月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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今回も遊星sideです。
次回かその次辺りで中旬は終わりとなります。

AYM様、佐藤浩様、誤字報告ありがとうございました!


十一月中旬(遊星side)19

side遊星

 

「と言う訳で、何とか才華さんはラフォーレさんに男性として会うのを免れたみたいだよ」

 

 夕食の席で僕は今日の顛末をりそなとルミネさんに話した。

 ルミネさんは心から安堵したように息を吐いている。もしかしたら今日で才華さんのデザイナーとしての人生は終わっていたかも知れないから、安堵する気持ちは僕も良く分かる。

 本当に、何とか猶予が出来て良かった。

 

「取り敢えず良かったです。まだ、本当の意味で安心出来ませんけど、少しは猶予が出来たんですね」

 

「下の兄に報告していなかった点は減点ですが、あの甥にしては上手く交渉出来たと思いますよ」

 

 厳しい意見は言ってるけど、りそなもちゃんと才華さんを認めているみたいで良かった。

 

「ただ、これで甥はもう後が本当にありませんね」

 

「うん」

 

 猶予を得た代わりに、才華さんはラフォーレさんに認められる衣装を製作しないといけない。

 出来なかったらどうなってしまうのかは……正直考えたくない。

 だけど、才華さん本人も認めたうえで条件として出されている以上、僕が手伝う事は出来ない。ラフォーレさんなら衣装を見て、他の人の手が入っているかどうかも見分けられる。お父様も実力を認めていて、ジャンの会社で副社長を務めているんだから間違いなくバレてしまう。

 だから、幾ら総合部門の方の衣装製作や準備があるとしても、僕は手伝えない。何よりも……。

 

「ラフォーレさんに才華さんの事が大蔵家の親戚だと知られてしまったのに加えて、調査員としての立場の事もありますから僕は頼まれても手伝えなくなりました」

 

「……そうですよね」

 

 りそなが才華さんの事を『甥』って呼んでいた事に驚いていたルミネさんも、改めて現状を考えて深刻そうにしている。

 僕の方の衣装が完成して、フィリア・クリスマス・コレクションまでまだ時間があるとしても、才華さん達に協力は出来ない。

 

「下の兄は学生の身分だけじゃなくて、調査員としての立場もあります。総学院長としての彼の立場としては、協力は良しとしないでしょう」

 

 調査員としての立場をラフォーレさんに知られていなかったら手を貸せた。

 でも……僕とカリンさんが調査員であることを知られてしまっている。知られてしまった今、参加者でもない僕が才華さん達の総合部門の衣装製作を手伝う事は駄目。してしまったら……。

 

「下手にこれ以上、下の兄が何かをすれば『やっぱり親戚を助けるのか?』と疑われてしまいます。彼がカリンさんと下の兄の調査員続投を決定したのは、公正に判断すると信じてくれているからなので……甥には頑張って貰うしかありません。因みに彼には私の事はどう伝えたんですか?」

 

「りそなに関しては、才華さんがゴーストをやらせていた事を知って凄く怒っているって伝えたよ」

 

「実際そうですからね。まだ私は甥を許していませんから」

 

「……ごめんなさい、才華さん。私も同罪だからフォロー出来ない」

 

 本当に才華さんには頑張って貰うしかない。頑張ってください、才華さん。

 

「あっ。そうだ。小倉さん」

 

「はい、何ですかルミネさん?」

 

「実は謝罪の事で今日の総合部門での集まりの時に、才華さんを通じてエストさんの都合の良い日は何時かって聞いたら、早い内に済ませたいと言われて、明日の夜なら問題ないって言われたんです」

 

 明日? 随分早い。

 ……いや、早い方が良い。これから才華さんとエストさんは、総合部門だけじゃなくて服飾部門の衣装製作にも専念しないといけない。

 なら確かにこの問題に関しては早い方が良いよね。

 

「僕の方も問題はありません。アトレさんの方は確認したんですか?」

 

「はい。アトレさんも、問題ないそうです」

 

 やっぱり、1人1人よりも全員で一度に済ませられた方が良いから良かった。

 

「ああ、因みに私は行きませんからね。もう彼女への謝罪は終わっていますから」

 

「えっ!? 総裁殿……じゃなくてりそなさんがエストさんに!?」

 

「いや、何で驚くんですか、ルミネさん。私も甥や貴女達の行為を見逃していた訳なんですから謝るのは当然の事ですよ」

 

「……本当に私達って考えが甘かったんですね」

 

 落ち込んでいる、ルミネさんを慰めたいけど……僕の立場的に慰められない。それにエストさんに謝罪するとしても、僕の性別に関してはまだ話せないし。

 

「まあ、運よく私に知られずに甥の考え通りに上手く行っても、叱る事はしていましたよ。でないと今回上手くいったから次もなんて事をされて取り返しのつかない事になったら本当に困りますから」

 

 うん。結構、最初の頃は才華さんは危ない事が多かったからね。

 思わず頷いていると、ルミネさんが僕に顔を向けて来た。

 

「そう言えば才華さんが総学院長と会って話をしていたって聞きましたけど、小倉さんはその事を知っていたんですか?」

 

「ええと……知っていました。一番最初の時は、私が訪ねに来たラフォーレさんにお願いしたのもあって」

 

「総学院長が小倉さんを訪ねに? ……それってもしかして、私が問題を起こした日ですか?」

 

 し、しまった!? 

 余計な事まで話しちゃった。ど、どうしよう?

 りそなに視線を思わず向けてしまう。向けられたりそなは仕方がないと言うように頷いてくれた。ありがとう、りそな!

 

「今更隠しても仕方ありませんが、確かに下の兄に総学院長の彼が接触したのは貴女の件も関わっています。尤も直接話して問題なしと思って貰えたようですが……此処で甥が余計な事をやらかしてくれたんですよ」

 

「才華さんが余計な事? それって一体どんな?」

 

「ぶっちゃけって言いますが、必要もないのに彼を挑発してくれて危うく甥と彼がキスする寸前までいったそうですよ」

 

「え゛!? さ、才華さんと総学院長が……キ、キス!?」

 

「あの! してませんから安心して下さい! はい! される前に何とか離れて貰えましたから」

 

 前にもこんなことがあったと思いながら、ルミネさんを安心させるようにその時の事を説明した。

 

「……才華さん……幾ら何でも危なすぎ」

 

 聞き終えたルミネさんは、頭が痛いと言うように額に手を当てた。

 

「それじゃあ、明日の夜の9時に桜の園のエストさんの部屋で」

 

「分かりました」

 

 夜遅いけど、明日は放課後に学院で作業をすれば良いから問題ない。

 部屋を出ていくルミネさんの見送りを終えると、僕はそのまま食器の片づけを始めた。

 

「……それでちゃんとルナちょむのところのメイド長に相談したんですか?」

 

「うっ……うん。八千代さんに相談したよ」

 

「それでどうなったんですか?」

 

「……八千代さんはルナ様と桜小路遊星様よりも先に日本に帰国するらしくて、日本に帰国したら僕から桜小路家のメイド服を預かるって事になったんだよ」

 

「なるほど。それだったらルナちょむの方は解決したも同然ですね」

 

 うん。りそなの言う通り、これでルナ様との約束の問題は解決出来た。

 ……解決出来たんだけど……別の問題は起きてしまう。八千代さんがフィリア・クリスマス・コレクションが開催される数日前に帰国すると言う事は、どうやってもこれまで秘密にしていた事が知られてしまう。

 日本に帰国した八千代さんは実家に挨拶ぐらいは行くと思うけど、宿泊する場所は桜屋敷。

 才華さんとアトレさんが暮らしている桜の園にも来るだろうから……うん、どうやっても無理だ。

 

「ルナちょむとアメリカの下の兄も止められないでしょうね。あのメイド長が帰国する理由にはミナトン、スイスの人、京都の人を迎える準備もありますから」

 

「うぅ……ルナ様との約束の方は解決できたのに、まさか八千代さんが早く帰国するなんて……覚悟はしていたけど、やっぱり怖いよ」

 

「うわっ。完全にトラウマになっていますね。いや、私もあのメイド長に叱られる側かも知れませんから他人事ではないんですけどね」

 

 電話越しでも本当に怖かったのに、今度は直接叱られる。

 土下座しても許してくれないよね、きっと。フィリア・クリスマス・コレクション前に八千代さんに叱られると思うと……本当に怖くて身体の震えが抑えられない。

 

「遊星さん。私もあのメイド長には一緒に事情を説明しますから。それに……一番不味いのは遊星さんよりもルナちょむとアメリカの下の兄の方でしょう」

 

 ……そうかも知れない。

 八千代さんは僕と同じように桜小路遊星様は女装を止めたと思っている。なのに隠れて続けていて、ご子息である才華さんにも影響を与えたとか知ったら……。

 

「……富士の樹海に行きたい」

 

「いや、気持ちは分かりますが、そんな事を言わないで下さい。本当に。せっかく人生2度目の恋に成功して、私の人生これからバラ色になるんですから」

 

 ちょっと恥ずかしくなって顔が赤くなってしまった。

 うん。そうだよね。僕も恋人が出来たんだから、もっと前向きにならないと。

 

「差し当たってフィリア・クリスマス・コレクションで私が着る予定の衣装の製作の方は進んでいますか?」

 

「進んでるから安心して。型紙も完成したし。もう少ししたら仮縫いにも入れるから」

 

「その時を楽しみに待っています」

 

 良かった。最初は拒否されていたけど、りそなも今は本当に乗り気のようだ。

 絶対にフィリア・クリスマス・コレクションを見ている人達の心に残るような衣装を製作するからね。あっ、そう言えば……。

 

「そうだ、りそな」

 

「何ですか?」

 

「実は今日ラフォーレさんが教えてくれたんだけど、ラフォーレさんもりそなと同じように今年のフィリア・クリスマス・コレクションの審査員を辞退したそうですよ」

 

「えっ? マジですか? 毎年どれだけ忙しくてもフィリア・クリスマス・コレクションの審査員を辞退しなかったのに?」

 

 本当に驚いたと言うようにりそなは目を見開いた。

 

「いや、本当に驚かされましたよ。だって今年は例年よりも服飾部門の生徒達のやる気が凄いんですからね。そんな機会を私と長年方針でやりあっていた彼が見逃すなんて信じられません」

 

 りそなの言う通りだ。

 だって服飾界でトップに位置するジャンが審査員として来るだけじゃなくて、瑞穂さんやユーシェさんのような有名なデザイナーだって来るんだから。

 そんな人達に高評価を貰えるだけで、一種のステータスになる。将来本当に服飾の世界で生きようとする生徒達からすれば、この機会を逃したくない筈だ。

 そんな中で製作される衣装を最前列で見られる機会を、ラフォーレさんは手放した。きっとお父様も知れば驚くに違いない。

 

「ただ才華さんとエストさんの服飾部門の方の衣装の点検は、ラフォーレさんがするそうだよ」

 

「一番目を向けている相手の衣装は確認されてしまう訳ですか。なるほど。甥とその主人の彼女に狙いを定めていると。それに彼の事ですから、フィリア・クリスマス・コレクションが終わった後に話がしたいとか言っていそうな気がします」

 

 それは……確かに在り得そうだ。

 勧誘とかは個人的な話になるから、その辺りの事は僕とカリンさんには話してくれなかった

 ラフォーレさんが人生の目的を諦めていない以上、才華さんとエストさんの才能を見逃す筈がない。今はフィリア・クリスマス・コレクションの成功をラフォーレさんは第一にしているようだから無理やりな勧誘はしないけど、フィリア・クリスマス・コレクション後には積極的な勧誘はあると僕も思う。

 

「その辺りは甥もその主人も覚悟しての事でしょう」

 

 才華さんの事情にエストさんを巻き込んでしまった事に、本当に申し訳なさを感じる。その辺りの事も明日エストさんと会った時に確認して謝罪しないと。

 

「それともう1つ報告があって、ラフォーレさんの代わりに審査する人はジャンが選ぶらしいよ」

 

「えっ、マジですか?」

 

「うん、マジ」

 

 一体誰なのかな、ジャンが選ぶ人。

 お父様は違うそうだから、ジャンの会社の人。或いはセス先生やセシルさんもあるかも。もしかしたら僕がまだ会っていない『伝説の七人』の誰かかな?

 

「……あの変態は下の兄の事を知っていますから……いや、まさか……やりそうですね……アメリカの方もこっちの方も、頼まれたら絶対に黙っているでしょうし」

 

「どうしたの? りそな?」

 

「いやいや何でもありません」

 

 その顔は何でもないって顔じゃないよね。でも、話さないと言う事は何か理由があるんだろうから聞かないでおこう。

 ん? そう言えば、りそなはどんな形でジャンにあったんだろう?

 

「ねえ、りそな?」

 

「何ですか?」

 

「今更なんだけど、りそなは何時頃ジャンに会ったの? やっぱりパリ校に通っていた頃?」

 

 りそながパリ校に通っていた頃なら、ジャンはパリ本校の理事長の筈だし。ヨーロッパの学校は日本のように入学式はないから、学院内を歩いていた時に会ったとかかな?

 或いはパリに桜小路遊星様を訪ねに来た時か?

 

「彼との出会いですか……正直思い出したくなかったですね」

 

「えっ!? どうして!?」

 

 本当に嫌そうな顔をしてる。そ、そんなにジャンとりそなの出会いは悪かったの!?

 

「私と彼が最初に出会った時、彼は『小倉朝日』に女装したアメリカの下の兄に背後から抱き着いて目隠していましたよ」

 

「………」

 

 ちょっと自分でも、聞かなければ良かったかもと思ってしまった。

 えっ? 本当にそれがりそなとジャンの最初の出会いなの? いや、それよりもパリの街中でって……人目がある場所でやられていたらちょっと嫌だなあ。

 

「因みに最初に街の中で会った時の彼の第一声は『愛』とか叫んでいました。思わず『変態だ』って叫びましたよ」

 

 ……ごめん、ジャン。ちょっと僕もフォロー出来ないかも。

 

「その辺りの事を追求しようとしたら、『君はマダム朝日が変態じゃないとでも?』と言われて悔しい思いをさせられました」

 

 ぐうの音も出なかった。最近はりそなと恋人になれて、ルミネさんも一緒に食事をする事が多いから家では男性物の服を着るようになって来てるけど……外に出れば女装しないといけない生活には変わりないから……うん、変態だ。

 同じ事を僕が言われたら結構落ち込む。早く外でも男性物を着て歩けるようになりたい。

 

「まあ、そんな出会い方だったので、兄達と私個人としては余り関わりたくない人ですね」

 

 どうやら僕が大好きな彼は、りそなにとって嫌いな人種のようだ。

 

「ただ私個人の評価はともかくとして、今一番遊星さんが喜ぶ評価をくれるのは彼だと言う事は認めていますよ」

 

 何だかんだ言ってりそなもジャンを認めているのかも。流石、ジャン。

 タイプの違う大蔵三兄弟全員と仲良く出来る人なんて、彼ぐらいかもしれない。

 

「後ろから抱き着かれて嫌がっていなかったアメリカの下の兄を見て、あの頃は彼がゲイでない事を知って安堵しました。恋人がいても迫られたら受け入れてしまいそうでしたから」

 

 誰が? 桜小路遊星様はないよね。

 後、僕も無いからね。女装しないといけない生活なのは諦めがついているけど、恋愛感情はノーマルだよ……近親婚万歳になったけどね。

 さて、洗い物も終わって気分転換も出来たからそろそろ僕も作業に戻らないと。

 

「じゃあ、僕は作業に戻るね」

 

「見ていて良いですか?」

 

「うん、勿論」

 

 学生でないりそなは、僕の衣装製作に手を貸す事が出来ない。

 桜小路遊星様と一緒にパリコレで最優秀賞を受賞した時のような事は、もう出来ない。

 だけど、傍に居て見ていてくれるだけで僕のやる気は湧いて来る。必ずフィリア・クリスマス・コレクションに来る人達に、誰よりも大切な人が輝く衣装を製作すると誓いながら僕は作業に戻った。




次回は遂に全員でエストへの謝罪となります。
どうなるかはお待ちください。

因みにりそなはジャンが呼ぶ相手をある程度予測できていますが、その相手を知って遊星が緊張しないように黙っています。
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