――まさか、マジで勝っちゃうなんてなあ・・・・・・ま、まあウチの彼氏だし?ギターのリフとかも一人でその場でアレンジ出来るようになってるし?高いオクターブも余裕で歌えるし?勝負は時の運とは言うけど、七、いや八割方結果なんて分かり切ってたけどね?
しかも順番が回って来たのは精神的に一番ハードルが高い十人目なのだ。大トリを飾るか、大いにスベるか、プレッシャーは半端ない。しかしそれを物ともせずに見事文句なしの五十点満点で勝利をもぎ取った。やはり夏祭りに『和』のテイストが強いロック調の曲を選んだ事もあったのだろう。舞い並ぶ花弁と彼が担ぐ番傘、そして夜空に打ち上げられる多種多様な極彩色の花火は実に画になった。
正しく、
寮に戻り、準備が整ったらメッセージを送るからその時に来るようにと伝えてある。
「我ながら先走っちゃったかも・・・・・・」
彼も健全な男子高校生、そして今や彼女持ちだ。あの誘いが何を意味する
不安が無い、怖くないと言えば嘘になる。だが後悔は無い。これから起こる事に後悔は無かった。半面、卑怯な手だとは思う。心だけでなく体の手練手管でも彼を自分に繋ぎ止めようとするなど。でも彼なら、彼だからこそ受け入れてくれる。それが緑谷出久だから。
論理的に見れば根拠と呼ぶにはあまりに薄弱すぎるが、恋愛は理屈ではない。信じていればそれでいいのだ。
シャワーはもう浴びたし、部屋も片付いている。歯も磨いた。避妊具(五枚綴り)ともしもの為の錠剤もある。気を落ち着ける為にもスロージャズを聴いてリラックスできるようにしている。後はメッセージを送るだけだ。
――内容考えてなかったっ!!!!
気持ちが先走って結果にばかり目が言った結果がこれだ。
「ウチのドアホ・・・・・・!!こういう時の言い回しってどうするんだっけ?」ああでもないこうでもないと頭を捻ってうんうん唸っている内に規則正しく間を空けたノックが三回聞こえた。
来た。扉越しの心音と息遣いだけで必死に落ち着こうとしているのが分かる。「あ、開いてるから入って。」
極度の緊張で時間の感覚が延長されているのか、扉の開閉の動作が恐ろしく緩慢に見える。部屋着姿の出久の表情は堅い。後ろに回した手で施錠される音がやけに大きかった。「来た、よ?」
「うん。ありがと。それとのど自慢大会優勝、おめでと。」
「あれは正直ビビったよ。最後とか。」
「ウチも実はちょっと焦った。最後には勝つって分かってたけど。」立ち上がってゆっくりと出久との距離を縮めて行く。ぽすんと額を胸に付けてくしくしと擦り付けた。「ごめんね、あんな意地悪しちゃって。でもどうしても聞きたかったからさ。出久の歌声。想像以上だった。」
「なんとかなったからもういいんだけどさ・・・・・・で、プレゼントと言うのは・・・・・・?」出久は声が震えるのが分かった。改めて聞き直したのはやはり深読みしたのではないかと言う一抹の不安が残っていたからだ。だがこればかりははっきりさせておきたい。一度その一線を越えれば戻れないのだ。
「想像通り、ウチ・・・・・・だよ?ウチの、全部。やけくそになってるとか思ってるかもしれないだろうけど、違うからね?ちゃんとウチが出久としたいって決めて呼んだから。」彼の背中に腕を回してゆっくりと力を強めて行く。出久は優しい。だが優しいと分かっていても怖い物は怖い。知らない仲と言う訳ではないが、親兄弟ではない赤の他人に自分の全てを預けるという事なのだから。「す、するんでしょ?全身歯形&キスマークの刑。いいよ、しても。でも、その・・・・・・お手柔らかに、ね?初めてだし、さ。」
今の彼女の服はかなりラフで薄着だ。下着のラインも落ち着かせる為に擦っている彼女の背中には感じられない。「・・・・・・・同じくなので確約は致しかねますけど善処はします。」
「ん、じゃあ灯り・・・・・・・消して?」
「あの、響香?見えなきゃ色々不都合というか、不便なんだけど・・・・・・」
「いいから消せ、馬鹿出久!」
月明りを反射して光る耳郎響香の嬉し涙と、一瞬だけ見えたくしゃっとした笑みは、出久の心に生涯残る記憶の一つとして刻まれた。
たくさんの感想と過分な評価、応援をありがとうございました。これにて完結です。
スランプだったので筆休めに書いた結果ここまで伸びるとは思いませんでしたがとても嬉しいです。
龍戦士の方も書いて行きたいんですけどね、ちょくちょくと。中々リアルとの都合がつかない・・・・・・