、僕は事情を話してくれた飯川さんと長さんにお礼を言って、席で待っているエストのところに向かう。

 途中で多数の生徒達に席に座って、僕とエストの事を心配そうにみている梅宮伊瀬也と目があったので安心させるように頷いた。席に辿り着き、椅子に座ってエストに話そうとした事で。

 

「エストさん。朝陽さん。ちょっと良いですか?」

 

 教室の扉が開き、僅かに顔色が悪い紅葉が教室に足を踏み入れて来た。

 おかしい。まだホームルームまでには1時間近くある筈なのに。こんなにも早く来たばかりか、名指しで僕とエストが呼ばれた。

 

「リーダーの朝陽さんと副リーダーのエストさんに、総合部門の企画に関して話があります」

 

「分かりました」

 

「すぐに行きます」

 

 総合部門の話となれば行かないといけない。

 クラスの皆や総合部門に一緒に参加する梅宮伊瀬也とジャスティーヌ嬢に目を向けられながら、僕とエストは一緒に教室を出た。

 

 そして僕は……今日この日に、フィリア・クリスマス・コレクション後に話すつもりだった事の全てを、エストに話す事になってしまった。桜小路才華として、エストとその家族に及ぼしてしまった危険の数々の全てを。




遂にラフォーレが動きました。
ただ彼はまだ朝陽の正体が女装した桜小路才華とまで行きついていません。あくまでエストに語ったカバーストーリーが起きているのではないかと疑っているだけです。
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