月に寄りそう乙女の作法2~二人の小倉朝日~   作:ヘソカン

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悩みましたが最初のルートのヒロインは決まっているので、この結果になりました。
パル子ファンの皆さん申し訳ありません。後区切りがいいので短めです。

ちよ祖父様、秋ウサギ様、笹ノ葉様、dist様、禍霊夢様、獅子満月様、烏瑠様、ルナピット様、障子から見ているメアリー様、誤字報告ありがとうございました!

選択肢
【よく確認するように念を押す】
【明日に会う伯父様に説明して確認して貰うように進言する】←決定!


五月下旬(才華side)29

side才華

 

 マルキューさんは頭の良い人だが、今回の映画の撮影の20着もの衣装制作依頼のような大きな仕事は初めての筈だ。

 だけど、僕も服を売った事が無いので忠告する事は出来ない。なら、伯父様に頼らせて貰おう。

 自分でブランドを開いた事があって、服飾業界で生きて来て、更には大蔵家の人間である伯父様なら、今回の件も的確に対処して貰える筈だ。何事も無いのが一番だけどね。

 

「今の話を改めて、明日会うというスポンサーの方に話してみてはいかがでしょうか?」

 

「えっ? ……でも、前に部下だという人に話してありますから」

 

「それでも何処まで制作が進んでいるのかは、話しておいた方が良いと思います。スポンサーになるお方も、パル子さんとマルキューさんに服の制作を依頼する為にも、何時時間が空くのかは知っておきたいでしょうから。マルキューさんから聞き難いことも、スポンサーになってくれるお方なら片手間で聞いて貰えると思いますので」

 

 伯父様からの連絡を雑に扱ったりしたら、どうなるか考えるだけで怖いからね。

 

「私も朝陽の意見に賛成です」

 

 どうやらエストもマルキューさんとパル子さんの置かれている状況の悪さが分かっているようだ。

 僕の話に便乗して、忠告してくれるみたいだ。ありがとう、エスト。

 

「口約束のみで話を進めているのなら、一度メールか何かで、文章に残る形でお仕事の依頼を頂いた方が良いと思います。そうでなければ、何かあった時も、追及するのが困難になってしまいます。マルキューさんの口から聞き難いのなら、朝陽が言ったように明日会う予定のスポンサーの方に確認して貰うように頼んでみるべきかもしれません」

 

「そう……ですね。メールでは、最初の連絡をいただいただけなので……分かりました。明日会った時に相談してみます」

 

 マルキューさんは少し元気を失った声で言った。落ち込ませてしまった事で申し訳ない気持ちはある。

 今回の映画の撮影の衣装には、本気でマルキューさんが意欲を燃やしていることを知っていたし、パル子さんも期待に応えようとしていた。

 だからこそ大切な事だ。僕もエストもせっかく出来た友人に嫌われるかも知れないけど、それを恐れずに意見を言えた。

 普段はにこやかにしているし、時々従者を止めたくなるような顔もされるが、真面目な表情をした僕の主人は美しいと、横顔を見て思った。口で言ったら調子に乗るから、絶対に言わないけどね。

 ただ注意が出来たのは良かったけど、その為に昼食の楽しい空気が壊滅的になってしまった。元々空気が悪かったのもあったが、これは本当に不味い。うぅ……お腹が痛くなってきたよ。

 流石にこのままの空気は不味いと思ったのか、寂しげに料理を頬張っていたパル子さんが顔を上げて元気な声を出した。

 

「まー20着なんていっぺんに作った事が無いから、私が間に合うかどうか微妙だけどな!」

 

「わりと未知の領域ですか」

 

 僕にとっても未知の領域だ。以前僕は縫製に一ヵ月は掛かりそうな衣装を2週間で仕上げた事はある。

 だけど、服の量産はしたことがないから、どの程度大変なのか想像が出来ない。つくづく自分の未熟さを実感させられてしまう。

 

「根性論な感じですか」

 

「アメリカで言えば自転車で大陸横断みたいな感じです」

 

「イングランドで言えばどうなりますか?」

 

「エゲレスには詳しくないので自信はありませんが、連邦加盟国の全ての地域を船舶で旅する感じの根性論だと思います」

 

「ねえねえ私のフランスの場合は?」

 

「行ったことがないのでこのたとえが適切か分かりませんが、フランス国内の世界遺産を全て心行くまで見学するレベルの根性論だと思います」

 

 その後はジャスティーヌ嬢によるフランス文化の自慢話が休憩の時間中続いた。全員の機嫌が直ってよかった。

 

「因みにアイルランドだとどうなりますか?」

 

「アイルランドの位置がまだよくわかっていませんすみません」

 

「オッフェンバック!」

 

 自分の故郷の位置も分かって貰えなかった事実に、エストは涙を浮かべて落ち込んでいたけど。

 ……それにしても、やっぱりマルキューさんとパル子さんが依頼された映画の撮影の衣装の件は気になる。明日伯父様が話を聞けば解決出来る問題だと良いんだが。

 いや、伯父様が話を聞いても、その話を僕に教えてくれるとは限らない。今は伯父様も積極的に僕に何かを教えてくれるとは思えないし。

 此処はあの人にまた相談してみよう。『今日の夜にまたお部屋に伺いたいのですが?』と、メールを送る。

 返信はすぐさま返って来た。『シャワーを浴びて待っている』と言う内容のメールが。

 ……大丈夫だと思いたいなあと考えながら、僕はエストと共に教室に戻った。

 

 

 

 

「良い香り。今日の夕食も美味しそう」

 

 一日の学業が終わって、日課のデザイン練習も終えた僕らは夕食の準備をしていた。

 とは言っても、食事の準備をするのは従者である僕の役目だ。エストは静かに席について夕食が出来るのを待っている。

 

「腕によりをかけて作っていますから、もう少しお待ち下さい」

 

「私ね、レストランや学食の料理も好きだけれど、最近は朝陽の料理が一番好き。家庭的というか、舌に馴染んだ気がする」

 

 嬉しいことを言ってくれる。そんな事を言われたら、ますます料理に力がこもってしまうじゃないか。

 

「光栄です。私の料理というだけではなく、日本食もすっかり気に入っていただけたみたいで良かった」

 

「うん、大好き。今思うと、住んでた頃は感じなかったけど、イングランドの料理は味が何時も一緒だった。ママの作ってくれた、ふわふわのソーダブレッドとアイルランドのシチューは美味しかったけれど、それくらいかなあ。今日も朝陽の料理を沢山食べたい」

 

 ……本気で大丈夫か? この主人、昼間の学食でもかなりの量を食べていた。この痩せた身体でだ。

 何気に幾ら食べても太らないこの主人も、僕の中で紅葉と並ぶ人体の神秘になって来ているよ。いや、本気で。

 

「あまり食べ過ぎると太ってしまいますよ?」

 

 僕の主人ともあろう人間が、ソファーの上で豚の鳴き真似をしていた。

 思わず頭に来て、手近にあったクッションを豚の真似をしているエストに投げつけた。だけど、そもそもクッションは柔らかいので彼女を喜ばせただけだったが。

 

「豚のお世話をしてくれる朝陽は大変だね」

 

「いえ、お嬢様の側にいる時間は好きです。エストお嬢様は人を楽しませる才能がおありですね」

 

「嬉しい。でも私のお世話ばかりじゃなくて、自分の事も大切にね。今日もお昼の時に何度かお腹を痛そうにしていたよね」

 

 気付かれていたか。

 

「申し訳ございません。最近は調子が良かったので油断していました」

 

「ううん。私もあの空気は不味いと思ったから気にしていないよ。それと本当にモデルはしなくても良いの?」

 

「ジャスティーヌ様の件ですか?」

 

「うん。朝陽が良かったら、私から頭を下げて話しても良いかなと思っているから。それに小倉さんに負担をかけなくて済むし」

 

 気分屋のジャスティーヌ嬢なら、確かに僕が頭を下げてお願いし、エストも一緒に頼んでくれれば『じゃあやる』の一言でその意思を翻す。と思う。

 とは言っても、既に理事長の総裁殿にも話が通されてしまっているし、此処で改めてとなればエストの立場が悪くなってしまう。従者としても、僕個人としても、それは不味いのでモデルの件はすっぱりと諦めがついている。

 この話をしたのは、エスト本人が同級生の成功を喜べる人だからだ。教室では、やってもやらなくても立場が悪くなる僕を庇ってくれただけに過ぎない。本気でジャスティーヌ嬢が僕を自分のもの扱いしただなんて考えていないだろう。

 まさか、小倉さんを巻き込んでくるのはエストも予想外だっただろうけど、二人っきりになるまで尋ねて来なかったこの主人が、気心の知れた親友のように思える。

 ……僕にエストを親友と思う資格があるかはともかく、その気遣いはありがたくいただきつつ。

 

「確かに心が惹かれたのは事実ですが、ジャスティーヌ様からのお話は断るつもりでした」

 

「……本当? 私を気遣ってとかじゃなくって?」

 

「はい。本気で断るつもりでしたから、ご安心下さい、エストお嬢様」

 

 クワルツ賞で入賞してしまい、更に優勝なんて事になってしまえば、『クワルツ・ド・ロッシュ』にジャスティーヌ嬢が制作した衣装を着た僕の写真が載ってしまう。

 そうなったらお父様とお母様に僕がしている事がバレてしまう。その危険だけは何が起きようとも避けなければならない。

 

「私は年末のショーでモデルを務めるつもりですから」

 

「そう。朝陽がそう決めたならそれで良いの。その年末のショーに着る衣装は誰が作るの? 自分で作った衣装を自分で着て歩くなら、私のモデルは務められないね」

 

「そうなります」

 

「それは少し残念だな」

 

「申し訳ありません」

 

 なんとなく口にしたけれど、今のは謝るべき場面だったのか。

 僕の衣装を作りたいだなんてエストが本気で思ってるのかも分からない。ただの社交辞令かもしれない。

 だけど、どうあってもモデルが出来ないのは確定しているからなあ。『少し残念』だと言ってくれたのだから、やはり『申し訳ありません』で正解だったのだと思う。

 ただ、もし『少し残念』どころか、この半年間の間で僕の衣装を作りたいと思ってくれていたのなら、たまらなく嬉しい。

 

「年末のショーで、朝陽にモデルを務めて欲しい人は多いだろうね。後小倉さんも。ジャス子さんや、二人のファンの服飾部門の子達は、皆お願いしたいんじゃないかな」

 

 小倉さんがモデルか。確かにアレほどの美人だから、ショーのモデルとしては問題は無い。

 もしもジャスティーヌ嬢が、年末のショーで小倉さんをモデルに務めるように頼んだりしたら、これ以上に無いほどの危険なライバルだ。まあ、実を言えば小倉さんがモデルを務めることは無いと思っているのであんまり危機感は持っていない。

 あの人……本当に人前に出るのは苦手だそうだから。九千代から教えて貰ったが、京都で色々な服を着終えた後は、本気で疲れ切っていたそうだからね。だから、モデルに関しては危機感は持っていない。

 ……型紙の方を手伝うなら、かなり危機感を持つけどね。

 

「私に一番似合う衣装は、私のデザインした服だったと、皆様に納得していただけるものを仕上げるつもりです」

 

「流石だ。自分の実力を信じて疑わない……実際に最近の朝陽のデザインは凄く良いものだからね」

 

「そう言っていただけるのは大変嬉しいです。さ、どうぞ。エスト肉の生姜焼きです」

 

「わあエスト肉美味しそう。ねえこれ普通のエスト? わりと高級なエスト? それともイベリコ・エスト? まさかのマンガリッツァ・エスト?」

 

 豚はエストが食べたかったみたいで、抱きかかえていたクッションを放り投げて、すっ飛んできた。

 

「今日はとてもいいエスト肉ですよ。それとバジルのサラダに、ままかりの酢漬けも用意しました。滋賀の土山のおいしいおいしい近江茶と一緒にいただきましょう」

 

「ままかりの酢漬けは毎日あるね。もう標準装備だね」

 

 だって出さないと溜まる一方じゃないか。そのうち、棚一つを占拠しそうで少し怖くなってきている。

 

「ままかりは、朔莉お嬢様が言うには今が一番多く獲れる時期だそうです。あっ、手でつまんではいけません! めっ!」

 

「美味しい。最近はもうこの味が癖になっちゃった。学院の食堂にもこれは無いし、得してる気分がする」

 

 特別食堂にままかりの酢漬けが出る。

 ……うん。エストには悪いが、場違い感が酷くて合わないよね。それに出たら出たで、今みたいにエストがひょいっぱくしてしまいそうだから、出ない事を僕は願いたい。

 

「10月から12月がままかりの旬の時期だと朔莉お嬢様からお聞きしました。今よりも脂がのって味が豊かになるそうです」

 

「今よりも美味しくなるの!?」

 

 エストは慌ててままかりの検索を始めた。食事前にはいけませんと厳しく叱った。

 

「ぐすっ……まさか泣くほど厳しく叱られるとは思わなかった」

 

 当然だ。幾ら申し訳なさとか罪悪感が君にはあるとはいえ、厳しくするところは厳しくしないと君は本当にエスト・ぽちゃっと・アーノッツになってしまいかねないからね。

 

「さ、早くエストを食べましょう。冷めてしまいますよ」

 

「たまにはエストだけじゃなくて朝陽もたべたいなあ」

 

「お嬢様がお望みでしたら、いつでもどうぞ」

 

「そんなことを言っていいの? じゃあ食べはしないけれど、ほっぺたをつつくね。えいえい」

 

 あとで覚えていろよ。僕は微笑んだ。

 

「ふう。やっぱりちょっと年末に衣装を着て貰えないのは残念だから、意地悪しちゃった。ごめんね」

 

「謝っていただけるのなら、私に同等の仕返しの許可をいただければ、申し訳なさなど微塵もなくして差し上げますが」

 

「それは嫌なの。因みに優しい朝陽はもっと嫌」

 

 ……ちょっと傷ついた。そんなに優しい時の僕は駄目なのか?

 出来るだけエストの意思を尊重して、叱る時も諭すように優しく言葉を言っているだけなのに。

 

「さ、食べよう」

 

「はい。冷めてしまいますから」

 

 温かい内に食べた方が美味しいに決まってる。

 

「わ、美味しい! 今日の夕食も凄く美味しい!」

 

「ありがとうございます……あの、お嬢様」

 

「ん?」

 

「あ、食事を続けながら聞いて下さい。ショーでは私にモデルを任せるおつもりだったのですか?」

 

 ちょっと気になったので、一度終わった話題を蒸し返してしまった。

 

「ん? ううん、其処までは考えてなかったけれど、良く考えたら無理だねっていま気付いたの」

 

「私も、お嬢様の衣装を着られない事に、少し残念な気持ちを覚えます。申し訳ありません」

 

 エストの希望は出来るだけ叶えないけれど、年末のショーは僕の夢の舞台だ。

 あの舞台に自分で制作した衣装を着て立つ事が、僕の夢であり目標だからだ。それに……最優秀賞を二つ取らなければならない。

 

「あ、気にしないで良いの。モデルじゃなくても、私の衣装には関わって貰えるでしょう? 製作にはめいっぱい手伝わせるからね」

 

「はい。光栄です」

 

 それは契約時に交わした約束だ。自分と、エストの衣装には全力を注ぐ。それはしなくてはいけないことだ。

 ……今更ながら気づいたが、僕も年末近くは凄く忙しくなりそうだ。自分の衣装に、エストの衣装……それにもう一着衣装を制作しなければならない。最悪の場合は僕の方でも誰かに手伝って貰おう。

 ……それに丁度良い機会だ。言い難くて聞けなかったが、今の雰囲気なら聞けそうだ。

 

「お嬢様。以前にも何度かお尋ねしましたが」

 

「なんでしょう」

 

「デザインは今の描き方を続けていくのですか?」

 

 これは大切な事だが、箸を動かす手は止めずに尋ねた。せっかくの自信作の料理だから、温かい内に食べて貰いたい。何よりも今日の夜に以前のエストから桜小路才華に届いたメールの返事をしないといけないんだから。

 少しでもエストの本心を知りたい。

 

「お嬢様には考えがあるのでしょうから、あの描き方を止めて下さいとは申しません」

 

「ちょっとずつは良くなってきたと思わない?」

 

 何処がだ?

 

「本音でそう思うのなら、どうして学院では崩した描き方をして、私との実習では元の描き方をするのですか? 本当に自信があれば、二人っきりの時でも崩した描き方をするべきではありませんか?」

 

 これまでも何度か夕食の時間や休日の二人きりの時に、同じ質問を尋ねていた。

 ただ以前までは雑談の途中で、冗談程度に聞いてみただけだ。小倉朝陽として此処まで深く踏み込んだのは初めてだった。

 従者の立場やエストへの罪悪感があったり、深く踏み込んで質問したりしたら、今度からは二人きりの時でさえ、エストが、あの本来の素晴らしいデザインを見せてくれなくなってしまうのではないかと思っていたから。

 それなのに、今日に限って踏み込んでみたのは、桜小路才華としての返答が迫っているからだけが理由じゃない。

 

「今日のお昼の時にジャスティーヌ様に服飾の目標を尋ねた時のお嬢様の顔は真剣でした。もしかして、お嬢様には何か迷いがあるのでしょうか? あの質問の意図の中に、お嬢様の迷いがあるのではないかと思ったのです」

 

 桜小路才華ではなく、小倉朝陽として踏み込むなら今しかないと思った。

 正直言って、今の僕には以前の僕以上に余裕がない。他の誰かの人生相談に付き合っている余裕はない。だけど……エストやパル子さん達は僕にとって掛け替えのない友人だ。それにエストには巻き込んでしまった罪悪感がある。

 大きなお節介になるかも知れないが、このままだと、せっかく年末のショーにジャン・ピエール・スタンレーや瑞穂さん達が来るのに、エスト本来の衣装で参加する事が出来ない。

 

「……もう少しだけ」

 

「え?」

 

「もう少しだけ、今のままで頑張らせて欲しいの。本当、ちょっとずつ良くなってきたと思ってるから。後ちょっとで何かが掴めそうなの。そうしたら新しい自分のデザインが見つかりそうなの……だからもう少しだけ今のままでいさせてね」

 

 ……小倉朝陽として聞ける答えは、此処までが限界か。

 

「お嬢様がそう仰るのでしたら、私もこれ以上は口に出しません」

 

「朝陽の気持ちは凄く嬉しいよ。良く私を見てくれているね、ありがとう」

 

 ……僕が言われたいのはお礼じゃない。

何か目指しているものがあるなら、それを打ち明けて欲しかった。デザインに関する事なら、僕が力になれるかもしれないのに。

 このまま年末のショーまで、エストが今のデザインを使い続ければ、確かにフィリア・クリスマス・コレクションでのライバルが一人減る。だけど、それとこれとは別だ。

 僕はアメリカの時のようにエストとはライバルとして競いあいたいんだ。でも、これ以上は従者の立場では何も言えない。これでも踏み込み過ぎた方だ。此処から先は友人の領域で、センスに関わる部分で強硬に口を出せば、彼女を僕に従わせることになる。

 エストは温厚で懐も広いけれど、それだけに怒らせれば自分の立場がどうなるか分からない。

 ……いや、桜小路才華の場合は容易に想像は出来るんだけどね。先ず間違いなく、顔面は殴られるに違いない。

 ただ……僕はエストの本来のデザインが好きだ。こんな事だったら先に『私は貴女の本来のデザインが好きです』とでも言っておくべきだった。後悔するしかない。

 せめて、エストが僕との自習の時まで、あの崩したデザインを描かなければ良いなと祈った。

 夕食が終わり、僕はエストのアトリエの中で、小倉さんに贈る普段着の縫製を行なっていた。主人であるエストからは許可を貰っているので、問題は無い。問題は無いんだけど……。

 

「……お嬢様」

 

「何、朝陽?」

 

「そんなにジッと見ていられるのは、気になってしまうのですが」

 

 僕の主人は自分のデザインを描かず、ただジッと僕の作業を見ていた。

 

「朝陽の作業は見ているだけで勉強になるんだもん。縫製も上手だし」

 

「そう言われるのは嬉しいのですが、私もこの服の制作にはかなり緊張しているので見られるのは気になってしまうのです」

 

「えっ? そんなに緊張しているの?」

 

「はい。こうして制作を本格的に開始してみて分かったのですが、自分で着る衣装を制作するのと、誰かに着て貰う衣装を制作するのでは緊張感が違うのだと実感させられています」

 

 アメリカにいた頃に確かに僕はモデルとなる人を雇って衣装の制作をしていたが、その根幹には僕が輝く衣装をっという気持ちがあった。

 だけど、今縫製している衣装は、心の底から小倉さんに着て貰いたいという気持ちで制作している衣装だ。だから何時もよりずっと緊張感を感じながら制作をしている。

 

「このことに気が付けたのも、小倉さんのおかげですね」

 

「……何だか、朝陽にとって小倉さんはまるでお母さんみたいだね」

 

 お母さんか。言われてみるとそんな感じもする。

 いや、僕の本当のお母様は小倉さん以上に尊敬できる人だからね。後、流石にお母さんはかわいそうだ。

 あの人の実年齢は、僕よりも一つ上だから……心の姉? 何だかこの事をルミねえが知ったら、小倉さんに嫉妬しそうだな。嫉妬するルミねえも可愛いけど。

 

「お嬢様。流石にお母さんは小倉さんに失礼だと思います」

 

「ごごごごめんなさい。うん。流石にちょっと失礼だった」

 

 どうやらエストも反省したようだ。仕方ないからそのままエストに見られながら制作を続け、区切りの良いところで。

 

「朝陽。そろそろ休憩しない? 屋上でお茶を飲もうよ」

 

「分かりました」

 

 エストの提案を了承して、僕は制作の手を止めた。

 このままいけば来月の初めごろには完成する。恐らく来月は小倉さんも桜の園に来る事が多くなるだろうから、その時に渡そう。

 屋上の庭園には一日に一度は行くな、と思いながら、僕とエストは屋上に向かった。




パル子ルートファンの皆様には本当に申し訳ありませんでした。
何時かはパル子ルートも書いてみたいとは思っています。
次回も選択肢が発生します。

選択肢
【いつでも連絡して欲しい】(エスト好感度UP&エストルートフラグゲット!)
【お互いの勉強の邪魔にならない程度なら】(エストルート消滅)
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