月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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長らくお待たせしました。
更新再開です。先ずはフィリア・クリスマス・コレクションのオープニングで遊星sideです。そして漸く最後のキャラの登場です。

獅子満月様、烏瑠様、倶利伽羅峠様、えりのる様、誤字報告ありがとうございました!


十二月下旬(遊星side)15

side遊星

 

『ご来場の皆さま。ならびに各ホールで待機している生徒諸君。遂にこの日が訪れました』

 

 今、僕達服飾部門の全生徒は服飾部門のショーが開催されるホールにいる。

 これから始まるのはフィリア・クリスマス・コレクションの開会宣言。昔と言うか、僕が通っていたフィリア女学院と違って今は服飾以外にも沢山の部門がある。

 調理部門のように参加しない部門もあるけど、殆どの部門の生徒達がフィリア・クリスマス・コレクションを目指して今日まで頑張って来た。

 そしてこの日が訪れた。舞台上にあるスクリーンには、フィリア・クリスマス・コレクションの開催の挨拶をする為に総学院長であるラフォーレさんがマイクを手に持って映っている。

 

『学院にいる全生徒は勿論、既にご来場されている来客の方々はご存知の事でしょうが、今年のフィリア・クリスマス・コレクションは例年と違い3日間をかけて開催される事になっています。先ずは総学院長である私がショーが開催される部門の日程を改めてご説明します』

 

 今日開催されるショーで僕が関係してるのは……『演劇部門』と『音楽部門』ぐらいかな?

 服飾以外にも部門が沢山増えたけど、僕と関わりがあるのはその2つの部門。『演劇部門』の方はジャンや皆が審査員として参加するし、才華さんを陰ながら助けてくれていた八日堂さんがいる部門。ただ八日堂さん本人は、今年は裏方を務めるらしく舞台には立たないそうだ。

 『音楽部門』の方は、山県さんがピアノの演奏者に選ばれてる。ただ……大蔵家の関係者である僕が行っても大丈夫かなあ?

 山県さん本人は気にしないと思うけど、他の音楽部門の生徒達の事を考えると行くべきかどうか悩む。

 あっ! そう言えば山県さんで思い出したけど、駿我さんは今日来るんだろうか?

 日本には今居るし、大蔵家だけど駿我さんはその辺りを気にしないだろうから、もし見に行くんだったら一緒に行っても良いかな?

 音楽部門で行なわれるピアノの演奏会は午後からだから、開会式が終わったらメールしてみよう。

 

『以上が日程となります。では、次に今年のフィリア・クリスマス・コレクションの為に理事長である大蔵りそな氏が招いた特別な審査員4名を発表しますが、その前にお伝えしておく事があります。本来ならば例年通り総学院長である(ヲレ)が直轄である服飾部門と総合部門の両方の審査員の1人を務めていましたが、今年は辞退いたしました』

 

 ホール全体でざわめきが起きた。ラフォーレさんが審査員を辞退する話は、事前に伝えられていなかったから仕方がない。

 

『急な連絡になってしまった事を申し訳なく思います。ですが、ご安心を。(ヲレ)の代わりの審査員は既に任命されています。ただ本人の希望もあって、その審査員の発表は明日の服飾部門の時となります。一体誰が来るのかはお楽しみと言う事です』

 

 これ絶対にジャンがラフォーレさんに頼んだよね?

 昨日会った時に明後日を楽しみになんて言っていたし。うん、間違いない。ジャンならやる。

 戸惑うような空気がホール内に満ちたけど、スクリーンの向こう側にいるラフォーレさんは構わずに話を続けた。

 

『では、今年のフィリア・クリスマス・コレクションの為に来てくれた4人の特別審査員をご紹介しましょう。先ずは最初に日本の民族衣装である着物を手掛けているデザイナーであり、フィリア学院の卒業生でもある『花乃宮瑞穂』です』

 

 紹介と共にスクリーンの映像が移動して、綺麗な着物に身を包んだ瑞穂さんが笑顔で映し出された。

 綺麗な着物だ。思わず僕も見惚れたし、会場から感嘆の声が上がっている。僕の隣に座っているジャスティーヌさんなんて前のめりになって見てる。

 彼女は瑞穂さんの着物を大変気に入っているようだから、この反応は仕方ない。

 それにしても……なるほど。ただ審査員として来るだけじゃなくて、瑞穂さんも自分の衣装を用意していたんだ。勿論、僕らの活躍の場を奪うつもりは無いだろうから本気と言う訳じゃないだろうけど、それでもある程度は注目を集める衣装を用意するなんて流石だ。

 

『皆さん、こんにちは。ご紹介にあがった花乃宮瑞穂です。今日から3日間、3つの部門の審査を務めさせて貰います。どうか、宜しくお願いします』

 

 言い終えると共に瑞穂さんが頭を下げた。

 瑞穂さんが頭を上げると共に画面が移動して、再びラフォーレさんがスクリーンに映った。

 

『次に同じくこのフィリア学院の卒業生にして、現在は欧州方面で活躍しているデザイナー。『ユルシュール・フルール・ジャンメール』の紹介となります』

 

 また、画面が移動して今度は素敵なドレスを着たユーシェさんがスクリーンに映った。

 やっぱり瑞穂さんと同じようにユーシェさんも今日の為に衣装を用意していたみたいだ。

 此方も瑞穂さんに負けない程に素敵な衣装。明るくも品性を感じさせているだけじゃなくて、全体のバランスも計算されていてとても綺麗だ。

 それをモデル並みのプロポーションを持っているユーシェさんが着ているんだからズルいとしか言えない。この会場には僕と才華さん以外に父兄の方々の男性しか居ないけど、それでも目が釘付けになっている人も居そう。

 男性が多い他の会場なら、もっと釘付けになっているに違いない。

 

『皆さん、ごきげんよう。雄大なるレ・マン湖のほとり、美しき土地ジュネーヴの貴族。ユルシュール・フルール・ジャンメールです。この度は懐かしき母校である日本校の審査員として招かれた事を大変嬉しく思いますわ。今日から3日間を楽しみにしております』

 

 素敵な微笑みを浮かべながらユーシェさんの紹介が終わった。

 黄色い声援が会場で挙がっている。それが落ち着くと共に、再びラフォーレさんがスクリーンに映った。

 

『では、次に先のデザイナーとして活躍している2人とは違いますが、彼女もまた服飾の世界で活躍している女性。アメリカで話題のブランドの営業部長を務めている『柳ヶ瀬湊』の紹介です』

 

 次は湊だ。瑞穂さんとユーシェさんがそれぞれ衣装を用意していたんだから、きっと彼女も。

 

『皆! こんにちは! 紹介にあがった柳ヶ瀬湊だよ!』

 

 元気一杯の湊の声が会場全体に響き渡った。

 

『前の2人と同じように今日から3日間、審査員を務めさせて貰うね! 因みに私が今着ている服は、私が勤めているブランドの衣装だから良ければインターネットで調べて見てね! 日本でも注文できるから!』

 

 そういう湊が着ている服も、前の2人の衣装に負けない素敵な服だった。

 カジュアルでありながらも、舞台でも十分に映えている。着れば、誰もが特別な自分になれると思えてしまえる衣装。

 アメリカでルナ様が開いているブランドの主な顧客は芸能人や有名人が多いそうだけど、一般の人にだってブランドはやっている。流石は営業部長。

 これを機会に新しい顧客も狙っていたに違いない。

 

『彼女達3人は、我が校が創設された初年度に入学し、見事その年に開催されたフィリア・クリスマス・コレクションで最優秀賞を受賞した卒業生達でもあります』

 

 会場でざわめきが起きた。

 それぞれ服飾の世界で有名なのは知っていても、フィリア学院の創設時の入学者だと言う事まで知らなかったみたいだ。

 僕からすれば3年ぐらい前の事だけど、こっちではもう十数年前の事だからね。

 

『そんな彼女達と共に君達を審査する最後の審査員こそが、私の親友であり、君達が通うフィリア学院の創設者にして、現在の服飾界でのトップデザイナー。『ジャン・ピエール・スタンレー』!』

 

 これまでよりも力の籠もった紹介と共に画面に映し出されたのは、白いスーツを着た僕の友人でもあるジャンだった。

 

『こんにちは、日本人。あっ、今は日本人以外の生徒も結構かよっているんだっけ。じゃあ、言い直して、こんにちは日本校の皆』

 

 ほんの少し会場に笑いが響いた。

 ジャンの紹介になったと同時に満ちた会場の緊張に満ちた雰囲気が柔らかくなったように感じる。うん、とても良い雰囲気だ。

 胸の奥から湧いて来る興奮を必死に抑えながら、僕はジャンの紹介を聞く。

 

『今紹介に預かったジャン・ピエール・スタンレーだ。実は日本に来るのなんて十数年ぶりだから、言葉がちゃんと話せている自信がないんだよね。だから、違和感がある言葉が出ても勘弁してほしい』

 

 これは多分本当なんだろうなあ。

 日本語の使い方が何処か不自由そうだし、昨日僕と話した時もフランス語だったから。

 

『創設者なんて紹介されたけどさ。もう俺、完全に本校や他の分校を含めてフィリア学院とは無関係になってるんだよね。ああ、期待していない訳じゃないよ。寧ろ凄く期待してるから、こうして審査員として来たわけだし。だから、他の審査員達の皆と一緒に楽しみにさせて貰うよ』

 

 言い終えるとジャンから画面が移動して、ラフォーレさんに戻った。

 

『以上の4名が特別審査員として演劇、服飾、総合部門の3つを審査します。では、改めて此処で宣言します。今から今年度フィリア・クリスマス・コレクションを開催します!』

 

 ラフォーレさんの宣言と共に会場中に歓声が響いた。

 きっと他の部門の会場でも同じように歓声が響いているに違いない!

 開催の宣言が終わると、服飾部門の会場から皆出ていく。僕らの部門のショーが行なわれるのは明日だ。

 今日は自由に他の部門を見学しても良いと言われているから、今日行なわれる部門の会場に向かっているようだ。

 さて、先ずは駿我さんにメールを送らないと。

 

「黒い子、ちょっと良い?」

 

 メールを打つ前にジャスティーヌさんに声を掛けられた。もしかしてこれは……。

 

「はい、別に構いませんけど、もしかしてご用件はこの前、話していた伯母様の件でしょうか?」

 

「そうだよ」

 

 やっぱり。でも、会う事に問題はない。

 ……もう『小倉朝日』の件は覚悟できてるから。

 

「この前言った通り、私の伯母様。『リリアーヌ・セリア・ラグランジェ』伯母様が会場に来ているの」

 

 『リリアーヌ・セリア・ラグランジェ』さん。ジャスティーヌさんの伯母で、その人がりそなの言っていた『真心の人』だ。

 

「分かりました。ただ少し親戚の方にメールを送っておきたいんですけど、それが終わってからで構いませんか?」

 

「それぐらいなら別に良いよ。すぐに終わるんでしょう?」

 

「はい」

 

 ジャスティーヌさんが頷いてくれたので、手早く駿我さんにメールを送った。

 山県さんのピアノの演奏は午後からだから。それまでにはリリアーヌさんと言う人との話も終わるだろうから問題は無い。

 メールを送り終えると、ジャスティーヌさんと一緒にいたカトリーヌさんと共に会場を出た。因みにカリンさんは僕の傍にはいない。

 フィリア・クリスマス・コレクションで不正が起きないように既に調査員として動いているからだ。本当にカリンさんには助けられている。こうして本来は調査員の立場で動かないといけない僕が、自由にフィリア・クリスマス・コレクションに参加できるのも彼女のおかげだ。本当に感謝しかない。

 でも……もうすぐカリンさんともお別れだ。

 僕が学院を辞めるんだから、メイドの立場にいるカリンさんも学院を辞めるしかない。

 少し寂しさを感じながら、ジャスティーヌさんの後を追っていく。

 会場であるホールから出て、一緒に出て来た人の波が落ち着くと共に……。

 

「ジャスティーヌ! 此方ですわ!」

 

「伯母様!」

 

 呼ぶ声が聞こえると共に、ジャスティーヌさんは心から嬉しそうな声を上げた。

 そのまま声の聞こえた方に向かったので、慌てて僕も其方に顔を向ける。

 顔を向けた方向には三人の女性が……って!? その内の1人は!?

 

「うわあっ! メリル!? あの子がそうなんだよね!?」

 

「もうエッテ。嬉しいのは分かるけど、そんなに大声を出して」

 

 見覚えのない2人の女性と一緒にいるのは、メリルさんだ。

 

「伯母様! あの黒い髪の子がそうだよ!」

 

「ええ、一目見て分かりましたわ」

 

 僕が驚きで固まっている間に、ジャスティーヌさんはメリルさんと一緒にいた赤毛の女性に声を掛けていた。

 ジャスティーヌさんの言葉と様子から察するに、彼女が……。

 

「初めまして。真心を込めてご挨拶させて頂きますわ。私の名は『リリアーヌ・セリア・ラグランジェ』です」

 

「私は……小倉朝日です」

 

 彼女にこの名を名乗るのはおかしいと思われるかも知れないけど……本名は名乗れない。

 案の定、リリアーヌさんとメリルさんと話していた明るい茶色の女性は困惑した顔で僕を見ている。どうやらリリアーヌさんだけじゃなくて、もう1人の女性も『小倉朝日』を知っているみたいだ。

 ……いや、今思い出したけど、メリルさんは確か彼女の事を『エッテ』と親しそうに呼んでいた。その名前はりそなも口にしていた筈。そうなると彼女は……。

 

「私は『ブリュエット・ニコレット・プランケット』。プランケット家の当主で、メリルとリリアとは親友ね。それと貴女のお母さんとも友人だったんだけど……何か聞いてる?」

 

 うっ! ちょっと答え難い質問だ。

 りそなやメリルさん、そして遊星さんからパリで『小倉朝日』として過ごした頃の話を詳しく聞いていない。セシルさんやリリアーヌさんと言った会う事になる人の事は教えて貰えたけど、ブリュエットさんと『小倉朝日』がどんな関係だったのか聞いていなかった。

 ……ブリュエットさんには申し訳ないけど、此処は下手に誤魔化さない方が良い。

 

「申し訳ありません……最近までその……母とは複雑な関係だったので……母がパリで過ごした頃の事は聞いていません。ですから……ブリュエットさんの事は聞いていません」

 

「そっか……まあ、何だか複雑な事情があるみたいだからね。娘の貴女が同じ名前を名乗ってるぐらいだし」

 

 ええ……自分で言うのも何ですけど、僕の事情は複雑すぎて頭と心が痛いです。特に心の方は本当に痛い。

 ブリュエットさんとリリアーヌさんは、本当に『小倉朝日』の事が心配みたいだから尚更に心が痛いよ。

 

「それでね。ちょっと確認したいんだけどね?」

 

 あっ、やっぱり来るよね。この流れでブリュエットさんが僕に質問して来る事なんて1つしかない。

 

「貴女のお母さんって無事なんだよね?」

 

 人だかりは減っているから、直接な言葉は口にされなかった。

 うぅ……『小倉朝日』は亡くなっている事にしたのは不味かった。いや、だって、僕だけじゃなくてりそなもお父様も、まさか遊星さんが今も女装を続けているなんて本当に夢にも思ってなかったよ!

 

「あ、あのね、エッテ。それはね」

 

「いえ、メリルさん。それは私が話します」

 

 メリルさんが助けようとしてくれたのは嬉しい。でも、僕が始めた嘘だから此処はちゃんと説明しないと。

 

「母に関しては……無事です」

 

「えっ? 黒い子のお母さんって生きてるの? 私、黒い子の親戚から亡くなったって聞いたんだけど」

 

「事情があってそうなっているんです。母に関してはその……娘の私を含めて複雑でして。身内でもその事を知っているのは限られています」

 

「まあ、大蔵家だからね……昔もりそなが色々と大変だったみたいだし」

 

「そうですわね……大蔵家ですから」

 

 何だかブリュエットさんもリリアーヌさんも納得してくれた。

 そう言えば、りそなが言っていたけど、リリアーヌさんはお爺様が勝手に婚約話を遊星さんと進めていて、破談になったとか。

 遊星さんがパリで過ごしたのは半年ぐらいだった筈なのに、その間、パリコレ以外で何があったんだろう? 後で詳しく聞いた方が良いかな?

 

「まっ、『朝日』が無事って分かって良かったよ」

 

「ご心配をおかけして本当に申し訳ありません」

 

「もう。本当だよ! 知った時は、心臓が止まるかと思ったぐらいにショックだったんだから。こうして娘の貴女から無事って教えられて漸く安心出来たから良いよ」

 

「私も。出来ないと思っていた彼女への直接の謝罪が出来る機会があると分かってホッとしましたわ」

 

「大家さんの話だと、その内パリに貴女と一緒に来てくれるかも知れないそうだし。その時には会わせてね」

 

 アレ? 何だか何時の間にか僕と遊星さんが一緒にセシルさんのところに行くことになっている!?

 今度パリに行った時は、必ずセシルさんが大家を務めているアパートメントには行くつもりだったけど、遊星さんと一緒に行くとは言ってないよ!

 

「ごめんなさい、朝日さん。大家さんを止められませんでした」

 

「……いえ、その……母に伝えておきます」

 

 凄く気が重くなってしまった。

 『小倉朝日』になった遊星さんと一緒に、親子として過ごすなんて……ハードルがキツイよ。

 これはアレかな? 関係が上手くいっていないと言ってしまったから、セシルさんが少しでも良くしようと気を遣ってくれたのかも知れない。

 そのお気持ちは嬉しく思えるけど……とても複雑だ。

 

「う~ん。本当に複雑みたいだね。ちょっと信じられないかも。あの朝日だったら家族関係は絶対良い関係を築いていると思っていたのに」

 

 ブリュエットさん。確かに遊星さんは僕の理想に近い家族を築いていました。女装関連以外は。

 

「エッテ。取り敢えずその話は此処までにいたしましょう」

 

「そうだね、リリア」

 

「では、此処からは私の方になりますが……本当にありがとうございました」

 

「えっ、あの?」

 

 いきなりリリアーヌさんは僕に頭を下げてお礼を言って来た。どうしてお礼を僕に?

 疑問に思っていると、リリアーヌさんは顔を上げて傍に居たジャスティーヌさんの肩に優しく手を置いた。

 

「お礼を言った理由はジャスティーヌの事ですわ。正直申しまして、ジャスティーヌに日本の学院に通うように勧めましたが、この子の事ですから、余り真剣に学んでいないのではないかと心配していましたの。実際、一時期は学院に使用人だけを通わせていた時期があったそうですし」

 

「お、伯母様、それは……その……」

 

 ジャスティーヌさんは言い訳をしようとしたみたいだけど……その件に関してはりそなを経由してリリアーヌさんは知っている筈だ。

 だから、言い訳出来ないと自分でも分かっているのか落ち込んでいる。

 

「ですが、貴女が居てくれたおかげでこの子はある程度の成績を維持して、更には私が教えた事に早期に気付く事が出来ました。真心を込めて感謝いたします」

 

「いえ、そんな……私もジャスティーヌさんには感謝しています。ジャスティーヌさんのおかげで、私は参加出来ないと思っていたクアルツ賞に参加する事が出来ましたから」

 

 始まりは気紛れだとしても、ジャスティーヌさんが僕に参加を勧めてくれたおかげでクアルツ賞に製作した衣装を出す事が出来た。

 それにあの経験がなかったら、明日の服飾部門のショーでりそながモデルになる事をお父様が認めてくれなかったかも知れない。だから、感謝するのは寧ろ僕の方だ。

 

「……ふふ、本当に貴女はお母様にソックリ。今日は来て良かったと真心を込めて思いました……ジャスティーヌ。明日と明後日の貴女の衣装を期待しています」

 

「安心して伯母様。自信作が出来たから」

 

「へえ、其処まで言うなんて。私も明日が楽しみになって来たかも。ところで、朝日で良いんだよね?」

 

「はい。混乱させてしまって申し訳ありませんが、その名前でお願いします、ブリュエットさん」

 

「うん、分かった。それと私の事はエッテって呼んで良いから。そっちで呼んで貰えた方が嬉しいし。貴女のお母さんには結局最後まで『ブリュエット様』だったからね」

 

 遊星さんが『小倉朝日』になってパリ校に通った時は、りそなのメイドの立場だった筈だから、プランケット家の方をニックネームで呼ぶわけにはいかない。

 対して僕の立場は、お父様の義娘だからニックネームで呼ぶ事を許可されたんだったら問題は無い。

 ……問題は無いんだけど、メリルさんの親友を騙している事に罪悪感は感じる。

 ごめんなさい、ブリュエットさん、リリアーヌさん!

 

「わ、分かりました……エッテさんと呼ばせて貰います」

 

「宜しい。それでこれから何処かに行く予定とかはあるの?」

 

「午前中は予定はありません。ただ午後から親戚の方と音楽部門に行く予定でいます」

 

 許可を貰って携帯を確かめると駿我さんから『ぜひ一緒に見よう』と言うメールが届いていた。

 

「じゃあ、それまで皆で一緒に学院のショーを見て回らない?」

 

 それも良いかも知れない。友人であるジャスティーヌさん、カトリーヌさん、それに家族のメリルさんもいるし。

 

「分かりました。午後までご一緒させて貰います」

 

「決まりね。リリアも良いでしょう?」

 

「ええ、構いませんわ。丁度従者以外でのジャスティーヌの授業の様子を聞きたいと思っていました」

 

「黒い子……お願いね」

 

 縋るような目をジャスティーヌさんに向けられてしまった。

 大丈夫です、ジャスティーヌさん。ちゃんと授業を受けて、フィリア・クリスマス・コレクションに向けて衣装の製作を頑張っていた事を話します。




最後の乙りろヒロイン。ブリュエットことエッテの登場でした!
他のルートでは文化祭で会うのですが、このルートでは最後の登場となってしまいました。

人物紹介

名称:ブリュエット・ニコレット・プランケット
詳細:『乙女理論とその周辺』の最後のヒロイン。オレンジの髪の色で愛称はエッテ。フランスでも有数の旧貴族、プランケット元侯爵家の長女。メリルとは子供の頃からの付き合いで、メリルからすれば親友だが、彼女は恋愛的な意味でメリルの事が本気で好きだった。本作では『小倉朝日』とは半年間、メリルと一緒のアパートメントで過ごし、その才能を引き出す切っ掛けになったのでりそなを含めて友人と呼べる相手だった。その為に『朝日』が故人になっている可能性を聞かされた時は大層慌てたが、後からメリルが一身上の都合でそうなっていると聞かされて納得している。現在はプランケット家の当主で、実は文化祭にも来ていて演劇部門でフランス語の酷評を書いた本人。
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