月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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更新遅れてすいません。
それとちょっと短めです

秋ウサギ様、三角関数様、笹ノ葉様、烏瑠様、誤字報告ありがとうございました!


五月中旬(遊星side)24

side遊星

 

「わあー!」

 

 感動した。

 準備が出来たと連絡が届いてやって来たりそなのブランドショップ。

 店内に飾られてるゴスロリの数々。りそなのデザインから製作された服。

 それらが本当に商品として売られていることに、心から感動させられた。僕の妹は、本当に服飾で成功したのだとこの瞬間、改めて実感した。

 ……それに比べて本当に僕は……。

 

「お願いですから、私の店に来て暗くなるのは止めて下さいよ」

 

「は、はい!」

 

 あ、危ないところだった。

 うん。そうだよね。此処は頑張ってりそなが作った自分のブランドショップなんだ。

 そんな場所で暗くなってなんかいられない。

 

「先ずは店内を見て回りましょうか。気分転換にもなりますし」

 

「うん。そうさせて貰うね」

 

 今日行く服飾店は此処だけだ。

 他の店に行く予定はないから、思う存分堪能させて貰おう。これまでは、僕に見られるのが恥ずかしかったのか、或いは他に理由があったのか分からないけれど、お店に案内して貰えなかったからなあ。

 ……あっ、このゴスロリはこの前、家でりそなが描いていた物だ。目玉商品なのか、一番目立つ場所に配置されている。

 他にも色々なゴスロリが置かれている。勉強にもなるから、このまま見させて貰おう。

 

「……あれ?」

 

 沢山のゴスロリ服の中に、明らかにりそなのデザインとは違うデザインから製作された服が混じっていた。

 軍服みたいなゴスロリ。通称ミリロリ。そんな感じの服が置かれていた。

 りそなはミリタリー系にも興味があったんだ。

 

「どうしました、朝日?」

 

「あ、いえ。このミリロリが少々気になりまして。これもりそなさんの作品なのかなあって思って」

 

「ああ、それですか。それは貴方が違和感を覚えた通り、それは私の作品じゃありません」

 

「そうなのですか?」

 

「ええ、それは私のブランドで一緒にやっているサブデザイナーのドイツの人の作品です」

 

「ドイツの人ですか?」

 

 僕の知っているりそなの交友関係で、ドイツ人の知り合いはいない。

 間違いなく僕の知らない人だ。でも、今のりそなの言葉からは確かに親しみを感じた。

 この前、聞いたジャスティーヌさんの叔母だという真心の人と違って、心からの親しみを。つまり、このミリロリのデザインを描いた人は……りそなの友人!

 

「どんな方なのですか!? 是非ともお話を伺わせて貰いたいです!」

 

「うわ~、思いっきり食いついて来ましたね」

 

 だって、今度こそりそなの友達なのかも知れないんだから、兄としては気になって仕方がないよ!

 

「まあ、話すのは構いませんよ。ドイツの人。本名は『ディートリンデ・ツヴァイゲルト』。私のパリ学生時代の数少ない……友人です」

 

「やっぱり、ご友人だったのですね! どんな方なのですか!?」

 

「これ以上に無いほどに目を輝かせていますね、貴方」

 

 呆れた顔をされた。でも、それはしょうがないと思って貰いたい。

 僕が直接知っているりそなの友達って、ルナ様しかいない。後はネトゲーの友人ぐらいだ。

 ディートリンデさんという方はどんな人なんだろう?

 

「ドイツの人と言ったように、彼女はドイツ人です。家の歴史こそ浅いですが、両親は大政治家で欧州各国の政財界に顔が利きますから名門の家の出です。学生の頃はドイツ海軍だった祖父に影響されていて、軍人を目指していましたが、今はドイツにある私のブランド店の経営を行ないながらサブデザイナーとして活躍しています。専らミリタリー関係ですけどね」

 

「話してくれてありがとうございました!」

 

「うわっ、本当に嬉しそうな笑みを……そんなに私に友人がいるのが嬉しいんですか」

 

「はい!」

 

「クッ! 色々と言いたいのに言えない自分に腹が立ってきますね……まあ、あの頃の私もまさかパリで友人が出来るとは思ってもみませんでしたから、貴方が喜ぶのは仕方ありませんが……アメリカの下の兄も話した時は、本当に嬉しそうに喜んでいましたからね」

 

「……そうですか」

 

 ちょっと嫉妬心が沸き上がってきた。桜小路遊星様は、目の前に居るりそなから友人が出来たという報告を聞けた。いけないことだが、どうしても嫉妬を抑える事が出来ない。

 心の狭い僕をお許し下さい、桜小路遊星様。

 

「おおっ! やっぱり良いですね。貴方が私関連で嫉妬を覚えるのは」

 

「申し訳ありません」

 

「謝らなくて構いません。貴方がそれだけ私の事を想ってくれている証拠なんですから。私、超嬉しい」

 

 りそなが喜んでくれるのは僕も嬉しいけど、流石に外でプライベートの時の口調は不味い。

 

「それでディートリンデさんという方とは同級生なのですか?」

 

「いいえ、同級生ではなく一学年上ですね。私、パリ校に留学したのは彼方が開講してから一年後でしたから」

 

 え~と、確かパリの学院の始まりが日本で言えば9月頃。

 僕がフィリア女学院に通っていた頃は、まだりそなは学院に通える年齢じゃなかった。それで計算すると……。

 

「今のお話だとりそなさんは日本のフィリア学院に……」

 

「ええ、半年間だけ通いました。ただ……予想はついていると思いますが、私が当時学院長だった上の兄の妹だという事がバレてしまいましてね……あの苦手な視線を向け続けられ、結局引き篭もりに7月頃には戻ってしまいました」

 

「……」

 

 少しショックを受けた。

 目の前にいるりそなは、大蔵家の当主として立派に勤めを果たしている。それでもやっぱり学生の頃は、苦労したのだと改めて実感した。

 

「……桜小路遊星様はその…」

 

「アメリカの下の兄は頑張ってくれていましたが……実はその頃、アメリカの下の兄は下の兄で、厄介な状況になっていましてね。前にパリで一時期大蔵家絡みで厄介な時期があったと説明しましたが、丁度その時期が今言った頃だったんです」

 

 そう言えば、そんな話をパリでりそなは言っていた。

 

「とにかく日本では大蔵家関係で結果を残し難いと分かった私は、単身9月に一年目を終えたパリ本校に入学した訳です」

 

 パリ本校か。日本のフィリア女学院はお兄様に任せたと知った時は、目の前が真っ暗になったなあ。

 その後に行なわれた入学式での公開処刑演説……思い出すだけで身体が震えてしまう。あの出来事は今でも思い出したくないけど、その時に手を握ってくれたルナ様の優しさは忘れておりません。

 でも、もしかしたら時期が合えば、僕がパリ校に通っていた未来も……ないかな?

 僕が桜屋敷から追い出されたのは7月の半ば頃だ。幾ら僕の為に頑張ってくれるりそなでも、一か月ぐらいの準備期間でパリ本校への入学手続きを出来る訳が無い。

 ……この考えは止めよう。無意識にりそなを頼りにしてしまっている。

 僕はりそなに頼りにされたいんだ。

 

「下級生に日本人の私が居ることを聞きつけたドイツの人は、わざわざ私のクラスまで会いに来てくれたんです」

 

「良かったですね、それは」

 

「いやまあ、確かに色々と助かりましたよ。メリルさんとも彼女との付き合いで、良く会うことが出来ました」

 

「あっ、メリルさんもパリ校に通っていたんですか?」

 

「ええ、当時は大蔵家の令嬢だと本人も私も知らず、今のプランケット家の当主、『ブリュエット・ニコレット・プランケット』。エッテの付き人でしたが」

 

 エッテ? ……珍しい。

 りそなが何々の人と呼ばずに、素直にあだ名で呼ぶだなんて。余程その人とは親しいという事に違いない。

 でも、パリに居た時には……家の当主だから時間が取れなくて会えなかったのかな?

 

「そんな人たちに囲まれて、私はパリでの学院生活を満喫しました。苦労は確かにありましたが、それなりにあの頃の学院生活は楽しかったです」

 

「……本当に良かったと思いました」

 

「どうしました? 何だか涙ぐんでいますが」

 

「いえ、今の話を聞けて安心したんです……私が居なくてもりそなさんには頑張る勇気があるんだって事が……私の妹もきっと大丈夫ですね」

 

 今の話を聞いて、僕は心から安堵感を感じていた。

 寂しさを感じるけど、りそなは一人でも頑張れる勇気がある。だったらきっと……僕の方の大蔵りそなも大丈夫だ。

 

「……つしていないといいんですが……あの頃の大蔵家で、下の兄がいないなんて……想像するだけで妹。マジで目の前が真っ黒になる恐怖しかないんですけど」

 

「何か仰られましたか?」

 

「いえいえ、何でもありませんよ。気にしないで下さい」

 

 急にりそなの顔色が悪くなった。僕から視線を逸らしているし。

 何か不安な事でもあるのだろうか。だったら聞かないと……。

 

「オーナー。準備が整いました」

 

 質問しようとしたところで、フロアマネージャーと思わしき女性が声を掛けてきた。

 

「此方の方がご連絡があったモデルの方ですね?」

 

「あっ、いえ、私は……」

 

「モデルというか。私の未来の専属のパタンナー候補ですよ、この子」

 

「パタンナーですか?」

 

 フロアマネージャーの女性は、僕を興味深そうに見て来た。

 将来もしかしたらこの人と一緒に働くかも知れないから、挨拶をしないと。

 

「初めまして。私は大蔵りそなさんの親戚で、大蔵衣遠の義娘になります。小倉朝日と申します」

 

「貴女が噂の衣遠様の養子になられた方でしたか。大変失礼いたしました。私はこのブランドショップをりそな様から任されている者です。もしかしたら将来一緒に働く事になるかも知れません。その時はどうぞ宜しくお願いします」

 

「此方こそ」

 

 僕と彼女は握手を交わした。将来的には本当に一緒に働くかも知れないんだから。

 

「それにしても、漸くオーナーは専属のパタンナーになられる方を見つけられたのですね。大変喜ばしく思います」

 

「ええ、漸く私のデザインを預けても良いと思える相手に出会えました。いや、秘書が選んでいるパタンナーにも不満はありませんでしたが」

 

「デザイナーにとってパタンナーは重要な存在であることは、私も理解していますのでご安心下さい。しかし……パタンナーとしてだけで働くには……少々勿体無く思えるレベルですね。是非ともモデルとしても働いて貰いたいと思えるお方です」

 

 すみません、モデルは無理です。男なので。

 

「接客能力は高いので、将来的にはあり得るかもしれませんね。私の衣装を着て朝日が接客ですか……似合い過ぎて任せたいと本気で考えてしまいますね」

 

 うぅ……女性物のゴスロリ服を着て接客。

 色々と複雑で葛藤を抱えてしまうけど……りそなの為なら。あっ、でも桜小路遊星様がりそなのブランドショップに来れなくなってしまうんじゃないだろうか?

 想像してみよう。りそなのブランドショップにやって来て、其処で会うのがゴスロリ服の僕。

 ……うん。間違いなく膝を地面に突いてしまうよね。

 知らなかったりしたら、最悪の場合、その場で気絶しかねないと思う。

 

「やはり接客して貰うとしたら、最新モデルが宜しいでしょうか?」

 

「一日ごとに着る衣装を変えるのも良いかも知れませんよ。今日までに幾つかの店で、モデル紛いの事をして来ましたが、人目はかなり集まりましたから」

 

「オーナー真面目な話ですが、休みの日だけでも店で働いて貰えないのでしょうか? ルックスは抜群ですから、すぐにでも人気店員になれますよ、彼女は」

 

 だけど、僕の願いは空しく届かなさそうだ。

 店側の管理者とそのオーナーの間では、もう僕は将来的にパタンナー兼店員になる事が決まっているみたいである。

 

「少なくとも今年は働くのは無理ですね。私の秘書が課題を出していましてね」

 

「衣遠様の課題ですか……それでしたら仕方ありませんね」

 

「あれ? お父様の事をご存じなのですか?」

 

「お、お父様……し、失礼しました。はい、私は元々衣遠様が開いていたブランドで働いていた者でしたから。あの方の無茶な要求にはかなり付き合わされて来ましたので」

 

「朝日も知ってのとおり、私の秘書は現在は趣味でしかデザインを描きませんからね。彼のブランド自体が休業状態ですから、彼のブランドで働いていた人達は……」

 

「私のようにオーナーのブランドや、或いはスタンレー氏の会社などで現在は働いております」

 

「そうだったんですか」

 

 実を言えば、お父様が今は趣味でしかデザインを描いていないと知った時は、結構ショックを受けた。

 僕はジャンに憧れているけど、お父様の衣装にも憧れていた。それなのに……お父様が趣味でしかデザインを描かなくなっていたなんて……いや、大蔵家の総裁であるりそなの秘書である事を考えると仕方がないかも知れないが。

 ……お父様が活躍していた時代の僕からすれば、一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。

 だから、お父様が僕の為に描いてくれたドレスシャツは本当に宝物だ。

 

「それじゃあ、始めますよ、朝日」

 

「……はい」

 

 複雑だけどやらないといけない事だ。

 僕はりそなとフロアマネージャーの人に連れられて、試着室へと向かった。

 

 

 

 

 つ、疲れる。

 体力的にも精神的にも、やっぱりどうしても疲弊してしまう。正確に言えば、女性物の服を着ているところを大勢に見られるのがキツイ。

 普段着を着て街を歩くのと違って、着飾った服を着て誰かに見られるのは本当に精神的に来る。というよりも、今日相手してくれたりそなのブランドショップのフロアマネージャーの人も、完全に僕の事を女性だと思っていた。

 ……どうやったら僕は男性に見られるように戻れるんだろうか?

 

「朝日。回復しましたか?」

 

 ブランドショップの奥にある従業員用の休憩室で休んでいたら、りそながやってきた。

 

「フフッ、今日の私の店の売り上げは5月に入ってからは、最高の売り上げだったそうですよ。真面目にモデルになって貰えないかって相談までされていました」

 

「止めてよ。本当に辛いんだから」

 

「まあ、妹としては流石に了承出来ることではありませんから。学院を卒業するまで保留という事にしておきました」

 

「ハハッ、ほ、保留なんだ…」

 

「ええ、さっき貴方の相手をしていたフロアマネージャーは本気で貴方に専属モデルになって貰いたいと言ってましたよ。『アレは磨けば光る原石です』だそうです」

 

 全然嬉しくない。

 僕がなりたいのはりそなのパタンナーであって、モデルになる気なんてこれっぽっちもないよ。

 身体を起こして、休憩室に置かれていたコーヒーのセットを使って手早く自分の分とりそなの分を淹れた。

 

「はい」

 

「ありがとうございます。それで残りは27着になった訳ですね」

 

「うん。予定通り10着だったからね」

 

 あんまり一か所のブランドで多く着すぎたら、またお父様に怒られてしまうから仕方がない。

 それでも残り27着になった。レポートもりそなが休憩室に来るまでの間に書き終えたし……このまま行けば最初の課題が一番最初に終わりそうだ。

 でも、今はそれよりも……。

 

「ねえ、りそな」

 

「何ですか?」

 

「りそなのパリでの学院生活の話の続きを聞きたいんだけど、良いかな?」

 

「……まあ、構いませんよ。さっきも店で話しましたが、大蔵家の関係で、しかもフィリア学院の当時の学院長は上の兄でしたから、最初はともかく、2、3ヶ月も経ったら妹の事は知られてしまいました。貴方も知ってのとおりの、以前の学院でも向けられていた視線に耐えられず……桜屋敷に引き篭もってしまったんです」

 

「……それでどうなったの?」

 

「ルナちょむ達やアメリカの下の兄に励まされた妹は、一人渡仏する決意をしました。まあ、その決意を抱けたのも大蔵家絡みだったんですけどね。以前も言いましたが、その時期辺りでお爺様が急にアメリカの下の兄に会いたいと言い始めたんですよ」

 

「それは何でなの? 僕が知る限りお爺様は、僕の事も疎んでいた筈なんだけど?」

 

「何処からか桜小路家の娘。つまり、ルナちょむと恋仲になった事を聞きつけたようです。お爺様は新参者の家だからと、若い頃にかなり周りの家から言われたそうですから」

 

 ……その辺りが僕や山県さんをお爺様が嫌っている理由なのかも知れない。

 とは言っても、疎まれている方の僕や山県さんにとっては関係ない話だが。

 

「桜小路家は一応歴史のある家柄ですからね。実情は大蔵家と同じぐらい最悪の家ですが。何度潰してやりたくなった事か」

 

 どうやらりそなもりそなで、桜小路家本家には不満をかなり持っているようだ。

 僕としてはルナ様の生家だから、仲良くして欲しいと思うんだけど……そのせいで才華様が傷ついてしまったりしたそうだから拘わらない方が今のところは一番良いのかも知れない。

 

「話は戻しますが、大蔵家絡みで重大な問題が発生してしまい、私も何か結果を出さないといけない状況に追い込まれてしまったんです。ただ日本では本当に無理だと思った私は、パリに賭けたんです」

 

「そんな事があったんだ」

 

「ええ、結果的にパリに行ったのは大正解でした。パリコレで最優秀賞という結果も残しましたからね」

 

「凄いね。メリルさんもパリ本校に通っていたんでしょう? そのメリルさんにも勝てたんだから」

 

「あっ、いえ。実を言えば学生時代のメリルさんは、余りいい結果を残せずにいたんです」

 

「えっ? それ本当なの?」

 

「学生時代でも確かにメリルさんは、担当していた担任からは天才だと言われていたそうですが……型紙が駄目だったんです。メリルさんのデザインって、凄く独特で、あのスタンレーの型紙を引いていた担任からもどう型紙を引いたら良いのか分からないと言われていたそうです」

 

「う~ん」

 

 直接メリルさんのデザインを見ていないから、何とも言えないけど、ルナ様のデザインだって型紙を製作するのは大変だった。

 それ以上に独特のデザインだとしたら、確かに型紙を引くのは大変そうだ。

 

「まあ、そんな事があって確かにメリルさんは天才でしたが、学生だった頃は結果を残せずにいたんです。それでも準優秀賞は最終的に取っていましたが」

 

「準優秀賞でも十分に凄いよ」

 

「妹はその上の最優秀賞ですよ」

 

 褒めて欲しそうだったので、頭を撫でてあげた。

 その後も話は続き、僕は楽しい気持ちを抱きながらりそなの話を聞き続けた。

 

「とまあ、妹はそんな感じでパリ本校での学院生活を送っていました。もう良いですか?」

 

「うん。話してくれてありがとう」

 

 聞かせて貰えてよかった。りそなはちゃんと学院生活を送れていたんだ。

 それを直接見ることが出来なかったのは悔しい気持ちはやっぱりあるけど、それよりも安堵感が強かった。

 僕の妹は頑張れば結果を残せる子なんだという事が分かったから。

 

「僕もりそなに負けないような学院生活を送れるように頑張るね」

 

「頑張って下さい。それじゃあそろそろ帰りましょうか」

 

「うん」

 

 今の僕には何処かに寄り道をしている暇はない。

 急いで家に帰って、りそなの服の製作を進めないと。

 

「あっ、そうだ。私の服の事はこのまま上の兄に内緒にしておきましょう」

 

「えっ? 何で?」

 

「いやあ、下の兄がこっちで初めて作った服の栄光を実感したいんです。ドレスシャツを受け取って、一番最初の下の兄が製作した服を喜んでいる上の兄を内心で笑っていたいんで」

 

「笑ったりしたらお父様が怒るよ?」

 

「だから、内心ですよ、内心。それに服の件を知らなかったとはいえ、かなりのハードな課題になったのは事実なんですから、これぐらいの嫌がらせは良いでしょう」

 

「本当に強くなったね、りそな」

 

 お父様に嫌がらせとか、僕の知るりそなが出来るなんて考えても見なかったよ。

 

「それじゃあ私たちの家に帰りましょうか」

 

「はい、りそなさん」




次回からは下旬です。
漸く六月に近づいてきました。

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