それにしても今回の感想についてのアンケート、一番困るのが最有力の理由でした。ネタ潰しとか作者的には全く気にしないのですが、やっぱり気にする人はしますよねー。
それにしても不味い、感想は地味にランキングに影響するんですけど(俗物感)対策が思いつかないです。
まぁこの手の話は作者が面白い作品書けば良いんだよって話で終わるんですけどね。
魔法、魔導、異能を演出に使い、己が魅力を限界以上に引き出す魔性の者たち!
そんな者達が魅力を競う場こそが、Dアイドルライブバトルである!
「てなイベントがあるんだけど、来るか?」
「千尋さん、馬鹿なんじゃないのか?アンタ」
裏の仕事がスパッと終わり、表の探偵依頼を待ちながらそんなことを駄弁る。志貴くんは年相応の感性を転生現象により置き忘れてしまったようだ。キレが良い。
あれから志貴くんは俺たちの事務所に住むことになった。父親であるキリさんは里の人たちの供養で忙しいという事と、もう一度内田がやってきたときに守る力が自分にはないと判断したことから俺たちに預けられたのだ。
そんな訳で、浅田探偵事務所4人目のメンバーが生まれたのである。
人件費大丈夫だろうか。
「いや、実の所半分くらい仕事なんだよコレ」
「どういう事です?」
ケーキを切り分けて持ってきた縁が言う。
縁的には細かいことは気にせず、後輩(戦闘経験山の如し)相手にちょっと良いとこ見せようとしている感が凄い。でも多分空回ってるぞー。
「ガイア教から指名手配依頼があってな、Dアイドルライブバトルへの乱入者なんだよそいつが」
「名前はエリザベート・バートリー。悪魔人間か何かで、頭に角を持った赤髪の少女らしい」
「...それで、そいつの一体何が問題なんです?アイドルのライブに乱入した程度で殺されそうになるなんて末法すぎるでしょう」
「被害総額」
固まる2人、アイドルごときの事だと考えてたのだろう。俺も始めて聞いた時は思わず天を仰いだものだ。この世界やっぱり神様宛にならないと。
「伝聞だから詳しいことは知らないんだが、どうにも相当の声量を持ってるらしくてな。自前のマイクとアンプを合わせて会場設備をぶっ壊し回ってるらしい。本人的には無自覚で」
「...なんですかその人間台風」
「馬鹿なんじゃないのか?そいつもガイア教徒も」
「しかも、そいつは相当腕が立つ。ステージで歌いながら謎のマイク槍で止めようとするガイア教徒の黒服をばったばったとなぎ倒しながら歌い続けていたんだと。ガイア教徒の面目丸つぶれだな。だからフリーの方にも殺害依頼が来てんだよ」
「手段選んでないねー」
ケーキを食べに所長がテーブルへとやってくる。「書類仕事はどうした」と睨みつけるとバツの悪そうな顔で目をそらし、ひゅーひゅーと吹けていない口笛を吹き始めた。子供か。
「まぁ、気分転換のライブバトルついでに依頼も果たせそうなんだ、志貴くんもオフの切り替え覚えないといけないし、丁度いいかなってさ」
「...行きましょう、志貴くん!私、アイドルのライブなんて始めてです。サイリウム振り回して踊るんですよね!」
「...わかりました行きますよ。大した害はなさそうですし」
「...よし、緊急戦力確保と」
「「さらっと外道ですよコイツ」」
「諦めるといい、サマナーは大体においてこんなものだ」
書類仕事で埋もれている所長を尻目に今回のライブバトル会場、マンションの一室に作られた人口異界へと足を踏み入れる。
「ここならライブバトルが邪魔されることはないぜ!」
「今日はPIX48と家政婦アイドルシルキーのバトル、見逃せない!」
「いいや、奴は来るさ」
「なんでだ?ライブ会場の場所はチケット買った奴にしか教えてねぇのに」
「会場の情報が流れていた。賞金稼ぎの仕業だろう」
「クソッ、俺たちの生きがいを邪魔しやがって!」
「サマナー、やったのかい?」
「いや、何故俺を疑う。今回は本当に俺じゃあないぞ」
「本当ですか?」
「信用されてないんですね、千尋さん」
「俺が流す前に情報は流れてた。だから本当に俺じゃないんだ」
「「理由が最悪だ⁉︎」」
などと話しつつ自由券で立てる範囲で、どの方向から襲撃が来ても肉盾がある位置を選んで陣取る。基本今回は漁夫の利狙いなのでこんなものでいいだろう。
「レディース&ジェントルメン!ライブバトルへようこそ!今回はこの2組、言わずと知れたDアイドル界の先駆け!48体のピクシーの舞は今宵も優雅に花開く!PIX48!」
スポットライトと共に統一性のある衣装で空を舞う48体のピクシー。
紙吹雪を疾風魔法で巻き上げてPIX48の文字を描くパフォーマンスは見事というほかない。MAGの干渉があるから見た目以上に繊細な技だろうに。
「
挨拶がわりのワンフレーズ。MAG波を伝って綺麗な音と喜びの感情が伝わってくる。なるほど、アクティブソナーの波としてでなくこういった意味を持たせる事もできるのか。この技術を応用すると魔法陣ならぬ魔法歌なんてものができるかもしれない。後で論文探そう。
「これは...凄いな」
「ですね!ステージが楽しみです!」
なんて事を言っている2人。そんな2人にわからないように一つ舌打ちを打つ。入り口にこっそり置いてきたコボルトが殺された、件のエリザベートとやらにだ。もう移動をしてしまっただろう。客層が覚醒者と悪魔に偏っているこの場ではアクティブソナーは効果が薄い。エリザベートがどこかに身を潜めているのを発見するのは難しいだろう。
「なにやら企みが潰えたような顔だね、サマナー」
「ああ、コボルトの尊い犠牲が出ちまった。こっそりつけて拘束する気だったのにおじゃんだ。戦い方が大雑把なのな、あの槍娘」
そんな会話をしていると、会場の証明がステージに集中した。どうやら、先行はシルキーのようだ。
「千尋さん、投票はこのネットアプリでやればいいんですよね?」
「ああ、スマホかCOMPがありゃ問題ないみたいだな」
「...すいません、俺どっちも持ってないんですが」
「ああ、しまった。こういう時どうすりゃいいんだ?」
「そういう奴は売店で言えば投票デバイス貰える。悪魔の中にはそういうの持たない者たちも多いからな」
「親切にありがとうございます。あなたは?」
「私はただのドルオタだ。名乗るほどの者ではない」
黒い武者鎧に赤い鬼の仮面。そして漏れ出さず完全にコントロールされているMAG。どっからどう見ても名乗る要素ありありだが、本人は仕事とプライベートをわかる人なのだろう、多分。
「じゃあ志貴くん、行こうか。ついでにサイリウムとかも買っときたいし」
「ですね。しっかし便利になりましたねこの眼鏡。これだけ人外が居るのに衝動が湧いてこない」
今回こんな悪魔と人外のパーティ会場に呼ぶにあたり、志貴くんには新しいアイテムを貸与することとした。
その名は、衝動殺し。
自身の持つ異能『直死の魔眼』のコントロールを会得した志貴くんには、もはやあの間に合わせ眼鏡は不要だ。なのでこれから暮らしていく中で困るであろう退魔衝動を抑えるアイテムをつけることができたのだ。
原理としては割と単純。MAG感知能力を鈍らせただけである。退魔衝動は、原理としては人外の魂を魂で感知した時に起動するものだ。ならそもそもスイッチを押させなければいいという理屈だ。
まぁ、本人が不意打ちに弱くなってしまうという欠点があるが、そこは仲間や仲魔(作れるかどうかは知らないが)を頼ればいいだろう。
「ハイー、サイリウム8本デスネー、40マッカニナリマス」
「何故に片言...まぁいいや、あと投票デバイス一つ欲しいんですけど」
「ハイー、使ウ人ノ生体MAGヲ記録スルノデ指出シテクダサイ」
「だってさ志貴くん。盗んだら殺しに来られるね」
「責任重大ですね」
志貴くんが認証デバイスに指を当て、その代価としてものすごくちゃっちいデバイスを受け取った。思念操作も何も無いシンプルすぎる機械だ。現代のデバイスと比べると子供のおもちゃだな。
「じゃ、戻ろう。ステージの準備も終わっちまうだろうし」
「ですね。それにしても売店空いてましたねー」
「物販そんなしてないしな。サイリウムくらい自前のものがあるんだろ、歴戦のDライバー達は物販じゃなくてMAGでアイドルたちの直接の血肉になる事を選ぶらしい。文化だな」
「...サバトじゃないか」
「誰も損してないからオーケーだろ」
人をかき分け取ってた場所に戻る。
「結構やる人多いですね」
「だな、一般チケットの後ろの方はだいたい賞金稼ぎと見ていいだろ。だが、化け物ってほどじゃあない。あの槍娘を殺せるかは、まぁ相性だろ」
どうにも分布としては、中堅どころが多いようだ。自分の実力に理解と自信を持ち、それをもって噂のエリザベート・バートリーを倒そうとしている。
「これは、賞金は貰えそうにないな」
「ですね、素直にライブを楽しみましょう」
そうして、ライブは順調に進んでいった。シルキーの心を揺さぶる魅惑の歌唱力か、PIX48の相当量の訓練の跡が見えるパフォーマンスか、投票結果は5分だろう。それほど、どちらのステージも魅力的だった。
縁など先輩風を吹かせることを放り投げてサイリウムでいぇいいぇいしていた。気持ちはわかる。
ただ、志貴くんはどうにも乗り切れていないようだった。いや、楽しんでいない訳ではないようなのは雰囲気でわかるのだが。
まぁ、デオンのように恥ずかし気に「い、いぇーい」とかしてないだけマシかもしれない。恥に気を使うばかりで逆に目立ってるぞお前。
俺?普通にノリノリよ。こういうノリは男子高校生としてはホームグラウンドのようなものだ。馬鹿騒ぎは大好きさ!
「センキューPIX48!今日も良いステージだったぜ!そんなわけで、運命の投票タイムだ!各自デバイスにより良かった方を投票してくれ!」
「その投票、まだ早いわ!」
「この歌ってないときに限って鈴の音のようなソプラノボイスは!」
照明係さん必死の探索、声はするのにどこにいるのかがわからないのだろう。実際俺も分からん。パッシブソナーもアクティブソナーも荒ぶっているのだから、
「ここよ、ここ!照明係新人すぎない?今日のメインを見つけられないだなんて!」
声に従い照明が向けられる。そこは、ライブバトル会場の上空、竜のような翼を広げゆっくりと会場に降り立っていったその赤髪の少女は、間違いなくお尋ね者のあの少女ッ!
「アイドルライブバトル会場に真打登場!私は超次元のトップアイドル!エリザベート・バートリーよ!ブタども、泣き喚いて私を讃えなさい!」
そんなセリフと共に舞い降りる少女。正直乱入者でなければ割と好みなシチュエーションだ。まぁ反応は当然のブーイングの嵐なのだが。
「この罵倒が私の歌声で失神してしまうまでに変わる...だからライブバトルはやめられないのよ!」
「ザッケンナコラー!」とステージ脇から現れる数多の黒服と、ステージに駆け上って戦いを挑みに行く賞金稼ぎたち。
「デオン、何秒保つと思う?」
「瞬殺されるのが前の3人、不用意に踏み込みすぎだ。残りはかなり健闘すると思うが、即席コンビネーションが取れるかどうかで明暗は別れるね」
「良い見立てだが、お前達は行かないでいいのか?このままでは彼女の賞金が持っていかれてしまうが」
後ろにいたドルオタ武者さんがそんなことをのたまう。それならあんたはどうなんだと聞き返したいところだが、今は観察が優先だ。
用意していたルーンストーンを四隅において陣を敷く。これで簡易的な遮音結界の完成だ
「皆、結界を張った。中から出るなよ?敵は歌声だけでステージ会場を滅茶苦茶にする変なのだ。これで防げるかは分からんが様子見くらいにはなる」
「ほぉ、大きな音だけを遮るのか。やるな少年」
「貴方ほどじゃないですよ。てか勝手に入らないでくださいよドルオタさん」
まぁスペースに余裕はあるのだが。
「行くわよ、まずは定石通りのファーストナンバー『恋はドラクル』!」
ズゴゴゴゴと湧き出てくるスピーカーのような城壁。こんな大規模な
というか、念のため持ってきていた魔力探知機がガーガー反応している。測定範囲外で引っかかるとかマジか、あれアウタースピリッツなのか。
馬鹿じゃねぇの?と探知機を投げ出さなかった自分を褒めてあげたい。
そして、果敢に挑みかかった黒服さんと賞金稼ぎの運命は決まった。死ぬわあいつら。
数多の魔法や銃撃を踊るように躱し、近接戦を槍で払いのけながら槍の石突きに着いたマイクで歌い始めた。
瞬間、耳を塞いだ自分は多分悪くない。
声質はかなり良い。先程司会者さんが歌わなければ良いと言っていたのは本当に同意だ。
曲自体も、多分悪くはない。誰が作曲したかは知らないが、アイドルソングとしては良いノリをしているだろう。
問題は、すっとんきょうに弾け飛んでいる音程が、それをそのまま拡大させる事で破壊音波と化している事だ。
事前対策をしている俺たちですらこのダメージを受けているのだから、襲いかかった者たちは地獄の苦しみだろう。あ、粘ってた最後のサマナーが倒れた。仲魔が全員気絶したのだからまぁ残当だな。
「デオン、外れたな」
「...アレは想像しろという方が無理じゃあないかい?」
「...だな」
周りを見回す。結界内には一緒に来た3人とドルオタさん。
結界外は、死屍累々。悪魔の中にはガチに死んでる奴もいる。
なんて恐ろしい歌声だ。
「んじゃ一曲終わったら仕掛けるつもりだけど、もう一曲聴く気のある奴はいるか?」
「「「いるか!」」」
満場一致である。
私、エリザベート・バートリーは満足していた。
私の歌声に聞き惚れ、意識すら飛ばしてしまうファン達。
最初はステージから引き摺り下ろそうと躍起になっている者たちが居たが、その動きの緩慢さから私は確信した。
彼らは、ライブバトルを盛り上げる為に一緒に戦ってくれるバックダンサーなのだと。
そうと分かれば話は簡単。バックダンサーの緩慢な攻撃を躱して踊るように歌声を届ければ良い。それで、アクションが入った素敵なステージになる。
そう思って幾度もライブバトルを回ってきた。どのバトルも心を震わせるものであったが、最後に立っているのはいつも私だった。
ああ、私の魅力って罪なのね!
でも、今回のライブバトルでは倒れていない一行がいた。
どこか
私の歌声を聴くために意識を飛ばすのを耐えてくれたのだ、なんて嬉しい事だろうか。
久しくなかった二曲目を歌ってあげよう、だがその前にまずはMCだ。トークで場を盛り上げるのもアイドルの仕事なのだから!
「ブタども、ありがとー!」
瞬間、一行は爆ぜるようなスピードでステージに乗り込んできた。
なんたるサプライズ!彼らは熱心なファンであるだけでなく、パフォーマーでもあるのだ!
「さぁ、ノってきた所で次行くわよ!『AKOGARE∞TION』!」
そう思い、思いっきり歌おうとしたら迷いのない動きで首を刎ねられかけた。槍で防げたが、その力は逃しきれずに吹き飛ばされる。翼で体勢を立て直し転倒は防いだが、二の矢三の矢が飛んでくる。
そのパフォーマー達は今までの子ブタどもとは一味も二味も違うようだ。でも、逆境でこそ輝くのがアイドル!頑張るのよエリザ!
「やめろー!そいつに歌を歌わせるなぁ!」
「だが、妙に強い!長物とだけあってやり辛いぞ!」
「...死角に入ってるのに対応される⁉︎」
「なら、スピーカーの方を!サモン、タラスク!星のように!」
タラスクが高速回転しながらスピーカーのような城壁に突き刺さる。
「ちょっと!音割れしたらどうするのよ!」
「音自体を鳴らさせないので問題ありません!鉄拳、聖裁!」
そのタラスクを楔にした一撃により、左側の城壁は崩れ落ちた。その城壁は
だが、右手にある城壁は無傷だ。あれでは怪音波が流れてしまうだろう。
「私のチェイテ城がッ!でもまだよエリザ。モノラルだって歌いきってみせる!」
「まずい、イントロが終わる!曲が始まるぞ!」
「太陽みたい...あら?」
スピーカー城壁から、音が
「...あら?マイクチェックマイクチェック...駄目じゃない!リコールはどこにすれば良いの⁉︎」
「...間に合った。マジで奇跡だ」
「ちょっとそこの子ダヌキ、何したの?」
「お前の魔力ラインを断線させた。縁が破壊したスピーカー城壁のMAG波長パターンから、通信路は80パターンくらいに絞れてたんだよ。一発目で成功するとか冗談みたいだが、これでお前のスピーカーは封じた」
「...やってくれたわね子ダヌキ。でも、この程度の逆境アカペラで切り抜けるまで!私は超次元アイドル!エリザベート・バートリーなのだから!」
また歌い始めるエリザベート・バートリー。背後から襲う志貴くんの襲撃を竜の尾で払い、デオンの斬撃に対して槍の距離を保ちつつ羽で力を逃している。なかなかにやる。
そして冗談のようだが、彼女の歌声は腹から声を出しているだけでも十分な破壊力を持っている。
通常の戦闘でも強くなればなるほど視覚以外から得る情報、取り分け聴覚からの情報の占める度合いは大きくなる。それが潰されるというのはかなりの辛さだろう。
だが、戦えないほどじゃない。まぁ、あの怪音波のせいで耳は遠くなるのだが。
『サマナー、殺すには二、三手足りないよ。彼女、あのナリでなかなか戦い慣れている』
『構わない。逃がさなければこっちの小細工が通る』
そうして、しばらく戦いながら術式を悪魔召喚プログラムの顕現術式を調整する。具体的には一番の歌詞が終わるくらいまでは。
あの壊滅的な音程がなければ良い歌だったろうになーとわかるあたりかなり残念だ。
「...よし、術式セット完了!前線交代!サモン、オセ、ラームジェルグ!雪女郎!」
「あら?パフォーマーの交代?良いわ良いわ!もっと楽しいステージにしましょう!」
「残念ながらこっからはお前の歌は届かない。
「あら、それは無駄な事をご苦労様。でも残念ね!歌ってのは、魂で聴くものなのよ!」
そうして再び歌い始めるエリザベート。しかし、完全に対策は完了している。
オセとラームジェルグが槍を両手で捕まえる。当然エリザベートは筋力とボイスブレスで打ち払おうとするも、二柱の悪魔はブレなかった。
そして捉えたその体に、雪女郎の狙いすました
「お前の歌声が魂に響くレベルの素っ頓狂であることは解析できていた。理解は出来ないがな」
「だから、
「なんて、ことを!それってつまり、この仮装ダンサー達には私の魂のビートが届かないってことじゃない!悪魔ねあなた!」
「よく言われる、よ!」
ようやく思考と両手がフリーになったので俺も戦線に加わる。
エリザベート・バートリー。その槍捌きは独創的だ。尻尾と羽のある人物の槍捌きなど研究はあんまりされていない時代の英雄だったのだろう。だが、それは強力であることとイコールでは繋がらない。
初見なら対応に苦労するが、もう十分に観察はした。手持ちの札で殺しきれる。
「仕方ないわね...まずは子ダヌキ、貴方を...どうすれば良いのかしら?」
「...そこは素直に殺すとかじゃないか?」
「嫌よ、どうして貴方なんか殺さなきゃならないの?馬鹿じゃない?」
頭を抱えたくなる。なんだか状況がチグハグだ。少なくともこちらからは殺す気で襲いかかっていたはずなのだが、何がどうなっているのだ?
「いや、殺し合ってるんだから馬鹿も何もないだろ」
「殺し合い?誰が誰と?」
「お前と、俺たちが」
「...ハァ⁉︎どうしてそんなことになってるのよ!私はアイドルとして歌ってただけよ?バックダンサーだってついたじゃない!」
「バックダンサー...」
「歌って踊って戦える、そんなアイドルをアピールしていただけよ!それがライブバトルでしょう⁉︎」
「...ちょっとタイム!作戦会議!助けて!」
足が凍っているエリザベートを放置して一旦皆の知恵を借りる。
オセとラームジェルグに監視を任せて耳を抑えている皆と合流する。
「千尋さん、何ですか!」
「あの馬鹿ボイスで耳がやられてるんだ!大声で頼む!」
『それか、念話という手もありだね』
「オーケー、チャンネル開く。
志貴くんと縁の手を取ってMAGの接触でチャンネルを作る。簡易的なものだが、これで良いだろう。
『それで、何が問題なんだ?アウタースピリッツってのは何にしても殺すんだろう?』
『いや、いくらなんでもあの勘違いのまま殺すのはどうだよ。あの子、多分ガチに殺されるような真似してる自覚は全くもってないぞ』
『...同感です。殺してしまうにしても、その終わりは納得できるものであって欲しい。だってあの子、殺す事はしてないんだから』
『...甘っちょろいな、あんたら』
『知ってる。けど変えられんだろそこは』
『でも実際問題どうします?あの子にどう真実を伝えるのが正解なんでしょう?』
『別にそのまんまで良いだろ。こっちは耳やられてる上に、周りは死屍累々。これで状況を理解できなきゃどうかしてる』
『『どうかしてる だろ/でしょ どう見ても』』
『...それもそうだ』
「ちょっと子ダヌキどもー、私のことほっときすぎじゃない?アイドルよ私」
「あー、すまんなエリザベート。予想外の事態に困り果ててたんだ」
「エリザでいいわ、子ダヌキ。それで、私はどうなるの?」
「...人類側としては、問答無用でぶっ殺さなきゃならん。サマナーとしては、賞金首は殺しておきたい」
「賞金首⁉︎」
「けど、個人的にはもっと納得できる終わり方で終わらせたい。ちょうど試したい術式もあるしな」
「...子ダヌキ、あなた」
「さては、私のファンになったのね!」
「それだけはねぇよ!」
とりあえず死屍累々なこの中に居続けるのはアレなので、楽屋裏にでも引き摺り込むことにする。
敵意がない相手とならば、まずは会話からだ。
「すまん、俺の頭が悪いのか?全く理解できん」
「何よ、だから私は超次元アイドルとして活動するべくこの世界に再び生まれ落ちたのよ。だって、私が生まれたのはアイドルライブバトルの会場だったんだから!わかるでしょ?」
「全く分からん。だが、お前のやりたい事はわかった。歌いたいんだな?」
「いいえ、もっと輝きたいの!だって、アイドルってそういうものでしょう!」
「しからば、私が君をプロデュースしよう!」
「「何奴⁉︎」」
「フッ、通りすがりのドルオタ、改め...」
いつの間にやら現れていたドルオタさんが赤い仮面に手をかける。
「後藤大地、ガイアPがな!」
何ともまぁ、劇場型な人だ。というか、後藤という苗字に大地という名前。役満な気がするのだがなんでこいつアイドル擁護側に回ってるん?
「千尋さん、やっと耳治りましたー」
「俺もだ。二度と経験したくはないな、この感じ」
「私もだよ」
「それであのガイアPとは何者なんだい?」
「ゴトウって苗字には心当たりがある。昔一緒に戦った自衛官の中にそんな名前の奴がいた。そういや妙な宗教に誘われたな」
「スゲー人脈だな志貴くん。大当たり。後藤ってのはガイア教団のトップになった男だよ。メシアとも最前線で戦い続けている生ける伝説の血統だ。まぁ、ドルオタなのは知らなかったが」
ちなみにこの後藤大地さんは縁のいとこか何かでもある。縁もゴトウの血を引き継いでいるのだから。
「わかったわ、私乱入しかしてなかったからいけなかったのね!ガイアP、あなたに私をプロデュースする権利をあげるわ!」
「良かろう!次のライブバトルのメインに君を据えて見せよう!この、ガイアPの名にかけて!」
「あ、すいません。そいつ自由にするとヤタガラスにどやされるんで契約だけはさせてもらいます」
「何、あなたが私のオーナーになるって事?子ダヌキ」
「そんなとこだ。一度、お前が納得できるライブを行うまで、お前を守る。その後、お前は抵抗せずに退去する。それが持ちかける契約だ」
「...どうして、一度だけなの?」
「わかってんだろアウタースピリッツ。この世のものじゃないのは、あるべき所に行かなきゃならないんだよ」
「...わかった、認めてあげるわ子ダヌキ。私はエリザベート・バートリー。超次元に君臨するアイドルよ!」
「よろしく頼む。俺は花咲千尋、今から俺がお前のサマナーだ」
名を交わし、信を交わすことでの契約は成立した。内田の話が確かなら、これでアウタースピリッツの結界への影響は抑えられるのだろう。それでもキャパシティ重いから契約後はきっちり
「...子リス?」
「タヌキじゃないのか?」
「...いいえ、懐かしい感覚があっただけ。昔に一時だけ交わったあの時を思い出したのよ。ええ、昔のこと」
「へぇ、苦労してそうだな、その子リスさんも」
「...かもね」
とりあえず持ってきた魔力探知機をかざしてみると、有効範囲内でも魔力の反応はしなかった。俺という人間がフィルターになっているのだという説はとりあえず信じて良さそうだ。
とはいえ、アウタースピリッツの存在が危険なのは間違いない。平成結界の安全のためにどうにかしなくてはならない。
「それで、お前はこれからどうするんだ?上にバレるかもしれないからお前を長くは守れないぞ」
「当然、レッスンよ!」
「我がガイア教団の誇る修練異界、
「そうか、頑張ってくれ」
「何を言っている?契約しているのだから貴様も来るのだ」
「そうよ子ダヌキ。オーナーなんだからしっかりしなさい」
「え?」
「サマナー、これは君が招いた種だ。存分にレッスンを手伝うと良い」
「...何を言っているのだ造魔よ。契約で縛られたお前も共に行くのだぞ?」
「じゃあ、あなたはマネージャーね!」
「悪くないな。よし、私に続け!」
「え?」
後藤の用いた
世界外との相対時間加速度160倍、ただしあまりのMAG濃度から常人では5分と保たない小規模災害級異界、時空縛鎖へ。
「爪先から指の先まで全てに神経を通せ!一つ一つの動きにブレがあるぞ!」
「ハイ、プロデューサー!」
あれから異界での圧縮訓練が始まった。現在4日目、予定では5日間だそうだ。
期限を決めたのは後藤さん。次の臨時ライブバトルがガイア教団の身内で、
故に、世界時間で半日に渡っての圧縮訓練である。
だが、致命的な歌唱力についてのレッスンを後藤さんは行わなかった。「だいたいわかった」とは本人の談だがこちらはさっぱりとわからない。説明してくれ。
まぁ、今のチキチキ制御デスレースの際に余計な情報を貰っても困るかもしれないが。
「サマナー、ゼリー飲料だ。栄養補給を怠ると死ぬよ?」
「ありがとよマネージャー。エリザへの色々、任せちまって悪いな」
「まぁ、一人だけ暇なのもなんだからね。幸い、予想していた怪音波の被害もないわけだし、することはするさ」
現在俺は、MAG濃度が液体レベル一歩手前と言えるこの地にて、12の自動術式と8の手動術式でのMAG嵐への耐久と、暴れまわるエリザのMAG制御を行っていた。
怠ると、俺は5分でスライムにでもなるだろう。嫌すぎる未来だ。
「しっかし、あのプロデューサー何考えてんだ?いや、念話のラインを通じてやれば音痴は克服できなくはないんだが」
「そうなのかい?」
「ああ、エリザの音痴の理由は耳から入ってくる音と実際に出してる音が違うっていうわりとシンプルなものだと思うのさ。だからその矯正ができればってね」
などと話していると3番の術式がオーバーロードしかけた。4番と6番にバイパスを繋ぐことでMAGを逃す。危ない危ない
「サマナー、本当に大丈夫かい?」
「ああ、ただ一刻も早く外には出たいがな」
「子ダヌキー!今の良くなかった⁉︎」
「ああ!重心のブレが見えなくなってる、かなりの上達だ!」
「ありがとー!」
まぁ、彼女歌ってさえいなければ可愛いアイドルと言えなくはないので、割と見ていて楽しいのが救いだ。
「にしても、懐かれたものだね」
「普通に接してるだけなんだがな」
「...多分だが、彼女にとってはその普通が貴重なんだよ」
「...あんなナリでも、英雄なんだもんな」
「...子ダヌキー!翻訳してー!」
「私の言葉をまだ理解せぬか!」
「後藤さんはコイツの知能指数の低さを舐めすぎですよ」
「いや、私馬鹿じゃないからね⁉︎」
武道の演習用に置いてある鏡の前で踊るエリザ。アレコレ我流でやっていたところを敏腕アイドルプロデューサーの後藤さんの指示で最新のスタイルに置き換えているのだが、後藤さんはその説明の際に専門用語をビシバシ使う。その現代用語に戸惑い続けているのがエリザだ。時代錯誤な服装してんだから言葉遣いもそれに倣っていいと思うのだがなぁ。
「何か言ったか?貧弱オーナー」
「なんでもないですよ、唯我独尊プロデューサー」
その後なんとか言い回しをエリザにもわかるように翻訳して、ついでに頑張れよと声をかけておく。その度に彼女は笑顔になるのだから、安いものだ。
「そういうところだよ、サマナー」
「?変なことした...あー、今度は2番がオーバーロードしかけてる。風向きとかを測定して自動化するか?...んな七面倒な術式ここ以外で使えないか」
「頑張りたまえよサマナー。そろそろ休憩時間だ、エリザにタオルとマッサージをあげなくてはね」
「お前もマネージャー板についてきたなー」
連れ込まれた当初では考えつかない程に、この異界生活は穏やかだった。
そして5日目が終わり、時空縛鎖の外に出る。正直、MAGの薄いこの空気が本当に天国に思えてくる。ありがたや。
「それでは、ライブバトルは30分後だ」
「時間無ぇ⁉︎」
「ハッハッハ、俺に無駄な時間などあるものか!」
「いいじゃない、レッスンの成果を見せてあげる。子ダヌキ、しっかりと見てなさいよ!」
「おー」
再びの
「今日は私の誕生祭だ、今までは余興として挑戦の儀を行っていたのだが今年は挑戦者が現れなくてな、アイドルによる歌劇を新たな余興としようとしたのだよ」
「すまない、挑戦の儀とは?」
「なに、ただの殺し合いだ。勝つことができれば次のガイア当主の座が手に入るという程度のものだよ」
「「バイオレンス⁉︎」」
ガイア教団、恐るべし。
まぁ、そんな突貫スケジュールでは会場の下見やリハーサルなどできるはずもなく、ぶっつけ本番となった。そこだけは少し心配だ。
この館に転移してからついてくる、粘つくような視線の事も鑑みて動くべきだろう。
エリザに、後悔のないステージを行わせるために。
そんな俺を見たデオンは、ため息を吐きながら頷いてくれた。
一仕事、するとしよう。
「一つ言っておく」
「何よ、プロデューサー」
「君がこのステージで失態を犯したら、彼を殺す」
「...は?」
「私にも面子というものがあるのでな。故に、死力をもって歌うが良い」
「ちょっと待ちなさいよ!そんなの...」
そんな横暴は、通るのがこの世界だ。
エリザベート・バートリーは知っている。何故なら、その体を少女の血で洗っていたのだから。それは、被害者にとっては理不尽極まりない悪夢であったはずなのに、救いの手は差し伸べられなかった。
そんな世界なのだ、この世界は。
「なにが目的なの?言い掛かりをつけて子ダヌキを殺したいだけ?」
「その理由は、ライブバトルが終わった後に言おう」
「あなたは、良いプロデューサーだと思ったのにッ!」
そうして怒りのままに放たれた平手は、するりとすり抜けるように空を切った。
そして、自分の首が落ちる幻覚を見た。
「今のは見なかったことにしておこう。さぁ、控え室に行くが良い。その後の案内は女中にさせる」
戦ったら殺される。なんとか逃がさなくては。
あの子ダヌキは、きっと殺されるような真似はしていないのだから。
『子ダヌキ、今すぐ逃げなさい!』
『...どうやってだ?このガイア教団所有の邸宅は外からは簡単に入れるが中からは出られない作りだ。お前の焦りの理由はわからないけれど、逃げるってのは不可能だ』
『...どうして!』
『仕方ないさ。まぁ、なに言われたかは想像がつく。だからさ』
『俺の命、お前に預けた』
『...上等よ、やってやろうじゃない!』
『その意気だ、頼むぜ超次元アイドル』
どこか心に、火がついたような気がした。
そうして始まる宴会場でのライブバトル。先行はあらかじめ呼ばれていた異能者アイドルフェザーブルー。鮮やかな翼を
「それでサマナー、どうして私たちはここに居るんだい?」
「わかってるのに聞くな」
眼前には殺気立った筋者たち。どこの組織にもある足の引っ張り合いか、あるいはエリザの賞金狙いか。
なんにせよ、狙いが彼女の殺害である事には間違いがなさそうだ。
「テメェら、誰の手のもんだ?見ねぇ顔だが」
「強いて言うなら...アイドルの手の者かね」
「何言ってんだテメェ」
「サマナー、私も今のはどうかと思う」
「...締まらないなぁ畜生」
そんな言葉だが、お互いの意思は見せた。向こうの狙いは今から歌おうとしているエリザを暗殺すること。こちらの狙いはそれを阻止する事。
向こうのお膳立てか簡易的な遮音結界が張られているのは楽で良い。銃声も、魔法の音も結構響くのだから。
「ところで、どうして待っててくれるんだ?あんたらは」
「んなもん、横の騎士野郎見りゃ分かるだろ」
「...なんだ、その程度か。じゃあ特に苦戦する事は無さそうだな」
「んだと⁉︎」
「やれ、オセ」
「フン!」
話し合いながら遠隔で召喚術式を組み立て、オセの冥界波による奇襲をかける。MAGラインを辿っての感知をしてこなかったことから術者タイプは無し。あるいはレベル低し。
「いつの間に!」
躱した最前列の一人以外は今の冥界波で床のシミになった。本当に大したことない奴らだったようだ。
「死にやがれ、
「術の構築が甘いし、照準が大雑把だ。お前よくこの邸宅に入れたな。命知らずか」
通路を覆う火炎をデオンが切り裂き、そのまま男の首を裂いた。
見事な剣捌き、見惚れるね。
「やはり、木っ端では駄目でしたか。後藤の小僧も良いのを護衛に雇う」
「人を勝手に後藤さんの一派に入れるんじゃねぇよ。フリーだっての」
通路の奥から出てきたのは、明確な実力者。MAGのコントロールが静かで、鋭い。武闘派だろう。
「通路が細い、オセは下がって隙を見ろ。デオンは前頼む」
「全く、後藤の小僧なんぞに雇われて戦うだけの義理があるのかね?フリーのサマナー」
「残念、ズレてんだなそこら辺が。今の俺は」
「アイドルのオーナーだ」
そう名乗ったのと同時に、エリザのラインから曲が伝わってくる。あのスピーカー城壁を小さいサイズで出したようだ。
『頑張れよ、エリザ』
『...任せて、子ダヌキ!』
彼女の歌を聴けないのは残念半分安心半分だが、今やるべき事はこのガイアの鉄砲玉を仕留める事。やらなければ、エリザのステージが汚される。
戦おう、この道の先には決して通さない。
ステージから見えないどこかにいる彼は、守るという強い意思を持っていた。それはきっと私のためで、とてもとても心が温かくなる事だった。
だから、この歌は彼の為に。彼の命とか色々問題はあるけれど、今はそんな些細な事はどうでもいい。歌声が届くように大きな声で、心を込めて、歌おう。
「歌います、私のトップナンバー!
心地よい音楽と歌声が、魂を通じて伝わってくる。これが、エリザの歌のようだ。何が彼女の事を本気にさせたのかは知らない。だがこの歌は、俺のことを思って歌われている。勘違いだとしても、それがとても心地がいい。
デオンの絶技に対応してくる静かな剣客。デオンの剣を見ても心が乱れないのか、それとも見惚れているからこそなのかはわからないが、MAGが乱れない。強い。
あの斬殺空間に介入するには、俺の小細工では奥の手しかないようだ。
『オセ、不意打ちできるか?』
『悔しいが、無理だ。技の繋がりが鮮やか過ぎて、二人の剣が止まらない』
『じゃあ、やるぞ』
『了解だ、サマナー』
構成要素、抽出、装填。
ラインを通してデオンを捕捉。
『タイミングは任せる』
30秒ほど無呼吸で続けられる剣戟。デオンの剛力に耐え続けた剣客の剣が少しだけ流れた。
それだけあれば、工程は完了する。
『...今!』
「
オセの構成要素を捕捉しているデオンに向けてインストールする。
もはや慣れてきたいつもの奥義、D・インストールだ。
オセはチャージ以外にこれといった特殊スキルは持ち合わせてはいないが、単純にミドルクラス相当の力の塊としてはかなり有用なのだ。
デオンの絶技のテンポを、一拍の半分程度速くするブースターとして。
そのズレた半分で剣客はデオンの絶技に追いつけなくなり、肩口から大きく切り裂かれた。
「
「ああ、仲魔の絆とサマナーの叡智さ」
心で聞こえていた心地いい音楽が消える。エリザは、歌いきったようだ。使い手がいなくなったことで遮音結界が解けたのか、鳴り止まぬ大拍手の音が聞こえてきた。やったな、エリザ。
『スタンディングオベーション!子ダヌキ、私やったわ!』
『おめでとう、エリザ』
『...子ダヌキが私のライブを守ってくれたこと、心で伝わってきた。だから私、あなたの為に歌えたの。ありがとう』
『お前の力で、お前の歌声が掴んだ結果だよ。さ、ライブバトルの結果は甘んじて受け入れろ。オーナー命令な』
そうして、ライブバトルを巡っての一連の事件は終わりを告げた。
エリザはあいにくと、僅差でライブバトルは負けてしまったようだ。だが、悔いはないのだそうだ。いつかの私が、それを超えるだろうと確信していると彼女は言った。流石、蘇ってきた英雄は一味違う。
「マネージャー、子ダヌキ、本当にありがとう。なんか、とっても楽しかったわ!」
「そりゃ良かった。じゃあ、もういいな」
「ええ、やって頂戴。あるべき者はあるべき所へ。それが道理だってのはわかってるから」
「行くぞ」
契約のラインを通じて、これまでのアウタースピリッツの消滅反応とアウタースピリッツシュバリエ・デオンの解析結果から作り出した術式を起動させる。
その名も『退去』の術式。痛みなく、英雄の構成を解く術式だ。
幸いにもその効果は淀みなく発揮され、エリザの身体は光の粒子に解けていった。
「でも、このまま消えるってのも味気ないわね...そうだ!一曲歌いましょう!この光の感じってなんか演出っぽいし!」
「そうだな、よく分からんがなんか上手くなってた歌、聞かせてくれや」
「うん、私も聞きたいよ。君の歌が」
「任せて!」
と、意気込んで歌ったその歌は、いつも通りの音痴っぷりだった。なんだか逆に笑えてきた。
そんな音痴な歌声をBGMにしながら、エリザは消えていった。
「ふむ、間に合わなかったか」
「後藤さん」
「全く、弁明の機会のないまま逝かれてしまったではないか。もう少しくらい引き止めてくれたまえよ」
「いや、知りませんよそんな事。...んで、エリザに何吹き込んだんですか?」
「なに、心の枷を外す魔法の言葉だよ。身に覚えがあるのだが、ああいうタイプは自分の為にでは力を十全に発揮できんのだ。だから、言い訳を与えてやったまでのことだよ」
たったそれだけのことでエリザの歌を覚醒させるとか、本当にプロデューサーとしての力量もありそうだ。面白い人だなと何となく思う。
「さて、私の誕生会の席を守ってくれた礼だ、なんでも言ってみるといい。可能な限り、考慮しよう」
「じゃあ、ちっちゃい貸しって事で」
「貸し?」
「今は何かしてほしい事とかは思いつかないので、その内返してもらいます」
「...わかった、後藤大地の名においてその契約を守ると誓おう」
「そんな大袈裟なことは頼むつもりないですよ」
なんだか重い契約を結んでしまったのを気にしないようにしながら、女中さんの案内の元邸宅を脱出する。脱出方法はMAGの込められた札を身につけることによる方式だった。案の定札は使い捨て。奇妙だが、良く練られているセキュリティだ。
そしてのんびりと家路につく。そういえば年少組をコンサート会場にほっぽり出してしまったのだし、なにか賄賂でも送ろうと途中でいつものケーキ屋に寄ることを決めながら。
ライブパートと並行しての戦闘!ってのやりたかったんですが、やっぱ歌詞はダメってのは結構な縛りですねー。もっといっぱい交互にクロスさせる妄想していましたが、読みやすく纏めるにはこんなもんでしょう、多分。
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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