糞ナードも案外良いかもしれない   作:i-pod男

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またなんか知らんうちに書きあがってしまいました。
書きたい奴が進まない・・・・・ほんとすいません。


出久の音楽プレイヤーデビュー

緑谷出久は悩んでいた。何がどう功を奏したのか、母親の引子がたまたま商店街の抽選か何かで二等の大容量音楽プレイヤーとイヤホンのセットを見事引き当てて、自分は特に使う予定は無いし何より機械には弱いからと言って渡されたのだ。渡してくれたのはありがたい。ありがたいのだが、如何せん個人用のパソコンは疎か音楽CDすら持っていない出久も持っていたところで全く以て意味が無い。精々突風でプリントが飛ばされないように押さえつけるペーパーウェイトとして役立てるのが関の山だ。

 

しかし、かと言って家電売り場では税抜きでも普通に値段の桁数が五つはある物をそんな風に腐らせるのはあまりにも勿体無い。使い方はそこまで難しくないし、慣れるには半日もあれば十分過ぎる。何より自分にくれた母親に失礼だ。

 

課題を終わらせがてら何かいい知恵は無いものかと出久は頭を捻った。そして閃く。いたではないか、一年A組きっての音楽好きが。連絡網の為にクラスメイト全員の番号やチャットIDは控えてある。メッセージ一つで質問すればすぐに済む事だ。

 

しかしまた新たな障害が出久の前に立ちはだかった。

 

「・・・・・・こういう場合どう言って頼めばいいんだろう、これ・・・・?」

 

雄英入学を果たして多少は慣れて来たものの、異性と話すだけで顔が真っ赤になり、まともに目を合わせての会話すらおぼつかなくなってしまうレベルのヘタレ具合は未だ改善の兆しすら見せない。パーソナルスペースに入られるだけで心臓が破れてしまうのではないかと思うぐらい緊張して気が遠くなってしまう。おまけに相手は入学初日から仲良くしてくれている麗日お茶子、思った事をストレートに口にしてくれるUSJの一件から色々と世話になっている蛙吹梅雨とは違い、接点が無いのだ。と言うか、今の今まで挨拶以外のまともな会話をした事すら無い。

 

頭の中でこね回しても意味が無いのでどう質問すべきか、出久はノートのまっさらなページに書き出し始めた。

 

――音楽について教えてください。

 

いや、これではただ単に漠然と音楽そのものの事を教えてくれと解釈されてしまう。簡潔なのは大事だがこれは極端すぎる。そしてあまりにも大雑把だ。

 

――お勧めの音楽を教えてください。

 

こちらの方がまあまだマシと言えるだろう。不適当ではないにせよ、もう少しオブラートに包んだ方が良いかもしれない。本人の好きなジャンルはロックである事は周知の事実だが、いきなりクラスメイトだからと言ってこんなストレートに聞かれたら改まって何故そんな質問をするのかと訝ってしまうかもしれない。

 

いい線は行っているかもしれないが、失礼があってはいけないからこれも却下である。親しき仲にも礼儀あり、親しくないなら猶更だ。

 

「いや、でもやっぱりストレートに聞いた方が良いの、かな……?」

 

『将来の為のヒーローノート』第十四巻は自分を除くクラスメイトの持つ『個性』やコスチュームの事だけではない。性格やそれに基づいて導き出される思考パターン、特定の動作をする前の僅かな癖なども書き加えているのだ。そして出久はそれらを加筆、修正しながらほぼすべて丸暗記している。

 

それらの内容が正しいならば、耳郎響香と言う人間は基本ストレートに本音をぶつけた方が好印象を持つ傾向がある。蛙吹やクラスの副委員長である八百万との会話が弾むのが良い証拠だ。そして男の場合は特にそれが顕著になる。上鳴とのやり取りを見れば一目瞭然である。

 

「だけどあの二人はUSJで共闘した仲でそこをベースにある程度ラポールが形成されているからこそああいう軽口の応酬が出来るのであって、その前提すら成立しない僕がストレートに言った所で同じ効果があるかどうかなんて分かんないし・・・・・って言うかそれ以前に屋内対人戦闘訓練の時にくじ引きで選んだとは言えペアになってたからなぁ・・・・・あ“~~、どうしよう?ここは八百万さんに頼んで代理で聞いてもらった方が・・・?いやでもそんな回りくどい方法だと二度手間だし間違い無く印象悪くなるし、オーケーを貰う確率ダダ下がりだからなあ・・・・・んん”~~~~・・・・・」

 

分からない。全く以て最適解が分からない。

 

「お、相変わらずノートと睨めっこして悩んでんね、緑谷。」

 

「はひィッ!?」

 

危うく心臓が止まりかけ、声も裏返って変な悲鳴を上げてしまった。後ろから笑い声が聞こえる。出久は振り向き、脇腹を抑えた耳郎が膝をついて笑っている姿を捉えた。瞬間、顔が真っ赤に茹で上がる。声が裏返った所を聞かれてしまうなど出久からすれば正直自殺レベルの醜態、黒歴史だ。

 

「プククッ・・・・・やばいやばい、お腹痛い・・・・はひィって・・・・・クフフ・・・・・!!緑谷ごめ、ちょ待って・・・!」

 

約一分近く耳郎は笑い続けると、ようやく呼吸を整えられる程度に落ち着いた。

 

「はぁ~、おかしかった・・・・ごめん、だけど今のほぼ全面的に緑谷が悪い。で、どしたの?」

 

「あ、うん、え~、あ~、お願いと言うかリクエストと言うか、差支えなければちょこっと頼まれてくれると助かると言うか・・・・」

 

「へ~、緑谷から頼み事なんて珍しいね。まあ聞くだけ聞いてあげなくも無いけど。」

 

「その・・・・・・お勧めの音楽があったら教えてくださいっ!」

 

出久は座っていたソファーの上で起立し、親友にしてクラス委員長の飯田天哉ですら素晴らしいと唸らせる綺麗な直角に腰を折って音楽プレイヤーを差し出した。

 

「うん、良いけど。」

 

「へ?」

 

「いや、そこまで畏まって何を頼むのかとちょっと身構えちゃったじゃん。時間返せ、馬鹿。」

 

「ごめんなさい・・・・・でも、よろしいんですか?」

 

「しつこい。教えたげるって言ったじゃん、もう。」

 

正直、緑谷出久と言う少年はからかい甲斐があり過ぎる。耳郎は今まで気づかなかった自分が恨めしく思った。場合によっては上鳴より楽しめるかもしれない。それに自分が好きな音楽に興味を持ってくれているのだ。嫌だと言える筈も無い。純粋にこう言った事を語り合える人間は精々英才教育でピアノを習った八百万ぐらいなのだ。同志が増えるのは万々歳である。

 

「ちょっと待ってて。持ってくるから。」

 

「はぃ・・・・・」

 

エレベーターのドアが開閉して耳郎が共有スペースからいなくなったところで出久は胸を大きく撫で下ろした。直感に頼ってストレートに聞くのが最適解だった。冷めているように見えて実際割と面倒見がいいのは口田甲司と組んで期末試験でプレゼント・マイクと渡り合った時にしっかり目にしている。彼女の後押しがあったればこそ、二人は一緒にゲートをくぐり抜けて共に合格出来たのだ。

 

音楽が好きで、周りの人間を引っ張れる芯の強さを持っていて、比較的冷静で一歩引いた姉御肌。ダンスと同じように万国共通の言語である歌と音楽に精通している耳郎は将来プロヒーローとして皆を率いるリーダーだけでなく、培った才能で人を笑顔にする事に一番長けていると言えよう。ミス・ジョークが持つ『個性』とはまた違い、オール・フォー・ワンですら『個性』で奪う事が出来ない、壊理の様な心の闇を打ち払い、万人から自然な笑顔を引き出せる素晴らしい能力だ。

 

「やっぱり凄いなあ、耳郎さんは。」

 

出久は天井のLEDを見上げながら呟いた。諦めの悪さとなけなしの度胸、相打ち覚悟の無鉄砲さとヒーローオタクとしての知識。自分にあるのは正直その程度しかない。他人と自分を比べた所で違いなど探せばきりが無いのは百も承知だが、出久は彼女が羨ましかった。

 

文化祭の様な公の場で開き直れる舞台度胸が。

 

音楽という自己表現で己を曝け出せる純然たる勇気が。

 

窮地でも仲間を励まし、本来の力を発揮させられるその余裕と安心感が。

 

何より、演奏が終わった時の普段の冷めた表情から一転した秋の夕暮れ時に現れる紫色の空の様に柔らかく、仄かに暖かい微笑が素敵だと思った。太陽(オールマイト)の様に眩く、輝かんばかりの満面の笑みとは違う、日の光が地平線に沈み切る少しばかり手前の優しい光だ。

 

 

「お待たせ。」

 

小脇にパソコンを抱えて耳郎が戻って来た。心なしか浮かれているように見えなくもない。

 

「緑谷はどういう感じの音楽が好きなの?」

 

「ん~、僕は元々あんまり音楽聞かないから・・・・・・センスがある耳郎さんにお任せします。」

 

「そう?オッケー、任された。」

 

パソコンを立ち上げ、出久の音楽プレイヤーを繋げた。

 

耳郎のお気に入りのバンドであるDEEP DOPEは勿論の事、AC/DC、クイーン、レッドホットチリペッパー、セックスピストルズ、ガンズアンドローゼズ、ローリング・ストーンズ、メタリカ、ザ・グレイトフル・デッド、ホワイトストライプス、ブラックサバス、ムーディー・ブルース、マリリン・マンソン、パニック・アット・ザ・ディスコ、イマジン・ドラゴンズ、キング・クリムゾンなどなど、邦楽、洋楽のあらゆるアーティストの数多のアルバムが読み込まれ、音楽プレイヤーのメモリーが埋まって行く。待っている間にシャッフルボタンで選曲を任せて再生させた。

 

「緑谷、一つ聞いていい?」

 

「はい・・・・ナンデショウカ?」

 

思わず背筋を伸ばして出久は身構えた。

 

「何で・・・・・ウチに聞いたの?音楽好きって言うならウチだけじゃないし。」

 

「文化祭でも音楽についてはその理論や歴史に一番詳しい上に作詞作曲もほぼ一人で頑張ってくれて大成功に終わったから、消去法を使うまでも無く一番造詣が深い耳郎さんの意見を聞くのが最適解かなー、と・・・・・あ、そ、それにほら、英語のイディオムとか独特の言い回しをヒアリングで勉強出来るし!最初ハイツ・アライアンスの部屋を見せ合った時に上鳴君や青山君が女っ気無いとかノン淑女なんて凄く失礼な事言ってたけど、音楽の教養がある時点で十分女子っぽいって言うか・・・・・ま、まあ女子ですらない僕が女子っぽさの何たるかを語ろうとしている時点で既に烏滸がましいにも程があるのは重々承知の上で言ってるんだけど、その、何と言うか・・・・・・うん、そう言う事ですハイ。」

 

それ以上言葉が出なくなった出久は顔を背けて自己嫌悪と羞恥に押し潰されて体育座りのまま蹲ってしまった。本音をぶつけた方が得策だと思ってまくしたてた結果がこれだ。ナーバスになると暴走特急並みに口が回るこの悪癖をどうにかしたい。ワン・フォー・オールも良いが、世間一般の定義に当てはまる『普通の人間らしい活動』をさせてくれる『個性』もセットで欲しかったと、この時ばかりは出久も心底世界を恨んだ。

 

「あ・・・・・・う、うん、分かった・・・・・・アリガト・・・・」

 

イヤホンジャックの先端をカチカチ合わせながら、真っ赤になった顔を背けた。からかうつもりがまさかの伏兵による逆襲。本人にその気は全く以て無いのだろうが、嬉しいやら恥ずかしいやら腹が立つやらで耳郎は何も言い返せなかった。

 

だが一つだけはっきりしている。今のこの状況を誰にも見られてはならない。誰にも、だ。色々と台無しになってしまう。

 

全曲のダウンロードが終わると耳郎は音楽プレイヤーを残してパソコンを抱え、脱兎のごとく駆け出し、エンデヴァーのヘルフレイムにも負けない程熱く、そして赤くなった顔を隠す為に夕食の準備を手伝う様に八百万に呼ばれるまで部屋に閉じこもった。

 

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