白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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真・女神転生NINEのリメイクまだかなー


少年と騎士のプロローグ
悪魔召喚士(デビルサマナー)花咲千尋


悪魔、それはマグネタイトと呼ばれる精神物質で体を構築する人ならざるもの。

古来より、闇から生まれ、闇に潜み、人を喰らう。受け継がれる数多の神話や英雄譚がその一端を表している。

 

そして、その悪魔の影は平成の終わる現代になってもなお終わることはなかった。

 

だが、人々は無力ではない。

 

古からの呪法をもって悪魔を祓う者

生まれ持った異能をもって悪魔を討つ者

鍛え上げた肉体をもって悪魔と戦う者

供物をもって悪魔と取引をする者

最新鋭のテクノロジーをもって悪魔を制御する者。

 

そんな彼らの時代に大きな影響を与え、もはや不可欠となった異端の技術。電脳空間内で悪魔との召喚、契約の儀式に必要とする様々な工程を再現(エミュレート)したもの、それが悪魔召喚プログラム。

 

そんなプログラムを使って悪魔を使役し悪魔と戦う者を影の世界の人々はこう言った。

 

悪魔召喚士(デビルサマナー)と。

 


 

「ドリー・カドモン?」

「ああ、造魔素とも言うね。千尋くんは造魔は知っているかい?」

「一応は。肉体を人造のものに置換した悪魔ですよね。知ってる事はマグネタイトの消費がないってことと、多種多様なカスタマイズを施せる事くらいですね」

「その造魔を作り出す為の素材がドリー・カドモンさ。今回の依頼はそれの護衛。魔界技術を研究しているヤマオカ研究所がそれを量産できるかもしれないところまで来たらしいんだが、その情報が流れに流れた。スパイでもいたのかな」

「てことは、相手はダークサマナーですか。解毒薬(ディスポイズン)麻痺解除薬(ディスパライズ)魅了解除薬(ディスチャーム)あたり買い足しておかないと怖いですね」

「惜しい、メパトラストーンと石化解除薬(ディストーン)封魔解除薬(ディスクローズ)もだね」

「あー、頭から抜けていました」

「こればっかりは経験だからね。精進しなよ」

 

事務所の倉庫へと向かうついでに情報を整理する。正直なところ所長一人で余裕な依頼なのだろうが、まだ新人である俺に経験を積ませようとしてくれているのだ。感謝してもしたらない。

 

「長期の任務ですか?」

「護衛期間は、研究員がデータとかを纏めて逃げられるまで。つまり明日の朝か昼までだね。短期の任務だよ。ちなみに他の護衛はなし」

「土曜の深夜に仕事とか、研究員さんたちからしたらたまったもんじゃないですね」

「いいんじゃない?国からの補助金で儲けてるみたいだし」

 

そういって、事務所のロッカーから装備を取り出す。所長は西洋鎧を着用しクレイモアを背に背負った。女性ながらも鎧や大剣を軽々しく扱うその様は、流石の異能者というところだろう。

 

対して、俺の装備は軽装。短機関銃P-90に各種属性弾を仕込んだホルスター。それと左腕につけたスマートウォッチ。あとは頑丈なケプラーベストを着けて終わりだ。

 

「行こうか、千尋くん」

「はい、所長」

 

買い出しを済ませてからヤマオカ研究所へと向かう事となった。

 


 

草木も眠る丑三つ時。悪魔の力が最も高まる時間でもある。こちらの悪魔使いが一人である事を考えると、このタイミングで攻めてくるのが定石というものだろう。

 

「来ますかね」

「...来たよ。気配の感知もまだまだ練習が必要だね」

周囲警戒アプリ(百太郎)入れてるんですけどねー」

「便利なものに頼らず、自力を鍛えないとダメって事よ!」

 

隣にいた所長の足元が爆ぜる。瞬間、空へと所長が飛んでいった。

 

所長は、身体強化と疾風魔法(ガル)系の異能者である。故にそのベクトルを空に向けることで空を飛ぶ事が可能なのだとか。

 

「いつも通り、空からの絨毯爆撃スタートか...それで終わってくれりゃ楽なんだけどな」

 

眩い輝きと共に展開される魔法陣。現れたのは幻魔クラマテングをリーダーとした妖魔カラステング、妖魔コッパテングの群れ。

 

天使ではない悪魔を使っていることから、メシア教系列の組織の攻撃ではないだろう。悪魔合体で耐性を付け変えてている可能性もあるため、迂闊な攻撃は危険だ。

 

とはいえ、それは相対しているのが普通の異能者だった場合に限る。所長は別格だ。

何一つ危なげなくテングの群れを撫で切りにしている。質実剛健なその剣は、舞というには無骨だった。

 

あれよあれよと言う間に、テングの群れは数を減らしていきついにクラマテング一体まで追い詰めていた。

仕掛けがあるなら、この辺りからだろう。

 

「残るは大物一体。懺悔の用意はできているかな?悪魔」

「いいえ、そんな物はありません。何故なら、死ぬのはあなたなのですから。サマナー!」

 

クラマテングの声と共に展開される魔法陣。敵のサマナーはかなりの大型の悪魔を呼び出すつもりのようだ。周囲のマグネタイトを使って個人では扱いきれないクラスの悪魔を呼び出す術式。かなりの研鑽の跡が見える。

 

テングたちの死体を使っての場作りと異界強度(ゲートパワー)極所的の増加。戦線に出てこないという事は後方支援タイプのサマナーのようだが、腕は確かだ。

もし、その悪魔が召喚されてしまえば流石の所長とはいえ苦戦を強いられるだろう。

 

故に、ここは俺が動くときだ。左手のスマートウォッチを操作して、異空間収納(ストレージ)から取り出すは空のマグネタイト収集器(MAGアブゾーバー)。召喚したノッカーとモコイと俺で儀式のフィールドを囲み、スイッチを押し込む。すると、空間に散布されていたマグネタイトがアブゾーバーへとみるみるうちに吸収されていく。

そんな状態で周囲のMAGを使った悪魔召喚なんてものをやろうとしたらどうなるのか?答えは単純だ。

 

「うぇえあぁ、ひぎぃ!」

 

物質世界への固定失敗。つまりはスライム化だ。

 

「なんと⁉︎」

「凄いでしょ、ウチの新人は。知識の使いどころが上手いのよねー」

「褒めてもケーキくらしいか出ませんよ、所長」

 

クラマテングは空中で戦いを繰り広げる所長に任せ、スライムへと向かう。MAG反応分析(アナライズ)完了、弱点は火炎、破魔属性だ。つまり、カモである。

 

「施餓鬼米、安くて強くて安心だ!」

 

施餓鬼米を投げつけて、スライムにぶつける。

生産技術の向上により、一個5000円で買えるようになった霊能者の作った本物の施餓鬼米は俺のマグネタイトと反応して破魔の力を展開させる。その光により、スライムは天に召された。

 

「なんと、こうもあっさりッ⁉︎」

「そう、そしてあなたはバッサリ。なんちゃって」

 

そして、空中のクラマテングは所長の剛撃に耐えきれず真っ二つと化した。

 

これで、第一陣は終了だろう。召喚する悪魔をテング系列に絞る事によって自分と召喚デバイスへの負荷を軽減する召喚スタイル。なかなかに魅力的だ。だが、他の仲間や仲魔を併用しなかった事から、制御に問題があるのかもしれない。今度サマナーネットで調べてみよう。自分がやるにしても、敵に使われるにしても知識は多い方がいい。

 

さて、次は第二陣の警戒だ。情報が流れたのは一つの組織にだけではない。時期をずらして次が来ると考えておかしくはない。それに、テングを召喚したサマナーを拘束してもいないのだから、そっちのケアも必要だ。もっとも、テングの人はもう逃げているだろうが。

 

「所長、敵サマナー見えます?」

「...んー、見えないね。今日は終わりかな?」

「あるいは戦闘を見て隠れたか、ですか...俺は一回りして研究所の様子見てきます」

「よろしくねー。ま、何もないと思うけど」

 

その後、霊的に閉じられている門を見て回ってみたが、門がこじ開けられた形跡はない。どうやら心配は杞憂だったようだ。

ならば、中への直接攻撃か?ちょっと心配になったので、あらかじめ研究所に潜ませていたグレムリンへと連絡を取る。悪魔召喚プログラムの機能、契約している悪魔との念話だ。

 

『グレムリン、様子はどうだ?』

『監視カメラを見る限りだけど、知性派のオイラの見立てじゃ何もないね。撫で斬りカナタの姿を見て、ビビって逃げちゃったんじゃない?』

『確かに、無理と分かれば引くのも道理か...ありがとうグレムリン。そのまま警戒を続けてくれ』

『報酬のチーズケーキ忘れないでよ?サマナー』

『安上がりでありがたいこって』

 

そう言ってグレムリンとの念話を切ろうとする。だが、このまま護衛任務が終わるなんて甘い考えは、この業界では通用しないようだ。マグネタイトの圧が、俺を襲った。

 

「サマナー!異界化の兆候だよ!研究所内部の炉心が中心だ!」

「...情報感謝だ。戻ってくれグレムリン。」

 

マグネタイトの圧力に、思わず目を閉じる。そして目を開けた先には、世界は一変していた。

 

主の無機質な心の表れを示すかのような空虚な空気。それに比例するような微弱な異界強度(ゲートパワー)

 

どうにも、人工的に作られた異界のような気がしてならない。

スマートウォッチを操作して所長と通信しようとしても、通話、メール、SNS、どれも遮断されている。

 

「...所長との連絡は取れないか。サモン、カラドリウス!」

 

とりあえず、伝令役として妖鳥カラドリウスを呼び出す。空を飛ぶこの悪魔で、この異界が脱出、侵入可能かどうかを調べるのが先決だ。

 

研究所内部に残っている研究員の事は気がかりだが、俺の実力で無計画に突っ込んだ所で異界討伐なんて出来るわけがない。まずは下調べからだ。

 

「サマナー、いちごを所望するのさ。とちおとめ」

「地味に足元見やがって...了解だよ、行ってこい」

 

忠誠心を高めるためとはいえ、味を覚えさせたのは失敗だったかもしれない。そんな事を思った。

 

「さて、ノッカー、モコイ、偵察行くぞ」

「全く、僕らみたいな雑魚悪魔で何ができるってのさ」

「俺が逃げるための足止め要員」

「サマナー、割と最悪じゃの」

 

仕方ないだろう。俺は未だ弱いのだから。

 


 

空虚さのせいで周囲のマグネタイトがよく感知できる。スマートウォッチにインストールしているエネミーソナーが良く通るのはありがたい限りだ。もっとも、俺たちのマグネタイトも通るという事なので、逃げるときは命がけになるだろうが。

 

「研究所をぐるっと一回りしてみたが、侵入経路は正面口だけ。かなり厄介なタイプの異界だな」

「サマナー、すまぬ。外には出れなかったさ」

「いいさ、カラドリウス。お前が無事なら差し引きはゼロだ」

 

とはいったものの、所長がこの異界に侵入できていないというのはかなり気になる。力尽くでは入れないタイプの異界なのか?

 

「しゃーない、中入るぞ。異界の結界性質を破壊しないと帰れん。ノッカーとモコイが前衛、俺とカラドリウスが後衛だ」

「あいよー」

「フォッフォッフォッ。今日が命日かの」

「間違いなく死ぬよね僕ら」

「うっせぇ、お前らはCOMPか魔界に帰るだけだろうが」

 

研究所内部へと足を踏み入れる。異界化の常というのだろうか、建物の構造はめちゃくちゃになっていた。入り口入ってすぐに実験室があり、警備員の詰所は存在しない。

 

実験室を覗いてみるが、人の気配はない。探索すれば何か有用な道具が見つかるかもしれないが、まずは敵が何かを知らなくてはメタることもできやしない。

 

実験室を出て順路に沿って歩いてみる。するとスマートウォッチの振動で百太郎が曲がり角から奇襲が来ると警告をくれた。

 

「お前ら、行くぞ!」

 

スタングレネードの投擲から、戦闘を開始する。

光で視界を奪ってから一方的にノッカーの氷結魔法(ブフ)とモコイの突撃で先制攻撃を加える。

 

「サマナー、敵は造魔だ!」

「サマナーは?」

「見当たらぬ。偵察に来たのじゃろうな」

「なら、仕留めないと不味いか。カラドリウス、行くぞ」

「了解さ」

 

カラドリウスとともに角から顔を出す。造魔は一体。カスタマイズ性によりどんな耐性を持っているかわからないが、とりあえず撃って見ないとわからない。

 

P-90により神経弾をばら撒く。反射されなかったことから、銃撃の通りはあるといえばある。

とはいえ、弱点というわけでもないようだ。スマートウォッチを操作してアナライズシステムのターゲットを目の前の造魔にして、戦闘態勢に入る。

 

「モコイ、ノッカー、そのまま攻撃!カラドリウスは回復準備!」

「ラジャ!」「任せるのさ!」

 

造魔は、プログラムされたかのような機械的な動きで目の前のノッカーに襲いかかる。だが、小柄とはいえノッカーは地霊。地に足をつけた防衛ならばなかなかの技量を誇る。

 

「サマナー、儂なら受けれるぞ!」

「なら、殺せる!カラドリウス、回復魔法(ディア)を絶やすなよ!」

 

造魔は、サマナーの指示がないとワンパターンでしか動かない。故に、攻撃はずっとノッカーに対してのみだった。

 

だが、決定力が足りない。アナライズの結果、奴は打撃、銃撃、氷結に耐性かある事が分かった。しかも弱点はない。こっちの攻撃手段の殆どが潰されている。なんて不幸だ。

 

各種特殊弾は1マガジンしかない以上、迂闊には使えない。これが1戦目である事を考えるとなおのことだ。

 

「しゃーなし!切り札を使う!ノッカー、そいつを逃すな!カラドリウスは衝撃魔法(ザン)で足を潰せ!」

「サマナーよ、儂ごと殺そうとしておらんかね?」

「あとで地返しの玉ちゃんと使ってやるから勘弁な」

「僕、時々うちのサマナーって悪魔より悪魔なんじゃないかなって思うんだ」

 

造魔の一撃が、ノッカーを潰す。だが、ノッカーの両手はしっかりと造魔の体を拘束しており、その隙をしっかりとカラドリウスは狙い撃った。

 

衝撃(ザン)を直に受けた造魔は、一瞬動きが止まった。

そこに投げつけるのは、蠱毒皿。ガイア教会から買った呪殺の力を込めた一品だ。価格にして150万、必要経費とはいえ、ふざけんなって話である。

 

さぁ、どうなる?

 

「...ざっけんな、これだから呪殺は当てにならないんだよ」

 

造魔は、健在であった。力場に呪殺が弾かれたようだ。確率の壁ッ!

 

「どうする、サマナー。逃げるかい?」

「いや、二発目を受けたノッカーがまだ健在だ。態勢を立て直せばまだ戦える」

「...いや、逃げた方がいいのさ。奥から、もう3体やってくる」

「...冗談だろ?」

 

そう思ってエネミーソナーを確認してみるが、カラドリウスの言う方向から何かがやってくるのは事実だ。

 

「これは、モコイ足止めで逃げるが正解か?」

「...まぁ、僕はいいんだけどね。こういうサマナーだって分かってて買われたんだし」

 

そうして、3つの造魔の足音が聞こえるところにまでやってきた。だが、違和感がある。一つの足音がステップやフェイントを入れているようなのだ。

 

悪魔と戦い慣れている強者の動き。そう判断してからは次の行動に迷いはなかった。

 

「モコイ、足止め!カラドリウス、付いて来い!」

「待ってサマナー!そっちは、()()()()()()さ⁉︎」

「分かってる。それでも今は、行く時だ!」

 

曲がり角一つ先に造魔か3体いたのなら、詰みだ。その時は潔くカラドリウスを犠牲にして虎の子のトラエストストーン(700万円)を使う。

だが、誰かが造魔から計画的に逃げているのなら。それはこちらにとっても誰かに取っても得になる。

 

そうして走る先で、騎士と俺はすれ違った。

 

「斬撃打撃は通らない。私対策に特化した悪魔だ。だからこそ、銃撃は充分に効果がある。押し付けてしまって済まないね」

「打撃銃撃氷結に耐性があるのが一体。謝るくらいならさっさと片付けてこっちの援軍来てくれ」

oui(ウイ)、勇敢なサマナー」

 

走ってくる二体の造魔に向けて引きながら銃撃を浴びせる。騎士の言う通り、銃撃の通りが良い。どうやら弱点入っているようだ。

 

「カラドリウス、もう一体の牽制を!」

「任せるさ、サマナー!」

 

まず、銃撃が弱点の奴を潰す。P-90のファイアレートなら、さほど時間かからず始末できるだろう。もう一体も、カラドリウスの衝撃魔法(ザン)が通るため、牽制くらいはできる。

 

数十秒後、一体の造魔は、俺たちに近付くことは出来ず崩れ落ちた。もう一体。

 

「全く、僕の悪魔生の中で一番の幸運を使った気がするよ。サマナー」

「私もだ。まさかこんなに容易く状況をひっくり返せるとはね」

 

背後から、モコイと騎士がやってくる。ノッカーが死んだのは仕方ないにしても、モコイが生き延びたのはかなりの幸運だ。地返しの玉は異界攻略にあたっては貴重品なのだから。

 

「さ、終わらせるか。カラドリウス」

前衛にモコイと騎士が入った今、単純行動しかとらない造魔はただの的だ。P-90の鯖にしてやろう。

 


 

戦闘を終了してすぐに、ノッカーに地返しの玉を使う。悪魔を構成しているマグネタイトに干渉して、その命を再び現世に固定するというものだ。これがたった3000円で買えるというのだから、この世界悪魔の命が軽いと思わざるを得ない。

 

「フォッフォッフォ、慣れんのこの感覚は」

「すまんな、ノッカー」

「責めとる訳じゃないぞ、サマナー。もう気にしとらんわい」

 

肉体を取り戻すノッカーと対照的に、崩れ落ちていく造魔のことを見る。

 

崩れていくその体が、人間のものだったように見えたのは気のせいでないだろう。ドリーカドモンは造魔を作る材料だが、悪魔は悪魔。人を喰らう事で力をつけるものなのだから。

 

だが、一つ嫌な予感が頭をよぎった。この異界化は、そもそも何が原因で発生したのかという事だ。

 

研究員の中から裏切り者が出たのならそれはそれで構わない。想定の範囲内だ。交渉次第では出してくれるかも知れない。だが、もしそうでないのなら?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()という可能性は?

 

「待て待て待て、思考が逸れてる。というかそんな強力な造魔を殺せるわけないだろ」

「それならば、ここで仲魔を集めるというのはどうだい?」

「...造魔って話通じるのか?」

「いや、通じない。でも、通じる奴も混ざっているのさ。私みたくね」

「そりゃ重畳。所でお前は誰だ?俺が死んでない所から、敵じゃないのはわかるんだが」

「私は...そうだね、リアと呼んでくれ」

 

明らかに偽名だろうが、とツッコム気はない。機嫌を損ねれば、それだけでお陀仏だからだ。

 

「俺は、花咲千尋。駆け出しだが、悪魔召喚士(デビルサマナー)をやってる。よろしく頼むな、リアさん。」

 

その言葉と共に、ようやく騎士の方を振り向く。P-90を直ぐに構えられるように覚悟を決める事だけは忘れずに。

 

だが、その覚悟は即座に吹っ飛んでいった。

 

何故なら、そのリアさんは全裸に白衣だったからだ。

 

「いや、どういう状況だよあんた⁉︎」

「...仕方ないだろう、受肉したてなんだ。」

「受肉?」

「ああ、こっちの話だ。そんなことより剣の類は持ち合わせているかい?サーベルが理想なんだが、最悪ナイフでも構わない。」

「...はいよ。」

 

スマートウォッチを操作して、ストレージからショートソードを取り出す。

 

「それ、そこそこ高かったんだから壊すなよ、リアさん」

「善処しよう」

「てか、さっきは青い服とサーベルを持っていたと思うんだが」

「...さぁ、行こう!」

「すっげえ下手な誤魔化しッ⁉︎」

 

されど、その言葉と振る舞いには凛とした空気があつまた。

なんとなく、リアさんには白百合が似合う。そんな事を思った。

 

「こりゃ、難儀な者と出会ったのぉ、サマナー」

「ノッカー、何かわかるのか?」

「込み入った話は、後に取っておくものじゃよ」

「その心は?」

「生きて帰りたくなるじゃろ?」

「確かに。流石、歳食ってるだけあるな」

「人の子と比べればの」

 


 

それからの探索は、順調に進んだ。なにせ、リアさんが強いのだ。

所長の強さを剛のものとするのなら、リアさんの強さは柔の強さだろう。慣れない獲物だというのに、その剣の冴えは感嘆に値する。

 

そして何より恐ろしいのは、そのカバーリング能力の高さだ。後衛である俺とカラドリウスはともかく、前衛のノッカーとモコイに対しての致命的な攻撃すら捌いて躱しているのだ。

 

正直、どこに目が付いているのか気になって仕方がない。

 

「何かな?チヒロ」

「いや、リアさんが敵じゃなくて良かったって思ってた所だよ」

 

そうして、異界の深部へとリアさんの案内で到達した。

 

血の匂いがする。ここが生き残った研究員達の逃げ延びた部屋なのだろう。だが、力のないものが異界にいたところで、末路は決まっている。この世界はそういう世界なのだから。

 

念のため中を確認する。この部屋は、研究員の準備室か何かのようだった。千切られた腕や足が散らかっている。推定3人分。使えそうな道具はなさそうだ。

 

「...やはり、遅かったか」

「知り合いがいたのか?」

「ああ。彼のことは、見ていたんだ。こうして受肉するまでふわふわとだけれどね」

「...受肉、か」

 

その言葉をそのまま受け取るのなら、このリアという騎士は守護霊か何かだったのだろう。それがドリー・カドモンという肉の器に押し込められた事で騎士としてこの世界に現界する事が出来ている。そんな感じか。

 

「行こう。葬いは後でいい。今はこの異界をこじ開ける事が先決だ」

「...慰めの言葉はないのかい?」

「必要なら言うが、この程度であんた程の人が戦えなくなるとは思えない」

「厳しいんだね」

「優しさだけで、人は救えないからな」

 

だが、一つ覚悟は決まった。俺は、この異界の主を殺す。恐らくもう生きてはいない彼らへの葬いは、それ以外にないのだから。

 


 

異界最深部、研究所の心臓部である炉心のあるその場所にそのツギハギの造魔はいた。アナライズを起動させているがロードが遅い。強力な悪魔の兆候だ。

 

騎士さんとは事前に手札は公開しあったため、作戦は決まっている。まずは何にせよ挑発からだ。

 

「来たな、失敗作」

「そういう君は、こんな所で油を売っていていいのかい?ああ、私に斬られる為に居るというのなら、何も問題はないが」

「違うぜ、リアさん。こいつ、ここから動けないんだ。外にはコイツを確実に殺せる実力者がいるからな。ここで異界のゲートを閉じていないと自分が死ぬってわかってるんだ。無様だな」

「なるほど、つまり無駄な足掻きというわけか。畜生のなりそこないらしい手だ」

「黙れ雑魚共!私は、生きているんだ!人の知性を取り込む事によって!だから、私を蔑むな!」

 

その言葉と共に、造魔は神速と言える速度でリアさんに襲いかかった。だか、それはリアさんの持つ()()()()によりあっさりと捌かれた。

 

いつのまにか、白衣の内側が青を基調にした軍服へと変わっている。マグネタイトで練られた戦闘形態という奴だろう。実際に見たのは初めてだ。

 

「カラドリウス、ノッカー、モコイ、俺たちはリアさんのサポートだ。いつものいくぞ」

「そうさね、やっぱり頼るは他人の力さ!反応性向上(スクカジャ)!」

「僕の役割ってこればっかり、防御力向上(ラクカジャ)!」

「フォッフォッフォ、残りの魔力を全て使うとしよう。攻撃力向上(タルカジャ)!」

 

三色のマグネタイトが、リアさんを包む。すると、技術で防戦していただけのリアさんが押し返し始めた。

 

スペックが、敵と互角に至るまで届いたのだ。ならば、あと勝敗を決めるのは技術の差。

 

あの騎士は、百戦錬磨の強者だ。それに知識だけの造魔が勝てる道理はない。

 

「何故だ、何故だ!ナゼダァア!私は自我を手に入れた!命を手に入れた!生きているものに自由がなければならないのなら、私だって自由でいいはずだァ!」

「お涙頂戴は死んでからな」

 

アナライズ完了、破魔呪殺反射、打撃火炎衝撃無効、そして、精神異常耐性なし。

 

「リアさん、案の定耐性は無しだ。」

「ならば見せようか、私の剣を!」

 

瞬間、リアさんの周囲に白百合の花の幻想が見えたような気がした。

 

思わず、見惚れた。その華麗なる剣に。カラドリウス達悪魔でも見惚れていた。そして何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

絶技、そういう他はないだろう。そうして必殺の斬撃を無防備に受けた造魔は、膝から崩れ落ちた。

 

百合の花散る剣の舞踏(フルール・ド・リス)

 

そんな言葉を、一つ残されて。

 


 

私が、意識というものを認識したのはいつからだっただろうか。

 

ただ、肉の塊として生み出されたはずの私は、何故か知性を求めていた。それが自我というものだと理解したのは、手遅れになってからだったけれど。

 

「これで君は自由だ、13号。引越しのイザコザに紛れて君を逃す事になってしまったのは些か抵抗はあるが、でもしょうがない。意思のある者には、自由がないといけないんだから」

 

そう言った人間の手引きで、私は自由を手に入れた。

でも、自由とは何かなど私にはわからない。だから、いつも通り目の前にあるものを取り込む事にした。

 

口から取り込むのは初めてだったが、上手くいった。

人間の知性を、私は手に入れた。

 

そして、その事が私の最大の過ちだと理解してしまった。

 

外にいる者の強さは私を上回る。人間を食った悪魔がいるのなら躊躇いも無しに殺されてしまうだろう。

 

そんなのは認められない。取り入れた知識は教えてくれたのだ。空の青さを、海の広さを、世界の美しさを。

 

だから、まだ死ねない。

 

その思いでこの研究所の全てのドリー・カドモンに雑霊を憑依させ、それにマグネタイトを過剰投与する事強化しで私の兵隊とした。

しかし、そんな中で一体のドリー・カドモンに異変があった。素材とした雑霊の中に魂の強いものが紛れていたのだ。

 

「...僕は、君を殺すよ」

 

その失敗作が、私にとっての死神だった。

 

だが、私には知識があった。目の前の敵は剣士、術は使えない。ならばそれに対応させた造魔を作り出す事で封殺できる。

 

故に、即興で稼働している造魔を改良した。その造魔を盾にすれば、剣士を殺す事ができる。

 

その目論見は半分成功した、剣士は不利を悟ると一目散に逃げ出したのだ。だが、外の化け物と合流されては私の死は変わらない。故に知識を使って異界を作り出した。外から入れず、内から出れない。そんな檻に。

 

でも、その檻の中には不純物が紛れ込んでいた。明らかに外の化け物とは劣るひとりのサマナー。ただの雑魚。

 

それが、死神と協力して私の兵隊をいとも簡単に殺してみせた。

 

恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。

 

だから、力を補充しようとした。兵隊に残っている人間を集めさせ、その知性を喰らった。それが反映されたのか、私の体も変化したが些細な事だ。

 

そして、目の前に死神と人間が現れた。

 

ただ、殺意だけをもって現れたその二人からは、恐怖しか感じなかった。だから、十全の力をもって屠ろうとした。

 

なのに...ああ、なんて美しい。

 

私は命を得てから短く、空の青さも海の広さも世界の美しさも知らないけれど。

 

あの白百合の剣舞の美しさは、そのどれにも劣らないだろう。

 

できる事なら、もっと見ていたかった。

そんな事を、最後に考えていた。

 


 

「終わったな」

「うん、そのようだ。生き返ってくる予兆もない。終わりだね」

 

斬り伏せられた造魔は、どこか満足げな顔で死んでいた。その顔に手を触れて、そっと目を閉じさせる。

 

人を喰らった以上、敵として殺すしかなかったのだけれど。それでもコイツの存在そのものは否定してはならない。そんな気がした。

 

「さ、異界はもうすぐ崩れる。お前はどうする?」

「さぁ、どうしようかな」

「行くあてがないなら、俺と来るか?」

「魅力的な提案だ。でもちょっと惜しいね。僕は自由でいたいんだ」

「残念だが、それは許されない。契約されていない悪魔が発見されれば速やかに処理される。それがこの世界のルールだ」

「追っ手程度に殺される私だと思っているのかい?」

「思ってる。だから言ってるんだ」

「舐められたものだね」

「実際、お前を殺す事はそう難しい事じゃない。斬撃と魅了に耐性のある悪魔をぶつければお前は何もできないんだから」

「...なるほど、私を脅しているのか」

「半分な。でも、もう半分は戦友に生きていて欲しいっていう単純なものだよ。それは嘘じゃない」

 

その言葉に、リアさんはぽかんと口を開けた。何か変な事を言っただろうか。

 

「なるほど、戦友か。うん、確かにそうだね。赤の他人は信用できないけれど、戦友なら信用できる。...いいだろう、当面の間だけど、君との契約を結ぶよ」

「じゃあ改めて、俺は花咲千尋、悪魔召喚士(デビルサマナー)だ。俺の命、お前に預ける」

「私の真名はシャルル・ジュヌヴィエーヴ・ルイ・オーギュスト・アンドレ・ティモテ・デオン・ド・ボーモンだ。当面の間だけれども、君の剣となり盾となることをここに誓おう」

「...名前長いな」

「シュヴァリエ・デオンと呼ばれていたよ」

「じゃあデオン、これからよろしく頼む。」

 

終わりゆく異界の中で、契約は結ばれた。

それが、影の世界で生きる白百合の騎士と悪魔召喚士(デビルサマナー)の始まりだった。

 


 

それからの話。デオンはドリー・カドモンで受肉している関係上、身体のマグネタイト構成を分解して悪魔召喚プログラムの中に収納するという事が出来なかった。故に、戦闘モードでないコイツは裸に白衣のままである。

 

「とりあえず、明日にでも服屋行くか」

「それは楽しみだ。これでもお洒落には興味がある方だからね」

「それで、お前って男なの?女なの?」

「...どっちだと思う?」

「...降参だ、わからん」

「うん、教えない事にする。そっちの方が楽しそうだからね」

「うわ、性格悪っ」

「なんとでも言うがいいよ、サマナー」

 

その後は、実は外で異界ごと吹き飛ばそうとしていた所長と合流し、異界化の影響でドリー・カドモンが全てぶっ壊れたという情報を流す事でこれ以上の襲撃を未然に防ぐ事でこれ以上の戦闘なくその日を終える事が出来た。

実際、異界の主の造魔が全てのドリー・カドモンを使用して手駒を使っていたのだから間違いではない。

 

予期せぬ単身でのダンジョンアタックにより報酬は赤字、俺の昼食に彩りが加わる日はまだまだ遠そうである。

 


 

改めて、俺の隣にいる騎士を見る。

 

その存在の違和感を、なんと表現すればいいのかはわからない。だが、シュヴァリエ・デオンと名乗る騎士は明らかに()()

 

コイツは、悪魔にあらざるものだ。

それが善性で動いていることに安堵を覚えつつ、違和感の事を調べることにする。

 

とりあえずは時間をみて、彼女の語った言葉を精査してみるとしよう。




デオンくんちゃんと千尋くんの出会いです。でもまだ絆レベルはゼロ。隙を見せたらずんばらりんです。主人公は人理を守るマスターでもフランス王家ゆかりの人でもないので。

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