月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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遅れましたが更新です。
先ずはあの人達が再登場です。

烏瑠様、えりのる様、誤字報告ありがとうございました!


十二月下旬(遊星side)10

side遊星

 

 フィリア・クリスマス・コレクションまで残り2日。

 それに向けてのリハーサルが明日に行なわれ終われば、次の日に本番が開催される。

 そんな中、僕は学院が終わると家には帰らずに桜屋敷に向かった。

 

「こんばんは」

 

「あっ、朝日」

 

「ちょっと」

 

「あっ、そうだった。小倉お嬢様よね……何か凄い違和感が」

 

 桜屋敷に入ると鍋島さんと百武さんが出迎えてくれた。

 もう桜小路家の使用人としての仕事は辞めて家庭を持っているお2人だけど、今回の瑞穂さん達を屋敷に泊まる為の使用人の不足から八千代さんが急遽連絡してパート扱いで雇ったらしい。

 本当だったら八十島さんと九千代さん、八千代さんの3人で何とかしようとしたらしいけど。八十島さんは桜の園のコンシェルジュの仕事もあるし。九千代さんはアトレさんの学院でのメイドとしての仕事と総合部門の練習があるから、どうしても人手が足りない。

 なので、八千代さんは昔の伝手として鍋島さんや百武さんのように嘗て桜小路家に仕えていた先輩方に連絡を入れて仕事を頼んだ。

 皆、同窓会みたいで面白そうと思ってくれたのか快く引き受けてくれたそうだ。時が流れても変わっていない先輩の皆さんの優しさには胸が感動で一杯になります。

 因みに僕には協力の連絡は当然ながらなかった。今の立場なら当たり前なんだけど……ちょっと寂しさを感じる。やっぱり僕にとっても、この桜屋敷も彼方の桜屋敷も大切な場所だから。

 

「別に普段通りで構いませんよ」

 

「そう。じゃあ、悪いけどそうさせて貰うわね」

 

「遊星様なら敬語使えるんだけどねー。朝日だと仕事仲間って言うのが抜けきれないんだよね」

 

 嬉しいような悲しいような複雑な気持ちを感じます。髪の毛さえ切れれば!

 でも、切ったらモロッコに送るってお父様に言われてるから無理。

 

「それで朝日はどうして桜屋敷に来たの?」

 

「って言うか来て良いの? 瑞穂様達が此方に泊まりに来るのってアレでしょう? 学院のイベントの審査員をやるからでしょう?」

 

 お2人の疑問は尤もだ。フィリア・クリスマス・コレクションの審査員をする瑞穂さん達と事前に学生が会うのは、本当だったらいけない事だ。だけど……。

 

「私の衣装は皆さんから審査をされませんから」

 

 製作した衣装は一番最初に舞台に出るけど、審査を受けないショーの流れを説明する為の衣装。

 勿論、審査されないんだからと思って適当な衣装なんて製作していない。モデルとして舞台に立つのは、僕の大切な人。りそなだ。

 衣装はもう学院に提出したけど、製作が終わるまで一切手を抜かずに心を込めて一針一針縫った僕の今できる最高の衣装だ。

 評価されない事なんて関係ない。ショーを見に来た人達の心に残る衣装を製作出来たと思ってる。

 

「なので、審査員である皆さんと事前に会うのは問題ありません。それに桜屋敷に来られる皆さんを出迎えると約束もしていますし」

 

「ああ、そう言う事情だったのね」

 

「なら問題ないと思うけど……私達の手伝いをしたりとかは駄目だからね」

 

「そうそう。昔のように朝日と仕事したいなって思わなくもないけど……八千代さん。相当溜め込んでるからね」

 

「本当にね。若が旦那様と同じ事をしていたのは驚いたけど、あの時よりもかなり不味いんでしょう?」

 

 鍋島さん達も僕らの事情を知っている。文化祭の時の僕が倒れて入院した時に、才華さん達がフィリア学院に通っている事を説明したから。

 ……それにしても、八千代さんが相当に溜め込んでいるって……怖くて身体が震える。

 

「えっ? ちょっ!? 大丈夫なの朝日!?」

 

「うわっ。いよいよからトラウマになっているって教えて貰ったけど、これは重症だね」

 

「は、はい……」

 

 機嫌が悪い八千代さんに会うなんて、怖くて仕方がない。深呼吸をして落ち着いてから……。

 

「2人とも来客があったようですが、一体どちらの方ですか?」

 

「わあっ! ごめんなさい、八千代さん!?」

 

「えっ? いきなり謝られましても」

 

 思わず謝ってしまった僕に八千代さんは戸惑った。困惑させてごめんなさい!

 

「来客は小倉さんでしたか」

 

「はい……そのルナさ……桜小路家の御当主様との約束もありますし。此方にお泊りになられる皆さんともお会いしたいと思いまして」

 

「ええ、それは私も分かっています。思うところは山と言う程にありますが、余り奥様を追い詰めすぎると元気が無くなって仕事にも影響が出る恐れがあるので……本当に頭が痛い」

 

 八千代さん。相当疲れているみたいだ。

 もしかしたら僕らが事情を説明した後にも、何かあったのかも知れない。怖くて聞けないし、僕の精神も危なくなりそうだから今は聞かないようにしよう、うん。

 仕事に戻る鍋島さんと百武さんと離れて、僕は応接室で八千代さんにお茶を淹れて貰った。

 

「小倉さんも変わりましたね」

 

「はい? 何がでしょうか?」

 

「アメリカでお過ごしになられていた時は、目を光らせていないと率先して手伝ってしまいそうだったのに。今はこうして私がお茶を淹れられるのを待てるようになれたんですから」

 

 言われてみればそうだ。以前の僕だったら自分が率先して従者の仕事をしようとした。

 でも、今は八千代さんの仕事に手を出そうとしなかったし、鍋島さんと百武さんに言われるまで手伝おうなんて考えも浮かばなかった。家では家事を率先してやっているからかな?

 それとも……自分でも自覚出来ていなかったけど、お嬢様として過ごす事になれてしまってる? そうだったら……凄く落ち込む。

 

「悪い事ではないんですよ。寧ろ小倉さんと旦那様の本来の立場を考えれば当たり前の事なんですから」

 

「そ、そうですよね」

 

 でも、やっぱり家事をするのは好きなんですよ、八千代さん。

 

「それで小倉さんは衣装の製作の方は終わったんですか?」

 

「はい、勿論です。自分で言うのも何ですけど、今の私が製作出来る最高の衣装を製作出来たと思っています」

 

「私もフィリア・クリスマス・コレクションには行きますから……ええ、あの男には関わりたくありませんが、其処は我慢する事にしています」

 

 本当に八千代さんはラフォーレさんの事が苦手なようだ。

 一体昔何があったんだろう? 気になるけど、絶対に語りたくないという様子の八千代さんに質問するのは怖いので聞かないでおこう。

 

「りそな様と小倉さんの従者をしているクロンメリンさんと言う方も、後から来られるのですか?」

 

「はい。本当だったらりそなさんと一緒に来たかったんですが。名目上になってしまっていますけど、まだ理事長なので」

 

「フィリア・クリスマス・コレクションに来られる方々の接待で忙しいという事ですね」

 

「ええ、まあ」

 

 今年で辞めるとは言っても、まだりそなはフィリア学院の理事長。権限はなくても、やっぱり来られる有名な方々に会わないといけない。

 ……ジャンとも会うと聞いた時は凄く僕も行きたかったけどね。でも、今の僕の立場で会える訳がないし。と言うよりも、今更だけど僕がこっちのジャンに会って良いのだろうか?

 こっちのジャンにとって僕はどんな存在なんだろう? 桜小路遊星様と同一人物だから。ジャンは僕に会いたいと思ったのかな?

 

「小倉さん?」

 

「あっ! いえ、何でもありません。それでカリンさんの方は……その……文化祭の時のようなことが起きないようにする為に動いています」

 

「はぁ……今も昔もフィリア学院は騒がしいようですね。才華様が日本のフィリア学院に通いたいと仰った時に、私の方でも調べておけば良かったと後悔しています」

 

 フィリア学院に関しては僕も驚いたから八千代さんの気持ちは分かる。

 初年度の時も湊に対して批判的な意見があったのは分かっていたけど、今のフィリア学院の問題はその時の比じゃない。お爺様の干渉に関してもそうだけど、パル子さん達に対して酷い嫌がらせもあった。

 ……大切な思い出がある場所だっただけに、僕もショックを受けた。でも、ラフォーレさんも問題に気付いてくれたし、りそなの話だとカリンさんが提出した資料を見て他の役員の人達も解決に向けて動いてくれるそうだ。

 もうすぐフィリア学院を辞める事になるけど、それでも学院に通う人達が夢に向かって進めるような学院になって欲しいなあ。

 そんな事を考えていたら、応接室の扉をノックする音が聞こえて来た。

 

「失礼します。山吹メイド長。花乃宮家の御当主様が乗られるお車が到着されました。ご一緒にユルシュール様と御付きの方も来られました」

 

「分かりました。出来れば奥様と旦那様が此方に戻られてからお出迎えしたかったんですけどね」

 

 身体の事情があるからルナ様が飛行機で日本に帰国される時間は夜遅い時間帯になってしまう。

 今は夕方頃だから、まだルナ様達は飛行機の中だ。八千代さんも仕方ない事だと言う事は分かってるし、瑞穂さん達も事情を理解してくれている。

 アレ? そう言えば?

 

「ルナ様達のお迎えにはやっぱり」

 

「ええ、壱与に頼んでおきました」

 

 やっぱり八十島さんが迎えに行ったみたいだ。

 

「では、小倉さん」

 

「はい」

 

 瑞穂さん達にも桜屋敷で出迎えるという約束をしているから、僕もホールの方に移動しないと。

 

「ようこそ当家に」

 

 ホールに移動してみると、既に屋敷内に瑞穂さん、北斗さん、ユーシェさん、そしてサーシャさんが居た。

 先ずは自分が挨拶すると八千代さんに言われたので、僕は少し離れた場所で待機する。僕の顔を見て瑞穂さんは笑顔を浮かべてくれて、北斗さん、ユーシェさん、サーシャさんは安堵したようにホッとした顔をしてくれた。

 皆さん。ご心配をかけて本当にすみません。僕はもう大丈夫です。

 

「八千代さん。お久しぶりです!」

 

「元気そうで何よりですわ、八千代。ええ、本当に色々な意味で」

 

「フフッ、美さしぶりね、やっちー。あら、何だか顔色が悪いけど、もしかして独り身が寂しいからかしら? 今も熱々な桜小路の奥様と旦那様に当てられたとか?」

 

「それ以上仰るのでしたら、屋敷から叩き出しますよ」

 

 八千代さんが全身から怒気を発している。

 凄く怖い。そしてサーシャさん。その話題は止めて下さい。

 普通の夫婦の仲の良さだったら、僕は心からルナ様と桜小路遊星様を祝福出来ていました。でも……今は無理。心から祝福出来ないでいるんです。

 主に……想像もしたくもない2人の夜の関係とかで。

 

「サ、サーシャ。その話題はお止めなさい……向こうで朝日が壁に手を着いて項垂れていますわ」

 

「えっ!? あ、朝日!? 大丈夫なの!? もしかしてまだ調子が?」

 

「だ、大丈夫です」

 

 即座に心配をかけてしまった事に罪悪感が募る。ごめんなさい、瑞穂さん。

 

「皆さん。お久しぶりです。ユーシェさん、サーシャさんも心配してくれてありがとうございました」

 

「気になさらないで結構ですわ」

 

「そうよ、朝日。貴方には何の非もないんだから」

 

「寧ろ瑞穂から事情を聞いた時は、私も言葉がありませんでしたわ。幾ら身内が理事長とは言え、学院を私物化しているような行ない。許されるものではありませんもの」

 

「ええ、その通りよ」

 

「しかもその後にも更に私物化するような行動をされようとしたそうですし……りそな様には心から同情いたします」

 

 やっぱり皆、お爺様の行動には思うところがあるようだ。

 

「ところで朝日」

 

「はい、何でしょうか、ユーシェさん?」

 

 呼ばれたので答えたら、ユーシェさんはとても嬉しそうに微笑んだ。えっ? 何で?

 

「オホホホッ! 大変気分が宜しいですわ! ルナの事は『当主』に対して、私は愛称で呼ばれる。それを目にした瞬間のルナの顔を思い浮かべるだけで笑いが込み上げて来ますわ」

 

「ユーシェ、ズルいわ。私も愛称で朝日に呼ばれてみたいのに」

 

「瑞穂は朝日の衣装を一番に製作出来ましたでしょう? それに、皆の中で私が一番朝日と会えたのは最後でしたのよ? サーシャは一番最初でしたのに」

 

「ふふっ、今でも思い出せるわ。ロンドンのホテルで会った朝日との出会いを。女装男子として成長したその姿は先達として誇らしく思えたわね」

 

「お願いですから止めて下さい」

 

 思い出すだけで男性としての僕の部分が泣きますから。

 

「はぁっ……出来ればその話題は私の前でも止めて欲しいですね」

 

「ふふっ、そんなにショックを受ける事じゃないの、やっちー」

 

「これが受けずにいられますか!? ああっ、また頭が痛くなってきました……せめて元凶がサーシャさんの方だったら、どれだけマシだった事か」

 

 ……今の言葉は聞きたくなかった。才華さんが女装を始めた元凶は、他にあると言う事だから。

 

「朝日」

 

「はい」

 

 呼ばれたのでユーシェさんに近寄った。すると、瑞穂さんも僕らの傍に寄って来た。

 

「八千代。相当疲れているみたいですわね」

 

「何処まで八千代さんには話したの?」

 

「……全部です」

 

 ユーシェさんと瑞穂さんは揃って困ったような顔を八千代さんに向けた。

 

「流石に今回ばかりは八千代に心の底から同情しますわ」

 

「八千代さん。本当にルナと桜小路家を大切に想っているから」

 

 心から同意します。

 その後、ホールで話を続けるのは不味いので、僕らは応接室に八千代さんに案内された。

 少し寂しい。以前だったら僕がメイドとしてお2人を案内する立場だったのに……今は案内されることに慣れてしまっている。

 立場を考えれば良い事なのかも知れないけど……やっぱり何処か物足りないようなものを感じた。

 

「では、朝日も衣装の方は製作し終えていますのね?」

 

「はい。ギリギリまで時間を使って製作しました。自分で言うのも何ですけど、最高の衣装を製作出来たと思っています」

 

「自信に溢れた言葉……どうやらもう遊星さんと自分を比べたりはしなくなった見たいですわね」

 

「そうかも知れません」

 

 桜小路遊星様の事は今でも凄いと思ってる。でも、以前のように彼の衣装に僕の衣装は及ばないなんて事は思わなくなった。

 年数を重ねた分は確かに及ばないかも知れないけど、そんな事は関係ない。大切な事を僕は思い出したから。

 

「良い顔が出来るようになりましたわね、朝日」

 

「えっ? そ、そうですか?」

 

「ええ、ユーシェの言う通り、今の朝日の顔は本当に素敵よ」

 

「自信を取り戻せたようで何よりです」

 

「ふふっ、これなら今年のフィリア・クリスマス・コレクションは期待出来そうですわね。卒業生と言う事で毎年動画では確認しておりましたけど……最近の日本校の質は落ちているとしか思えませんでしたもの」

 

「でも、ユーシェ。文化祭の時のショーで出された衣装には良い衣装もあったわよ。仕事があって文化祭には参加出来なかったけど、後で動画で確認したから間違いないわ」

 

「あら、そうですの?」

 

「瑞穂様の仰る通りです、ユルシュール様。私も動画を拝見しましたが、今年のフィリア学院には期待できると思っております」

 

「最優秀賞を取った衣装は勿論良かったけれど、他にも準優秀賞を取った衣装も良かったわ」

 

 瑞穂さんの評価を聞いて僕はとても嬉しくなった。

 最優秀賞を受賞したのは僕らの班。準優秀賞を獲得したのはパル子さん達だから。

 

「サーシャ。後で文化祭の動画を」

 

「うぃ。でも、ユルシュール様。見るのはフィリコレが終わった後にしておいた方が宜しくてよ」

 

「分かっていますわ。文化祭はあくまで文化祭での評価。私が審査するのはフィリア・クリスマス・コレクションなのですから。以前の作品は考慮しませんもの……そう言えば朝日」

 

「どうしました?」

 

「ちょっとした好奇心ですけど、朝日の衣装のモデルは誰が務めていますの?」

 

「あっ! それは私も気になるわ! やっぱり学院の誰か?」

 

 2人とも興味津々と言う様子で僕を見ている。

 でも、この質問に対して僕が出せる答えは決まっている。

 

「ショーの時まで内緒でお願いします」

 

「残念ですわね。本当の意味で復活した朝日が製作した衣装を、一番最初に着れる人を羨ましく思いますわ」

 

「本当ね。朝日の事だから1人で製作したんでしょうしね。私もりそなさんのように朝日に衣装を製作して貰いたかったわ」

 

 答えられなくて申し訳ないけど、りそなから絶対に自分がモデルをやる事は話すなって言われている。

 話したら暫く口を利いて貰えなくなりそうな勢いだった。なので、幾ら親しい人達でも話せない。

 

「ユルシュール様、瑞穂様。やはりこういうものは舞台に出る瞬間を待つべきでしてよ」

 

「サーシャの言う通りです。それに朝日の衣装はあくまで舞台の説明用なのです。お2人が本当に審査しなければならないのは、その後に出て来る他の衣装なのですから」

 

「……北斗とサーシャさんの言う通りね」

 

「ですわね。勿論、審査には私情を挟むつもりはありませんわ。たとえ誰の衣装であっても」

 

「私もよ」

 

 2人の言葉の隠された意味が分かった。

 本当に感謝するしかない。才華さんにおもうところはあっても、審査には私情を挟まないでしてくれるんだから。これがお兄様だったらどうなっていたのかな?

 あっ。でも、桜小路遊星様がルナ様の為に衣装に対してお父様は私情を挟まずに評価したそうだから、大丈夫だよね、うん。

 

「皆さん。只今壱与が奥様と旦那様、そして湊様と七愛様を連れてお戻りになられました」

 

「漸くですわね。これから見られる、ルナの顔を思い浮かべるだけで笑いが込み上げて来ますわ」

 

「もうユーシェったら」

 

「では、私は皆さんに先に会って来ます」

 

「あら? 朝日も此方で待っていればいいではありませんか? 以前はともかく、今の貴方の立場は私達と同じですのよ」

 

「いえ、出迎えるという約束をルナ様としていますので」

 

「ルナとの約束……メイド服でない事がせめての救いですわね」

 

 本当はメイド服姿で出迎える約束をしていました。

 

「じゃあ、私も一緒に行くわ」

 

「勿論、私も参りますわ。朝日に名前を呼ばれた時のルナの姿を早くみたいですもの」

 

 北斗さんとサーシャさんも椅子から立ち上がった。

 皆、一緒に来るようだ。応接室の扉の前で待っていてくれている八千代さんに顔を向けると、仕方ないと言うように頷いてくれた。

 

「じゃあ、皆さん。一緒に行きましょう」

 

 ルナ様と直接会うのは久しぶりだ。嬉しいという気持ちもあるけど……それと同じぐらい不安を感じる。

 出来れば何事もなく再会が終わると良いなあ。




次回はあの四人が更に登場です。

『桜小路夫妻の帰還』

「奥様、旦那様、それと湊様に七愛様。長旅お疲れさまでした。桜屋敷に到着しました」

「うわぁー! 懐かしい! 昔のままじゃん! 七愛もそう思うよね?」

「ええ、湊様……この屋敷で湊様と過ごした日々が脳裏に浮かんで来ます」

 先に車から降りた湊と七愛は、記憶に残っている姿と変わっていない桜屋敷を懐かしんだ。
 続いて桜屋敷の本来の主である桜小路ルナが、夫である桜小路遊星に手を引かれて車から降りる。

「本当に昔のままだ……壱与。改めてこの屋敷を長年守り続けてくれていた事を感謝する」

「僕からも改めてお礼を言うね。いよいよ、本当にありがとう」

「その言葉を聞けただけで涙が溢れて来ます」

「屋敷の中には皆、待ってくれているんだな?」

「はい。山吹メイド長のご依頼でもありますが、奥様に会えると聞いて先輩方も来てくれています」

「そうか。私も皆に会えるのが楽しみだ……ただ今の八千代に会うのは……」

「……怖いよね」

「いや、悪いのはどう考えてもルナとゆうちょだからね」

「桜小路遊星はともかく奥様には悪いけど、今回ばかりは自業自得」

「言われなくても分かってる……ふぅっ、とにかく何時までも此処にいる訳にはいかない。既に瑞穂とユーシェは来ているのだろう?」

「はい。山吹メイド長から連絡を受けました。後、小倉さんも既に居るそうです。りそな様は後で合流されるとの事ですが」

「よし。行くぞ、夫」

「わっ! 待ってよ、ルナ!」

「朝日に会えるから急に元気になって」

「そう言う湊様も何処か嬉しそう……大蔵遊星……月夜の晩には気を付けておけ。次は気絶じゃすませない」
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