月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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本編再開です。
皆さま改めまして今年もよろしくお願いします。

烏瑠様、秋ウサギ様、えりのる様、誤字報告ありがとうございました!


十一月中旬(遊星side)18

side遊星

 

「では、確認しますが、『桜小路才華』は本当に大蔵家の親類なのでしょうか?」

 

「え、ええと……」

 

 ま、不味い。かなり答え難い質問をされてしまった。

 昼休みになると共に、僕とカリンさんは昨日と同じように樅山さんを経由してラフォーレさんに呼び出された。

 今回の確認の内容は……よりにもよって才華さんが『大蔵家の親類であるかどうか』。

 才華さん……上手い手だと思いますけど……事前に教えて貰いたかったです!

 だって、昨日僕は調査員としてエストさんと才華さんがラフォーレさんと話した内容を聞いていた。

 なのに、『桜小路才華』の名前が出ても大蔵家の親類である事は話していなかった。

 下手な答え方をしたら不味い。このままだと、どうして昨日の時点で、『桜小路才華』の名前が出たのに僕とカリンさんが報告してくれなかったんだとラフォーレさんに不審を抱かれる。

 いや、もう抱かれてるかも!? ど、どうしよう!?

 

「はい。確かに理事長のご親戚に『桜小路才華』と言うご令息はおります」

 

 昨日と同じように冷や汗で背中を濡らしている僕と違い、カリンさんは平然と答えた。

 

「そうですか。では、何故昨日の内に話して貰えなかったのでしょうか?」

 

 案の定、質問が来てしまった。

 

「そ、それは……」

 

「ご報告が遅れたのは申し訳ありません。ですが、小倉お嬢様はまだ大蔵家の縁戚にあるお方全員とお会いしておりませんので、『桜小路才華』とはまだお会いしていません。加えて言えば、日本には『桜小路本家』と言う家があります。親戚にあたるのは、アメリカにある『桜小路分家』の方です」

 

 淀みなく答えてくれるカリンさんに、本当に感謝。

 おかげで少し冷静になれた。なので、少し自分の立場をラフォーレさんに話す。

 

「……カリンさんの言う通りです。その……私はまだ大蔵家の親戚の方々とは全員と面識はありません。ただ桜小路才華さんに関しては、昨日の内に理事長である大蔵りそなさんにご報告して教えて貰えました」

 

「それで理事長は彼の事を知ってどう反応しましたか?」

 

「……頭を抱えて怒りに満ちた声を上げました」

 

 当然だと言うラフォーレさんは頷いている。

 うん。嘘は言っていない。実際、最初にりそなに才華さん達がしている事を話したら本当に頭を抱えて怒っていたから。

 

「理事長は、『桜小路才華』様の行ないに関して大変ご立腹ですので、今回の件に関しては全面的に貴方に判断を委ねるおつもりのようです」

 

「それは良い報告ですね」

 

 何処となく嬉しそうにラフォーレさんは笑みを浮かべた。

 やっぱりラフォーレさんは人生の目的を捨てていない。その目的を学院内で唯一阻める可能性があったりそなが動かない事を知って、安心しているのかも知れない。

 でも、りそなが動けないのは事実だ。もし下手に動いて、性別の事がバレてしまったらそっちの方が不味い。本当に才華さんには申し訳ないけど、どうしても今回は助ける事は出来ない。ごめんなさい、才華さん。

 

「あ、あのそれでラフォーレさんが今年のフィリア・クリスマス・コレクションの審査員を辞退したと言う話は?」

 

 話を変える意味もあって気になった事を質問した。

 まさか、ラフォーレさんがフィリア・クリスマス・コレクションの審査員を辞退しているなんて心から驚いた。

 勿論彼の立場からすれば審査員を辞退しても、舞台が良く見える位置には座れる。でも、審査員に選ばれた人達が座る席には劣ってしまう。何よりもジャンの隣の席に座れるチャンスを彼が逃すなんて、本当に驚くしかないよ。

 

「ええ、既に正式に決まっています。理事会の方にも通達していますので、後からやはり審査員をやる事はもう出来ません」

 

「驚きました。ジャンと一緒に審査員を行なえるのを楽しみにしていたのに、審査員を辞退するなんて」

 

「ええ、正直かなり悩みました。ですが、どうしても悩みが晴れず、身を切るような想いで辞退を決意しました」

 

 『狂信者』なんて呼ばれているラフォーレさんだから、ジャンと一緒に審査をする機会を自分から辞退するなんて本当に身を切るような想いだったに違いない。

 

「では、貴方の代わりの審査員は教師陣の誰かから選ばれるのでしょうか?」

 

 あっ! そうだ。

 カリンさんの言う通り、ラフォーレさんが審査員を辞退するなら、誰か別の人が審査員に選ばれる筈。

 一体誰なのかな? 樅山先生は確か服飾部門のショーの進行役をやる筈だから、審査員にはなれないし。

 話を逸らす意味もあったんだろうけど、ちょっと僕も気になったのでラフォーレさんに顔を向けてみる。

 

「私の代わりの審査員に関してですが、実は辞退すると言う話をだしたらジャンが驚きながらも、『じゃあ、俺にその審査員選ばしてくれない?』と頼まれまして」

 

「えっ!?」

 

 ジャンがラフォーレさんの代わりの人の審査員を連れて来るの!?

 

「勿論、彼が選んだ相手ならば私が心配する必要もないと思い、審査員に関しては全面的に任せる事にしました。理事会の役員達もジャンが選んだ相手ならばと納得してくれています」

 

「なるほど。それならば問題はありませんね」

 

 カリンさんも納得してくれたのか頷いてくれている。

 

「ああ、因みにジャンが選んだ相手は君の養父ではないので安心して下さい」

 

 それは何となく分かっていたので頷いた。

 もしお父様が選ばれていたら僕に話して………うん、くれないに違いない。きっとギリギリまで内緒にして、驚く僕の顔を特等席で見ながら笑っているお父様が脳裏に簡単に浮かんだ。

 まあ、それがなくてもお父様が選ばれない理由は分かる。今は本当に肩書きだけになってしまっているけど、理事長であるりそなが審査関係に参加しないんだから、部外者とは言え大蔵家であるお父様が参加するのは不味いからね。

 もしかしたらジャンが連れて来る人は、僕がまだ会っていない『伝説の七人』の誰かかな?

 その後はラフォーレさんと少し雑談して、僕はカリンさんと一緒に総学院長室を出た。

 出て少し歩いた後、僕とカリンさんは揃って深い安堵の息を吐いてしまった

 

「どうやら彼は私達が『桜小路才華』の事を隠していたとは、本当に思っていないようです。油断は出来ませんが」

 

「はい。でも本当に危ないところでした」

 

「恐らくですが、隠せたのは文化祭での小倉様に起きた一件のおかげでしょう。怪我の功名ですが、あの一件のおかげで小倉様は大蔵家内で微妙な立場にいると彼に思われているようですので」

 

「ほ、本当に怪我の功名ですね」

 

 本当に喜べない話だけど、おかげでラフォーレさんに僕とカリンさんは『桜小路才華』さんと言う親戚とまだ会ってない事を信じて貰えた。だけど、本当にこれ以上は僕とカリンさんは何も出来ない。

 

「しかし、危ない橋を渡らなければいけないとは思っていましたが、まさか立場を利用して条件を変える手を打ったのは驚きです」

 

「そうですね。本当に驚かされました」

 

 だけど、これで才華さんには猶予期間が出来た。

 最終的にはフィリア・クリスマス・コレクション後にラフォーレさんに自分の正体を明かすつもりに違いない。

 フィリア・クリスマス・コレクション後には才華さんはアメリカに強制的に帰国する。

 ……もしかしたらラフォーレさんが後を追いかけて来るかも知れないのが、ちょっと不安だな。

 いや、才華さんだけじゃない。僕だって性別がバレたら不味いのは変わりないんだからこれからも気を付けないと。

 そう思いながら僕はカリンさんと一緒に教室へと向かった。

 

 

 

 

「……うぅ」

 

 放課後になって自宅に帰宅した僕は、アトリエの中で自分の携帯を見つめていた。

 フィリア・クリスマス・コレクションに向けてりそなが着る衣装の製作もしないといけないし、エストさんへの謝罪もしないといけない。

 だけど、それらの問題の前にお父様からも言われてしまったフィリア・クリスマス・コレクション前に来られる、ルナ様との約束の問題も重要。

 此方のルナ様に事情をご説明しても……やっぱり納得して貰えないんだろうなあ。りそなやお父様だけじゃなくて、夫である桜小路遊星様からも絶対に諦めないって言われたし。僕も無理だと思っているから……()()()に連絡するしかないのは分かっているんだけど……。

 

「きっと……怒られるよね」

 

 携帯の画面にはアメリカに居た頃に、何かあった時の為にと教えてくれた()()()の個人携帯の電話番号が表示されている。

 後は通話ボタンを押すだけなんだけど……怒られると思うと怖くて身体が震えてしまう。自覚している事だけど、僕にとって()()()に怒られるのはトラウマになってしまっている。完全に僕の不注意でしてしまった約束事だし、まさか、僕の主人である、ルナ様からあんなご指示が出されるなんて夢にも思っていなかったから。

 

「いや、何時までも言い訳している場合じゃないよね」

 

 もうルナ様が来られるまで残り1ヶ月と少ししかないんだから。

 震える指先に力を込めて、僕は通話ボタンを押した。耳元で鳴り響く呼び出し音を聴きながら、あの人が出るのを待つ。

 仕事で忙しくて、今は電話に出るのは無理かなと祈るような気持ちでいたら……。

 

『はい、山吹八千代です』

 

 電話に出てくれました。唯一ルナ様が頭が上がらない(僕もだけど)人である八千代さんが。

 

「お、お久しぶりですよ、や、八千代さん?」

 

『ええ、小倉さん。お久しぶりです。あの、旦那様からお聞きしましたが、お体やお心の方は大丈夫ですか?』

 

 うぅ……電話越しでも八千代さんが本当に心配してくれているのが分かって、凄く罪悪感で胸が痛い。

 こんな良い人に色々黙っていて……嘘をまたついてしまっていると思うと、胸の痛みと合わせて本当に苦しい。

 自然と僕の身体は正座の姿勢を取っている。一度深呼吸をして。

 

「はい。もう大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」

 

『いいえ。小倉さんの立場は私も理解していますから。それで今日はどのようなご用件で私に電話を? しかも、わざわざ私個人の携帯に電話をして来たと言う事は……ルナ様に聞かれたくない話なのでしょう』

 

 流石八千代さん。鋭い。

 此処まで来たら、話して相談に乗って貰おう。でも、その前に一応確認しないと……。

 

「少し長い話になるかも知れませんが、お時間の方は大丈夫でしょうか?」

 

『構いませんよ。小倉さんからの電話だと分かって、今は自室に1人でいますから』

 

 気を使って貰ってありがとうございます、八千代さん。

 そんな優しい八千代さんに嘘をついていると思うと……罪悪感で胸が痛いです。

 

『寧ろ私の知らないところでルナ様が小倉さんにとんでもない提案をしていないか心配していたので……実際、最近ルナ様はカレンダーを見ながら何かを楽しみにしている様子が見受けられますからね』

 

 ……正直言って、何故ルナ様が其処まで僕のメイド服の姿を楽しみにしているのか今でも分からない。

 だって僕男だよ。女性に見えるのはもう諦めかけているけど、僕は男。それにメイド姿だったら今でも桜小路遊星様が……止めよう。この考えは僕の精神が持たない。思い出したら、また泣きそうになるから。

 今はとにかく電話した相談事を八千代さんに話さないと。

 

『それでどんな相談事ですか? ……まさか、アトレお嬢様と恋仲になってしまったとかではありませんよね?』

 

「ありません!! 第一僕にはもう他に好きな人が!?」

 

『えっ!?』

 

 あっ! しまった!? 余計な事を言ったかも!?

 

『……小倉さん……まさか、好きな人が出来たんですか!?』

 

「ええと……その……」

 

『出来ればハッキリと答えて下さい。もし小倉さんに好きな人……いえ、個人的には凄く羨ましい面もありますけど、誰かと恋仲になったと言うだけで私はとても安心出来ますから、どうかお願いします』

 

 本当に八千代さんの声は縋るようだった。

 そ、その声を聞いてしまうと耐えられません。でも、相手の事は話せないのでその事だけは誤魔化そう。

 

「は、はい……先日告白して両想いになりました」

 

『まあっ!』

 

 グフッ! 何だか凄く胸が痛い。

 

『おめでとうございます、小倉さん! 本当に良かった。個人的には凄く羨ましい思いはありますが、何よりも小倉さんが女性と……女性ですよね?』

 

「女性です」

 

 男性と恋仲になる事なんてありません。

 ホッと安堵したような八千代さんの吐息が、電話越しでも聞こえた。何で男性との恋愛を疑われたのか気になるけど……僕の精神衛生上の為に聞かなかった事にしよう。

 

『ふぅっ、これで私も安心していられます。もし小倉さんがアトレお嬢様と恋仲になったりなんて聞かされたら寝込まずにはいられませんでしたからね』

 

 八千代さんが日本で起きている事や僕の恋人がりそなだって知ったら、寝込まずにいられるだろうか? 怖くて考えたくもない。

 

『それで私に相談と言うのは何でしょうか?』

 

「は、はい……私がこうして元気になれたのは、私の主人である、ルナ様や皆からの手紙のおかげと言うのは、桜小路遊星様からお聞きしていますでしょうか?」

 

『ええ、聞いています……正直信じ難い話ですけど、旦那様から聞きましたし、小倉さんと言う実例もありますから。手紙が届いたと言う話も理解しました』

 

「そのルナ様から手紙にですね。『其方の私に君のメイド服姿を絶対に見せるな。君の身の安全の為にも。見せたら君のした事を決して許さない』という内容が書かれて……えっ? あの、や、八千代さん?」

 

 話している途中で言葉が止まってしまった。

 だって……電話越しに八千代さんが泣いている声が聞こえて来たから。

 

『うぅ……ま、まさか……あのルナ様が……そ、そんなまともな忠告をするなんて……あぁっ、ど、どうして此方のルナ様は、ああなって……』

 

 もう八千代さんは大泣きしてる。そう言えば桜小路遊星様も似たような事を言っていたなあ、なんて少し僕も現実逃避しながら、八千代さんが落ち着くのを待った。

 

『手紙の内容は分かりました。私個人としても出来ればそうして貰いたいです。ルナ様……いえ、此処はあえて奥様と呼びますが、奥様は小倉さんのメイド服姿を今も諦めていないでしょう』

 

「……実は其方のルナ様と約束してしまって」

 

『……はっ?』

 

「ア、アトレさんに掛かって来た電話の応対をしていた時に、其方のルナ様から年末に桜屋敷にご帰宅されるので、その時にメイド姿で出迎えてくれとお願いされました……手紙を見つけたのはその後なので知らずに了承してしまったんです」

 

『…………』

 

 返答がすぐに来ない事が……こんなにも怖いと思った事がない。

 

『……小倉さん? 今少し時間は宜しいでしょうか?』

 

「は、はい! 山吹メイド長!」

 

 思わず桜屋敷でメイドをしていた頃に戻ってしまったような気がしながら僕は八千代さんから、厳しいお叱りの言葉を1時間以上正座しながら電話越しに聞かされた。

 うぅ……これでも怖いのに……まだ本番が年末に待っていると思うと、凄く怖くて仕方がない。

 

『良いですか、小倉さん。本当に2度と奥様に対して女装関連で喜ぶような発言をしてはいけませんからね』

 

「はい! この度は本当に申し訳ありませんでした!」

 

『分かってくれたようで何よりです。それで年末の約束の件ですが、私が奥様と旦那様よりも数日早く日本に帰国しますから安心して下さい』

 

「……えっ? 八千代さんがルナ様と桜小路遊星様よりも数日に早く帰国ですか?」

 

『ええ、そうです。小倉さんにはアメリカに居た頃に話しましたが、日本にいる才華様とお嬢様が心配なので』

 

 ……。

 

『それに桜屋敷には奥様と旦那様に湊様だけではなく、瑞穂様にユルシュール様もお泊りになられるのですから、壱与と九千代がいるから大丈夫なんてとても思えません。奥様と旦那様のお出迎えは壱与に任せて、私が皆様への応対をします。なので、小倉様がメイド服に着替えようとしたら即座に取り上げるので安心して下さい』

 

 …………何故だろうか?

 ルナ様の問題が解決しそうで嬉しい筈なのに……身体の震えが抑えられない。

 フィリア・クリスマス・コレクション前に、僕は無事でいられるのかな?




ジャンが選ぶ審査員は誰なのでしょうね?
彼は朝日の事も知っていますからね。
因みに八千代さんは本気で朝日はバーベナ学院に通っているとまだ思っています。
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