月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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少々短めですが、番外編投稿です。
本編で奇跡は起きましたが、その代償は当然ありました。
最新話で投稿していますが、次回で『続・りそなの日記』の下にこの話は移動します!

秋ウサギ様、ライム酒様、七號様、烏瑠様、エーテルはりねずみ様、獅子満月様、禍霊夢様、誤字報告ありがとうございました!


続々・りそなの日記

『続々・小倉りそなの日記』

 

【四月上旬】

 昨夜のこともあってミナトンの部屋で寝ていた私とミナトンは、朝も早くミナトンのメイドである危ない人に起こされた。

 まだ学院に行く時間には早く、朝食にも早い時間に一体何故と疑問に思う私とミナトンに危ないメイドは告げました。

 

『ルナ様が至急食堂に集まれだそうです。多分、大蔵遊星の件で』

 

 一瞬にして私とミナトンの目が覚めた。

 すぐに寝間着から制服に着替えた私達は食堂に急いだ。昨夜のアトレの件でもしかしたら更に不味い事が起きたのではと心配したから。

 この屋敷の中で一番朝が弱いのはルナちょむ。そのルナちょむが誰よりも早く起きて私達を呼び出した。しかも昨夜はあの部屋で眠った。何が起きたとしか考えられない。

 食堂に辿り着いてみると、案の定険しい顔をしたルナちょむが椅子に座っていた。

 何があったのか尋ねると私とミナトンに、ルナちょむは『屋敷にいる全員が集まってからだ』と告げ、私達は待った。

 そして屋敷にいる全員が集まり終えると同時に、ルナちょむは口を開きました。

 

『私は夢の中で朝日に会った』

 

 その言葉に私を含めた食堂に集まった誰もが驚愕した。

 普通なら夢の中で会ったから何だの話でしょうが、あの部屋で見た夢に関しては別だ。あの部屋で見る夢は、ただの夢ではなく、別世界を覗くという不可思議な現象を引き起こす夢だから。

 そして慌てて問い出す私達に、ルナちょむは昨夜見た夢の内容を話してくれました。

 何時もなら別世界のルナちょむ視点で彼方の世界を覗けるはずなのに、昨夜見た夢は全く違っていたらしい。

 

『何時もなら彼方の私の様子が見れるはずなのに、昨日の夢は全く違った。信じられない話だが……夢の中で私は桜屋敷にいた。しかも自分の意思で動き回れた。最初は夢ではなく現実で起きたのかと思った。だが、起きた場所は朝日が使っていたあの部屋ではなく、私の部屋だったので夢の中ではないかと思った。取り敢えず、屋敷の中を歩き回っていたら……屋敷の入口の方で誰かが泣く声が聞こえて来た。そして其処に行ってみると……朝日が泣いていた』

 

 信じられないような話ですが、あの部屋で見る夢は普通ではない。それらを踏まえると、もしかしたらと私達の中で希望が生まれた。

 ……でも、私達が思い描いた希望は訪れなかった。

 

『朝日に声を掛けようとしたところで……急に朝日の姿が薄れ出した。急いで階段から下りたが、下りる前に朝日の姿は消え去ってしまった。代わりに朝日のいた場所に何かが落ちていた。それを拾ったところで私も目を覚ましてしまった……そして私の手に、これが在った』

 

 ルナちょむは、ゆっくりとテーブルの上に茶色の封筒を置いた。

 既に丁寧に封は開けられていましたが、間違いなくそれは手紙が入っていると思わしき封筒。

 心臓がドキドキと跳ね上がってしまいました。それは私だけではなく、食堂に集まった誰もが思った筈。

 きっと、封筒の中に入っていた手紙は……下の兄からの。

 

『中身は見ても構わない。私は既に読んだ。だが、封筒に傷は付けないでくれ。もしかしたら、もう一度奇跡を起こせるかも知れない』

 

 言われて私はすぐにルナちょむから封筒を受け取りました。

 私に渡してくれたのは、妹だからでしょう。他の皆も内容を知りたがっていましたが、私が受け取る事に不満はなさそうでした。この屋敷いる人達の優しさに感謝しながら、封筒の中から手紙を取り出した。

 その手紙には、懐かしさを感じる下の兄の文字が書かれていました。

 

『拝啓、私の敬愛する主人である桜小路ルナ様。

 今日はルナ様に一つの決意をお伝えします。

 私は……服飾の道に戻る事を決意しました。

 この決意を聞いたルナ様はどう思われるでしょうか?

 ふざけるなとお怒りになるでしょうか? それとも漸くかと笑われるのでしょうか?

 どちらがルナ様のお答えなのかは、私には分かりません。ですが、たとえお怒りになられるとしても、私の決意は変わりません。

 身勝手な事を言っているのは承知しています。ですが、私はもう一度だけ服飾に挑みたいと思っています。

 道半ばで敗れるかも知れません。今度こそ立てなくなるような事が待っているかも知れません。

 それでも、もう一度だけ前を向いて進みたいと思います。

 思い出した憧れの人の言葉を胸に、私は前へ歩き出します。

 

 小倉朝日より、愛を込めて、敬具』

 

 間違いなく下の兄の文字。

 残念ながら内容はルナちょむ宛てでしたが、それでも嬉しさから涙が零れてしまった。

 他の皆も手紙を見ると、嬉しさから私のように涙を流したり、我が事のように微笑んだりしていました。……ミナトンのメイドの様子だけは忘れましょう。

 とにかく、小さいながらも奇跡が起きた事に私達は喜んでいましたが、ルナちょむの言葉で冷静に立ち返る事になりました。

 

『朝日の手紙を見て喜ぶのは良いが、昨日りそなが話してくれた事を忘れてないか』

 

 その言葉で誰もが顔を青褪める事になってしまった。

 そう……忘れてはいけない。幾ら服飾に戻る決意を下の兄が固めても、その決意は失敗すればすぐに消え去ってしまいかねない状況と精神に下の兄は置かれている。

 現に昨日私が見た夢の中で、ルナちょむへの罪悪感をアトレに責められたら、下の兄はかなり揺らいでいました。これだけでも下の兄の精神状態は容易く揺らいでしまう事は明らかです。

 それを何とか出来るのは……悔しいですが此方にいる、ルナちょむだけ。

 

『今回みたいな奇跡が起きた。もしかしたら、今なら手紙だけなら彼方に送れる可能性がある。突拍子もなく、根拠もない話だが、私はこの可能性に賭けようと思う』

 

 ルナちょむの意見に私達は頷きました。

 此方に下の兄の手紙が来たのなら、逆の可能性もあり得る。朝食の時間まで私達は話し合い、ルナちょむが一枚分の手紙以外に、桜屋敷にいる全員の想いを書いた手紙を封筒に入れることを決意した。

 ……本当なら下の兄に伝えたい事や気持ちは山のようにある。

 でも、それは私だけではなく桜屋敷にいる誰もが想っている事です。その中で、今一番下の兄に必要なのはルナちょむの本心。だから、私は2枚目の方に自分の気持ちを込めた言葉を書きます。

 

 

【四月上旬】

 早朝、あの部屋に置いた手紙が入った封筒があるかどうかを私達全員で確認しに行った。

 ……封筒は消えていました。彼方に届いたのかどうかは分からない。でも、私達は誰もが祈りました。

 あの下の兄への想いを込められた手紙が入った封筒が、彼方に届いてくれている事を。強く、強く、私は願いました。

 

 

【四月上旬】

 手紙の行方は気になりますが、私達は学生。当然昼間は学院に行かなければならない。

 幸いと言うべきか、引き篭もる前に通っていた学院と違って、今はそれなりに伸び伸びと学院生活を送れています。その理由は考えるまでもなく、『大蔵』から解放されたから。

 お嬢様達が通っている特別編成クラスなら、もしかしたら私の顔を知っている相手もいるかもしれませんが、私がいるのは一般クラスで、しかも今の名字は『小倉』。おかげで誰かと比較される事もなく、寧ろ首席で入学したことによってクラスメイトから分からないところを質問されるぐらいだ。

 まさか、私に勉強の事で誰かに質問される日が来るなんて思いませんでした。

 夕食にミナトンに話したら、『学院生活満喫してるね!』なんて言われた。

 他にも……上の従兄弟から『入学おめでとう』なんて連絡を受けました。彼とは別に仲が良いわけじゃないんですが、互いに本音を知っているだけに普通に話せる親類に何時の間にかなっていました。

 まあ、彼が大蔵家にしようとしている事は応援していますから。

 ……ただ聞きたくもなかった報告も聞く事になった。私の忠告を受けて半信半疑ながら調べたところ……富士夫叔父様に女性の影がある事を見つけてしまったそうです。

 あのト兄様の父親だから、『ああ、やっぱり』と納得出来てしまった自分が恥ずかしく、ルナちょむ達からは同情と呆れが混じった視線を向けられた。

 因みに新しい学院長の話題になると、オカマの人とメイド長は揃って死んだような目をして俯いていた。

 

『今年だけ……ユルシュール様が日本にいるのは後一年。それまでは何とか耐えるのよ、私……それにしてもアイツ、相変わらずの馬鹿ね。っていうか、何で生きているの? いつ死ぬの』

 

『ホモを羨ましく思う日が来るなんて……せめてもの救いは、殆ど学院にいない事だけ……ルナ様? 彼方のルナ様のようにアメリカに移住するご予定は? ……今のところない……そうですか』

 

 余程新しい学院長が嫌いなのか、2人とも揃って終始暗い顔をしていました。

 とりあえず2人の前で新しい学院長の話題はしない事が決まった。

 

 

【四月中旬】

 由々しき事態が起きて、桜屋敷にいる誰もが騒然となった。

 あの部屋で見る夢に異常が起きた。いや、元々夢で別世界を見るなんてこと自体が異常でしたが、私達に恐れていた異常が起き出した。

 

 ……夢の内容が半分以上朧気になるようになってしまった。

 

 それが判明したのは下の兄への手紙が消えた日から一日置いた次の日からでした。

 彼方にいる下の兄の傍に一番近くいるのは私という事もあって、私があの部屋で寝たところ夢の内容の半分以上が起きてから思い出せない事態に見舞われました。

 まさかと思い、他の面々で確かめて見たところ……誰もが同じ状態で夢を見られませんでした。

 ……私達が恐れていた事態が遂に起きてしまった。

 夢という形でも確かにあった下の兄との繋がりが失われだした。

 

 

【四月中旬】

 何とか繋がりが保てないかと皆で話し合っても、どうする事も出来ない現実に頭を抱えるしかありません。

 そもそもあの部屋で何故夢という形で別世界を覗けるという現象が起きているかさえも不明なんですから。下の兄が何故彼方の世界に行ってしまったのかも謎のまま。

 そんな訳も分からない現象を解明することなど、私達には出来ない。

 更に不味いのは、覚えている断片的な内容でも頭を抱えるしか無いような事が彼方側で起きている。

 『大蔵ルミネ』。彼方の(信じられない事に)お爺様の娘で、家系図で言えば私の叔母に当たる娘がやらかした。

 どうにも最近彼方の私が忙しく動き回って、下の兄と暮らしている(凄く羨ましい)部屋に帰るのも遅いと思っていたら、大蔵ルミネはどうやら入学式の次の日に学院の教師を辞めさせてしまったらしい。

 この事実をルナちょむ達に話したら、全員が唖然とした顔をしていました。私だって同じ気持ちだ。

 幾ら身内が理事長を務めているからと言ったって、教師を辞めさせる事なんて普通は出来ないしやろうとも思いません。

 フィリア女学院には特別編成クラスと言うお嬢様が通うクラスがあるとしても、生徒が教師を辞めさせるなど本来なら起きてはいけない。

 ……でも、彼方の私がそれをしなければならない事情も分かります。もしもお爺様が件の教師の一件を知れば、間違いなくその教師は破滅します。最悪……本当に最悪な話ですが……自殺にまで追い込まれかねません。

 それを恐れた彼方の私は、事を穏便に解決する為に教師を辞めさせたのでしょう。

 ……世界に名だたる大蔵家の当主になって待っている未来が身内の不始末の後始末とか、本当に当主なんでしょうか?

 元々成る気なんてありませんけど、私は機会が訪れても絶対に大蔵家当主にはなりません。

 

 

【四月下旬】

 相変わらずあの部屋で見る夢は、不安定なまま。

 何とか見える範囲で集まった断片的な情報から推測して見たところ、私達が書いた手紙を下の兄が読んだ様子はない。まさか、手紙が届いていない?

 ……いえ、夢がいきなり不安定になったのは間違いなくあの手紙が消えた次の日から。その事から考えると、ただ下の兄が気付いていない可能性が高いでしょう。

 今更ながら下手に手を加えたら危ないと思ったからとは言え、封筒の中の手紙の裏面だけじゃなくて、封筒にも宛先を書いておくべきだったかも知れません。

 

 

【五月上旬】

 今日見た夢は、不安定になる場所が何時もよりも少なかったので久々に安心して下の兄の様子が見れたんですけど……余り見たくなかったという気持ちが少しあります。

 何故かと言えば、下の兄がファッションショー染みた事をやらされていたから。いや、私も似たような事をしたから人の事をとやかく言えないんですが……せめてもうちょっとぐらい男性物を着せて上げても良いんじゃないと思うんですけど、彼方の私。

 因みにこの話をルナちょむ達にしたら、京都の人が非常に目を輝かせていました。そして下の兄が京都に行くと知ったら……。

 

『明日、私はずっとあの部屋で過ごさせて貰うわね。ああ、もしかしたら彼方の私が朝日を着せかえするのかも。ううん、きっとするに違いないわ。羨ましい』

 

 鬼気迫る迫力を放つ京都の人を前に、私達は何も言う事が出来ず頷くしかありませんでした。

 

 

【五月上旬】

 京都の人に昨日はどうだったのかと尋ねてみたところ、私達は言葉を失いました。

 あの下の兄に対してやらかしたアトレが、何と下の兄と和解したそうです。話を聞いた全員が唖然してしまいました。いや、だって、私が見た限りではアトレは本気で下の兄の事を嫌っていました。

 そのアトレと下の兄が和解? 信じられないような話ですが、京都の人とその従者の人が揃って同じ事を言ったんですから……事実なんでしょう。

 流石は天然人たらしの下の兄。ルナちょむなんて。

 

『魔性の女だな、朝日は』

 

 そんな事を言っていました。後、下の兄は『男』ですよ、ルナちょむ。

 幾ら女性に見えても、下の兄の着物姿が見られて恍惚とした顔をしている京都の人がいるからとは言え、下の兄は男性。その事をどうか私の親友には忘れないでいて貰いたいです。

 

 

【五月中旬】

 再び上の従兄弟から連絡が来ました。

 凄く、本当に凄く連絡に出たくありませんでしたけど、出ないわけにもいかないので出ました。そして……心から聞きたくなかった話を聞かされました。

 

『君の言う通り……あの爺に女性の影が見えたよ。しかも相手は……16歳の娘だ』

 

 潰れてしまえ大蔵家!

 お爺様がお父様と富士夫叔父様の父親だという事に心から納得しました。

 屋敷の皆に話したらドン引きされ、ルナちょむなんて『気持ち悪い、気持ち悪いぞ、大蔵家』と、本気で嫌悪感に満ちた声で呟いていました。

 私だって本当に嫌ですよ。年下のお婆様や叔母とか。悪夢としか思えません。

 ですが……これで歳下の叔母である『大蔵ルミネ』が生まれる可能性が出て来ました。

 今のところあくまで仲が良いという関係のようですが、何時お爺様が動き出すか分かりません。最悪、本当に最悪ですが、上の従兄弟の次期当主任命も反故にお爺様ならしかねない。

 そして、何れ成長した新しい子供を指名しかねない。

 上の従兄弟はそんな事をさせないつもりのようなので、上の兄との決戦を急ぐつもりのようです。

 ヨーロッパ方面で頑張っている上の兄も、まさかそんな事が日本で起きているとは夢にも思っていないでしょう。

 ……才華とアトレの方は、下の兄がこっちに帰って来れても無理。私がさせませんし、何よりもメイド長がルナちょむと下の兄の交際を認める気がないんですから。

 

 

【五月下旬】

 夢の不安定さは相変わらずで、今のところは小康状態と言うしかありません。

 出来る事なら以前のように彼方側をハッキリと見えるようになって貰いたい。逆に……(この後は何も書かれていない)。

 

 

【五月下旬】

 どうやら彼方で下の兄はクワルツ賞に参加しようとしているらしい。

 相手はパリからの留学生である『ジャスティーヌ・アメリ・ラグランジェ』。途切れ途切れの夢になってしまったせいで詳しい詳細は分かりませんが、どうやら本場のフランスのパリで活躍している天才デザイナーらしい。

 そんな相手が下の兄の型紙の才能を見抜いた事は大変栄誉だ。この話をルナちょむにしたら、かなり悔しがっていました。

 ルナちょむも去年のクワルツ賞で最優秀賞を受賞し、今年は今年でスイスの人と共に一次審査通過の通知が届いて、本審査に向けての準備を始めてます。私も少しだけ手伝っている。

 ただやはり下の兄がいた頃にクワルツ賞を辞退したことは、今でも後悔しているようです。もしもの話ですが……あの時ルナちょむがクワルツ賞に参加していたら……上の兄も下の兄の評価を変えていたに違いない。

 下の兄。届かないかも知れませんが、私は応援しています。貴方ならきっとクワルツ賞で最優秀賞も夢ではない筈です。

 ……ただ彼方の私に衣装を贈ったのは、妹、些か以上に嫉妬を覚えました。




因みに夢の内容の変化は、話している最中に言葉が途切れたり、相手の顔が急に見えなくなったりします。繋がりが徐々に薄れて、七月中旬には完全に繋がりが消え去ってしまいます。

『りそなの日記』は次の話で終わりとなります。投稿時期は今のところ未定となります。
次回は本編に戻って才華side九月編となります。どうかこれからもお付き合いしていただけると嬉しいです。
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