フィン・マックール捜索二日目。
サーバを餌に使える最後の日だ。だが、あいにくの平日であり学校だ。まぁ、占い師見習いのカオルにヒントを貰えたら良いなという下心はあったりする。
「というわけで、ショートケーキです。お納めくださいカオル様」
「うむ、苦しゅうない。って何言わせてんのよ。馬鹿なの?」
いきなりぐだぐだな空気になるが、まぁ学校での俺たちの空気はこんなものだ。牽制しあっていた所に人脈だヒャッハー!と考えなしに飛びついた奴が原因だ。だが私は謝らない。
「んで、今回はどんな相談よ。恋占い?」
「人探しだな。サモン、サーバ」
「ちょ!」っと焦る声が聞こえる。コイツ意外と不意打ちに弱いのな。
「鹿の角の妖精?にしても綺麗な悪魔ね」
「コイツの元旦那さんも呼ばれてるらしくてな。どうにか引き合わせてやりたいんだよ」
「何そのラブストーリー、詳しく聞かせなさいよー」
しぶしぶとサーバは自らの事を話した。ダル絡みがうざかったので適当だったが、それでも要点は抑えていた。
「千尋、あんた絶対旦那さんと引き合わせなさい。悲恋で終わりなんて少女漫画でもお断りよ!」
そういった言葉の断片から集合的無意識の情報にアクセスして情報を検索し、本人にもわからない詩的な形で引き抜くのが占いだ。詩的になる理由としては、脳や体を情報の奔流から守るためらしい。
そして、このカオルはその詩的な情報を噛み砕くのがとても上手い。経験や背景が無いためまだ見習いだが、それさえあればきっと大成するだろう。いいコネを作れたものだ。
「うん、まず千尋。あんたの考えてる策はやめておきなさい。失敗するわ」
「りょーかい。理由はわかったか?」
「いいえ、ただ貴方の一番嫌がっている方法を取られるってだけよ。復讐の鬼が出来るだけね」
サーバ爆弾を解除して欲しくば自決しろ作戦は失敗に終わるのか。知恵の鮭、おそるべし。
「それからサーバ。あんたは選ばなきゃならない。何も言わずに去るか、共に堕ちるか、引きずりあげるかを」
「...随分な選択ね」
「正直どの選択でも、大勢が変わるわけじゃないわ。あなた程度いなくても何も変わらないもの。でも、変わるものはある。あなたの旦那の心よ」
「きっとそれが、心を守るカギになる。だから私個人としては、何も言わないってのはやめてほしい。...こう占いに私情を巻き込んじゃうから、私ってまだ半人前なのよねー」
「いいえ、ありがとうカオル。あなたは私たちの事を思ってくれた。それはとてもとても嬉しいわ。だから、私も覚悟を決めることにする」
サーバのその目からは、迷いが消えていた。これだから女性というのは強い。フィンと共に行くか引きずりあげるかどうかは本人次第だが、きっと悪いオチにはならないだろう。
「んで、結局どうやったら探し人に会えるかはわかったのか?」
「ええ。ただし、その情報を知りたいのなら、わかるわよね?」
「...マッカで良いか?」
「構わないわ。4500マッカね」
「地味に足元見てやがるッ!いや払うけどな」
COMP同士のリンク機能を使ってマッカをデータとして渡す。マッカには余裕があるとはいえ、痛い出費だ。
「毎度ありー。じゃあ情報ね」
「全知の目。サーバの旦那はそれを懐柔するために動いているわ」
「具体性がないな。それでいいのか?凄腕占い師」
「こういうワードが出た時は大体心当たりがあるでしょ?千尋なら」
「ま、そうなんだけどさ」
全知の目、その言葉に引っかかる事例は一つしか知らない。まさか志貴くんが絡んでしまうとは思いもしなかった。だが、何故に今?サマナーネットに情報が出始めたのは2ヶ月前。昏睡から起きたのもその時期だろう。故に、即座に行き恩を売るのが正しい選択肢の筈だ。
「...協力的なアウタースピリッツを介さないと会えない?全知の目を恐れているのか?」
「何、また占いが必要?」
「いや、多分ターゲットには情報防護以上のものが張られてる。ヤタガラスお抱えの占い師が見つけられていないってのはそういう理屈だろうさ。危険だからあんま触れないようにな」
「危険キーワードは?」
「アリス、堕天使、英雄、このあたりだな」
「ありがとー。今度依頼の斡旋できそうなのが来たら千尋の事紹介しておくよ」
「こっちこそ助かる。年齢で侮られがちだからな、俺は。紹介があると一手間楽できる」
「大変だね、唯一の実働員ってのも」
「仕事自体がそんな多くないからなんとかなってるよ。こればっかりは所長の仁徳に感謝だな」
「それ、マイナス方向に使う人初めて見たわ」
念話でデオンに連絡を入れつつスマホでキリさんに連絡を入れる。志貴くん周りで怪しい事はなかったかどうかという事を。
返答はすぐに来た。大の大人が音を上げる訓練を余裕綽々とこなしている事以外には何もないと。リハビリ明けの筈だというのにコレだ、やっぱ種付きって凄えわ。
「じゃあ、午後の授業サボんなよ。俺はサボるけど」
「流石
「緊急事態だしなー」
デオンの運転する迎えの車が来たのを確認してから、認識阻害の呪符を起動させて屋上から飛び降りる。外まで屋上からひとっ飛びなあたりが屋上が裏に関わる者の溜まり場になってる理由だったりするのだ。
まぁ、俺は着地に弾性術式クッション挟まないと地味に足を痛めるのだが。
「デオン、行くぞ」
「了解だ、サマナー。だが、エニシも拾っていくので良いのかい?」
「あの時フィン・マックールを見つけられたのは縁だけだ。何かあると見て間違いないだろ。例えば、人間以外からの認識阻害に注力しすぎて人間からの認識阻害がザルだとか」
「成る程。理解したよ」
「...本音を言うなら、縁に頼らないで終わらせたかったんだがな」
「確かに。エニシは日常の中で笑っているのが一番似合うからね」
「本人がやる気な事が救いだよ。一度学校をサボってみたかったらしい」
その言葉にフッと笑みを浮かべた。デオンも割とサボるという行為に憧れる優等生だったようだ。
「所長は先に現着してるから、久しぶり...ってか初めての全員での戦闘だな。所長の戦闘パターンは頭に入っているか?」
「問題ないよ。私も縁もしっかり訓練は積んだ。カナタがどう暴走するかはわかっているさ」
「心強いな」
まぁ、その思考の斜め上を普通に飛んでいくのが浅田彼方という女傑なのだが、それはまぁいいだろう。
星野海中学の校門前に認識阻害の呪符を起動させた縁がいた。改造メシアンロープを着込んだ戦闘状態で。やる気満々だな本当に。
「千尋さん!デオンさん!」
「よぉ不良学生。初めてのサボりの気分はどうだ?」
「...罪悪感って結構来ますね」
「それを感じてるうちは大丈夫さ。慣れると息をするようにサボれちまうから、マジで」
「気をつけます!」
ただ、あんまりサボりすぎて留年でもしたら大変だったりする。ヤタガラスの信用調査ってそういうところも見るのだ。一般人に紛れ込めない奴は相当のマイナス評価を受けてしまう。それはフリーとしてはかなり痛いのだ。使えない奴に依頼は回ってこないのだから。
「じゃあ縁は助手席な。俺は後部座席で作業してるから」
「また内職ですか。何するんですか?」
「地雷」
「...爆発させないでくれよ?サマナー」
「安心しろ、火力は大したの出せない。ちょっと意識を逸らす程度のものだよ」
知恵の鮭の対策として考えたのが、今回のビックリドッキリアイテム属性地雷くんである。現場の情報量を過剰にする事で智慧を得てから最適解を打つまでに時間をかけさせるという事が出来るのではないか?との考えからだ。
どうせ作製に必要なのは自作の属性ストーンとマジックペン(MAG混入インク入り)くらいだ。大した出費ではない。
「...思ったんですけど、千尋さんってちゃんと寝てます?」
「それは既に確認したよ。寝れる日は毎日6時間は眠っている。契約の繋がりで何となくわかるようになったんだ」
「へー、本契約って凄いんですね」
「本当に便利なものだよ。命を握り合っているようで少し重いがね」
そんな会話の後に、高速に乗った。デオンと縁が話に花を咲かせているが、それはいいだろう。今は、生き残るために必要な事をするべきだ。
「カーナビによるとここから入るようだね。車で山道を入れるだろうか」
「ちょっと待ってくれ。今道を開いてもらう。この山は呪術による欺瞞結界が張られてるらしくてな。許可のない者には里までの道がわからないようになってんだとさ」
「なんか凄いですねー」と呑気に構える縁。いや、これキリさん達のスタイルを考えたら要するに許可無い者はぶっ殺すと言われているようなものなのだ。サマナーネットの噂でしかないが、暗殺特化型臭いのだよキリさんの一族。森を足場にした三次元軌道と力場抜きの高等技術、通称『貫通』をもって敵を屠る。というのが現在推測できるスタイルだ。
おっかないことこの上ない。是非とも根も葉もない噂であって欲しいものだ。
思考が逸れた。連絡連絡っと。
山道の入り口にある監視術式に手を振りつつキリさんのCOMPにコールを入れる。
「キリさん、花咲です。今結界前まで到着しました」
「ああ、確認した。里の術者が驚いていたよ。監視を正確に見抜いた術者は初めてなんだとさ。流石だね」
「ちょっとした一発芸ですよ。じゃあ入りますけど、結界の抜け方はどうすれば?」
「...すまないが、今は結界を解けないから自力で抜けてくれ」
「何かあったんですか?」
「修行をしていた志貴に声をかけてきた男がいたらしい。銀髪の魔術師だ。だが、里の感知網でも確認はできていない」
『ディムナよ』とCOMPからサーバが念話を飛ばしてくる。勘だが、同感だ。
「了解です。敵の狙いは志貴くんですか?」
「その可能性は高い。だが、一人で修行をしていた絶好のタイミングだというのに拉致を行わなかったことから目的が絞れない。なので陽動の線を見ている。が、七夜は廃れた一族だ。宝の類はないのだし、秘伝技術の類とて先代が匿名で公開した。里に残っているのも老いて一線を退いた者たちだけだ」
「なんにせよ、気をつけてください。俺たちが向かいます」
「所で、所長はどうしましたか?」
「...今は志貴を守ってもらっている」
あ、所長の奴許可取らないで結界抜いたな。そっちの方が面白そうとかの理由で。
あの人の直感はどうかしている。欺瞞結界程度では認識を狂わされたまま抜けたりするのだ。テンプルナイト時代に解析しても、何もないという事がわかったのだと本人が言っていた。マジで何なのだあの人。
「じゃあ、今から侵入します」
車の屋根の上に登り、山道に入る。視界に入る全てを簡単に解析しながらの走行だが、大した手間ではない。
その程度のことならば、常に行なっているのだから。
『デオン、この辺りで車降りるぞ。結構道が細い。ちゃっちい傷で修理代かけるのも無駄だ』
『入り口を見つけたのかい?』
『ああ、アクティブソナー使うまでもなかったな』
そうして車を降りて、スマートフォンの方のストレージに車をしまう。これ本当に便利だ。車って意外と情報量が少ないからコンパクトにしまえてしまうのである。
「しかし、ここから歩きで大丈夫かい?私には木々の茂る山道にしか見えないのだが」
「...私はなんとなくですけど、違和感を感じます。世界が噛み合ってないみたいな」
「縁、その感覚は大事にしろ。欺瞞破りは大体本来の世界との比較でやるものだからな」
そうして木々の中に手を突っ込む。
うん、空気が違う。当たりだ。
「縁、ほい」
「なんですか?コレ」
「対照の作りをしたルーンストーンだ。これがあれば逸れた時場所を見つけやすいんだ」
「見た目、変な文字が刻まれた石ですけどね」
「お守り程度に思っとけ。じゃ、入るぞ」
木に正面からぶつかるような形で道に侵入する。入ってからすぐに二人は入ってきたが、二人とも微妙に不安な表情をしていてちょっと笑った。
「こっからは迷いの森だな。方向感覚を狂わせるようにMAGが敷かれてる。二人とも俺の背中を見失うなよ」
「はい!」
「了解だ、サマナー」
その後、インストールアプリ、ネオクリアを正常化させるために多少の調整を施した以外は何事もなく迷いの森は抜けられた。悪魔のトラップとかがなかったのが残念だ。合法的にMAGを稼ぎたかったのに。
「サマナー、ほとんど迷わずここまで来れたね。迷いの森とは?」
「そりゃ、正解ルートしか歩いてないからな」
「どうやってわかったんです?」
「足元見てみ」
そこには、雑草が無造作に生い茂っている。だが、それだけではない。
「踏まれた後があるだろ?それは多分所長が通った跡だ」
「...あ」
それを見て縁も気付いたようだ。この森の攻略が余裕だった理由に。
「それもトラップの可能性を見て一応分かれ道で何度か調べたが、間違いはない。所長とキリさんのMAGが残っていたからだ。
「サマナー、君って意外と斥候スカウトとしての技術高いのだね」
「流石に本業には劣るがな」
「...何も考えてませんでした。やっぱり駄目ですねー、こういうのは」
「頼れる奴に頼るってのも実際有効だぜ?お前には高い戦闘力っつー売りがあるんだから、こんな小技は後々学んでいくので良いんだよ」
「ありがとうございます、千尋さん」
そんな会話から10数分後、あっさりと迷いの森は抜けられた。
「ここが、七夜の里ですか。結構近代的ですね」
「全盛期の頃はウカノミタマプラントなんかもあったらしいぜ?今は最新型のにとって変わられて廃墟になってるらしいが」
「でも、こんな所で食料を作ってどうするんですか?結界とかがあるのに」
「ストレージの原理だよ。この世界の全てのものは情報で構成されているから、情報に分解することができる。んで、その分解した情報はデータとして送受信する事ができんだよ」
「じゃあ、運送屋さん要らずですね」
「いや、そうでもない。特殊な処理をしていないモノを情報化するときってのは、モノってのは情報の劣化が起きちまうんだよ。野菜だったら栄養価が少なくなったり、武器だったら壊れやすくなったりな」
「じゃあ、私がストレージに入れた制服もッ⁉︎」
「それは大丈夫。覚醒者のMAGを常に受けてる服だぞ。処理を受けているのと同じ現象が起きているのさ」
「その処理ってのがMAGコーティング。情報をマグネタイトで補完する事で情報の劣化現象を防いでいるんだ」
他にも様々なメリットとデメリットがあるが、その説明は今度でいいだろう。専門用語多くなってしまうし。
そんな事を言いながら歩いていると、大型施設が見えてきた。アレがかつてウカノミタマプラントだった施設だろう。
「あそこが廃れた原因は、コーティングにかかる費用の問題だろうな。高濃度のMAGを発し続けるってのは難しいんだよ」
「へー」
周囲を見渡すが、人気はない。ついでにパッシブソナーの反応もない。わかるのは、人の手は入っていてもそれを感じさせない、自然豊かないい里だということくらいだ。
「...サマナー、エニシ、少し気を抜きすぎだ」
「...そうだな。ちょっと空気入れ替えるついでに警戒要員呼ぶわ。サモン、サーバ」
「なんか私の扱い雑じゃない?」
「綺麗な人ですねー。新しい仲魔ですか?」
「ええ、今日までね。私は妖精サーバ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします!」
ザワリと、空気が揺れた。
のどかな里の空気が、慣れ親しんだものに変わる。
異界の空気だ。
「...デオン、縁、サーバ、警戒頼む」
「了解だ、サマナー」
「周囲にモヤモヤは見えません。エネミーソナーも今のところグリーンです」
「んで、あんたは何するの?サマナー」
「所長に連絡して方針を決める。こんな濃い空気の中で、あの人が何もしていないわけがない」
それは、ある種の信頼だ。あの人なら、最短最速で原因をぶっ殺しに走ると知っているからだ。
「千尋くん!位置データ送るから来て!一人じゃ
「了解です。サモン、ペガサス!」
「移動ですね!サモン、タラスク!」
異界強度ゲートパワーはかなり高い。ミドルクラスの悪魔の自然発生すらあるかもしれない。だが、タイミング的に考えてこれは人為的な異界。
そしてこのベタつくような空気、忘れる訳がない。
「空を飛ぶ奴は多い、気を付けろよ縁」
「了解です。...見えました!相当な数です!」
「サーチする!」
アクティブソナーを起動。反射波は攻撃の余波でめちゃくちゃになっているが、ノイズを除けば数くらいなら読み取れる。
デカラビアとフォルネウスとハルパスの軍勢。総数は48、いや45。秒で数が削れていっている。所長の戦闘だろう。それも、全力の。
だが、アクセル全開で飛ばしているのはそう長くは保たない。いずれ捕まるだろう。
「ペガサス、マハンマ!デオン、足場作るから飛べ!」
「タラスク、ファイアブレス!千尋さん、足場私にも!」
雑に広範囲攻撃を撃ってから、大勢を整える。
今の広範囲への対処から見るに、堕天使に指揮官はいない。
単なる奇襲要員というところだろう。それにしてはクラスが高い悪魔が混ざっているが。それは敵のサマナーの練度の問題だ。
間違いなくアリスだ。
「
反発の魔法陣を足場にして縁とデオンが宙に飛ぶ。即興で展開した足場は32。
それを扱い軽やかに飛び悪魔と交戦するデオンと、しっかりと足場に地をつけて一撃で光波属性の乗った拳で一匹ずつ潰していっていた。
その隙に、孤軍奮闘していた所長の援護に入る。銃撃により所長を襲おうとしていたフォルネウスを怯ませ、その直上にラームジェルグを召喚し、幹竹割りによりその命を奪う。
これで、一路の逃げ道ができた。あとは所長が自力でなんとかするだろう。
実際、所長はその道を通ってふわりとペガサスの背に乗ってきた。
「千尋くん。ナイスサポート!」
「それはいいですが、ちょっと待ってください。ペガサス、暴れるな!落ち着け!」
「...先に言うけど全員疾風耐性なし!術式補助頂戴!」
「了解!」
以前繋いだラインを通じて、周囲に所長のMAGに合わせた複数目標指定マルチターゲットと収束の魔法陣を展開する。
「デオン、縁、変に動くなよ!」
「「了解!」」
「纏めて吹き飛ばす!ブーステッド・
マルチターゲットの術式で狙いを定め、収束の術式により密度を向上させた疾風魔法が堕天使たちを切り刻む。
これで、残り18。ついでに所長や俺たちの背後にいる堕天使は一掃できた。あとは正面のみ。
「デオン、縁、次弾で終わらせる!チャージまで頼んだ!」
地面に落下する前にラームジェルグを
ついでに
今の広域魔法でデカラビアは全滅できた。残りはフォルネウスとハルパスがそれぞれ9ずつ。だが、先程の疾風魔法に脅威を覚えたのか、俺と所長に集中して向かってきている。
あ、次弾撃つ前に終わらせられるわこれ。
同じことを思ったのか、所長はクレイモアにマグネタイトを込め始めた。念話を通じて、大体の足場の位置が指示される。
『デオン、右前方のフォルネウスに攻撃してから大回りにちょっかいかけて逃がさないようにしてくれ』
『了解だ。だが、カナタの防衛は?』
『大丈夫だ。あの人は、撫で斬りカナタだぜ?』
「縁!左に囲むように壁を!」
「...わかりました。守りの盾!」
これで、奴らの逃げ場はなくなった。
「行くよ。
瞬間、空気が爆ぜた。所長の足の裏から発する疾風魔法の爆発的なスピードによるものだ。
そうして、所長の眼の前にいたフォルネウスが一刀の元に切り裂かれ絶命する。だが、それでは終わらない。
事前に設置していた
「冗談じゃありません。わたしは逃げ...ッ⁉︎」
縁の守りの盾、マグネタイトの障壁が逃げ道を塞いでいる。それに気づいたハルパスの一匹は胴を真っ二つに斬られ、足場にされて地に落ちた。そして所長はまた跳ねる。
跳ねて、斬る。その動きがあまりにも速すぎて、されどその動きに備わった技巧によって、堕天使たちは本来の力を発揮できずにただただ撫で斬りにされていった。
所長の高めたMAGにより、極大魔法に迫るとすら言われる疾風魔法を魔剣と化したクレイモアに込めた斬撃、
それでいて燃費も広域系魔法よりも良いとか恐ろしいことこの上ない。ちなみに、撫で斬りモードとは特に意味はないのだとか。
最後の一匹のフォルネウスは右方向から逃げようとして、流さないと包囲を敷いていたデオンの存在に気付いて狼狽えた隙に所長によりぶった斬られて終わった。
かかった時間は、きっかり9秒。1秒で二匹斬り続けたとかどうかしているとしか思えないが、これが半分以上悪魔人間している所長なのだろう。
「所長、状況は?」
「動ける実力者は私とキリさんだけ。だからキリさんがディフェンスで私がオフェンスやってる。とは言っても、初動で包囲されたのが痛いね、多分キリさんの近く以外皆死んでる。この里は終わりだね」
「...制空権は取りました。こっから堕天使の始末に取り掛かりましょう」
「そうだね。ただ、今回の異界は多分起点を中心に広がってるタイプ。動いてるし、突然消えるよ」
「...逃してしまうって事ですか?」
「目的を達成されたらね。だから急ごう。狙いは何かの奪取、そのついでに目撃者全員の抹殺かな?」
「何かってのは?」
「さぁ。志貴くんかもしれないし、この里に伝わってる何かかもしれない。キリさんの武器かもしれないし、はたまた私たちかもしれない」
「所長の勘では?」
「
「手数足りねえなぁ!」
「でも、分散したら間違いなく死ぬよ。...選んで千尋くん。どこ選んでもどこかに手が届かない。なら、一番敵の出鼻を挫ける所を」
一瞬、思考を走らせる。
まず、俺たちを狙う者たちは除外。動けば付いてくるから、結局の所戦うしかないからだ。
次に、この里に伝わってる何かも除外。今から調査、奪還を行うのは現実的じゃない。
とすれば、キリさんか志貴くんか。
「...まず、志貴くんを拾って、それからキリさんの援護をします」
「足手まといを拾ったまま戦うのかい?」
「志貴くんの目は使える。ただの足手まといにはなりません。ていうか、しません」
「...縁ちゃんはどう思う?」
「...やりましょう!考えてるだけ時間の無駄です!私も所長も頭良くないんですから!」
「さらっとDisられた⁉︎」
『サマナー。今の、単に助けたい順で選んでいないかい?」
『そんなので判断はしねぇよ。てか、それができるほど強くも凄くもねぇっての。向こうの目的を仮定して、こっちが阻止できる1か2を判断したらそれしかないって考えただけだ』
『なるほど、サマナーだ。てっきり情で狂ってしまったかと思ったよ』
『さらっとDisるなお前も』
それぞれの飛行手段によって移動し、キリさんの守る本家へと向かう。サーバは低位の回復魔法、
もっとも、所長はそこまで大ダメージを負っていなかったというのが理由だったりするのだが。具体的には魔石をケチるくらいに。
にしても、所長に抱えられているサーバが妙にしっくりきているのが何かアレだ。攫われ慣れている?ピーチ姫か。
さて、キリさんの姿が見えた。堕天使の軍勢を前にして一歩も引かない乱戦を繰り広げている。堕天使を足場とし、森を足場とし、三次元機動を繰り広げることにより捉えられないよう動いているのだ。
だが、あまりに多勢に無勢。堕天使の数は少なくとも100を超えている。そして、オセやオリアスといったミドルクラスの堕天使が混ざっている。
救いなのは、サマナーの指揮が無いが故に、連携が甘いことだろう。俺なら、50を足止めにして残りで施設の制圧にかかっている。あるいは、もう抜けられた後か?
なんにせよ、並行して行わなくてはならない事が増えた。
知力の終わった所長からサーバを投げ渡されて
「制空権は取ってる。空爆行くよ!」
「タラスク、星のように!」
「鳴り響け、聖なる蹄音!」
「
「ファイアブレス!」
「マ・ハンマ!」
今ので、一角は崩せた。だが、崩せた数は20ほど。氷山の一角だ。
「所長とタラスクはこのまま空爆を!サモン、ラームジェルグ、バルドル!縁はコイツらと前線を作って本家に通すな!」
「残りで志貴くんの所に行く!指示出し以上、各自行動に移れ!」
高高度からの広域爆撃により徐々に数は減る。これで即時にキリさんが殺されることはないだろう。
故に、志貴くんの所へ行くのが先決だ。敵の狙いが志貴くんであるのなら、フィン・マックールはそこにいる。
ペガサスの上から本家を俯瞰する。霊的防護結界のあるのは土蔵だ。そして、そこ以外に堕天使の群れがうようよしている。だが、殺気がない。探し物でもしているのか?
「サマナー、どこに降りる?」
「土蔵周りを掃討してから中を確認するぞ。多分、土蔵以外は手遅れだ。敵の仕事が早い」
「了解だ。だが、数が多い。何か策は?」
「無い。上から援護するから、お前が暴れてくれ」
「適当過ぎて笑えるね!」
ペガサスの上から飛び降りるデオン。それにようやく気付いた堕天使たちが現れる。オセ3体にビフロンス8体。
ビフロンスに焦点を当ててアナライズを起動させる。反応は早かった。氷結耐性はない、ただの雑魚のようだ。
「貴様、何者だ?」
「白百合の騎士、シュバリエ・デオン!いざ参る!」
ペガサスの上に雪女郎を召喚し、
制空権が取れていると、こういう作業感の強い戦闘になるのが楽でいい。
「行きますわよ、サマナー。
ビフロンスは、火炎魔法で相殺を図ろうとするもの、回避して次に繋ごうとするもの、近くにいる奴を盾にする事で生き残ろうとするものと実に人間味が溢れていたが、まぁそんなことはどうでもいい。
高純度のMAGを吸わせた雪女郎の氷結魔法はそういった小細工を吹き飛ばす力を持っているからだ。
そうして雑魚が崩れたのなら、後はオセだ。
オセは比較的情報の多い悪魔だ。なにせ、弱点を持たない。
逃げる者も逃げられる者も多いのだとか。
そして、オセは個体差が激しい。素人のように二刀を振り回す雑魚もいれば、達人のように二刀を操る猛者もいるのだと。それだけ二刀流が難しいという事だろう。
まぁ達人とて、否、達人だからこそデオンの絶技には敵わない。技を磨けば磨く程に、美しいものだとわかってしまうのだから。
「
三人纏めてデオンの剣技で幻惑され、その内に二匹のオセは首を落とされた。あまりの華麗さに目を奪われたうちの事だろう。本当に、あの絶技は意味がわからない。なんでただの剣技で幻術じみた事ができるのか。
だが、最後のオセは一味違ったようだ。デオンの剣をなんとか受け止め命を繋いだ。もっとも、デオンの細腕から放たれたとは思えない剛力により吹き飛ばされたが、体勢を崩さずにしっかりと着地している。
かなりやると断じて銃撃によりデオンを援護しようと思ったとき、オセは両手の剣を捨てた。
降伏の合図だ。
「
「ああ。そっちの要求は死にたくないでいいのか?」
「いや、少し違う」
「その騎士の絶技に見惚れた。その技を私自身の技として取り入れたい。学ぶための機会をくれ」
なんともまぁ、武人気質な堕天使もいたものだ。
「花咲千尋だ。そっちの契約を飲むよ」
「堕天使オセだ。その間、貴様の手足となる事を誓おう」
「...なるほど、あの時の少年か。随分と強くなったな」
「すまん、堕天使に関しては心当たりが多すぎてガチに誰だか分からん」
「空中庭園で貴様を殺そうとした堕天使の一匹だ。切り結んだ事もあるのだが、まぁ覚えてはいないか」
「...ああ、すまんが全く思い出せん」
「それでいいさ。所詮は過去だ」
周囲の堕天使は全滅させた。本家の中から出てくる気配はない。一息つけたというところか?
「早速で悪いが、オセ、デオン、サーバ。周囲の警戒を頼む」
土蔵の扉を規則的に叩く。集音術式によりその反響音から内部の状況を把握する、立っているのは一人だ。何か手に持って、土蔵の中心にいる。倒れている誰かの前に立っている?
殺したのか?
何か、嫌な予感がする。
「サマナーの花咲千尋です」
「...千尋さん?」
「その声、志貴くんか。中には他に誰がいる?」
「...皆死んだよ」
「俺が、殺した」
扉の向こう側にいる少年の、心の壁の厚さが何となく感じ取れてしまった。
その歌声が聞こえたのは、突然のことだった。
空気が変わり、異界になったと同時に俺と爺さん達は土蔵へと逃げ込んだ。爺さん達曰く、ここが一番安全なのだとか。
父さんは、俺が見た人の形をした悪魔と一緒に襲ってくる悪魔を倒しに行っている。今、戦えるのは俺しかいない。
そう思うと、お守りとして渡された飛び出しナイフが重く思えた。
そんな時だったのだ。
奇妙な歌声が聴こえ始めたのだ。清らかで、澄み渡った邪悪な歌声が。
それは時間にすればほんの1分程度。
それだけで、世界は狂い落ちた。
「志貴、儂らを殺せ!この歌は邪法じゃ、人を悪魔にする外法!」
「だめ、だめよ。志貴を美味しそうだなんて考えちゃいけない!」
衝動的に、何をするべきかはすんなりと頭に入ってきた。
眼鏡を外し、真実を見抜く目、それを次のステージへと進む為にマグネタイトを目に集中させる。
そして、魂が覚えている動きをもって未だ混乱の最中にいる老人達の
見えるようになった、というよりも見えていたのに認識していなかったものだ。完全に人ではない今の頭はそういったコントロールができるように機能拡張されているのだろう。便利になったものだ。
「志貴、私はまだ死にたくない。まだ人間なの!」
「騙されるな!皆悪魔に堕ちる!躊躇うことはない、殺すのじゃ!」
そんなノイズが聞こえているが、無視だ。やるべきことは変わらない。
線にナイフをなぞらせ、命を断ち切る。反撃の警戒は、何故か一匹の悪魔が悪魔を羽交い締めにしている事でしなくていい。
この衝動のままに、その命を断ち切ろう。
そうして全てを殺し終えた後に、俺は致命的に間違えた事に気がついた。
「...え?」
正気に戻ったというわけではない。さっきまでの殺しの経験は確かにある。だが、どうして俺はなんの躊躇いもなく俺を育ててくれた爺さん達を殺せたのだろうか。
まるでそれを当たり前かのように受け入れてしまった自分が、ひどく異物のように思えた。
月姫リメイクまだかなー(願望)
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