今回はじゃ~っかん短めになるかな?あともう一、二話で完結させようかと思います。
耳郎との関係が1年A組の皆の知る所となってからというもの、二人はようやく公の場でのスキンシップを敢行した。と言っても腕を組む、頭を撫でる、隣に座る時は体重を預けるなどという極々当たり障りの無いものに抑えている。あまりやり過ぎると真面目一徹の委員長こと天哉・
周りも隠そうと努力はしているものの、若干の居心地の悪さは否めなかった。しかし人目をはばからずにキスをしているわけでもないのであまり強くは言えず、むしろ微笑ましく見守る者もいる。ちなみにこれは同級生に限らず一部の教師も含んでいる。
しかしプライベート時となれば話は別であり、積極性はポンペイを滅ぼしたヴェスヴィオ山の如く噴火した。割合で言えば6:4で出久の方が甘える頻度が多いが、甘えの度合いは耳郎に軍配が上がる。
正直今でも何がどうなってこの状況に陥ったのか分からない。いつものように昼ご飯を食べてから音楽を聴きつつゆっくりするお部屋デート的な事をしようとした所でドアに背中を押し付けられ、脳味噌を直に舌でこそぎ取らんばかりに濃厚なキスをおよそ十分間味わった。
そして今現在、出久は妙に目がぎらついた恋人に寮の自室内で腰が抜けて座り込んだ所でマウントを取られている。
――拝啓、母さん。僕の貞操は現在進行形で危機に瀕しております。
嬉しくない訳では断じてない。勿論こういう積極性は嬉しい。嬉しいが重力を含めた諸々を振り切ったこのガツガツした状態は色々まずいのではないか。いや、まずい。
かと言って押し退けると間違い無く拗ねて口をきいてくれなくなるか、泣かせてしまう。それも違う意味でまずい。
「なーに固まっちゃってるのかなぁ~、出久は?」
額同士をくっつけてぐりぐりと押し付けながら至近距離から見つめられ、出久の喉元まで出かかった言葉を飲み込ませた。
「あの・・・・・どうしたの?随分、その・・・・・・」
――グイグイ来るけど、何かあったの?
聞きたい。聞きたいが、この質問はまず間違い無く地雷だろう。そうでないかもしれないが、そうである可能性を完全に排しきれない。
「ん~~?別にどうもしないよ?てか彼氏とこういう事したくない女なんていないでしょ?でなきゃハナから付き合おうとも思わないし。」
二度、三度とキスが続く。
「・・・・・・なんか言ってよ。」
――言いたいよ、言いたいですとも!色々と!でも目がイッちゃっておわす貴方にかけるべき適切な言葉が見つからないんですよこっちは!僕がかーなーり死に物狂いで間違いを起こさないように気を張ってるのに畳みかけて来るから言うタイミングなんて皆無だし空気も整わないし!
しかし口を開いた正にその瞬間、耳郎の口が出久の耳を捉えた。
「はぅあぃ!?」突然の不可解な感触に奇声を発した出久は抗議の声を上げようとしたが、シャツの上から指先で腹筋をなぞられて封殺された。鼓膜に反響する水音に合わせて花火が炸裂するかのようにパチパチと目の前が断続的に真っ白になる。離れようにも後ろは扉で前には髪をやんわりと掴んで耳を好き放題に舐り続けている恋人が逃がしてくれない。
無抵抗のまま一分、また一分と理性と言う名の牙城が崩されていく。熱情に溶かされていく。こんな耳郎響香を出久は見た事が無かった。
「ウチも、さ・・・・・・したいんだよ?
その『色々』が何を意味するのか、仮にも思春期真っ盛りな男子高校生である出久も分からない程野暮ではない。恋人が出来て髪型も変えて新たな一面を見つける事に成功した事はしたが、それでも人間の性根は簡単には変わらない。こういった手合はやはりまだ苦手で怖いのだ。
「出久は、したくない?」
――したいよ、したいですとも!是非ッ!バットだがハウエヴァーしかしブレーキの加減という物がもし万が一できなくなってしまったら何もかもがおじゃんなんですよ、響香さん!人のUncontrol SwitchをMax Hazard-Onする怖さを分かってませんよね、絶対!
しかし悲しいかな男の理性とは、とかく脆弱である。情欲の濁流は遂に出久を飲み込んだ。若干乱雑だが腰と後頭部に手を添えて唇と舌を食い千切らんばかりのキスを返した。胡坐をかいて体勢を立て直すと、息継ぎなど糞食らえとばかりに力強く引き寄せて絡み合う。
正直、今舌を捻じ込まれて窒息死しても後悔は無い。それ程までの充足感を二人は共有していた。だが、足りなかった。薄手のパーカーで彼女の感触と体温が遮断されるのがもどかしく、出久の歯は胸元まで上げられたジッパーを挟み込み、ゆっくりと下ろす。
別にシャツを脱がせているわけではないし、行為に及ぼうとしている訳でもない。ただ上着のジッパーを下ろしている、それだけだ。それだけだと言うのにどうしようもなく肌が背徳と興奮で泡立つ。腰に添えていた手でシャツの裾をゆっくりと摘み上げて手を中に潜り込ませると、指の腹で背中をゆっくり撫で上げた。
刹那、婀娜っぽい喘ぎ声が漏れた。途切れ途切れの弱々しい抗議の声が上がったようなきがしたが、ジャックの先端を舌で転がすのに夢中で気付かなかった。今はただ、もっと見たい。彼女が乱れる姿を。もっと聞きたい。自分だけに聞くことが許された、色香を纏った声を。もっと感じたい。速まる彼女の鼓動を、上がる体温を、火傷するような吐息を、透き通るような柔肌を。
どれだけの間続けていたかは分からないが、気が済んだ頃には日が既に傾きかけていた。
「あー、ヤッバ・・・・・・・頭まだくらくらしてる。駄目になりそう・・・・・急にごめん、あんな事しちゃって。」
「役得だと思ってるからお気になさらず。でも、どうしたの?
「やっぱり、引く?ガツガツした女子って。」
「それは断じて無い。まあいきなりだなーと思いはしたけど、こう・・・・・・・滅茶苦茶ゾワゾワ来ました。」それも腰と尾てい骨辺りが、正確に。
「いつもウチが受け身になっちゃうから勢いに任せちゃえば主導権握れるんじゃないかと思って・・・・・・結局途中で失敗したけど。」
――やばい、可愛い!不謹慎だけどしょげてる響香さん可愛い!
「響香さんは可愛いなぁ~。」こしょこしょと耳の裏を指先で撫でるとくすぐったそうに身を捩った。猫みたいで実に愛嬌がある。
「で、こんな事してる理由なんだけど・・・・・・ウチ、麗日と話したんだ。」
「麗日さんと、話した?何を?」彼女がこれにどう関係するのか見当もつかない出久はただ首を傾げるしかなかった。
「麗日も出久の事、好きだったんだよ。」
「へ?う、麗日さんがだよ?マジで?」
「マジで。異性として意識してたよ、憧れも込みで。ウチもそれは良く分かるけど。でも、それが頭の中からすっきり飛んじゃった状態でウチが告白して今に至るから・・・・・・」
「・・・・・・なるほど。でも、響香さんが責任を感じる事は無いんじゃない?僕は気付かなかったし、麗日さんも何も言わなかったし。」
「分かってる。分かってるけど・・・・・やっぱり、謝らなきゃって思って。許してくれたけど、泣かせちゃったしさ。」
「響香さんは優しいね。本当に優しい人だよ。僕がもっと聡い人間だったら、もう少し何とかなったのかもしれないのに。」
むしろ客観的に見れば手を拱き続けて何らアクションを起こさなかった方が悪い。恋人でもない相手に伺いを立てる義理など無いし、そもそも恋愛に整理番号など無いのだから。今更何を言っても遅いが、それでも出久は耳郎の友人と恋人の不可能な取捨選択を迫られてしまった状況を作り出した責任の一端を感じずにはいられなかった。
「もし出久を大事にしなかったらその時はしっかり攫い返すって公言されちゃったけどね。」
「いや、それはあり得ないでしょ、流石に。」
「そう信じてくれるのはありがたいしそうならないように努力はするけど、百パーあり得ないなんて事は――」
「ない。ないったらない。僕が力士になるぐらいあり得ない。」
「プフッ、不可能じゃん!」やはり彼は優しい。そんな彼を独り占めしている自分は幸せ者だ。そしてそんな優しい彼が自分の幸せの原因である事に感謝している事を存分に知って欲しい。
「ん?」右耳を何かが軽く挟み込む感触は若干の違和感を生じさせたが、それが何なのか、触れてすぐに分かった。たまに彼女がつけているのを目にした事がある。イヤーカフだ。
「ヘアピンのお返し。」
「こう言うの付けた事無いからいまいち分からないんだけど・・・・・どう?」
「ウチの彼氏でしょ?カッコいいに決まってんじゃん。バーカ。」
――よっし!女避けも渡したし、今夜は添い寝してもらお。