「雪女郎!
「残念ね、
ラクシャーサの雄叫びに含まれたMAGにより、こちらの筋力と耐久力にマイナスがかかる。力場干渉術の中では上位の術だ。
だが、その手は読めている。
「
嘶きとともに発せられる破魔の光。だが、当然のように敵サマナーは防御策を準備していた。
「
防護壁展開による即死魔法の無力化。そう長くは保たないが、これで破魔呪殺により数を減らすことはできないようだ。
軽く事前準備を打ち消し合っているだけだが、それだけで手練れだとわかってしまう。
面倒な手合いだ。
しかも、こちらには人質となり得る11人の一般人がいる。極力、見捨てたくはない。
そう思っていると、オカマのハンドガンによる銃撃が人質に向けて放たれ、それをデオンが切り裂いた。
指示は、出していない。
『デオン、お前...』
『僕は、彼らを見捨てることはできない』
『...わかった。その人たちは任せる』
デオンの意思は、固かった。
俺が思っていたよりも、別れの時は近いのかもしれない。
「あなた。正義のために私たちの計画を潰してくれちゃったわけ?」
「いや、たまたまだ。探偵の依頼で探してた人が、お前達のオタノシミの中に入ってたんだよ。なら、殺して奪い返すしかないだろ。この世界じゃ」
「成る程、フリーのサマナーね。...1億出すわ。それで引いてくれない?」
「やめておくよ。後ろから撃たれるのはゴメンだからな」
「あら、バレてたの」
「アンタが仲間を殺されて苛立っていない風には見えなかったもんでね」
「良い目をしてるわね。ちょっと妬けちゃうわ」
おそらく妥協点を見つけようとして始めた会話だが、ハナからお互いに殺す事しか頭にないのがわかった程度の利点しかなかった。
正面戦闘は避けたかったのだが仕方ない。
ちょうど、異界を潰した事でMAGの補充もできている。
さて、死合い開始だ。
「カラドリウス、
「ストーンの在庫切れ狙い?甘すぎるわよ!デカジャストーン!ラクシャーサ、応戦!」
「ラームジェルグ、バルドルの援護!バルドルはヴィヴィアンに突貫!」
ラクシャーサとラームジェルグが剣戟を始めたのを尻目に、バルドルはヴィヴィアンへと突撃する。それを、清姫という少女が炎にて迎撃しようとするが、当然無視だ。
「雪女郎!」
「はい、サマナー!」
「「
魔法陣を通して、力場への目標指定をつけた広域魔法にて敵を攻撃する。
命を取れるとまでは思えないが、目くらましにはなる。
「仲魔ごとッ⁉︎」
「いつもこんな役回りだよ、俺ァ!」
氷結魔法がバルドルが力場の内側で弾け、バルドルに向かってきた炎とぶつかり弾けて目くらましとなる。
そのくらいの隙があれば、敵の連携の起点となるだろう回復役を叩くには十分だ。
「万魔の乱舞!」
「甘いわよ、
ヴィヴィアンとホルスの位置が、一瞬にして入れ替わった。悪魔召喚プログラムの
そうして入れ替わったホルスの身軽さをバルドルの万魔の乱舞は捉える事が出来ず、バルドルは完全に隙を晒していた。
「ホルス!」
「キエェエエエエ!」
その疾風魔法をモロに受けたバルドルは、傷つく事はなくとも吹き飛び、建物の壁に叩きつけられていた。
「チッ、面倒臭せぇな」
「氷結と疾風への耐性、それに万能属性魔法。優秀な前衛ね」
「そりゃ、自慢の仲魔ですから」
正面を張っていた仲魔が共に居なくなった事で、お互いの射線が通る。
P-90に装填した神経弾をばらまく事で牽制をするが、巨漢に似合わぬ素早い動きで的を絞らせず、躱し切られた。
そしてリロードの隙にグレネードが投げこまれた。
デオンが対応しようとするも、あれはおそらく魔道具の類。込められているのは爆薬ではないだろう。
弾けて飛んだのは、MAG。それも、延撚性の高いモノ。
最悪なのは、それが俺を狙ったのではなく11人の生身の人間を狙った事だろう。
「清姫ちゃん、行っちゃって」
「ええ。どうか照覧あれ!これより、淫欲に溺れた嘘つきを焼き払いましょう。
叫ぶ前に、デオンは飛び出していった。最悪の想定を覆す為に。
デオンが一歩目を踏み出した瞬間、叫ぶ事よりも一瞬でも速く鋭くその術式を組み上げる事を優先した。
『雪女郎、任せた』
『いいえ、あなたがそういう人だから、私は
まったく、自分としては普通に生きていただけの筈なのに、とんでもない忠臣を得ていたものである。
だが、だからこそこのぶっつけ本番は信じられる。
「肉体構成、分解。構成要素、抽出、装填」
巨大な青い炎の大蛇と化した少女の口に、高密度の魔力が込められる。ドラゴンブレスというやつだろう。アレを正面から受け止めようとしているデオンは、本当にどうかしている。
きっとそれが、英雄の条件なのだろう。
「纏めて焼き尽くしてしまいなさい!」
「デオン!」
術式の完成と共に、俺の心の全てを込めて、伝える。
デオン自身にもまだ伝えていないこの術式。デオンが対魔力で弾いてしまえばおしまいだ。デオンは焼かれ、人々も焼かれ、死ぬだろう。
そんな未来、御免だ。
「信じろ!」
その言葉と共に、雪女郎の構成要素を契約のラインを伝ってデオンへと流し込む。
その言葉を信じてかどうかは知らないが、デオンはそのMAGを受け入れて、力を発現するデバイスになってくれた。
条件は全て整った。ここからは、俺たちのターンだ。
大蛇から放たれるドラゴンブレス。それをデオンは
『これは?』
『雪女郎に感謝しろよ。ノータイムでお前と俺に命を預けてくれたんだから』
『...サマナーなら、私を見捨てて敵を叩くと思ったんだがね』
『それで、その人達の命が守れるならそうするさ。だけど...』
『その可能性は、ゼロだろ』
『...』
『俺は全てを救える
『俺と共に戦ってくれ。白百合の騎士、シュバリエ・デオン』
その言葉への返答はただ一言、『わかった』とだけだった。
「清姫ちゃん、その騎士に近づかせちゃ駄目!」
再び放たれるドラゴンブレス。だが、それに対して今度は神速で踏み込み、口ごとブレスを両断した。
その断面から氷が生え口を凍てつかせる。これで、もうドラゴンブレスは放てない。
ついでに窒息でもしてくれたら儲けものなのだが、あれはおそらく霊体、それはないだろう。
「そのままぶった斬れ!援護は、させない!」
回復魔法のラインがヴィヴィアンから大蛇へと向かう。睨んだ通り、あの妖精は敵の回復の要なのだろう。
故に、全力をもって潰す。
まず、ペガサスをホルスにぶつける。瞬間速度では向こうの方が上だが、小回りはペガサスが上回っている。倒す事は出来ずとも、止める事は可能だ。
そして、魔法で吹っ飛んだバルドルが再びヴィヴィアンに接近する。
ホルスをペガサスが
ラクシャーサをラームジェルグが
敵サマナーを俺が
大蛇清姫をデオンがそれぞれ抑えている。
向こうの
「仕方ないわね!アギラオストーン!」
故に向こうは人質狙いで気をそらす事くらいしか今取れる手はない。
だが、こっちは現代魔導師だ。ストーンの扱いについてなら一家言ある。
「その火は止める!」
魔法陣展開代行プログラムにより、ショートカットに仕込んでいるストーンの誘導術式を簡易展開して、アギラオストーンの対象を上空へとズラす。
これで、引火は防げた。
そして、最短で動いていたバルドルの万魔の乱舞が、回復魔法に集中していたヴィヴィアンに着弾する。
着弾は四発。両手と胴と頭が吹き飛んだ。
これで、一匹
「清姫ちゃん、リターン!ラクシャーサ、ホルス、殿!」
状況が不利に転じたと見て、即座に逃げに転ずるあたりはやはり腕利きだ。
顔を見られた俺は、ここでコイツを逃せば常に組織的な報復を警戒しなくてはならなくなるだろう。
だから、ここで仕留めたい。だが、手が無い。
事前にフィールドを整えさせてくれるのであれば、転送妨害の一つや二つ仕込んでおくのだが。残念ながらそんなモノはない。
「
仕方がないので、残ったラクシャーサとホルスに全神経を向ける。
アナライズジャマーの効果が消え、数の利点も無くなった今、相手取るのは容易だった。
具体的には、ペガサスがホルスを地に落として、その後デオンが二人の首を刈り取るだけだった。本当に、芸術的な剣さばきだ。
とはいえ、ここで殺したとしても契約があのオカマに残っているので得られるものなどコイツらの召喚に使ったMAGくらいしかないのだが。
「術式解除、デオン、雪女郎、気分はどうだ?」
「実に奇妙な感覚だったよ。自分の体じゃないと感じられるのに、自分の自由に動かせるんだから。だが、こんな術があるなら事前に練習の一つでもさせて欲しかったね」
「私もですわ。咄嗟のこことはいえ、やはり覚悟は欲しかったのですもの」
「悪かったよ二人とも。もう少ししたらヤタガラスから人が来る。それまで、ここを守るぞ。」
10分後、ヤタガラスの術者たちと、近くにいた所長たちがやってきた。縁は怒りを覚えていたようだが、ミズキさんも所長も淡々としていた。こんな業界に生きているのだ。スレもするだろう。
そうして術者たちが人々を保護をしていると、ひとりの少女が目を覚ましてしまった。
あの時銃で撃たせてしまった子だ。
「嘘、いや、違う、違う、私、私は、私は...」
そんなうわごとを口にしながら、手近に落ちていたガラスの破片で自らの首を刺し貫こうとしたのだ。
幸いにも術者に止められ、命に別状は無かったが。うわ言で「フジワラくん...」と呟くその姿は、痛々しかった。
それだけ、依頼主の彼の事を愛していたのだろう。歪んだ愛情表現しかできなかったとしても、その想いは本物だったのだ。
これは、この世界の裏側でどこにでも転がっている一つの悲劇だ。
だから、きっと心を鈍化させて無視してしまうのが一番なのだろう。
それでも、俺の心が動いてしまったのは、知らぬうちに白百合の騎士の気高さに触れてしまったからだろうか。あるいは、別の何かだろうか。
少女に歩み寄り、その目を見てしっかりと言う。
「安心しろ。君の受けた悲劇は、なかった事になる。だから、いつかきっと胸を張って好きな子に会うことができる。君の心にも、身体にも、悲劇の痕跡は残らない」
「でも、私は汚されて、汚れたの。私、知らない男相手に自分から腰を振ったのよ?ただ快楽を求めるためだけに。そんな奴が、彼の側に居ていいわけがないッ!」
その激情は、きっと完全に無かったことにはならないだろう。胸を穿つように、永遠に傷跡として残り続けてしまう。
記憶は消せても、感情は消す事はできないから。
だから、できるのはこんな事くらい。
「約束する。君を悲劇に陥れた奴らは、必ず終わらせる。だから、その怒りも苦しみも、俺に引き受けさせてくれ」
その言葉と共に、簡単な暗示を仕込む。その痛みを思い出して辛くなったり苦しくなったりした時は、彼の元に駆けるという暗示を。
他力本願になってしまうが、この少女の心を救えるのは、想い人たる依頼主だけだろう。
だから、その後押しをする。彼女自身が、彼女を許せるようになるその日がいつか来る事を願って。
その後、ヤタガラスの術者たちにより人々は回収されていった。
認証コードの関係上、ほとんどが売られたか行方不明になっていた人達だということがわかった。
まずは仮定する。ファントムの狙いは、単純にMAG集め。
その大目的は、有事の際にハイクラス悪魔を運用するため。
その有事の際とは、結界更新だろう。
どうにも、分不相応な事態に巻き込まれている気はしないでもないが、やるべき事とやりたい事は決まった。
「デオン、これからお前を相当こき使う。思う所はあったとしても、契約解除は待ってくれないか?」
「何をする気だい?」
「この遡月の街のファントムソサエティを、殲滅する」
「何のために?」
「...そこんとこは、実の所割り切れてない。まぁ、多分同情かなんかだろ」
その言葉を聞いたデオンは、ため息を一つ吐いたのち、こんな事をのたまった。
「君のそれは同情なんて安っぽいものじゃない。義憤という奴さ」
「義憤ねぇ...」
「その義憤を果たすため、私は騎士として君の味方をしよう」
「いいのか?お前は、俺を信じてる訳じゃないんだろ?」
「正直なところを言うと、君に100%の信頼を寄せることはできていないし、君のことを理解できたと自惚れるほど君のことを知る事も出来ていない」
「でも、君を見ていたいと思ったんだ」
その目は真摯で、奇妙な力強さがあった。
「今のところ契約を続けるのには、それを理由にしようと思う」
「...悪いが、割とつまらないタイプの人間なんだ。見飽きるなよ?」
「その時は、君を見限って新しいサマナーを見つけるさ」
それは、これからの人生を縛りかねない契約だ。
だがデオンの言う事は、俺には好きにしろと言っているように聞こえた。それが外道なら、道を違えて刃を向け、それが善の道なら、道を違えず共に行く。
そして、俺は今の所外道に落ちるつもりはない。ならば、この契約はとりあえず得だと考えていいだろう。
いつか、デオンが道を見つけるまで、俺とデオンは共に行く。
今は、それでいいだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「人員の配置は大丈夫ですか?」
「ええ。ですが、本当に可能なのですか?超広域探査術式なんて」
「魔法陣展開代行プログラムがあれば、術式自体はMAGさえあれば誰でもできます。問題なのは反射波の解析ですけど、それもこの支部のアンテナがあれば、検知は可能です。まぁ、波として流すMAGが結構な量になるのと、MAGの波を敵にも感知されてしまうって問題はあるので多用は出来ませんがね」
先ほどの異界で得たマグネタイトは、今回の広域探査で6割ほど吹っ飛ぶだろう。なかなか素直に黒字とはならないものだ。
「じゃあ、行きます。MAG波、放出!」
アンテナを中心に発動させた術式により、遡月市全体にMAG波が放たれる。
メシア教やガイア教の重要施設はMAGコーティングされているから意味はないにしても、これで今回のような間に合わせの人造異界反応は得ることができる。
「結果来ました!人員配置ドンピシャです!」
地脈の影響を受けやすく、かつ人目につかない場所とくればある程度絞れる。それに、臨時拠点を結んで大魔法陣を組み上げる事を選択肢に入れるなら、一つのポイントさえわかれば後のポイントは逆算可能だ。
まぁ、それが五芒星か六芒星かはたまた別の陣なのかは分からないため、最後は所長の勘に頼ったのだが。
結果は、五芒星の陣。多少歪んでいるが、それは術者の腕次第でどうとでもなる。
そんな反応とともに見ていると、検索対象であるあのオカマのMAG反応が発見された。五芒星の中心、老朽化が原因で取り壊しが決まっている市民会館だ。
「じゃあミズキさん。行きましょう」
「ええ。しかし、こんな突然の作戦によくも人手を集められましたね」
「ほとんどテンプルナイトですけどね。恩って奴は売っておくもんですよ、ホント」
他には、所長の舎弟をしているガイアーズやこの前知り合ったアカネさんとミクリアさんにも声をかけ、オーケーを貰った。
まぁ、クソ厄介な事しかしないファントム連中を本腰を入れる前に叩ける上に、ヤタガラスからの追加報酬もあるとなれば、受けないというのは損なのだろう。多分。
「アカタニさん、以降の指揮をお願いします。行きますよ、花咲さん」
「ええ、行きましょうミズキさん!」
俺はペガサスを、ミズキさんは斉天大聖を召喚し、加速術式を使っての高速飛翔で目的地に着く。
所要時間は、2分ほど。この遡月支部のほど近くに拠点を置くとはなかなかの剛毅っぷりである。まぁ、そのおかげで手早く済むのだが。
「屋上から包囲結界張ります。ミズキさんは基点の防衛を。下に逃げる雑魚はとりあえず無視します。上に来る奴は本命以外適当にあしらうので、対処をお願いしますね」
「ええ、わかりました。でも、いいのですか?依頼主である花咲さんには報酬なんかないのに」
「約束は守るタチなんですよ」
そんな言葉と共に、使い捨てのスマホに入れた魔法陣展開代行プログラムを起動させる。結界発動までの術式を展開した後、MAGバッテリーを使っての術式のリピートを起動させる。それをミズキさんに投げ渡し、屋上からデオンを先頭にして、突入する。
今度は、逃がさない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
突然のMAG波と息をつかせぬ結界に対して敵の応戦は遅く、パニックになった者達は物の数ではない。
一人、また一人と命を断つ。市民会館の通路はそこまで広くない。悪魔を1、2体使うのがせいぜいだろう。なので、ペガサスはもうすでにリターンし、雪女郎を召喚している。
デオンが斬り裂き、雪女郎が凍らせ、俺が撃ち抜く。
そうして、旧市民会館の中心部に向かう通路にて、清姫という少女を傍に置いたあのサマナーの姿があった。
「...あの時の広域MAG波は、やっぱりあなただったの。
「ヤタガラスの施設を借りた。これでも、認定書持ちなんでね」
「嘘ですわ。サマナー。あの人は認定書とやらを持ってはいません」
嘘を見破る能力のようだ。まぁ、厳密には仮の認定書なので全部が嘘という訳ではないのだが。
大蛇になる能力といい、あの時放とうとしていたドラゴンブレスの魔力といい、あの清姫という子はアウタースピリッツの可能性が出てきた。仕留めた後で、きっちりと調べるとしよう。
「まぁ、お互い話すこともないだろ」
「そうね。事ここに至っては、選択肢なんてないもの」
雪女郎の肉体を分解し、構成要素を抽出し、ラインを通じてデオンの中へと入れる。
尚、技名がないと締まらないとの事を雪女郎が言ったため、即興でつけることとした。
「
「
今ここに、大蛇と騎士の戦いが再び始まった。
放たれるドラゴンブレス。それを両断するデオン。ここまでは、以前と変わらない。
違うのは、その余波が狭い通路に跳ね返ってデオンを襲っているということ。大ダメージではないが、続けば致命の一撃をもらいかねない。
だが、向こうのチャージ時間は読めた。3手躱せばデオンの剣が届く。
『デオン、突っ込め』
『サマナーはどうするんだい?』
『一番安全な所に居続けるさ』
そうして、デオンの接近と共にデオンの
その間、障害としてラクシャーサが召喚される。ドラゴンブレスに焼かれる覚悟を持っての事だろう。忠誠心は高い。だが、無意味だ。
『無視しろ!』
『了解だ!』
狭い通路の壁や天井を華麗に走ることにより、捨て駒とされたラクシャーサはその役目を終える事なくいなされた。
そして、その動きを見惚れたラクシャーサに、破魔の力が込められている施餓鬼米を起動させ、ぶつける。
敵の取り得るパターンとして、
ラクシャーサが破魔属性弱点であることはサマナーネットに転がっていた情報なのでイマイチ信憑性はなかったが、テトラジャストーンを完備していた事から正しいと信じてみた。まぁ結果オーライだ。
ラクシャーサは、一手も稼ぐ事なく破魔の光により昇天した。
そして、ラクシャーサがいた位置は、非常に良い位置だ。射線の通りが良い。
再び放たれるドラゴンブレス。今度は連射で足止め狙いをするようだったが、
その口の中めがけて、先の戦闘終了後に回収した延撚性MAGを込めた弾丸を叩き込む。
デオンの剣の射程に踏み込むにはあと2手必要だが、P-90の射程に入れるには一手で十分だったのだ。まぁ、自分の銃の腕的には一マガジン撃ち切っても口の中に入るかは若干怪しかったが。
そうして、ドラゴンブレスの熱に反応して弾が弾ける。力場の内側、口の中で弾ける炎は熱かろう。
あの清姫という少女は、決して戦う者ではない。立ち振る舞いに、歴戦の者が示す空気がなかったからそう思えた。
大蛇としても、火力は恐ろしいがそれだけだ。無敵の体を持つ訳でも、不死身の魂を持つ訳でもない。
少女が化けているという事を除くと、
「清姫ちゃん⁉︎」
そう動揺した敵サマナーは、回復のために魔石を投げつける。コレで一手。
白百合の騎士が大蛇の首を取るには、十分すぎる隙だ。
「
幻の百合の花が見えるようなその美しい剣。その一太刀が、大蛇の首を断ち切った。
首の皮一枚、切り損ねて。
「安珍様を、見つけるまではぁ!」
そうして放たれるドラゴンブレス。首が半ば絶たれた状態でも、狙いは違えずただデオンの事を焼き殺そうと放たれた。
それをデオンが回避できたのは、多分半分くらいは運だろう。
半ば保険として準備していた反発の魔法陣をデオンの足元に展開し、それを無理やり踏み込む事で射線から霊核を逃したのだ。
ダメージは、甚大だったが。
『生きてるか⁉︎』
『なん、とかね!』
ドラゴンブレスの余波で焼け落ちる通路。
力場が無ければ、立っている事すらままならなかっただろう。
反発の魔法陣を足場にして、デオンに駆け寄る。右半身が吹き飛んでいた。
だが、コレは罠だ。そんな警告が俺の知識からやってくる。
冷静に思考を走らせる。デオンは重症だが、まだ死んでいない。
対して、清姫。皮一つで繋がっているような状況だが、こちらもまだ死んでいない。
敵サマナーの仲魔は、まだホルスとヴィヴィアンが残っている。どちらもミドルクラス相当の実力を持っている。
召喚の隙を与えてはいけない。
しからば、ここで俺が取る一手は
「サモン、バルドル、ラームジェルグ!突っ込め!」
敵サマナーへの、追撃だ。
伊達に魔術師型サマナーをやっている訳ではない。俺は、召喚の速度に関しては一線を張れると自負できる。
敵サマナーがマグネタイトからの肉体を構築する前に、こちらの召喚は完遂する。
「サモン、ホルス!」
「召喚直後は自由に飛べねぇよなぁ!万魔の乱舞!」
珍しく着弾するバルドルの万能属性魔法、それが構築直後のホルスを消しとばし、その余波で敵サマナーに一発弾が向かっていった。
そこを、ラームジェルグが追い打ちをかける。何処で学んだかは知らないが、その剣術はかなりのもの。死霊系の悪魔にはこういうのがたまに混ざってるのだ。
だが、敵サマナーもさるもの。ガントレットを犠牲にしてラームジェルグに無理やり近づき、ハンドガンを力場の内側で放ち致命傷を与えていた。よくやってくれたが、ラームジェルグは肉体を構築しているMAGを使い切らされ、あえなく
『バルドル、合わせろ』
『騎士サマは良いのか?』
『次の一手で確実に殺す。それが、デオンを救う道だ』
『オーケーだサマナー。任せるぜ』
念話のラインを利用してバルドルの術式展開を補助。
正確なターゲッティングをもって、絶殺の空間を展開する。
「「万魔の乱舞!」」
巨漢のサマナーは、俺とバルドルの万能属性の4連打をギリギリでかわし続ける。だが、それは承知の上だ。敵サマナーは歴戦なのだから、真っ正面からでは防がれるのは当然のことだ。故に、外した一発目の乱舞の中に仕込んでいた遠隔操作術式を起動させ、不意を突き足を抉る。そして回避を封じた所にチャージしていた最後の一撃を叩き込む。
確実に心臓を抉り抜いた。だが、まだ一手動かれてしまった。
万魔の乱舞を躱しながら、ストレージから取り出していたのだろう回復魔法のこもった宝玉を
首の皮一枚で繋がっていた大蛇清姫に対して使った。
「清姫ちゃん、逃げなさい」
そんな言葉を、最後に残して。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
別段、大した出会いではなかった。運命的なものでもなかった。
ただ、異界で迷っていた清姫と、そのサマナーは出会っただけだった。
それでも、二人の間には確かな約束があった。
「いいわ、私はあなたの恋を応援する。見つかるまでは、私が面倒見るわ」
「ありがとうございます。あぁ、安珍様。清姫が今参ります」
「それまで、よろしくお願いしますね、サマナー」
「えぇ。あなたの想い人を見つけるまで、私とあなたは仲魔よ」
それだけの理由で、自分の命より恋する少女を応援することをファントムソサエティのデビルサマナー、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その死に様を見て、大蛇清姫は何を思ったのだろう。
大蛇である事をやめ、ただ一人の少女としてその死に寄り添った。
「全く、馬鹿な人」
その一言とともに、再び大蛇へと姿を変えた。
サマナーが死んだ今では、行動を縛る契約のラインもない筈。
それでも戦うという事は、それだけサマナーとの絆があったのだろう。
「私、友人が殺されて黙っていられるほど冷たい女じゃないんですよ?」
「だったら、友人が道を違えるのを止めろ。この世界がクソだとしても、それを理由に誰かを傷つけていい訳なんかないんだよ」
「ヒトモドキのあなたが、よくも言いますね」
「モドキでも、生きてるからな」
カラドリウスを簡易召喚し、デオンの方に宝玉を持たせて飛ばせた。
一発ドラゴンブレスを防げば、デオンがあの大蛇を今度こそ斬るだろう。
敵は、アウタースピリッツの可能性が高い。今まで見てきたドラゴンブレスも、魔法や魔導では計り知れない何かがあるかもしれない。
それでも、ここは俺だけの力でどうにかするしかない。
そう判断して、魔法陣に魔返鏡をセットする。あいもかわらず馬鹿高い出費だが、命と、覚悟には変えられない。
ブレスの余波がデオンに当たれば、間違いなくデオンは死ぬからだ。それを是とするのは、俺を信じてくれたデオンに対しての侮辱だ。
故に、ドラゴンブレスのチャージの間に、全力のダッシュでデオンを守れる位置に陣取る。
それで俺が死ぬ確率が上がるのは、もう知るかというものだ。
「消し飛びなさい!」
「お前がな!」
ドラゴンブレスに対し、マグネタイトのオーバーロードを引き起こした魔返鏡により限界以上の魔法反射障壁を張る。
ほとんど根元で止めているため、ブレスの力の100%が俺を襲うだろう。だが、ここは踏ん張るしかない。
そうして、ドラゴンブレスが放たれた。
おそらく、敵も後先など考えていないのだろう。最初から全力で吹き飛ばしにかかってきた。
構築された反射障壁は、効果あり。余波で通路が溶け始めているが、反射障壁のこちら側に影響はない。
だが、向こうの火力は相当だ。反射する事で威力を削いでいる筈なのに、もう反射障壁にガタがきている。
もって、3秒。
その絶望と言えるような時間、通路全てを溶かすようなその豪炎。
普通に考えるなら、こちらが押し切られて終わりだろう。
そう、そんな豪炎の中で平然と動けるようなインチキじみた仲魔がいなければ。
「万魔の乱舞ゥ!」
気配を消させた訳ではない。ただ単にブレスのマグネタイトが濃すぎて、存在が認識できなかったのだ。
完全なる不意打ちにて、清姫のブレスが中断される。だが、どこに当たったかは知らないが、万魔の乱舞の破壊規模では大蛇清姫を即死させる事はできない。
故に、最後の一手は任せるとしよう。
「任せた」
「任されたよ、サマナー」
魔法反射障壁が砕けるとの同時に、白百合の騎士が神速の踏み込みを持ってブレスの中に突っ込み、一太刀を持って首を断つ。
今度は首の皮を残す事はなく、ついでに蘇らないように断面をしっかりと凍らせてみせた。
「龍って、首の皮一枚で動けるんだな」
「驚きだったよ。完全に取ったと思ったんだがね。...僕のせいで君に迷惑をかけた」
「仲魔のミスの責任はサマナーにある。そういうもんさ」
「そうか...ありがとう、とも少し違うね」
「まぁ、半身吹っ飛んでも生きてたのは良かったよ。お前肉体を持った造魔なんだし、地返しの玉でどうにかできるかわからなかったからな」
「その割には、助け方が雑だったと思うんだけど」
「仕方ないだろ、戦闘中なんだから。それとも、お姫様みたく助けられるのがお望みだったか?」
「戦友を助け起す時のように手を引いてくれるのを望んでいたよ」
「そりゃすまんかった」
そんな会話を交わしながら、戦闘態勢を整える。
大蛇清姫は死に、その体は光の粒と化して消えていった。アウタースピリッツの証拠だ。それはいい。
問題は、通路の奥から発せられる馬鹿でかいという言い方があっているのかすらわからない強烈なMAGの存在だ。
今まで感知できなかった。それは、MAG隠しの魔道具でも使っていたか、化けの皮を被っていたか、今召喚されたかの3択だ。
まぁ、どれにしても結界を張ってある以上逃げられないのだから、戦うしかないのだ。自縄自縛とはこの事だ。
そう警戒をしていると、拍手の音と共にその悪魔は現れた。
紫色の身体に、棘のような薄い金色の装飾、そして、尖り伸びている鼻飾り。
特徴的な外見の割にサマナーネットでの情報はない。それは、コイツを見た奴は全員死んでいるという事の証だろう。
「すまんなデオン。俺たちの命、ここで終わらせるぞ」
「サマナーは逃げてもいいんだよ?」
「馬鹿言え。ここで腹を括れないなら、そもそもサマナーなんざやってねぇんだよ」
コイツはここで、殺さなければならない。たとえ命尽きるとしても、コイツがその先に作る地獄を否定するために。
命を燃やす覚悟を決めた所で、しかしそんな覚悟の出鼻は挫かれた。
「そこまで覚悟を決めなくても構いませんよ。私の目的はあくまで視察。成功すればリターンは大きく、かといって失敗した時の損失もほとんどない。そんな計画の様子を見にきただけですので」
その言葉に嘘はないだろう。でなければ、俺たちが今生きている理由はない。
「あんたは、ファントムソサエティの幹部か?」
「ええ、魔王シェムハザと申します」
「...俺は、花咲千尋。
「デオン・ド・ボーモンだ」
「...覚えがあります。今は亡きフランスの騎士ですね。男としても女としても国に忠誠を尽くした奇人。という事は、やはりあなたは外からの英霊ですか」
「ッ⁉︎」
「それがどうした?どんな奴を仲魔にしようと俺の勝手だろうが」
その言葉を聞いて、デオンは少し面食らったようだ。まぁ、本人は隠しているつもりだったのだろう。出会った当時の時はともかく、現在ではうまく隠しているのだからそれはそうだ。
『...知っていたのかい?』
『分析結果とヤタガラスとのデータを照らし合わせたらな。まぁ、確信はなかったけど』
その言葉に納得をしたのか、デオンの意識はシェムハザへと再び集中した。
そんな様を、シェムハザはクスクスと笑いながら見ていた。
「どうしたんです?」
「いえ、滑稽だなぁと思いまして。楽園戦争よりこの国を縛ってきた忌々しい平成結界。その綻びを生むという事実を無視してあなたは英霊を使っているのですから」
「あいにくと、コイツを解析したお陰でアウタースピリッツが平成結界に与える影響についてはほとんど把握できている。他のアウタースピリッツはともかく、コイツは無害だよ」
「その確信はあるのですか?」
「ここを見つけたアクティブソナーの術者は俺だ、それは理由にならないか?」
「...縁者というわけでなく、本人でしたか。...その若さであのレベルの術、あなたが最近噂の英霊狩の術者ですね」
「あ、名前はまだ通ってないんですか。そこそこ名乗ってるんですけど」
「まぁ、まだ英霊を殺し始めて一月と立っていないのでしょう?そのうちに名は通りますよ」
「それはありがとうございます。まぁ、その命は風前の灯火なんですけどね」
「サマナー、この状況でそのジョークは笑えないよ」
そんな会話をさせつつ、バルドルを
「それでは、質問です。あなた方はどこまで知っているのですか?」
「何をだ?」
「この世界のことをですよ」
答え辛い事を聞く奴だ。
「平成結界の効果は、全て知ってるよ」
「それはさぞ、生き辛そうですね」
「私たちファントムソサエティは、欲望に忠実な享楽的な世界を作ろうとしています。あなたのような優秀な術者なら、いえ、優秀な術者だからこそこの目的の尊さはわかりますね?」
「まぁな。多分、生かすことを諦めるならそれは悪くない選択肢だよ」
デオンが、驚きの表情で俺を見る。そりゃ、どうにもならないそんな時なら、諦めたっていいだろう。けれど
「でも、今はまだ滅んでいないんだ。なら、未来の可能性って奴に賭けてみたい」
それが、俺の戦う理由だ。ここだけは揺るがない。俺は、未来の可能性を託された一人だから。
そんな俺の顔を見て、シェムハザは不思議な笑みを浮かべた。
どこか、人の事を想っている。そんな笑みに見えた。
「さて、若者と会話を楽しむのも良いですが、あいにくと暇という訳ではないのでね。この辺りで失礼しますよ」
その声とともに、集中するMAG。間違いなく極大クラスの魔法だ。
ミズキさんに「逃げろ」とコールを入れるも、間に合ったかどうかはわからない。
「
シェムハザの手から放たれた電撃、否、光の柱が結界の基点に向けて放たれる。
結界の基点どころか、このフロアより上の全てが吹き飛んだ。空が綺麗だなーと現実逃避したくなる気分である。
「それではさようなら。花咲千尋、シュバリエ・デオン。また会う事のない事を願いますよ」
そう言って、シェムハザは転移魔法にて飛び去っていった。
それが、この事件の終幕だった。
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それからのこと。
作戦終了時のでブリーフィングによると、こちらの被害者はゼロ。対して相当量のファントムの構成員を討伐する事に成功したとのことだ。
どの異界においても行われていたことはほぼ同一、5〜6組の男女にひたすらまぐわらせる事でのマグネタイト生産だとか。異界の主は全てミシャクジ様であったことから、異界の解放自体もそう困難なく終わったそうだ。アナライズデータの共有は正義なり。
そして、ミズキさんであるが。シェムハザのMAGが現れた時点で基点の防衛を放棄し、下から挟み撃ちの形にしようと動いていたそうだ。
とはいえ、ミズキさんの援護があったとしてもシェムハザを殺せるとは思えない。何せ、楽園戦争以前からこの世界に存在している大魔王なのだから。溜め込んでいるMAGは相当なものだろう。
とはいえ、あの魔王とて人類の全滅を願っている訳ではない事はわかった。そこは収穫だろう。
潜在敵としては未だ脅威であるが、ファントムソサエティはこの遡月の街からは出ていった。そこも収穫といえば収穫だ。
さて、それでは俺の話。ヤタガラスからの援助を受けてテンプルナイトや知り合いに依頼を出しまくった結果は、ヤタガラスが思った以上に援助金を出してくれたため損害は軽微で済んだ。
ラームジェルグが敵のCOMPを砕いたときに奪ったMAG量を考えると、なんとか赤字なしで済ませることができただろう。
また、アウタースピリッツ清姫の討伐と、魔王シェムハザとの邂逅を一度にこなしたというのはヤタガラスにとっても無視できない事実だったようで、この件がひと段落ついたら支部に召喚されることとなった。やはり、隠しておきたいのだろう。平成結界の事実を。
そんな風に思考を回しつつ、ストーンを作る作業をしていると、俺の部屋のドアのノックが鳴り響いた。
ドアを開けてみると、そこにはパジャマ姿のデオンがいた。
「話、いいかい?」
「ああ、構わない。まぁ、ストーン作りながらでいいならだけどな」
3Dプリンターにより削り出されたルーンの刻まれた石に魔法陣展開代行プログラムにおよってMAGを注入し、ストーンを作り出す。
その作業を、デオンはのんびりと見ていた。
そうして俺の作業がひと段落した時に、デオンが口を開いた。話しかけるタイミングを伺っていたのかもしれない。それは少し、悪い事をした。
「なぁ、サマナー。君はどうして私を側に置くんだい?」
「...なんだよ、改まって」
「いや、なんとなく聞いておきたくなったのさ。君が私をどう思っているのかをね」
「...お前と会ったあの日から、お前の印象は変わらない」
「お前は、守る騎士だったからな。だから、俺が道を違えない限りは味方でいてくれる。そんな気がしたのさ」
「...つまり、フィーリングかい?」
「そ。計算で考え切ってわからない時は、感性に従ってるんだよ、俺は」
「...まったく、次はどんな爆弾が来るかと身構えていた私の気にもなってくれ。それじゃあ、怒るに怒りきれない」
「なんかイラついてたのか?すまん、気付かなかった」
「いや、いいさ」
「ただ、君の事は思った以上にしっかり見ないといけないと思っただけのことさ」
いまいち要領を得ない言葉だったが、まぁ本人が納得しているのならいいだろう。
そうしてデオンは自室に戻り、俺は魔石を使ってのメディラマストーン作成に移る。正直もっと眠りたい気分だが、これをサボるとツケは自分にやってくるのだ。辛い。
「魔術師型サマナーって、やっぱ大変だわ」
うまくトルーパーズの経費で材料費などを落とさないかを考えながらそんな事を思った。
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遡月総合病院にて、少女は目を覚ました。
「あ、起きた?お見舞いにフルーツ持ってきたんだけど、食べる?」
そんな事を想い人たる少年に言われて、パニックにならない訳はない。
そうしてどもっていた時、自分は汚れているのだという感覚が自分を襲った。その原因は思い出せないが、自分はもう、この少年の元にいてはいけないのだと思って、でも誰かのくれた優しい呪いがそれを踏みとどめた。
「ずっと一方的な文通だったから、まず自己紹介をしたいな。いいかな?」
「は、はい」
「僕の名前はフジワラ。君は?」
「...キヨメと言います」
「じゃあキヨメさん。言いたいことが一つあります」
「何ですか?」
「僕の恋人になってください。貴女の恋文に、僕は心を奪われました。貴女が思ってくれる事は、僕にとっての幸せになりました。だから、僕と共に生きてくれませんか?」
その返答は、恥ずかしすぎてなかなか言葉にできなかったうえ、どもってしまったが、彼は笑って受け入れてくれた。
シェムハザさんがどうして千尋たちを見逃したのかは、再登場時にでも描くつもりなので気長に待っていて下さいな。
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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