陽介とクマがシャドウを倒しつつ道を進んでいくと、いきなり人が飛んできた。正確に言うと、人が吹き飛ばされてきて、二人の間をバウンドしながら転がっていった。
「「!?」」
いきなりのことに二人とも声がでなかった。振り向くと、吹き飛ばされてきた人はぐしゃりと地面に倒れ伏していた。
「え、え、だ、大丈夫ですか!?」
慌てて陽介が駆け寄ろうとするが。
「――ぅお館様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
急に飛んできた人は跳ね起きると、吹き飛ばされてきた方角へと駆けだしていった。
「……!?」
「な、なんだったクマ?」
二人が飛んできた人物が駆けていった方を見ると、木が何本もなぎ倒されていた。
「あれ、倒しながら飛んできたってこと……?」
おそるおそる二人は人が飛んできた方向へと向かう。倒された木々が目印になっていて迷うこともない。そうして倒された木々の先を見ると、さっきの人物が他の人と殴り合っていた。
「え?」
「ク、クマ?」
困惑する二人にも気づかず、二人は殴り合いを続けている。
「幸村ぁ!」
「お館様ぁ!」
殴る、殴る、殴る。ひたすら殴り合っている。
「え、何、アレ?」
「クマ、知ってるクマ! ヨースケとセンセイが同じ事してたって聞いたクマ!」
「いや、さすがにあそこまでやってねーから!」
「そうなのクマ?」
「そーだよ!」
そんなことを話していると、不意に二人の背後から声がした。
「アンタ達、誰?」
「うぉっ!?」
驚いて二人が振り返ると、そこには迷彩服のような服装をした人物が立っていた。
「…………」
「…………」
二人は無言でその人物を見つめる。戦国時代、そして迷彩服……その二つの単語が二人の脳内をぐるぐる回る。
「忍者!」「忍者だクマ!」
二人の中でそういう結論がでた。
「すごいクマ! 分身の術して欲しいクマ!」
「すげー、手裏剣でけー!」
二人の中では、忍者のイメージはジライヤだった。それに割と近い姿の人物が現れたことで、それを忍者と認識して興奮しているのだった。忍者というのは間違っていないが、テンションの上がった二人を見てさすがにその忍者――猿飛佐助も困惑していた。
「えっ、ちょっと、お二人さん?」
忍者に会えて感動してるといわんばかりの二人のキラキラした目に見つめられた佐助は困惑した。忍びなんて碌なモノじゃないと思っている佐助と、忍者すごいと思っている陽介とクマの意識の差があることに残念ながら陽介とクマの二人は気づいてなかった。
「どうした、佐助?」
さすがに騒いでいることで気づいたのか、先ほどまで殴りあっていた二人、真田幸村と武田信玄が三人の元に来た。
「実は、カクカクのシカジカでこのテレビを探しているクマ!」
テレビの絵が描いてある紙を取り出してクマが説明する。
「『てれび』ねえ……」
「この付近では見ぬな」
「某も見たことないでござる」
三人の言葉に陽介は肩を落とす。
「はー、ここもダメかー」
がっくりしている陽介を幸村がそわそわした様子で見ていた。
「花村殿、なかなかの手練れとお見受けした。ひとつ、手合わせをお願いできぬだろうか」
「え、手合わせって……それはちょっと……」
確かに陽介は今までテレビの中で戦ってきたのだ、レベルは高いから手練れと言っても間違いではない。
「さあさあ、真田幸村、いざ参る!」
幸村はまったく話を聞いていなかった。どこからか二本の槍を取り出し、構える。その様子に陽介も慌てて……しゃもじを構えた。しゃもじを。そして突き出された槍を受け流す。しゃもじで。キン、と金属音を立ててずれた槍の切っ先。金属音を立てるしゃもじ。
「ああ、もう!」
自分でツッコミをいれたいがそんな余裕がない陽介が集中するために一度距離をとる。
「そのしゃもじ、前田殿の奥方の……やはり、手練れの方でござったか」
「このしゃもじそんなすげーの!?」
幸村の反応にツッコミをいれる陽介。そんな陽介に容赦なく幸村は攻撃してくる。
「っと」
今度は受けずに体を半身ずらして躱す。そしてその勢いで回転し、青いカードを撃ち抜いた。しゃもじで。
「スサノオ!」
呼び出したスサノオがガルダインを撃ち出す。それを幸村は二槍を交差させて受け止める。
そこで陽介は気づいた。戦国武将にペルソナ見せても良かったのだろうか。不安になる陽介をよそに幸村は目を輝かせていた。
「おおおおお、たぎるぁぁぁぁぁ!」
雄叫びのような声と共に、幸村の二槍が炎を帯びて真っ赤に燃えだす。それを見て陽介は自分の心配が杞憂であったことを知るが、同時に戦国武将がなんで炎出すんだよ、と心でツッコミを入れる。
「戦国武将って、戦国武将って……いや、これはゲームの世界、ゲームだゲーム……」
そう小声で呟きながら幸村と撃ち合う。炎を纏った槍を躱し、反撃する。しゃもじで。
そうして陽介の精神をガリガリ削りながら戦いは続いた。幸村が満足するまで。
ぐったりとした陽介と対照的に幸村は満足そうにしている。クマはそんな二人を回復して回る。
「おお、かたじけない」
「いやー、旦那がいきなりごめんね」
疲れている様子の陽介に佐助が言う。信玄は二人の対決に満足したのかうむうむと頷いている。
「そうそう、さっきの『てれび』だけど、奥州に行ってみたらどう? あそこの人たちは南蛮のものも詳しいから」
そう言って佐助が奥州への道を説明してくれる。
「なるほど、政宗殿のところでござるか」
幸村も佐助の言葉に納得しているようだ。
「奥州か……」
またとんでもない戦国武将が出るのではないかと不安になる陽介。クマはそれをある意味ストレートに訊ねた。
「そこにもスゴイ人がいるクマ?」
「うむ、政宗殿は強い!」
しかし、幸村からは陽介やクマの意図とはまったく違う返答が返ってきた。
「え、や、そうじゃなくて……」
訊き直そうとした陽介だったが、奥州にも濃い人物がいるのか、という質問はさすがに訊きにくいことだったので、諦めた。
「仕方ねーな、行ってみるか、奥州」
「行くクマ! 楽しみクマ!」
げんなりしている陽介とは対照的にクマは楽しそうであった。元々、陽介とプレイしようとしていたゲームのような世界にいるのだ。ある意味陽介とゲームしているようなものとクマは考えていた。
「さあ行くクマ! レッツゴー!」
「その、『れっつごお』というのは南蛮の言葉でござるか? 政宗殿も同じ様に南蛮の言葉を使う方でござる」
その幸村の言葉に陽介の不安が増した。南蛮の言葉――おそらく英語を使う戦国武将。
俄然やる気がなくなってきた陽介であったが、クマに引きずられるように甲斐を後にして奥州へと向かうのであった。