白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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オークションといえば怪盗!という俺の勝手なるイメージ。異論は認める。

あ、昨日投稿できなかったことで定期更新は諦めました。バレンタインイベはぶん回らないと全員分のチョコ確保できない気がするので。
なので、この投稿から不定期更新のタグをつけさせていただきます。


悪魔競売(デビル・オークション)の怪盗騒ぎ

ネット社会の昨今、オークションは大概においてインターネット上で行われる。それは裏の世界でも変わらない。

悪魔が情報生命体であり、通信によるやり取りが可能である事を踏まえると、もしかしたら裏の世界の方がうまくネットオークションを利用しているかもしれないが、それはいい。

 

今、俺とデオンはそのオークションサイトの本丸であるビルに向かっている。一見普通のビルだが、中は最新鋭の魔導トラップで満たされた伏魔殿だ。

 

「じゃ、手筈通りにな」

「ああ、わかっているよ。サマナー」

 

そうして、俺は緑の、デオンは青の仮面をつける。認識阻害の術式を仕込んだ一品で、今回の装いに似合わせている。

 

デビルオークションは、インターネットが主流だ。

だが、この遡月の街には世紀末以前から現地でのオークションを続ける奇妙なホテルがある。

 

ホテル、アルセーヌ。今回俺たちが出品し、品物漁りをする場所だ。

 

「それじゃあデオン。お前は力の結晶(ピース)を探せ。こればっかりはお前にしかわからないからな」

 

力の結晶(ピース)には、相性のようなものがあるのだ。魂の好みだろうとは言われているが、まだ理論は取れていない。まぁ、悪魔合体で強い悪魔を作る方が早いし楽だからな。

 

「サマナーは、夜なべして作ったアレらの出品かい?」

「当然。あと、面白そうな悪魔がいたら声かけてみてくれ。条件次第では買えるかもしれん」

「...人身売買のようで、いささか気分が悪いね」

「その辺は気にするなや。悪魔の価値観的にはオーケーらしいぜ。ま、人も売られてるらしいけど」

「最悪じゃないか」

 

そうして入場手続きを2人で済ませ、奥に入る。

警備の数がこの前来た時よりも多い、なにかを警戒しているようだ。

 

『デオン、この空気わかるか?』

『なんとも。だが、こんなお宝だらけの場所だ。予告状でも出たのではないかい?』

『現代の怪盗団ってか。楽しそうだが、別の日に来る事を願うよ』

 

デオンと別れ、自分は出品者ブースへと向かう。自分は人生を魔導に捧げた爺さんの知識を継承している。故に、材料さえあれば貴重な魔術的アイテムを作成する事ができるのだ。これが、新米デビルサマナーである自分が大金を持つに至った経緯である。

 

流石に論文などはドクターを通してフリーで発表しているので印税などは貰えない。それはこの世界全体のヒトの生存率を高めるために致し方ない事だ。でもなーとこういう金のない時には思う。

 

「こちらが、今回出品するストーンのリストです。事前に連絡していたものと間違いはありませんか?」

「いいえ、高位広域回復(メ・ディラマ)ストーンはこの業界に革命を起こした一品ですからね。これに救われた中級サマナーのなんと多いことか。高品質のそれが20点、かなりの仕事量だったでしょう。」

「ええ、まぁ。ただ、人を助けるコトとお金も稼ぐコト、どっちもできるって素敵ですねホント」

「しかし、一度にここまで大量の出品では、値崩れしてしまうのでは?」

「早急にMAGが必要なんですよ。ちょっと面倒な相手に目をつけられて貯金をぶっ放しちゃいまして。今仲間の維持に自前のMAG使ってるくらいなんですよ」

「なるほど、わかりました。適正価格スタートで適正な相手に売りさばく事をお約束しましょう。報酬の最低価格は先にお渡しする形でよろしいですか?」

「マジですか、ありがとうございます」

「こちらこそ、いつもお世話になっていますよ、グリーンさん」

 

メディラマストーン一個で50万、つまりとりあえずの1000万の黒字だ。それにオークションでの高騰も考えるともう少し色はつくだろう。

だが、作成に魔石を大量に使いすぎた。材料の魔石は悪魔をしばいていれば自然と溜まるので気にしないでいたいが、高度な治癒の力を持っていない現在としては不安極まり無い。オークションで高位回復魔法(ディアラマ)持ちの悪魔が売られているとありがたいのだが。

 

『サマナー、良い情報と悪い情報がある』

『...良い方から頼むわ』

力の結晶(ピース)となりうる芸術品を見つけた。剣士を象った像だね。値段は1億スタートだ』

 

これは致し方なし、最後の貯金である魔貨(マッカ)を現金に変えるかと決める。

 

『それで、悪い方は?』

『このオークション会場にて最も美しいモノを盗むと怪盗から予告状が届いているらしい。今日出品される美術品はこの剣士の像一つのみ。買ったところで盗まれてしまうかもしれないね』

『マジに怪盗かよ、馬鹿じゃねぇの?』

 

とは言っても、どうする事も出来ない。何せ、探索に適した悪魔は今グレムリンしかおらず、そのグレムリンとて、機械の類は対MAGコーティングされているため使い物にはならない。

 

ならば、()()()()()()()()

その場合、得られるものは貴重な力の結晶(ピース)。失うものは積み重ねてきた信用。...駄目だな、論外だ。この業界を生き残るには、信用だけは失ってはならないのだ。

 

『駄目だ、動けん。デオン、お前はもうちょい出品物を見て回って他に力の結晶(ピース)になりそうなものを探してくれ』

『...了解だ、サマナー。だが、他にそんなものがあるとは思えないがね』

『むしろ俺は初日でいきなり力の結晶(ピース)を見つけたお前に驚いてるよ。どんな幸運だ』

 

その後は、他に何かがあるわけでもなくオークション前の品見せは終わった。

 

さて、今回は見だな。力の結晶(ピース)を買った奴にマーキングをつけて、後で依頼をふっかけて奪うというのが現在の可能な行為だ。

 

「しかし、こうして会場に来てみると意外と面白いものだね」

「だから続いているんだよ。入場の時見せたアレあるだろ?ここの会場ってアレの会費で保ってるんだ。オークションの利益もあるだろうが、見世物としても出来がいいんだよ、ここのオークションは」

 

 

「続いてはこちら!匿名術師グリーンの作った高位広域回復魔法(メ・ディラマ)の力を込めた魔法石、メディラマストーン!匿名術師グリーンは有用な魔導技術論文を発表した新規精鋭の魔導学者サマナーだ!実力は俺たちが保証する!

異界強度(ゲートパワー)が上がり気味な今日この頃、悪魔に対する備えは持っておいて損はないぜ!ガチで命を左右するアイテムだからな!

 

最低価格は70万から、スタート!」

 

71万!73万!74万5千!と程々に値が釣り上がっていく。

 

『煽りがなかなかにうまい。荒くれ者の心を掴んでいるね』

『こういうのができるから、信用ってのは侮れないんだよなぁ。早く花咲千尋の名前も通るようになって欲しいわ』

『その割には、偽名を使ったようだがね、グリーン』

『いや、サマナーの手札が割れるのはガチで死活問題だから』

 

とりあえず、今日の分のメディラマストーンは、一つ約81万で売れる事となった。インターネットで回る分もこのレベルの金額なら良いのだが。しかし、この釣り上がった分の金が振り込まれるのは来月。それも割合は3:7なのであまり大した額にはならないのが悲しい所だ。まぁ、それでも合計で60万くらいにはなるので何かの足しにはなるだろう

 

「続きましては、悪魔の出品だぁ!妖精シルキー!衝撃魔法と回復魔法を操る後衛タイプの悪魔だ!本人から、コメントどうぞ!」

「家事も育児も戦闘頑張ります!どんな方にも仕えてみせますわ!」

「コメントありがとう、シルキー!ただし、彼女の好みは強いサマナーだ。見た目に反して結構な強さだから、買った後に制御しきれず殺されないように気をつけな!

それでは、彼女は4200万から!スタート!」

 

サイフポイントが足りないッ!

 

『残念だったね、サマナー』

『...しゃーないさ。今の貧乏な俺たちには手が届かなかったって事で』

 

そうして、悪魔だったりアイテムだったりの出品がなされていったがついに本命がやってきた。

 

「続きましては、本日のメインイベント!天才芸術家ワビスケの削り出した渾身の一品!騎士の石像!なんと、今回のイベントでは、この逸品を盗むと怪盗からの予告状が届いたぜ!随分な命知らずだが、それをしたいほどの魅力がこの作品にはあるって事だ!

事実、この作品に込められたMAGは相当なもの!悪魔召喚の触媒にも優秀だぜ!

 

さぁ、この作品は1億から!スタート!

 

サクラが仕込まれているのだろう。値はどんどんと釣り上がり、3億まで上り詰めた。この時点でサクラと思わしき男性は声を上げるのをやめた。

 

現在声を上げているのは車椅子に黒い仮面の老人と、成金というのが似合う高級スーツに小太りのサマナー。

アームターミナルとは古風なものを着けている。だが、サマナーであることを隠さないとはどういう了見だ?

 

さて、怪盗騒ぎが誰かの冗句でないのなら、狙うべきは落札が終わり、落札者のストレージにピースが仕舞われる寸前だろう。

 

そろそろ、動きがあるはずだ。そして、そう見ているのは俺だけではないようで、腕利き達が警戒しつつ事態を面白がっていた。

 

「クッ...3億6千万!」

「ふっ、4億」

 

成金の方は完全にキャパオーバーだ。終わったな。

 

「さぁ、他に値を上げる方はいるかい?いないようだ。それなら...カウントダウンだ!3、2、1...終了!騎士の石像の落札者は、010番だぁ!」

 

車椅子が後ろの女性に押され、壇上へと上がっていく老人。

そうして、老人の手に石像が渡りそうになったその時、照明が消えた。

 

さぁ、事件の始まりだ。探偵らしく、踏み込んでいくとしよう。

 

「「「サモン!」」」

 

反射的に召喚を行なったのは俺、右手前の赤いドレスに仮面の女性、左後ろの誰かの3人だ。

 

暗闇で見えないが、感じるマグネタイトからいずれも一級の悪魔だろう。もしかしたらハイクラスまであるかもしれない。だが、存在の規模だけならバルドルは負けていない。コイツは不死身に頼りすぎて技がない事以外は一級の悪魔なのだ。

 

『サマナーよぉ、どうする?』

『今は見だ。下手に動いて犯人扱いされたらたまらん。でも、周囲のMAG波に対するパッシブソナーを常駐させてるから、それをもって探偵としてしゃしゃり出るつもりだ。お前はその為の箔付けだよ』

『すまないバルドル。私ではどうしても侮られてしまうからね』

『別に嫌とは言ってねぇよ。めんどくせぇだけだ』

 

そうして非常用電源が点灯すると、案の定石像は消えていた。怪盗の面目躍如といった所だろう。やるな。

 

そして、スマートウォッチとペアリングしているスマホの情報を見ると、面白い波形が見えた。つい先日観測した、虚数異界の発生の予兆だ。

 

まさか、アウタースピリッツ関連?

 

「皆さま、動かないで下さい!特に勝手に悪魔を召喚したそこの3人!」

 

舞台袖から青いスーツの女性が現れ、とりあえずの指示を出してくる。

 

さて、法的機関の手が入らないこのオークション会場では、どうするつもりだ?

 

すると、出入り口からアサルトライフルを持った黒服の方々がやってきた。とりあえずの封鎖といった所だろう。

 

「皆!とりあえず今は職員のみなさんの指示に従ってくれ。冤罪で死にたくなかったらな!」

 

自分とデオンの座る席に、黒服の1人がやってくる。重要参考人の連行のようだ。大人しく受けるとしよう。

 

「皆、この騒動が終わるまでしばらく待っていてくれ!ウチを舐めた落とし前は必ずつけてやる!」

 

司会者さんのその言葉により、いとまずこのオークションはお開きとなった。

 


 

「それでは、貴方方には事情を聞かせてもらいます」

 

まずは、赤いドレスの女性が口火を切った。

 

「暗闇に乗じての狙いが本当に美術品かわからなかったから、念のための護衛よ。ね、タムリン」

「その通りです。サマナー」

 

あれが、幻魔タムリン。妖精の守護者か。十全に制御できている事を見るに、使い始めて長いのだろう。熟練のサマナーだな。

 

続いて話をしたのは、左後ろにいた白い仮面のサマナーだった。

 

「すまない、俺はプログラムの問題だ。明度の急激な変化に対してオートで悪魔を召喚できるように仕込んでいたんだ。他意はない」

「まぁ、ウチのサマナーは小心者やからな。堪忍してくださいな」

 

名乗りはしなかったが、あれは女神だろうか。いい悪魔を仲魔にしている。

 

「それで、グリーンさん。あなた方は?」

「舐められないようにですね。これから証拠を提出したいのですが、その信憑性は実力でしか裏付けできませんから」

 

バルドルが、軽くMAG波を流す。それだけで実力の程は明らかになるのだ。やはり力こそパワーなり。

 

「...その証拠とは?」

受動的MAG波形観測術式(パッシブソナー)のログデータです。面白いものが見えてますよ」

 

そうして、全員に見せる。虚数異界発生の証拠を。

 

「虚数異界ですか、聞いた事がないですね」

「ヤタガラスに問い合わせてください。以前にも観測されています」

「それで、その異界に石像だけ持っていかれたのはどういう了見?」

「協力者が見える位置に居たんだと思います。連絡手段は魔導技術に依らないものなので観測はできていませんが」

「何にせよ、異界の入り口であるあの場所を見張れば犯人は自ずと捕まるわね。私たちへの嫌疑も晴れる。楽でいいわ」

「ところが、そうもいかないんですよ」

 

「以前のデータによると、虚数異界の侵入位置と異界が消えたときに弾き出された位置にズレがあったと報告されています。この性質を使えば、移動出来るんですよ。見つかることのない虚数の世界を」

「ッ⁉︎今すぐ外にも警備員を配備させます!」

 

外にも警備員を配置するとなると、このオークション会場がいかに富んでいても人手は足りなくなるだろう。

 

自然と、集められたサマナー達で目線が合う。考えることは同じなようだ。というより寧ろ、この展開を狙っていたが故に悪魔を展開したとも言えるだろう。

 

「人手と悪魔の手、お貸ししましょうか?」

「...お願いします。先ほどのデータによると、貴方方の位置は召喚により明らかとなっています。ステージとの距離を考えると、虚数異界とやらへの干渉をした可能性は低いでしょう。...認めます。本日の警備統括、アオバが貴方方を日当3000万、成功報酬5000万で雇わせて頂きます!」

 

「粘る時間はなさそうですし、とりあえずはこれで妥協してよろしいですか?お二方」

「構わないわ。さっさと終わらせて楽に稼ぎましょう」

「俺も構わん。だが、前は任せるぞ」

「前は俺の仲魔が張ります。コイツの耐性は便利ですから」

 

即席サマナーチームが、ここに誕生した。名前も、手持ちの札を明かさない、ただ目の前の金を集めるためのチームとして。

 

「じゃあ、犯人を追いかけます。虚数異界に侵入しますがよろしいですね?」

「構わないわ、ついでに当面は貴方に指揮を任せる事にする。貴方が一番切れ者そうだもの」

「そうだな、グリーンといえばメディラマストーンの開発者だ。魔導使い相手に魔導に詳しい奴を頭に据えるのは理にかなっている」

「信じられているね、サマナー」

「だから信用は強いんだよ。では...侵入術式、展開!」

 

以前はトラエストストーンを犠牲にしたが、魔法陣展開代行プログラムのログデータにあった術式をブラッシュアップする事で、そこに既に虚数異界が存在しているのならなら虚数座標へのゲートを開くことが可能になったのだ。

しかも今回は、騎士の石像を盗むときに使った既にある道を再利用する為MAGには困らない。我ながらリーズナブルで冴えたやり方だ。

 

「行くぞ!」

 

3人のサマナーとその仲魔たちは、臆する事なく虚数の世界へと飛び込んでいった。

 


 

「ここが、虚数異界。現実との違いは異界強度(ゲートパワー)くらいね」

「異界化による内部構造のシャッフルも起こっていない。ただの異界と見ると痛い目を見そうだ」

「今、石像の残留MAGを辿る術式を組み上げました。これを辿って行きましょう。先頭は俺の仲魔が、ルージュさんは左を、ホワイトさんは右を重点的に警戒してください」

 

慣れた手つきで、連携に入る人たち。やはり熟練だ。

 

「サマナー、来るぜ。前の黒いのだ」

「警戒を。向かってくるなら殺します。来ないなら追跡に悪魔を投げます。まだ先制攻撃はしないように」

 

そうして、自分たちと影が相対する。

 

向こうは、無策で飛び込んできた。数的多数を取られているのにだ。

思考能力が低いのだろう。何かの尖兵だろうか。

 

「デオン、殺せ」

「了解だ、サマナー」

 

無手だったその影は、あっさりと首を切られて絶命した。

泥のような何かに死体を変化させて。

 

「この泥に、心当たりのある人は?」

「いいえ、見た事ないわ」

「強いて言うなら()()()()()()か?あれは赤っぽい色だったが、雰囲気が似ている」

「成る程...とりあえずは命の泥と呼称します。サンプル回収を行うまで周囲の警戒をお願いしますね」

「まるで、公僕みたいな仕事をするわね」

「実はライセンス持ってるんで、公僕ってのも間違いじゃないですよ」

「なんと、道理で術への理解が深いわけか」

 

否定はしない。勝手に思い込んでくれるのなら悪くはないからだ。

 

「MAGの分配は2:1:1でいいですか?」

「なんであんたボろうとしてんのよ」

「魔導師は、MAGを大量に使う。俺たちの安全を考えるなら妥当な数字だ」

「...あー、探査とか戦闘とかに術を使うわけね。りょーかい。ただ、戦闘では頼るわよ」

「任せとけ」

 

MAGを追いかけ、オークション会場から外に出る。道中何度か戦闘を行ったが、いずれも大した相手ではなかった。いや、多分強いのだが、今のデオンが妙に強いのだ。考えたくないが、今まで手を抜いていたかのような変わりっぷりだ。月齢によるバイオリズムかなにかか?

 

『...サマナー、聞いてくれ』

『どうした?』

『この影たち、考えていないが技を使う』

『...狂化か?』

『おそらく違う。簡単な命令ついでに染み付いたのが自然に出ているだけだろう。』

『この影の正体についても調べないとな。アリスとは別口の、世界の脅威だ』

 

今はいい、ただの敵だ。

だが、警戒だけはしておこう。

 


 

オークション会場の出口からほど近い路地裏にて、彼らはいた。

 

「主殿!」

「わかってる!もう外、抜けるよ!」

赤毛に灰色の忍者装束の男と、和装を動きやすく改造した格好の少女だ。

MAGの残り香から、彼らのどちらかのストレージに力の結晶(ピース)はあるはずだ。漏れ出るMAGの感覚から、どちらかはアウタースピリッツだろう。

 

背後に悪魔を忍ばせつつ、サマナー連中は正面から堂々と行くとしよう。

 

「そこまでだ!」

「何奴⁉︎」

 

路地の入り口から銃撃を始める。ルージュさんはカスタムされた大型ハンドガンで、ホワイトさんはオートマチックの狙撃銃で、俺はいつものP-90にて銃撃を加える。

 

だが、忍び装束の男は両手に持ったクナイで弾速の違うそれらを全て斬り捨てて見せた。いや、ハンドガンはともかく短機関銃とスナイパーライフルは無理だろ普通。

 

だが、厄介な方は止められた。ビルを駆け上っていた悪魔連中が止まっていた和装の少女に襲いかかる。

 

「...ッ⁉︎囮か!」

「そりゃそうよ。サマナーが真っ正面から戦うわけ無いじゃない!」

 

「でも残念、私は守られるだけの姫じゃない!ペルソナ!」

 

上空からダイブしてくるタムリンとバルドルを、忍び装束のペルソナがまるで宙を跳んでいるかのような動きで捌き、吹き飛ばしていた。

 

「やりますね、彼女」

「ただの雑魚だろ」

 

だが、バルドルはともかくタムリンにも大したダメージはない。機動力特化で火力はそんなでもないのか?

 

「帰るよ、小太郎!」

「まだです、主!」

 

デオンに気付いたのは凄いが、それはそれ、奇襲の二段階目に降りてきたデオンがペルソナを斬り飛ばした。ペルソナへのダメージは肉体に帰ってくる。少女は、致命傷を負っただろう。

 

「主殿!...仕方ない!宝具展開!不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)!」

 

瞬間、路地を大量の霊体の忍びが埋め尽くした。霊体の影響により視界が遮られる。視界が暗闇に囚われたことから、恐らくは呪法の類だろう。

 

音を頼りに戦況を把握しようとするも、なにぶん数が多すぎて無理だ。この霊体全てが攻勢に回ったらかなり手札を切らされかねない。それは厄介だ。

 

この後ろ2人のサマナーは、完全に味方というわけではないのだから。

 

「クシナダヒメ!アムリタシャワー!」

 

だが、流石ベテラン。動きが早い。MAGで擬似的に作り上げられた霊薬アムリタをばら撒く事により周囲一帯に対状態異常耐性のMAGフィールドが作り出される。これにより、精神への状態異常の一つである暗闇は晴れた。

 

だが、その先には忍者も和服の少女もいなかった。逃したか。

 

「でも、マーキングはつけました。異界が解けても追えますよ」

「いつのまに?」

「最初に打ち込んだ弾丸、中に色つきのMAG入れてたんですよ。どうせ防がれると思ったので」

 

霊体の忍びたちが殿をしているのはいささか邪魔だが、向こうも手負い。そう遠くには逃げられまい。

 

「バルドル、合わせろ」

「了解だ、サマナー」

 

バルドルとラインを繋ぎ、高位破魔魔法(ハマオン)の範囲を若干無理やりに広げる。霊体は細い路地裏にひしめいている。それら覆う程度は不可能ではない。昇天を導く破魔魔法は、上方向への攻撃範囲は広いのだ。

 

「「擬似展開!広域破魔魔法(マ・ハンマ)!」」

 

そうして霊体の忍びを全滅させた直後に、異界の崩壊が始まった。

あの忍者が死んだ?いや、そうではないだろう。おそらく虚数異界を構築している技術があるのだ。

 

それは、確実に確保しなくてはならない。

 

「どうするの、リーダー」

「俺はマーキング辿って行ってみる。こっからは確実にヤタガラス案件だ、逃げても良いぞ」

「ヤタガラスから追加報酬は出るか?」

「さぁな、雇われだからその辺は分からん」

 

「煮え切らないわね。私はあの忍者を追うわよ。だって、成功報酬欲しいもの」

「...俺もだ。大した危険も負わずに報酬だけ貰うのは、俺の信用に関わる」

「だったら仮面取る?ホワイト」

「お前が取った後ならな、ルージュ」

「2人とも、落ち着くといい。そろそろ崩壊だ。サマナーについて行くというのなら、本番は今からだぞ?」

 

デオンのその言葉に、2人の顔は引き締まる。熟練のサマナーの顔だ。

 

では、行くとしよう。

 


 

忍者装束の男、風魔小太郎は焦っていた。

この時代に現れてから、ずっと共にいた少女が息絶えようとしているからだ。

 

何をおいても、彼女の生存を優先する。それが風魔小太郎の約束だった。

 

始まりは、なんという事はない。理由も、意味もなくこの時代にやってきたその時に、なんとなく風魔の里を訪ね、この世界の風魔の生き残りと出会っただけだ。

 

その少女の名はアザミ。ぺるそなという異能を用いて、魔を祓う仕事をしている少女だ。

 

「行き場が無いなら来る?貴方が伝説の風魔小太郎かはともかく、貴方が信頼できる人だというのは明らかだもの」

 

そんな言葉に救われて、ずるずると共に生きることになった。

 

 

それから数ヶ月が経ってから、風魔の里は滅びた。自分のせいで。

 


 

あの、悪魔を操る女との契約内容はシンプルだ。彼女の命令を聞く代わりに、その技術を借り受けるというもの。

 

風魔の里無き今となっては、頼れる糸はそれしかない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

だが、反旗を翻そうとの進言は何度もした。それでも、主は折れなかった。いや、折れていた。

何故なら、風魔の里を滅ぼしたのは、他でもないあの女だけなのだから。

その隔絶した力に従う事が、唯一の生きる道だと盲信してしまっている。所詮ただの忍でしかない小太郎にはどうする事も出来なかった。

 

そうして、今日も気の向かない依頼に赴いて

白百合の騎士に主人の身を切り裂かれた。

 

「主殿、気を確かに!もうじき拠点です。そこで治療を!」

「こた、ろう...ッ!」

 

小太郎も同時に気がついた。忍びの逃げ足により撒いたはずのさまなー達が、何故か真っ直ぐに自分達を追跡している事に。

 

物陰に少女を優しく下ろし、工事現場にて敵と向かい合う。

 

「確認したい事がある」

 

緑の仮面の男が、そんな事を口にする。

 

「なぜ、その石像を盗んだ?」

「知らない、依頼されただけだ」

「じゃあ、虚数異界を作った技術は、どこから仕入れた?」

「依頼主に、渡されただけだ」

「その依頼主とは、何者だ?」

「忍が、それを言うと思うか?」

「思わない。だが、()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

こいつは、敵だ。こいつは、手段を選ばない。

 

だから自分も、そうであろうと決めた。

あの女によって、この宝具の封印は解かれている。躊躇いはあるが、それでも、生きる道はこれしかない。

 

自分は彼女を守ると誓ったのだから。

 

「風魔が命。ここにあり!果てぬ羅刹に転ず(オウガ・トランス)!」

 


 

「デオン!」

「わかってる!」

 

3メートル近い赤い鬼と化した忍者に対して、デオンを差し向ける。筋力勝負は互角、だが敏捷性は圧倒的に向こうが上。

 

手加減などできるわけがない。向こうは、圧倒的強者だ。

それを感じ取った俺たちは、手っ取り早く信頼を得るためにマスクを投げ捨てる。

 

ここは、命を賭ける所だ。

 

「花咲千尋です」

「アカネよ」

「ミクリアだ」

 

「「「サモン!」」」

「雪女郎、カラドリウス、ペガサス!」

「トロール、ハイピクシー、セタンタ!」

「ジークフリート!」

 

「「「こいつを殺すぞ!」」」

 

その声に対して、赤鬼は配下を召喚する事で返答してきた。

 

今回も、タフな戦いになりそうだ。

 




理性を持った狂化とかいう最強クラスの宝具。筋力よりも敏捷性がえらいことになりました。

あと、好きに勝手に書いていたら予告状の意味が書けなくなりそうなのでここでちょろっと。
侵入ルートの確認と、人員を内部に向けさせて万が一異界から出た時に見つからないようにするためです。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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