白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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気付けばそこそこにランキングに載るようになっていたこの作品。UA伸びねぇ!と発狂しての活動報告乗っけた日が懐かしいです。いや、今でもUAは伸びてないんですけど。
評価して下さった皆様には感謝の気持ちしかありません。皆さまに楽しんでいただけるよう、頑張らせてもらいます!


悪魔召喚士(デビルサマナー)の始まり

その日を、幸運だったとは思わない。

 

「ごめん、ビジネスクラスのチケット2つしか取れなかった!」

「別にいいよ、俺はエコノミーで。2人仲良くのんびりしな」

 

そんなどうでもいい会話が、親子の最後の会話になってしまったのだから。

 

沖縄から本州へ帰る飛行機は、()()()()()()()()()()()()()()()に衝突した。

 

それが、俺のぬるま湯のような地獄の始まりだった。

 


 

驕慢王の美酒(シクラ・ウシュム)!」

 

セミラミスから放たれた数多の鎖が俺たちを襲う。だが、それは幾度も見ている。セミラミスも、それをわかっていてこれを一手目に打ったのだろう。

 

念話をもってデオン、ペガサス、雪女郎の位置を調整し、バルドルでその鎖を捕まえる。ここは、彼女の庭園ではない。術を使うにしてもシングルアクションは必要だ。

 

なら、その隙に首を取る。

 

「甘いわ、戯け!」

 

新たに出した鎖が最も接近していたデオンを襲う。だが、デオンにはあの技術がある。()()()()()()()()()()()()()()。それを持ってすれば毒を一時的に無力化できるのだ。

 

とはいえ鎖の数は多い、デオンは接近を諦め迎撃に徹している。

これで、片手。

 

その反撃に合わせて雪女郎の高位氷結魔法(ブフーラ)がセミラミスを襲うも、片手で展開された神代の魔導防壁により阻まれた。

 

これで、両手。

 

「ペガサス!」

「来たれ、バシュム!」

 

ペガサスの突撃が、セミラミスの背後に召喚された大蛇バシュムの毒の吐息に飲まれる。掠っただけで致命傷の絶殺技だが、それが来るのは読めている。

 

「ナイスだ、カラドリウス」

「ま、僕にできるのはこれくらいだからさ!」

 

カラドリウスの解毒により毒から守られたペガサスの突撃が、セミラミスを吹き飛ばす。セミラミスは戦う者ではない。これで思考は止まるだろう。

 

「終わりだ、バルドル!」

「任せな!高位破魔魔法(ハマオン)!」

 

裁きを司る悪魔、バルドルの放つ破魔の光が放たれた。

 

ネクロマ、悪魔を屍鬼として復活させるその術の弱点は単純明解な破魔魔法。肉体と魂のMAG結合が十分でない為、破魔の光を遮れないのだ。

 

その光が、セミラミスを包み込んだ。

 


 

空中庭園の中庭、そんなイメージの場所に飛行機は着陸した。

 

正直空中に突然現れるとか意味わからない事この上ないのだが、CAさんたちの冷静な判断と迅速な避難により、乗客は皆なんとか生き延びる事が出来た。

 

「ほら、爺さん大丈夫か?」

「...すまんな、若いの」

「いいですよ、こんな意味わからん事態でも、とりあえずは助け合いからです」

 

隣の席に座っていた爺さんに肩を貸して避難の助けをしつつ、両親を探す。人が多すぎて見つからない。

ならば、こういう時は動かないのが鉄則だ。この爺さんを放っておくのも忍びないのだし。

 

「まったく、ついておらんの、若いの」

「本当にですね。緊急着陸システムが優秀で良かったですよ」

「そういう訳ではない」

 

「儂の隣にいた事が、ついておらぬと言ったのよ」

 

体から、力が抜けた。魂が吸われたというのが正しい表現かもしれない。だが、何かが目覚めた感覚があってからは、なんとか踏みとどまる事が出来た。

 

「...何しやがったクソジジイ?」

「この程度で目覚めるか。種付きかの?」

「質問に答えろや」

「お主からMAG、魂の力を引き抜いたのじゃ。これから来る者たちに立ち向かう為にの」

「へぇ、何が来るって?このラピュタの持ち主か?」

「いや、そうではなかろう。この反応は、悪魔じゃ」

 

「化け物だ!逃げろぉ!」

 

誰かの叫びが聞こえる。何かが来たようだ。この爺さんの言うのなら、悪魔とやらが。

 

「覚醒出来たという事は、お主のスマホなりに悪魔召喚プログラムがインストールされておる筈じゃ。生き残りたいなら、戦え」

 

爺さんは軽い足取りで、人の流れとは逆方向に向かっていった。先ほどまでのフラフラな足取りは演技か何かだったのか?

 

と、そんな事よりも今は悪魔召喚プログラムだ。スマホを確認する。見覚えのないアイコンがホーム画面にあった。

 

「何がなんだかよくわからんが、とにかくやれって事だよな!発動、悪魔召喚プログラム!」

 

そうして魔法陣とともに現れたのは白い鳥、こちらに敵意を持っている事がわかる。その存在がただの鳥ではないという事も。

 

「さぁ、僕の自由のために倒れるのさ!」

 

羽ばたきで風の刃を放ってくる白い鳥。だが、何故かすんなりと動いた体はその刃を冷静に躱して鳥の首を掴んだ。

 

「クソジジイ、騙しやがったか?」

「...ま、待つのさ。殺さないで!」

「いや、ここで殺さないとお前他の人殺すだろ」

 

驚くほど冷静に、そんな思考をする事ができた。覚醒とは、人でなしになる事なのだろうか。

 

「わかった、契約するさ!君の仲魔になる!」

「...なるほど、わかった。このプログラムはこう使うのか」

 

悪魔召喚プログラムを使った悪魔との契約。それは、恐ろしく簡単なものだった。

 

「妖鳥カラドリウス、よろしくさ、サマナー!」

「花咲千尋だ。正直イマイチ状況が読めてないが、お前には働いてもらう」

 

「行くぞ、まずは状況を把握する」

 

爺さんの後を追って、カラドリウスと共に向かう。

蛮勇とは少し違う。ただなんとなく、そうするべきだと思ったのだ。

 


 

「収束、砲撃!広域火炎魔法(マハ・ラギ)!」

 

爺さんの展開する魔法陣から放たれる5つの火炎の砲撃。それがヒトデのような化け物に当たり、その身を焼き焦がす。

 

移動しながらこの悪魔召喚プログラムの事は大体把握した。あの爺さんが何者かはわからないが、とりあえず味方と判断する。

 

炎を砲撃を大回りで回避して背後に忍び寄ってきた財布のようなものを持った化け物を蹴り飛ばし、カラドリウスの衝撃魔法(ザン)で仕留める。

 

「爺さん!背中は守る!だから思いっきりやっちまえ!」

「若いの、ようやるのぉ!」

 

敵の数は多い。だが、爺さんの多彩な魔法によってその数をゆっくりと減らしていった。

 

「収束!高位電撃魔法(ジオンガ)!」

 

空を舞うエイのような化け物を爺さんの渾身の電撃で沈め、それをもってやってきた化け物たちの殲滅を完了した。

 

背後に守った人々からの、化け物を見るような目線を代償にして。

 

「さて若いの、どうする?」

「父さんたちは気になるけど、爺さんを放っておけない。今の混乱を見るに、爺さんしかこの化け物たちを殺せないんだろ?なら、背中くらいは守るさ」

「お主...どういう神経しとるんじゃ」

「自分でもなんでこんなに冷静なのかわかんねぇんだから言わないでくれ」

 

そうして、俺と爺さんはこの空中庭園の中へと足を進めた。この先に、何が待っているのかを知らずに。

 


 

「異界の構造は、本来のものと大して変わっとらんようじゃ。道なりに行けばこの庭園の玉座に着くじゃろう」

「それが、あの化け物たちの親玉か?」

「いや、違うじゃろ。彼奴らは堕天使。こんな見事な庭園を作れるとは思えん。どこぞの海から引っ張り上げてきた遺物か何かじゃろうな。まったく、平成結界の外のもんなぞ引き上げても害しかないじゃろうに」

「専門用語使わないでくれ、わからん」

「わからせるように言っとらんわ」

 

時折現れる堕天使をしばき倒しつつ進む。現れる堕天使の密度が多くなってきた。玉座の間で激しい戦闘が行われているのだろう。

 

「爺さん、どうすんだ?」

「お主ならどうする?」

「悪魔召喚プログラムのチュートリアルにあったんだが、異界が消えたら中から弾かれるんだろ?なら、異界の主である攻められてる方を今殺される訳にはいかない。協力して堕天使を殺して、その功績をもって主と交渉するのが良いと思う」

「なるほどの...お主、サマナーは天職じゃな。」

 

カラドリウスを伝令役として飛ばす。異界の主は玉座にて単身抵抗しているが、堕天使の数が多すぎて対応しきれていないようだ。

 

なので、爺さんの魔術で一気に状況を打開する。

 

『女帝様と連絡がついたよ!サマナー!』

「上等!爺さん、ぶっ放せ!」

広域範囲指定(マルチロックオン)!眠りの唄よ、響き渡れ!睡眠魔法(ドルミナー)!」

 

後方で魔法の援護をしていた多くの堕天使が、崩れ落ちるように眠っていく。それが合図となり、女帝様とやらは大技を放った。

 

「来たれ、バシュム!」

 

見ただけでかかりそうな猛毒の吐息、それをもって堕天使の群れは殲滅された。

 

広域に散布される絶殺の毒。恐ろしい女帝様がいたものだ。

 

「入って来るが良い、下民ども」

「爺さん、お先にどうぞ」

「若いのが先に行くべきじゃぞ、この業界のマナーじゃ」

「嘘つけ」

「バレたか」

「...漫才のオチは、2人とも我が毒で死んでしまったというのでいいか?」

「...わかりました。男は度胸!」

 

そうして、堕天使に壊された門から中に入る。道中で拾ったディスポイズンという解毒薬を握りしめて。

 

そこには、玉座で若干息を切らしながらも気高さをなくしていない女帝の姿があった。

 

「大丈夫そうですよ、爺さん」

「...なるほどのう、大体わかったぞ。少なくともお主は人類の敵ではなさそうじゃ」

「我は死人だ。今はそういったことに興味がないだけのことよ」

 

女帝様の肩に乗っていたカラドリウスが返ってくる。無事なようだ。

 

「正直、あっちの子になりたい気持ちはあったのさ」

「やっぱ首折っとくべきだったか」

「冗談さ!」

「お主ら、我の前でよく漫才などできるな。死にたいのか?」

「「「なんかノリで」」」

「そこの息を揃えるな戯け!」

 

なんかこの女帝様、割とノリが良い気がする。

 


 

「なるほどの、我の虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)の起動と同時に突っ込んできたアレは人を運ぶものだったか」

「とりあえず乗客の皆さんは無事です。緊急着陸できたんで。俺たちの要求は、この空中庭園を下ろして中の人たちを地上に下ろしてもらいたいって事です。もちろん、可能な限りの報酬は払います」

「それが、汝の命でもか?」

「ええ」

「...躊躇わずに言うな。狂っておるのか?」

「俺の命1つで、乗客約400名の命が救えるなら、それはプラスでしょう」

「お主、狂っておるのぅ」

「わかった。ならば試させて貰おう」

 

女帝は、取り出したコップに紫色の液体を注いだ。

 

「汝がこれを飲みきったのなら、主らの協力をしてやろう」

「その言葉、二言はありませんね?」

「ああ、無い」

「お主、そこまで命を懸ける意味はあるのか?」

「さぁ、わかりません」

『カラドリウス、頼んだぞ』

 

毒のコップを受け取り、勢い良く飲み切る。

女帝様の驚いた表情が、少し面白くて内心で笑った。

 

瞬間、身体中に痛みが生まれる。死んでしまう方が楽だと魂が言っている。

だが、生きている。ならば、カラドリウスなら治療が可能だ。

カラドリウスは、俺の目をじっと見つめて毒という病を浄化してくれた。

 

文字通り、生き返った気分だ。

 

「二言はないって言ったよな?女帝様」

「貴様、聖人かと思えば詐術師の類であったか!だが、神鳥カラドリウスは助かる見込みのないものは救えぬはず。何をもって信じられたのだ?」

「実は俺、毒に耐性あるらしいんですよ。だからどんな毒でも即死にはならないかなと」

「なるほど、なんともまぁ騙されたものだ。よかろう。当面のところお主をマスターと認めよう。左手を出せ」

「ああ」

 

女帝様の言う通り、左手を差し出す。女帝様はそこに手を翳し、なにかを刻み込んだ。赤い、刻印だろうか。

 

「我が名はセミラミス。アッシリアが女帝だ」

「俺は花咲千尋。一応、悪魔召喚士(デビルサマナー)です」

「ここに契約は完了した。さて、とりあえずはこの空中庭園の事だな」

「ありがとう、セミラミス」

「礼はいい、この虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)を地上に下ろす訳にはいかんからな。どうにも今、あの化生どもはこの庭園のどこかに門を開いておるのだ。第一陣は仕留めたが、第二陣第三陣と続くだろうよ」

「女帝セミラミスよ、ここはお主の庭園なのじゃろう?ゲートの知覚は出来ぬのか?」

「...ここが本来の意味で私の宝具だったのなら可能だ。だが、これはこの世界に満ちている魔力と似たもの、マグネタイトとやらを使って作った紛い物よ。様々な機能にガタが来ておる。ひこうきに侵入されたのもそれが原因よ」

「それじゃあ、足で探しますか?」

「いや、儂の術を使おう。MAGの消費は激しいが、やれん事はない」

 

そうして、取り出したチョークにより玉座の間に魔法陣を描き、10分ほどでアクティブソナーの術式を作り上げた。

 

「では、行くぞ!」

 

魔法陣に魔力を込め、MAGの波を発信し、それの反響によって周囲の状況を把握する術式だとの事だ。ファンタジーこの上ない。

 

セミラミスは見たことのない術式だったためか「ほう」と呟いていた。

 

そして、反響を受け取った爺さんは、苦悶の表情を見せた。

 

「すまぬ、小僧。状況は最悪の類じゃ」

「どうしたんだよ爺さん。何がわかったんだ?」

「堕天使が、乗客に目をつけておった」

「ッ⁉︎なら、助けに行かないと!」

「もう遅いのじゃ。彼奴ら、この世界の事に気付いておった。種無しに禁呪を加える事でどうなるかをな」

「爺さん、わかるように言ってくれ!」

「...乗客は皆、悪魔となった」

 

「お主が守ろうとした者たちは、皆死んだのじゃよ」

 

何かが、崩れ落ちる音が聞こえた。

 


 

それからの事は、よく覚えていない。ただ、生き残りをかけて戦っていただけだ。死ななかったのは、運だろう。

 


 

あれから、3日ほど経った。今朝のアクティブソナーにより認識できたゲートの数は120個、堕天使の軍勢とヒトだった悪魔、ハイクラス悪魔との戦いで、爺さんのMAGも、セミラミスの魔力も尽きかけていた。

 

もはや、戦いにすらなっていない。ただの蹂躙をなんとか躱しているだけの状況だ。

 

修繕した玉座の間の門がこじ開けられたら終わりだろう。それがわかるだけに、悔しい。

 

「すまんな、若いの。お主が一番無理をしとるじゃろうに」

「...いいですよ、ここで踏ん張らなきゃいけないのはわかってるんですから」

「実質、魔力を生み出せるのはチヒロのみ。炉心が抑えられてからはほとんどこやつの力だけで戦っておるのだ。もはや、潮時だろうな」

「そうじゃの...」

「...何諦めてんだ手前ら!じゃあ悪魔にされた人たちの葬いも出来ずにただ死ぬのが正しいってか!んな訳ねぇだろ!みんな、明日を当たり前に迎えるべき人たちだったんだ!それを踏みにじった悪魔をのさばらせておいて死ねるかよ!」

「...サマナー、怒りは駄目だよ」

 

カラドリウスが、俺の肩に乗る。それだけの事なのに、何故か俺の心は落ち着いた。

 

「そうじゃの、戦いばかりでお主の事を気にかけてやれんかった。全く、これだから家族に逃げられるというのに」

 

爺さんは、俺の頭をそっと撫でた。

 

「怒りで抑えるな。泣きたい時は泣け。それが、人間じゃ」

 

その言葉と共に、爺さんは残っていたマグネタイトを使って何かの術式を組み上げた。

 

「のう、若いの。お主に頼みがある」

「なんだよ、爺さん」

「孫に、我が知識を伝えて欲しい。道は違えども、必要になる時が来るはずじゃからの」

 

瞬間、膨大な知識が流れ込んできた。この爺さん、海馬雅紀(かいばまさのり)が一生の中で積み上げてきた魔導技術の数々が。

なんで、そんな形見分けのような事をするんだ。そう叫ぼうにも知識の奔流が俺を支配して動かさない。

 

それでも、伝えなくてはならない。

 

「爺さん!」

「主は生きろ。若いのは、次の世界を守るのが筋じゃ。女帝殿、頼んだぞ」

「...全く、心中の相手がこんな老人とは華のない。だがまぁ、許そう。花咲千尋、貴様のような奴が生き残る世界の方が、面白そうだからな」

 

セミラミスの展開していた魔法陣により、俺は空中庭園の外に飛ばされた。最後の切り札と言っていた、転移の術式だろう。1人しか逃げられないのなら、自分が逃げればいいモノを!

 

『さぁ、()()()()、言ってくれ。我への唯一の命令を。何をするべきかは、わかっているのだろう?』

「...ああ、わかったよ!今の俺が出来る事なんて、これくらいしかないんだから!やってやる、やってやるよ!」

 

「令呪をもって命ずる!セミラミス、庭園を自爆させろ!」

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。セミラミスの宝具虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)を自壊させるという話し合っていた最後の最後の手段。

 

起動に必要な魔力は、セミラミスとの契約で繋がった令呪という術式を利用する。これを使う時は、俺も死ぬ時だと思っていただけに、悔しさが止まらない。俺がもっと強ければ、皆が悪魔になったりする事はなかったかもしれない。俺がもっと強ければ、セミラミスを生かしたままで堕天使たちを打倒できたかもしれない。

 

俺は、弱い。

 

セミラミスが死んだ事で、契約は切れ。左手にあった聖痕は消えていく。それが、俺の弱さの証のように思えてならなかった。

 

だが、空中庭園が爆発した事で、その奥が見えた。

爺さんの知識にある。平成結界の外側、この世界を覆っている本当の災厄。平成結界の内部の時間を加速する事で、打開策を見つけようとしている地獄のありか。それがもう無駄だと、爺さんですら諦めた終わり。

 

「この世界は、もう終わってるんだな」

 

諦めの感情とは、こういうものだったのか。そう思い落下に体を任せたとき、カラドリウスがやってきた。

 

「サマナー!体を広げて!空気抵抗広くして!」

「カラドリウス?」

「生きているなら、生きなきゃ駄目さ!それが出来ない人がいるんだから!」

 

俺の背中を足で掴み、必死に落下速度を抑えようと羽ばたいている。

 

俺の最初の仲魔が、生きろと言ってくれた。なら、生きなくてはならないだろう。世界は終わっていても、人類はまだ滅んではいないんだから。

 

そう思うと、最後まで足掻いてみる気になった。体を広げ、海に落下し、体力の続く限り泳ぎ、生きる足掻きをやってみせた。

 

その間、ずっと涙が止まらなかった。一生分の涙をあの時にもう流した気がした。

 

そうして俺は、奇跡的に近くを通っていた漁船に拾われて、遡月市へと帰ることができたのだ。

 

俺の家族、俺の師匠、俺の仲魔、その全てを吹き飛ばしたあの日が、俺の悪魔召喚士(デビルサマナー)としての原点なのだろう。

 


 

破魔魔法を受けたセミラミスは、どこか達観した笑顔を俺たちに向けた。

 

「...あの童が、よくもやる様になったものだ」

「そりゃあ、俺は悪魔召喚士(デビルサマナー)だからな」

「ならば聞け。我を操る者は虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)を持って帝都を襲うつもりであった。だが、それが本命ではない。おそらく魔界の者たちと合わせてこの世の理を壊すつもりだ。そなたが生きる事を望むなら、せいぜい足掻くといい」

「...ありがとう、セミラミス」

「良い、どうせこの身は死人のものよ。それが、そなたを残せた。それはきっと、尊い事なのだよ」

 

そう言い残して、セミラミスは光となって消えていった。術者は近くにいない。セミラミスが予想通りアウタースピリッツなら、そのまま消えていくだろう。

 

俺は、この術者を絶対に許さない。セミラミス(恩人)の最期を侮辱したのだから。

 

「サマナー?」

「術者は、堕天使使い。所在地はおそらく魔界。あの日セミラミスの自爆を掻い潜って魂を回収するなんて真似は、あの場所に居ないと出来ないんだから」

 

「必ず殺すぞ。デオン」

「...それは、復讐かい?」

「終わってるこの世界を、少しでも長く守る為だ」

 

その日の深夜、俺はミズキさんにアウタースピリッツセミラミスの存在と、堕天使使いのサマナーの存在を伝えた。

 


 

ヤタガラス遡月支部に向かう浅田探偵事務所の面々。ミズキさんに話した事を皆に話したところ、所長も神野も似たような話を持ちかけられていたらしい。

 

「まさか、千尋くんたちも誘われていたなんてね」

「探偵事務所、しばらくお休みでしょうか」

「いや、多分精度の高い探知機はまだ作られてない。集められたのは単純に有事の際の戦力としてだろうよ」

 

でなければ、昨晩セミラミスが現れた時ヤタガラスが現れなかった理由がない。

 

「浅田探偵事務所御一行様ですね?」

「はい、IDです」

「...確認しました。奥へどうぞ」

 

案内された先には、ミズキさんと黒猫を連れたサマナーが1人いた。

 

「まず最初に意思の確認をします。あなた方は対アウタースピリッツ特殊部隊、トルーパーズに参加するという事でよろしいんですね?」

 

3人で頷く。思う事は多々あれど、為すべき事は変わらない。

 

ここに、浅田探偵事務所の3人は運命と戦う事を誓った。




キリのいいところで区切ったら短くなってしまいました。でも次のエピソード入れて無理に文字数膨らますよりは、次の話で説明をしっかりした方がいいなと思った次第です。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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