月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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中旬に入ります。
八千代の問題が解決して、残るは下旬のイベントとなります。
もう暫らくお付き合いして頂けると嬉しいです。

烏瑠様、禍霊夢様、えりのる様、誤字報告ありがとうございました!


十二月中旬3

side才華

 

「………」

 

 朝早くに掛かってきた電話に僕は頭を抱えたくなった。

 いや、電話以外にもパソコンに送られてきたお父様のメールを読んでいたところで既に頭を抱えたくなっていたけど、追い打ちをかけるように掛かってきた電話でもう抱えるしかなくなってしまった。

 それでも僅かな可能性に縋る気持ちで、電話の相手である九千代に確認する。

 

「こ、九千代……もう1度言ってくれるかな?」

 

『は、はい……お、伯母が……桜小路家のメイド長である山吹八千代伯母様が本日の夜、日本に帰国します』

 

 現実は変わらなかった。覚悟はしていたけど、遂にこの日が来てしまった。

 お父様から送られて来たメールでも、僕の家である桜小路分家のメイド長で、九千代の伯母である八千代が今日の夜に帰国する事が書かれていた。

 不味いとしか言えない。お父様とお母様は色々とあったけど、僕がフィリア学院に女装して通っている事を認めてくれた。まあ、まだ話していないけど僕が女装趣味に目覚めてしまった原因は、2人にあるからこれに関しては、小倉さんに叱られる前から認めるしかないと思っていた。

 ……僕の想像以上に、現状が不味い事になってしまったけどね。

 とにかく、最初の頃は家のメイド長である八千代もお父様とお母様を味方にすれば説得出来ると思っていた。でも……今は違う。

 何せ、バレてしまったら桜小路分家と無関係のアーノッツ家の存続が危ない状況にまで追い込まれてしまっている。しかも、その原因は僕の発案から始まっていて状況は変わっていない。

 

『わ、若……どうしましょう? アトレお嬢様はご自身が説得すると言っていますが』

 

「いや、僕も会いに行くよ」

 

 製作の追い込みに入っているけど、こればかりはアトレと九千代に頼る訳にはいかない。

 八千代に会って、僕が直接説明しないといけないんだ。

 ……ただ、お父様とお母様も話せずにいた事なんだよね。何せ、八千代は壱与よりも長く家に仕えている。それこそお母様が桜小路分家を興す前から仕えていたらしい。その分、八千代の桜小路分家に対する思いはそれこそ興したお母様よりも強い。

 正直言って八千代が僕やアトレと一緒に日本に帰国していたら、説得出来た自信は今もない。九千代は流されやすいけど、八千代は桜小路分家の事を第一に考えて行動する。

 壱与や伯父様は予想に反して好意的に僕の意見を聞いてくれたけど、八千代は小倉さん同様に反対側に立ってどんな手を使っても僕の行動を止めた筈だ。事前に総裁殿に連絡したりね。

 うん。やっぱり僕も八千代とは話さないといけない。それに……。

 

「桜屋敷に僕がいないと分かれば、すぐにおかしいって気付かれる。桜の園の最上階のアトレの部屋には、アトリエや服飾関係の物もないから、八千代ならすぐに僕が住んでないって気付くよ」

 

『あっ! そう言えばそうでした』

 

 事情を知らない八千代は、今も僕はフィリア学院に通えなかった傷心で桜屋敷で過ごしていると思っている。

 なのに桜屋敷で生活している様子がないと分かれば怪しむに決まっている。同様に服飾関係の物が一切ないアトレの部屋も同じだ。そして……この部屋は事情を知らない八千代には見せられない。

 狭い部屋だし、何よりも男性物の服が無いんだから。下着に至るまで女性物の服しかないからね、この部屋には。

 

「アトレにもそう伝えておいて」

 

『分かりました。伯母の出迎えには八十島さんが向かうので、大体私達が帰国した時と同じ時間帯になると思います』

 

「分かった。エストにも伝えて許可を貰っておくよ」

 

 製作作業も追い込みに入っているけど、八千代の問題を放置なんて出来ない。

 九千代との電話を切って、僕は気が重くなりながらも制服に着替える。

 

「はあ、出来る事なら八千代もお父様とお母様と一緒に帰国して貰いたかったよ」

 

 でも、それは僕の我儘だ。

 と言うのも、八千代がお父様とお母様よりも早く日本に帰国するのは、何と瑞穂さんやユルシュールさん、そして湊さんを桜屋敷に出迎える為だ。

 3人がフィリア・クリスマス・コレクションの審査員を務める事は知っている。それで宿泊する場所として、桜屋敷が選ばれた。

 お父様とお母様もフィリア・クリスマス・コレクションが行なわれる時には、日本に帰国するから久々に友人同士で過ごそうと言う事らしい。おかしな話ではないし、友人同士で集まるのは素晴らしい事だと僕も思う。

 問題は今の桜屋敷にいる使用人が壱与1人と言う事だ。言うまでもなく、桜屋敷は広い。

 小倉さんを雇うまで長年1人で屋敷の管理を務めていた壱与は本当に凄いけど、幾ら気心の知れた友人とは言え湊さん以外は家柄的にもデザイナーとしても有名な人達だ。失礼があってはならないと思った八千代が帰国するのは頷ける。

 

「……いや、今気づいたけど、瑞穂さん達が桜屋敷で過ごす間、僕は戻れないよね」

 

 伯父様の話だと3人も僕がしでかした事に、大層お怒りになったそうだから。

 審査を受けさせて貰うだけでも温情だと分かっている。それでも親しかった相手に嫌われてしまったのは、やっぱり悲しい。

 気が重くなって溜め息を吐きながら、僕は部屋を出る。

 

「おはよう……って、また暗い顔。今度は一体どうしたの?」

 

 相変わらず八日堂朔莉は、僕の部屋の前で待ってくれている。

 今から思えば、彼女がこうして毎朝僕の部屋の前に来てくれていたのは、僕の女装に不備がないかどうかを確認してくれていたのかも知れない。

 実際、一度早くエストの部屋に行く事ばかり考えて身嗜みを疎かにしてしまった時は注意してくれた。

 当時は気が付かなかったけど、こうして知った今では八日堂朔莉には本当に感謝するしかない。変態だけどね。

 

「実はアメリカの桜小路家のメイド長を務めている方が、本日の夜に帰国されるのです」

 

「ああ、そう言う事ね。で、その相手は貴方の現状を知らないと言う事なのね」

 

 僅かな説明だけで、こっちの事情を察してくれたようだ。話が早くて本当に助かる。

 

「アメリカの桜小路家の方々は説明出来なかったの?」

 

「説明すれば、即座に日本に帰国して私の首に縄を着けてでもアメリカに連れ帰ったと思います」

 

 エストの従者に関しては、『一身上での都合により』とかで誤魔化していたと思う。実際、文化祭前だったらそれで通じていたと思うし。

 

「いや! こうして朝陽さんと毎朝挨拶して、その白い髪を見るのが今の私の生きがいなの!」

 

 だとしたら君の生きがいはもうすぐいなくなるよ。僕が日本に居られるのは、半月もないからね。

 新しい生きがいを見つけてくれ。勿論、ルミねえ以外で。

 

「それでまさかと思うけど、此処まで来て朝陽さんがフィリア・クリスマス・コレクションに参加出来ないなんてことは無いわよね?」

 

「それに関しては大丈夫なのでご安心下さい」

 

 幾ら僕の行動に思うところが多分にあるであろう八千代でも、此処まで話が進んでしまっているフィリア・クリスマス・コレクションへの参加を辞退しろなんて事は言えない筈だ。

 僕の班にはジャスティーヌ嬢がいるからね。彼女の事も説明して、フィリア・クリスマス・コレクションが終わるまでは我慢して貰おう。終わった後に、八千代の気が済むまで叱られる事は覚悟している。

 

「良かった。朝陽さん1人いなくなるだけでも舞台は失敗になるんだから、ちゃんと参加してね」

 

「勿論参加します。私のお願いで皆様に参加して頂いたのに、此処に来て私のせいで失敗なんて赦されることではありませんから」

 

 何としても八千代を説得しなければいけない。

 

「と言うよりも、日本に帰国する前にそのメイド長に事情を説明して説得出来なかったの?」

 

「色々と複雑な事情があるそうです」

 

 お父様もお母様も八千代には頭が上がらないからね。

 八日堂朔莉と別れて、僕はもう1人事情を説明しないといけない相手である主人兼大切な人が待つ部屋に向かった。

 

「そう……桜小路家のメイド長さんが日本に帰国して来るんだ」

 

「はい。本日の夜にお嬢様も訪れた桜小路家に帰って来ます。大変申し訳ありませんが、山吹メイド長に事情を説明する為に、本日の夜はお嬢様と一緒に製作作業が出来なくなりました」

 

「山吹って……もしかして?」

 

「アトレお嬢様の付き人である山吹九千代さんの伯母に当たります」

 

「なるほど……それで説得は出来そうなの、才華さん?」

 

 朝陽の意見じゃなくて才華としての意見を聞きたい訳か。望まれたんだったら仕方がない。

 

「しないといけないんだよ。八千代もこっちの事情を説明すれば、今から止めろとは言えないだろうから。ただ相当叱られるのは覚悟してるよ」

 

「そのメイド長さんって桜小路家にどのぐらい仕えているの?」

 

「家を興す前からだよ。つまり、お母様がまだ学生だった頃から仕えていたそうだから、今現在で桜小路家に仕えている人達の中では、壱与よりも長年仕えていると思う」

 

 少し驚いたようにエストは目を見開いた。

 

「そんなに長年仕えている人が、どうして急に帰国を? もしかして才華さん達がしている事がバレてしまったの?」

 

 あっ。そう言えば知らないんだっけ。

 僕の家と審査員として来る瑞穂さん達の関係を。

 

「今年のフィリア・クリスマス・コレクションに来る審査員の人達の事は知ってるよね?」

 

「勿論。その事で一時期はかなり悩んだこともあったから」

 

 やっぱりジャン・ピエール・スタンレーを始めとした瑞穂さん達が審査員をする話には、エストも心惹かれていたんだ。ただあのエステル・グリアン・アーノッツとの件があったから、考えないようにしていたのかも知れない。

 

「実はその審査員に来る人達は、皆僕の両親の友人なんだよ。審査員の内の1人、湊さんなんて僕のお母様が経営しているブランドの営業部長をやってるし。更に言えばお母様を含めた全員がフィリア学院の卒業生」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

「うん」

 

「じゃあ、もしかして才華さんはジャン・ピエール・スタンレーとも会った事があるの!?」

 

「いや、彼とは会った事がないよ。ただ伯父様とお父様は彼と友人らしい」

 

「凄いね。それじゃあ、今年のフィリア・クリスマス・コレクションには才華さんの知り合いの人達が揃って……えっ? 大丈夫なの、それって?」

 

 心配になるのは分かるよ。何せ僕の知り合いだと言う事は、当然ながら僕の本当の性別が男性だと知っている。

 ショーに参加する僕は『小倉朝陽』として出るから、女装して出る、審査員が知り合いだったらすぐに正体がバレて、本来なら審査の対象外にされてもおかしくない。だけど、その問題に関しては、伯父様や小倉さんのおかげで解決している。

 

「その事に関しては安心して良いよ。実はジャン・ピエール・スタンレーと彼が連れて来る誰か以外は、僕が性別を偽ってフィリア学院に通っている事を知っているから」

 

「ええっ!? じゃあ、もしかして最初から才華さんの協力者なの!?」

 

「いや、それは違うよ。僕も瑞穂さん達が審査員をするって聞かされた時は本当に驚いたし、フィリア・クリスマス・コレクションの時にどう審査して貰えるのかも悩んでいたから」

 

「だったら、どうして?」

 

「先ず瑞穂さんだけど、覚えてる? 5月の時に小倉さんとアトレが京都に行ったのを?」

 

「うん、覚えてる。あ、もしかしてその時に」

 

「うん。あの頃は小倉さんとアトレの仲が悪くて、それを心配した瑞穂さんが巻き込まれて事情を説明する事になったんだって。それで怪我の功名と言うべきなのか、僕らの現状を瑞穂さんが知る事になって、審査を受けてくれるのを認めてくれたんだよ」

 

 辞めさせなかった事情は、今更語るまでもない。エストも察しているのか、納得したように頷いていた。

 

「他の2人はどうしたの?」

 

「ユルシュールさんと湊さんは、夏休みの時に小倉さんと伯父様が事情を説明してくれて説得してくれたみたい」

 

「……才華さん。本当に小倉さんには頭が上がらないね」

 

 うん。自分でもそう思う。

 これ以上に無いほどに僕は小倉さんを傷つけてしまったのに、あの人は僕を自分の出来る範囲で何時も助けてくれた。今だって、総学院長に警戒されない為に事情を説明してくれた上で距離をおいてくれている。

 はあ、何時かあの人と対等になれる日が僕には来るんだろうか?

 そっちの心配もあるけど、今は八千代の方が何よりも優先しないといけない。

 

「そう言った事情で、今日の夜はエストの部屋で作業しないで、皆との作業が終わった後にすぐに桜屋敷に行かないと行けないんだ」

 

「うん、そう言った事情じゃ仕方ないから良いよ」

 

 製作の追い込み時期なのに認めてくれたことを感謝するしかない。

 

「ありがとうございます、お優しきエストお嬢様」

 

「あっ。それで朝陽。そのメイド長さんに私の紹介は」

 

「其方に関しては後日でお願いします」

 

 八千代に会って何がしたいのかは何となく分かるけど、少し休ませてあげたいんだよ。最悪泡を吹いて倒れかねないから。

 

 

 

 

side遊星

 

 覚悟していた時が来てしまった。

 朝食の時間。りそな、ルミネさん、そしてカリンさんと一緒に食事をする日常になった光景。安らかな一時に笑顔で食事をしている中……八十島さんから電話が掛かってきた。

 

『そう言う訳で、山吹メイド長が本日の夜に桜屋敷にお戻りになられます』

 

「………」

 

「こ、小倉さん……」

 

「下の兄。気を確り持って下さい」

 

「難儀ですね」

 

 皆が心配するぐらいに、今の僕の顔色は悪いようだ。

 覚悟はしていたし、八千代さんがルナ様や桜小路遊星様よりも早くに日本に戻って来るのは知っていたけど……改めてこの日を迎えてしまった事に身体が震えてしまう。

 

「り、りそなさん……もしかして小倉さんは」

 

「ええ、あのメイド長に叱られるのがトラウマになっています。本当だったら2度と怒らせたくなんてないと思っていたみたいですが」

 

「……私達の件ですよね」

 

「自覚しているようですからハッキリ言いますが、そうです。一時期アメリカで過ごした時に、甥や貴女達がしようとしている事を誤魔化したりしましたから……間違いなく叱られますね」

 

「……ち、因みに小倉さんはどう誤魔化したんですか?」

 

「……あの甥が貴女と結婚して大蔵家当主の座に就こうなんて、とんでもない事を言った事を話して誤魔化したみたいです」

 

「………そ、そう言えばしましたね……才華さんがそんな冗談を」

 

「冗談で済まされない話ですよ。お爺様が知ったらどうなっていたかと思うと、本気で私だけじゃなくて、アメリカの下の兄やルナちょむ、それに上の従兄弟も怖くなりましたからね。あのメイド長も聞いた時は、言葉を失って固まったそうですから」

 

「因みに私もりそな様達からお聞きした時は、言葉を失いました」

 

「本当にごめんなさい。冗談でも言ったらいけない話だと言うのは、私も今は自覚しています」

 

「まあ、過ぎた話はともかく。そう言った事情もあるので、あのメイド長が怒る可能性は高いです……下の兄が事情を知った時点で、既に手遅れ寸前だったとしても嘘をついて誤魔化していたのは事実ですから」

 

「うぅ……や、やっぱりそうだよね」

 

 八千代さんに怒られると聞くだけでも、身体の震えが治まらない。

 思わず流れてしまいそうな涙を必死に堪えながら、手に持っていた通話が切れた携帯をテーブルに置く。

 

「それで。あの巨人のメイドはなんと?」

 

「う、うん。八十島さんが言うには、先ず才華さん達が先に会って事情を説明するみたい。僕の方が先の方が良いかなと思ったんだけど、アトレさんが自分達から話すべきだって言ったらしくて」

 

「なるほど」

 

 りそなは考え込むように呟いた。

 

「……姪がそう言うんだったら此処は任せましょう。私達が助けてばかりでは、また甘え癖がついてしまいますから。なので、ルミネさんも今日は桜屋敷に行かないで下さい。貴女は後日、いえ、もしかしたら明日になるかも知れませんが、事実を知ったメイド長に裏方の事情を話す時に私達と一緒でお願いします」

 

「……分かりました」

 

 ルミネさんはどうやら桜屋敷に行くつもりだったようだ。

 でも、今りそなに釘を刺されてしまったから、少し納得出来ない様子だけど頷いてくれた。

 

「下の兄も1人ではメイド長に会いに行かないで下さいね」

 

「分かった。ありがとう、りそな」

 

 ちょっと情けない気持ちはあるけど……りそなや他の誰かと一緒なら怒っている八千代さんにも会えそうだ。

 ………重症だよね。ああ、やっぱりもう一生八千代さんには頭が上がらないよ。でも、ルナ様の件で八千代さんに会わないといけないのもあるから、結局は遅いか速いかの違いだ。

 今の内に覚悟は改めて決めよう。

 ……恋人であるりそなの前で、情けない姿はもう見せたくないしね。

 

「とにかく、メイド長には事実を話して一先ずは問題はないと言う事を分かって貰うと言う事で……全部終わった後に倒れるかも知れませんが」

 

 ……その事はあんまり言わないで欲しい。

 

「あ、あの……りそな。やっぱりその時には僕も居ないと駄目かな?」

 

「……凄く気持ちは分かりますが、居て下さい。正直言って、私もかなり頭が痛い事になるのは分かっていますが、此処まで分かってしまいましたから、うやむやにも出来ないので」

 

 ごもっともな意見だ。

 でも……本当に嫌だ。だって、もし本当にサーシャさんが言っていたことが当たっていたりしたら……うん、自殺するしかないよ。富士の樹海のルートを調べ直しておいた方が良いかな?

 

「……クロンメリンさん」

 

「何でしょうか、ルミネお嬢様?」

 

「もしかしてですけど……今の話は聞かない方が良かったんでしょうか?」

 

「お気持ちは分かります。私も難儀だと心から思っていますので」

 

「出来ればこれ以上、ショックを受けるような事は知りたくないなあ」




遂に次回は帰国した八千代が真実を知る時が来ます。
先ずは桜小路兄妹、姪の九千代、そして壱与から話で、それから裏方の事情を朝日とりそなが別の日に話します。

『帰国した桜小路家のメイド長』

「ふぅ~、久しぶりの日本ですね」

 空港のロビーに辿り着いた八千代は、迎えに来ている筈の壱与を探す為に周囲を見回す。

「山吹メイド長! 此方です!」

 呼び声に八千代が目を向けてみると、探していた壱与が大きく手を振っていた。

「壱与。久しぶりですね」

「ええ、お久しぶりです、山吹メイド長」

「別に肩書きで呼ばなくても良いです。それに今の桜屋敷のメイド長は貴女なのですから」

「いえ、私にとってはやはりメイド長は山吹メイド長ただお1人ですので」

 2人は久々の再会を喜び合う。
 本来だったら今年の年始の時に会う予定だったが、急遽八千代達がイギリスに行ってしまったので、実に十数年ぶりの再会だった。

「それで壱与。才華様とアトレお嬢様は桜屋敷に?」

「はい。お2人とも九千代さんと一緒に屋敷の方でお待ちになっています」

「そうですか」

(既に済んだことで小倉さんが叱って反省しているとは言え……やっぱり才華様には一言注意しておかないと。ルミネお嬢様との結婚して大蔵家当主になろうだなんて……ああ、やっぱり眩暈がしそう)

 冗談だとしても言ってはならないほどの問題発言。
 才華が反省したとしても、一言注意はしておこうと八千代は心に決めていた。

(それと小倉さんからメイド服を受け取っておかないと。ルナ様が我儘を言っても、服が無ければ着替えられない。これで大体の問題は解決出来る。後は、フィリア・クリスマス・コレクションに来られる皆様のお部屋の準備に専念するだけ)

 壱与に車へと案内されながら八千代はそう考えていた。

「……いよいよこの日が……私も心して挑まなければ」

 前を歩く壱与の顔が覚悟を決めた顔をしている事に気が付くことなく、桜屋敷への彼女達は向かうのだった。
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