白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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評価50人突破して尚赤を保ててるとか、これはちょっとしたミラクルでは?と自分では思ったり。


智慧に対して

対アウタースピリッツ特殊部隊トルーパーズ。実の所それはまだ正式に発足しているわけではない。

メンバー集めから訓練期間を経て、3月末に発足するというのが本来のスケジュールだったからだ。

 

そんな事お構い無しにぶっ込んでくるアリスやアウタースピリッツの存在により、現在のメンバーで訓練期間など無しの破茶滅茶スケジュールで進んでいるため、割と辛い。主に経費の類がまだ纏まりきってないあたりが。

 

などとどうでも良い事を考えながらも支部へと向かう。

先日のアクティブレーダーの術式のテスト、という名目での槍使い捜索のために。

 

「ミズキさん、どうもです」

「花咲さん。先日のアウタースピリッツの遭遇レポートありがとうございました。敵は魔術使いですか」

「いえ、デオンが斬り損ねたってことは槍の腕も相当なはずです。魔術も使える槍使いってのが正しいですかね」

「そして、正体不明の情報源に認識能力。目的が分かれば行動パターンを割り出せるかもしれませんが、それを匂わす発言はなし。聖遺物の護衛についてる付和さんからの連絡もありません」

「...聖遺物関係で、隠してる事とかありますか?」

「それを語る権限が私にあるとでも?」

「まぁ、そりゃそうですよね」

 

魔導システムの根幹を司るコントロールセンターへと案内されながらそんな会話をする。槍使いの情報を少しでも集めたかっただけなのだが、やはりそう甘くはないのだろう。

 

ちなみに、現在は俺とミズキさんの二人だけ。COMPの着用は必要なので許されているが、デオンや縁の護衛はない。というか許されていない。

 

システムの中枢に関わる部署なので防諜は相当気を使っているようだ。

 

何段階かのチェックを受けた後ようやく中へと入ることが許される。

自動ドアをくぐり抜けると、そこでは炉心に刻まれた複雑な魔法陣を術者たちが調整しつつ使用して、そのデータを周りにあるパソコンに出力しているというとても効率的なシステムが構築されていた。最新鋭の技術の結晶のような部屋だった。

 

素直に感嘆するばかりだ。やはり自分の腕では魔法陣展開代行プログラムに頼らないと魔法陣ひとつ発現できない半端者なのだと思い知らされる。

 

なんて事を思っていると、ミズキさんが監督をしている白衣の男性に声をかけた。

 

そうしてこちらを向くその人は、こんな大事なセクションを任せられるにしては若い姿をしていた。40代くらいだろうか。

 

「こちらが、システムの担当責任者のキバヤシさんです」

「花咲千尋です。現代魔導師兼悪魔召喚士(デビルサマナー)やってます」

「聞いてるよ。ウチのアンテナ使って大規模探査術式かました子だろう?ログ見たけど良い腕だったから是非話をしたかったんだ。あの術式、消費MAGさえなんとかできればかなり有用だからね」

「ありがとうございます。じゃあ、今回のアウタースピリッツ対策術式は?」

「オーケーだよ。術式はシンプルで理論的な問題はなし。ウチの余剰スペックで対応可能だ。とはいってもやっぱりMAGの問題があるから打てて一日五発程度だけどね」

「十分です...って言い切れたらカッコいいんですけど、アイツ一発目のソナー魔術で躱してるんですよね。なんで、そのネタを暴かない事には打っても無駄打ちになるだけです」

「...術式がバレてる可能性は?」

「結構多用しているんで、ありえます」

「とりあえず、データ解析をこっちでしてみたら欺瞞の跡が見つかるかもしれないから、観測データくれるかな?」

「了解です」

 

そう言って端末同士をリンクさせてパパッと渡してしまう。とはいえ俺のデータ解析を行ったスマートフォンは割と高性能品。スパコンレベルのものでも使わない限り大した差は出ないだろう。

 

そう思ってたら、マジにスパコン使いやがった。躊躇いないなオイ。

 

「...ウィルスの可能性は考えなかったんですか?」

「ミズキが殺してないんだから、大丈夫かなって」

 

その驚きの言葉に思わずミズキさんを見る。ちょっと恥ずかしそうにしていた。いや、恥ずかしがるポイントかそこは。

 

「対象地域を絞って解析してみたけど、ソナーの反応は誤差レベルのものしか残ってないね」

「はい。多分MAG波を透かしてるんですよね。なんで色をつけたMAGなら探知できるかもとは思うんですが...」

「その場合に立ちはだかるのが、初見を抜けた理由ですか」

「...最悪、未来予知まで見ています」

「その場合は...うん、詰んでるね」

 

データとにらめっこしてあれこれ頭を悩ませるも、打開策は見えてこない。

 

「...仕方ない。システム部長の権限において、アーカイブの使用を許可するよ。遭遇戦での英霊の服装や装備、髪色なんかからこの世界での英雄が分かれば、敵の技のヒントくらいにはなるかもしれない」

「...ありがとうございます、キバヤシさん」

「いいよ。ただ、なるべく急いで。僕たちは作業の合間を縫って探査術式を支部のシステムに組み込んで最適化するから、それまでに敵のネタは見つけて欲しい。今はひと段落ついてそんなでもないけど、これから結界班との競合でどんどん人が行っちゃうから」

「人事ですか。世知辛いですね」

「限られたカードの中でなんとかしないといけないのが人だからね。その辺は納得してよ」

「了解です。あ、アーカイブには護衛連れて行って良いですか?どうにも不意打ち恐怖症なもんで」

「...何があったの?」

「ガチの新人の頃、バックアタックから逃げたらチンの群れにぶつかって死にかけました」

「...よく生きてたね。潜在MAG量から言って千尋くんそんな強力な力場があるわけでもないだろう?」

「仲魔を盾にしてひたすら逃げ回りました。お陰で安全圏を見る目は養われたんですが、経緯が経緯なんで誇れないんですよねー」

 

尚、最終的には口八丁で追ってきた悪魔とチン達を殺し合わせて自分は命からがら逃げおおせたというのが、新人時代の失敗の結末である。だから百太郎もエネミーソナーも護衛の仲魔もつけて常に万全の奇襲対策をしているのだ。

 

「うん、関係各所への連絡は終わったよ。アーカイブの使用許可下りた。ミズキの監視付きだけど、護衛もオーケー。ただ、使用にはくれぐれも気をつけて。アレ、わかってないこと多いから」

「ありがとうございます、キバヤシさん」

 

そんなわけでシステム部を後にして、アーカイブのある地下室へと向かう。

 

再びの道のりだが、今度は純一はいない。アーカイブの操作は俺がやる事になるのだろうか...というか、部外者が操作していいものなのか?アレ。

 

「やぁサマナー。システム部とやらはどうだった?」

「ハイテクの塊すぎてヤベーわ。そしてそれを使いこなしてる術者さんたちもヤベー。絶対敵になりたくないわ」

「...清く正しく生きていれば大丈夫なのだろう?」

「いや、割と厄ネタ抱え込んでるから、一歩間違うと『騙して悪いが』な事になりかねん。無情だわ」

「それを私の前で言いますか、花咲さん」

「温情とお目こぼしを下さいって言ったつもりです」

「白昼堂々と不正の相談...サマナー、そういうのは周りに人がいない時にすることだよ。ノーとしか答えられない」

「その通りです。それに残念ながら、私は基本的にヤタガラスの歯車ですよ?温情も手心も与えるつもりはありません。なので、そうならないように気をつけて動いてください」

「はーい」

 

まぁ、ミズキさんの性格上仮に人気のない所でもノーと言うのだろうからこれでいいのだ。

厄ネタを抱えているという情報を渡し、それについて内偵してくれるというのが最良なのだから。

 

自分たちの信用が実績以外の所で補完されてくれないと、潰しが効かなくて辛いのだ。ついでにヤタガラスの権力で縁関係が明らかになってくれるととっても良い。

 

正直、手一杯なのだ。未だ縁を狙ったファントムの裏が取れていないのにもかかわらず次から次へとトラブルが回ってくるのだから。

 

そんなことを考えていると、記録室の部屋の前にたどり着いていた。

 

「ヨミコ、入りますよ」

「ミズキに造魔くんと...あー、純一の友達の...なんだっけ?」

「サマナーやってる、花咲千尋です」

「今回は千尋くんしか情報を持っていないので、アーカイブの使用方法の説明からお願いします」

「めんどいなー...思念波に反応して情報データが返ってくるって言って、分かる?」

「ええ、コンソールがなくて直に触れて操作を行うって事と、それの解析を繋げてるPCでやっているって事もとりあえずは」

「じゃあ使用方法はなんとなくでわかるね。ただ、アーカイブの情報はこの世界にとってかなりの毒になり得るから、情報の閲覧は許可された範囲内に絞って。じゃないと世界の敵としてヤタガラスが殺しに行くから」

「諸刃の剣ですねー」

「そんなことをなるべくしないために強制シャットダウン機能があるんだけど、されないように気をつけて。アレされると、意識飛ぶから」

「気をつけます」

 

何かと危ない遺物アーカイブ。だがぶっちゃけてしまうと使い方は分かるのだ。海馬の魔術師の記憶の中に使用した記憶があったりするので。

 

ちなみに俺が海馬の記憶を継承しているという事は、ドクターとの話し合いの結果公表はしないという事にしている。継承の術の存在はそれだけ大きいのだ。一歩間違えれば不老不死の術になり得るだけに。まぁ、人格の情報は記憶と異なるようで、爺さんの人格は俺の中にカケラも受け継がれていないのだが。

 

「じゃあ行きます。検索対象は金髪白鎧の槍使いの魔術師。検索範囲は未設定」

「りょうかーい」

 

アウタースピリッツの姿をそのままではなく、鎧、髪色、槍の形などパーツに分けて思念をアーカイブに入れていく。そうして使われた魔術のあるがままの形を入力すると、「でたよー」と緩い声が聞こえた。地雷を踏まずには済んだようだ。

 

「使われたのはドルイド魔術。妖精との契約によって発言する魔術らしいよ。んで、金髪に槍使いである程度絞れた所の鎧の形で絞り込みは済んだ。鎧についてた水袋が決め手だったよ。今回のアウタースピリッツの名前は、フィオナ騎士団団長フィン・マックール。ヌァザっていう戦神の末裔らしい」

「半神という奴ですか。でも、それにしてはかの槍使いは何というか、華麗でしたよ。神の力で暴れたみたいな奴ではありませんでした」

「そのあたりは情報出し終えた後で勝手に考察して。アーカイブの情報とアウタースピリッツの情報は細部が異なるから」

「...その原因は?」

「辿ってきた歴史の違いじゃないかなってことになってる。アウタースピリッツ第一号は、本来の歴史では男だったのに女として現れたから」

 

なるほど、性別不詳の奴とかいるし、そういうこともあるのか。とデオンを見ると、なにやら考え込んでいた。フィン・マックールという名前に心当たりでもあったのだろうか。

 

「続けるよ。フィオナ騎士団ってのは、当時のアイルランドって国の騎士団で、腕利きだったみたい。このフィン・マックールの栄光に縋って毎年入団希望者が現れたとか。その功績は....すごいな、神殺しがいっぱいだ。自分の縁者であるヌァザって悪魔でさえ殺してる。悪魔殺しのエキスパートだね」

「とすると、死因は呪いあたりですか?」

「いや、老いてからの国との確執だね。騎士団が仕える主人が代替わりして、その栄光と強さにビビって戦争したんだとか。んで、最後の一人になるまで戦って、殺された。...うん、特別な死因じゃないね」

「厄介ですね。普通に殺されたんじゃ普通に殺すしかない。真っ向勝負ですか...」

「...うん、それしかないっぽい。フィン・マックールは若い時の修行で、知恵の鮭ってのを食してる。これの力で未来予知じみた謎解き...を...」

「ヨミコ?」

「...それ、今すぐ殺さないとやばいですね。この世界の謎とか誤魔化しとかを暴かれると、そこから結界が瓦解しかねません」

「だね、特級案件として上に上げてみる。結界更新前の忙しい時にコレはマズイよ」

「すまない、結界が瓦解するとはどういうことだい?」

 

考え込んでいたデオンが言葉を発する。これは、平成結界の維持に関わる術式だ。言っていいものか迷うところだが、ヨミコさんは何気なく口に出した。

 

「平成結界は、低位悪魔の抑制効果自体は高くないからね。噂されちゃうと悪魔の顕在化現象が起こっちゃうんだよ」

 

凄いギリギリを攻める言い方である。この人、深いところまで知ってる人だ。だからこそ、アーカイブの管理を任されているのだろうか。

 

『誤魔化されている気がするのだが』

『言ってることは正しいが、全部は言われてない感じだ。異界強度(ゲートパワー)と集合的無意識での情報結合現象についての予備知識が要るが、聞くか?』

『...また今度にするよ。とりあえず、噂されると危ないという判断で良いのだろう?』

『だいたいあってるよ』

 

「とりあえず話を戻しましょう。知識の鮭の破り方はアーカイブにありましたか?」

「知識を得るのに親指を舐める必要がある。それ以外の弱点はないね」

 

沈黙が場を支配する。ちょっと無敵すぎないかこのフィン・マックールは。

 

「これ、智慧の取得の間隔を見切らないとどうしようもないですね」

「でも、それを暴くにはフィン・マックールを見つけないといけない」

「ただし、智慧がある限り魔術的探知は不可能」

「血の一滴でも流れていれば呪術的探知の線も取れますが、それもない」

「...結界の揺らぎから逆算するのは?」

「無理ですね。結界の揺らぎはあくまで魔力の発露による副産物。魔術を修めているこの術者が抑えない訳ありません」

「...もしかしなくても、詰んだんじゃありません?」

「...ヤタガラスで賞金を出しましょう。もう、なりふり構っていられません」

 

とりあえず、やばいという事しかわからなかったあたり最悪だ。

 

「他に、フィン・マックールのパーソナリティに繋がりそうな事はありますか?」

「...これかも。フィンは一人目の妻に妖精を選んだ。名前はサーバ。ただ、幸せ絶頂期に同族に誘拐されちゃったみたい。でも、連れ去られてから7年もの長きに渡って探し続けたんだって。深い愛だねー」

「なるほど、サーバを召喚できれば餌にできるって事か」

「アーカイブからサーバの召喚魔法陣は引っ張れたから、COMP出して。交渉材料くらいにはなるかも」

「ありがとうございます。つっても、こちらにサーバを呼び出す準備がある事をどう伝えるかってのも問題なんですよね」

「それなんだよねー、鮭の智慧でなんとか知ってくれないかなー」

 

なにはともあれ、フィン・マックールを見つけなくてはならない。

しかし、その見つける手段が無い。ガチの手詰まりだ。

 

騎士として生きていたのなら、人の死しか生み出さない結界破壊なんてものに傾倒しないと信じたいが、人の心などわからないものだ。アリスというアウタースピリッツを悪用しようとする者もいる。

 

「...とりあえず、動き回りましょうか。偶然の遭遇の可能性もない訳ではありません」

「俺はサーバを召喚してみます。案外目的が得られるかも知れませんしね」

「よろしくお願いします。...ところで、MAGの備蓄に余裕はあるんですか?」

「...正直怪しいですね」

「じゃあ、とりあえず1万MAGほど。サーバは大した悪魔では無い様子、これで足りるでしょう」

 

これが、国家の力ッ⁉︎と内心驚愕する。マジでありがたいことこの上ない。経費って素敵!

 

「...ああ、トルーパーズの正式結成後にこれまでの経費はしっかりとお支払いする予定はあるのでご安心を。流石にヒュドラの件は不可能ですが、それ以外ならなんとかしましたので」

 

上司の鑑か⁉︎

 

「ヤタガラスさん家の子になりたくなってきたわ。福利厚生って素敵だな」

「サマナー、それは冗談でも言わないようにね。カナタもエニシも泣くから」

 


 

所変わって遡月支部の召喚場。1階にある防弾防刃防火などなどの高い広間であり、局所的に異界強度(ゲートパワー)が高まってしまっている危険スポットでもある。

 

とはいえ、サマナーにとっては良い事尽くめ。新しい仲間を召喚するにはもってこいの場所だ。

 

「んじゃ、デオン。戦闘待機な」

「ああ、サマナーも気をつけて」

 

「悪魔召喚プログラム、展開。召喚陣選択、妖精サーバ」

 

そこそこの勢いでマグネタイトがプログラムに吸われていく。やはりこの規模なら、ロークラス悪魔がいい所だろう。維持コストの事を考えないで済むのはありがたい事だ。

 

左手のスマートウォッチに、Summon OK?と文字が出る。召喚は問題なし。あとは、肉体を構築するのみ!

 

「サモン、サーバ!」

 

スマートウォッチから鹿の角を持った妖精の美女が現れる。これはフィン・マックールと並んだらさぞ絵になるだろう。そんな感想を抱くほどだ。

 

「妖精サーバ、召喚に従い参上したわ。あなたの目的は何?」

「フィン・マックールについて話を聞きたい。そちらの要求は?」

「...私は、私でなくなりたい。悪魔合体をすることよ」

「承知した。俺は悪魔召喚士(デビルサマナー)の花咲千尋。よろしく頼む」

「妖精サーバよ。コンゴトモヨロシク」

 

とりあえず、契約は成立した。霊的地雷(マイン)の類も見られない。一先ず、繋ぎとめられた。

 

「それで、どうしてディムナの話を聞きたいの?」

「ディムナ?」

「彼の本名よ。親しい者にしか呼ばせていなかったけど」

「じゃあ、記憶の方の磨耗は大分少ないって事で良いんだな」

「ええ。どんなに時間が経っても、あの幸せな日々は思い出せるわ。...まぁ、私の方は大分変わっちゃったけど」

「語りによる劣化か?」

「ええ、多分ね。私にはこんな鹿の角なんてなかったし、私の性格ももっと違ってたと思う。どう違ってたかは思い出せないけど」

「...まぁ、記憶の方に問題がないならとりあえずいいさ。今、フィン・マックールがこの世界に現れている。つってもアウタースピリッツって言う、異世界のフィン・マックールだがな」

「...ディムナが、居る?」

 

その言葉と共に、サーバは鹿へと姿を変えた。物凄い落ち込みオーラを身に纏いながら。

 

「今すぐ消えてしまいたい...ディムナに合わせる顔なんてない...息子の事も全部任せちゃったし、あんなクソに騙されて共に生きる約束を破っちゃったし...きっとディムナは私の事なんて気にもしてないわ...」

 

『サマナー、これは地雷を踏んだという奴ではないかい?』

『うん、まぁいいや。契約で縛ってる間は自殺される事もないし、鹿の姿に変わってるのに力を使ってるから、目立つ。こいつこのまま引きずり回そう』

『最悪じゃないか⁉︎』

 

「まぁ、世界はそこそこ広い。いきなりフィンと遭遇なんて事にはならねぇよ」

「そんな事、断言できるの?」

「向こう的には俺たちと会いたくないだろうから、間違いないと思うぞ」

 

断言はしない。だってサーバは餌やし。

 

「なんかあのクソ野郎の手口と似たモノを感じるんだけど」

「気のせい気のせい。さあ、せっかくだし外歩きながら話そうぜ。現代の街並みは気分転換くらいにはなるだろ」

 

そんな訳で、ミズキさん達に連絡を入れて街歩きに入る。

サーバは鹿の姿から戻るつもりはないようだ。

 

「ディムナと会ったらどうするのよ!自殺ものよ!」との事。契約により自殺できないように縛っていることをサーバはまだ知らない。

 

「意外と自然が残ってるのね」

「...切実な問題があってな」

「何よ」

「酸素だけは、未だに継続精製できてないんだよ」

 

平成結界内部だとしても、植物がなくなり光合成が止まれば人々は実際死ぬ。悲しみの事実である。

 

いや、瞬間的な生産なら出来ないことはないのだが、継続的に精製する術式はまだ生み出されていないのだ。

 

「そう、緑の大切さを人間はわかるようになったって事ね。いい事だわ」

「そうだね。街に木々や花々があるのは心が華やぐ。そこは悪くないね」

 

などと言いながらぷらぷらと歩く。

パッシブソナーに感は無し。平和で何よりだ。今は非常にムカつくが。

 

「じゃあ、フィンさんがどんな人だったか聞かせてくれよ」

「...嫌だけど?」

 

ギリギリするくらいの圧力でサーバを縛る。

 

「痛い痛い痛い!」と喚くサーバ。悪徳サマナーと契約してしまった事を後悔するが良い!

 

「あんたって、最低のクズだわ!」

「契約を守らないお前が悪い」

「デオンもそう思うわよねぇ!」

「...今回に限っては中立でいさせて貰うよ。君もサマナーもどっちも悪い」

「薄情な騎士ね!ディムナならふわっと金髪靡かせて助けに来てくれたわよ!」

 

とりあえず縛りはこのくらいでいいだろう。後は術を構えれば勝手にビビってくれる。

 

「じゃあ、話してくれ」

「...ディムナと会ったのは、私がクソ野郎に鹿にされた時でね。逃げ惑って泣き喚いて、狩られるかも知れない恐怖から砦に逃げ込んだの。でも、ディムナは縁もゆかりも無いのに駆けつけてくれたのよ。『大丈夫かい?お嬢さん』なんて格好つけながら。親指舐めながらだったからちょっと間抜けだったけど、それも含めて格好良くて、救われた」

「一目惚れ、だったのかい?」

「覚えてないわ。一目惚れだったような気もするし、言葉を交わしていくうちに好きになったのかもしれない。まぁ、昔の事よ」

 

鹿の姿のまま、話を続けるサーバ。雰囲気だけを抜き取れば、大人の女の会話だ。鹿のままだが。

 

「それから、生きる時間の違う私とディムナは色々あったの」

「例えば?」

「...貞操観念の違い、とか」

「お前それを真っ先に思い浮かべるのかよ」

「だって、愛を覚悟してからはずっと愛し合ってたもの。ちょっとでも同じ時間を生きようと必死だったから」

 

なんとも爛れた騎士団長サマである。気持ちはわからんでもないが。

 

「その愛の結果で息子を孕んで、そのままあのクソに連れ去られた。...私の話はそれで終わりよ」

 

そうしてフィン・マックールは7年もの長きにわたって彼女を探し続ける訳か。

 

「そっか。ありがとう」

「...何よ?何かの罠?」

「いや、話してくれた事にだよ。契約とはいえ、感謝はするぞ」

「あ、そう。じゃあ私は契約を果たしたから、あんたも早く私の合体相手を見つけてちょうだい」

「ああ、じゃあ異界探しと行くか」

「待ちなさい、それって結局ディムナ探しと何も違わないじゃない!」

「契約を守るためだからなー、仕方ないなー...おいやめろ、脛を蹴るな。普通に痛いわ」

「最悪のサマナーと契約したものよ、ホント」

「言われたね、サマナー」

「だが俺は謝らない。実際相手探しは必要だし」

「あなたって、最低のクズだわ!」

「...鹿に言われてもなー」

 

などとごちながら、フィン・マックールの探索を続ける。

向こうがこちらを見たら、嫁さんを迷わず攫いに来ると思うのだが。

そうすれば、サーバとの契約のラインを通じて位置を割り出し、囲んでリンチにするのだが。まぁ、それは向こうもわかっているという事なのだろうか。

 

「...餌に食いつく気配はなし。とりあえずテストとして一発アクティブレーダー放って様子見かね?」

「いま餌って言ったわよね私の事」

「すまないサーバ。サマナーは根は悪い人ではないんだが、アレなんだ」

「アレってなんだ面白ナイト。俺は一般的なサマナーだよ」

 

今日の探索を終えようと、探索したエリアにちょくちょく仕込んでいたアクティブソナーの術式を起動させる。反応は...あった。小規模の異界だ。俺たちが通り過ぎてから発生したのだろうか。

 

「異界見つけたから潰しに行くぞ。運が良ければ、合体素材も見つかるかもな」

「行きましょう、ディムナと会う前にこの汚れた体から抜け出したいもの」

 

「汚れたとか、お前が思っててもさ」

 

「案外、向こうは受け入れてくれるかもしれないぜ?」

 

それは、ちょっとした希望だ。フィン・マックールの事など俺はほとんど知らない。だが、身も心も汚されたその先にいるサーバを受け入れてくれる可能性は、きっとゼロじゃない。

そんな風に、俺は感じた。

 

「...そんなわけ、ないじゃない...」

「わかってないみたいだから言っておくけど。男ってのはかなり単細胞だからな?お前が汚れていると思っていても、気にしないで接してくるかもしれないぜ?」

「そんなわけないじゃない!」

「あるさ」

 

「少なくとも、俺はお前を汚れてるとは思わない」

 

真っ直ぐに目を見つめて、心の底からの声を伝える。

俺がサマナーとして身につけた、最初の技術だ。

 

「...ばっかじゃないの?アンタ」

「知らないのか?馬鹿以外にこんな仕事してる奴はいねぇよ」

 

その日、異界での交渉により地霊コボルトと妖精スプリガンを仲間にすることに成功した。中々の結果だ。

今回の異界の主は邪龍トウビョウ。今の俺たちからしたら対した悪魔ではなかった為、デオンがずんばらりんと一刀両断して終わってしまった。その後、蘇らないかとか不意打ちがないかとかで20分ほど警戒に費やした事にサーバは呆れていた。

いや、こんなに簡単に異界討伐が終わるわけがないだろう。

 

「...間抜けだけど強いのね、貴方達」

「そりゃな。金かけてるし」

「...そこ、金の問題なの?」

「俺の場合はな。戦うのに基本金使いまくるし」

 

などと会話しつつ事務所へと戻る。ヤタガラスは特定属性に偏らせた波長(色付き)のアクティブソナーを3種類ほど放ったが、戦闘データによりガワは掴んだ筈のフィン・マックールの所在は掴めなかった。その代わり、この街を拠点にしようとしていたダークサマナー達が見つかって瞬殺されていたとはミズキさんの談だ。なんと運のない連中だ。

 

「ねぇ、サマナー」

「なんだサーバ。ケーキのリクエストか?」

「この時代のモノなんてわからないから任せるわ。...じゃなくてさ」

 

「あなたはどうして、ディムナを殺そうとするの?」

「...フィン・マックールの存在そのものが、この世界の人間に対して害になってんだ。放置していると、結界が壊れて皆が死ぬ。それを止めたいから、命を張ってるんだ」

 

「このままだと、フィン・マックールの名前が虐殺者として残りかねない。それは、こっちとしても望むところじゃないからな」

 

ただ、事実を述べる。誤魔化しは効くかどうかわからない。サーバは長きを生きたが故に聡明であるためだ。

いや、それも言い訳かもしれない。俺は、俺がフィン・マックールを殺すのだと理解したのならサーバが虚偽の情報をもたらす可能性を捨てきれなかったのだ。

だから、少しだけ言葉を加える。これは、俺だけの心の中にある理由。かつて世界を守り戦った英雄たちの名前を汚したくはないのだという自分勝手な理由を。

 

「...あなたの目論見通り、あと1日だけ餌になってあげる。ディムナが私を見てどう思うかは、正直怖いけどさ」

「いいのか?」

「ただの気まぐれよ。期待しないで」

 

「あなたなりに私とディムナの事を思ってるって事は、伝わったから」

 

『サマナー、時々君は情熱的になるね』

『...心の底に思ってる事を口にするときは熱が篭るもんだろが』

『そういうところ、私は好きさ』

『...それ、性別はっきりしてくれたら喜ぶかどうか決められるんだがなぁ』

 

性別不詳、侮り難し。というか、本契約を結んでもコイツの性別がわからないってどういう事なのか物凄く問い詰めたい。が、神さまはとっくの昔に死んでいるので真実は闇の中、かなり悲しい。

 

道中でケーキ屋に寄った後事務所に戻り、今日は休息を取った。

サーバは、なんだかんだと馴染んでいた。

 


 

「ようやく釣れたか。お嬢さん」

「私を誘っていたの?フィン・マックール」

「ああ、私がこの世に現れた時親指かむかむ智慧もりもり(フィンタン・フィネガス)の力で私を見ていた君を見つけた。そして、間違いなく君が真相に一番近いと見た。だからこそ、あの少年たちからは逃げ出したのだよ」

 

「君から彼らを守るためにね」との言葉は発さない。目的こそわからないが、この目の前の少女の力は本物だ。全盛期のフィオナ騎士団総出でかかってなお互角といった所だろう。

 

多少の出力低下を感じている今の自分では、確実に殺される。それは、意味がない。

 

「それで、話はどこまでわかってるの?」

「この世界が仮初めで、終わりかけているという所まではしっかりとね。受け止めるのに時間はかかったが」

「じゃあ、あなたは私の仲魔になってくれるの?」

「条件くらいは出させてほしいものだな、お嬢さん」

「...なによ」

 

「世界が終わるその前に、妖精の都へと赴きたい。可能か?」

「...ごめんなさい。かつて妖精郷と呼ばれた異界はもう黒点に飲まれて純粋な情報としては残っていないわ。だから、情報汚染の起こった集合的無意識、人の心の残り香としてしか妖精郷はないの」

「...意外だね。嘘でも言うと思ったのだが」

「バレるでしょ、知恵の鮭の力で」

「まぁ、その通りだ。君の反応から大体の情報は読み取れる。そういう力だからね」

「じゃあ質問、平成結界の向こう側の知識はどのくらいある?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で十分な知識が流れ込んでいない。なのでこの世界に来てからの観測結果しかないな」

「なら、説明はしなくていいね。この世界を救う為に、あなたの力を貸してほしい。契約の代価は、なんでも払うから」

 

その契約への答えは、フィン・マックールにとって必然であった。

 




世界の終わりが来るとわかった時、あなたは誰とともに居たいですか?なんてのが小テーマ。フィン・マックールは歴史も含めて良いキャラですので。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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