では、どうぞ。
見えなくとも残る傷
「いやぁ~~、助かったぜ緑谷。持つべき物は頭の良いダチだよな。エクトプラズム先生の課題丸ッと忘れたままとか間違い無く顔面蹴り抜かれてたぜ。サンキューな。」
「明日絶対小テストあるからそこは自力で頑張ってね。流石に僕もそこまではカバー出来ないから。」
緑谷出久、上鳴電気、そして切島鋭児郎の三人は明日提出する課題を終え、息抜きにオンライン協力プレイで巨大生物を屠る某狩猟ゲームの真っ最中だった。装備のチョイス、個々の立ち回り方、そして連携も普段のヒーロー基礎学の訓練もあり、限りなくそれに近い物となっているお陰で進行のペースは初見相手にはエンジンがかかるまで多少時間が掛かるが、掛かってしまえばかなり速い。作ったゲームキャラクターのそこそこ統一された外見や装備の色も相まって『シグナル3』や『信号機トリオ』などと呼ばれている。
切島のプレイスタイルはパワー寄りの近距離一辺倒でとにかく攻める、前衛特化型である。一本気な性格は良くも悪くも反映され、狩猟ターゲットにHPを削り切られる事が一番多い。しかしその分他の二人が罠設置や回復などの隙を作る重要な役割もあるのだ。
上鳴は基本遠距離とサポートに徹するが射撃の腕は中々高い。それがヒーロー活動でも活かされれば尚の事良いのだが、現実はそう甘くない。
出久はスピード重視で遠距離戦もこなせるバランスの取れたプレイヤーで主に司令塔の任を帯びる。雄英一のヒーロー博士でもある彼の観察眼と予測の培いはゲームでも十全に活かされており、高効率な立ち回りと死亡回数ゼロによる受取報酬の下落阻止に一役買っているのだ。
「あ、切島君ガード、ガード。はい、そこでバックステップ!」
「うぉ、危ねぇ!?地味にいやらしいなこの野郎、デカい癖して。」
「上鳴君、徹甲榴弾。頭狙って。」
「おう。ほいっと、命中。お、スタン来た!よぅし、尻尾切り落としてやンぜこいつめ・・・・・・ソロで十回も依頼失敗させてくれやがった恨みはデカいぞ。うりゃうりゃ。」
「っしゃぁ~~~!倒した~~~!!!悪いな、こっちも手伝ってもらって。」
「ま、素材の為だからね。丁度鱗とか切らしてたし。あ、落とした尻尾貰うね。」
出久の言葉に上鳴は苦笑した。
「うっわ、緑谷ドライだな・・・・・・お前いつもの博愛精神はどこ行った?」
「失礼な!あるよ、ちゃんと。どれだけ回復薬融通したと思ってるの?遠距離主体でそこまでダメージ受ける人いないよ?けど、パーティーでやるのも良いね、たまには。ソロもやり込むと飽きるし・・・・」
出久は元々精々付き合いでボードゲームやトランプ程度しかやらないが、新しい物は試しと言う事で始めてみると自分がやり込み甲斐を感じるとハマるタイプだと早々に発見し、今ではソロでも超大型モンスターをほぼノーダメージで叩き潰せるレベルにまで成長した。
「取って付けた様に言われても説得力ねえわ!」
「まあまあ、いいじゃねえかよぉそれでも。」
笑いながら切島がとりなす。
「しっかし、部位破壊って一つの武器で届いても他のじゃ案外手が届かないところあるよな、地味に。」
「あ、あるね、それは。遠距離なら届くとしても動き回るのがモンスターだし、欲しい部分に当たらないのは仕方ないけど。いやー、でも弾丸の材料切らしてるの忘れてそのままクエストやった時は結構焦ったな。通常弾オンリーとかひどい目に遭ったよ。時間制限三秒前のギリギリ達成。」
「地味に凄ぇ事してんな、このギワギワゲーマーめ。てかそれでもクリアしてんだろーが。」
「まあそれはそれとして、だ。恋バナしようぜ。」
「上鳴、凄ぇいきなりだな。それと何が悲しくて男三人で恋バナしなきゃなんねえんだよ。言ってて虚しくねえか?」
ぐふっ、と胸を抑えて上鳴は倒れて膝を抱え込んだ。
「傷をなめ合う仲間が欲しいんだよ、俺はぁ!察してくれよ、それをよぉ!」
恋の話題が何の脈絡も無く持ち上がった出久はぎくりとした。現状では正直誰にも触れられたくないトピックの一つである。最近の自分は、どこかおかしい。耳郎との交流が増えて、妙に嬉しいのだ。別にそれが悪いと言う訳ではない。ヒーロー基礎学は捗るし、英語も洋楽を聞いているお陰でヒアリングのスキルが磨かれ、ある程度は堪能になった。あくまできっかけを作ってくれただけだが、彼女には世話になっている。
しかし妙にざわつくのだ。屋内対人戦闘訓練で幼馴染との一騎打ち、飯田が保須市に行った時、そしてジェントル・クリミナル、ラブラバがヴィランだと気付いた時も、胸がざわついた。しかし今回のざわつきは根本的な質感から過去の感触とは異なる。
彼女に抱き付いて思い切り号泣してしまった時からそれが顕著になっている。未だ恋愛経験値ゼロな出久は、それが何なのか全く以てさっぱり分からない。確かにあの時自分は彼女に予期せずして甘えてしまった。甘える事でしか得られない充足感、安心感への味を占めてしまった。母親に甘えるのとはまた別種の何かを。
本人はそれを流している為、あの日以来お互いその話題には触れていない。
自分はやはり愛情に飢えているのだろうか?
今まであまり考えた事は無かったが、耳郎との一件以来その疑問に意識を向けざるを得なかった。別に誰にも愛されなかったと言う訳ではない。母が自分の事を愛してくれているのは言葉と行動の両方で示してくれている。オールマイトとは師弟関係にあり、愛とまでは行かずとも、奇妙な友情は成立している。メリッサ・シールドも同様だ。雄英には何かと気を遣ってくれる轟焦凍や真面目一徹な飯田天哉、今まであまり接点が無かったがそこそこ仲が良い青山優雅、入学実技の時から世話になった麗日お茶子、何でもストレートに言う蛙吹梅雨、そしてゲームで親睦を深めた二人もいる。
数にしてそれは約十人。しかし彼らから愛を感じたかと聞かれれば、それは否である。親愛であれ友愛であれ、その様な『無償の愛』を自分にくれた人間は同性であれ異性であれ、いない。今もそうだ。轟に関しては本人の家庭の事情が根強い為強引に行くのも躊躇われた為今のスタンスを保っているが、他の皆はむしろ積極的にくれば受け入れてくれる高い社交性と日常的コミュニケーション能力にたけている人達ばかりだ。
やはりどこかで自分が警戒して距離を置いてしまっているのかもしれない。異性にパーソナルスペースを侵されると普段以上にあたふたしてしまうのも、過去の経験によって深く根付いてしまったある種の危険信号、即ち防衛本能なのかもしれない。人種差別にも等しい迫害を十年近く受けた上で生きて来たのだから。今でこそ取るに足らない出来事だが、実際に中学以前にも来世ならば、と思った事はあるのだ。
「ここここ恋バナって言っても、ねえ切島君・・・・・・?あ、ヤバっ!」
表情筋を引きつらせ、思わぬ操作ミスによって大幅に削られた体力を取り戻そうと後退した。
「カバーすっからゆっくりな。うん、まあ確かに今の俺らそれどころじゃねえもんな。ヴィラン連合とのゴタゴタに片が付かない間に浮ついた話とかしてる間に首チョンパとかリアルにありそうだから・・・・・・」
けども、と切島は続けた。
「そういう浮ついた話題の的になりたくないって言ったらウソだけどな。その点で言えば、緑谷は若干羨ましいと思うぜ。」
「あ、それは俺も思った。維持継続して羨ましい。」
羨ましい発言に上鳴が同意して手を挙げた。
「僕が羨ましい?何でまた?」
「いやいやいやいやいや、お前・・・・・・今でもI・アイランドの金髪女神なメリッサさんとメッセージのやり取りしてんだろ!?ヴィラン逮捕の後に連絡先を油性ペンで掌に書かれてさあ。あの日初対面だぜ?!あれか、お前のその人畜無害なビジュアルが相手のガード下げてんだろ、そうだろ?!そうだと言え!」
「か、上鳴君、人聞き悪いよその言い方は!・・・・・・それに紙切れとかあの場に無かったんだから仕方ないじゃないか!お世話になったから嫌だとは言えないし。」
言えないと言うより、戦闘の後で緊張の糸が切れてどっと疲れが出た為言う気にもなれなかった、と言うのが正確だ。と言ってもメリッサが開発したフルガントレットに命を何度も救われた手前そもそも断る理由自体何一つ無いのだが。
それに死にもの狂いでウォルフラムと戦っていた状況だったと言うのに下心が見え見えな彼の口から言外にナンパ師扱いされるのは極めて心外だった。
「僕、そろそろ部屋戻るね。おやすみ。」
「おう!狩りお疲れ、司令官殿。」
「また明日な。今度は全員遠距離でやろうぜ!」
エレベーターに乗り込み、自分の部屋がある男子棟の二階のボタンを押した。
『メールが来たぁーーー!メールが来たぁーーー!メールが来たぁーーー!』
降りようとした所でメール受信を告げるオールマイトの着信ボイスが高らかに流れた。ヒーロー科の生徒は校外でヴィランの襲撃などの緊急事態に陥っても応援を呼べるようにA組、B組の生徒とその担任達の連絡先を登録してあるのだ。
メールの送り主を確認すると出久は思わず携帯を落としそうになった。耳郎からである。
『話したい事あるから、一階に来てくれる?時間は取らないから。多分。』
「多分て・・・・・」
また数学の事だろうか?それとも新曲を見せたいのか?それとも今度こそ何か怒らせるような事でもしたのか?適当にごまかして部屋で寝るという事は出来るが、そんなつまらない嘘をついて折角出来た友達を傷付けたくない。加速度的に心配が胸中で渦巻き始めた理由が何であるにせよ、行かないと言う選択肢は無い。
『丁度エレベーター内です。すぐ降りるので少々お待ちください。』
一階のボタンを押し、十秒と経たずに到着を告げる小気味の良いチーンと言う音と共にドアが左右に開いた。共有スペースはほぼ無人で、ソファーで紅茶を飲んでいる耳郎以外は誰もいない。
「耳郎さん、一応来たけど・・・・・・話って何?」
原作は読んだ事は無いんですが、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』を意識するつもりで書きました。
出久はヒッキーほどひねくれてはいないのですが、小中はボッチだったのは容易に想像がつきます。そして幼馴染とは名ばかりのいじめっ子がずーッといる為、拍車はかかりまくりの筈です。
過去が過去なだけに表面にそれが出ていない分根強いわだかまりが理性で心の奥底に押し込められ、更にワン・フォー・オール継承に伴い、『ヒーローとしての自己犠牲』という蓋で塞がれているのではないかと勝手に考えています。
シュートスタイル、低出力フルカウルという形で多少信奉は抜けてはいますが、リカバリーガールが言った様に出久にとってオールマイトはいわば神。どんな苦境や逆境も気力で吹き飛ばせる英傑です。そんな彼から学んでいると感化されるのはある意味仕方ありません。『彼ならこうするだろう。自分は彼の力を受け継いだのだからそれに見合う戦い方でヴィランを迎え撃たねば。自分は元「無個性」の未熟者だから誰よりも死にもの狂いで前に進まなければ。』
場合によっては強迫観念ともとれる考えの下、自損覚悟の攻撃や相打ちと言う無謀を繰り返していたとも思えます。