白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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アンケートご協力ありがとうございました。次話はアイドルライブバトル(大惨事)に決めさせていただきます。

登場サーヴァントは当然の彼女。恋のビートはドラゴンスケイル!



一つの嵐の終わり

地上に降りたことによる高低差の消失、守るべきサマナーが居ることによる行動範囲の制限。それをもってデオンの剣は徐々にフィンを追い詰めていた。

 

だが、致命の一撃が放たれるその寸前に必ず邪魔が入る。

アリスと名乗る少女のトランプを象ったナイフのようなものによる妨害だ。勘だが、あれに擦れば自分は呪いによって生き絶えるだろう。

 

「サマナーの援護がないとこの程度なのか?白百合の騎士」

「よくも言う。そちらは術師の片手間の援護がなければすでに首を飛ばされていると言うのに」

「ハッハッハ。返せる言葉がないね。だが、私は勝つために手段を選ばない方だ。それがサマナーであっても使ってみせるさ」

 

再びデオンが攻め、フィンが限られた空間内でそれを捌く。

それを幾度繰り返したかは、もはやどちらも覚えてはいない。

その技の繋がりとして首を取る一閃を放ったのを、槍で上に逸らすフィン。

だが、それはデオンの戦闘論理の計算範囲内。サーベルを振った勢いのまま、腰の捻りを加えた左拳による一撃がフィンの胴を撃つ。

 

強靭な筋力をもって放たれるデオンのその一撃は、フィンの力場の防御と筋肉の防御を抜いて、その魂にダメージを与えた。

 

これまでの戦闘での、フィン・マックールの初ダメージだ。

 

「 ...いやはや、拳を使うとは思わなんだ。剣に拘りはないのかね?」

「あいにくだが、僕は剣だけの騎士ではない。礼節も弁えているのさ」

「確かに、戦場での最後の武器は己自身。誠に見事な騎士道だ」

 

「だからこそ疑問だ。その力、何故あのサマナーのために使う?この世界を想うなら、道は一つだというのに」

 

「時限爆弾のような我らにはな」

 

瞬間、赤銅のいた方向から爆発が起きる。

かなり距離のあるデオンたちでさえ、余波で少し吹き飛んだ。

 


 

魔力の爆発を行った叛逆筋肉。その火力は余波だけで周辺を更地にする程だった。そのダメージが赤銅色にもあることが救いだろう。あいつら理性飛んでるみたいだし、仲間割れでもしてくれないものか。

 

『サマナー、危険だが私が合流するか?英雄3体とて、防ぐことならしてみせる』

『いいや、お前はそのままフィン・マックールを頼む。そいつが自由になると何をされるかわからない』

『...死ぬなよ、サマナー』

『それは、あの叛逆筋肉に言ってくれ』

 

...バルドルとラームジェルグを送還(リターン)して再召喚するのにかかるのは2拍程度。だが、現状前線を張れるのが自分しか居ない以上、隙は晒せない。一拍あれば俺の命など吹き飛んでいく。

 

距離が離れているとはいえ、オセの戦闘データから考えるにあの赤銅の巨漢は相当のスピードを持っているのだから。

 

「さーて、本格的に詰んでるぞ?」

 

敵英霊の数を減らさなくては状況は変わらない。なら、するべきは何か?殺せるアウタースピリッツは誰だ?

 

決まってる。赤銅だ。

 

赤銅が最も殺す難易度が低い。無論、誤差程度でしかないのはわかっている。だがしかし賭ける根拠には十分だ。

 

「圧政者よ、我が叛逆はお気に召したかな?」

「俺より多分横にいた赤い人の方が被害デカイと思うぞ、叛逆筋肉」

 

並び立つ二人の巨漢。そして、赤銅の巨漢はその矛のような武器を

 

()()()()()()()()()()()

 

「■■■■■■■■■■■―――! 」

「何をやっているの呂布!」

 

瞬間、電撃が走った。制御しきれていないなら、まだ隙がある。

 

「デオン、筋肉を殺すぞ!」

『そのままフィンを素通りしてアリスを狙え。暴走の鎮静化なんてさせるな!』

 

デオンは一瞬筋肉の方に目を向けて、直ぐに足をアリスへと向け斬撃を放った。

 

「そうはいかない。詐術はそうと分かれば脆いものだよ」

 

だが、フィンが当然のようにこちらの手を読んでデオンの斬撃を防いでみせた。それはいい。

 

これで今、俺の行動は完全にフリーになった。

 

あの呂布とやらが叛逆筋肉を攻撃している理由は不明だが、タイミングに関しては最高だ。

 

「むぅ、叛逆か。だがあの少女からは圧政を感じない。貴様のそれは圧政だ。呂布奉先よ」

「■■■■■■■■■■■―――! 」

 

聞く耳持たずの大暴れ。だが、叛逆筋肉はそれらを身体で受け止めている。仲魔からの攻撃に戸惑っているとは思えない。とすると、狙いは先ほどのダメージチャージだろう。

このままダメージを与え続けたら再びあの爆発が来てしまう。そうなれば余波でペガサスたちまでも死ぬ。

 

その先に待っているのは詰みだ。ならばそんな事やらせるものかよ。

 

こちらを狙う者は居ない。なら、最短で最速で術式を展開する。

 

送還(リターン)、サモン!ラームジェルグ、バルドル!」

「けっ、人使いの荒いサマナーだこって!」

 

愚痴りながらもこちらの意思を汲み取ってくれるバルドルと、無言で信じ付き従ってくれるラームジェルグ。

 

「...分断してた戦力が戻ってきてる。フィン、どういう事?」

「私の親指かむかむ智慧もりもり(フィンタン・フィネガス)は未来予知ではないのだ。君が英霊を手懐けられていななかった事がどうしてわかろう?」

「あーいえばこー言う!呂布の制御に集中させて欲しいんだけど、シュバリエ・デオンが邪魔!しかもそいつのせいで知恵の鮭は使えない!ていうか私の呪殺的確なタイミングで撃ってるのになんで掠りもしないのよ!」

「君の意を読まれているのだよ。技を磨けず力だけで生き残ってきた君はこういう所が脆いのだ」

「達人系はこれだから!」

 

なんかデオンの方が愉快になってる気がするが気にできない。タスクを割けるほど余裕はないのだ。

 

『志貴くん。行くぞ。筋肉の動きは見たな?』

『...ああ』

『隙は俺たちが作る。沿わせるアレで一撃必殺、任せるぞ』

 

バルドルを先頭に二人の巨人に突撃する。

 

「ハッハッハァ!我が愛を舐めるなよ、圧政者!」

 

再び放たれる爆発的な魔力爆発。だが、ダメージチャージの関係上先程ほどの火力は出てはいなかった。

 

「んな程度で俺を殺せるかよ、クソ筋肉がぁ!」

 

バルドルを先頭にし、ラームジェルグをその後ろに置いた一列縦隊。爆発をバルドルの身体で受け止めて、ラームジェルグの筋力でそれを支える。

 

ラームジェルグを後ろに置いたのはバルドルだけのタフネスでは受けきれないかもしれないと思っての保険だったが、見事的中したようだ。今爆発受けきれずに足浮いたの見逃さなかったからな?残念無敵野郎。

 

爆発が起こった後には、当然隙がある。とはいえそれは一瞬の事。すぐさま立て直してしまうだろう。

 

()()()()()()

 

「チャージ完了、ジオンガストーン超過起動(オーバーロード)、収束砲撃!」

 

左手に取り出していた高位電撃魔法(ジオンガ)の力のこもったストーンにマグネタイトをぶち込み、収束砲撃を放つ。

 

当然、それなりのダメージしか得られないだろう。所詮は高位電撃魔法(ジオンガ)程度なのだから。

 

だから本当の狙いは違う。それは、電撃魔法の特性だ。

実際の電撃とは違う物理法則で動いているが、共通する部分もある。それは、強烈な発光を伴うという事だ。

 

要はコレ、ただの目くらましである。

 

「この程度の雷で、我が叛逆は止められぬよ!」

 

避けもせず、身体で受ける叛逆筋肉。ダメージチャージという性質上、回避はないと踏んでいたが大当たり。

 

これで、奴の目は眩む。

そうして、目を閉じた一瞬で、最高速度に達していた一人の少年が襲いかかる。

 

叛逆筋肉は何かが来るのを経験から察知し、もっとも効果的な筈の定石を選択した。

 

ノーガードによる迎撃である。

 

それを選択した時点で、もう終わりは決まっている。

 

「お前の線は、見えている」

 

志貴くんの目が何を見ているのかはわからないが、それを使った攻撃を防御する事が不可能だ。

 

一瞬のうちにナイフが2度振るわれ、叛逆筋肉の身体は歪な十字に分かれて落ちた。

まるで豆腐を切るかのように手応えを感じさせなかったその斬撃は、まさに達人技。これが覚醒した志貴少年か。末恐ろしいものである。

 

だが、4つに切り分けられ首と胴体が繋がっていない状態でも、叛逆筋肉は言葉を紡ぎ出した。

 

「...少年、貴殿からは叛逆の灯火を感じる」

「...その状態で喋るなよ」

「否、喋るとも。君のその叛逆の灯火は絶やしてはならない。いずれ君達が自由と幸福という未来にたどり着くまで、絶対にだ」

「正直よくわからないけど、覚えておくよ」

 

その言葉に笑みを浮かべた叛逆筋肉は、「ではさらば!」と言葉を残して光に変えていった。

 

「嘘、スパルタクスが死んだ?どうやったら疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)を物理で抜けるのよ...」

「ぼやくなサマナー。次が来るぞ」

「わかってる。制御は取り返した!呂布奉先、軍神五兵(ゴッド・フォース)を使いなさい!その七夜の少年以外全て消しとばして!」

 

「■■■■■■■■■■■―――! 」

 

赤銅の巨人。呂布奉先の矛が弓へと変わる。その変形機構は意味がわからないが、その弓はしっかりと俺を据えていた。

 

走馬灯のように思考が走る。

 

バルドルを呼び戻す?間に合わない。ジオンガの射線確保のためにバルドルの傘から離れすぎている。鈍足のバルドルでは間に合わないし、間に合っても衝撃は殺せないからビリヤードのように俺は弾け飛ぶだろう。

 

ペガサスの突撃で隙を作る?無理だ、ペガサスはカラドリウスが治療しているとはいえ、今すぐにあの強弓を止められるほどではない。

 

物反鏡、さっき切れた。

 

魔導障壁、マグネタイト攻撃に対して基本紙だ。

 

そうして考える中で唯一効果のありそうなもの。それは一つしかなかった。

 

「その弓、撃ちたい相手は別にいるんじゃないか?」

 

悪魔召喚士(デビルサマナー)の18番。悪魔会話だ。

 

「だったら任せてくれ。お前がその弓を撃たないなら、お前に自由をくれてやる。どうする?奴隷のように働かされるか、ここで叛逆をしてみせるか、お前の道はどっちだ?」

 

「■■■■■■■■■■■―――! 」

 

数巡悩んで見せたあと、呂布はその弓をアリスに向け

何かしらの契約制限によってその弓を空へと向けさせられた。

 

天を貫く一筋の閃光。輝きはやがて天蓋にぶち当たり、異界とその向こうの平成結界に穴を開けた。

恐ろしすぎる威力だ。あんなもの放たれていたとすれば俺たちは消し炭すら残らなかっただろう。

 

「まずい、外からのが来る!」

「外から?」

 

呂布が打ち抜いた天蓋はさほど大きなものではなかった。

だが、その悪魔が侵入するには十分な大きさだった。

 

「予想外の展開ですが、やっと辿り着けましたよ最後の楽園(エデン)へ!」

 

黒い二本の角。2振りの短剣、そして蛇の尾に歩行器のようなものを取り付けた悪魔が、上空から舞い降りてきた。

 

ひしひしと感じる。「ここにいたら死ぬぞ」と。

ハイクラス悪魔は何度か見た。だが、これはこれまで見たどんな悪魔とも次元が違う。

 

「我が名は堕天使ボティス。我に服従するなら死以外も与えましょう。白いアリスと雑兵ども」

 

ボティスはゆっくりと降りながらそんな事をのたまう。戦力だけを見たら服従もアリだ。そう思えるほどにマグネタイトのプレッシャーが強すぎる。だが、ヒトとしてのプライドがそれを認めない。

 

「アリス、交渉だ。アイツ殺すまで共闘しないか?」

「...花咲千尋、あなた切り替え早すぎない?」

「いや、お前を生かしたとしても、アイツだけは生かしちゃおけないだろ」

「同感よ、貴方を殺してしまいたいけれど、アレは生かしておいちゃいけない」

 

「デオン!」

「呂布、フィン!」

 

「「アイツを殺すぞ!」」

 


 

屋根上に着地したボティス。馬鹿となんとかは高いところが好きなのだろうか。

 

応じて、戦える者たちは屋根上に登る。余裕なのか、俺たちが隊列を整えるまでボティスは待っていた。

 

「それでは小手調べと行きましょうか。極大広域電撃魔法(マハジオダイン)

超過起動(オーバーロード)、魔反鏡!」

 

ボティスを中心に球型の魔法反射障壁を張る。広域魔法を放ったのだから、その火力全てが自分に返ってくるコレは相当なダメージを期待できる、その考えだったがボティスの力場に当たった電撃が吸収されていくことから、吸収系統の力場。電撃魔法は効果なし。

 

「ふむ、その程度はやりますか」

「雑魚キャラ舐めんな堕天使。財力でならお前と戦えるんだよ」

 

残り一つある魔反鏡の存在を匂わせつつおちょくる。

電撃以外の各種ストーンを起動させているのはわかっているだろう。だが、所詮高位魔法ストーン。致命傷にはならないだろう。

 

アナライズの反射結果を見る。ロードは長くて使い物にはならない。ジャマーを積んでいないことはわかったが、こうもMAG密度が高くてはどうしようもないだろう。

 

戦いながら弱点を見つけるしかない。

 

目標指定(ターゲットロック)、ザンマストーン、アギラオストーン、ブフーラストーン!」

「死になさい!」

 

高位ストーンをそれぞれ違う軌道で投げつける。敵のスタンスを図るためだ。ストーンを躱さないのなら俺たちを見下しているという事。殺す手段はいくらでもある。躱すのならばこちらを警戒しているということ。小さなフェイントを重ねれば奴の首を取る策が浮かぶだろう。

だが、どんなに高速で回避しようとロックオンしている魔法は堕天使を追尾する。

 

そして、一発でも当たれば呪殺の力が込められたあのトランプナイフの雨にさらされて死ぬ。即興にしては上等な作戦だ。

 

「残念ながら、全て無駄ですよ」

 

そんな攻撃は、ボティスの力場を抜くことなく叩き落とされた。通ったのは火炎と氷結の余波くらいか?

 

つまり、衝撃と呪殺属性に無効耐性ありと。なら、破魔は通るか?通らないだろうなという勘はある。ボス悪魔あるあるだ。

雪女郎が生きていたら彼女を中心に攻撃を組み立てるのだが、いないものはしかたない。

 

「アリス、火炎か氷結で撃てるのあるか?」

「ないわよ、私特化型なの」

「使えねぇなぁ!」

「そっちこそ、ダイン級の火力やりなさいよ!魔術師なんでしょ⁉︎」

「悪かったな魔法適正ゼロだよ!知識はあっても身体が魔法を使えないんだよ畜生!」

「使えないわねぇ!」

 

「フィン、なんだか物凄く仲良くなってないか?サマナーとアリス」

「ハッハッハ。予想外だよ私も。相性はかなり悪いと踏んだのだがね」

「■■■■■■……」

「なんだか、呂布が落ち込んでいる気がするのだが」

「当然だとも。彼は裏切る機会を狙っていた。その先もね。なら、君のサマナーを一時的な主にできないかと思うのも当然だろうさ」

「さすが、三国にその名を轟かせた呂布奉先だね。まぁ、そんな内憂を私が受け入れさせはしないが」

 

「...先程まで殺しあっていたにしては随分と仲がよろしいようで。これだからヒトというのはわからない」

「わからんでいいさ。お前はこれからどうやって死ぬかってことだけを考えてりゃいいんだから」

「そうね、首を刎ねられるか、四肢を捥がれて遊ばれるか。ああごめんなさい、あなた足ないから三肢ね、トカゲの親戚みたいなものだもの」

「貴方方は...力量差がわからない訳はない。なのに何故、そこまで強くあれるのですか?」

 

その驚愕とも取れる言葉に、俺とアリスはどちらともなくクスリと笑った。今、俺とアリスは同じ事を考えている。それがなんとなくわかったからだ。

 

「そんなもん決まってる」

「昔っからよく言うでしょ?」

「「人間舐めんなファンタジー」」

 

共に取り出した銃による銃撃を開始する。アリスの銃は見たことのないタイプのハンドガンだ。単純にデカイ、何口径あるんだアレ。

 

対して俺はいつものP-90、だが弾薬は5.7x28mm神経弾にルーン魔術で加速術式を仕込んだ特別性である。弾は小さいが、速く鋭い。

 

力場を抜く銃撃の2パターン。火力を上げるか貫通力を上げるかの2択が偶然にも揃ったわけだ。どっちかは効くだろう。

 

その銃撃が放たれる寸前にマグネタイトが収束するのが見えた。この密度、極大クラス。

 

「...もう舐めはしませんよ、人間は恐ろしいですからね。極大電撃魔法(ジオダイン)、ダブル!」

 

閃光が放たれる前に走り出す。極大魔法の攻撃範囲のデカさはふざけるなと叫びたくなるほどだが、事前に察知できていれば、躱す事は不可能ではない。

 

「デオン!」

「呂布、フィン!」

 

「「前に!」」

 

撃ちながら指示を出す。ボティスには神経弾が刺さっている。ハイクラスで括っていいのかわからない化け物ではあるが、悪魔であり、マグネタイトで肉体を構築している情報生命だ。少しでも肉に食い込んでいるのならいずれ効く。

 

対してアリスは俺とは逆サイドに広がって銃撃を続ける。その一発一発は重く、アリス自身もその火力を扱いきれていないようだが、当たった一発のダメージは向こうの方が大きい。あの銃欲しいな。

 

それぞれに放たれたジオダインを回避しつつ放たれた俺たちの援護射撃により目を逸らされていたボティスを殴れる位置に、敏捷性の高い順に英雄たちがやってきた。

 

「華麗に!」

「■■■■■■■■■■■―――! 」

「せい!」

 

ボティスの胴を狙った一突き、だがふわりとMAG放出の浮遊作用にてムーンサルトのように躱された。そして尾から放たれた電撃によりフィンは致命のダメージを受けるだろう。

 

「まぁ、既知()っているのだがね。」

 

槍から溢れる水がフィンを襲う電撃を放つ尾を包み込み、その電撃を遮った。

 

「知ったときは驚いたものだが、純粋な水というのは電気を通さないのだよ」

 

空中で反転しているボティスに対し、呂布が襲いかかる。矛の形が変わっている。あれは斬撃を放つ形か?

 

「■■■■■■■■■■■―――! 」

 

ボティスはそれを見ているかのように横回転する事で躱し、右手からの極大電撃魔法(ジオダイン)により迎撃された。だが、呂布はその頑強性で耐えてみせた。恐ろしいタフネスだ。

 

そして最後のデオン。速度は呂布と変わらないにも関わらずスピードを鈍らせたのは訳がある。

 

魅せる事を、他の二人の攻撃に影響させないためだ。

 

「我が剣は勝利の為に、百合の花散る剣の舞踏(フルール・ド・リス)

 

誰もが思わず見惚れる剣。事前知識のある俺でさえ作業を止めてしまいそうになるのだから恐ろしい。

 

そしてその剣は、極大魔法を放った後の一瞬の隙を見事に貫いてみせた。

 

「ぐっ⁉︎」

 

だが浅い。流石のデオンとて、あの密度の力場を抜ききれなかったようだ。

 

まぁ、最低限の仕事はできた。地返しの玉と宝玉を使っての戦力の立て直しは完了したのだから。

 

「サモン、ムールムール!」

「サモン、雪女郎、オセ!」

 

再起するやられた仲魔たち。ムールムールが起きるのは正直言って厄介だが、仕方ない。今だけは頼れる味方だ。

 

「行きなさいムールムール、死体は山ほどあるわ!」

「ええ、参りましょうサマナー!広域死霊召喚(ネクロマ・オン)

 

今再び、この屋敷にて死に絶えた悪魔たちの魂が肉体を得て蘇る。

エネミーソナーの反応からいって、総数は100を超える。

 

おっかない悪魔を仲魔にしているものだ。

 

だが、その程度の数など極大広域電撃魔法(マハジオダイン)で吹き飛ばされて終わりだ。実際、ボティスは宙に浮きMAGのチャージを始めている。

 

「オセ、病み上がりで悪いが、お前の命貰うぞ!」

「...任せるぞ、サマナー!」

 

オセの構成要素を抽出、装填。契約のラインを通じてデオンの魂に性質をねじ込む!

 

夢幻降魔(D・インストール)、オセ!」

「...共に行こう。チャージ!」

「甘いですね、私の極大魔法はあなたのチャージより速く完成する!」

 

「フラグ立てたな」

「ええ。それにしてもシュバリエ・デオンは有能ね。剣を振る前も後も目を惹く」

「本当に、自慢の仲魔だよ」

 

宙に浮くボティスに飛びかかる100の屍鬼たち。ミドルクラスもロークラスも関係なく、この数ならばと思わせる圧巻の光景だ。

 

その目的は、ボティスの討伐でなくチャージを隠す事なのだが。

 

「私の勝ちです。極大広域(マハジオ)...ッ⁉︎」

 

瞬間、ボティスの右手に集まっていたマグネタイトが腕ごと吹き飛ぶ。

100の屍鬼を目隠しにしての切り札の発動だ。

 

無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)。この現象は現代ではウォーターカッターと言うらしいね」

「貴様ッ⁉︎」

 

右手を水流により切り落とされたボティスは怒りのあまり今度はフィンにだけ目を向けている。

 

「なぁアリス。あいつ実は結構雑魚だったんじゃねぇ?」

「かもね、力場強いだけで戦闘術理が未熟。力押ししかできないカモね」

「貴様らァア!」

 

束ねたMAGの暴発をうまく利用して、なんとか100の屍鬼を消し炭にするボティス。だが、本命はそこにはない。

 

「チャージ完了。いざ参る!」

「■■■■■■■■■■■―――! 」

 

二人の同時攻撃だ。フィンに目を向けたものの、依然としてデオンの魅せる剣技に囚われているボティスは、デオンから目が離せない。そして、ついでとばかりに筋力、耐久力の低下が響く。剣技に魅せられることで本来の自分の力量を見失ってしまうことからの現象だと推測はしているが、正直意味がわからないので気にしないようにしている。考えても答えは出そうにないし。

 

そんな謎パワーで力が鈍り、ついでに片手も失ったボティスに対して攻め込む影は4()()

呂布とデオンと、空中から狙いを定めていたペガサスに今まで静観を保って、確実に殺せるタイミングを狙っていた志貴くんだ。退魔衝動とやらの事を考えると相当の負荷だったろうに、それでも殺すために耐え忍ぶとは本当にやる。

 

「あ、空に逃げるわよあいつ」

「残念、天井は作ってる」

「あら、あなたもだったの。気が合うわね」

 

ボティス降臨時にペガサスとカラドリウスには確認と下準備をさせていたのだ。天蓋の修復状況の確認と、グライストーンを媒介とした、空からの加速術式を。

 

ボティスの空中機動力は、小回りは効くが速くはない。加速のついたペガサスを躱すことは不可能だ。

 

そしてもし躱したとしても、今度はアリスの創造していたトランプナイフの雨が上昇を阻む。奴に呪殺は効かないから、ただの天井以上の役割はないが、それでも十分だ。

 

「貴様らッ!」

 

ペガサスの高速突撃をモロに受け止め、そのペガサスごと貫くトランプナイフの雨に釘付けにされ、動きが完全に止まる。そこに突っ込んでいく呂布の斬撃が力場を叩っ斬り、デオンがその線に合わせるように斬撃を放つことでボティスの肉体に致命傷を与え、完全に動きを止めた。

 

そこに、万物を両断する謎の力を持った志貴くんが神速でナイフを振るう。何度振るったかは見切ることはできなかったが、落ちてきたボティスの肉片は17に分割されていた。

 

これにて、やってきた一つの嵐は終わった。

 

自然と、銃口を向け合う。これまでは味方だったが、これからは敵だ。

それが、俺たちの今だ。

 


 

再び向き合う俺とアリス。

「千尋さん!」と呼ぶ声からいって縁とキリさんもやってきたようだ。距離はあるが、早々に戦線復帰してくれるだろう。

だからその前に、話をしようと思った。

 

「アリス。情報の整理がしたい。お前の話を聞かせてくれないか?」

「いやよヒトモドキ。なんで貴方と仲良しこよししないといけないの?」

「お前、口調が素に戻ってるぞ。あの童話っぽい口調はどうした」

「...アレ、守護霊(ガーディアン)に引っ張られてるだけの黒歴史だから言わないで。私の調子が悪いとあの子表に出たがるのよ」

「大変なんだな、守護霊(ガーディアン)使いって」

「貴方程じゃないわ。魔導技術は教えてもらったけど理解できたのは基礎部分だけ。応用は中島さんにまかせてばっかりだもの」

「褒めるなよ、照れるぜ」

「じゃあその銃口を降ろしてくれない?」

「女の子と話せる緊張で腕が固まっちまったんだ、許してくれよ」

「あら、私見た目通りの年齢じゃないわよ?」

「見た目美少女なら多分セーフだろ、こんな時代だし」

 

互いに会話しつつ手持ちの陣形を整える。デオンが戦闘、ラームジェルグとオセが中衛、俺と雪女郎、カラドリウスが後衛だ。

向こうは呂布を先頭に中衛にフィン・マックール、後衛にアリスとムールムールというシンプルなスタンスだ。

 

志貴くんは自由にさせた方が動くとの判断から指揮系統には入れていない。というかあの力のデメリットなのか今は目を押さえて蹲っている。

 

この勝負、志貴くんを先に奪取した方の勝ちだ。向こうは虚数異界への転移が可能であり、こちらは長距離転送魔法(トラポート)ストーンがある。奪取した時点で志貴くんを連れ帰れるのだ。

 

この後に至っては、もはや戦うしかない。そんなことはわかってる。

 

だが、共闘した事で俺の中に疑問が生まれたのだ。果たして、アリスは悪なのかどうかと。

 

「お前のプラン、話してみせてくれよ。その是非によってはお前の側についてやってもいい」

「ヤタガラスの犬がそんなこと言っていいの?」

「さぁな。俺免許取ってすぐだからそこんところはよくわからん」

「適当ね」

「そっちの方が長生きできるのさ」

 

自然と、銃口が下がる。どちらともなく、本当に自然に。

 

「私のプランは、平成結界の収縮と、時間加速の高速化よ」

「どこまで小さくするつもりだ?」

「遡月市まで」

「...今の人口は一億人を超えてる。それはどうするつもりだ?」

「何言ってるのよ貴方。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉に、引っかかっていたものがようやく取れた。彼女は、人間至上主義者なのだ。出産器により悪魔が混ざってしまった今の人間を認められない古い人間。あるいは、真実を色眼鏡で見ていない狂人。

 

「人間の定義が、ズレてんのか」

「じゃあ逆に聞くわ、花咲千尋。貴方にとって人間とは?」

「人の心を持って生きている者全てだ。身体が悪魔であろうと、そこだけは譲れない」

「平行線ね」

「ああ、平行線だ」

 

降ろしていた銃口が再び持ち上がる。アリスのプランなら、確かに人類を救う可能性は高まるだろう。というか、考えようによってはそれ以外にない。

だが、そこには血反吐を飲んで今を作ってきた人達が繋がっていない。それだけは、譲れない。

 

「「お前を殺す」」

 

迷いは、もうなかった。その間に、今までどこかでずっと見ていたサーバが立ち塞がって来るまでは。

 

「やめなさい、二人とも!」

「愛しのサーバ、何を?」

「どっちも世界を救おうとして、どっちも胸に希望を抱いてる。それなのに殺し合わないといけないとかふざけないで!」

「ふざけてないわよ。生憎とね」

「ああ、俺たちは覚悟してここにいる」

 

「世界の危機だってわかってるなら、どうしようもない事を否定し合ってないで手を取り合って生き残る道を探しなさい!この世界が人間だけのものだなんて思わないで!」

 

その言葉に、一瞬圧倒された。弱き者の慟哭、そのはずなのにだ。

 

「...不味いな、反省だ。俺、人類の存続ばっかり考えてそれ以外の者達の事さっぱり頭から抜けてた。悪魔だって、結局のところ自然の営みの一つなのにな」

「...あなた、どれだけ頭柔らかいのよ。ただ妖精の一声だけで思考が切り替わるなんて。プライドはないの?」

「逆に聞くが、プライドでこの世界は救えるのか?」

「...さぁね。救った事はまだないからわからないわ」

 

どことなく空気が緩む。前衛を張っていたフィンは、サーバのその言葉に笑っていた。

 

なんとなくだが、こんな感じだったのだろう。サーバという女性は。だからこそ、フィン・マックールという英雄は彼女を妻に選んだのだろう。

 

「なぁ、なんかやる気失せた。志貴くん見逃して逃げるなら、サーバを付けてやる。フィン・マックールの忠誠心マックスになるぜ?」

「あら、それは楽しそうね。...受けるわその契約。今日はもう疲れたし、そろそろ湧いて来るだろうあの悪魔人間も怖いし、退散するわ」

 

「でも絶対に諦めないわよ。世界を救う事は」

「俺もだ。俺は内側から、お前は外側から世界を救うプランを探す。そのためのパイプがサーバだ。お前の欲しい志貴くんの力の情報も、お互いの欲しい黒点の情報もやり取りできる。意外と良いんじゃないか?この内通」

「ヤタガラスはともかく、クズノハに知られたら首が飛ぶわよ?物理的に」

「だな。だから、内密に頼むわ」

「どうしようかしら?」

 

「ちょっと、私の命がさらりと売り飛ばされてない⁉︎サマナー、契約は⁉︎」

「俺は、いつお前を合体素材にするなんて事を明言したか?」

「...言ってない⁉︎」

「まぁ言ったとしてもお前程度の木っ端悪魔使い潰す気満々だったから、契約の時点で色々細工してるから問題はなかったんだがな」

「最悪だ!この、糞サマナー!」

「ハッハッハ、愉快なサマナーだね愛しのサーバ。短い間だが、良き縁だったようだ」

 

サーバをフィンの元に投げ渡し、契約の縛りを緩める。

術師としてなかなかの知識を持っている彼女ならその穴があれば霊的パイプを作ることなど容易いだろう。

 

「...ちょっと待ってディムナ。私今ディムナに抱かれてる?」

「ああ。決してこの手は離さないよ、サーバ」

「ちょ、ちょっとタイムタイム!今この鹿の角隠すから!メイクとかで色々誤魔化すから!」

「実は言っていなかったが、私の親指かむかむ智慧もりもり(フィンタン・フィネガス)はそういうのを見抜く。私の為に着飾ってくれるのは嬉しいが、そのままの君も十分に魅力的だよサーバ」

「はいはい、コントは後でね。あなた、花咲千尋とのパイプとして私の仲魔になってもらうわ。構わないわね?」

「ええ、私は妖精サーバ。重複契約だけれど、今後ともよろしくね、えっと...アリスさん?」

()()()よ」

 

()()()()()よ。今後ともよろしくね、サーバ」

 

そんな契約が結ばれると共に、アリス、もとい内田たち一行は虚数異界へと転移を行い、後に何を残す事なく消えていった。

 

「千尋さん、無事ですか!」

「...千尋くん、君なら最低限逃がさないくらいはしてくれると信じていたのに」

「アウタースピリッツ2騎にハイクラス悪魔相手ですよ?逃げてくれるなら逃しますよ」

 

『デオン、わかってると思うが言うなよ?』

『...君は、それで良いのかい?』

『ま、大丈夫だろ。内田は悪い奴じゃあないってわかった。じゃなきゃあのフィン・マックールが内応のサインに答えないでいるものかよ』

『内応のサイン?』

『そもそもサーバを仲魔にした事とか、フィンが裏切ればいつだって内田を殺せる戦闘状況にしていた事とか、あとは地雷に仕込んだ魔術的なサインとかだな』

『...手広くやっていたのだね』

『小細工が俺の生きる術だからな』

 

その後、なんらかの目的が果たされたのか異界は消滅した。堕天使側の真の狙いはなんだったのか、追跡調査を始めなくては。

 


 

結界の破壊やら異界の発生やらでてんてこ舞いだった七夜の里には、すぐにヤタガラスの機動部隊がやってきた。ヤタガラスのIDと戦ったという事実を言ったら捜査情報を流してくれるということになった。隊長さん頭柔らかいなぁ、ありがたく、心強い限りだ。

 

この規模の事件で比較すれば死傷者の数は少ない。だがそれはこの里に住んでいる人が少なかったからというのが理由だ。

 

なのでこう記すべきだろう。この里の住人の生存者は2名だと。

 

皆、堕天使の嵐に食いちぎられて殺された。それが現実だ。

 

異界強度(ゲートパワー)が尋常じゃなく高まってます。野良悪魔の出現に注意を...ってのは釈迦に説法ですか?」

「ああ、私たちは君たち以上に厳しい訓練を受けている。その程度の真っ当な状況なら想定はしているさ。...まぁ、訓練以上のこととなるとなかなか全力は出せないものだがね。その点に関しては君達を評価している。アウタースピリッツとやらを3体にハイクラス悪魔2体、そして熟練のダークサマナー相手に生き残ったのだ、誇るべき功績だよ。なにせ、()()()()()()1()()()()()()()()()()()

「ほとんどその少年頼りでしたけどね」

 

まぁ、褒められて悪い気はしない。できれば報告書にも名前付きで書いて上に上げてくれたらボーナスが出るかもしれないのだし。

 

時たま現れる雑魚悪魔。風土なのか、妖怪変化とカテゴライズされているモノ達が多かった。オニに、アズミに口裂け女。

 

尚、口裂け女は顕現した瞬間に自分たちに発見された事で、神速の命乞いをしてみせた。いや、確かに顕現した瞬間に向けられる8の銃口と暴れたりなかった(マジで?)所長のクラウチングスタートが見えたのだから、そりゃ土下座の一つもするものだ。死にたくないもんな、基本。

 

そんなわけで、仲魔が増えました。機動隊の人々はこういった裏切りの可能性のある悪魔は使わないのだと。...いざって時以外は。

 

「サマナー、言われた魔法陣敷き終わったさー」

「サンキューカラドリウス。簡単な警報(アラーム)の術式ですけど、これで結界から抜けてきた悪魔がいればわかります。ボティスを平均値としてみるなら、連中ハイクラス以上の化け物ですから」

「なるほど、いい術師だ。トルーパーズの仕事が終わったら機動隊に来ないか?働き手はいつだって募集している」

「残念でしたー、千尋くんはウチの子ですー」

「所長さん、なんで子供っぽくなってるんです?」

「...所長は消化不良で終わるとあーなる。理由は知らんが、テンプルナイト時代からだそうだ。知り合いのメシアンに聞いた話だけどな」

 

そんな会話をしながらも、クレイモアを鞘に収めていない所長にガントレットを展開したままの縁。常に周囲に死角を作らない機動部隊さんたち。皆、わかっているのだ。

 

姿()()()()()()()()()()は存在の残り香だけで、尋常でない強さを誇っているという事を。

 

「里を見回りましたけど、収穫はウカノミタマプラントくらいですか」

「ああ、悪魔討伐者(デビルバスター)と里の主要部を回ってる連中も収穫なしだそうだ。殺された者はいるが、盗まれたりしたものはない」

「とすると、ウカノミタマプラントの破壊が目的?いや、旧式で稼働停止してるところになんの恨みがあるんですか、食中毒でも起こされたんですかね」

「かもしれないな」

「...すいません、冗談です」

「いや、あながち的外れでも無いと思ったのだよ。堕天使が軍勢を率いて破壊する価値があったのなら、それはやはり堕天使に対して有効な武器になった筈のものなのだ。食中毒かどうかはわからないがね」

「ウカノミタマプラントにある何かを堕天使が恐れている。となると各地のプラントの護衛増員ですかね、とりあえず取れる手としては」

「そんな手がどこにあるというのだ、ヤタガラスからは猫の手くらいしかないぞ」

「あー、修羅場ですもんねー今」

 

里の結界の敷かれていた範囲を一回りし終わった所で、機動部隊の作った指揮所で休んでいる志貴くんと、一足先に戻っていたキリさんと合流する。

 

「志貴くん、大丈夫か?」

「はい。この身体なら、眼のスイッチ切れますので」

「志貴...」

「...父さん、俺色々と思いだした。この眼の使い方も、悪魔の殺し方も。魂の記憶って奴なのかな?」

「...志貴?」

 

『千尋さん、良いですか?』

『...何だ?』

『あの事を黙る代わりに、あなたの側に居させてください。あなたの側が、一番真実に近い』

『...キリさんの了承は自分で取れ、それが条件だ』

『わかりました』

「俺、千尋さんと行くよ。自分の運命って奴に決着をつけたい」

「...わかった、俺じゃあ志貴は守れないのは痛いほどわかったからな。だが、約束しろ」

 

「必ず、帰ってこい」

「...ありがとう、父さん」

 


 

それからのこと。

 

ウカノミタマプラントから無くなったものは損耗具合とは裏腹に簡単に判明できた。

MAGコンバーター、精神物質マグネタイトを物理的物質である肥料などに変換するモノだ。ウカノミタマプラントの心臓部でもある。

 

だが、コンバーターが欲しいなら最新式のプラントに配備されているモノを狙う方がリターンは大きい筈だ。なぜにこんな旧式を?

 

旧式でなくてはできないことでもあるのか?

 

疑問は尽きないが、ひとまず敵の目的は果たされたと見ていいだろう。これが後々尾を引かなければ良いのだが、まぁ間違いなく引くだろう。太陽が東から昇るのと同じくらいには当然の事だ。

 

何にそれが使われるのかくらいは調べておかねば。

 

などと考えつつ3Dプリンターに原材料を投入する。そうして出てくるルーンストーンにMAGを込めながらのんびりと念話をしてみた。

 

最近仲良くなった世界救いたいウーマンの内田に。

念話のテストついでなのだが。

 

『マイクテス、マイクテス、どーぞー』

『気が抜けるからやめてくれない?ていうか念話にマイクはないし』

 

以外の乗ってくる本名内田、アリスって偽名どっから取ったのーと煽りたいが今はよしておこう。

 

『...旧式ウカノミタマプラントの仕様書ってそっちで持ってるか?ヤタガラスで管理してるネットに上がってる情報だとコンバーターの違いとか分からないんだが』

『ターミナル使えば知れるんじゃない?知らないけど』

『ターミナル?』

『そっちではアーカイブって言ってるアレよ。あー、結界の範囲にギリギリ入らなかったのよねー、図書室はあるから情報には困らないけど』

 

サーバとのラインをジャックされ、そこから念話が流れる。

向こうもひと段落着いたのか念話に応じてくれた。この契約はサーバが死ねば切れてしまう細いパイプではあるが、互いに盗れる情報は盗っておきたいだろうからこれから頻繁に行われそうだ。

 

『とりあえず聞かせてくれ。堕天使とその親玉の狙いは何だ?世界征服か何かか?』

『だいたいあってるわ。堕天使として人類を支配して、敬われて死にたいのよ。三日天下になるのは分かりきっているのにね』

『面倒だなそいつら。そっちで殺さないのか?』

『無茶言わないで、こっちはこっちで色々あるの。ていうか戦力的に殺し切れないし、強い英雄は大体癖だらけだしね』

『そうかい。それで質問なんだが...アウタースピリッツの魔力による結界汚染、知らないわけじゃねぇよな?どう対策してる?』

『英霊契約のことは知らないの?マスターの癖に』

『...英霊契約?』

『そ、異物である英霊をこの世界の者だと楔を打ち込むのが契約。人間っていうフィルターを通すから魔力による結界異常は誤魔化せるのよ。そうとう辛いし、悪魔との契約とは違う種類の腕がいるけどね』

 

その時、背後からノックの音が鳴り響いた。念話の相手を逆探知なんて真似出来る人間はこの事務所にはいないが、念のためだ。

 

『すまん、人が来た』

『ええ、お互い蝙蝠になったわけだし慎重にいきましょう』

 

『残り時間は短いのだけど、先はまだ長いのだから』

 

「はいはい、今出ますよー」

 

そこには、何か覚悟したような顔をした志貴くんと、彼を連れてきたデオンがいた。

 

「どした?」

「いや、単純な事さ。志貴くんが君と話をしたいのだと」

「ああ、大丈夫大丈夫。今単純作業中だったから」

 

部屋に入ってくる志貴くんとデオン。まいった、煎餅切らしていたぞ。

 

「この世界の事を、聞きに来ました」

「...知らない方が楽だぜ?多分さ」

「...何も知らないで戦い続けるのは、もうゴメンなんだ」

「じゃ、手短に」

 

「この世界はあと8年で滅ぶ。黒点の侵食がそのタイミングで到達するらしいんだわ」

「...あの戦争の原因か」

「そ、だから未来に希望は持たない方がいい」

「...それでも諦めてないのが、千尋さんとアリスって人なんだろ?」

「俺たちは悪い例だぜ?楽に逃げる方が、多分人として正しい」

 

その言葉に再び考え込む志貴くん。デオンからの非難の目が刺さる。まぁ、これまでの戦闘技術とか知識の出所を考えると、見た目通りの年齢として扱うのは微妙に失礼だろう。

彼はほぼ間違いなく、()()()という奴なのだから。

 

「それで、君は逃げるか?」

「いいや、俺を、俺の目を使ってくれ。俺は、世界を守らなきゃならない。300年も経っているから時効かも知れないけど、沢山約束したから」

 

「悪魔を殺して、人を守るって」

 

なんとなく志貴くんの頭を撫でる。抵抗は、少ししかなかった。

 

「今の君が決めた事なら、俺は反対しない。頼むぜ?七夜の英雄サマ?」

「...え、俺そんな事になってたの?」

「なってたんだ。影から影へと闇を斬り、悪魔を刈り取る正義の牙。なんてさ」

「...うわぁ、恥ずい」

「後世にて語られるとはそういうものだよ」

 

その後はなんとなく見学をし始めた2人と駄弁りながら安物のストーンを作り続けるのであった。

 

「パジャマパーティーとか狡いですよ、千尋さん!私も志貴くんと仲良くなりたかったのに!」と翌日縁が言ったのは盲点だった。今度ケーキ(賄賂)を送らねば。




ちなみに、所長がスパさんにアンブッシュ狙わなかったら普通に連携取られてオタッシャ重点でした。異形の勘が示すのは皆で生き残るための道なのです。真っ当に使えば聖女待った無しの異能なんだけどなぁ!

それはそれとして感想が欲しい(乞食)アンケートとか修正報告とか評価とかくれるので読まれてない訳ではないとはわかっているのですが、やはり感想が欲しい。モチベに直結するのデス。まぁ、なくても描きたいから書くんですけどね!

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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