月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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今回は後始末的な話です。
次回から才華とエストが頑張りだします。

秋ウサギ様、えりのる様、誤字報告ありがとうございました!


十一月上旬14

side才華

 

「それで? 一体どんな内容で呼び出されたの? しかも午前中の間に戻って来ないなんて。先に戻って来た黒い子に聞いても、個別に話したからどんな内容か分からないって言うし。黒い子の従者が先生に頼まれて探しに行ったって言うのは教えてくれたけどね」

 

 昼休み。

 恐る恐る教室に戻った僕とエストは、見つけたジャスティーヌ嬢に即座にサロンに連行された。他にも梅宮伊瀬也、大津賀かぐや、カトリーヌさんも一緒だ。

 ……僕らを見つけたジャスティーヌ嬢の隣の席に凄く疲れた様子の小倉さんが座って居た事には、本当に罪悪感と申し訳なさしかないよ。後で必ず謝罪します!

 

「えーとね。2人は総合部門の事で呼ばれたんだよね? 先生もそう言っていたし。だから、出来れば何があったのか話して貰いたいの。ほら、私とジャス子達だって同じ総合部門の班だから」

 

 不安そうに質問してきた梅宮伊瀬也に、僕は確認するようにエストに顔を向けた。

 静かにエストは頷いてくれた。そして梅宮伊瀬也に顔を向けてくれて……。

 

「実は呼び出された内容は総合部門の事じゃなくて……その文化祭でのコンペの事で……」

 

 言いずらそうにしながらも、エストは僕が使ったゴーストに関するカバーストーリーと性別の事じゃなくて、総学院長にも確認の意味合いで質問されたコンペのモデルに関してジャスティーヌ嬢達に話してくれた。

 

「……エストンのお姉さんって、本当に馬鹿なんじゃないの?」

 

 聞き終えたジャスティーヌ嬢は怒りよりも呆れの色合いが強い溜め息を溢した。

 しかもジャスティーヌ嬢だけじゃなくて、梅宮伊瀬也、大津賀かぐや、そしてカトリーヌさんまで溜め息を吐いているよ。

 

「じゃあ、2人が呼ばれたのはコンペでの出来事の確認だけだったんだよね? そうだよね?」

 

「はい。私も総学院長からその話を教えて貰った時は、姉への怒りを抑えきれず、止めてくれた樅山先生を無視して朝陽を連れて部屋に戻って姉と昼頃まで口論していたんです」

 

 本当にありがとう、エスト。

 ゴーストの件や僕が本当は男性で『桜小路才華』であることを隠してくれる彼女には、本当に感謝するしかない……どんどん恩が積み重なって返し切れるか分からない事に申し訳なさと不安を感じてしまう。

 おっと、余りエストにばかり説明させるのは従者として不味い。

 

「お嬢様を止める事が出来ず、皆様へのご連絡をしなかった事を深くお詫びいたします」

 

「それじゃあ小倉さんは本当に関係ないんだよね? あの件を小倉さんが話した訳じゃないんだよね?」

 

「はい。そもそも小倉お嬢様とクロンメリンさんは、私達とは別々に話しました。小倉お嬢様がフィリア・クリスマス・コレクションで参加されるイベントの責任者は、総学院長らしいのです」

 

「後から呼ばれた私達が来たので、一度話し合いを中断してくれて、小倉さんとクロンメリンさんは部屋の外で待ってくれていました」

 

「黒い子が今更あの件を問題にする筈がないしね。それにクラスの子の話だと、黒い子も呼び出されたそうだから」

 

「そうだよね。やっぱり小倉さんは関係なかったんだ」

 

 ジャスティーヌ嬢と梅宮伊瀬也の意見に同意するように、2人の従者である大津賀かぐやとカトリーヌさんも頷いた。

 ホッと安堵の息が出た。どうやら元々殆どなかったに違いないけど、小倉さんとカリンへの疑いは晴れたようだ。タイミング的に疑われてもおかしくないから本当に良かった。

 いや、何よりも文化祭の衣装で苦楽を共にした小倉さんとカリンが、あのエステル・グリアン・アーノッツのせいで疑われるなんて本当に嫌だからね。

 

「でも、本当に良かった。私もしかしたら朝陽さんが学院を辞めさせられるんじゃないかって心配してたから」

 

「えっ? いせたんどういう事? 何で白い子が学院を辞めさせられるの?」

 

「あっ!? え~と、そ、それはね」

 

 自らの失言に梅宮伊瀬也は、僕とエストに視線を彷徨わせている。

 視線を向けられたエストも、梅宮伊瀬也に訝し気にしている。例のパリでエストと父親が内緒の話をしていたという件は、エストにも内緒で話してくれた事だ。

 この判断は流石に僕も介入できない。従者の立場にいる僕が、上の立場にいる梅宮伊瀬也に頼んでエストを見張るようにお願いしたとかあり得ない話だから。

 どうしたら良いものかと悩んでいると、梅宮伊瀬也は意を決したように口を開いてくれた。

 

「エストン。ごめんなさい……実は私、パリで見ちゃったの。エストンとそのね……エストンのお父さんが朝陽さんの事で口論しているところ」

 

「っ……」

 

「何その話? まだ他にも何かあるの?」

 

 ジャスティーヌ嬢の問いかけに、エストは顔を俯かせる。

 そのエストとお父さんの話に関しては、ある程度の流れは大津賀かぐやが教えてくれたけど、その事は僕もエストに話していないから口出し出来ない。修学旅行に参加していない僕が説明できる話じゃないからね。

 だって、この場で僕が説明したら厚意で教えてくれた梅宮伊瀬也と大津賀かぐやに申し訳ないよ。

 

「エストン。話して。今白い子に何かあったら私達の総合部門の企画がどうなるか分かってるでしょう?」

 

「……うん。ジャス子さんの言う通りだから話すね。実は修学旅行の3日目に私のパパが訪ねに来たの。その時に話した内容は、朝陽を私の従者から解雇して別の人にして欲しいって言われたの」

 

 ……やっぱり。

 エストの説明にジャスティーヌ嬢とカトリーヌさんは驚き、ある程度予測していた梅宮伊瀬也と大津賀かぐやは顔を俯かせた。

 

「今、私の家、アーノッツ家は重要な時期にあるってパパは言っていた。ジャス子さんが入学式の日に言っていた詐欺や恐喝なんてしなくても良くなるかもしれない重要な時に」

 

「……それで何で白い子の解雇なんて話が出て来るの?」

 

「それは……朝陽を私に紹介してくれたのが、音楽部門の大蔵ルミネさんだから」

 

 確認するようにジャスティーヌ嬢は僕に視線を向けて来たので頷く。

 

「お嬢様の言う通り、私は大蔵ルミネお嬢様の紹介でエストお嬢様の付き人にさせて貰いました」

 

「その事は家の両親に説明していたんだけど……文化祭の時に学院に無理やり来ようとしたエステルを引き留めてくれたのは、クロンメリンさんだったんです」

 

「それはおかしくないよね。小倉さんとクロンメリンさんだって一緒の班だったんだし」

 

 そう。おかしい話じゃない。だけど、長い間裏社会と繋がりを持っていたアーノッツ家が、漸く表に立ち返れるチャンスが来た。

 でも、そのチャンスが失われかねない出来事をエステル・グリアン・アーノッツは引き起こしかけてしまった。

 

「ああ、そう言う事か」

 

「えっ? ジャス子。分かったの?」

 

「要するにエストンの両親は、黒い子の家である大蔵家と問題が起きかねないか心配になったんじゃないの? 私達は黒い子がそんな事をしないって言えるけど、会った事もないエストンの両親からすれば心配で仕方なかったんでしょう」

 

「あっ! なるほどね」

 

「で、エストンの従者である白い子も大蔵家と繋がりがあるって改めて分かって怖くなったから、エストンの従者を辞めさせたいってところなんでしょう」

 

「ジャス子さんの言う通りです……ほ、他にも……その……私のフィリア学院での成績の事もあって」

 

「……エストンの成績って」

 

「最近はともかく、夏の時はやる気のない私よりも悪かったよね」

 

 夏休み前の成績は、クラス最下位だからね、エストは。

 日本の授業の成績なんて関係ないと言っていたジャスティーヌ嬢だけど、慕っている叔母様と一緒に勉強した小倉さんのおかげでクラス内で平均的な成績だったし。

 ……改めて考えると、従者として問題あるよね、僕って。解雇されても文句も言えないよ。

 

「だったら、ラグランジェ家の名前を使って白い子の解雇を取りやめさせなよ。今、白い子に辞められたりしたら私達の総合部門参加もなくなるんだからね」

 

「そうだよね! 朝陽さんが企画して総合部門のリーダーを務めているんだから! リーダーの朝陽さんが居なくなったら本当に困るよ! エストン。ジャス子よりは頼りないけど、私の名前も出して良いからお父さんを説得しようよ!」

 

 ジャスティーヌ嬢と梅宮伊瀬也。2人だけじゃなくて、2人の従者である大津賀かぐやとカトリーヌさんも頷いてくれた。本当に感謝の気持ちしかない。

 

「皆様、本当にありがとうございます」

 

「私もありがとうございます……ただ朝陽の解雇の話は、今のところ保留になっているんです……パパと話した時に、今はジャスティーヌさん達と学院の総合部門に参加している事を話して、そのリーダーを朝陽が務めている事も話したんです。私も朝陽とこれからも服飾を続けたいとパパにちゃんと話しました。それで朝陽の解雇に関しては年末までの私の成績次第って事になって」

 

「なんだ。じゃあ、そっちの方は問題は無いんだね」

 

「うん。そっちの方は問題は無いの……ただお姉ちゃんがそんな連絡をしていたのは、私も今日知った事だったから」

 

「う~ん……でも、こんな嫌がらせは私達も困るよ。文化祭のコンペの時は、エストンと朝陽さんが頑張ってくれていたのが分かってるから良いけど、変な噂が出たら銀条さん達にも迷惑が掛かるからね」

 

 本当にエステル・グリアン・アーノッツのやらかしは困るどころの騒ぎじゃない。

 幸いと言えるのは、その話が総学院長のところで止まっている事だけだ。

 

「エストン。後でまたお姉さんと話すんだったら言っておいて。これ以上アーノッツ家が私の邪魔するんだったら、本当に怒るって。と言うかもう激おこだからね」

 

「はい……必ず伝えます」

 

 た、頼もしいけど……こ、怖い。

 

「じゃあ、話はそれで終わりなんでしょう。教室に戻って作業しないと不味いよ」

 

「うん。頑張らないとね」

 

 安堵の息が零れた。

 皆、どうやら僕とエストの説明に納得してくれたようだ。これで少なくとも総合部門の衣装製作に関しては続けることが出来る。

 ジャスティーヌ嬢達がサロンを出ていくのを見計らって、僕はエストに頭を下げた。

 

「お嬢様。本当にありがとうございます」

 

「良いの。それに貴方の為だけじゃない。総合部門の企画は貴方が考えた事だけど、今はもう参加してくれている皆の企画だから」

 

「そうですね。私も皆さんと一緒にフィリア・クリスマス・コレクションに参加出来ることが楽しみです」

 

「……」

 

「お嬢様?」

 

 急に押し黙ったエストに疑問を覚えて声をかけてみたけど……。

 

「ううん。何でもない。教室に戻りましょう」

 

 言い終えるとエストはサロンから出て行ってしまった。

 どうしたんだろうか? いや、やっぱりまだ僕と2人だけになると複雑な気持ちになるのかも知れない。

 う~ん……今日の皆との作業が終わったら、僕らの事情を知っている皆に集まって貰って、今日の件を説明しようと思っていたんだけど、もう少しエストと話をした方が良いかな?

 そう思っていたら携帯からメールが来た事を知らせるアラームが鳴った。誰かなと思って見てみたら……小倉さんだった。慌てて内容を見てみると……。

 

『関係者への説明は、私とカリンさんがしておきます。才華さんは今日はエストさんの傍に居てあげてください』

 

 小倉さん。本当にありがとうございます!

 本当だったら当事者である僕から皆に説明しないといけない事だ。でも……今日はエストと改めて話をしたいと言う気持ちが強い。

 皆への僕からの説明は後日改めて行なう事を決めながら、先に行ったエストの後を追う為にサロンから出た。

 

 

 

 

side遊星

 

「……そう言う訳で、性別の事はバレずに済みましたが、総学院長であるラフォーレさんに才華さんがエストさんに話したカバーストーリーは知られてしまいました……そして……才華さんはエストさんに自分が本当は『桜小路才華』で性別が男性である事を明かしました」

 

 授業が終わった放課後。

 僕はカリンさんと一緒に今日起きた事を才華さんの件の関係者に話す為……フィリア・クリスマス・コレクションまでは訪れる事がないと思っていた桜屋敷に訪れていた。

 メールで重要な話があると伝えたから、アトレさん、ルミネさん、九千代さんだけじゃなくて八十島さんと樅山さんまで来てくれた。お父様は来ていない。

 りそなが才華さんとエストさんに直接『大蔵家は関われない』と告げたそうだから、お父様もその指示に従うそうだ。実際、今アーノッツ家に関わる事柄にりそなやお父様達は関われない。

 下手に介入して才華さんの性別がラフォーレさんにバレてしまうのは……不味い。

 僕の説明を聞いたルミネさん、アトレさん、九千代さんは顔を俯かせてしまっている。

 

「……まさか……性別の方じゃなくて、才華さんがエストさんの従者になる為に考えた『ゴースト』のカバーストーリーから、そんな事になってしまうなんて」

 

「しかもお姉様……いいえ、お兄様の正体がエストさんに知られてしまうなんて……あの、小倉お姉様? 今すぐエストさんに謝罪に向かった方が宜しいでしょうか?」

 

「あっ! 待ってアトレさん! 今、才華さんとエストさんは放課後の衣装製作を他の製作班の皆としているところだろうから、今行くのは不味いと思う」

 

「……そ、そうですね……エストさんお1人だけでしたらともかく、他の皆さんがいる場所で出来る話ではありません」

 

 本当に話せる話じゃないから困る。僕も後でエストさんには謝罪に行くつもりだけど……。

 

「謝罪するとしたら、個別にエストさんに時間を取って貰うようにお願いしましょう。一度に行くことが出来れば、それに越したことはありませんが、あくまでエストさんの都合を考えて謝罪しないといけません」

 

「えっ? ……あ、あのもしかして小倉お姉様もエストさんに謝罪を……」

 

「勿論します。確かに私は皆さんと立場は違いますが、才華さんの行ないを黙認していた事には変わりません。エストさんには謝罪します」

 

 これは元々決めていた。黙認するしかない立場に僕はいたけど、やっぱり当事者であるエストさんには謝罪しないといけない。それに……りそなは謝罪した。なら、僕もしないといけない。

 ……本当の性別に関しては流石に言えないけどね。

 

「何と言うか……もう本当に小倉さんには頭が上がらない……意識の差が私達と違い過ぎて」

 

「ルミねえ様。私も同じです……小倉お姉様には本当に申し訳なさと感謝の気持ちで一杯で……己の不明さを思い知らされます。お兄様がゴーストの話を出した時は、一時の名誉の傷だけで済むと思ってしまっていたこの身に憤りを覚えます」

 

「この山吹……流されやすいこの身を恥じたい思いで一杯です……」

 

 3人とも暗い。どうすれば元気を出してくれるかな?

 

「そ、それで、小倉お姉様。総学院長はお兄様が直接会えば、ゴーストの件を見逃してくれるというお話ですが、其方に関しては……」

 

「残念ですが、その件に関しては条件を変えて貰うのは無理です。ラフォーレさんが出してくれた条件は、ゴーストを行なった人達に対して破格の条件です」

 

「世間一般の人達は、ゴーストとかの行ないに関しては厳しいから……小倉さんの言う通り、私も破格の条件だと思う」

 

「では、若のデザイナーとしての未来はもう終わりなんですか!?」

 

 九千代さんの問いに僕は視線を逸らす事しか出来なかった。

 才華さんには出来る事ならデザイナーとしても頑張って貰いたい。だけど、ラフォーレさんに『桜小路才華』として会って貰うのは本当に不味い。

 最悪の場合……。

 

「今のラフォーレさんは分かりませんが、お父様に確認したところ、以前なら今回の件を理由に手元において彼のやり方で才華さんを指導するそうです」

 

 出来ればそれを僕は防ぎたい。才華さんだけじゃなくて……ラフォーレさんの為にも。

 

「皆様。ご不安になる気持ちは分かりますが、一先ずは当事者である桜小路才華様とエスト・ギャラッハ・アーノッツ様のご判断を待つべきでしょう」

 

「そう……ですね」

 

 カリンさんの言う通りだ。

 僕らだけで話し合ってもあまり意味はない。当事者である才華さん達を加えて今後に関しては話し合わないと……

 

「才華さんとエストさんか……2人ともどんな話をしているのか?」

 

「幾ら親しくなられていたとはいえ、私達がしてしまった事もエストさんに知られたのですから……以前のような関係は望めないかも知れません」

 

「……ふぅ、難儀ですね」

 

 何だろう?

 カリンさんの言葉には凄く同感なんだけど……何時もよりも疲れた様子に思えるのは僕の気のせいかな?




次回で十一月の上旬が漸く終わります。
思ったよりも長くなってしまいましたが、才華達の話と遊星たちの話の予定です。
謝罪に関しては中旬か下旬でやる予定です。


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