月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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本編の更新じゃなくて申し訳ありません。
息抜きに書いていた以前アンケートで案を出した対談話のプロローグが完成してしまったので、取り敢えず載せて見ます。
因みに本編のネタバレも少々含んでいますのでご注意を。

秋ウサギ様、kusari様、コルネリア様、dist様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!


対談の始まりin桜屋敷

side才華

 

 深い穴が欲しい。地の底にまで届くような深い穴が。其処に入り込んで二度と外に出たくない。

 そして胃薬が欲しい。今すぐに、切実に欲しい! もう胃がキリキリして吐きそうだ。

 

「これが我々の世代で起きた出来事であり、お前達の父親が成し遂げた偉業だ。我が弟なくして今の大蔵家は存在しなかった」

 

「……お父様は、本当に凄い方だったのですね。今の伯父様のお話をお聞きして改めて実感いたしました」

 

 隣に座って僕と一緒に伯父様の話を聞いていたアトレが、感嘆しかないというように言葉を発した。

 僕も同じ想いだ。お父様の凄さは知っていたが、まさかこれほど凄い事を成し遂げていたとは夢にも思っていなかった。

 ……そしてその努力を無駄に仕掛けた自分に、異常なまでに腹立ちを覚えてしまう。いや、ほんとに。

 

「……お父様になんてお詫びしたら良いのか」

 

「流石に全て知った時は気絶しかけていたがな。我が子の話では、お前がルミネ殿との結婚話を持ちだした時も、その場にいた奴を含めた全員が言葉を失ったそうだ」

 

「……今更ながらですが、あの時、冗談だと分かっていたとはいえ、お兄様を諫めなかった自分を恥ずかしく思います」

 

 言った本人の僕はもっとキツイよ、アトレ。

 発案者で実行者なんだから。はあー、一年前と言うかアメリカで過ごしていた頃が懐かしい。去年は本当に色々あったから。

 今はお正月の時期で、学院は冬期休暇中。フィリア・クリスマス・コレクションを何とか乗り切り、大蔵家で行なわれた『晩餐会』への参加も終えた僕とアトレは、伯父様に桜屋敷に呼び出された。

 一体何の呼び出しだろうかと戦々恐々としながら、アトレと共にやって来ると、伯父様はお父様と大蔵家に関する昔話をしてくれた。何故急にと思ったけど、伯父様が言うには、『去年の功績を考えれば、今のお前達には知る権利がある』らしい。

 聞き始める前は、どんな事が語られるのかとワクワクしていたけど……今は胃がキリキリしていて気持ち悪い。

 

「……まさか、金子おばあ様がお父様に、そんな仕打ちをしていたとは夢にも思っていませんでした」

 

 僕やアトレにも優しくしてくれるし、お母様との関係だって良好な人だったから。

 

「今の母上は、嘗ての母上とは全くの別人と言って良いだろう。当時の頃は、この俺を大蔵家当主の座に就かせる妄執に囚われ、りそなに対しても娘というよりも新しい自分という意識を強く抱いていた。愛情はあっただろうが、それとて妄執から出た愛情でしかなかったがな。現にりそなが我が弟の側に就くと確信した時は、次男家と共謀してりそなの婚約話まで持ち込んで来たほどだ」

 

「あ、あの金子おばあ様が、そのような事を……」

 

「特に遊星の話を本人の前でするのは駄目だった。名前を聞くだけで嫌悪感を示し、ヒステリックな声を上げるほどだった」

 

「そ、其処までですか?」

 

「お前達からすれば信じ難い事だろうがな。だが、それが嘗ての大蔵家だった。遊星という存在は家内で知られていても、りそなを除いた誰もが気にもかけていなかった。この俺もだ」

 

「伯父様もですか!?」

 

 信じられなかった。だって、伯父様とお父様は本当に仲の良い兄弟にしか見えない。

 血の繋がりがなくても、本当の兄弟のように仲が良いのが伯父様とお父様だ。それなのに。

 

「だが、そんな中で奴はやり遂げた。以前にも才華には言ったが、お前達の父親は誰よりも強き意志を持っていた。奴は決して、折れず、曲がらず、最後には全てを纏め上げた。それを成し遂げる事が出来たのは、強き意志を持っていたからこそ……そんな奴が折れるとすれば……自らが引き起こした罪だけだ」

 

『……』

 

 誰の事を言っているのか、僕とアトレには分かった。

 伯父様の子供となって、僕とアトレに良い影響を与えてくれたあの人の事だ。今、あの人はマンチェスターに行っていると伯父様は教えてくれた。

 漸く、誇れる報告が出来た事を、今は亡き母に伝えに行くそうだ。

 あの人の正体を知った時は、僕とアトレはそれは驚いた。いや、驚いたどころの騒ぎでは済まない。

 僕は二度目の人生最大の衝撃を。アトレに至っては失恋を加えた衝撃を受けた筈だ。

 ……失恋してるよね? 流石に正体を知った今では、まだ正体を知らない頃に抱いた感情は……なくなったと思いたい。

 

「漸く奴も前を本当の意味で向いて歩けるようになった……全く、手間をとらせてくれる」

 

 そう言いながらも、伯父様。今の貴方の顔は喜びに満ち溢れてますよ。

 軽い雑談を終えると、僕らは部屋の外へと出た。

 

「しかし、才華。いい加減にその服を屋敷内では脱いだらどうだ?」

 

 今僕は自作のメイド服を着ている。急に呼ばれたから男性服に着替える余裕なんてなかった。

 そもそも住んでいるマンションには、誰かが部屋を訪ねて来て見つけられたりしたら困るから、男物の服は置いていないし。

 

「これは急に呼ばれたからです。それにマンションでの私は『小倉朝陽』ですから、男性物の服を着る訳にはいきません」

 

「……どうしてこのような価値観が固定されてしまったのか。総裁殿も嘆いていたぞ」

 

「ですが、お兄様を含めた女装関係のそもそもの始まりは総裁殿が提案したからなのでしたよね。いえ、私もお兄様がまさかアメリカに居た頃から、女装を隠れてしていたとは夢にも思っていませんでしたが」

 

「ククッ、だから今は頭を抱えている。己の業がこのような因縁を生み出すとは、当時の奴は夢にも思ってなかっただろう」

 

 僕だって夢にも思っていませんでした。いや、本当に。

 

「……あっ」

 

「ん? どうした、アトレ?」

 

「いえ……そのフッと思ったのですが、あの人がいた世界の方はどうなっているのかと思いまして」

 

「考えるまでも無いことだ。それと、その疑問は決して本人の前では口にするな」

 

 伯父様の言いたいことは、すぐに分かった。先ほどまでの話で、あの人がいない大蔵家がどうなるかなんて分かり切っている。

 ああ、でも以前仕えていた家の方はどうなのかな? 家の方はあの人が関わらない限り、大蔵家とは縁はなかった筈だから、大丈夫だと思う。でも、あの人の主人の方には何らかの影響が……。

 そんな風に考え事をしていたのがいけなかったのか。階段の手摺りの近くで僕は……。

 

「あれ、なんでこんなところにバナナの皮がって!? あああああああぁああぁぁぁ!!!」

 

「才華ああああーーーー!!!」

 

「お兄様ああああーーーー!!!」

 

 

 

 

 

「ん……お父さま……お父さま、たすけてくださ……いたっ! ん、つうぅ……」

 

 腰から走った痛みで、意識が戻って来た。

 ゆっくりと目を開ける。視界の先は真っ暗だった

 

「あれ? ……何で屋敷の中が暗くなって?」

 

 変だなあ? 階段から落ちる直前は、確かに電気が付いていた筈なのに。

 伯父様とアトレが慌てて電気を消したとか? ……流石にないかな。

 

「伯父様、アトレ! 僕は無事です!」

 

 取り敢えず2階にいる筈の二人に呼びかけてみた。

 ……返事がない? 可笑しいなあ? 疑問を感じながら、痛む腰を押さえて立ち上がる。

 ……やっぱり可笑しい。幾ら待っても電気が付かないし、伯父様とアトレが2階から降りて来る気配もない。

 

「……先ずは電気を付けよう」

 

 こう視界が暗いと歩くのは危ない。

 一先ずは電気をつけてと。暗くても慣れ親しんだ桜屋敷。

 電気の位置なんて簡単に分かる。

 

「あ、此処だ」

 

 手探りで電気のスイッチを見つけた僕は、そのままスイッチを……押そうとしたところで誰かに手を大きな手で掴まれた。

 

「曲者!!」

 

「えっ?」

 

 聞き覚えのある声と共に腕を掴まれた僕は、そのまま腕を捩じられた。

 

「いたたたたっ!」

 

「こんな夜更けに屋敷に忍び込むなんて! お嬢様方の安全は私が守る!」

 

 こ、この声は!?

 痛みを感じて考えが纏まらないけど、この声の主を僕が聞き間違える筈が無い!

 

「ま、待って! いたっ! い、壱与!? 僕だよ! 才華!」

 

「……はっ?」

 

 力が緩んだ。

 どうやら壱与も僕に気がついて……。

 

「あたたたたたっ!」

 

 緩めてくれない!? 寧ろ力が増したように感じる! 何でえ!?

 

「誤魔化そうとしたって無駄です! いもしない相手の名前を出されたかと言って、誤魔化せるとお思いですか!?」

 

「誤魔化してないよ! で、電気を付けて顔を見ればハッキリするから!」

 

「……一体こんな夜更けに何の騒ぎですか」

 

 ……えっ?

 パチンッと電気が付くと共に聞こえて来た声に、痛みを忘れて固まってしまった。

 な、何でこの声の主が桜屋敷に!? 先日お母様とお父様と共にアメリカに帰ったはずじゃ!?

 

「あっ、山吹メイド長! 怪しい人物が屋敷内に居たので捕らえました!」

 

「何ですって!?」

 

 背後を振り返っている壱与の大きな身体の向こうから、間違いなくあの人の声が聞こえる。

 ……でも……何だかちょっと若いような気が?

 

「聞き覚えのない声がホールの方で聞こえたと思って覗いてみると、暗闇の中で何かを探している影が見えて、こうして捕まえました」

 

「お嬢様方の安全は!?」

 

 お嬢様方?

 

「付き人の方々が騒がれていない所を見ると、大丈夫だと思われます」

 

「そう……念の為に後で部屋を訪ねるとして、先ずは侵入者の方です。この桜屋敷に忍び込むなんて、一体どんな相手が……」

 

 壱与の背後から姿を見せた赤毛の女性は、僕の顔を見て目を丸くして固まった。

 明るくなった事で僕の姿を確認した壱与も、驚きで固まっている。今なら逃げ出せそうな気がするが……僕も驚きで動けなかった。だって!?

 

「八千代の顔が若々しい!?」

 

「私はまだ二十代です!?」

 

「えっ? 二十代? 可笑しいな……確か去年の誕生日で八千代の年齢は四十……」

 

「それ以上仰るのでしたら、今すぐ警察を呼びますよ」

 

 ニッコリと微笑んでいるけど、八千代の全身からは強いプレシャーが放たれていた。

 僕は無言でコクコクと何度も頷いた。……怖い。

 

「はぁ……とにかく、壱与。手を放して差し上げなさい」

 

「わ、分かりました……山吹メイド長。もしやこの方は?」

 

「ええ……信じられないところですが、ルナ様が描かれた似顔絵とソックリですし……その上、この銀髪と瞳となると……間違いなくそうなのでしょう」

 

「ですが、いかがしましょうか?」

 

「そうですね……あの人の方だったらともかく、此方の方だと間違いなく……お嬢様がどんな反応をするのか考えるだけで怖いところがありますから……一先ずは空き部屋に移動しましょう。其処で詳しく話を……」

 

「うるさい、こっちの部屋まで声が聞こえて来て眠れないじゃないか。こんな夜更けに一体なんの騒ぎだ?」

 

「……えっ?」

 

 恐る恐る声が聞こえてきた方に振り返ってみる。

 その声の主は、2階からではなく、何故かキッチンの方から歩いて来た。

 僕と同じ……いや、僕よりも美しく輝く神秘的な銀色の髪。透き通るような白い肌。そして緋色の瞳を備えた凛々しい顔立ち。

 敬愛し、信仰に近い感情を抱いている人が不機嫌そうに歩いて来た。……若いお姿で。

 

「ああ……ああああ……」

 

「ん? 誰かいるのか? 聞き覚えのあるような、それでいて無いような声だが」

 

「あああああああああっ!!」

 

「……おーぅ」

 

 僕の顔を見て、目の前に立つ女性。つまり、若かりし頃のお母様は目を見開いて驚いた。

 そのまま、そそくさと2階へ無言で上がって行った。疑問を覚えたけど混乱する僕はそれどころじゃなくて、壱与と八千代に背を向けて丸まってしまう。

 

「ぐすっ、何がどうなって……僕、アメリカに帰りたい」

 

「帰っても路頭に迷うだけになると思いますよ……桜小路才華様」

 

「……えっ?」

 

 今、この八千代は僕の事を何と呼んだのだろうか?

 

「まさか、本当にメイド服を着て過ごしているなんて……桜小路家の男子が、このような趣味を持ってしまうなんて……嘆きしかありません。ああ……久しぶりに頭が痛くなってきました」

 

「心中お察ししますが、本当にいかがしましょうか? ルナ様に知られてしまった時点で、他のお嬢様方にもこの方の事が知られるのは間違いありません。そうなったら……」

 

「針の筵……いえ、それだけで済めば良い方でしょうしね」

 

「ですね」

 

 何だか不穏な会話しか聞こえて来ないのは……気のせいじゃないよね?

 えっ? ほんとに何がどうなってるの? 八千代やお母様が若くなっていたり、しかも桜屋敷で過ごしている。

 他のお嬢様方とか、本当に訳が分からないよ!

 とにかく、落ち着け、桜小路才華。今は『小倉朝陽』の姿だが、僕はあの美しい両親の息子で、ついさっき伯父様に認められて両親の過去を教えて貰ったばかりじゃないか。

 ……聞いた時にはお腹が痛くて仕方がなかった事は、おいておくとして。先ずは話を聞いて情報を集めないと。

 

「あ、あの……」

 

「何でしょうか? 桜小路家の御子息である桜小路才華様」

 

 ……ニッコリと微笑んでいるけど、明らかに若い八千代からは敵意のようなものを感じる。

 僕……何かしたかなあ? あっちの八千代ならともかく、こっちの八千代に怒られるような事をした覚えは無いんだけど。

 

「ど、どうして私の事を御存じでって!?」

 

 上階からの謎の発砲音と共に、僕の袖を高速の物体がかすめていった。

 僕、八千代、壱与は時間が止まったように固まった。……もしかしなくても……僕、撃たれた?

 

「ちっ、外したか。最近扱っていないせいで腕が鈍ったようだ」

 

 若い頃のお母様だった。喋りながら手に持つ銃に次弾を装填している。

 

「ル、ルナ様! 何をしているのですか!?」

 

「決まっている八千代。私の大切なメイドを傷つけて泣かせた相手に、制裁を加えてやろうとしているところだ」

 

「お気持ちは分かりますが、どうか落ち着いて下さい! この方はルナ様とは血の繋がった御方なのですよ!」

 

「だから、何だ。生憎と私には子を産んだ覚えはないし。そのような行為をした覚えもない。だから、其処のメイドとは他人だ。会ったらこの銃弾を叩き込もうとずっと思っていた。壱与。すぐに羽交い絞めにしろ。動かない方が当てやすいからな」

 

 ……若いお母様……いや、桜小路ルナさんの言葉にはふざけている様子はなかった。

 ……宿っている感情はただ一つ……怒りだ。

 此処までくれば此処が何処なのか分かった。……此処は……この桜屋敷は……あの人(・・・)が仕えていた桜屋敷だ。

 どういう経緯で僕があの人にしてしまった事を知ったのかは分からない。でも……この人は、桜小路ルナさんは本気で怒っている。してしまった事は決して許されないような事だとしても、それでもあの人はやっぱり大切に想われていた。

 この桜屋敷で。目の前にいる桜小路ルナさんに。

 

「本当に申し訳ありませんでした!」

 

「……」

 

「謝って済む事ではない事は分かっています……ですが、どうか謝罪だけはさせて下さい……貴女が大切に想っている人を傷つけてしまい、本当にすみませんでした!」

 

 服が汚れるのも構わずに、僕は床に土下座をした。

 それだけの事をしてしまったし。何よりも桜小路ルナさんは、あの人を今でも大切な人だと思っている。

 

「……なるほど。私達が知るお前よりもかなりマシになっているようだ。まあ、私達が彼方を見れなくなって、数ヶ月も経っているから可笑しくはないが」

 

 銃を下げてくれた。

 ちょっと安堵。あの銃から発射されるのは、スポンジ弾なのは知っているけど……当たるとやっぱり痛いってお父様が言っていたからなあ。

 何で痛い事を知っているのかは謎だけどね。

 

「はぁ、取り敢えず応接室に行って話を聞かせて貰おう。こうして彼方側からやって来たという事は、行き来出来る可能性があるかも知れないのだから」

 

「ルナ様。もう夜遅いのですから、話の方は明日にした方が宜しいのでは?」

 

「今は冬期休暇中だから多少の夜更かしは問題ない。そもそも早くあの部屋で眠るつもりだったのは、もしかしたら再び彼方を見る事が出来るかも知れないからだ。そうでなければ、今頃はまだデザインを描いている時間帯だ。それにだ……朝日(・・)と違って、この一応私とは血の繋がっている事になっているこれ(・・)が何時まで此方に居られるか分からないしな」

 

「それはそうですが」

 

「もしかしたら一分後にはこの場から消え去るかも知れない。或いは朝日のようにずっと此方にいることもあり得るが」

 

 それは非常に困る! あっちには家族がいるし、何よりも恋人だっているんだから!

 皆と会えなくなるなんて悲しくなって……。

 

「あっ……」

 

 ……そうか。この気持ちが、あの人が感じていた気持ちなんだ。

 これは……辛いどころの騒ぎじゃない……こんな気持ちをあの人は毎日味わっていたのか。

 うぅ……穴がまた欲しくなってきた。

 

「あの大丈夫ですか? お顔の色が余り良くないようですが?」

 

「えっ? ええ、大丈夫……です」

 

「混乱してしまうので、其方の私と同じように接してくれて構いません。一応ですが、自己紹介をしておきます。桜小路ルナ様の下でメイドとして働いている八十島壱与と申します」

 

 やっぱりそうなのか。でも、こうしてみると壱与は本当に変わってないな。

 もしかしたら医学の問題は、紅葉やカリンだけじゃなくて壱与にもあったのかも。

 

「お言葉に甘えさせて貰うよ。僕は桜小路才華」

 

「先ほどは腕を捩じって申し訳ありませんでした。まだ痛みはありますでしょうか?」

 

 軽く腕を動かしてみる。うん、問題は無さそうだ。

 

「大丈夫だから安心して良いよ。それに僕は此処では壱与の言う通り、侵入者だからね。対応は間違っていない」

 

「そう言って下さって心が軽くなりました」

 

 世界が違っても変わらない壱与の優しさに涙が出そう。

 

「話は終わったか? 取り敢えず本格的な話は明日聞く事にして、其方で朝日がどうなったのかだけでも聞かせて貰うとしよう。行くぞ」

 

「はい」

 

「それと念の為に言っておくが、この屋敷にいる大半がお前に対しては好意的な感情を抱いていない。寧ろ嫌っているものが多いと思う事だ。その中には私がいることも忘れないようにしておけ」

 

「はいっ」

 

 どういう訳だか分からないが、桜小路ルナさんは彼方の世界の事をある程度の期間までは把握しているようだ。

 その時期が何時ぐらいなのか分からないけど……あの人を傷つけてしまった頃からフィリア学院に入学するまでの期間だとしたら……どう考えても良い感情なんて抱かれる筈が無いよ!?

 

「何をしてる。早く来い」

 

 慌てて僕は後を追った。

 元の世界に戻れるのかはともかく……果たして僕の身は無事で済むのだろうか?




因みに言うまでもありませんが、桜屋敷の方々の才華達に対する好感度は最悪です。

ルナ様:元々両親及び兄妹、親戚の仲最悪。なので朝日のように近い親戚だと感じても好感度が上がる事はないので、大切なメイドを傷つけたので初期衣遠並みに好感度マイナス。『何故朝日が戻って来なかった?』

瑞穂:元々男性不信。しかも朝日効果が無いので回復の見込みもなく、更に才華が女性を軽んじる発言をしてしまったので最低値。『やっぱり男性は最低! この痛みを朝日に癒やして貰いたい』

ユルシュール:桜屋敷の中では比較的にマシだけど、やっぱり世界は違っても友人家を危険にさせたりしてしまった事で好感度は低い。『少しは家の大切さを学ぶ事ですわね』

湊:遊星への恋愛感情を断ち切れていないので色々複雑。でも、遊星を傷つけたのは許せないと思っている。『……ゆうちょとルナの子供』

サーシャ:全ての女装男子の味方なので、一番味方してくれそうだが、朝日を傷つけたことで朝日程陰ながら助けるかは謎。『ふふっ、同じ女装男子として語りあいましょう』

北斗:瑞穂と同じぐらい嫌い。しかも朝日と違って、瑞穂本人も嫌っているので原作のように割り切る事は先ずない。『ウララララララッ!』

七愛:元々遊星の事が嫌いなので、別段なんとも思っていないが、性格上才華の女装に関しては間違いなく辛辣な言葉を述べる。『……オカマ野郎の子供は、やっぱりオカマ野郎。私と湊様に近づくな』

小倉りそな:彼方との繋がりが消えるまで毎日見ていたので、四月の上旬に比べれば、好感度は多少上がっているが、本当に多少の範囲でしかない。『ウラミハラサデオクベキカ』

八千代:桜小路家の男子が女装!? 『頭が痛い』

紅葉&壱与:朝日と面識が無いので、桜屋敷のメイドの中では一番良心的。『主人の命令には従います』

その他の桜屋敷のメイド達:好感度低。『朝日を泣かせるなんて!?』

こんな状態です。

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