まぁ低評価食らうよかいいんですけれど。
あ、作者はキングプロテアやっと倒しました。ジャンヌマーリンマーリンで超無敵ループです。でも、試行錯誤したその対価にイベント本編全然回ってねぇのです。イベント本編シナリオも面白いだけに間に合うか?
「サマナー、何をしているのかについての説明をお願いしたいのだが」
「認識をズラされている可能性が出てきたから、アナログで確認してるんだよ」
「だからといってこうも顔を触られ続けるのは、その...こそばゆい」
「慣れろ」
目隠しして手の感触だけで顔を描く。
絵の腕は無くとも、どの距離にどのパーツがあるかくらいはわかる。射撃練習で身につけた距離把握の技術の応用だ。
そうしてパーツだけを描いてデオンを確認する。
「サマナー、できたかい?」
「ああ、目、鼻、耳、口の位置は問題なし。小顔だって違いはあれど、ちゃんとした人間の顔だ」
「...少し見ても良いかい?」
「ああ、構わない」
理由もないので絵を見せる。すると、帰って来るのは苦い表情。
「サマナー、君は比較検討をする前に絵心を学んだ方がいい。比較も何もないぞ、これでは」
「...上手く描けてると思うんだがなぁ」
「これでかい⁉︎」
「よし、他の人に聞いてみよう」
「いや、どうしてそこまでその絵に自信を持っているのさ⁉︎」
そんな訳で、縁と所長にも描いた絵を見せてみる。
縁からは、「...すいません、チュパカブラか何かですか?」と
所長からは、「凄いね、ここまで絶望的に下手だとからかう気にもなれないや」とのお言葉を貰った。解せぬ。
「それで、認識がズレているとは?」
デオンが口火を切る。流石に気になるワードではあったのだろう。
「いや、デオンの生前の記憶を夢に見てな。そん時に見えた人の顔が現在のものとかなり異なったから、何かの呪いかと思ってな」
「そうか?私には大差ないように感じられたが」
「...本人がそう言うなら、アレは記憶の接続時のノイズか何かだったのかねぇ」
「というか、私が死んでからかなり時間が経っているのだし、顔が変わるくらい普通ではないか?ほら、人間の産まれ方だって変わったのだし」
「...それもそう、か?」
「納得いっていないようだね。なら、サマナーネットで調べてみるというのはどうだい?便利なのだろう?それは」
「...そうだな。うん、わかんない時は頼るのは大衆の知識、いい事言うなお前」
「現世にも慣れたからね」
「デオンくんが来てから、もう一月経つもんねー」
「ですね、機械音痴も大分直りましたし」
「...エニシ、私は機械音痴ではない。使い方を知らなかっただけだ」
「いや、今でも洗濯機回すのに手順確認してからやってるだろお前」
「どうしてそれをッ⁉︎」
「あー、洗濯機の前でタブレット見てるのってそれが理由だったんですか」
「デオンくん、真面目だからねー。洗濯機なんて適当でいいのに」
「適当過ぎて柔軟剤入れ忘れる人は黙っててください。所長は機械音痴どころか生活音痴でしょうが」
「...縁ちゃん。千尋くんって酷くない?」
「...ははは」
まぁなんにせよサマナーネットだ。現在のこの世界の人口は約1億人。楽園戦争での虐殺を考えると大分持ち直したのだろう。出産器の普及以降は、人口は増加の一途を辿っている。戦後の人口が敵兵含めて2千万程度だった事を考えると、相当なものだろう。息するように人が死ぬこの世界にて、なんと5倍だ。
その内の約0.1パーセント程度が裏の業界に踏み込んでしまった悲しい者達だ。つまりだいたい100万人。数字で見ると意外な多さである。その全てがサマナーネットを使っているとは言えないが、悪魔召喚プログラムに内蔵されている人と繋がるこの機能はヤタガラスの検閲を受けない貴重な情報のやり取りの場なので、重宝されている。
その叡智、活用しないと言うのはいささか勿体なさすぎるだろう。
「さて、検索検索っと」
まぁ、このサマナーネットという奴は匿名性のないSNSだ。基本の使い心地が悪すぎるからいろんな外部アプリが出ていたりするという曰く付きのものである。なので、ヤタガラスはそういった外部アプリに捜査のメスを入れる事でサマナーネットがダークサマナーの悪事に使われないように日々監視しているのだとか。世知辛い。
「どうだい?」
「んー、俺の見たのは魔眼による拡張とは多分違うからな。なんていうか、人が気味が悪く見える感じ」
「気味が悪いか...どんな風にだい?」
「上手く言葉にできてたら苦労はねぇっての。本当に気味が悪い感じなんだ。人の顔のはずなのに、見慣れたものに思えないみたいな」
「やっぱ認識に関する操作が行われているのかね?」などとごちつつサマナーネットを探し回る。
そうして見つけた一つの投稿。約2月前に昏睡状態から目を覚ました12歳の息子の様子が変なのだとか。死にかけて覚醒したという感じではなく、身体的にもごく普通。だが何故か時々
その原因究明のために、現在も入院を続けているらしい。
その原因に少し心当たりがある。スマートフォンからサルベージした結界に穴が空いた時の時刻と、この息子さんが目を覚ました時刻がほとんど同じなのだ。
世界に穴が空くほどの現象だ。何かしらの影響はあるのだろう。
幸いにも、場所は二つ隣街の病院、近場だ。社用車を使えばそう時間はかからない。
メッセージでやりとりし、自分が現代魔導の使い手だと証明した事で息子さんの異常の調査、改善依頼を取り付ける事に成功した。
依頼料は大した事はない上に成功報酬だが、まぁいいだろう。本命はそれではないのだし。
「じゃあ、依頼で七夜街まで行くけど、縁はどうする?」
「一緒に行きます。なんか最近千尋さんとなかなか話せなかったので」
「そこー、私には聞かないのかい?」
「いや、事務仕事溜まってるでしょうが」
「...ほとんど千尋くんのせいじゃん」
「だから手伝えるとこは手伝いましまよね?その間デオンや縁とひたすら訓練してたのは誰ですか?」
「...いや、だってさ!」
「だってじゃありません。諦めてください」
「...いけず」
「じゃあ、頑張って下さいねー」と言い残して外に出る。今日はあいにくの曇り空で、午後からは雨が降ってくる。
偽りの天気だとわかっているが、どうにも気が滅入るものだ。
「行きましょう、千尋さん、デオンさん!」
コイツに、そんな心配はないようなのだが。
車でぷらぷらと行った先にあるのは七夜総合病院。そこの407号室が依頼を受けたサマナーの息子さんのいる病室だ。
エントランスを見回してみると、どこか空気の違う人が一人いた。意図的に隠していないのだろうが、かなりの強者だ。
こちらもMAGを軽く顕在させる事で合図とする。向こうもこちらに気がついたようだ。
「あなたが、花咲さん?」
「流石に若いと、信用できませんか?」
「いや、あなたの知識はこの業界に入って長い俺のものを上回っていた。年齢でどうこう言うつもりはない」
「じゃあお願いしますね、キリさん」
「ああ、頼む。だが聞いていいかい?」
「なんですか?」
「そちらの人としか見えない悪魔と、そっちの少女はなんなんだい?潜在MAGから言ってこっち側の人間なのは間違いないが」
「護衛の造魔と電池です。不意打ちは怖いですからねー」
「電池って酷くないですか⁉︎」と縁が喚くが仕方ない。この人が未来において敵にならない保証がないのだから、迂闊に手の内を晒してなるものかよ。
「思ったよりも優秀そうで安心した。さぁ行こう。息子の志貴の病室は4階だ」
病棟のエレベーターに乗って病室へと向かう。移動中に調べた感じだと、この病院の4階は個室だった筈だ。実力者なのは鍛えられた体と潜在MAGを見ればわかるが、やはり稼いでいるようだ。
取らぬ狸の皮算用と笑われそうだが、成功したら報酬ちょっと釣り上げられないか交渉するとしよう。
真っ直ぐに病室に向かうと、そこにはドアの空いている病室が一つあった。
「ドクターの往診かな?」
「ここって、異能治療やってる病院でしたよね」
「ああ、ドクターとは知古でね。覚醒してこそいないが、魔導機械の使用を許可されて長いエキスパートでもある。私も、何度も彼に命を救われたよ」
「なるほど、信用できそうな人で良かったですよ」
とは口で言うものの、魔導知識を持っている医者とはとても厄介だ。
『サマナー、邪心が漏れているよ』
『邪かねー、この考えって』
なんにせよ、まずは検査からだ。この病院に導入されている魔導機械の類で原因がわからないとなると、原因は絞られてくる。
集合的無意識への意図しないアクセスは、結局は受信部である脳の作用であり、感知できるから除外。
とりあえずは、何らかの要素の過剰な上昇による認識の変化あたりと見ている。
これならば、出産器の存在により産まれ方の変わった人間が認識できなくなったものを過去の人間であるデオンが見ることが出来ていたという一応の理屈は通るからだ。
今のデオンが認識できていないのは、ドリーカドモンに入った事による認識の変化あたりだろう。
その割に本人が自覚していないのは奇妙な話ではあるが。
仮説が多すぎるが、検査の方針は父親であるキリさんとの魂の比較検討でいいだろう。覚醒によって規格が変わったとしても、根幹は変わらない筈だからだ。
「失礼します、ドクター」
「...そちらの少年たちは?」
「現代魔導師兼
「...こんな子供でも、裏の世界の人間か。度し難いな」
その目は、侮蔑の色を含んでいた。だがそれはおそらく俺に対してではなく、自分に対して。
「一本道しかなかったとしても、自分の意思で歩いているつもりです。憐れみで目を曇らせないで下さい」
「...口ではなんとでも言える」
「じゃあ実力で黙らせてみせますよ」
そんなちょっとした牽制をしていたら、息子さんの志貴くんが奇妙なものを見る目で縁とデオンを見ていた。
「見分けが、付く?」
そんな言葉を口にして。
相貌失認という脳障害がある。それは、脳のダメージなどにより、他者の顔や表情を認識できなくなるという症状だ。
魔に類する可能性を全て取り去った後でなら、もうそういうものだと割り切ってしまうつもりでいたものでもある。少ないが、同じ症例も過去には見つかっていたのだから。
だが、簡単なカウンセリングの結果その可能性は否定された。
相貌失認症は、顔のパーツすら認識できなくなるのだ。だから、表情すらもわからなくなってしまう。
例外であるデオンと縁のものはともかく、俺やドクター、キリさんの表情の変化も把握できている事からそのその可能性は否定された。さて、ここからは本当に未知だ。
それはつまり、俺の今朝の夢に関係する可能性が出てきたということ。
もしかしたらそれが人類存続の足がかりになるかもしれない。なにせ、こちとら暗中模索どころの騒ぎではないのだから。
「じゃあ、志貴くん。今から君を魔術的に調べる。体に害はないと思うんだけど、痛みや違和感があったら言ってくれ」
「結局あなたは誰なんですか?デビルサマナーとか魔術師とか、俺にはよくわかりません」
「そうだなぁ...」
どう言うのが、この少年を安心させられるだろうか。少しだけ悩んで、ちょっと格好つけることにした。
「お節介焼きの魔法使い、かな?」
「...なんで疑問形なんですか」
「一応報酬出るから、全部が全部善意って訳じゃないんだよ」
「...まぁ、信じます。あなたの表情は、嘘を吐いている感じじゃありませんから」
「ありがとな、志貴くん」
にしても表情で嘘を判断するとは、この子凄い価値観してるなと頭の隅で思う。
「始めるぞ」
「はい」
魔法陣展開代行プログラムを用いて、術式を構築する。俺と志貴くんとの間にラインを繋ぎ、魂へのアクセス権を偽造する。
人間の魂は心の海、集合的無意識にあるため、魂の精査には少し面倒な手続きのようなものが必要なのだ。
ちなみに、悪魔の魂は半分この世界に出ているから精査は比較的楽だったりする。MAGによる肉体の構築は、魂を設計図にしているからだ。
「ラインは繋ぎ終わった。体調に変化はあるか?」
「...いえ、特には」
「オーケー、じゃあ次行くぞ」
「君の問題を確認する為に、君の見てる世界を見せてもらう。ラインを通じて君の視界を確認するから、体の力を抜いて指示に従ってくれ」
「...はい」
了承を得られた所で、ラインを通じて視界をジャックする。多少の抵抗はあれど問題なく術式を通す事ができた。
その結果見た志貴くんの視界では、この世界は
脳から魂に伝わる回線をジャックしているので、これが志貴くんの視界であることは間違いない。とすれば、体の問題は本当にないということだ。
まぁ、目や脳の異常なら魔導科学によって感知できるので当たり前といえば当たり前だが、あの視界を期待していただけにちょっぴりがっかりである。
「どうしたんです?」
「いや、ハードウェア側に問題がない事がわかってね。君の体が正常だった事が分かったんだよ」
「...この世界の、どこが正常ですか!」
「人が皆、同じ顔に見えるんですよ!どっかの他人も病院の人も父さんも母さんも!みんなあののっぺらぼうに適当に部品をつけたみたいな顔になってて!それが普通?問題ない⁉︎冗談じゃないですよ!」
「それでも、君の体には異常はないんだ」
「だから、君の魂をこれから調べる」
「...魂?」
「ハードウェアに問題がないのなら、問題はソフトウェアにある。それだけの事だよ」
「...できるんですか?そんな事」
「私からも疑問だ。魔導技術の論文には目を通しているが、魂へのアクセスなど超高難易度の技術、君のような若者にできるものなのか?」
ドクターさんからの厳しい指摘がちょっと癪に触ったようで、デオンと縁がちょっと殺気立っていた。いや、何でお前らがキレてんだよ。
「ご心配なく。普遍化が完全にはできていないのでまだ公開はしていませんが、魂へのアクセスルートを開く魔導術式は存在しています。というか、作製には一枚噛んでたりしますし」
「その若さでか⁉︎」
「はい。魔法陣で術式の大部分を自動化できたので、魔法陣展開代行プログラムで術の精度はかなり上げられます。なので、心配はご無用って訳ですよ」
ついでに言うなら、アクセスした後のデータ処理もコンピュータで代用できる為術者への負担も小さい上、記録として残す事ができる。マジで魔法陣展開代行プログラムを組んだ人には頭が上がらないと思う今日この頃である。
「そんな訳で、今から本格的な検査に入る。他人の魂へのアクセスは多少の異物感が伴うけど、そこはまぁ、我慢してくれ」
「...わかりました。魔術師さん」
「いい子だ。行くぞ」
魔法陣展開代行プログラムを起動させ、魂へのアクセスを開始する。
いきなりのエラーが出てくるが、想定の範囲内なので術式を調整する。この志貴くんは、種付きなのだろう。種付きは魂のありかが種無しとは違うのだ。学会では、それは悪魔としての要素の濃さの違いだと今のところは解釈されている。
その後は問題なく肉体情報の偽造から、魂へのアクセス権を取得できた。
その後は、魂のアナライズである。破魔魔法、呪殺魔法のプロセスの応用により、魂にどんな刺激を与えるとどんな反応が返ってくるかは割と知られているのだ。その成果が呪殺耐性の防具やアクセサリの存在だったりする。
なので、ほんの小さな刺激を与えることで、魂の非破壊測定検査は行える。自分でやるぶんには割と簡単な術式なので、志貴くんが覚醒していたら仕事はもっと楽だったのになーと思ったりもするが。
「よし、このまま2時間くらいのんびりしててくれ。術式は問題なく回ってるから大事はないと思うけど、万が一なにか異常が感じられたらすぐに俺に言う事。いいね?」
「はい」
「じゃあ、ちょっと暇になったしどうしようか」
「それなら、キリさんの話を聞きたいです!キリさんは所長とはまた違った“強さ”を持ってる風に見えて」
「私の話か...」
「俺も聞きたい。父さんがどんなことしてたのか、俺何にも知らなかったから」
所長が強いというのには武力面以外では微妙に賛同できないが、他の異能者の生き方というのには割と興味がある。
だが、生き方を知るという事は殺し方を知るという事。そんなものを、部外者に晒すだろうか。
つまり、大した事は言わないだろう。なら、次の作業を進めてしまおう。とはいえ礼儀は礼儀だ。縁に「あなたの殺し方を教えてください!」なんて言っていたのだと後でしっかり言い含めるとしなくては。
「すいません、ウチの縁が」
「いいや、構わないよ。語る事など、そう多くないからね」
「というと?」
「私は、廃れた退魔の一族の生き残りなのだよ。口伝でしかないがね」
「退魔の一族?」
志貴くんが疑問を挟む。まぁ、普通に生きてて聞く言葉じゃないだろう。大体のそういう一族って、楽園戦争で滅びてるらしいし。
「ああ。この世界には人に害を為す悪魔という化け物がいて、それを刈り取る
その立ち姿からは、どこか誇りのようなものが感じられた。
その血の誇り。それがキリさんを人足らしめるものなのだろう。
「この街で昔戦った七夜というのが、私の祖先でね。人の身でありながら多くの悪魔を倒し、人々を守った。その系譜の先にあるのが私であり、志貴なんだ」
「なんか、しっくりくる。父さんってどんな仕事してるかは言ってくれなかったけど、なんかヒーローって感じがしてたから」
「...ありがとう」
そう言ってキリさんは志貴くんの頭を撫でる。伸ばされた手にびくりとしたのは、その手が誰のものかわからなかったからだろう。
なんとなく、治療に全力をかける理由が増えた気がした。
「私自身の話は、実の所これで殆ど終わりなんだ。一族の務めとして悪魔と戦い続け、母さんと出会い、志貴が生まれた」
「母さんとの出会いってのは?」
「そこは言わせないでくれ。流石に部外者に聞かせるには恥ずかしい」
「じゃあさ、俺が治ったら修行を付けてよ、父さん」
「...どうしてだ?」
「俺も多分、
「俺が襲われたのって、もう4年前なんだっけ」
「...気付いていたのか」
「思い出したんだ、化け物の事」
「忘れていた方が、良かったと思うがな」
「多分、守られてるだけじゃなにも始まらないから」
「母さんって、死んだんだよね。俺を庇って」
...言葉を発さない事は、時に万の言葉を重ねる事より雄弁に真実を語る。今がその時なのだろう。
「...お前のせいじゃない」
「うん、わかってる。どうしようもない事ってのはあるんだって、この2ヶ月で身に染みたから」
「でもさ、今度あの日みたいな事があって、それで死ぬ誰かがいるのなら、俺は止めたい。止められる力が欲しい」
「だから、戦う力が欲しい」
「志貴...」
その言葉には、わからないなりの覚悟のようなものがあった。達観しているだけじゃない。
なら、お節介焼きとしては出来る限りをするとしよう。
「それなら、この目は完全に停止させるんじゃなくて、オンオフできるように調整しますね。軽くデータ眺めてる感じだと可能に見えたので」
「⁉︎」と驚く皆。難しいが、不可能ではない。
データから察するに、志貴くんは半分ほど覚醒している。潜在覚醒という奴だ。系統はペルソナ使いに似た何か。力がヴィジョンを作るほどのものではないため、あらゆる観測から逃れていたのだ。それが、魔導機器による感知ができなかった理由だ。
認識の齟齬については、集合的無意識に存在する魂が力の影響により視覚にバイアスをかけているのだろう。
おそらく、“真実を見抜く力”。それは、間違いなく志貴くんの助けになる。
「志貴...道を決めるには、お前はまだ幼い」
「でも、結局いつかは決めなきゃならない事でしょ?」
「...ハァ、わかった。お前の目が治ったら訓練を始める。そこで折れないなら認めてやる」
「...ありがとう、父さん」
「やっぱ、親子って良いですね」
「まぁ俺は志貴くんの聡明さにビビってるけどな。4年寝てたって事はまだ8歳分だろ?それでこのメンタルとか絶対に化けるぞ」
「そうなの?」
「ああ、裏の世界で生き残るのは腕っ節強い奴じゃない、心が強い奴だ。君のその資質がある。どんなに体は鍛えられても、心は鍛えられないからな」
まぁ、使命感やらで補強することはできるのだが。それは長くは続きはしない。そういうものだ。
「花咲さん、あまり志貴に調子付かせる事を言わないでください」
「そこは、飴と鞭の飴って事で」
そんな会話をしていると、スマートウォッチからアラームが鳴った。解析、終了だ。
「解析終わりました。とりあえず志貴くんの問題を解決しちゃいますね」
「分析結果を見ても良いか?」
「どうぞです、ドクターさん。データ投げますね」
「助かる。無力だったとしても、主治医だからな。原因くらいは知っておきたい」
スマホのデータをぽいっと投げて共有する。データ共有がさっとできるようになっているのが魔導機械の良いところだ。メーカーが国営の一つしかないという事が理由なのだが。
「...すまない、結局志貴くんのどこが問題だったんだ?」
「魂側の情報処理を司る部分ですね。ペルソナもどきを発現させた事で人の顔、つまり個体認識機能が異常と化した訳です。だからソフトウェアの問題なんですよ。んで、その原因となっているのは志貴くんのが潜在覚醒状態にある事。肉体が覚醒段階に至っていないのに魂がはみ出してしまったから、ソフトウェアにバグが起きている。これを改善するには簡単。覚醒段階を整えてあげればいい」
「...肉体の改造か!」
「いえ、覚醒の促進ですよ。肉体改造とかどんだけコストかかると思ってんですか。赤字ってレベルじゃねーんですよ」
肉体改造は、筋肉や骨格、神経伝達などの強化に耐えられる強靭な部品を集めるだけで億がぽーんと飛んでいくのだ。やってられるかそんな事。
「魂に的確な刺激を与えればその影響を肉体まで反映させる正式な覚醒段階まで引き上げることはできるんですよ。悪魔人間作るための実験結果なんで情報の出所はアレですけど、結構使える技術なんですよ」
「...邪法に聞こえたが、今はいいだろう。知識に貴賎はない」
「じゃあ志貴くん。今から本格的な施術を始める」
「くれぐれも、死なないように」
肉体と魂の紐つけを一つ一つ丁寧に整えていく。この辺の技術は悪魔の行動を縛る技術と似ているので、かなり得意なのだ。
まぁ
ささっとMAGで魂を脳をピン留めをして、残りは時間経過による自然癒着を待つ。これにて、志貴少年の覚醒段階は一つ上のステージに上がるだろう。急激な覚醒もできなくはないが、アレ割と痛いしやめておく。
「なんか、体が軽いかも」
「あとは時間が解決してくれるよ。それで、その目は君のものになる。とはいっても日常生活を送る分にどうなるかは、訓練次第だけどな」
「訓練って、どんな?」
「心の目を閉じる訓練かな。まぁそっちの方は専門外だから、キリさんのツテで使えるペルソナ使いを斡旋して下さいな」
「...ああ、わかった」
「それじゃあ、志貴くんにプレゼント」
「眼鏡?」
「ツルの部分に術式刻んでるから、ちょっとかけてみてよ」
そう言って、志貴くんにキリさんの話を聞きながら弄っていた眼鏡を渡す。
志貴くんは亜種だが、ペルソナ使いだ。であるならば、眼鏡や仮面、マスクといった顔を覆うものによって能力に影響を与えられる可能性は高いという結果は出ている。
そんなわけで志貴くんに渡したのは、魔眼殺しならぬペルソナ封じの伊達眼鏡である。
「...見え、る」
「お、一発目で成功か。幸先良いな」
12パターンくらい封じ方を考えていただけに、手間が省けてかなりラッキーだったりする。
志貴くんは、驚きのあまり眼鏡をつけて外してを繰り返していた。
そしてキリさんを見て、一筋涙を流していた。それだけ嬉しかったのだろう。なにせ、親の顔だ。
2ヶ月もの長い間それが奪われていたという事実は消えないが、だからこそ嬉しいのだろう。
「花咲さん、ありがとうございます」と涙声で口にしていた。
さて、ここからが俺がここにきた本当の理由の始まりだ。認識のオンオフができるようになった志貴くんは、とっても良い。
恩は売ったのだから、しっかりと現状把握に協力してくれるだろう。
「じゃあ、術式が問題ないか確認するためにいくつか質問をする。まずは眼鏡を付けてる状態での現状把握な」
「は...い?」
「どした?」
眼鏡を付けた状態で、何かとんでもないものを見たような目をしていた。
「なん、で?」
「...落ち着け、深呼吸して周りを見ろ。俺だけが異常に見えたのか?」
「...はい。父さんの顔も先生の顔もちゃんと見えました。デオンさんと神野さんもちゃんと見分けがついてます」
「でも、花咲さんだけは変わってないんです。眼鏡をつける前と後で」
「のっぺらぼうに適当にパーツが付いたような顔か?」
「...はい」
「...よし、病院内を見て回るぞ。デオンは造魔で縁は高位覚醒者。例に挙げるにはどうにも尖りすぎている」
そうして、志貴少年と共に病院内を歩き回った。
その結果、眼鏡をかける前と後で顔が変わらない人は居なかった。
ペルソナを封じる前から区別のついたデオンや縁でさえも顔からの印象が異なったというのだからとんでもないことだ。
俺だけが、イレギュラー。だが、それが特別だと自惚れる程俺の生まれは特別じゃあない。俺は普通の生まれの、ちょっと珍しい種付きなだけだ。
なら、種付きが顔の変わらない人の共通項か?と聞かれるとそんな事はないと断言できる。
ここの病院は魔導科学の進んだサマナーバスター御用達の施設、当然そういう人たちもいたし、その中には種付きと思われる人もいた。だが、そんな人たちも皆顔は変わったのだ。
「やっべ手詰まりだわ。意味わかんね」
「すいません、俺が変なこと言って」
「いや、むしろ言われない方がヤバかった。真実を見る目に見られたんだから、その事実は正しい事のはずだからな。きっと何かしらの理由があるんだろうさ」
「そして、それが人類の未来に繋がらないという確証はない。なら、未知も理不尽もどんと来いだよ」
まぁ、世界をぶっ壊すレベルの話はDon’t来いだがな!
「...変な人ですね、花咲さんは」
「千尋でいいぜ。これから先、俺の顔についての疑問が解決するまで暇ができ次第絡みに行くから」
「変な人ですね!」
「変じゃなきゃ現代魔導師なんざやらねぇよ」
その言葉と共に志貴の頭を軽く撫でる。ちょっと嫌がられたが、正体不明の魔術師の信頼などそんなものだろう。ちょっと力を入れて髪の毛をぐしゃぐしゃする。
その後はキリさんと連絡先を交換して、面会時間も終わったので遡月の街に戻る事となった。
これまでのやり取りの観察結果から、キリさんが割と戦闘系の人だとはわかったので調査系依頼は任せて下さいと名刺を添えて。新規の顧客ゲットだぜ。
「それにしても、サマナーの顔がのっぺらぼうにパーツを付けただけに見えるのか。私から見ればそう違和感はないのだが」
「私もですよ。千尋さんの顔って普通って感じですけど、雰囲気でわかりますし」
「謎だよなー...やっぱ適当な理由つけて拉致ってくるべきだったか?」
「そこまでの外道は見過ごさないからな、私は」
「しまった、外付け良心回路の存在を忘れてた」
「なんか、千尋さんとデオンさん。仲良くなりましたよね」
「ああ、正式に契約を結んだからな。今まで伝わらなかった感情のちょっと深い部分も伝わるようになっちまったんだよ。その分結び付きも強くなったからトントンなんだけどさ」
「サマナーの力と心が強く伝わってくるってのが今までとの違いだね。まぁ、伝わってくるのがほとんど邪心の類なのはアレだが」
「どんな事考えてたんですか?」
「ドクターを洗脳して情報を抜き取ろうとしたり、キリさんを信頼せずに色々と誤魔化そうとしていた事だったりが大きかったね」
「いや、初対面で信頼とか寄せられてたまるか。そういうのは時間をかけて積み上げてくものなんだよ」
なんて割とどうでもいい会話をしていると、緊急連絡が入った。
このコール音は、ヤタガラスから。アウタースピリッツだ。
「デオン、飛ばせ」
「シートベルトは締めたかい?」
「大丈夫です!」
「じゃあ行こう!しっかりと掴まっていてくれ!」
夜の爆速ドライブは、こうして始まった。
ヤタガラスから通報のあったエリアは、なんと繁華街。
位置関係が良かったため通報から3分程度でやって来れたが、特に様子がおかしい場所はない。
「サモン、カラドリウス。上空から偵察頼む」
「了解さ、サマナー!」
パタパタと羽を羽ばたかせて空を飛ぶ白鳥。
上空からの探査なら状況のわからないアウタースピリッツの発見は容易と思ったのだが、痕跡が見当たらない。
夜の6時というかなりの人の集まるこの時間に、一瞬で状況を把握して身を隠すなんて真似をできるものだろうか。
できるのだろう。百戦錬磨の英雄ならば。
「しゃーなし、アクティブソナー使う。縁、電池頼むわ」
「...本当に電池扱いするんですね」
「お前のMAG量が多いのが悪い。いや、良いのか?」
なんて事を言いつつ、縁から吸魔術によりMAGを必要量貰い、そのまま術式を展開する。
展開範囲を広めに取ったので、今度こそ見つからないという事はないだろう。
余計な者も釣れるだろう事は明らかであるが。
「ッ⁉︎アウタースピリッツ反応ヒットなし!潜伏系の能力か⁉︎」
「周囲の警戒をする!サマナーは別の術で探知を続けてくれ!」
「...いいえ、居ました!右前方の路地!なんかモヤモヤがあります!こっちを観察していたようです!」
「縁でかした!デオン、強行偵察!」
「了解だ、サマナー!」
そこには、華麗なる槍さばきを持ってデオンと相対している長い金髪の男がいた。
「やれやれ、追いつかれてしまったよ。私はまだ何もしていないというのに」
「悪いんだが、お前が存在している事で発する魔力がこの世界に悪影響を与えるんだ。とりあえず同行してくれないか?じゃないと殺すしかなくなる」
「ああ、
「サマナー、気をつけて。槍さばきだけじゃない。コイツ、魔術を使う。サマナーの探知を躱したのと、人から隠れるもの。多彩だよ」
「七面倒なタイプの使い手か」
「そして何より、私より速い」
「はっはっは、そう褒めるな白百合の騎士よ」
「ッ⁉︎」と驚きを隠せない俺とデオン。
初見の筈のアクティブソナーを躱し、初見の筈のデオンの正体を見抜く。
このカラクリを見抜かなくては真っ当な勝負の土俵に立てないだろう。このアウタースピリッツは、これまでの者達とは一味違う。
「君たちに同行する事は私にとって一理もない事だからね。退散させてもらうよ」
全員が、前に出された左手を注視していた。
そこにある、微小な魔力に警戒しての事だが、それこそが向こうの狙いだったようだ。発光の術式の類似術式だと気付いたのは、一瞬遅かった。
銃弾を打ち込む前に強力な光による目眩しが俺たちを襲ったのだ。閃光に飲まれた中での一度の金属音の後、目が戻る頃には忽然とアウタースピリッツは姿を消していた。
先程槍使いの居た位置に存在しているデオン以外、変わった点はない。
「すまないサマナー。歩幅で位置を把握して斬りつけてみたが、防がれた。まるでそうしてくるとわかっていたかのように自然にね」
「マジか...」
この接触でわかった事はアウタースピリッツの外見と魔術使いである事くらい。これでは、速攻で仕留めるなんて事は出来そうにない。
しかも、敵には謎の知識がある。未来予知の能力か?
なんにせよ長期戦になる。これは、志貴の件はかなり後回しにしないとならないななどと思いながら、ヤタガラスへの報告書を作り始めた。
志貴の描写は凄く迷いました。あの独特の感性を引っ張り出せないし思い出せない。悲しみ。
まぁ、本人じゃないので良いのだ!って誤魔化しますけど。
しっかし月姫リメイクまだかなー。最近翡翠ルートの琥珀さんが読みたくなって仕方ないのだ。
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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