糞ナードも案外良いかもしれない   作:i-pod男

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ねえホント何なの!?何で皆さんこれがこんなに好きなの!?(注意:感激のあまり錯乱して逆ギレしております)

いや嬉しいよ!?嬉しいけども、だよ!?ここまで評価されると今まで書いてきた他の物は一体何だったんだろうと思ってしまうよホント。

今回若干シリアスでフォーカスは緑谷少年です。


また笑えればいい

出久は足技主体の戦闘スタイルに切り替えた事は自分の中でもそこそこ大きな一歩だと自負している。おかげで許容上限を超えた出力で『ワン・フォー・オール』を自損覚悟で使う悪癖が出る頻度を大幅に軽減できたのだ。しかし、元いじめられっ子にして元『無個性』である出久はオールマイトが設定・調整した十か月にも及ぶ肉体改造プランより前はスポーツのような激しい運動を伴う動きを大してした事が無い。

 

故に、格闘技の経験など皆無。攻撃も大振りなテレフォンパンチや予備動作が多い蹴りになってしまう。『個性』が蔓延するこの社会では格闘技をまともにやる者はいなくはないが『個性』が登場する以前に比べると少数派だ。マンツーマンで教えてくれる者などいない。それもそうだ、自分がヒーローを目指しているだけで手一杯な物が大多数なのだからそんな余裕などある筈も無い。

 

しかし出久も遂に自力更生で出来る事の限界にぶち当たってしまった。やっている事はどれも他人の見様見真似である。シュートスタイルを確立したは言え、熟成、完成までの道のりはまだ半ばですらない。俄仕込みと言われても言い返せない程お粗末なのだ。

 

そして熟成の為に出来る事と言えば、無駄をただ只管に削って行く事である。その道程を出久は『個性』を使わぬ組手ただ一つである。

 

出久が思いついた組手の相手を頼める人物は二人しかいなかった。

 

一人目は担任の相澤消太だ。長年の経験によって裏打ちされて完成した戦闘スタイルは過程を重んずるカテゴリーに区分され、駆け引き、戦略、倒し方、動き一つ一つに目的がある、正に合理性を体で表すプロの物だ。しかし担任であるからこそ贔屓は出来ない。自力で何とかしろと断るだろう。そもそも彼にそのような時間など無い。教師とプロヒーローと二足の草鞋でやっている相手に負担を増やすなど考えなしにも程がある。

 

もう一人は、インターン先の先輩にしてオーバーホールの『個性』を消す銃弾により未だ『個性』を使えない雄英ビッグ3の頂点、通形ミリオである。童顔と180センチ以上ある鍛え抜かれた肉体のインパクトは勿論、抜群に飛び抜けて明るい笑顔も相変わらず健在だ。

 

「いや~、びっくりしたよ。まさか君がそんな事を直談判しに来るなんてね!まあ僕も断る理由は無いけど。」

 

人間は本当の恐怖や苦痛を伴う事は嫌でも記憶してしまう。赤子が火に触れて火傷を負い、『火=痛い』、『火に触らない=痛くない』と覚えるのと同じ原理である。

 

ならば、徹底的に痛めつけて貰い、死にもの狂いで抵抗し、苦痛で何を意識するか、何を切り捨てるかを吟味する。手段の効率としては頼りない微かな明かりでしか無いが、一人で我武者羅な暗中模索をしていた時よりは百倍マシだ。

 

それにミリオは『無個性』となっても今の自分より優れた予測能力を持っている。その脅威も体験済みだ。それが欲しい。その経験則が。力に変える為に必要な、糧が。出来るだけ多く、出来るだけ濃密な物が、欲しい。

 

「よろしくお願いします!」

 

「うん、相変わらず君は元気がいいよね!大事だよね、それ!」

 

当然の結果ではあるが、『個性』なしでもミリオは強かった。三年分の経験則は焦った所で埋まらない。時折飛んでくるアドバイスを念頭に置きながらも前に出て攻める。しかし身長、体重、体格、筋肉量と互いの肉体を見比べただけでも歴然な劣勢を覆す事は容易ではなかった。加えてまるで書物の様に読まれる攻撃、防御、回避、全てが通じない。重厚なバックボーンに支えられた技術、戦術眼、動じない精神、どれを取ってもヒーローとしての純度がまるで違う。

 

一時間半近く続く組手は週に三、四度行われる。手加減は一切必要無いと言い切られたミリオも出し惜しみをせず、遠慮なく脇腹や鳩尾、顎、こめかみと言った人体の急所を狙って攻撃してくる。透過の『個性』によって弾かれる勢いが無くとも、鍛え抜かれた体から繰り出される一撃一撃がズシリと重石をぶつけられるかの様に芯まで響く。

 

真心込めて掛かって行く甲斐があるという物だ。

 

鳩尾や肝臓を拳や膝で抉られる度に逆流する腹の中身をぶちまけた。五回目以降は血も若干だが混ざり始める。それでも、出久は倒れ伏したままでいる事をよしとしなかった。これだ。これでいい。これでいいのだ。これだけで、既に多くを学んでいる。

 

攻撃は小さく、鋭く、速く。

 

リーチの無さはダッシュ力で補う。

 

反撃に転じる時の回避動作は最小限。

 

そうでない場合は打ち終わりを狙われない様に体ごと移動する。

 

何があろうと、呼吸を乱さず、構えを崩さぬ事。

 

そしてどんな時だって諦めず、絶対に逃げない事。

 

 

 

「緑谷・・・・・・大丈夫なのか、それ?最初の頃みたく腕ボロ雑巾状態じゃねえけど・・・・・」

 

切島が作り置きの蜂蜜レモンを数切れ差し出しながら心配そうに尋ねた。

 

「あ、ありがと。平気だよ。インターン前の手合わせの時言われたじゃないか、経験則を力に変えられるって。必要な事なんだよ、これは。今まで以上にね。それに何がきっかけで先輩の『個性』が戻るか分からない。何の根拠も無いけどさ。」

 

それでも彼の完全復活を望まずにはいられない。わがままを聞いてもらっているだけなのは百も承知だが、せめて組手が助けになってくれればと思うのは本心だ。

 

だが、歯痒い。悔しい。人間ちょっとやそっとで強くなれる様な物ではない事は理解している。あっと言う間にびりっけつまで落ちて行きながらもそこから這い上がった努力の天才と拳を交えているのだからそれは嫌でも思い知らされる。だが、そう思わずにはいられない。

 

屋内対人戦闘訓練での自損。

 

USJ事件での自損。

 

体育祭での自損。

 

林間合宿でのマスキュラーとの相打ち。

 

幼馴染の伸ばす手を掴み損ねた敗北。

 

幼馴染との喧嘩での敗北。

 

一年A組の総員二十人がかりをボディーブロー一発ずつで喫した大敗。

 

『ワン・フォー・オール』の器を成す事は出来たが、肉体はまだ未成熟。捨て身の戦法以外で安全に出せる許容出力は四分の一にも満たない弱さ。

 

今まで積み重なって来た敗北と相打ちと遜色無い勝利の記憶ばかりが目まぐるしく脳内を駆け巡る。敗北と死の恐怖、屈辱、それを乗り越えられなかった怒りが込み上げて来た。受け取った蜂蜜レモンを口に押し込み、八つ当たりをかましてしまう前に寮の屋上へと昇って行く。

 

碌に咀嚼もせずに怒りと共に飲み込み、欄干に拳を叩きつけた。砕ける程に奥歯を噛み締め、涙が頬を伝って落ちる。

 

音楽を聞いた所でこれは治せない。なら考えるしかない。少しでも糧となる物を得る方法を。

 

ミリオと組手をしない時はクラスの仲間との組手を催すか?飯田や轟、そして尾白や切島辺りなら間違い無く乗ってくれる。必ずしも一人で行動しないヴィランとの対策の為にも一対多のスキルも必ず必要になる。まずは三人か四人。二対二でやると言うのもありだ。

 

だがミリオとの組手が無い日に出来るとも限らない。座学での予習復習とのバランスも必要になる。

 

考えれば考える程胸の奥が痛くなる。頭の中が真っ白になる。

 

駄目だ。これは駄目だ。この状態だけは駄目だ。『無個性』と診断された時と同じ感触だ。あのラインを越えてしまったら本当に色々とまずい事になる。抑えろ。抑え込め。くじけている場合なんかじゃない。忘れろ。忘れてしまえ。

 

ヒーローは強い。強いのだ。泣いているところなど見せられない。

 

四つん這いになり、腕立て伏せの体勢に入る。既に体中が痛いが知った事ではない。歯の隙間から呻き声をあげながらも動きを止めない。

 

足りない。この程度では足りない。もっと痛い方がいい。

 

「経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則・・・・・・・・」

 

もう既に回数は百を超えた。まだだ。ラインから一歩も遠のかない。夜の闇が心も体も踏み砕かんと圧し掛かってくる。だが折れない。折れてなるものか。

 

「経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則、経験則・・・・・」

 

二百。まだだ。しかし二百二十三回目を超えた所で腕に入っていた力が失せてしまった。折角シャワーを浴びたのにまた浴びなければならない。温水でなく冷水を使えばまだマシになるかもしれない。

 

「お、緑谷じゃん。どしたん?」

 

「ぁう・・・・・」

 

背を向けていて幸いだった。普段なら見られた所で特になんとも思わないが、今は、今だけは、誰であろうとこんな情けない姿を見せたくなかった。

 

「耳郎さん・・・・・・・あ、うん、いや別に何でもないんだ。ちょっと、ね・・・・・・・外の空気吸いたくて。月、綺麗だよね。」

 

「新月だよ、今夜。」

 

こうなれば逃げの一手に限る。出来る限り顔が彼女の視界に入らない様に移動し、扉を目指したが手首に何かが巻き付くのを感じて止まった。

 

「ウチの聴覚アンタより上なの、忘れてない?心音も脈拍もダダ漏れだから。」

 

そうだった。隠してももう無駄だろう。何かおかしい事は誰が見ても気付く事だ。でもこれは誰でもない自分の問題だ。解決するのが自分でなければどうにもならない。

 

「何でっもない、よ・・・・・・」

 

「何で嘘つくの?」

 

「嘘じゃ、ないよ。ホントに、なんっでっもぉ・・・・・ない、からぁ・・・・」

 

漏れ出る嗚咽を必死で噛み殺した。振り払わなければ。しかし振り払おうとするのには後ろを向く必要がある。必然的に彼女にみっともない顔を晒してしまう。

 

「だからっ、手ぇ放して。部屋に戻れなっ、ない・・・・よ?」

 

「そんな顔してるとこ見たらほっとけないって。」

 

見えてない癖に何を言っているんだ、彼女は?

 

しかし出久は失念していた。屋上の唯一の出入り口であるドアには窓がある。真っ赤に泣き腫らした目と、涙でぐしゃぐしゃになってしまった情けない顔を映した、夜の色に染まった鏡が。観念した出久はゆっくりと振り向いた。

 

「毎っ回帰ってくるたびにボロボロになってるの見て何も無いと思わないでしょ普通。」

 

ピエロだ。こんな無様な自分はただのピエロだ。折寺中学の校舎ではないが、ワンチャンダイブでもすればこの気持ちも多少は収まってくれるのだろうか、などと不吉な考えが一瞬頭をよぎった。

 

「何でここに・・・・・?」

 

「勉強で煮詰まったから気分転換。頭冷やして音楽でも聞いてよーかなーって思って。」

 

「そう、なんだ。だったら僕がいたら邪魔だろうし、部屋戻るから放して。」

 

「話聞いてた?そんな顔してるとこ見たらほっとけないって言ったでしょーが。」

 

近い。伸ばさずとも手が届く距離に彼女がいる。涙で視界がぼやけてどんな顔をしているのかは分からないが、荒れてごつごつした傷だらけの手を握られたのは分かる。その温もりが更にぼやけ具合を悪化させていく。

 

「ウチは、さ・・・・・・緑谷の気持ちは分からない。ウチはあんたじゃないから。『個性』も遅咲きじゃないから。それだけはウチにはどうにも出来ない。だから、何をどうするのが正しいか、間違いかなんて言えない。でも普段から一生懸命で明るい奴がそんな顔してたら心配しちゃうのはどうしようもないから。だから・・・・・・はぅあ!?」

 

両肩を掴まれ、出久の腕に包み込まれた。

 

「ちょ、え、待っ、緑谷?!あの・・・・・」

 

「ごめん、なさい・・・・・でも、少しだけ。ほんとに、少しだけでいいからっ・・・・・・!このまま・・・・・・このま、まで・・・・」

 

意識して出久が調整しているのかどうかは知らないが、多少力は入っている物の、不思議と痛みも不快感も無い。むしろ心なしか、若干心地良い。震えてしゃくり上げる彼の背中を不器用ながらも優しく撫でてやると泣き声がエスカレートして行った。自分よりでかくて男の癖に情けない、などと耳郎は思えなかった。

 

ヒーローだって人間だ。ヒーローだって心の中で助けを求めているに決まっている。志望生なら猶更だ。

 

「耳郎さんは優しいね。ホントこんなんじゃ、駄目だよね・・・・・?」

 

「駄目になったっていいじゃん、別にさ。やせ我慢すんのって男の悪い癖だよ?」

 

泣きたい時ぐらい思いっきり泣いた方が、後でまた思いっきり笑える。

 

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