白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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評価バーがもうちょいで最大まで伸びそうでかなり嬉しみ。

まぁ、執筆ペースは伸びないんですがねー、今はプロットではかなり緩く作ってる所なので、見直しとかが必要なのです。
その割に、誤字はさっぱりと消えないですが。皆さま、いつもお世話になってます。


レッドオーガとデビルサマナーズ

不滅の混沌旅団(イモータル・ カオス・ブリゲイド)!」

 

建築現場に現れる総勢200の霊体忍者集団。数の利が向こうにあるのは相当に厄介だ。こちらの破魔で一撃の柔い雑兵だが、一流の技量は持っている。それぞれがこちらの指示を妨害するような鋭いタイミングで手裏剣などの投擲物を投げてくるのはかなり厄介だ。

 

「サマナー、支援を!」

「わかってる!」

筋力向上(タル・カジャ)!」「防御力向上(ラク・カジャ)!」「反応性向上(スク・カジャ)!」

 

三色のMAGによる支援のもと、デオンが赤鬼と切り結ぶ。力はどうにか上回ったが、速さが違いすぎる。

 

剣での力量勝負になったら不味いと理解しているのか、赤鬼はひたすらにデオンとは斬り結ばず、サマナー狙いを続けている。数による制圧、投擲による妨害、なかなかに脅威だ。

 

そんな中で自分達が生きていられるのは、アカネさんのタムリンとセタンタという優秀な前衛による防御とミクリアさんのジークフリートという規格外の戦士が迎撃に回っているからだ。

 

デオンの立ち位置が徐々に離され、一足でサマナーへと斬りかかる間合いに入ることが多々ある。それをカバーしてくれるのがミクリアさんのジークフリートだ。斬撃を伸ばす技でのオールレンジの立ち回りが、赤鬼に最後の一足を踏み込ませないでいた。

 

そして、次第にペガサスの広域破魔魔法(マ・ハンマ)が当たり、忍の数が減っていく。

再召喚には一息ある。連携の繋がり始めた俺たちならそこを突く事が出来るだろう。

 

「術式展開!シバブーストーン、オーバーロード!」

 

デオンごと緊縛魔法(シバブー)の影響下に叩き込む。今回は、デオンの持つ性質、自己暗示による肉体の操作を使って緊縛に対しての耐性を持たせているのだ。

 

奴の圧倒的な強みは、足だ。

忍びの軍勢の召喚は、破魔が通る時点で即死さえさせられなければギリギリなんとかなる。主にミクリアさんのクシナダヒメのアムリタシャワーのおかげだが。

力も強大だがそれだけだ。近接技量がデオンと同程度以下である以上、決定打にもならない。

耐久性とて、吸収や反射の力場を張っているわけではないのだから、大技を当てさえすればどうにかなる。

 

だが、そんな希望をことごとく潰しているのが、赤鬼の神速だ。

 

あのデオンが捉えきれていないというのだから、冗談が過ぎるというものだろう。動きにある程度見慣れた自分でも、残像が見えるというのだから。

 

だから、デオンごと緊縛魔法(シバブー)に巻き込むという奇策に出たのだが、なんとあの赤鬼、それを()()()()避けやがった。

 

起爆から到達までには一瞬程度のラグしかない。それを隙と断じるとはできない。

 

「すいません、ネタ切れですね。何か手はありますか?」

「ないわね。あそこまで速いとタムリンでもセタンタでも捉えきれない。ミクリアは?」

「ないな。ジークフリートとクシナダヒメがこちらの持ち札だ。あの高速度を捕らえる術の類はない。あの騎士を殿として逃げるか?トラポートストーンならある」

「それは癪ね...いっそのこと範囲で吹き飛ばす?」

「無理ですね、MAGもストーンも在庫がない。範囲はともかく火力か足りません。...デオンの斬撃が掠ったとこの傷が消えています。回復魔法か再生能力でしょう」

「冗談。速すぎてアナライズも全然進まないし、ちょっと無敵すぎない?」

 

考え得る限り、あの赤鬼には弱点はない。

...ただ一つを除いては。

 

「再召喚の寸前に3方別れて散りましょう。狙いは、分かってますよね?」

「正直、それしかないか」

「...同意しかねるが、確かに他に手はないな。だが、散るのは2人だけだ」

 

「殿は、引き受けた」

 

ジークフリートとクシナダヒメが、コクリと頷いた。

 

「死なないで下さいね、ミクリアさん。1人死んだ時の報酬って、結構揉めるんですから」

「そうよ、鬼を倒した後でジークフリートの対処とかオーバーワークも良いところなんだから」

 

ペガサスの広域破魔魔法(マ・ハンマ)が残り少ない霊体の忍びを昇天させた。

 

動くなら、今だ。

 

「宝具再展開。風魔の忍び、ここにあり!不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)!」

 

その瞬間に、俺たちの三方からあるものが投げられる。

 

逃走用の、マグネタイトチャフをふんだんに盛り込んだスタングレネードだ。これを持って、俺とアカネさんは風魔の檻から逃走する。

 

「まさか、主殿⁉︎」

 

閃光により視界を奪われてから、二手に分かれて逃げる気配を感じたのだろう。

その狙いが、彼女であることは間違いはない。

どちらを狙うか迷ったという事は、俺の方に少女がいる可能性は低い。俺の方に少女がいるのなら、迷わず俺から殺しにくるだろうからだ。

なので、念話の術を込めたルーンストーンをアカネさんに投げ渡す。

使い方は、まぁわかるだろう。

 

「...止める!」

 

決心するまでの一瞬の隙。それを突かないのは、こっちの業界の人間ではない。

 

「それを止めるさ、ジークフリート。()()()()()()

「承知した、サマナー」

 

ただ一瞬の隙に大剣に力をチャージし、風魔忍軍と赤鬼を一太刀で巻き込むその向きに、幻想の一撃が解き放たれた。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 


 

「サマナー!どうするつもりだ⁉︎」

「一瞬でも速く女を捕らえる!ペガサスとカラドリウスは別れて上から探してくれ!雪女郎とバルドルは一旦リターン!致命傷を負った彼女はそう遠くには置けない筈だ!虱潰しに探し出す!」

 

建築現場を吹き飛ばした閃光も気になるが、ミクリアさんの奥の手か何かだろう。

 

『通信術式よねコレ⁉︎聞こえてる⁉︎』

『聞こえてます、アカネさん!見つけましたか⁉︎』

『戦闘開始したわ!あの子、致命傷でもまだ戦えてる!ペルソナ使いってのはこれだから!』

『殺さないで下さい!人質にしないと、鬼は止まりません!』

『無茶を言うわね!』

 

放たれた一発の銃声。その位置に少女がいるのだ。展開していたパッシブソナーから位置を割り出し、デオンとともにペガサスに乗ってその位置に飛んでいく。

 

そこには、ペルソナに身を任せ、宙を跳ぶ和装の少女の姿があった。

 

ペルソナの姿形は以前と変わらない。どこか絡繰を思わせる忍者だった。

 

「トビカトウ!空間殺法!」

 

ペルソナ、トビカトウが路地を縦横無尽に駆け回り、前衛を張っていたトロール、タムリン、セタンタの三体に斬りかかる。

致命傷は避けているが、ダメージは大きいようだ。当たりどころが悪かったのだろう。死にかける事でかえって動きが洗練される事は、割とよくある事だ。

 

それでも、崩れないのが熟練だ。

 

「ハイピクシー!」

高位広域回復魔法(メ・ディラマ)!」

 

傷を負ったならばすぐに回復。堅実な手であり、基本だ。

 

「なんで、倒れないのよ!」

悪魔召喚士(デビルサマナー )だからよ」

 

銃弾が少女の肩を狙う。それを当然のように宙を蹴り回避するが、今回の銃弾の目的は攻撃ではない。

 

その本命は、空を駆ける天馬の足音をかき消すための銃声だ。

 

『デオン』

『任せてくれ、サマナー』

 

ペガサスから飛び降り、天から舞うように降りてくるデオンの一撃を隠すためにその銃声は鳴り渡ったのだ。

 

僅かな風切り音で気づいた少女は、すんでの所で回避しようと宙を蹴るも、その位置には俺が弾性術式(クッション)の魔法陣を仕込んでいる。少女は足を取られてさらに一手遅れた。

 

それは、白百合の騎士シュバリエ・デオンを相手取る少女にとっては致命的といって過言ではない。

二手の猶予があるならば、難しい生け捕りとて容易だ。

 

「カハッ!」

「当然、峰打ちだよ」

 

落ちる少女を抱きとめる。そこにカラドリウスの回復魔法(ディア)で命を繋ぐ。切り裂かれていた身体はとりあえず治療され、命を繋ぐ事に成功した。

 

「デオン、このままペガサスで持ってくぞ」

「分かってる、それが一番速いからね。アカネ、君も急いで来てくれ。嫌な予感がするんだ」

「わかったわ。セタンタ、タムリン、先行して。指示は千尋に」

「「了解です、サマナー」」

 

頼らる援軍が来た所で、ペガサスに3人乗りで空を駆ける。速度は落ちるが、直線距離で迎えるためこれが一番速い。

 

そうして、ミクリアさんの切り札により吹き飛んだ工事現場に空から突っ込む。

 

少女の頭にP-90の銃口を当てながら

 

「動くな、赤鬼!」

 

だか、赤鬼はどこにもいなかった。

 

「躱せぇええええ!」

 

ミクリアさんの叫びが聞こえる。赤鬼は、居ないのではない、隠れたのだ。一閃の威力を知り、魔術の使い手を逃した事を知り、自分の力での正面戦闘よりも勝率の高い方法に、確実に少女を守れる方法に切り替えたのだ。

 

感知できなかった。いや、感知できていても認識できていなかった。

 

攻撃の瞬間に気配が漏れたその一瞬以外には。

 

言葉を交わす余裕もなく、少女を抱え込んでペガサスから落下し、デオンが一合その奇襲を受け止める。

だが、慣れない馬上である事が災いし、ペガサスごと吹き飛ばされて工事現場の足場に叩きつけられた。

 

そして、片手を少女に使っている上に無理な落下、迎撃は片手撃ちでのP-90のみ。

 

そんなのを、あの赤鬼が見逃すだろうか。そんなわけはない。

 

「主殿を返してもらう」

「バルドル!」

 

空中にバルドルを召喚するも、踏ん張れないバルドルでは一合防ぐので精一杯。だが、一手だけは撃てる。

 

反射の魔法陣を足場にして、片手で赤鬼に銃弾を叩き込む。当然のように斬りはらい向かってくるが、銃弾の中に紛れ込ませたルーンストーンを斬ったことによるMAGの爆発により目を眩ませる。

 

その光と共に、アイコンタクト。それだけで、お互いの戦術は伝わった。

 

「俺ごと!」

「百も承知だ!ジークフリート!」

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 

一閃が放たれる。その斜線には、俺ごと少女が存在する。果たして、あの赤鬼はどういう選択をする?

 

正直、即興の作戦であり、賭けの部分は大いにある。だが、鬼になってまで戦い続けるその姿は紛れもなく英雄のものだった。なら、その心の動きにより守らざるを得ないだろう。

 

この、ペルソナ使いの少女を、抱えている俺ごと。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

赤鬼の選択は、俺と少女を抱えてバルムンクの斜線から逃れる事だった。

 

俺と少女を抱えて赤鬼が駆け抜ける。

 

その一瞬で、目が合った。誰かを守ろうとする、英雄の目だ。

はたして、俺の目はあの赤鬼にはどう映っただろうか。

 

「お覚悟を!」

 

右手のP-90構えるも、ついでのように弾き飛ばされた。だが、それは囮。

 

本命は、俺の左腕に重ねて簡易召喚した雪女郎の一撃だ。

 

俺ごと少女を抱えている赤鬼には、今手を触れられる程に距離が近い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

高位氷結魔法(ブフーラ)!」

 

ゼロ距離からのブフーラは、力場を抜けて、赤鬼の体の芯を凍りつかせた。

どんな力があろうと、致命の一撃が当たれば死ぬ。それが、この世界のルールだ。

 

どうにか体捌きで足から落下し、少女へのダメージを受け止めてから、赤鬼を見る。

 

霊核にダメージが入ったのか、赤鬼は赤毛の忍の姿へと戻っていた。

だが、口周りの氷を砕き、血を吐いてもまだ目は死んでいなかった。アウタースピリッツ、異世界の英雄。本当に、恐ろしい事この上ない。

 

「主殿を、どうするつもりだ?」

「尋問はするが、命は約束する。この少女は、この世界について大切な事を知っているからな」

「何に、誓える?」

悪魔召喚士(デビルサマナー )、花咲千尋の名前に誓う」

「デビルサマナー ...今の世の、守りし者か...」

 

その言葉を最後に、だらりと両手を下げた。

赤鬼になるあの技のデメリットと、霊核に与えたダメージにより限界だったのだろう。アウタースピリッツの消える際に発生する光の発生も確認できている。

 

これが、赤鬼の最後だ。

 

「なーんて、甘い事考えてない?花咲千尋くん」

 

第六感、そうとしか言いようのない感覚に従って少女を抱えて地面を転がる。自分のいた場所には、奇怪なトランプ兵を模した巨大なナイフのようなものが刺さる。

 

一本一本に、どうかしていると思えるほどのMAGが込められている。こんな事ができる術者はそういない。やはり絡んでいたか、アリス!

 

「デオン!殺せ!」

『大回りに回り込んで先にミクリアさんと合流しろ。あのバルムンクとやらが、今回の鍵だ』

「サマナー!すぐに行く、待っていてくれ!」

『...君は命を繋げるかい?』

『任せろ。これでも俺は、死んでないのが強みなんだ』

 

上空からふわりと降り立つアリス。今回は英雄を連れていないようだ。その目的は、明白だろう。

 

「風魔小太郎。死んじゃうなんて残念。でも、そのおかげで相応しい英霊じゃないってわかったからいいんだけどね」

「ヘラクレスみたいに、魂を縛るつもりか?」

「当然。これから戦う相手を考えると、手駒は欲しいもの」

「じゃ、やめときな。その忍者、まだ生きて、反逆する気でいるぜ?」

 

その言葉にハッと小太郎の方を振り向くアリス。

降りた手のスナップだけで投げられた手裏剣が、アリスの頬を掠めた。

 

再び彼と目が合った、彼女を頼むと言われたような気がした。

 

「こた、ろう!」

 

抱えている少女が目を覚まして動き出そうとする。最悪のタイミングで目覚めたな畜生。

 

「主殿、お逃げください。ここはこの、風魔小太郎が引き受けました」

「そんな身体で何ができるの?」

「こういう事ができる!不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)!」

 

消えかけの体で、風魔小太郎は再び忍を召喚した。その200の数の暴力は、ふわり擬音がつきそうなアリスの手の一振りで吹き飛ばされた。

 

だが、その先に風魔小太郎と俺たちの姿はなかった。

霊体の忍者達を使った、空蝉の術だ。

 

フッと笑みを浮かべて、小太郎は消えていく。残留した忍の集団が俺たちを隠してくれるが、それももう意味はない。

 

状況は、万全に整った。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 

ジークフリートの一太刀が、アリスを襲う。

流石に見ていたのか、防ごうとせずに余裕をもって回避しようとしたが、その一太刀に合わせてタムリンとセタンタが駆け抜けてきた。

 

自傷覚悟での特攻により、バルムンクを躱したアリスに追撃をかける2人。だが、魔導障壁により二人の攻撃を防御した所に、次の矢が放たれる。

 

ミクリアさんと合流した、ペガサスとデオンだ。

 

ペガサスの突撃が障壁を襲う。受け止め切られた所でデオンがペガサスから飛び出し、障壁を足場にして横を取って斬撃を放った。

 

咄嗟に魔導障壁を張ったようだが、空中で回転しながら放たれたその斬撃はアリスを吹き飛ばすのに十分な力を発揮し、チャージを終えているセタンタとタムリンの前へとアリスを追い込んだ。

 

「やれ!」

「鬼神楽!」

「暗夜剣!」

 

アリスは、障壁を張ることもできず、二人の攻撃を正面に受けて崩れ落ちた。またしても、あの泥だ。

 

だが、そこから先が違う。まるで逆再生のように泥が再構築されて、アリスは再び現れた。

 

「片手間でできないことはなかったね。まぁ、疲れたけど」

 

その手に、光を握りしめて。

 

「止めろぉおおおおおお!」

 

その声を聞き、タムリンとセタンタが胴と頭蓋を貫く槍を放とうとしたが、それはあっさりと躱された。相変わらずの生き汚なさだ。

 

そして、その呪文が紡がれる。

 

「ネクロマ♪」

 

ストレージから取り出されていたであろう何者かの死体を媒介にして。

その光は、再構築された、赤毛の忍はこの世に蘇ってしまった。

 

「主、殿ッ!お逃げ、ください!」

「小太郎!」

「今は前に出るな。しっかり見て、自分で判断しろ」

 

「お前の忍の、生き様を」

 

展開され続けていた忍軍が、一斉に忍へと襲いかかる。そしてそれを忍は、()()()()()()

 

「へぇ、自分で死ぬことを選ぶんだ。霊核へのダメージはもう致命的だから、契約を結びなおしても意味はない。...あーあ、白けちゃった。私帰るね。でも、負け犬のアザミちゃん」

 

「貴女は、死んでくれる?」

 

瞬間、俺たちの頭上に数多のトランプ兵の大型ナイフか現れる。

これは、俺もついでで殺されるな。

 

だが、せめて守ることだけは続けようと、少女を抱えて体で守ろうとして。

 

あの忍の自殺に関わっていなかった忍びたちが、自分たちに当たるナイフを体を使って防いでくれた。

 

死して尚、守る心。これが、異世界の英雄たちか...

 

そうしてナイフの雨が塞がれているときに、地を走るペガサスに乗ったデオンが俺たちを拾ってくれた。

 

なんとか、逃走成功だ。

 

「...あー、相性か。死んでる霊体には通じないんだね、コレ」

 

そんな言葉をごちてから、アリスは術の発露を止めた。

興味が失せたのだろう。

 

「じゃあね花咲千尋くん。約束破ってごめんね。本当は君は殺したかったんだけど、準備する前にまた出くわしちゃうんだもん。これって、運命だよね?」

「互いに間が悪かっただけだと思うぞ。マジで」

「ふふっ、そうだね。じゃあ、また会うかもしれないから、あの約束は撤回するわ」

 

「いつか、あなたを殺すわね。花咲千尋」

 

その言葉と共に、霞のようにアリスは消えていった。

痕跡は、残っていない。残留MAGも術師である彼女なら、おそらく何かしらの罠は残しているだろう。

 

駆けつけてきたアカネさんの到着と、事件を嗅ぎつけ駆けつけてきたヤタガラスの術師がやってきたのは同時だった。

 

 

とりあえず、今日の戦いは終わりのようだ。

 


 

それからのこと、アザミへの事情聴取を終えて情報を整理したところ。結界のゆらぎで把握できていなかったアウタースピリッツの存在は、俺たちトルーパーズを驚愕させた。

 

根本的な所で、対アウタースピリッツ対策を見直す必要があるかもしれない。そう、ミズキさんは言った。それは事実だろう。

 

サンプルとなるアウタースピリッツでもいれば変わるかもしれないが、アウタースピリッツの存在そのものが結界に対する害のようなものなので、悠長に放置しておくことなどできるわけがない。辛い所だ。

 

もう一つ、以前の現場検証で回収したアリスの泥と、影の泥が同一のものであることが解析によって判明した。アウタースピリッツに繋がると思われる技術な故、細心の注意を払わなくてはならないが、これはある意味朗報だ。

アリスを捕らえれば、影についての情報も纏めて抜けるのだから。

 

そんな事を考えていると、ヤタガラスの支部へと呼び出しがかかった。

あのペルソナ使いの少女が、俺と話をしたいと言ったのだそうだ。それが、情報開示の条件だと。

 

ペルソナ使いには暗示の類は効き辛い。ならば、行くのは道理だろう。

 

「来たぞ、風魔薊(ふうまあざみ)さん」

「花咲千尋、さん」

 

その目は一度俺を見て、また俯いた。それだけ、あの忍の存在が重かったのだろう。それでも前を向くために、少女は立ち上がろうとしている。そんな気がした。

 

「花咲千尋さん、教えて下さい。どうして私を助けたんですか?あの時あなたは私を見捨てて自分だけ逃げるのが正解だったはずなのに」

 

「私、返せるものなんて何もないですよ?」

「別にあんたに対して何かを求めた訳じゃない」

 

「俺は、悪魔召喚士(デビルサマナー )だからな。約束は守るんだよ」

「約束?」

「今際の際に頼まれた。それは、命を賭ける理由には十分だよ」

「...小太郎ッ!」

 

ひとしきり涙を流した後で、ポツリポツリと話始めてくれた。

 

風魔小太郎という英雄と、彼と共に生きた少女の話を。

 


 

風魔小太郎と名乗る少年が捕らえられたのは、秋の終わりの頃だった。その時私は里で一番の退魔の腕を持つ凄腕で、得体の知れない相手に対してのカウンターとしては十分だった。

 

それだけ、里の総勢でかかっても殺せなかった風魔小太郎という少年を危険視しているのだ。

 

そうして、小太郎にご飯を運んだりする中で、徐々に私は小太郎に絆されていった。忍としては最悪の類だが、不思議と、この少年に対して悪意を持てなかったのだ。

 

何か、大事な会話をした覚えはその時にはない。ただ、その日にあった事を何となく伝え、それに対して小太郎が笑う。そんな日々だった。

 

あの日、アリスと名乗る女魔術師が里を殲滅しながら小太郎を探しに来るまでは。

 

「こんな所に隠れていたんだ、風魔小太郎」

「何奴!」

「アリスと呼んで。私は、あなたを勧誘しに来たの。この世界を救うために」

 

「アザミ、逃げるんだ。コイツの狙いは僕だ、君の足なら逃げられる」

「私は風魔の忍だけど、小太郎見捨てて行けるほど情が薄い訳じゃないのよ!トビカトウ!」

 

そうして、最速の一撃を放ち

 

一瞬で命を握られた。

 

「あなたを捕らえるなんて、酷いよね?あなたは、世界こそ違えど、伝説の忍者、風魔小太郎その人なのに」

「この世界で僕は部外者だ。何を言うつもりはない。だが、彼女は関係ない、解放しろ」

「んー、無理かな。ここで逃すと、多分復讐に狂って面倒だし」

「待て、この風魔の里に何をした!」

「君の事を聞いても教えてくれないから、一人ずつ殺して回ったの。まぁ、別にいいでしょう?あなたとは無関係どころか敵対している者達なんだから」

 

その言葉に絶句した私だが、小太郎は違った。いかな技術か術札の貼られた牢獄結界をするりと抜け出し、彼女の手から私を救い出してくれた。

 

「お前を殺すのは、難しいだろうな。お前はどうせ、只人ではないのだろう?」

「わかるんだ」

「僕も、異形の血を引いているからな」

 

睨み合う二人、だが、小太郎は動けない。私を守っているからだ。

 

忍が、そんな事をして命を繋げる訳がない。

 

小太郎を逃すための最適手段は、足手まといをなくす事だ。そう思って、クナイに手を伸ばし、己の首を掻き切ろうとして

 

その手を、小太郎に掴まれた。

 

「条件がある」

「何?」

「彼女を解放しろ」

「じゃあ、あなたが守ったら?今みたいに」

「足枷のつもり!風魔の忍は、命を惜しんだりはしな...ッ!」

 

そう息巻いた所で、アリスから濃密という表現では足りない狂気的な殺気が放たれた。

 

ただそれだけのことなのに、私の言葉は止まり、動きは止まり、手からクナイは零れ落ちた。

 

私は、駄目だった。力はあっても、心が足りなかった。

 

そんな私を、小太郎は抱きしめてくれた。

 

「わかった、解放は諦める。だが、僕の主を彼女と定めた。行くなら、彼女も一緒にだ」

「わかったわ。えっと、風魔薊さんだっけ?あなた、私に刃向えるほど強くはないみたいだし、認めてあげる」

 

「さぁ、一緒に世界を救いましょう?」

 

それが、優しい地獄の始まりだった。

 


 

アリスの殺し散らかした命を埋葬するのに、2日かかった。

意外なことに、アリスも埋葬を手伝ってくれた。その理由はどうせロクでもないものだけど、ちょっとだけ、彼女を信じていい気持ちにはなった。

 

世界を救う、そんなお題目を。

 


 

それからは、アリスの魔導技術の粋を詰めて作られた虚数空間プログラムを利用して様々な悪事を行った。大型コンピュータの処理能力をフルに使わねば発動できないという欠点はあったものの、虚数異界を作り出す力と、異世界の魂である小太郎の力を使っての虚数空間からの脱出をうまく使って数々のミッションをこなしていった。

 

だが、それの殆どが窃盗や強盗。時には美術品ですらないものをかき集めるという仕事だった。

 

信用調査だったのだろうか、そう思い小太郎に相談してみるも小太郎にもわからないそうだ。ただ、異世界の魂を引きつける何かがそれにはあるのではないかと推測はしていた。

 

そうして、遡月の地に踏み入れて、失敗した。

 


 

「それが、私たちの事実よ」

「...細かい窃盗物のリストは、後で作ってくれ。何かわかるかもしれない」

「私のCOMPにあるわ。小太郎が、いざって時のために作ってくれたの」

「...そうか。後は任せろ。あのアリスという術師は、俺たちが必ず殺す。だから、お前は好きにしろ」

「いいえ、私のCOMPのデータの提出を条件に、取引がしたいの。あなたは、アリスの敵なんでしょ?」

「...お前が、やりたいのか?」

「私、薄情でしょ?風魔の皆が死んだ時はそう思わなかったのに、小太郎が死んだことには耐えられない。復讐せずにはいられないの!」

 

「だからお願い、花咲千尋。私に、アリスを殺させて」

「...わかった、上に掛け合ってみる。そこまでが、条件だ」

「...ありがとう、悪魔召喚士(デビルサマナー)

 

その言葉と共に、風魔は胸元からCOMPを取り出した。

 

データリンクにより、リストが送られてくる。確かに、一見ガラクタのようなものが多いが、ある一つの要素として見るとそのリストには一貫性があった。

 

霊基再臨(ハイ・レベルアップ)の触媒となり得る物だ。

 

アリスは、アウタースピリッツを強化しようと試みているのか?

 

「...そういえばこの石像どうします?」

 

風魔が、騎士の石像を取り出す。やはり、込められたMAGは相当なものだ。

 

「考えなしに返したら、無駄に被害が広がるだけだ。俺が中のMAGを処理してからヤタガラスに報告するよ」

「...ありがとうございます」

 

まぁ、処理する前にしっかりと使わせてもらうが。

 


 

「じゃあ、やるぞデオン」

「ああ、頼むよサマナー。アリスと戦うために、強くなってみせる」

 

霊基再臨(ハイ・レベルアップ)の術式で、デオンの魂に騎士像のマグネタイトをゆっくりと浸透させていく。

 

次第に、デオンの戦闘形態の衣装にあの時のマントが構築されていった。青い軍服に白いマント。本当に映える絵だ。

 

その後、騎士像本体をマグネタイトに分解して、デオンの魂にある種のコーティングを施す。

これで、魂からMAGが漏れ出す事はない。

 

霊基再臨(ハイ・レベルアップ)、完了だ。

 

「気分はどうだ?」

「...ああ、生まれ変わった気分だ。今からでも悪魔の群れを切り捨ててみせようか?」

「いや、流石にそれはやめとけ。身体機能の確認する前に突っ込んで死なれたら困る。造魔であるお前は、蘇生に反魂香が必要なんだから」

「...そうか、サマナーがそう言うのならやめておこう」

 

こいつ、若干本気だったな。

 

「じゃあ、ミズキさんに口裏合わせて貰ったし、アカネさんとミクリアさんに連絡入れて報酬貰いに行くか。一応、事件は解決したんだし」

 

その日は、口約束の報酬が、一人頭なのか全員合わせてなのかの口論が始まり、グリーンとして商品を下ろさなくするぞという脅しのもとどうにか一人頭3000万を約束させた。

 

とはいえ、全員で収支を言い合せたところ、全員まとめて赤字だったのは笑い話にもならない。ヤタガラスに全員分の追加報酬を要請しておくことにする。

 

そんなこんなで、熟練のサマナーとの繋がりができた以外にはまたしても赤字の事件だった。

 

その後二人に一応魔力探査機をかけてみたところ、()()()()()()()()()()()。正直、ジークフリートは怪しいと踏んだのだが、空振りか。

 


 

「ジークフリート、どうだった?」

「あのデオンという騎士、恐らくは同属ではないだろう。魔力の反応がない上に、肉の体がある」

「お前たちは、英雄っても霊体だからな。だが、サマナーが何かしらの邪法を使ったとは考えられないか?」

「それを、あの誇り高い騎士が受けると思うか?」

「...ないな。とりあえず花咲千尋は白か。全く、当たりかと思ったんだがなぁ...」

 

「ガイアーズとして、悪魔と人の共に生きる世界を作るため、何をするべきなのかねぇ」

 

ミクリアは、迷いながらも歩き続けていた。

この世界の真実を知らない、ただ一人のサマナーとして。




風魔小太郎、撃破!
本当は長期戦にして、宝具のデメリットで倒そうかと思っていたんですが単純に小太郎が速すぎて無理でした。二段階上昇と仮定してもA+++ってどんなステータスやねん。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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