糞ナードも案外良いかもしれない   作:i-pod男

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今回のサブタイトルはオーズっぽく。


買い出しと遭遇とあんみつ

「いった・・・・いたた痛い!緑谷痛い!痛いからちょ、待って!ストップストップストップストップ!ふぐぅぅ・・・・・・い”っ!?」

 

暴れる耳郎を出久はやんわりと抑えつけた。

 

「だから力まないでよ、耳郎さん!痛いのは分かるけど我慢して。今これやらないと後がホントに辛くなるから。あんまり待ちすぎると更に僕もやりにくくなるし。ゆっくり息して。深呼吸。した事無いのはお互い様だよ、後で怒りたいならいくらでも怒っていいから。」

 

だったら何で提案したと耳郎は文句の一つも言いたかったが、出久が既に経験していると言うのならば委ねるしかない。正直この痛みが続くのは嫌だった。初めてだからこそなのか、頭がおかしくなりそうだった。震えて乱れる呼吸をゆっくり整え、視界をぼやけさせる涙を乱雑に拭った。

 

「クリームあんみつ・・・・・」

 

「え?」

 

「終わったら、その・・・・・クリームあんみつ。奢ってくれたら許す。」

 

出久は頷いた。それで済むなら安い物だ。そして耳郎の案外現金な一面に思わず小さく笑ってしまいそうになるが、堪えた。それを言い訳に更に要求を追加されかねない。

 

「じゃあ、サンで行くからね?」

 

「分かっーー」

 

「サン!」

 

「あぐぅぁ!・・・・・い・・・・・った・・・・」

 

ある程度リラックスし切った所で再び一瞬とは言え目の前が真っ白になる程の激痛に見舞われ、耳郎は口を手で押さえながらも変な声をくぐもらせながらも上げてしまった。

 

「ちゃんと、入った・・・・?」

 

「うん、大丈夫。肩の関節はしっかりはまってるから、後はしばらく動かさないで。ごめんね、痛くして。でも利き手じゃないのが不幸中の幸いだよ。」

 

パーカーの袖を結んで三角巾に見立てると、それを彼女の首に引っ掛け、慎重に左腕を通した。

 

「これ炎症と痛み止め。水、置いとくから二錠飲んで。後はこのコールドパックを肩に固定ね。ガムテープあるし。」

 

「ん・・・・」

 

「後は・・・・・耳郎さん、捻挫してるでしょ?」

 

「・・・・・・してない。」

 

「間があった。捻挫してるね、ハイ確定。どっち?」

 

普段はそわそわ、あたふたと言ったオノマトペが似合い、大丈夫なのかと良く麗日や飯田、轟に心配されがちな出久は有事になるや否や途端に人が変わった様に勘が鋭くなる。人の『痛み』や『異常』に鼻が利くその様はまるで警察犬だ。勿論、こうして応急処置を施されている手前、大いに頼りになるのは否定出来ないが、耳郎は何故かどうも面白くないと言う気持ちを禁じえなかった。いや、この様に同年代の男子に世話を甲斐甲斐しく焼かれる事に違和感がある、と言った方が正しいかもしれない。

 

親馬鹿で世話焼きな父親になら心当たりはありまくるが。

 

「・・・・左側。」

 

「靴脱がすから、痛かったら言ってね?」

 

「分かった・・・・・」

 

普段着がパンクなのが幸いしてか、靴も踝を覆うブーツを履いていた為脱がすのにそこまで手間はかからなかった。しかし誰かにこうしてゆっくり靴と靴下を脱がされるのは妙に違和感があった。しかも最大限の注意を払って脱がされている為、妙に焦らされているような錯覚に陥る。

 

「大丈夫?痛くない?」

 

「平気。ところで緑谷。」

 

「ん?」

 

「何でそんなに詳しいの?救助訓練の授業でも応急処置の方法とか習ってるけど、ここまで手際いいのは何かおかしい。リュックも必要なモン全部入ってるしさ。」

 

出久がほぼいつも持ち歩いている大きな黄色のリュックには勉強道具やヒーローノート以外何が入っているのか気になっていたが、一つのポケットに救急キット、もう一つには痛み止め、炎症止め、解熱剤、抗生剤や三角巾に使える大判の布、また別のポケットには即席の添え木に使える棒きれなどが詰まっている。まるで一人で山岳救助にでも行くのかと言わんばかりの装備である。

 

「ああ、うん。リカバリーガールにこれ以上怪我するならもう治療はしないって言うんで、だったら応急処置の方法教えてくださいって頼んだら直筆の応急処置解体新書(サイン入り)を渡されて自分なりに勉強してるんだ。」

 

「あー、腕ボロボロにしてたからそれで叱られてばっかだったもんね。」

 

「シュートスタイルで多少はマシになってはいるんだけど・・・・・まあ、ね・・・・・たまにね。」

 

ふてくされてモソモソと語気が弱まり、湿布を張れた部分に張り付けられた。

 

「うっわ、腫れてるなあ・・・・・」

 

「でも、急性期だからリカバリーガールの『個性』なしでもこれは二、三日で治るよ?あくまで目安だけど。後は・・・・・軽く圧迫しよう。腫れてるって事は内出血が多いって事だから、少しでも軽減した方が自然治癒は早くなるし。」

 

「じゃヨロシク。」

 

「はーい。」

 

弾性包帯を取り出し、巻こうとした所で出久は初めて耳郎のペディキュアに気付いた。艶のある、青紫色だ。爪も綺麗に切られており、やすりもかけられている。丈の短いズボンを履いている所為でほっそりとしながらも引き締まった白い太腿の中程までが絆創膏やガーゼなどに所々覆われながらもほぼ惜しげ無く晒されているのだ。

 

「・・・・・綺麗だね、これ。」

 

「へ?」

 

「足の爪。綺麗に切れてる。この色も良いし。」

 

「じ、ジロジロ見んな馬鹿!変態!」

 

顎に蹴りを食らい、出久の眼前に数舜程チカチカッと星が飛び交った。耳郎も捻挫した方の足を使った為に更なる激痛が走り、無言でベンチに座ったまま痛みに悶えた。

 

「いたた・・・・舌、噛んだ・・・・・てか僕、さっきの戦いで脳震盪起こしてるんだけど・・・・・」

 

「うっさい、ざまーみろ!バーカバーカ!巻いたらさっさと他の人も診に行け!ヒーローは市民第一なんだから!」

 

「ごめん・・・・・あ、それと足、出来ればでいいからベンチの手すりに乗せて!脚部に血が行かなければ腫れが引きやすくなるから。」

 

ベンチの背もたれに体重を預けながら耳郎は嘆息した。今日はとんだ厄日だ。事の起こりは寮内での取り決めで共同スペースと各階の廊下掃除、ゴミ出し、朝夕の食事当番などをローテーションして出久と耳郎に食材買い出しの係が回って来た所から始まる。委員長である飯田が纏めた細かいリストの通りに近所のスーパーや雑貨店を回って必要な物を買うまでは良かったが、帰路につかんとした所で突発的な理不尽が『個性』とその使用者を増強・暴走させる薬物『トリガー』の使用者という形で降りかかった。

 

増強系の『個性』を持つ出久が相手をして時間を稼ぐ間に耳郎は避難誘導と取り残された者の確認と役割を分担し、プロヒーローと警察が来るまで粘りに粘った。苦戦し、倒されても息が続く限りは劣勢だろうと立ち上がる出久を援護しようとした所、親とはぐれてしまったと思しき子供の姿を見て一瞬注意が逸れてしまった。攻撃をギリギリ避けきったまでは良かったのだが、着地に失敗して足を挫き、更には子供を庇った際に変な角度で肩から地面にぶちあたり、脱臼してしまったのだ。

 

最終的にはベストジーニストやミルコなどのプロヒーローが現着し、トリガーを使用した犯人は無事逮捕、逃げ遅れた子供も無傷で事無きを得たが、二人はそうはいかなかった。直接戦闘に参加していなかったとはいえ耳郎は捻挫と大腿部の浅い切り傷、脱臼とそこそこ手傷を負った。出久は脳震盪以外に肋骨に罅が入り、多くの細かいガラス片に全身を切られ、額からこめかみにかけても大きな切り傷が出来ていたが、ガラスを抜き取って鏡を見ながら一人で消毒、止血、縫合をしてから耳郎の応急処置にあたっていたのだ。

 

自分より頭が良いのは間違い無いが、緑谷出久と言う人間はバイアス込みとは言え耳郎の目には良く言えば純粋、悪く言えばただの馬鹿にしか見えなかった。馬鹿と言っても、上鳴とは毛色がまるで違う。どこの誰とも分からない不特定多数の人間の危急に、自分がどんな状態にあろうとも一度スイッチが入れば遮二無二突っ込んで行き、必要とあらば何度でも骨肉の一片まで鉄壁とする単細胞野郎だ。危なっかしいにも程がある。とてもではないが見ていられない。

 

しかしながら、あの前に進む『力』と言う物は評価に値するべきだと耳郎は素直に思った。予期せぬ実戦の場で、仮免試験と同様の高い即応性は凄かった。相手がどんな『個性』を持っているのかを分析しながらも最小限の被害に留める様に立ち回り、怯まず拳を交える闘志。自分も見習わなければならない。特に近距離では即座に対応出来ない自分は。

 

「その内に・・・・・教えて貰おっかな?」

 

別に恩を着せるつもりは無いが、出久は自分のお陰で音楽が好きになったと言ってくれた。英語の小テストや課題も難無く解けるようになっており、自分のお陰だと大喜びで感謝された。それなら自分も多少は我儘を言っても許されるのではなかろうか?ヒーローとしての能力を伸ばす為の頼み事なのだ、出久も嫌とは言うまい。

 

八百万に頼むのも良いが、彼女の場合どうも理屈っぽい所がある。加えて彼女の『個性』は意外性と総合力を重視した物で戦い方もそれに合わせて誂えてある物だ。出来る事が限られる自分は得る物が全くないとは言えないが、不向きだ。自分で感性豊かだと言うのはイタイ奴だと思われるかもしれないが、幼少から音楽にのめり込んでいた自分にはフィーリングも十分吟味すべきファクターの一つなのだ。

 

あの予期せぬ戦闘でも即席とは言えかなり良く動けたのは事実なのだから。

 

「耳郎さん、リカバリーガール来たから治療して貰おう。」

 

しばらくしてから出久が買い物に持って行ったエコバッグ四つを引っ提げて戻って来た。あの戦闘でこれに被害が及ばなかったのは最早奇跡と言える。

 

「ん、オッケー。」

 

「でもその前に、はいコレ。」

 

プラスチックの容器に貼られたシールに印刷された文字を見て、耳郎は目を丸くした。

 

「・・・・・・白玉クリームあんみつ・・・・!」

 

「この近くにコンビニあったの思い出してさ。」

 

「うわー、ちっちゃ。安く済ませたね。せこいわ。」

 

「せこ・・・・・・っ!?」

 

折角買って来たのに損な言い草を食らってしょげてしまった出久をクスクス笑わずにはいられなかった。

 

「へこむなって、冗談だから。適当に言っただけなのにまさかマジで買ってくるとは思わなかったよ。」

 

「食べ物の恨みは恐ろしいからね。コレ経験談。それにそんな小さい約束でも、破りたくないから。セミプロとは言えヒーローなんだし。今度はちゃんとしたお店で出すようなの奢るから。」

 

ヒーロースイッチが入れば頼もしいが、オフになるとまたいつもの底抜けに明るく、慌ただしくもどこか憎めないヒーローオタクに戻ってしまう。爆豪は糞ナードだの何だの言っているが、飯田や麗日、轟達が彼を高く評価する理由がようやく分かる気がした。

 

「緑谷、律儀だね。じゃあその時はゴチになっちゃお。んじゃソレ開けて持ってて。ウチ、肩がこんなだし、もし落としたら勿体無いから。」

 

言われた通りに封を切り容器を開けたが、左腕が脱臼の所為でまだまともに使えない。結果的に出久があんみつの容器を持ちながら耳郎が食べるのを手伝うと言う妙に微笑ましい状況が出来上がり、リカバリーガールがにやにやしながら二人の様子を治療しながら眺めていた。

 

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