イベントそろそろ林檎使わないと不味いですので、間違いなく次話は落とします。(諦め)
第1章終わりまでは定期更新したかったんですけどねー、なかなか上手くはいかないものです。
「最近さー、アヤと連絡取れないよねー」
「大学生の彼氏のとこでしっぽりやってんじゃない?あー、羨ましい」
そんな会話を、
この遡月の地では、1ヶ月程前から短期的な行方不明事件が続いている。だが、その被害者は皆偽りの記憶を入れられて解放されているのだ。
ヤタガラスの術者によると、残留MAGからの術者の把握も不可能だとのこと。相当の術者が慎重に事を行なっているからだ。
「全く、人から奪うくらいなら金で買えばいいのに」
生体エナジー協会の存在により、マグネタイトは今や金でやり取りできるものなのだ。裏の世界で生きるために最初に教えてもらう常識だ。
「臭いは追える?ケルベロス」
「...いや、駄目だ。魔の臭いを辿れぬ」
「本当に、何が目的なんだか」
術者が集めているMAG量からいって、そう大規模な術式の準備はできないはずだ。まるで、生きるのに最低限の量のMAGだけを集めているかのようなその動きには、気味の悪さしか感じない。そんなに生きたいのなら、サマナーの仲魔になれば良いものを。術に長けた悪魔など、引く手数多だというのに。
とはいえ、今の自分はまだ正式なヤタガラス所属という訳ではない。深入りは禁物だ。いつも通り情報を集めてヤタガラスに渡すとしよう。
そんな事を考えている時だった。
「...ん?」
烏の群れに一羽、こちらを見ている鳥がいる。アナライザーを向けてみるも反応はない。だが、アナライズ結果は現在催眠状態にあると示されている。
「ケルベロス、捕らえろ」
「了解だ、サマナー」
純一の早業とケルベロスの敏捷性により、人払いの結界を張るまでもなく誰にも見られずに鳥は捕らえられた。
だが、自壊術式かなにかが仕込まれていたのか鳥は全身から血を流して絶命した。
「うん、これは難題だね。千尋を頼るとしようかな」
「それがよろしいかと。今、ヤタガラスの術者は手が空いているものがおらぬ故」
そんな会話と共に流れた血液、死体、あとは周囲のMAG情報などの集められる情報はかき集めた後、純一は去った。
星野海中学の校門前を。
「よろしくね、千尋」
「おう。でも期待すんなよ?死体とはライン繋がってないから、術式がどこの宗派のものかくらいしかわからねぇんだから」
「それでいいよ。僕の仕事は調査までだからね、犯人の絞り込める情報があげられればあとは上がなんとかするよ」
「...相変わらずだなぁ、天才サマナー」
「褒めないでよ、変態魔術師」
事務所の訓練スペースにブルーシートを引き、そこにストレージから鳥と血を出してもらう。
さて、探査術式を行うとしよう。
「魔法陣展開代行プログラム、起動。術式、展開。探査、起動」
現代魔導の技術をふんだんにつかった術式だ。分析データがスマートウォッチとペアリングしているスマートフォンに流れてくる。
どうにも、使い魔を作ったやり方はMAGの投与によるものではないようだ。わかっていたがやり手の術者だ。
MAGの侵入経路は、脳から。だが、脳に至るまでのMAGによる肉体へのダメージが見当たらない。脳に直接MAGを叩き込む術式?なんでたかが使い魔を作るのにそんな面倒を犯すのだ。
それと、どうにも術式の刻み方は物理的にではなく霊的なものだ。肉体に痕跡が残っていない。だからなんで使い魔作るのにそんな高等技術使うんだよ。
「どう?」
「魔導技術の腕は凄いんだが、いかんせん、機械で代用できるところを魔導で行ってる節がある。チグハグだな」
「術者が悪魔って可能性は?」
「まだなんとも。これから本命の自壊術式に手を入れてみる。使い魔の術式では色は見えなかったが、流石にこれにはなんかあるだろ」
そう思い、魂に刻まれた術式を魔法陣展開代行プログラムによって投影し、調査しようとしてみる。
「あ、これは駄目だ」
「千尋?」
「お手上げだ。現代魔導技術じゃない、これは古典魔導、それも相当古いクラスのもんだ。間違いなく平成以前ものだよ。ヤタガラスのアーカイブ頼ってくれ」
「千尋でも駄目なの?」
「ああ、魔導技術ってのは機械化と最適化の歴史だ。対して古典魔導ってのは現代でいうならスパゲッティソースコードだよ。技術の最適化がないからどこの術式がどこのプログラムに発現しているのかを調べるだけで1年かかるぞ。マジで」
「...うん、わかった。データ送ってよ。ヤタガラスの方で調べてみる」
「ああ、そうしてくれ。じゃあ最後に、念のためにと」
魔力探知装置を鳥にかざす。ペアリングしているスマートウォッチに反応があったという事は、つまり俺たち案件という事だろう。
「純一、俺もついてく。俺の依頼と関わってる案件みたいなんだ」
「でも千尋、まだ信用試験クリアしてないじゃん」
「...コネって凄いよな」
トルーパーズのIDを見せる。これでも、ヤタガラス臨時職員なのだ。報酬は歩合制だが。
「...千尋は凄いね、もう抜かされた」
「何言ってんだ。信用でヤタガラス職員の座を勝ち取ったお前の方が凄いに決まってんだろ。俺のは単なる偶然だよ」
「...うん、ちょっとは驕ってよ。足元掬えないじゃん」
「追いおとす気満々か」
そんなわけで、護衛にデオンを連れて遡月支部へと向かう。正式な理由があるのでアーカイブを覗ける。やったぜ。
「しかし、美人さんだね。でも儚いってよりも凛々しいって感じが強い。千尋とはどんな関係なの?」
「私は、造魔というやつだ。チヒロは私のサマナーだよ」
「へぇ、造魔ってこんなのなんだ。初めて見たけど、人とぱっと見見分けがつかないね」
「悪魔を使って作った造魔はもっと作り物っぽいらしいんだがな」
「...千尋、もしかしてデオンさんを作ったのって何かの邪法じゃない?」
「異界で偶然できたのを拾ったんだよ。俺にもデオンにも責任はない」
「あ、そう言い逃れるつもりなんだ」
「それは本当の事なんだよ、ジュンイチ」
「私は、サマナーと出会ったんだ。幸運にもね」
凛とした声でそうデオンは言い放つ。
「...まぁ、問題にならないように動いてよね。友達を殺したくはないから」
「あいよ」
そんなこんなで、遡月支部へとやってきた。
アーカイブのある場所は、この支部の地下だ。セキュリティは厳しく、グレムリンのような悪魔によるハックも対MAGコーティングと霊的ファイアウォールで封じられている。
「これが、アーカイブ?」
円筒状の物質を見て、デオンが思わず呟く。そりゃあ、アーカイブという名前だけを聞くのなら、書庫のようなものを想像するだろう。
だが、これは違う。世界の記録にアクセスする事ができるヤタガラスの叡智の結晶だ。
「IDの提示を」
「はい」
「どうぞ」
「調査内容は?」
「この魔法陣についてです」
純一がそう言ってスマホ型COMPを見せる。知識のある職員さんは、それが古典魔導のものだと直ぐに気付いて通してくれた。
流石の信用試験を通った土御門の権力だ。話が早い。
「では、中では技術職員の指示に従ってください。」
「はい」
そう言って、技術職員さんのデスクへと向かう。このアーカイブを利用できる人物といえば、一角の人物だ。知り合いになって損はない。
「あー、純一?...うわ、もうこんな時間。そろそろ寝なきゃ」
「寝ないでよ、姉さん」
「...姉さん?」
「ああ、義理の姉なんだ」
「ヨミコよ。よろしく」
「
「デオンだ。造魔をしている」
「...うん、知ってる。アーカイブの使い方は純一が知ってるから、好きに使っていいよ。でも、妙なことに使ってたら後でヤタガラスが殺すから。そこだけは注意してね」
「おやすみー」とヨミコさんは近くのソファに横になった。本当に寝る気だよこの人。
「じゃあ、やっちゃおうか」
「アーカイブって画像検索できるのか?」
「ちょっと違う。読み取るのは文字や画像じゃなくて思念だから」
操作端末に手を触れて、純一が思念を送る。それに対しての反応を受信端末が人の分かる文字に変換してくれるのだそうだ。
全く、すごい技術だ。と言いたいところだが、これは実はただの遺物なのだ。わからないものをわからないなりに使っているのがヤタガラスの実情であり、この遡月支部にこんな大事なものを置いている理由でもある。
出力されたデータを、自分の知識と照らし合わせて確認する。だいたい見えてきた。
「うん、終わった。どう?」
「ああ、大体わかった。あの術式は古代ギリシャのもの。女神ヘカテー由来の術式らしい。だが、細かい点で違う所がある。これは即興のアレンジだな。魔術師の癖みたいなもんだろうな」
「つまり下手人は、古代ギリシャの術式を継承した
「いや、話はもっと単純だ」
「下手人は、その時代を生きた魔術師本人だよ」
今回の事件は確実にアウタースピリッツ関係だ。下手人の潜伏などさせてはならない。確実に仕留める。
術式の肝になる要素さえわかれば、現代魔導による探知が可能だ。こればっかりは敵である古代の魔術師には不可能だろう。
「じゃあ、始めるぞ純一」
「うん、でも古代の魔術師を相手にするとか、大丈夫なの?」
「向こうの出方次第だな。まぁ、向こうはまず死に体だ。そう激しい戦闘にはならないと思うぜ」
「その心は?」
「異界を根城にしてるわけでもなく、ただ生きてるだけの奴。そんなのが、正体不明の魔術師に正面から喧嘩売るかよ」
魔法陣展開代行プログラムにより、アクティブソナーを放つ。対象は当然敵のMAGだ。スパゲッティソースコードとはいえ、根幹となる要素を取り出せればそれを作り出したMAG性質を逆算することは可能なのだ。そこそこ時間がかかったため、深夜になってしまったが。
「じゃあ、始めて」
「ああ。術式展開、
範囲は星野海中学から半径5キロ。人間の頭ならパンクする情報量だが、情報処理を機械に頼っている自分には何も問題はない。現代魔導はこういう所が強いのだ。
スマートウォッチが振動を示す。見つかったようだ。
なんと、星野海学園の屋上。随分と近いところにいやがる。MAGを返せと言いたい。が、そんなことは今はどうでもいい。
「サモン、バルドル!」
「サモン、ケルベロス!」
即時展開。奇襲が来る!
「散りなさい。
夜空を埋め尽くす神代の魔術式。初手ぶっぱとはわかってる奴め!
「バルドル、壁!」
「チッ、しゃあねぇなぁ!」
「ケルベロス、走って!」
「任せろ、サマナー!」
バルドルを壁として、悪魔召喚プログラムを起動、雪女郎をいま召喚しても的にしかならない。ならば!
「サモン、ペガサス!デオン、行け!」
「頼むよペガサス!」
「ヒヒーン!」
魔弾の雨を三手に分散させる。地を走るケルベロスと純一、防御性能のゴリ押しで前に出る俺とバルドル、空を駆けるデオンとペガサス。
向こうの弾幕は最初こそ濃かったが、今では余裕で回避できるほどだ。やはり、MAG量に不安があるのだろう。
だが、地に撒かれた何かを触媒にしてスパルトイを生み出すという術を使ってきた。
神代の魔術は、なかなかに多芸だ。とはいえ、それが効くのは地をゆっくりと進んでいる俺とバルドルに対してだけ。向こうは切羽詰まっているな。
「ストーン解放!
背後から襲いかかってくるスパルトイをマハブフストーンで足止めして、バルドルの右手に乗る。
「行ってこい、サマナー!」
バルドルに投げられて校舎を飛び越える。まさか戦闘力のなさそうな俺が一番前に出ていることに面食らったのだろう。だがしかし、それが俺の戦い方だ。
「よお、魔術師さん。話があるからその魔力弾しまってくれない?」
「貴方たちみたいな幻想種を平然と扱う魔術師相手に、油断なんてできるわけないでしょう?」
放たれる魔力弾。だが、もう容量は見切った。
あれだけ撃ったのだから当然だ。神代の魔術師に古典魔導が何故廃れたのか、その原因を見せてやろう。
「MAG路形成!」
「何ですって⁉︎」
まず、純粋な魔力弾の系統。魔界魔法ではない術は容量以上のマグネタイトに触れると影響をモロに受ける。周囲のMAGより高いMAG濃度の路に流れてしまうのだ。
故に、魔力弾の類は俺には効かない。
「だったら、
「
魔法陣展開代行プログラムにより、術式を展開する。デジタル出力でない魔法陣は、やはりMAGの影響を受ける。オートで術式を探知し、迎撃するこの術式破壊のプログラムなら、敵の組み上げる魔法陣を破壊してくれる。
ちなみにこれは自作プログラム。そこそこ俺もやるのだぜ。
「私の高速神言が、追いつかないッ⁉︎」
「圧縮言語による詠唱短縮なんて、現代魔導じゃ当たり前の事なんだよ!テクノロジー舐めんな!」
そうして行われる魔術戦。否、ただひたすらに向こうの魔術を打ち消し続けるという耐久戦。
重いプログラムを稼働させ続けているので、悪魔召喚プログラムの方まで手が回らないのだ。
だが、それが十分な効果を発揮することは彼女もわかっているだろう。何故なら、俺は1人ではない。
「はっ!」
ペガサスから飛び降りて魔術師の背後を取るデオン
転がる事でどうにか回避する魔術師
だが、その先にはケルベロスの背に乗った純一がいる。
「さぁ、詰みだ。話を聞かせてもらうよ」
「タルタロスの番犬ッ!」
「それは昔の事。今はサマナーが仲魔の一柱だ」
そうして、空にペガサス、背後にデオン、正面にケルベロスという最悪クラスの包囲網を敷かれた魔術師は、手に持った杖をカランと床に落とした。
「わかったわ、私の負けよ。好きにしなさい」
この世界に現れ出てしまった神代の魔女メディア。彼女は、幸運だったのだろう。なにせ、出た瞬間に発生する平成結界のゆらぎが、とある空中庭園の大爆発でかき消されてしまったのだから。
「さて、私はどうして呼ばれたのかしら。
そうして、魔術に造詣の深いメディアは、これが人払いの結界であることを見抜き、偵察に使い魔を飛ばした。
その結果、この世界が神代よりもイカレている事を知ってしまった。
当然のように現れる幻想種の群れ、それを年端もいかない少年がいともたやすく操るという異常。そして何より、その幻想種の群れをいともたやすく撫で斬りにする女騎士の姿。
これは、見つかってはならない。何をするかも見つけられていないのに、犬のように斬り伏せられるなんて耐えられる訳もない。
「とりあえず隠れましょう。情報を集めて、そして...」
「帰るのよ、私の国に」
メディアの目的は今はなくとも、願いは変わらずそこにあった。
「それから、この世界の調査をしながら隠れていたってところよ」
「じゃあ、僕らを攻撃したのは自衛の為だと?」
「ええ、そうよ」
「救えないね、彼女」
「ああ、本当にな」
「...どういう事?」
真実を伝えるべきか迷う。だが、それは彼女の救いにはならない。なら、最後まで理不尽な敵のままでいよう。
「教えるつもりはない。後悔を抱いたまま、そのまま死ね」
P-90を額に押し付けて、引き金を引く。頭蓋は弾け飛んだが、アウタースピリッツが散るときに起きるいつもの光が出始めない。まさか⁉︎
「総員警戒!今見ていたのは影だ!本体は別の何処かにいる!」
示し合わせずに背中合わせになる俺たち。だが、本体の居場所はいとも簡単にわかってしまった。
少女に手を引かれて校庭を走るその姿から。
「貴方は隠れていなさいと言ったでしょう!マヒロ!」
「駄目!このままじゃお姉ちゃん、何も言えずに死んじゃう!」
『バルドル、脅せ』
『あいよ、サマナー』
ふらりと、バルドルがメディアと少女の前に現れる。
「テメェ、どうせ死ぬんだから手間かけさせんなや」
「マヒロ、下がって!
「効かねぇよ、んなもん」
ゆっくりとバルドルはメディアの元へと行く。それに注視しているうちに俺たちは屋上からメディアの背後に着地する。
そしていくつもの魔術が放たれたのち、バルドルの手がメディアを掴むその寸前
何も持たない少女が、バルドルとメディアの間の壁になった。
「死にてえのか?クソガキ」
「まだ死にたくありません!でも、死なせたくもありません!」
ただの意思だけで悪魔に立ち向かうこと、それのどれだけ尊い事か。
その時、悪魔召喚プログラムのアラートが鳴り響いた。異界発生の兆候だ。
「バルドル!その子を守れ!異界化が来るぞ!」
ペガサスの背に乗って駆け寄ろうとするも、タッチの差で異界化が完了してしまった。オブジェになったのは、魔女メディア自身。
これが、アウタースピリッツが平成結界に与える影響。
「純一、頼みがある」
「何?」
「今からここに増援を呼ぶ。あいつらが来るまでこの異界の口を開けたまま外から封鎖してくれ」
「...千尋はどうするのさ」
「中に入る。バルドルが入ったのが良い。どんなタイプの異界でも、契約の縁さえ辿れば入れない事はないからな」
「...そんなんだと、早死にするよ?」
「知ってる。でも、やめられないんだからしょうがない。アンカーは任せるから、切らないでくれよ?」
「わかってるよ。じゃあ気をつけて」
「ああ、任せた」
縁と所長とミズキさんに連絡を入れて、
悪魔召喚プログラムでの侵入は不可能。なら、魔術的なアプローチが必要だ。
バルドルの縁を辿ると、座標的には大して移動していないことがわかる。だが、恐らくは戦闘中だ。
「デオン、行くぞ」
「了解だ、サマナー」
700万のトラエストストーンを霊的に解体し、指定座標へのゲートを開く術式に組み直す。
その対象座標は、虚数座標。どうしてそんなことになっているのか疑問でしかないがバルドルは今虚数の空間にいる。
存在を認識できたのなら、あとはプロセスの問題だ。その知識は、爺さんから受け継いだ遺産の中にある。
「
さぁ、先の見えない虚数の中に飛び込むとしよう。
「あなた!攻撃するならちゃんと当てなさい!」
「うるせぇ!テメェこそまともにダメージの出る攻撃をやりやがれ!」
転移した先は、戦場だった。先程までいた星野海中学の校庭にて、黒く染まった影の戦士たちが、各々の武器を持って宙を飛ぶメディアに攻撃を仕掛けている。メディアも応戦しているが、片手に少女を抱えたままでは全力の術を使えないようだ。
数を確認、見えているだけで17体。アナライズジャマーなし、つまりサマナー無し。
後方にいる一体に、簡易アナライズ。敵の反応はなし、ついでに反射吸収反応なし。
なら、やるとしよう。
「サモン、雪女郎!」
「了解ですわ、サマナー!」
「
その突然の氷結に面食らったのがメディア。笑みを浮かべたのがバルドル。
「遅せぇぞサマナー!」
「ちょっと分析してた!ペガサス!メディアの側で少女を拾え!」
「ヒヒーン!」
「...成る程、敵の敵はというわけね。良いでしょう、今は乗ってあげるわ!」
影の戦士たちは足を氷結で絡め取られて動けない。足を無くしてこの場から脱出するとかいう気概も見せていない。
そんなのは、死にたいと言っているようなものだ。
「バルドル、ターゲットリンク!」
「おうよ!」
契約によるMAGリンクと念話による思考の共有での術式制御の共有。
それにより、バルドルの弱点だった戦闘技術の甘さを補正する。
俺が肝だと気付いた者たちの中には、短剣などの武器を投げつけて妨害しようとする者もいた。当然、ターゲットリンク中の俺は無防備だ。当たれば死ぬだろう。
だが、俺の隣には白百合の騎士がいる。故に俺に危害が加えられる事はない。
「万魔の乱舞!」
万能属性の乱舞は、正確に目標の頭を捉えて吹き飛ばしていく。流れるようなその動きに、なんでいつもはああもノーコンなんだと文句を言いたくなるくらいだ。
そうして10の影たちを殺した辺りで、増援が現れた。現れたのは上空から、泥のようなものが何処からともなく流れ落ちて形作られ、生まれていった。
とはいえ、今はもう問題にはならない。何故なら、
「纏めて死になさい!
残りの影の戦士たちは、そのあまりにも強大な魔力砲撃により吹き飛び、チリと消えた。
「さて、どうするの?今の私ならあなたを殺せるわよ?」
「殺したら、この子を外に連れ出さなくなるぞ」
「...それはどうして?」
「俺が生きてる限りアンカーは起動し続ける。けど俺が死んだらアンカーは消える。そうなりゃ異界ごと吹っ飛ばされて皆死ぬ。そんだけだ」
この虚数異界の入り口は修正力なのかこちら側からは見えない。つまり、歩いて外に出るなんて真似はできないのだ。
「...じゃあ、手伝いなさい。現代の魔術師であるあなたなら、抜け出すための方策の1つはあるんでしょう?」
「ああ、ある。異界の主を殺すことだ」
「...そう。じゃあ、早くおやりなさい」
「断る。まだお前から大事なことを聞いていない」
「お前を利用するために、ダークサマナーは現れなかったか?」
「今現れたよ、花咲千尋くん」
瞬間、声のした方向にメギドストーンを投げつつバルドルの背に隠れる。自作できない虎の子だが、今使わなくては死ぬ。そんな予感があった。
アナライズを起動、当然ジャマーあり。だが、ダメージはなし。影の死体が転がっていることから、彼らを盾にしたのだろう。
「あなた、何者?」
「アリスと呼んで。私はあなたの味方よ、コルキスの王女メディア」
「この世界を正しい姿に戻すために、力が必要なの。あなたも感じているでしょう?この世界の歪さを」
コイツの話に乗せてはならない。この世界を救いたいと英雄なら当然思うはずだからだ。
「たとえ歪でも、それ以外の方法があるのか?教えてくれよアリスさんとやら」
「あるわ。聖杯を使えば良いの」
聖杯、それが今平成結界を保っている聖遺物か?なら、付和さんが防衛についている。一先ずは安心だ。いや、だからこそ戦力強化を求めてメディアさんの所に来たのかもしれない。
「平成結界を構築してる聖遺物は、今7つに分かれているの。それを直すことができないから、平成結界で終わりの見えた時間稼ぎをしている」
「でも、英霊であるあなたなら、聖杯に触れて、直す事ができる。そうすれば願いを叶える万能の盃が、この世界を救ってくれる!」
どう、素敵でしょう?と言わんばかりの彼女の演説。実際、実行できれば本当にこの世界を救う事ができるかもしれない。だが、それは認められない。
「お前の言うプランが正しいとして、それが実行できるものだと仮定しても、俺はお前を認められない」
「どうして?あなたも知っているんでしょう?この世界の本当の事を」
「だってお前、メディアさんをただの道具としてしか見てないだろ?」
その言葉に、ハッとする彼女。神代の魔術師である彼女は、彼女なりの方法でこの世界の本当の事を認識したのだろう。だからこそ、世界を救う聖杯に望みを見た。
だが、それを実行するのが今まで血反吐を吐きながら人類を守ってきた人たちでなく人を殺す事になんの躊躇いも持たないコイツである事が、俺は認められない。
「じゃあ、やっぱり力尽くかぁ」
「メディアさん、力を貸してくれ。コイツを殺さないと、メディアさんじゃない誰かがコイツの話に乗せられる。そうなりゃ待つのは世界の終わりだけだ」
「...良いでしょう。乗ってあげるわ。私、アイツみたいな自己陶酔してるのが死ぬほど嫌いだもの」
好き嫌いで動くのか。まぁ、正義云々ではなくそっちの方がわかりやすい。
「じゃあ、絶望を見せてあげる。
現れたのは2mを超える黒い巨漢、いや巨人だ。手には岩かなにかでできている斧剣が限られている。アレを持って戦うつもりなのだろうか。
「...ごめんなさい、作戦変更よ。私を殺して逃げなさい」
「知り合いの英雄か?」
「大英雄ヘラクレスよ。あんなのに勝てる奴はいない!」
「来るよ、サマナー!」
神速の踏み込みに対して、デオンの技量と力で一撃を捌く。だが、その一合でクレーターが出来上がった。どんな化け物だ⁉︎
「サモン、カラドリウス!バルドル、雪女郎、カラドリウス!デオンに支援を!」
三重のMAGがデオンを包む。それによって強化された身体機能を使って反撃を試みるも、肉を斬り切れていない。筋肉の頑強さだけでデオンの馬鹿力を防いだのか⁉︎
それを不利と見たのか、デオンはサーベルを手放し振ってくる斧剣を躱しながら足技でサーベルを回収する。何という曲芸じみた技量だ。だが、それが状況を好転させるのにカケラも役に立っていないというのがどうかしている。
「デオン、足を!」
「了解だ、サマナー!」
それからは、神業の応酬だった。暴風を巻き起こす斧剣を捌いて捌いて躱して足の健を狙う。正直、覚醒しているはずの俺の動体視力では、もはやあの神域の戦いについて行くことはできないだろう。
だが、予測することはできる!
『バルドル、行け!』
『わかってる!』
ラクカジャを切り上げてバルドルを突っ込ませる。全ての敵を粉砕するあの斧剣とて、バルドルを傷つけるには至らない。故に、一発限りの奇襲になりうるのだ。
一撃をバルドルが受けて、その隙にデオンが滑り込む。
そして、デオンが右足の健を切り裂いた。巨体を支える足が使えなくなれば、自重がそのまま負荷になる。それが、唯一の隙だ!
「バルドル、ぶちかませ!」
「
そうして、ヘラクレスは破魔の光により命を絶たれた。
「何とかなるもんだな、デオン」
「僕1人じゃあ倒せなかった。君といれて良かったよ、サマナー」
そうしてアリスに向き直った瞬間、バルドルが校舎に叩きつけられていた。
一瞬の出来事で、なにが起きたのかわからない。だが、ヘラクレスだけが手駒じゃなかったのか⁉︎
「馬鹿、目を離さない!死にたいの!」
「サマナー!奴は死んだが死んでない!意味がわからないがそれが現実だ!」
目の前を見る。黒い巨漢は、当然のように立ち上がっていた。
「良いこと教えてあげる。ヘラクレスの宝具は
「つまり、あと11回ハメないと死なないってことかよ...」
「違うわ。あの蘇生宝具は、死因には耐性がつくの。さっきのハマオンとやらはもう通用しないわ」
「絶望的だね、サマナー」
「メディア、ヘラクレスの死因は?」
「ヒュドラの毒でのたうち回ってからの焼死よ。持っている?」
「いや、残念ながらそんな便利なものはないな。今度用意しておくよ」
だが、奴をどうするかのプランは出来上がった。
次回、屍鬼ヘラクレス対手段を選ばないサマナーと魔女です。
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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