最近どうも筆が進まないのでヒロアカの範疇で路線を変えて出久 x 耳郎のピュアッピュアな絡みを書いてみました。
ホラー映画の後
「眠れん・・・・・!」
耳郎響香は心底学友の芦戸三奈を呪った。いくらハロウィン当日が平日だからと言ってその前夜に一番苦手なホラー映画を見る必要は無かった筈だ。と言うかそもそも強制参加させられている時点で色々おかしい。しかも映画のチョイスがいやらしい程に絶妙だった。
『個性』という超常の能力を持つことがほぼ当たり前になっている昨今、そんな能力を持ったモンスターなどが登場する映画は本当の意味で見る者に恐怖を与える事は無い。精々ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツとの強化合宿でやった肝試しのように相手を軽く脅かす程度の物だ。しかし、だからこそそう言った能力に頼らずに頭脳を生かし、次々と証拠も残さずに人を殺していく連続殺人鬼の、ひいては人間の恐ろしさが光ると言う物だ。特に殺した人間をプロ並みの手つきと手際の良さで丹念に調理して食するともなればなおの事である。
普段は冷静沈着な秀才の八百万百でさえ半泣きになって轟の袖を掴んでいた。
正直映画を選ぶ時のセンスとやる気、意気込みを勉強などの別方面に活かせていたら本人にとってどれだけ有益か分かったものではない。勿体無さ過ぎる。
一般的な映画の尺としては二時間弱というそこそこ常識的な物であり、付き合いという事もあって耳郎は文句を言いつつも住んでいる寮の共有スペースにクラスメイトと共に映画を見たが、四十分前後でリタイヤした。
皆が寝静まった後も目が冴えに冴え渡り、目を閉じれば四十分前後の間に脳に焼き付いて離れないシーンがどんどん再生されていく。眠くなる風邪薬か何かでもあればすぐにでも寝付けるのだが、生憎実家から持ってきた分は切らしてしまっている。
「うん駄目だ。」
こんな調子で寝ようとしても埒が明かない。そもそも無理に寝ようとすると言う行動自体が理から外れている。別の何かを見て気分を変えようと思い立ち、無人となった廊下を渡ってエレベーターで再び共有スペースがある一階に降りた。
当然自分以外の皆は寝ているか、寝ようとしている為、共有スペースは無人だった。電気をつけて壁にかかっている液晶テレビのリモコンに手を伸ばした。こういう時は何かスカッとする物を見るか、恐怖自体を笑い飛ばせる何かを見て忘れてしまうに限る。映画からテレビ番組まで幅広く取り揃えているネットフリックスには感謝しか無い。
何があるか探している途中、突如ゴウンゴウンと後ろから音がして、思わず振り向きざまに持っていたリモコンを思いっきり投げた。
「うわあああああああ!!」
「あいだっ!?」
「え・・・・・・」
冷静になって耳郎は声の主を改めて確認した。緑色の縮れ毛、『パジャマ』と書かれたお世辞にもスタイリッシュとは呼べないTシャツに短パン、そして両腕にある夥しい量の傷。非常に見覚えのある人物だ。そして自分と同じぐらい怖がっていた緑谷出久である。どうやらリモコンは平たい面が眉間から鼻にかけてかなりの力でクリーンヒットしたらしく、鼻から血がぼたぼたと垂れてフローリングを汚していた。
「ほんっっっっっっとごめん!ほんとにマジでごめん!」
まるで仏像にリモコンを投げつけたかのように耳郎は頭を下げて両手を合わせて出久に詫びた。元々超人的な膂力を秘めた『個性』を鋭意調整中な上、何かにつけてボロボロになる事に定評がある同じヒーロー志望生に更に傷を増やしてしまった罪悪感は計り知れない。
「ん、大丈夫大丈夫。流石にこんな夜更けに洗濯してる人なんて普通いないし、びっくりさせた僕にも責任はあるから・・・・」
急いでティッシュを取って鼻に詰め、垂れた血を拭き取ると、出久は問題無いとばかりに苦笑してパタパタ手を振った。
「いや、それでも思いっきりぶち当たっちゃったし・・・・・・」
「ん、壊れてないよ。はい。」
「そっちの心配してないから!ったくもう・・・・」
「アハハハ・・・・耳郎さんも、映画の所為で眠れないの?」
「ホラー系・・・・・結構というか、かなり苦手で、さ・・・・・」
認めたくは無いが四十分前後で早々にリタイヤしてしまったのは自分だ、クラス中の知る所となってしまっている以上今更隠した所で意味は無い。
「ちょっと意外だな。」
リモコンをソファーに戻しながら出久はそう呟いた。
「そ、そう?」
「うん。耳郎さんてなんか恐れ知らずなタイプって思ってたから。」
彼の言葉に耳郎の眉が僅かに上がった。あまり面と向かって話した事は無いが、まさかそんな印象を抱かれているとは思わなかった。
「恐れ知らず?ウチが?」
「うん。何て言うかな・・・・・肝が据わっていて余程の事が無い限り動じない、一度開き直っちゃえば結構ガンガン前に押していけるタイプの人だって印象があったからさ。文化祭の時も歌ってる時はつっかえなかったし。ホラー系が苦手なのはちょっと意外だった。」
「緑谷は予想通りのビビりだったけどね。」
スプラッターなシーンや殺害シーンの三歩手前に幼馴染である爆発さん太郎こと爆豪勝己の袖にしがみ付いている様は気の強すぎる兄と肝の小さい弟のような妙な微笑ましさを誘発した。何人かスマホで写真を撮影していたのを覚えている。轟は若干気に食わなそうに目を細めていたが。
「ちょ、言わないでよ、気にしてるんだから・・・・・」
「ごめんごめん。またノートになんか書いてんの?」
血が滴り落ちて僅かばかり汚れてしまったキャンパスノートを顎で示した。『将来の為のヒーローノート』と黒い油性ペンで書かれたそれは既に二桁に突入していた。出久の手にあるのは一年A組の『個性』を纏めてある十四冊目である。
「うん。頭使ってれば勝手に眠くなるかなーって思って。ついでに洗濯物も溜まってたし、誰もいないからやってしまおうかと。」
「・・・・・ちょっと見てもいい?」
別に特定の何かを探しているわけではないが、耳郎自身はノートの中身を飯田や麗日の様に良く覗いている訳ではない。興味半分、からかう為の材料探し半分である。
「良いけど・・・・・」
「んじゃ失礼して。」
やはりと言うべきか、持ち主を除くクラスメイト全員が出席番号順にリストアップされている。彼自身の戦闘能力はさることながら分析能力は目を見張るものがあった。個人の細やかな癖、行動前の予備動作、弱点、その突き方、可能な克服方法、更なる『個性』伸ばしのメニュー、果てはコスチューム改造の案などが事細かに書き記されているのだ。
「ねえ、緑谷。正直に言うわ。ぶっちゃけ教師に向いてない?もしくはヒーロー専門のトレーナー兼コスチュームデザイナーとか。」
「そ、そう?そそそそんな事は無いとお、思うんだけど・・・・・あくまでその、僕ならこうするかな~ってだけのアレで・・・・・」
「いやいや、ここまでの事が出来たらもうなるしか無いよアンタ。つーかこれ相澤先生に見せた方が良い。後パワーローダー先生にも。絶対仕事が楽になるって言うから。」
更にページを捲って行くにつれ、耳郎は自分の名前が次に出る事に気付いた。見てみたいと言う気持ちはある。しかし正直どんな反応をしてしまうか分からない。照れ隠しで反射的にイヤホンジャックで出久をぶっ刺してしまう可能性だって完全には否定できない。
ままよとページを捲り、耳郎は顎が緩んで口が半開きになった。
「これが・・・・・・ウチ、なの?」
仮免試験前にバージョンアップしたコスチューム姿の自分が、妙にカッコよく見えた。コスチュームのアンプ、上着の襟の形、更には髪にある心電図を思わせる細かい模様などもしっかり描かれている。しかも何故か右手には八百万に頼んでUSJ襲撃事件で使った剣が握られていた。鉛筆一本でここまでできる物なのか。そして緑谷出久の目に自分はこう映っているのか。他の絵もそうだが、かなり何度も描き直した事が消しゴムの痕からうかがえる。
やばい。恥ずかしい。恥ずかしいが嬉し過ぎる。口角が吊り上がるのを抑えるのに必死で耳郎はこめかみがヒクついているのを感じた。
「あ、うん、その・・・・・へ、下手糞だったらごめんね、これでも多少は上手くなったつもりなんだけど、と言ってもまあ雀の涙程度だけど・・・・・なんか、ごめん。」
それを怒っていると勘違いしているのか、弁解が尻すぼみになった出久は最終的になぜか謝罪してしまった。
「何で謝んの?自信持ちなよ、絵描くのめちゃくちゃ上手いんだし。」
「え、でも怒ってたんじゃ・・・・肖像権とか――」
「別にウチ怒ってないよ。ここまで上手く描かれたら誰だって怒る気も失せるでしょ普通。後、肖像権てクラス全員分でノート埋めてから言うなんて今更過ぎ。」
だから
ああ、もう駄目だ。我慢しているだけで顔が痛い。ならばと耳郎はにっこり笑って見せた。
「ありがとね、カッコよく描いてくれてさ。凄い嬉しい。」
轟よりかは遥かに感情の起伏はあるが、それでも普段はあまり表情を崩さない耳郎の満開スマイルを至近距離から食らった出久の顔はエンデヴァーのヘルフレイムにも負けないぐらい赤く、熱くなった。
「一緒になんか見よ、緑谷。」
「う、うん・・・・・・」
映画の怖さで眠れないと言う問題は解消できたが、今度は羞恥心で眠れぬ夜を過ごす羽目になる。後者の方が遥かにマシだと思い、何を見るべきか議論が始まった。