糞ナードも案外良いかもしれない   作:i-pod男

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感想欄の歓喜の叫びでコーラスが出来るよもう・・・・・・

デートらしいデートはまた後日となります。今回は出久視点です。次回は同じ場面ですが耳郎ちゃん視点でお送りいたします。


なりたてホヤホヤなお二人さん
彼氏三日会わざれば


その日の授業が終わり、出久はクラスメイト達にまだ教室でやる事があるからと別れを告げた。全員が退室して廊下にも誰もいない事を確認すると、自分の席にストンと座り込んだ。

 

今でも信じられない。白昼夢(あれは夜に起こったのだからただの夢になるが)の様だった。あの涙も、あの叫びも、焼き付いて離れない。特に、あの薄くも瑞々しさが微塵も損なわれていない優しい温もりのある唇の感触が今も自分の物に焼き印の如く残っている。紅茶以外にほんのりとバニラの味がした。リップクリームか、それともアイスでも食べていたのだろうか?

 

腰が抜けたあの夜はあのまま床に座り込んで嬉し泣きしてしまった。その上泣き疲れて寝てしまった所を委員長の飯田に翌朝起こされ、部屋まで連れて行ってもらった。何があったのかと再三問い質されたが、考え事をしている間に眠くなってあそこで寝てしまったとシラを切り通し、本人はそれで(意外にも)納得してくれたのか、それ以上追及する事は無かった。

 

「どうしよう・・・・・・!?」

 

そもそも彼氏とは一体何をすればいいのだろうか?ただ告白されてそれを受けてカップル成立、で済むほど単純な物ではない。少なくとも上鳴や峰田などの彼女を欲しがっているスタンスがかなりあからさまなクラスメイトの会話から察するにその筈だ。その考えは間違っていないと信じたい。

 

正式に他人様のお嬢さんの彼氏になった自分にとってこれは現実的且つ極めて切実な問題である。三日も経っている以上、そろそろ何らかのアクションを起こさなければならない。デートに誘う、と言うのは男女の仲にある者なら当然行き着く答えだ。

 

―――しかしどうやって誘おうか?そしてどこへ?

 

正直言って音楽に心得がある彼女は人一倍感性豊かな人間性の持ち主であろう事はまず間違い無い。経験的に色々と目も舌も肥えていて人間的なレベルが自分とはまるで違う相手をどこに連れて行けば喜ばれるのか、恋愛経験値のレベルがようやく1になった程度の自分では皆目見当がつかない。

 

ぶっつけ本番で事に臨むのは既に何度も経験しているが、初デートで失敗はしたくない。また新たなトラウマを自分で刻んでしまう様な事態は絶対避けねばならない。

 

「ホント、どうしよう!?」

 

とりあえず調べねば。検索、検証、研究、研鑽、略して『4けん不文律』に則って行動すれば必ず突破口が開かれる。その筈だ。しかし時間が無い上寮は門限がある。自ずと行ける所が限られてくるし、予算の都合もある。

 

だが有頂天になる反面、考慮せざるを得ない事がある。付き合っている事がばれた時のしっぺ返しである。上鳴や峰田には血涙をぶちまけられ、飯田には勉学がおろそかになると相変わらず委員長気質な窘めを受け、担任の相澤先生からは気が散る要因になるし精神的に揺さぶりをかけて来る事を常套手段とするヴィランに格好の的を与える事になる為、非合理的だと13号より長く、厳しいお小言を拝聴する破目になる。恐らくあの捕縛武器でミノムシ状態にされたまま。

 

自分がそうなるのはまあまだ許せる。自分の事なのだからどうとでもなる。だが彼女にも迷惑が掛かるのはいただけない。それだけはどうしても避けなければ。その為には自分が上手く立ち回らなければならないのだ。

 

勿論これは贅沢な悩みだと言う自覚はあるし、嬉しくない筈が無い。恋人が出来るなど夢のまた夢の果ての果て、可能性など無量大数分の一だとまで思っていた。思い続けていた矢先にこれだ。惚れたら負けという格言通り、負けも負け、ものの見事に心も唇も根こそぎ奪われてしまった。あの告白で惚れぬ男がいるなら見てみたい。

 

「何を?」と、後ろから声をかけられた。

 

「誘い文句をどうすればいいのかなと思ってて・・・・・・って耳郎さん!?」

 

「ど、どーも、彼女になりたての耳郎です。」

 

僅かに頬を朱に染めながらも不敵な笑みでピースサインをする彼女の姿に心が洗われる。変わり映えのしない制服姿なのに不思議と新鮮に見える。彼女補正と言う奴だろうか?

 

「で、誘い文句って?」

 

「・・・・・・デートに誘う為の誘い文句です・・・・・・こんなんだけど彼氏に抜擢されたわけですし。」

 

「抜擢って、ヒーロー事務所のドラフトじゃないんだから。」と苦笑された。しかしその笑みに裏は無い。悪意も、含みも、そう言った物が一切ない、混じり気の無いものだ。苦笑いであろうと微笑みであろうとしたり顔であろうと関係無い。出久は彼女の全てに心底惚れてしまっている。

 

「まあでも考えてみると独り身から彼女持ちになるのはある意味栄転だね。三日も何も音沙汰無いから心配だったんだけど。」

 

「それについてはご心配おかけしてホンットすいません。言い訳のしようもありません。お詫びに放課後、どこか行きましょう。」

 

「うん、いいよ。」

 

「え?」

 

「おめでとう、言えたじゃん。」

 

「あ・・・・・・はい。」と、あまりの肩透かしにそうとしか答えられなかった。さっきまでああでもないこうでもないと頭を捻っていた自分は一体何だったのだろうか?

 

「付き合ってない奴同士なら兎も角、ウチらはその敷居三日前に越えてんだからそこまで構えなくてもいいよ?」

 

踵を返して去ろうとする彼女の手をいつの間にか握っていた。それを自分の方に引きよせると、物理法則に従って耳郎の体が自分の方へと倒れ込んで来る。そんな呆けた彼女の唇を本能に任せて奪った。奪い返した。三日前のあの夜、彼女が奪った様に。

 

何がそうさせたのかは分からないが、しなければと思った。そして単純にしたいと思った。美味しかったから。気持ちよかったから。

 

彼女の手首を掴んでいた手が二の腕から上腕、上腕から首筋、首筋から後頭部へとゆっくり滑らせていく。彼女の髪に触れた。短髪ボブの紫色の髪は柔らかく、絹糸の束を梳いているかの如く指が驚く程すんなり通る。指先が偶然耳に軽く擦れた瞬間、くぐもった艶めかしい喘ぎが彼女の唇の端から漏れた。

 

「ちょ・・・・・・みど、りや・・・・・・」

 

半歩足を引いてイヤホンジャックの先まで真っ赤になった彼女の顔を見て、自然と口角が上がるのを感じた。今の彼女は、三日前の自分と同じぐらい赤面しているだろう。惜しむらくは腰を抜かしていない事ぐらいだ。

 

「その、お詫び・・・・・です。三日も待たせちゃいましたから。」

 

嘘は言っていない。そして今も冷めやらぬ興奮で全身の毛が逆立っている。肌も凹凸が分かるぐらい泡立っていた。上気した彼女の頬と潤んだ双眼、そしてあの飽き足らぬ唇から目が離れない。アドレナリン故か、ともかく足元が覚束なくなるぐらい頭がくらくらしている。だがそんな事は今どうでもいい。

 

「おい、用が無いならさっさと帰れ。」

 

しかしその燃え上がる興奮はいつの間にか戸口に立っている黒づくめの担任の一言によって鎮火した。

 

「ハイ・・・・・・スイマセン・・・・・・」

 

告白直前の微妙に気まずい空気の中、キャンパスを出た。特に当ても無く歩いていたが、しばらくしたら彼女に肩を思いきり叩かれた。グーで。

 

「痛い・・・・・」

 

「きょ、教室でああいう事すんな馬鹿!たまたま相澤先生だったからまだ良かったけど、クラスの誰かだったらどうすんの!?」

 

「すみませんでした・・・・・・」

 

自分が上手く立ち回らなければならないのだと思ったばかりだと言うのに確かにあれは軽率だった。謝罪はした。猛省もする。だが後悔はしない。彼女はこんなダメダメな自分を受け入れてくれた。こんな自分が凄い奴だと言ってくれた。心の底から尊敬に値する人間だと認めてくれた。そんな人に感謝せず、あまつさえ三日もほったらかしにするなど失礼千万、バチが当たってしまう。

 

「でもその・・・・・・そっちからキスしてくれたのはちゃんと嬉しかったから。時と場所さえ気を付けてくれたら、いくらでもしていいからさ。ほら行こ、デート。」

 

「え、あ、でも・・・・・・その、行く所とか僕全然考えてなくて。この距離と時間帯を考えると木椰子区まで往復するには多少時間がかかり過ぎて込み具合に関係無く門限に引っかかるし、かといってコンビニとかで済ませるのもいくらなんでも安上がり過ぎますし出来るなら徒歩で行けるどこか手軽な場所を探すのがベストですけどどこに何があるとかコスパを吟味しなきゃいけないし、ああでもそれじゃまた時間消費しちゃうから――あだっ!?」

 

「落ち着け、コラ。」

 

いつものように脳を回転させ、考えを声に出しながらスマートフォンのスクリーンを残像が残る程のスピードで操作し、近隣にある徒歩で行けるデートスポットらしいデートスポットと言う最適解を探そうと目まぐるしく思考を続ける矢先、イヤホンジャックが額を強く小突いた。

 

「何も初デートでそこまでハードル上げる程鬼じゃないよ、ウチは。真剣に考えてくれてるのは嬉しいよ?嬉しいけども、ゆっくり行けばいいから。慣れてきたら期待するけど。凄い奴。こうやって当ても無く歩き回るのもウチからすれば十分デートの範疇に収まるし。」

 

「そう、ですか・・・・・・」

 

もさもさの癖毛を指先に絡ませながら耳郎に頭を撫でられた。初めての感触で妙にこそばゆいが、悪くはない。犬が撫でられるとこんな感じなのだろうか、とふと思ってしまう。彼女の言葉にも多少安心したが、どうも納得がいかない。自分の中でのデートの定義が狭義的過ぎるのかもしれない。しかし範疇に収まると納得されている以上無暗に蒸し返す事も無いだろう。

 

「それとさ、ちょっと疑問なんだけど。」

 

「はい?」

 

「何で敬語なの?そんなんじゃなかったじゃん、付き合う前は。」

 

撫でられながらそう聞かれ、出久は答えに詰まってしまった。自分でも良く分からない。

 

「そう言えば・・・・・・変ですか?」

 

だがこの方が彼女と接する時が一番楽なのだ。勿論変えて欲しいと言うならば努力はするが。

 

「いや変、ではないけど。なんかなあ・・・・・・こう、立ち位置的に目線が合ってない様な感じがま~だ残ってるっぽい。分かる?言いたい事。」

 

「なんとなくは。でも別に壁を作ろうとしてるとかそういうわけじゃなくて――」

 

再びジャックで小突かれた。今度は弱めに。

 

「分かってる。今はまだそれでもいいよ。でも、しっかりそのうち敬語やめて名前呼んでもらうから。さん付け抜きで。」

 

「・・・・・・ハードル高くないですか?」

 

入学初日から付き合いがある飯田や体育祭以来打ち解けた轟すら未だに苗字に君付けて読んでいるのだ。二人きりの時ならまだしも、人前で気絶せずに出来るかどうか不安しかない。

 

「キスの方がよっぽどハードル高いよ!あんたの中でその順序どうなってんの!?」

 

「告白直後にした人に言われましても・・・・・」

 

「あ、そー言う事言っちゃうんだ?じゃあもうしてあげないし、させてあげない。絶対に。」

 

「・・・・・・ひどくありません?その仕打ち。」

 

表情には出来る限り出ない様に努力したが、ずきりと胸を穿つ痛みは禁じ得なかった。あの多幸感を未来永劫奪われるなど、今や味を占めてしまった自分にとって最悪のペナルティーだ。一週間も経てば禁断症状末期で発狂するかもしれない自信が今の出久にはあった。

 

「キス禁止は嫌?」

 

「嫌ですよ。」

 

明らかに手玉にとれている事を楽しんでいる表情で尋ねられ、それに対して食い気味に答えてしまった。自分はもっと複雑な生き物だと思っていたのに、結局は本能に尻尾を振る破目になるのか。そうさせているのが耳郎だからこそ悪い気はしないが、自分の単純さに呆れずにはいられない。

 

「じゃあ寮に戻ったら教室でやった感じのキス、もっかい。」

 

「誰もいないと確認が取れたら、ですよね?」

 

「ん、分かればよろしい。じゃ、音楽聞きながら帰ろ?分配ケーブルあるから。」

 

差し出された手を握り、一緒にかかった曲の歌詞を口ずさみながら寮へ足を向けた。

 

学園祭で初めて聞いた彼女のハスキーな歌声は、相変わらず美しい。

 

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