月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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更新が遅くなって申し訳ありません。
漸く……漸く此処まで来ました。

えりのる様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!


十二月下旬13

side才華

 

「では、パル子さんもオリジナルの衣装で参加されるのですね」

 

「はい。何とか間に合わせる事が出来ました!」

 

 フィリア・クリスマス・コレクション服飾部門のショーが開催されるホールにリハーサルの為に来ていた僕は、2、3年生のリハーサルの様子を見学しながらパル子さんの報告を聞いてとても嬉しかった。

 何せパル子さんには総合部門への急な誘いや衣装製作で大変お世話になった。ショップの宣伝も兼ねて、フィリア・クリスマス・コレクションではオリジナルの衣装を出すつもりでいるとも、一緒に製作を行なっている中で聞かされていた。

 ただ間に合わない時は、授業の課題で作った服を着て参加するとも言われていたので申し訳ない気持ちもあった。だけど、パル子さんは服飾部門のオリジナルの衣装も完成させたと教えて貰えた。

 

 大変気分が良い。とても嬉しい報告だ。

 

 エストは当然本来のデザインでの衣装だし、僕が着る衣装も全力で製作してくれた。

 ジャスティーヌ嬢は言うまでもなく、本気でフィリア・クリスマス・コレクションに向けて製作にあたっていた。他にも今舞台上でリハーサルを行なっている2、3年生からも強い気迫を感じている。

 普通なら本番前のリハーサルだから少しぐらい手を抜きそうなものだけど、舞台上を歩いている先輩方の大半が本番の舞台をイメージしているかのようにウォーキングを行なっている。

 勿論今僕らが着ているのは製作した衣装じゃなくて、普通の制服だ。でも、イメージトレーニングを行なう場所としてこれ以上に最適な舞台は無い。

 リハーサルだというのに本番に近い熱気を感じる。今年のフィリア・クリスマス・コレクションは、お母様が参加されたフィリア・クリスマス・コレクションに勝るとも劣らないイベントだ。

 きっと最高に盛り上がるに違いない!

 

「服飾部門のモデルの方もパル子さんかマルキューさん、或いは班員の方々の誰かがされるのですか?」

 

「あっ、いえ。服飾のショーの方は他のクラスの子にお願いしました」

 

 エストの質問にパル子さんが答えてくれた。

 てっきり、宣伝も兼ねて服飾の方でもパル子さんかマルキューさんがモデルを務めると思っていたけど、どうやら今回は別の人に依頼していたみたいだ。

 

「私やパル子ばかりモデルをやらすよりも、他の誰かでも似合う衣装を製作出来る宣伝になるんで」

 

 タイミング良く来てくれたマルキューさんが事情を教えてくれた。

 なるほど。マルキューさんは文化祭や総合部門でモデルを務めている。総合部門には他のぱるぱるしるばーの面々も参加するけど、全く無関係な相手をモデルに選ぶのはありだ。

 寧ろマルキューさんの言う通り、1人1人に似合った衣装を用意できるという宣伝になる。

 パル子さん達は順調にプロとしての道を歩み始めているみたいだ。

 少し悔しさを感じてしまう。

 

「では、マルキューさんは服飾部門では予定通り」

 

「ああ、はい。裏方の方ですね」

 

 アパレル経営科の皆さんは、舞台の照明や音楽などの裏方を担当している。事前に連絡を入れておけば、連絡通りの照明や音楽を流してくれる。

 オリジナルの衣装で舞台に立つ僕とエストは勿論連絡済みだ。

 

「ところで何だかジャス子さんとアトレさんが不満そうなんですけど、何かあったんですか?」

 

 そう言うマルキューさんの視線の先には、少し不満そうに椅子に座っているジャスティーヌ嬢の姿があった。その両隣にはカトリーヌさんと今日のリハーサルに参加する為にやって来たアトレも居る。

 ジャスティーヌ嬢同様に、少しアトレも不機嫌な様子だ。その理由は分かってる。

 

「ああ、それな。何でも小倉さんの名前が出ない事が分かって、2人とも納得出来ないんだって」

 

「はっ? 名前が出ないって? 小倉さんも服飾部門のショーに参加するんだろう?」

 

 事情を知らないマルキューさんはパル子さんの説明に首を傾げた。

 僕は周囲を見回して、周りに上級生が居ない事を確認する。

 

「マルキューさん。少々お耳を」

 

「あっ、はい」

 

 僕の意図を分かってくれたのか、マルキューさんは近寄って来てくれた。そのまま小声で事情を説明する。

 

「実は、小倉お嬢様は例の理事長のデザインが使用されるショーの説明用の衣装製作に応募されていました」

 

「えっ? マジですか? 確かその応募って、2、3年生がかなり応募したって聞いてたんですけど」

 

「そうです。そして恐らくですが、小倉お嬢様はその応募に合格されたのだと思います」

 

 恐らくと僕は口にしたが、先ず間違いなく小倉さんが合格したに違いないと確信している。

 だって、何故か学院側は合格した相手の名前を発表していない。本来だったら大々的に名前が発表されてもおかしくないイベントだった。でも、僕とエストも確認したけど張り出されていたのは応募に使われていた番号のみ。

 プロである総裁殿のデザインで衣装を製作出来るなんて大変名誉な事だし。上手くすれば総裁殿へのブランドへの内定も貰える。だから、上級生が沢山参加していた。

 しかし、合格者は発表されなかった。つまり、合格者を隠さなければならない事情が学院側に発生したと言う事なのだろう。そして僕らにはその相手に心当たりがあった。

 理事長の身内である小倉さんだ。

 

「小倉お嬢様は理事長の御身内の御方です。聞いた話ですが、例のイベントの審査には大変学院側も気を付けて挑んだそうですが……」

 

「理事長の身内の小倉さんが選ばれた事が分かったら、文句を言う生徒が出るかもって事ですね」

 

「その通りです。それでジャスティーヌ様が不満を感じられたと言う事です」

 

 ジャスティーヌ嬢は『良い物は認められる』と言う考えの持ち主だ。

 そんな彼女からすれば、名前さえ出さない小倉さんの現状に思うところがあると言う事だ。アトレも同様の考えで少し不満に思っているみたいだ。

 本気で慕っている相手が名誉を得られない。幾ら小倉さん本人が納得している事だとは言え、思うところはあるようだ。まあ、他にも……。

 

「後はそのイベントのモデルをされる方を見られるとお2人とも思っていたそうですが」

 

「ああ、何かパル子のクラスの担任が代役として歩いてましたね」

 

 リハーサルと言う事で当然例のイベントのリハーサルも行なわれていたんだけど、舞台を歩いたのはパル子さんの担任だった。

 これには僕も驚いた。本番前に一度しかないリハーサルになら、小倉さんがモデルに選んだ人も来ると思っていたんだけど、その人は来なかった。もしかしたら学院の関係者じゃない人を小倉さんは選んだのかも知れない。

 事前に学院側に申請すれば、外部の人もモデルとして参加できる。流石にプロのモデルの人は無理だけどね。

 因みに件の小倉さんは、飯川さんと長さんを始めとした他のクラスメイトの何人かと少し離れた場所で話をしている。どうやら小倉さんはこういう舞台に関しても経験があるみたいなので、初めての彼女達の相談に乗っているみたいだ。

 

「おーい、上級生が終わったから次は1年生のリハーサルを始めるよー! 一般クラスの子と特別編成クラスの子は舞台袖に集まって!」

 

 おっと、紅葉からの呼び出しがかかってしまった。

 

「あ、もう1年生の方が始まるんだ。持ち場に行かないとな」

 

「きゅうたろう。気を付けてな」

 

「お前もな。ちゃんと雇った子のフォロー頼むぞ。あっ、メイドさん、ギャラッハさん。それじゃあ私行きますんで。さっきちょっと試してみたんですけど、舞台照明綺麗ですよ。もしかしたらメイドさん達がリハーサルしている時に点いたりすると思うんで、その時は楽しみにしていて下さい」

 

 言い終えるとマルキューさんは急いで持ち場に戻って行った。忙しくて大変だなあ。

 舞台裏までやって来ると、先ずは一般クラスの方から舞台を歩くそうなので、僕ら特別編成クラスの生徒は待機だ。

 

「凄くドキドキしてる。私文化祭の時に通ったけどね。こうして舞台裏で待つのなんて初めてだから」

 

「私もです。文化祭時には緊張している暇もなかったから感じませんでしたけど、今回は待つので本番では緊張してしまうかも知れません」

 

 確かに緊張する暇なんてなかったよね。

 寧ろあの時は舞台に間に合わなかったらどうしようって、僕の方がドキドキだったよ。

 

「緊張する……緊張するよね?」

 

 梅宮伊瀬也に向かって皆でふるふると首を横に振った。

 これまで衣装製作が終わってから毎日、総合部門のショーに向けての練習を重ねて来たし。時にはその練習を山県先輩や伴奏のメンバー。他にもジュニア氏とメイクを担当してくれる人達にも見て貰っていた。

 先ほどは待つという事で会場の方を僕らは見学していたけど、今は会場の方には準備で忙しい人達しかいない。意識して見られている訳じゃないんだから、総合部門のショーの練習をしている時よりも緊張せずにいられている。

 

「リハーサルなんだから緊張する要素なんてないよね。お客さんもいないんだし。審査員もいないんだから」

 

「いや緊張するよ。だって私、トップバッターなんだよ? ジャス子は参加しないから言えるけど、桜小路さんは緊張するよね?」

 

「いえ。本番の時でしたら緊張はしますが、今のところは普通に舞台上を歩けると思います」

 

「おかしいなあ。みんな緊張してると思ったんだけどなあ。私だけ? でも、私の前って誰もいないから真似する事もできないのに。時間を間違えたらどうしよう?」

 

「寧ろ本番でミスするよりは、失敗するなら今の内かもしれません」

 

「って言うかいせたん。総合部門のショーの練習を思い出したら」

 

「あっ、なるほどね。うん、確かにあっちの方が男の人達に見られて緊張していたかも」

 

 ジャスティーヌ嬢の的確なアドバイスのおかげで、梅宮伊瀬也の緊張は解れたみたいだ。

 

「じゃあ、私行くから。アトレ、慣れておいてね」

 

「はい、ジャス子さん」

 

 言い終えるとジャスティーヌ嬢はカトリーヌさんと一緒に舞台裏を出て行った。

 アトレがモデルを務める以上、本当だったら此処に来る必要もなかった筈だけど……もしかしたら舞台裏に興味があったのかな?

 

「それじゃあ一般クラスの番が終わったから、次は特別編成クラスの番だよ」

 

 和やかに話をしていたら紅葉からの呼び出しがかかった。

 

「トップバッターの梅宮さん。曲が流れ始めたらランウェイの先端まで行って戻って来て」

 

 因みにこの順番は名前の順番と言う訳じゃない。学院側から事前の通達があって僕とエストは殿で、アトレは真ん中辺りの順番だ。

 多分、オリジナルの衣装で参加する僕らに配慮しての事だと思う。特別編成クラスの中だけど最後と言うのは気分が良い。

 

「時間は1分。1分っていう時間は、考えてるよりも長くて、歩いていると早く過ぎるから、ストップウォッチを見ながら大幅なずれのないように頑張って」

 

「え、あ、はい」

 

 梅宮伊瀬也にストップウォッチを渡すと、紅葉は反対側の袖に行ってしまった。習うよりも慣れろ。

 獅子は我が子を千尋の谷へ突き落とす。流石は紅葉。ドライだ。

 やがて曲が流れ始める。曲が流れると先ほどまでの慌てぶりが嘘のように、梅宮伊瀬也は堂々と足を踏み出して、トップバッターを歩いて行く。

 何だかんだと言って、梅宮伊瀬也は僕らと一緒に総合部門のショーに向けての練習を重ねて来ている。しかも、少数ながらも観客がいるような状況でだ。

 ジャスティーヌ嬢が言っていたように、その時の事を思い出せば良い。とは言え、曲が流れて意識を切り替えれるようになれたのは八日堂朔莉の厳しい指導のおかげだ。改めて彼女が参加してくれたことに感謝しないと。

 梅宮伊瀬也が舞台の中央へと進み、其処でランウェイに向けて折れ曲がると、その先の様子は今僕らが居る場所からは見えない。

 次のクラスメイトが踏み出すまでの30秒がやたらと長く感じられた。幸いにも梅宮伊瀬也が堂々と歩いたおかげで、2人目もスムーズに出発していく。

 3人目が歩き出す頃に、反対側の袖へ入って行く梅宮伊瀬也が目に入った。

 心から安堵した様子だ。緊張せずに出来た事が嬉しいんだろう。

 そのまま流れはスムーズに進んで行く。そして……小倉さんの番になった。

 

「それじゃあ、失礼します」

 

 本番では歩かないだろうけど、せっかくだからやってみようと言う事だろうか?

 

「ああ、小倉お姉様。何て美しい立ち振る舞い。九千代に観客席にいるように頼んでいて正解でした」

 

 それ絶対に九千代に録画を頼んでいるよね、アトレ?

 

「部長! 私達も同じ気持ちです!」

 

「小倉お姉様とお姉様! お2人と同じ舞台に立てるだなんて夢のようです!」

 

 コクラアサヒ倶楽部の皆は本当に仲良しだ。後、出来れば僕にも小倉さんが舞台に立つところを後で見せてね、アトレ。

 そんなやり取りをしていたら、小倉さんは何時の間にか反対側の袖に移動していた。

 

「では、エストさん、お姉様。お先に行かせて貰います」

 

 僕とエストに向かって頭を下げ終えるとアトレは舞台への道に向き直り、堂々と気負いなく足を前へと踏み出した。

 本当に変わった。以前のアトレなら、僕よりも先に歩き出すなんてあり得なかった。何時も僕の背後に居て見守っていてくれた。でも、僕もアトレもそれぞれ前へと歩き出している。

 何よりも兄妹揃ってお母様が栄光を掴んだ舞台に立つなんて最高じゃないか。服飾部門のショーが開催されるのは2日目だけど、その日が楽しみで仕方がない。

 

「じゃあ朝陽。予定通り私から先に行くね」

 

「いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

 本番では一緒に並んで歩くけど、このリハーサルでは僕とエストは別々に歩く事を決めていた。

 一緒に歩く練習は部屋でしているし、何よりも思い出として1度ぐらいはこの栄光の舞台を1人で歩きたい。

 僕よりも先に歩き出したエストはまるで怯まないで、憧れのように悠々と歩いて行く。

 文化祭の時には気にしている余裕もなかったけど、こうして歩くエストの姿は貴族然としてとても綺麗だ。おっと見惚れてばかりはいられない。

 その貴族然としているエストの従者は僕なんだ。なら、後から続く僕が無様を晒す訳にはいかない。

 きっかりエストが先端に到達する30秒後になるのを確認して、僕は歩き出した。

 

 嘗て母が歩いた栄光の舞台への道。この場所を歩くために、今日まで僕には様々な事が起きていた。

 

 本番でもないのに、何故か脳裏に今日までの日々が浮かんでは消えて行く。

 

 日本に帰国して懐かしき生家である桜屋敷での小倉さんとの出会い。あの人と出会えて、叱って貰った事が僕が変わる始まりだった。

 

 子供の頃から姉のように慕っていたルミねえとの再会。素敵な女性になっていた。

 だけど、後から色々と知ってルミねえの現状は僕が想像できないような状況だった。今は快方に向かっているようだけど、今後どうなるかは分からない。日本を離れる事になる僕が出来るのは願う事だけ。

 それしか出来ない自分に悔しさを感じる。出来る事なら、ルミねえの心からの笑顔が総合部門のショーで浮かんで欲しい。

 

 次に浮かんだのは主人であるエストとの出会い。最初は少々思うところがなかった訳でもないけど、一緒に過ごしているうちにエストを心から支えたいと思うようになった。今ではハッキリと好意を抱いている。

 

 パル子さんとの出会いも浮かんで来た。最初は変な出会いだったけど、パル子さんはアシスタントを務めているマルキューさんと一緒に僕よりもずっと先に服飾の道を進んでいた。彼女達との出会いがなければ、総合部門の参加も諦めるしかなかったし。間に合わせる事も出来なかった。

 本当に彼女達との出会いは、僕にとって宝の1つだ。

 

 八日堂朔莉にだって感謝しかない。言動こそ問題がある人物に思えたけど、付き合ってみれば面倒見が良くて陰ながら僕を助けてくれた事には感謝の言葉もない。相談にも乗って貰えたおかげで本当に助かった。

 何時か彼女が参加する演劇の衣装を製作してみたい。そんな機会があるかは分からないけど、機会があれば僕は迷わずに彼女の衣装を製作したい。

 

 妹であるアトレとは一番関係が変わった。

 でも、それは悪い事じゃない。僕もアトレも自分の道を歩み出したんだ。その事はさっき僕よりも先に舞台を歩いた様子から見ても分かる。妹がどんな道を進むのか気にならない訳じゃない。

 でも、きっとアトレは僕らの両親に負けない栄光の道を進むに違いない。兄として誇らしさを感じる。

 

 他にも今日まで出会った沢山の人達との日々が浮かび上がりながら、舞台を進んでいるとエストとすれ違った。

 

「朝陽。本番では一緒にね」

 

「はい。エスト」

 

 すれ違った時に小声で掛けられた声に、僕は迷うことなく同意した。

 嘗て母が歩いた栄光の道。その道を最初は1人で歩くつもりだったのに……今はエストと一緒に歩きたい。

 その時を脳裏に思い描きながら、フィリア・クリスマス・コレクションのリハーサルは終わった。

 

 

 

 

遊星side

 

 ふぅ。

 今日の出来事を思い出して溜め息が出てしまう。時刻は夕方。

 リハーサルが終わって大半の生徒が帰宅の途に就きながらも、僕はまだフィリア学院内にいた。

 遂に明日から夢にまで見たフィリア・クリスマス・コレクションが開催される。服飾部門のショーが行なわれるのは2日目。

 だけど、此処まで来た。彼方では参加出来する事が出来なかったフィリア・クリスマス・コレクションに、僕は漸く参加する事が出来る。

 ただ……やっぱり緊張した。せっかくだからとショーの舞台を歩いて見たけど、緊張しないで歩けたか少し心配だった。でも、ワクワクもした。

 あの舞台でりそなに僕の製作した衣装を着て歩いて貰える。その事を考えると、当日が楽しみで仕方がない。だから、少し校内を歩いて見たくなった。

 りそなもカリンさんも忙しいから夜遅いし。帰るのが遅れても良いと思いながら、校舎内を当てもなく歩いていると……。

 

「えっ!?」

 

 背後からいきなり肩を掴まれた。それもかなり強い力で。

 僕の肩をみしりときしませる圧力。こ、これって背後にいる誰かには僕の正体がバレてる!?

 女性だと相手が思っているなら、軽く叩くだけで良いのに、背後の相手は明らかに力を込めて僕の肩を掴んでいる。男性だと相手が知っているなら、力を籠めるのも納得だ。一体誰だろうか?

 まさか、フィリア・クリスマス・コレクションを直前に僕の正体に学院の誰かが気付いた!?

 もしそうだとしたら!? 僕の心臓が高速で脈を打ち始めた。

 動揺と恐怖で怖くて後ろが向けない。だけど僕の肩をぐいと引くその力は逆らえる類のものでは無く、やがて振りかえらざるを得なくなった僕の視界に……背後の相手の顔が飛び込んで来た。

 

「よっ」

 

「……ジャ……ン……?」

 

 僕が知っているよりも歳を経てしまっているけど、目の前にいる相手を見間違える筈がない。

 憧れの人。ジャン・ピエール・スタンレーが、僕の前に立っていた。




遂に再会、或いは出会いを果たした朝日とジャン。
此処まで本当に長かったですが、漸く辿り着けました!

次回はジャンと朝日の会話です。
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