月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~ 作:ヘソカン
今話で前日のイベントは終了です。
それと後書きに話があります。
烏瑠様、えりのる様、誤字報告ありがとうございます!
side遊星
『いよいよ明日だな、我が子よ』
「はい、お父様」
夜も遅い時間帯にりそながお風呂に入っている間に僕はお父様と電話で話をしていた。
『服飾に戻ると心に決めたお前のこれまでの努力の結果が明日示される訳だが』
「はい、今の僕に出来る最高の衣装を製作しました」
迷いなく、自信を持って僕はお父様に答えた。
りそなが描いてくれたデザインから僕が製作した衣装。昔、遊星さんがりそなに製作した衣装はデザインでしか見た事がないから、優劣は分からない。
でも……もう本当に優劣なんて関係ない。ただ明日僕が製作した衣装をりそなが着てランウェイを歩いてくれるだけで幸せなんだ。
『ククッ、それは明日が楽しみだ。無論、お前の事だから以前見た仮縫いの衣装よりも出来ているだろう。期待しているぞ、遊星』
電話越しに聞こえてくるお父様の声は本当に楽しそうだった。
あの衣装とそれを着たりそななら、その期待に僕は応えられます、お父様。
「お父様も明日は会場に?」
『無論。我が弟と一緒に娘が製作した衣装を見るつもりだ』
「娘じゃなくて息子です」
うん。やっぱり其処だけは絶対に譲れない一線だ。其処を譲ったら本当に僕は終わりだと思う。
『それと今の内に話しておくことがある。フィリア・クリスマス・コレクションが終わった後のお前の今後に関してだが』
「あっ、はい」
一応、僕がフィリア学院に通うのはフィリア・クリスマス・コレクションが終わって終業式までの予定だ。
フィリア・クリスマス・コレクションが終わったら即日でと言うのは流石にクラスの皆に怪しまれるだろうから、怪しまれないようにするためと言う事もあって終業式までとなった。
同様に才華さんの方もフィリア・クリスマス・コレクションでの結果は関係なく終業式まで。
りそなは結果を出せなかったら即日のつもりだったけど、八千代さんが『頭が痛いですが、桜小路家に仕えていたメイドと言う触れ込みで働いているので、きっちりとした形で終わらせる必要があります』と言う家の名誉の件も踏まえて少しだけ才華さんが日本に居られる期間が延びた。
それを口にした時の八千代さんの顔は正直思い出したくない。もう本当に断腸の思いで口にしていたから。
『実はだが、お前は才華が学院を去った後もフィリア学院に通い続ける事も出来そうだ。従者と共にな』
……えっ?
「えっ? あの、どういう事でしょうか? 僕とカリンさんはりそなに雇われた調査員なんですから、そのりそなが学院の理事長を辞めるんですから、僕らも学院を辞めるしかないと思いますが」
調査員の件は一応理事会で認められた話だけど、多分に理事長だったりそなの我儘を聞き入れた面が多かったそうだから、そのりそなが理事長を辞める以上、調査員である僕らも学院を去るしかない。
その事はもう受け入れていたし、僕が衣装を製作すると決まった段階で、以前会ったりそなのブランドの日本支店の担当者の方にも見て貰って採用の連絡を受けた。
……衣装を製作したのが僕だと担当者の人が知ったら、是非モデルと接客の方も担当して貰いたいと言っていたとりそなから聞かされた。
接客の方は良いけど……モデルだけは何とか避けたい。
とにかく、そう言った話が出ているのはお父様も知っている筈なのに、どうして此処に来てフィリア学院に僕とカリンさんが通い続けられるという話が出て来たんだろう?
『お前の言う通り、本来ならば調査員の派遣を進めていたりそなが辞める事に依って、お前達も学院を去るのが当然だ。だが、フィリア学院内の問題をどう対処すべきなのかと意見が出た』
学院の問題。
それは確かに残っている。お爺様の干渉だけじゃなくて、ラフォーレさんが望まない形で対立を深めてしまった特別編成クラスと一般クラスの対立。
他にもカリンさんの話では、放置しておけば大きな問題になりかねない事も幾つかあったそうだし。
そしてりそなはその問題に対して対処しきれていないから、問題はそのままになっている。
『それらの問題を放置する事もまた危険だと理事達は判断している。加えて言えば、お前達があげてきた報告にはりそなが望まない報告もあった。調査員として公平な調査を行なっていたと評価された訳だ。それ故にりそなが理事長を辞めた後も、今暫くは調査員関連は継続すべきではないかと言う事だ。新たに雇うよりも実績を得ているお前とその従者をな』
うぅ……何だか僕の知らないところで調査員としての評価が凄く上がっているような?
主に調査員としての仕事をしていたのはカリンさんの方で、僕がした事と言えば服飾部門に通っている生徒達の意見を報告したり、パル子さん達に及びそうになった件をりそなとお父様に報告したぐらいなのに。
『そしてこの話を主に進めているのはラフォーレだ』
「ラフォーレさん……ですか?」
それはつまり……。
『表立っては他の理事達も危惧している問題だろうが、それ以上に奴が求めている才の一つを逃さない為だろう。現にお前は学院に通っている間にジャスティーヌ・アメリ・ラグランジェを更なる高みへの一歩へと踏み出させた』
寧ろ僕の方がジャスティーヌさんには感謝しかない。
彼女からすれば気紛れだったかも知れないけど、そのおかげでクワルツ賞に自分が製作した衣装を出すことが出来た。
アトレさんとも………も、問題はあったかも知れないけど、もっと仲良くなる事が出来たし。
『お前以上の『支える才能』の持ち主は、これまでの奴の愚かな研究の中で出会えた事は無い。それ故にりそなが理事長を辞める事で、お前が学院を離れる事を止めようとしているという事だろう』
「……」
少し……いや、かなり複雑だ。
ラフォーレさんのような服飾の世界で生きて、今もジャンを支えている人に認められている事に嬉しさを感じる。だけど、やっぱり僕は……。
『そして俺もまたラフォーレと同様に、お前には今しばらく学ぶ事を優先させるべきだと考えている』
「えっ!?」
お父様まで!?
『言っておくが、このままフィリア学院に通えという意味ではない。あくまで服飾を学ぶべきだという意味でだ。学ぶ場などフィリア学院でなくても良いのだからな』
「それはそうですが……」
それだったらプロの現場でも……。
『お前は服飾を学び直してから一年と満たない時間で衰えた技術を取り戻し、今後も成長の可能性を見せている。だが、学び直した時間はまだ一年も経っていないのも事実だ。遊星』
「はい……」
僕の名をお父様が呼んだという事は、この話は重大な話に違いない。言葉の意味を取り違えない為にも、一語一句聞き逃さないようにしないと。
『お前は、胸を張ってお前のいた頃よりも十数年以上経過した服飾の技術を全て学べたと言えるのか?』
「……っ!?」
言われた言葉に僕は思わず息を呑んでしまった。
そうだ。実力を取り戻せたのかも知れないけど、今の服飾は僕が居た頃よりも十数年以上も経過している。
十数年の間に変化した服飾を、一年の満たない間に学び切れたなんてとても言えない。寧ろ知らない事の方が多い。
そんな僕がプロの現場に入って通じる筈がない。既にプロの現場に入っている人達からすればあって当然の知識が僕には欠けているんだから。
『無論お前ならば現場から学ぶ事も出来るだろう。だが、学んでいる間に他に優秀な者が入れば其方が優先されるのは当たり前の事だ』
「はい、それは僕もそうだと思います」
『更に言えばあくまでお前が入る事を認められたのは日本の支店だ。遊星。お前はそれで満足してしまうのか?』
「いえ、パリの本店に行きたいです」
連れて行って貰った支店の方も賑わっていたけど、やっぱりパリ本店の方でのパタンナーを務めたい。
まだ会った事がないパリ本店に務めているパタンナーの人。
りそなは専属のパタンナーじゃないと言っていたけど、パリと言う芸術の都で活躍し、きっと僕が服飾への想いを取り戻す切っ掛けになったファッションショーの衣装の数々を手掛けた人に違いない。
『それでこそ我が子だ』
電話越しに聞こえて来るお父様の声は何処か嬉しそうだった。
『学院を辞めた後に、フィリア学院と同レベルの学院を幾つか見学できるように手配しておく』
「ありがとうございます、お父様」
本当にお父様には感謝だ。慢心していた僕に大切な事を気付かせてくれただけじゃなくて、次に学べる場所を見学まで出来るんだから、感謝しかありません。
『それと最後に言っておくが、明日のりそなの動きに支障が出るような事はするな』
「しません!!」
思わず電話越しにお父様に大きな声を上げてしまった。
微かな笑い声と共に電話が切れた。うぅ、間違いなくからかわれた。
「あれ? どうしました? 顔を真っ赤にして?」
「わぁっ!」
何時の間にかりそながお風呂から上がって部屋に入って来ていた。大声を上げてしまった僕にりそなは目を白黒させている。
「いや、いきなり大声を上げないで下さいよ。で、その様子だと上の兄と何かあったんですか?」
「……からかわれたの」
「ああ……あの、上の兄は……からかわれた内容は聞かないようにします」
事情を察してくれたのか、りそなはその話題を聞かないようにしてくれた。
そうしてくれると僕も助かる。お父様の言葉のせいで、どうにも湯上り姿のりそなを意識してしまいそうだから。
「後、からかわれたこと以外にも大切な話があってね。こっちの方が僕にとっては重要なんだよ」
「どんな話をされたんですか?」
僕はりそなにお父様から言われた知識不足の問題点を話した。
聞き終えたりそなも難しそうに考え込んでいる。
「ああ、確かに……遊星さんが短期間で実力を取り戻せて、クアルツ賞を受賞出来る衣装を製作出来たり、私の衣装の出来栄えのせいで忘れていましたが……根本的にまだ知識不足の面が残っていましたね」
「うん。お父様に指摘されたおかげで気付けたけど、自分でも十数年分の知識の差を埋め切れた自信はないかな」
1人で製作する分には問題ないかも知れない。
でも、プロの現場では夏休みの時のようにチームで製作する。その中で僕1人だけが知識不足だったら他の人達に迷惑が掛かってしまう。
だから……。
「りそなや認めてくれた支店の担当者の人には悪いけど、もう暫く服飾を学び直そうと思ってる」
せっかく支店で働いても良いと言われているのに、それを断るんだから、あの担当者の人の僕の印象は悪くなるかもしれない。
もしかしたら今回ぐらいしか、りそなの紹介なしで採用される機会は無いかも知れない。でも、そうだとしてもプロの現場で取り返しのつかないミスをして挫折するよりも、少し時間をおいて確りと下地が出来てからプロの世界に入りたい。
「……遊星さんがそう言うなら私は構いませんよ……まあ、私としてもそっちの方が助かりますし」
「えっ? 助かるってどうして?」
「いや、まだ上の兄や上の従兄弟にも話していませんが……私、大蔵家総裁の座を、もう上の兄に譲るつもりでいます」
「えええええっ!?」
予想もしていなかったりそなの発言に僕は心の底から驚いて叫んでしまった。
だって、お父様に何れ大蔵家の総裁の座を渡すって話は聞いていたけど、まだお爺様は存命だし、どうしてこんな急に。
「驚かされるのも仕方ありませんが、私、マジです。色々と引継ぎしたり、上の兄の方も準備が必要でしょうから、正式には2、3年後ぐらいなるでしょうが、本気で総裁を辞めてその座を譲るつもりでいます」
「え~と、どうして急に?」
うん、本当に急な話だ。お父様や駿我さんよりも前にこの話を聞かせて貰ったのは嬉しいけど、それとこれとは別だ。
だって、大蔵家の総裁と言えば、お兄様が絶対に手に入れようとしていた地位だし、世界に名立たる財閥である大蔵家の頂点。
その座にりそなが就いていると知った時は心の底から驚かされた。
そしてその座をお父様に譲るという話で、また驚かされた。本当にどうして?
「いや、もうこの数年で嫌になって来ていましてね。大蔵家の総裁の座は確かに凄いんですけど、私、お爺様と違って我儘する気はありませんでしたし……寧ろ身内のやらかしの後始末の方で、大蔵家総裁として責められる事の方が多かったので」
うっ。脳裏に今年あった出来事の数々が浮かんで来た。
僕が知っているのは今年と去年の事を少しぐらいだけど、りそなの場合は何年も不満が溜まっている筈だから……辞めたくなっても仕方がないかも。
「まあ、流石に遊星さんのお披露目でもある『晩餐会』では発表しませんよ。ちゃんと上の兄と上の従兄弟と相談してからの話です。お爺様と同じに私はなりたくありませんから」
そう言えば、お爺様が大蔵家の総裁を辞めたのは、今の奥様との間にルミネさんが出来たからで……その時は急に押し付けられる形になって、りそなは勿論、お父様や駿我さんも大変だったとか聞かされた。
「そして辞めた後は、これまで趣味の範囲だと思われていたデザイナーに専念します」
「えっ!?」
「私、本気ですよ」
本気だ。
目を見れば分かる。僕の大切な人は大蔵家の総裁を辞めて、デザイナーに本気で専念するつもりだ。
「……後悔はないんだよね?」
「ええ、ありません。寧ろ漸く解放されたと晴れ晴れとした気持ちになります。権力を失ったお爺様がまた騒ぎそうですが、もうあの人、その時には大蔵の名を失っているので文句は言わせません」
どうやらお爺様が大蔵の名を失うのは、りそなの中では決まっているみたいだ。
「もしかしてお爺様はまだ……」
「ええ、事前に通告してもう猶予はないにも関わらず、未だ返事がありません。本邸勤めになった上の従兄弟の部下の人達からも諦めていないという報告が届いています。報告の様子からすると、年末の『晩餐会』でもう権限も無いのに前当主だからと言って、次の大蔵家総裁の座をルミネさんに指定するつもりのようですね。ルミネさん本人の意思を確認もせずに」
……お爺様。
「ルミネさんの願いで明後日のフィリア・クリスマス・コレクションの映像は見せる手筈は整えていますが、それが本当のお爺様のチャンスです。それでもこれまでの行ないを反省する気が無いのなら、私は大蔵家総裁として処断します」
「……」
固い決意をりそなから感じた。
今の目の前にいるのは大蔵家総裁としてのりそな。だけど、僕はその内側に隠されているりそなを知っている。
何の力もないどころか、まだ護られている立場にいる僕にはりそながどれだけの想いで今口にした言葉を決断したのか分からない。だけど、気持ちが抑えられず思わずりそなを抱き締めてしまう。
「うひゃああああっ! い、いきなり何なんですか!?」
「嫌だった?」
「いや嬉しいんですけど! うあぁぁぁぁっ!! 何なんですかもう!? 貴方は!? 告白して来る前は私が何を口にしても素っ気ない態度だったのに!? 告白してからはもう積極的過ぎて私の心臓を破裂させるつもりですか!?」
「はははっ。そんなつもりなんてないよ。ただ本心からこうしたいって思ってしているだけだから」
「おおおおおおっ……」
腕の中でふにゃふにゃとりそなの身体から力が抜けて行った。このままでは腕から抜け出しそうになりそうだったから、身体に手を回して支える。
「ベッドに行ける?」
「……む、無理そうなので……お、お願いします」
顔を真っ赤にして頼まれたので、僕はりそなを横抱きにして寝室に向かった。
「……遊星さんに弄ばれました」
腕の中にいるりそなに酷く心外な言葉を言われた。
「何もしてないよね、僕?」
歩けなくなったりそなを寝室に運んで、その後は僕もお風呂に入って明日に備えようと思って横になったところで、不満そうな言葉を言われてしまった。
「不満も言いたくなりますよ。貴方にベッドに運ばれている最中に、もう私、覚悟を決めていたんですよ。遂に遊星さんと一線を越えるのかと心臓が破裂しそうになっていたのに、肝心の貴方は部屋を出ていくんですから」
「さ、流石に明日の事を考えたら……ね」
雰囲気では行けそうだったけど、明日の事を考えればそう言った行為に踏み切れる勇気がない。
「……実際のところ遊星さんって、私に……その……性的興奮を感じた事はあるんですか?」
「えっ?」
いきなりな質問に戸惑ってしまう。
りそなに性的興奮を? そう言われて腕の中にいるりそなに目を向ける。
僕が知っている妹としてのりそなよりも女性としての部分が成長し、艶やかな女性になったりそなを見ていると……。
「アレ? 何か硬いものが?」
「き、気のせいだよ!」
そう言いながらも、さりげなく僕は身体をずらす。
うぅ……前はこんな事なかったのになあ。りそなと恋人関係になってから、どうしても意識すると反応するようになってしまった。これは僕の中で妹のりそなと、今腕の中にいる恋人のりそなをちゃんと別人として、一人の女性として見ているという事なんだけど、やっぱり恥ずかしい。
だけど、腕の中にいるりそなには気付かれていたのか、少し意地悪そうに口元が笑みで歪んで……。
「遊星さんがちゃんと私で性的興奮を感じているようで何よりです」
「はぅっ!」
や、やっぱり気付かれた!?
「いやでも良かったですよ。そういう方面はアメリカの下の兄と違ってまともみたいで」
「お願いだからそれは言わないで」
うん。遊星さんとルナ様は健全な形で愛し合ってるに違いないんだから。
疑うなんてしたらだめ。その類の話題には出来れば触れたくないし、触れて欲しくない。
「あんまり
そう言ったら腕の中にいるりそなが驚いたように僕に顔を向けてきた。どうして?
「何か驚くような事を言った?」
「言いましたよ。貴方これまでずっとアメリカの下の兄の事は、『桜小路遊星様』ってまるで相手を敬っているような……それでいて……まるで自分とアメリカの下の兄は別人だって言い聞かせているみたいに呼んでいたじゃないですか」
「……」
りそなの言う通りだ。
遊星さんは僕が心の奥でずっとそうなりたいと思っていた事を成し遂げていた。だから、ずっと複雑な気持ちを抱いていたし、他の人から比べられたくないと思っていた。
でも……今は違う。遊星さんの事は尊敬しても、もう上に見ない。
その証明の第一歩が明日なんだ。
「明日、遊星さんや皆、それに会場に来る人達に魅せよう。僕達の衣装を」
「はい、私達の衣装を」
自然とどちらともなく僕達は目を閉じた。でも、お互いの存在を確かめ合うように強く抱き締め合う。
脳裏に何故かもう顔も朧気にしか思い出せなかった筈のお母様の顔が浮かんで来た。
どうしてか分からない。でも、自然と僕は心の中で浮かんだお母様の姿に納得出来てしまった。
ああ、ずっと、ずっと僕を見守ってくれていたんですね。
このお母様はもしかしたら、こっちの、遊星さんのお母様なのかも知れない。
それでも見守ってくれていた。それを実感することが出来た。
ありがとうございます、お母様。
次に貴女に会いに行く時は、ずっと貴女に言いたかった言葉を言いに行きます。大切な人と一緒に。
脳裏に浮かんでいるお母様は待っていると言うように微笑んだ後に薄れていった。
でも、僕の中に温かな気持ちは残っている。その気持ちと伝わって来る大切な人の温もりを感じながら明日を想っている間に眠りに落ちた。
次回はフィリア・クリスマス・コレクション開始です!
『ラスボス』
「……流石は夫だ。この衣装ならば問題は無い」
「う、うん……でも、ルナ……本当に良いの?」
「ああ、今回ばかりは構わない。長らく人前には出なかったが、今回ばかりは私も動かざる得ない。それに私にとっても思い出深い『朝日班』の皆が参加しているのだ。リーダーである私が出ない訳にはいかない……息子の晴れ舞台でもあるからな」
「そ、それはそうなんだけど……」
「随分と暗いではないか。いや、まあ才華が女装に目覚めた経緯が私達の思っている通りならば、流石に笑えないが」
「本当にどうしてこんな事に……でも、ルナが参加するんじゃ」
「ああ、それも目的には在る。夫、私は才華の強みを一つ失わせる」
「……」
「思うところはあるだろうが、私達は才華の両親だ。義妹であるりそなにかけた迷惑を考えれば、両親である私達が何もしない訳にはいかない」
「……うん、そうだよね。僕達が才華の親なんだから」
不安そうにしながらも桜小路遊星は息子である才華を信じる。
成長した息子ならば、共に居る女性と共にこの試練も乗り越えられると。