月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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何とか十話行かずに一日が終了しました。
四月はまだ終わりませんが。
因みに今回、久々に朝日がマイナス方面に行きます。詳細は本編で。
後、後書きに久々にちょっとした話があります。

秋ウサギ様、獅子満月様、dist様、烏瑠様、笹ノ葉様、誤字報告ありがとうございます!


四月上旬9

side才華

 

「と言う訳で、僕のご主人様は僕の性別にも、あの時助けたのも僕だと気がついていないみたいなんだ」

 

「そう良かった」

 

 僕の報告にルミねえは僅かに安堵の息を吐いた。

 

「性別がバレていないのは助かった。他に何か余計な事は言っていないよね?」

 

「うん。言ってない。ただお嬢様は僕とキスしたんだって認識してる」

 

「キス? 救命行為でしょ?」

 

「そうなんだけど、本人の受け止め方次第で、どうとでも解釈はとれるからね」

 

「私だって才華さんが溺れて、その必要があるなら人工呼吸を迷わずするよ。私が溺れていても才華さんはしてくれるよね?」

 

 するけど、僕のアレは人工呼吸と呼べるのだろうか?

 後で壱与に正確な人工呼吸のやり方を教わろう。同じ事が起きた時に、今度はちゃんと出来るようにしておかないと。そんな機会は無い方が良いんだけど。

 

「だとしても嫌悪感があるかないかの違いはあると思う。たとえルミねえの命が危ないのだとしても、僕は自分以外の人間がルミねえに口付けしたら嫌だ」

 

「頭大丈夫? 自分は他人に口づけして、私が同じ事をするのは許さないってどういう事?」

 

「だってルミねえは僕だけのルミねえだから」

 

 あ、この言葉を平然と言えるのは久々だ。

 最近はひい祖父様が怖くなって、ルミねえに以前のように甘えるのを躊躇うようになっていた。

 僕の言葉にルミねえも若干嬉しそうにしている。少しずつではあるけど、自信が戻って来たのかな?

 

「分かった。今は才華さんだけのルミねえで良い。自分は他の人を大切にしつつ、私を独り占めしたいだなんて不条理にも程があるけどね」

 

「確かに不条理だね」

 

 自分で言っていてそう感じる。でも、やっぱり僕はルミねえも大切だ。

 彼女は彼女で、僕の味方で大好きな人。

 

「それじゃエストさんのところに行こうか」

 

「うん。その前に壱与を呼びに行かないと」

 

「そう言えば小倉さんは?」

 

「そっちはお嬢様が呼ぶらしいから大丈夫だよ」

 

 先ずは壱与だと思い、一つ上の階に向かうのに、僕とルミねえは64階分の高さを下った。

 

 

 

 

「あの場にもう一人男性がいた事にするのですか?」

 

 エントランスには丁度壱与以外の誰もいなかったので、僕は事情を説明した。

 聞き終えた壱与は難しい顔をして考え込んでいる。

 

「そう。お嬢様はプールの中で抱き抱えていたのは男性だと認識してる。其処さえクリア出来れば、僕の性別を明かす必要はないんだ。出来れば、今後会う事が無い人が良い。その場しのぎを頼める、都合の良い人はいないかな」

 

「若はどうでしょう」

 

「だからエストお嬢様は、相手を男性だと認識しているんだよ」

 

「ですから、若はどうでしょう。伯父の衣遠様や、妹のアトレお嬢様と関わりのある、この桜の園へ来ていても可笑しくありません。幸いと言うべきなのか、今日は叔母である総裁殿が来ています」

 

「えっ!? 総裁殿が来ているの!?」

 

「はい。アトレお嬢様の部屋に今は居る筈です。先ほど紅茶の手配を頼まれたので、部下がお届けに向かいました」

 

 ……まだ帰ってなかったんだ。

 いや、小倉さんがいるから当然だけど。これは僕と話をするつもりがあると見て間違いない。

 

「アトレさんと九千代さん……大丈夫なのかな?」

 

「学院で二人を見た時は……まるで死刑執行前の受刑者のような雰囲気だったよ」

 

「わぁ……エストさんとの話が終わったら、行かないと駄目だね」

 

 うん。こんな形になってしまったけど、エストとの話が終わったらそろそろ行こう。

 何時までもアトレや九千代に対応を任せている訳にはいかないから。

 

「話は戻しますが、叔母の総裁殿が来ていると知った若が桜の園に訪れるついでに、元の使用人である朝陽さんがプールにいると聞いて、たまたま立ち寄った際に人を助けた。そうすれば嘘は少なくなり、わざわざ危険な代役を用意する必要はなくなります」

 

 なるほど、筋は通っているし矛盾もない。今桜の園に居ないのは、叔母である総裁殿に追い返されたと説明する事も出来る。総裁殿が協力してくれるか分からないけど、他の皆と口裏を合わせれば問題はない。

 

「若を嫌っているエストお嬢様の気持ちも、命を救ったとなれば、多少なりとも変わるのではありませんか?」

 

「良いと思う。感謝もされるし、良かったね」

 

 うん、良かった。最底辺の好感度を上げられる機会がやって来たよ。

 だけど、何故ルミねえがいやらしい顔をしているのかが分からない。

 それと、果たしてエストがどんな反応をするか。少なくとも好意的な反応は無いと見て間違いない。

 ……嫌われているからね。桜小路才華としての僕は。

 

「あ、でも小倉さんが何か言ってないか心配」

 

「それは大丈夫だと思います。小倉さんは若の事情を知っておりますから、余計な事は仰っていないと思います。多分、見た事もない男性だと伝えていると思われます。相談せずとも小倉さんなら察してくれるでしょう」

 

 ……桜小路才華を知らないと言う小倉さん。

 ……駄目だ。凄く落ち込む。

 

「わぁ、朝陽さんが目に見えて暗くなった」

 

「若。どうかご辛抱して下さい」

 

「……うん。分かった。何とか耐えてみる」

 

「では向かいましょう」

 

 

 

 

「桜小路才華さんが私を!?」

 

 案の定エストは僕の話を聞いて叫んだ。

 突然のエストの豹変に、部屋に先に来ていた小倉さんが驚いている。

 頼むから小倉さんの前でも、誇り高い姿でいてくれ。

 

「そ、そうなんです。私は知っていたのですが、男性が身体に触れた事をお嬢様が酷く気にしていた為……黙っていた方が良いか、お二人に相談いたしまして」

 

「ああ、あの方が桜小路才華様だったんですね、初めてお会いしたので気がつきませんでした」

 

 小倉さんが僕の話にのってくれた。

 どうやら察してくれたようだけど……やっぱり初対面と言われると落ち込む。

 

「ファ○○○○ァァーッックッ!!」

 

 凄まじい剣幕を上げ、机に足をのせて低俗な言葉を叫んだ。

 

「お、お嬢様! お止め下さい! はしたないですよ!」

 

 慌てて僕はエストの足を床に戻して注意した。

 小倉さんが居るんだから、止めてくれ! ほら、見ろ!

 目を丸くして小倉さんが驚いているじゃないか! せっかく、誇り高い姿しか小倉さんは……あ、既に地下カフェで恥ずかしい場面を見せて、助けて貰っていたんだっけ。

 とにかく、今は落ち着いてくれ。

 

「一方的に恩だけを残して、お礼も言わせずに消えていくなんて……本っっっ当にいやらしい人! そんな人に肌を触れられて、どころか身体を抱きしめられて! あああこの屈辱もう絶対に許さない! あの人大っ嫌い! ガッデエエエエエエイム!」

 

「すみません。お手洗いをお借りしまぷふっ」

 

「……八十島さん。これ不味いんじゃないですか?」

 

「ええ、まさか此処まで若の事を嫌っていたなんて」

 

「どうして、助けたのを才華様だと知らせたんですか?」

 

「若の事を嫌っているのを知っているから、命の恩人だと知れば少しは変わるかと思って」

 

「火に油を注いだような状況ですね」

 

「ええ」

 

 どうしてこうなった。

 エストが壱与にお礼を言って、ルミねえに心配をかけてしまった事を謝った辺りまでは穏やかだった。

 それが『助けてくれたもう一人の男性』に話が及んだ段階で可笑しくなった。小倉さんも僕らの話に合わせてくれようとしていたんだけど、桜小路才華の名前が出ると、僕のご主人様は大層お怒りになった。

 ルミねえは吹き出すのを堪え切れずに避難した。壱与と小倉さんは離れた場所で、小声でやり取りしながら見守っている。助け船は出してくれなさそうだ。

 と言うよりも、僕も小倉さんに女装姿を見られるのが恥ずかしくて出来るだけ顔を合わせないようにしていたんだけど、今はそんな事よりもエストの行動の方が恥ずかしい。

 低俗な言葉を叫んで、しかも机の上に足をのせるとか。誇り高い貴族にはどうやっても見えない。

 

「お嬢様、才華様は命の恩人です。此処は感謝の気持ちで、和解の道を考えてはいかがでしょう」

 

「私の気持ちを裏切ったあの人だけは駄目」

 

 酷い。そんなにもゴーストの件が許せないのか。

 いや、ゴースト以外にも僕がやっている事が全部バレたら許せないだろうけど、その事を君はまだ知らないじゃないか。

 ゴーストの件は良し悪しは論じるまでもないけれど、この道のプロにはよくある事じゃないか。

 ……やっている事は完全に悪いけれどね。

 

「朝陽は楽観的に考えているみたいだけれど、向こうが望んで、神の赦しが下らなければ、結婚しろと迫られても断れないほどの事だよ。裸体同然の身体をこれでもかと密着させたのだから」

 

 誰が君と結婚するんだ。僕にその気は全くない。

 大体、肌を触れられたと言うけれど、普段から全裸で寝ている人間に言われたくない。貞操観念は立派だと思う。でも、貴女の普段の生活は原始人レベルだろう。

 言っておくけれど、このマンションには男性もいる。そんな場所で溺れた君の方も迂闊じゃないか。

 

「第一、どうしてあの人がプールに来るの!?」

 

「ですから、それは私に会いに来て」

 

「朝陽さんは騙されてるの! プールに来るとなれば、水着になるしかない。きっとあの人は朝陽さんの水着姿を見たくて来たに違いない! いやらしい。叔母様だっていう大蔵りそなさんの相手をアトレさん達に任せて、こっちに来るなんて可笑しい!」

 

 あ、そう言えばエストも総裁殿の事を知っていたんだっけ。

 しかも死刑囚同然のアトレと九千代の姿を見ている。好感度が上がるどころか、どんどんマイナスになっているような気がする。

 

「お嬢様。お怒りは良く分かりましたが、命を救って頂いたのですから、感謝しなくてはなりません。私も才華様がいなければどうしていたか」

 

「エストさん。私と八十島さんがあの場に間に合ったのは、間違いなく桜小路才華様の頑張りがあったからです。状況が状況でゆっくり話せませんでしたが、彼は立派な方でした」

 

 小倉さん、僕のフォローをありがとう!

 

「ん、まあ、勿論感謝するよ。するけれど、それでも、やっぱり、感情的に許せない部分はあるの」

 

「ええ、同じ女性として気持ちは良く分かります。私も親戚として恥ずかしい思いです。後で厳しく判決を出しておきますね。斬首刑」

 

 この大叔母。せっかく小倉さんがフォローしてくれたのに、せっかく怒りの火が消えかけていたのに、ニトログリセリンを注ごうとしている。

 

「勿論、お礼は言うけれど、私の怒りもたっぷり込めたメールを後で送っておくから。何時かまだ見ぬその頬を、ウィンザー城の上ではためく旗の如く、左右に叩いて上げるつもり」

 

「そ、それは痛そうですね」

 

 うん。凄く痛そう。

 何時か叩かれる頬を撫でつつ溜め息を吐くと、ルミねえのニヤついた顔と、小倉さんの申し訳なさそうな顔が視界へ入った。判決、助けて。

 その後、今日はもう休むとエストに言われた僕らは部屋から退出した。

 そして取り敢えず、アトレ達にも事情を説明する為にアトレの部屋に向かった。其処には。

 

「漸く話は終わりましたか、甘ったれ」

 

 不機嫌さに満ち溢れた僕の叔母が、床に正座して項垂れているアトレ達の前でワッフルを食べながら待っていた。

 ……誰か助けて。

 

 

 

 

side遊星

 

 才華様達に付き添ってアトレ様の部屋にやって来た僕は、カリンさんと共にりそなの背後に立って、正座している才華様、アトレ様、ルミネさん、九千代さん、八十島さんを見ていた。

 助けてあげたいが、此処で下手な事を言ったら火に油どころかニトログリセリンを注いでしまうので、今のところは黙っていることにしよう。

 

「さて、現状は分かっているでしょうね、甘ったれ」

 

「……は、はい。申し訳ありませんでした」

 

「謝って済むなら、警察は要りませんね。この変態」

 

 はぅっ! 才華様に言っているのは分かるけど、今の言葉は僕にも効くよ、りそな。

 

「叔母様! お兄様は変態じゃありません!」

 

「うるさいですよ、アトレ。私は貴女に発言を許していません。減点です、カリン」

 

「はい。失礼します」

 

 りそなの指示を受けたカリンさんは、正座しているアトレ様の背後に移動して、長時間正座していて痺れている足を、思いっきり手で押した。

 

「はぅぅぅぅっ!!」

 

「アトレお嬢様!?」

 

「はい、減点」

 

「失礼します」

 

「きゃふぅぅ!!」

 

 無表情にカリンさんは今度は九千代さんの足を思いっきり押した。

 アレって、地味に効くんだよね。特にアトレ様と九千代さんは、帰ってからりそなが僕のところに来ていた時もずっと正座させられていたらしい。

 もしも正座を解いて休んでいたら、即日にアメリカ送りにすると脅していたようだ。

 痺れた足を押されて苦しんでいるアトレ様と九千代さんの姿に、才華様達は顔を蒼褪めさせている。

 

「で、甘ったれ変態」

 

 出来れば変態呼びは止めて欲しい。それは僕にも当てはまるんだから。

 

「上の兄からこんな大それた行為の理由は聞きましたが、改めて話しなさい」

 

「はい……僕が女装してフィリア学院に通おうとした理由は……」

 

 話を聞いて、僕はどう答えれば良いのか悩んだ。

 才華様がフィリア学院に通う事に拘っていた理由は、子供の頃に抱いた劣等感が理由だった。

 幼い頃に幼稚園に通い始めた時、周囲の子達と髪の色の違いが原因で避けられてしまった。虐めまではいかなかったようだけど、周囲の子供達は陰口や指をさしたりしたらしい。

 ルナ様と同じ髪の色を誇りに思っていたのに、それをウィッグを使って隠してしまった事が才華様の中で劣等感として残ってしまった。それを払拭する為に、僕も見たルナ様がフィリア・クリスマス・コレクションで衣装を着たように、自分も自らがデザインして作製した衣装を着てフィリア・クリスマス・コレクションの舞台に才華様は立ちたい。

 それこそが才華様が日本のフィリア学院に拘っていた理由。

 ルミネさん達が協力しようと思う理由には充分かも知れないけど。

 

「完全に個人的な理由ですね。そのせいでこんな事態にまで追い込まれていると思うと……腸が煮えくり返って来ます」

 

 りそなは大層ご立腹だった。

 

「りそなさん。才華様の理由は、確かに個人的な理由ですが、そう責めるものではないと思います。お母様から受け継いだ綺麗な髪を誇りたい。それは素晴らしい事じゃありませんか」

 

「朝日。貴方はやっぱり甘い。庇いたい気持ちは分かりますが、そのせいでこんな事態になっているんですよ」

 

「それは……ご尤もです」

 

 すみません、才華様。

 庇いたいけど庇えきれそうにありません。

 

「第一、このままだと無関係な家が潰されてしまいます。大蔵家が相手になったら、一瞬で潰されるような家ですよ、アーノッツ子爵家は。しかも相手の家は詐欺や恐喝の犯罪に手を貸しているんですから。アイルランドの政府がどっちを優先するのかは一目瞭然です。それなのに、この甘ったれ変態は何も賭けては……」

 

「待って下さい、総裁殿! 才華さんはフィリア・クリスマス・コレクション後にエストさんに真実を全て伝えるつもりです。そして伝え終えた後に、エストさんが受け入れてくれなければデザイナーとしての未来を諦めるつもりです」

 

「え、そうなんですか!?」

 

 ルミネさんが告げた事実に、僕は慌てて才華様に顔を向けた。

 

「……本当です。でも、それはあくまで僕側の事情です。真実を話してエストが受け入れてくれるとは思ってません。だけど、総裁殿! フィリア・クリスマス・コレクションまで僕に時間を下さい!」

 

「それは最優秀賞を取れば、私が認めると思っているからですか?」

 

「違います。此処までの事態になって、最優秀賞を取ったから許してくれるとは思ってません。僕はエストを支えたいんです」

 

 才華様の言葉に僕は目を見開いた。

 

「これまで僕はお父様の言葉を受け入れていませんでした。『誰かの為になるのは立派な事』。あの人の道は、僕とは相容れないと考えていました」

 

「アメリカの下の兄が聞いたら、落ち込むでしょうね」

 

 うん。落ち込むと思う。

 因みに、僕にも地味に効いている。僕はその言葉を実現したいと思っているから。

 ……実現しないどころか、真逆の事をしてお母様の期待を僕は裏切ってしまった。

 

「……やっぱり、私なんて……」

 

「えっ? こ、小倉さん?」

 

 部屋の隅に移動して落ち込んでいる僕に、才華様は困惑したようだ。

 他の皆さんも、僕の豹変に驚いているようだ。

 だけど、慣れているりそなだけは溜め息を吐いて、僕の背を擦ってくれる。

 

「元気を出しなさい、朝日。あの甘ったれ変態は、アメリカの下の兄の言葉を軽く見ていただけです。まあ、それはそれで許し難いですけど、貴方にはこれからがあります。今は私の頼みを聞いてくれているでしょう?」

 

「……すみません、りそなさん。もう大丈夫です」

 

 りそなに元気づけられる事も複雑だけど、僕はりそなに従って元の場所に戻った。

 

「見ての通り、この子はまだ不安定な部分があるので、下手に刺激しないように注意しなさい。良いですね」

 

 有無を言わさない力強い眼光と言葉に、才華様達は頷いた。

 本当にすみません。

 

「で、話を続けなさい」

 

「は、はい。今、僕はエストを支えたいと思っています。エストが優先ですけど、他の皆も支えられるようになりたいと思っています。最優秀賞は勿論目指します。それだけじゃなくて誓った時までエストを支えたい。そして誓った時が来たら、僕はエストと二人だけで全てを話します。他の皆の力は借りません。エストと向き合って話します」

 

「……なるほど。上の兄が言っていたように、少しは変わったようですね」

 

「それじゃ叔母様! お兄様の為されている事を認めて下さるという事ですか!?」

 

「はあ、誰が認めると言いました、アトレ? それとこれとは別です。甘ったれ」

 

「は、はい!」

 

「貴方は母親を超えるのが目的でしたね?」

 

「……はい。何時かお母様を超えるデザイナーになりたいと思っています」

 

「その手始めがフィリア・クリスマス・コレクションの最優秀賞という事ですか……甘ったれ。貴方は知らないでしょうけど、貴女の母親のルナちょむは、本当はあの時のフィリア・クリスマス・コレクションで三着の衣装を用意していたんですよ」

 

「えっ?」

 

 才華様は知らなかったようだ。いや、八十島さんとカリンさん以外の全員が驚いている。

 ……この様子だとルナ様や桜小路遊星様は学生時代の事を語ってはいないようだ。いや、語りたくないのは分かるけどね。女装して学院に通っていたなんて……僕も語りたくはない。

 

「それなのに、貴方の事だから一着の衣装だけを作って自分だけが輝けば良いと思っていたんでしょうね」

 

「……仰る通りです」

 

「だから甘ったれなんですよ。ルナちょむはフィリア・クリスマス・コレクションで勝利する為に、他の班が考えもつかないような大胆な手を打とうとしていました。事情があって、最終的にあの一着だけになってしまいましたが、他の衣装のデザインの出来は、当時学院長だった上の兄が認めるほどでした」

 

 お父様の作品として発表されるほどだったらしいから、本当に素晴らしいデザインだったに違いない。

 

「今の時代のフィリア・クリスマス・コレクションなら、ルナちょむは総合部門とファッション部門で最優秀賞を取れているでしょう。だから、甘ったれ。貴方は最低でも二つの部門で最優秀賞を取りなさい。それが今回の件を見逃して、貴方がフィリア学院に通える事の条件です」

 

「……最優秀賞を二つ」

 

「叔母様! それは難しいです! フィリア・クリスマス・コレクション以外にも、衣装を作らないといけない時があります! 付き人のお兄様にはそんな時間は!?」

 

「その三着と、最後の一着。殆ど『小倉朝日』一人が作製していました」

 

『……えっ?』

 

「当時のルナちょむは、型紙が苦手でしてね。縫製も平凡。そっち方面が得意だった『小倉朝日』が殆ど作り上げたんです。最後の一着に関しては、全て『小倉朝日』一人で作りました」

 

 ……羨ましい。

 僕も出来れば、皆と衣装を製作したかった。作った衣装を皆で見て、喜び合いたかった。

 『小倉朝日』と同じ事が出来たかは分からないけど、それでも皆で衣装を製作したかった。

 ……其処まで行く事も、僕は出来なかった。

 いけない。また暗くなり掛けている。怪しまれないようにしないと。

 

「その事を考えれば最優秀賞を二つ取るぐらいは、何でも無いでしょう……妨害もこっちにはありませんからね」

 

 最後に小声で呟いたのは、お父様の事ですね。

 確かに『小倉朝日』の時と違って、妨害は才華様達にはないだろうけれど。最優秀賞二つは難関だと思う。

 

「総裁殿。その二つの最優秀賞に関しては、私がピアノのソロで取るのは大丈夫ですか?」

 

「甘ったれが作製した衣装を着てなら、問題はありません。他にも演劇部門など、とにかく甘ったれが作製した衣装を着て、最優秀賞を取ればそれで合格です」

 

「そうですか」

 

 ルミネさんは明らかにほっとした顔をした。

 最優秀賞を取れる自信があるんだろうけれど……裏の事情を知っている側としては難しいと思う。

 現にりそなは出来るものならやってみろと言わんばかりの笑みを浮かべている。

 

「序でに言えば、甘ったれ一人の成果じゃなくても構いません、例えばグループで頑張って作製した衣装。とにかく何らかの形で甘ったれが関わっていれば、それで合格。但し、今年の審査員は厳しい採点を行なう方々を呼びました。今年だけの特別な審査員達ですけど」

 

「特別な審査員?」

 

「ええ、特別な審査員です」

 

 ……嫌な予感がする。りそなは笑っている。

 その笑みには不吉な気配しかしない。

 

「先ず一人目は、欧州で活躍しているデザイナー。『ユルシュール=フルール=ジャンメール』」

 

「ユルシュールさん!? お母様がライバルと認めているあの人が!?」

 

 ……。

 

「二人目は日本で活躍している着物デザイナー。『花之宮瑞穂』」

 

「花乃宮家の。お父様もその着物には一目おいている方が」

 

 ……いじめ?

 

「三人目は、身体の事情もあって来れないルナちょむの代わりに快く引き受けてくれて、学生時代最後までルナちょむと一緒の班にいた『柳ヶ瀬湊』」

 

「柳ヶ瀬さんが。お母様の下で働いているあの人が来るなんて」

 

「四人目は……」

 

「りそなさん。ちょっと、お話が」

 

 流石に我慢出来なくなって来たので、りそなの肩を引っ張り、才華様達に聞こえないように部屋の隅に移動した。

 

「ど、どういう事でしょうか? 何で皆さんが審査員に?」

 

「フフッ、パリにいた時に貴方に内緒で話してみたんですよ。ミナトンはともかく、他の二人は知名度的に問題ありませんし。三人とも懐かしい母校に来れると喜んで承諾してくれました」

 

「だからって、何で私に内緒にしていたんですか!? 思いっきりバレますよね! 私がフィリア学院に通っている事が!?」

 

 嫌だ。女装しているのは仕方がないけど、また性別を偽って学院に通っている事がバレるのは本当に嫌だ。

 しかも、才華様の事も間違いなくバレる。ほら! 視線を向けてみれば、才華様達も顔を見合わせて小声で話し合っているよ!

 それはそうだよね! 知り合いが審査員とか、凄く困るよね! 才華様とユルシュール様達は面識は絶対にあるだろうし! そんな方々の前で女装して舞台に立つ。

 ……恥ずかしくて死んでしまいそう。

 

「どうかもう一度審査員に関してはご一考をお願いします」

 

「もう無理ですよ。既に理事会で決まっていますし、総学院長もこれほどの著名人なら審査員として申し分ないと言っていますから。今更変えられません」

 

 手遅れだった!

 ……ああ、せっかくパリでは通う学院を隠す事が出来ていたのに、こんな形でバレてしまう事になるかも知れないなんて。

 いや、まだ大丈夫だ。僕は舞台に立つつもりはないから、隠れていればバレる事は……フィリア・クリスマス・コレクションには僕も自分が作った衣装は出すつもりだったんだっけ。衣装を見れば分かってしまうかも。

 デザインに自信がないから、他のデザインが上手い人に頼んでデザインを貸して貰って、衣装を作製。出来れば最優秀賞を狙うつもりだ。才華様ほどでないけど、僕も最優秀賞は狙っている。

 桜小路遊星様に挑む第一歩として、僕はフィリア・クリスマス・コレクションに参加するつもりだった。

 

「それと最後の四人目の審査員ですけど……」

 

「……えっ」

 

 耳元で語られた四人目の審査員の名前に、僕は膝から力が抜けて床に膝を突いた。

 才華様達が、僕の様子に気がついて視線を向けて来たけど、僕はそれどころではなかった。

 りそなが告げた四人目の審査員。その人物に、僕の心は混乱した。

 不甲斐なさ、罪悪感、悲しみ……そして歓喜。様々な感情が僕の心の中で荒れ狂っている。

 荒れ狂う感情で呆然とするしかない僕をりそなは優しく頭を撫でて、才華様達の下に戻った。

 

「話の途中でしたね。最後の四人目の審査員。その人物の名前は……フィリア学院創設者、『ジャン・ピエール・スタンレー』。甘ったれ、貴方の母親ルナちょむと同じ世界的なデザイナーで、貴方の父親が尊敬している相手。そして貴方が憧れたあの衣装を『神服』と評価した人物です」

 

 ……ジャンが来る。

 フィリア学院に。荒れ狂う感情を押さえようと、何度も深呼吸する。

 

「ジャン・ピエール・スタンレー……本当に彼が来るんですか、総裁殿!? 彼はお母様やお父様でも簡単には会えない多忙な人物なのに!?」

 

「上の兄が連絡したら、面白そうだって言って簡単に了承したそうです」

 

 ……りそな、まさか。

 

「まあ、とにかく来るのは確実ですよ。貴方の主人にも伝えれば、デザイナーとしてやる気を見せるでしょう。ただでさえ評価が高いフィリア・クリスマス・コレクション。それに数十年ぶり。いえ、創設しての最初の年以降、日本のフィリア・クリスマス・コレクションには来なかった彼がやって来るんですから。この件は、フィリア学院の生徒全員に発表する予定です。今までのフィリア・クリスマス・コレクションよりも生徒達はやる気を見せてくれるでしょう」

 

「……簡単には最優秀賞を二つ取れないという事ですか?」

 

「ええ、一般生徒にも目がある子が入って来たと総学院長も言っていました。甘ったれ。私が用意した舞台で提示した目標を遂げたら、今回の件を許してあげます。出来なければ、アメリカへ強制送還。アトレはこのまま日本校に通わせます」

 

「叔母様! ですから、私はお兄様のお側にいると!」

 

「黙りなさい! 無関係な相手の家を潰すような事態にまで発展させかけた時点で、貴女には何も言う資格はありません! 本当なら今すぐ止めさせてアメリカに強制送還して、二度と甘ったれの顔なんて見たくないぐらいに私は怒っているんです! 漸く落ち着いていた大蔵家を。アメリカの下の兄の幸せな生活を壊し掛けたアナタ達には腸が煮えくり返るぐらいに怒りを抱いています! ……それを朝日が説得したから、我慢して結果が出る時まで待って上げるんです。これは私が与える慈悲です」

 

「たとえ叔母様でも、お兄様の側から私を引き離そうとするのは認められません。叔母様は私の理解者だった筈です!」

 

「ええ、理解者でしたよ。貴女の考えには涙を流すほどに喜んでいました。だけど、今回はアメリカの下の兄の生活が壊れかねない。理解者だと私を言うなら、貴女も理解出来るでしょう。アメリカの下の兄の幸せな生活は、絶対に壊させません。たとえ子供である貴女達二人にもです」

 

「……叔母様」

 

「何ですか。もう話は終わりです、朝日、カリンさん、帰りますよ。甘ったれ、私が貴方の顔を見るのは、これが最後かもしれません。結果を出せなかったら、顔を見る事無く強制送還です。精々結果を出す事ですね」

 

 りそなは話は終わりだと言わんばかりに、アトレ様から視線を外し、僕とカリンさんに顔を向けた。

 カリンさんは頷き、僕も何とか落ち着いたので、床から立ち上がり、りそなの背後に移動しようとする。

 

「……何で叔母様は、その人を気に掛けるんですか?」

 

 アトレ様?

 

「アトレ。駄目だ」

 

「いいえ、お兄様。言わせて頂きます」

 

「何ですか、話は終わりだと言って……」

 

「叔母様はお兄様のしている事が、アーノッツ家に迷惑をかける事に怒っている。なら、この場にはもう一人。お兄様と同じように、いえ、お兄様以上に仕出かした人物がいます。貴女です、小倉さん」

 

 アトレ様の視線が僕に向いた。

 

「貴女は前の主人の人生に消えない傷をつけかけた不誠実な人です。その方に謝罪をしたのですか?」

 

「……していません」

 

 出来る事ならしたい。あの方に、僕が仕えたルナ様に、今すぐにでも謝罪したい。

 でも出来ない。もうあの方に会える日は、決して来ない。幾ら望んでも、それだけは叶う事がない。

 

「今の貴女は衣遠伯父様の娘です。その立場なら、相手の家に謝罪は行ける筈です。なのに、謝罪もせずにいます。これが不誠実だと言わず、なんと言えば……」

 

「アトレェェェェェェェェ!!!」

 

 部屋に怒りの叫びが上がった。

 その声の主は、りそなだった。鬼の形相。そう表現出来るほどに、怒りに満ちた顔をしたりそなはアトレ様に向かって手を振り上げた。

 才華様達は突然の事態に動けずにいる。だから、僕は振り上げられたりそなの手を……掴んで止めた。

 

「下の……朝日! 離しなさい! この姪はよりによって貴方に!?」

 

「……りそなさん。どうか止めて下さい。お願いします」

 

 首を振って僕はりそなに願った。

 僕の心からの願いに、りそなの手から力が抜けた。

 それを感じた僕は手を放し、アトレ様とりそなの間に身体を入れてアトレ様と向き合う。

 

「アトレ様。仰る通り私は不誠実な人間です。心からこの方の為になりたいと思ったあの方の人生を、私は傷つけかけてしまいました。謝罪しても許されない事を仕出かしました。ですが、一つ言わせて貰います。大蔵家の権力を使って、その方に謝罪を行いに行く事が誠実な行為なのですか?」

 

「そ、それは……」

 

 アトレ様は聡い方だ。

 今の僕の言葉で、気がついてくれたと思う。

 

「権力を使って会いに行く事は、誠実とは言えません。ましてや大蔵家ともなれば、逆に相手の家に混乱を起こしてしまいます」

 

 ルナ様は相手の家が大きくても気にしないだろうけど、八千代さんはどうか分からない。

 もしかしたら責任を全て背負って、桜屋敷から出て行ってしまうかも知れない。誰よりもルナ様の事を大切に思っている八千代さんなら、やりかねない。

 

「私があの方に謝罪を述べられるとしたら、本当に偶然に出会った時です。大蔵衣遠の娘となった時点で、いえ、そうでなくても私には謝罪に行く資格がないんです。それが不誠実だと言われれば、そうでしょう。言い訳出来ないほどに、私は不誠実を働きました。母である『小倉朝日』と違って」

 

 僕はアトレ様に深々と頭を下げる。

 

「アトレ様からすれば、私は許せない相手なのかも知れません。貴女が好きだった叔母であるりそなさんを奪った相手。ですが、どうかこれだけは許して下さい。私は……りそなさんの家族でいたい」

 

 アトレ様は顔を俯けた。

 隣にいた才華様は申し訳なさそうな顔をしながらも、アトレ様の頭を優しく撫でている。

 

「小倉さん。アトレがすみませんでした」

 

「いいえ。言われても仕方がない事をしているんです。才華様。妹であるアトレ様を大切にして下さい。家族は大切にするべきです」

 

 僕は最後に才華様達に頭を下げて、部屋から出て行った。

 エレベーターにりそなとカリンさんと一緒に乗り、一階に向かう。

 そう、家族は大切にしないといけない。せっかくの仲良く、そして幸せでいられる家族。

 ……僕が異物なんだ。本来居ない筈の存在。いなければ、アトレ様とりそなが喧嘩する事もなかった。

 

「朝日。駄目です」

 

 手が握られた。りそなだった。

 真剣に、でも何処か悲し気に僕を見て来る。

 

「貴方は私の、そして衣遠兄様の家族です。誰が何と言おうと、私達が認めます。だから……その顔は止めて下さい。貴方には笑顔でいて貰いたいんです」

 

「……りそな。家に帰ったら胸を借りて良いかな?」

 

「構いません。幾らでも貸してあげます、だから……だから、また戻らないで下さい。今度そっちに行ったら、きっと貴方はもう戻れなくなる。妹……それだけは絶対に嫌です」

 

 ありがとう、りそな。口に出して言いたいのに、今は言えそうにない。

 だから、代わりに握っている手を強く握る事で意思を示した。

 強く握り返された。此処にいても良いと言うように。

 ……何でだろうか? りそなは妹。それは絶対に僕の中で変わらない筈なのに……この温もりを……僕だけのものにしたい。

 誰にも。そう……桜小路遊星様にも、渡したく……。

 

「朝日。1階に着きましたよ」

 

「ッ!?」

 

 りそなの声で僕の意識は現実に戻った。

 

「どうしました?」

 

「……いえ、何でも無いです。少しぼうっとしていて」

 

「もしかしたらプールに制服で入った事も影響しているのかも知れません。早く家に帰ってゆっくり休みましょう」

 

「そ、そうですね。早く帰りましょう」

 

 何を考えているんだ、僕は。

 りそなは妹。大切な僕の妹だ。大切ではあるけど、それ以上の感情なんてないのに。

 疲れているのかな? よく考えてみれば初日で色々と在ったし。きっと疲れているんだ。早く帰って休もう。

 カリンさんが手配してくれていた車に乗り、僕達は帰路についた。




今回アトレには犠牲になって貰いました。
朝日のりそなに対する好感度の変化の為に。まだルートは確定していませんが。
因みにアトレルートもありえるかも。それはそれでヤバいのですが。


『その日の深夜のチャット会話』

蛇『そうかアトレの奴が……少々才華同様に甘やかし過ぎていたようだ』

蜘蛛『少々? 何を言っている。甘やかし過ぎだ。以前から俺はその事を危険視していた。その結果がこれだ』

偏屈『本日は『蝶』はこのチャットには参加しないとの事です。恐らく今は一緒に眠っていると思われます。危険域には達していませんが、間違いなく『女神』の精神は悪い方向に進んでいます』

蜘蛛『……追いつめるか。幾らアトレさんでも、彼女を傷つけるのは許せないな』

蛇『お前はまだ動くな。才華同様にアトレも成長出来る機会だ』

蜘蛛『その代償が彼女の精神だとすれば、割りにあっていない。以前も才華君のせいで悪い方向に進んだと聞いている。此処まで回復したと言うのに、元に戻ってしまえばこれまでの努力も水の泡だ。お前だって、そう思っている筈だ。せっかく、彼女が憧れている男を日本校に現れるように手配したと言うのに』

偏屈『『蝶』は今回の事は見逃すと言っています。下手に関係が悪化すれば、『女神』の精神が更に悪くなりかねないそうです』

蜘蛛『チッ……俺も日本に行った時に釘を刺しておくべきだった。少々状況を甘く見ていたようだ。反省している』

蛇『暫らくは我が娘の方も注意しておけ。もしも精神が悪化する事態になったら、すぐに俺か総裁殿に報告しろ』

偏屈『了解しました』

蜘蛛『俺の方にも頼む……それで本日の首尾の方は?』

偏屈『此方になります』

蛇『ほう』

蜘蛛『中々。特に彼女が才華君を運ぶ場面が良い。良く撮れた。指定の口座に報酬の方は入れておく』

蛇『此方もだ。しかし、コレで我が娘の存在は有名になるのは間違いない。才華には少々悪いが、以前に奴が我が娘の心を傷つけた代価だと思って貰う事にするとしよう』

蜘蛛『ああ、これで遊星君の時のような事態は防げるだろう。彼は表だって目立ってなかったから、何処の家も彼を大蔵家の一員だと言うのに軽く見ていたからな』

蛇『フン。特に桜小路本家と繋がりがある家。我が弟の静止の声がなければ、相応の報いをくれてやったと言うに、その事実を認識していない俗物どもが』

蜘蛛『同じミスは決してしない。彼女は望んではいないだろうけど、否応にもある程度有名になって貰わなければならない。遊星君と違って、彼女の精神は不安定だ。天秤には今後も注意しておいてくれ』

偏屈『了解しました』
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