まぁ、鷹の間では使わざるを得ませんでしたが!何あの超難易度。5回くらいトライして、諦めて令呪一角切りましたよ
「サマナー、随分とご機嫌だね」
「ああ、今日は!ついに!ヤタガラスから経費が振り込まれるんだ!これを喜ばざるは人じゃねぇ!」
「千尋くん、ここ最近でものすっごくお金使ってたからねー」
「ええ、デブリーフィングしている片隅に常に預金残高が消えていく感覚を当分は味合わなくて良いと思うと心が安らぐってもんですよ」
「サマナー、そんな事考えていたのかい?」
「ああ。ミズキさんにお礼のメールを送るべきだろうか」
「いや、経費が出るって普通のことなんじゃないか?俺もあんま人生経験はないけどさ」
「ですね、仲魔の維持に使う分は事務所から貰えます...し...」
言う途中で気付く縁。そうだろうさ、下の連中は楽なのだよ下の連中は!俺も下のはずなのに!
「...経理も俺がやってんだよなー、どっかの最年長がどんぶり勘定なせいで」
「いやー、千尋くんには助けられてるよ、本当」
「千尋さんってまだ高2だろ?なんで事務所の事務全部背負ってるんだよ」
「そうしないと干上がって死ぬからだよ、俺が」
事務所の内情を知るのがあと2日ほど遅かったら、俺は骸を晒していただろう。サマナーは金がかかるのだ。魔術師系なら特に。
「...俺も手伝った方がいいのか?」
「いや、大丈夫。小さい所帯だから人手も足りてるしな」
これがバスターサマナーを10数人抱え込む大規模な民警ならば話は別なのだろうが、こんな小さな事務所の経理など俺一人で十分なのだ。
「てか志貴くん経理とかできんの?」
「...教えてもらえれば、なんとか」
「言質取ったぞ、所帯増えたら覚悟しろよ?」
「藪蛇ったか?」
「大丈夫ですよ志貴くん。所長がトップにいる限りここが大所帯になることはありませんから」
「...縁ちゃんも言うようになったねぇ」
「そこは否定をしてくれ最年長、頼むから」
などとぐたりつつスマホで電子通帳をちょくちょくと確認していると、メッセージアプリの通知音が鳴った。
見ると、同じ高校に通うデビルシフター、ハリマからだった。
位置情報のみの書かれたメッセージ。緊急事態ということだろう。
「ちょっと人助けに行ってきます。デオン、車頼むわ」
「どこまでだい?」
「この位置だと、メシア教会が近いな。なんつー危険地帯に...」
デビルシフターとか問答無用で異端認定なのに、どうしてメシアンの懐に飛び込んでしまったのやら。
まぁ、本人に聞けば良いだろう。
「行くぞ」
「ああ」
ひとまずは、友人の救出が先決なのだから。
ヤタガラス公認のライセンスがあるとはいえ、メシアンのテリトリーに入るのは割と危険だ。なにせ、テンプルナイトがいる。
連中は、思想が凝り固まってるのに思考は柔軟なのだ。悪魔を殺すために何でも使うあたりガチで。
「サマナー、この辺りでいいかい?」
「ああ、行こう」
この辺りの路地裏は比較的
なので、野良悪魔が湧いてくることがそこそこある。それに対しての警邏も行なっているから助けられた人は多く、メシアンの信者は増えていくのだとか。マッチポンプだなー。
そんな風土から出現した野良悪魔をデオンがずんばらりんと切り裂いて前に進む。こういう時にデオンの強さは本当に頼りになる。何せ、大技を使う時以外消費MAGがほぼゼロなのだから。
そんな風に思考が逸れていると、スマートウォッチに常駐させていたパッシブソナーに引っかかった。ハリマのMAGパターンだ。
どうやらゴミストッカーの中に隠れていたようだ。
「おいーっす。今日はどうした?」
「...花咲か」
「見たところMAG欠乏症の症状が出てるな。手を出せ、MAGを流し込む」
「感謝する。が、荒っぽく頼む」
「今俺は、お前を食いたくて仕方がないッ!」
「あいにく、こんな弱ってる奴にサマナーを喰われるほど柔な鍛え方はしてねぇよ、デオンはな」
「そこで私頼りかい、サマナー」
食人衝動まで出ているという事はかなりの末期症状だ。確かに荒っぽくした方が良さそうだ、主に俺の命のために。
「とりま1000MAGだ。痛いだろうが、死なないように」
「ゥ...MAGゥ!...ッ⁉︎」
スマートウォッチから取り出したMAGに飛びつこうとしたハリマをデオンが殺気のみで押しとどめる。ナイスアシストだ。
「
霊核に近い胸に、MAGを調律して叩きつける。荒っぽいやり方なので痛いだろうが、向こうのオーダーだ。気にしない気にしない。
「...助かった、感謝する」
「気にすんな。まぁMAGの金は払ってもらうけどさ」
とりあえず逃げている様子なので、偽装用のマントを被せておく。
認識阻害の機能とMAG漏れを防ぐように作ったこれは、かつて多用したスーパー潜伏ツールなのだ。
「...お前は本当に何でも持っているな」
「スタイル確立するまで迷走してたからな。結局後衛の魔術師サマナー型に落ち着いたけど」
ハリマを連れて車に乗る。これでこの近辺を抜けることができれば安心だろう。
メシアンはヤタガラスとは違い検問とかを敷く権限を持っていないのだから。
「んで、何でメシアンのお膝元で死にかけてたんだ?」
「話すと...短いな。話そう」
「短いのかオイ」
「ファントム絡みの依頼であの近辺にいた。その時に、悪魔を励起させる奇妙な歌を聞いたんだ」
「...それを聞いたのはお前一人か?」
「いや、周囲に同じ仕事を請け負った連中がいた。が、連中は
志貴くんからの報告にあった、人を悪魔にする歌?決めつけるのは早いか。
「それで、そこからはどうなった?」
「待ち構えていたかのようにテンプルナイトが現れてな、悪魔になった連中は挑みかかったが殺された。俺は戦う前に逃げ出したから生きている」
「メシアンと悪魔にする歌か」
「ああ、何かの実験と見るのが自然だろう。ヤタガラスに連絡を入れたい。頼めるか?」
「もう報告書作ってるよ」
「それで、お前を呼び出した依頼ってのは何だったんだ?」
「単純な異界探索の依頼だ。同時に受けたのはサマナー一人、ペルソナ使い一人、念動系の異能者一人だ。共通項はない」
「いや、ばらけてることが重要なのかもな、歌の効果を確かめるために、とかの理由で」
報告書に追加で記載する。突貫で作ったので荒はありそうだが緊急性のある報告だ、このまま送信する。
「オーケー、とりあえずヤタガラスに報告はした。ハリマ、お前はどうする?」
「家の近辺を回ってくれ、監視の目があるかを調べたい」
「どっち方面だい?」
「深山町の4丁目、マモーマートの裏手だ」
「了解だ」
そうしてくるりとマモーマートあたりを一周する。覚醒者と思わしき気配は何人か見かけてしまった。
アナライズまでされたかはわからないが、不用意に家に戻るというのもアレだろう。
「ハリマってセーフハウスとか持ってたっけ?」
「...そんな金はない」
「世知辛いね」
「仕方ない、一旦ウチの事務所に連れ込むぞ。歌について聞きたいだろう子がいるんだよ、ウチの新入りに」
そんなわけで、一時的にウチでハリマを預かる事となった。
「ただいまー」
「今帰ったよ」
「...お邪魔する」
「おや、おやおや!ハリマくんじゃないか!ついにウチに来るつもりになったのかい⁉︎」
「所長、ウザいです」
「辛辣ッ⁉︎」
いきなりのダル絡みを制した所で、志貴くんがナイフを取るのが見えた。宝石のような青い瞳で、ハリマを睨んでいる。
「...やばいな、所長じゃ抑えられてたから大丈夫かと思っだが、こんな特上だとッ!」
「志貴くん、落ち着いて。眼鏡つけるんだ」
「...ああ、収まった」
「恐ろしい殺気だったな、これが新人か?」
「ああ、七夜志貴、退魔一族出身の
「よろしく頼む、俺はハリマ。
「嘘つけ、ほとんど悪魔だろ」
「ああ、だが心は人であるつもりだ」
ハリマは肉体改造型のデビルシフター。人である部分など心しかない。人間の体へだって、悪魔の力で変身している結果に過ぎないのだ。
だが、心が人なら自分は人であると定義できる強い男だ。そこは本当に凄いと思う。俺は想像でしか語ることはできないが。
「まいった、殺す気が失せた」
「そちらも難儀な体質のようだな、同情は必要か?」
「いや良い。戦う時は便利だからな」
「なるほど」
何だかんだと仲良くなったようで何よりだ。
「千尋さん、あらかじめ志貴くんに眼鏡つけさせておけば良かったんじゃないですか?」
「...ハリマの体のこと頭から抜けてた。言う通り、俺のミスだよ」
「だってさ、嬉しいねハリマくん」
「ああ、花咲はこう言う奴だ。そこが少し不安ではあるのだがな」
そこ、人の事で勝手に盛り上がるな。
「人を悪魔にする歌、か...」
「志貴には覚えがあると聞いた。本当か?」
「...ああ、爺さん達が悪魔になった時、女の歌が聞こえた」
「こちらも女の歌がきっかけだ。旋律は覚えていないが、浮かんだ言葉なら言える」
「浮かんだ言葉?」
Om・Mani・Padme・Hum
そんな言葉が浮かんだのだと、ハリマは言った。
「...俺の時とは違うな、俺の時はそんな言葉なんて思い浮かばなかった」
「とすれば、似ている別の手口か?」
「いや、そうとは限らん。自我境界の消失による悪魔化現象ってのは知ってるか?」
「あー、また千尋さんが難しいこと言い出した」
「...歌によって自我境界が消されたという事か?」
「理解した⁉︎ハリマさんって頭いい方の人だったんですか⁉︎」
「失礼すぎないかお前」
「じゃあ、どうして俺やハリマさんは無事だったんだ?」
「ハリマが無事な理由は、多分デビルシフターだから。自分の体を作り変えるシフターは自我境界は強固なんだよ、多分」
「多分か、適当なのだな」
「わかんねえんだから仕方ないだろ。ただ、志貴くんについては
「それも多分なのか?」
「いや、こっちは理由はあるぞ。悪魔化現象ってのはそこそこ研究されているんだが、今のところマグネタイトの過剰供給によるスライム化以外で種付きが悪魔化した例ってのはないんだ。自我境界の話はその悪魔化実験のメジャーな例な訳よ。実際にその手法なのかはわからんぞ?未知の敵なんだから」
実際問題、悪魔化の歌の観測データでもあれば別なのだが何故か俺達全員のCOMPにそのデータはなかったのだ。しかも、俺達は志貴くんとハリマ以外歌を聴いていない。指向性が高いのか、あるいは別の階層から音のようなものを届けているのか、謎は深まるばかり。ふざけるなという話である。
「とりあえず、自我境界を攻撃していると仮定するぞ。それ以外には思いつかないからな」
「とすると、攻撃者。歌の主の話か」
「殺さなきゃならない奴だ、俺が必ず」
「ならば俺が手を貸すとしよう。友人一人を決死の戦いに向かわせるほど腐ってはいない」
「...友人?」
「よく言うだろう?友人の友人は友人だと」
「すげーだろコイツ、これ素なんだぜ」
「...変な人のそばには、変な人が集まるんだな」
「オイ誰を見ていった」
誠に遺憾である。俺は比較的普通だと思うのだが、皆はうんうんと頷きやがった。おのれ。
「話を戻そう、歌女の特徴は2つ、悪魔化の歌を歌う事、目に見えないところから選択して歌を届けることができるという事だ」
「選択して?」
「志貴くんの時の話だよ。俺達側は近くで戦っていたのに歌を聴くことができなかった。戦闘中だとしてもCOMPにログくらいには残ってるはずなのにだ」
「奇妙だが、理解はした。魔法がまかり通る世界だ、そんな異能もあるのだろう」
「ハリマさんって頭柔らかいですねー」
「いや、普通じゃないか?神野さんがこっちに染まりきってないだけだろ」
「後輩に言われた⁉︎」
「いや、戦闘経験だと大先輩だから。敬え敬え」
「そういえばそうでしたねー、志貴くん事務所にいるときは落ち着いてるだけの普通の子なので忘れてました」
まずい、雰囲気がぐだぐだし始めた。重要な作戦会議だというのに何をしているだか。
「とりあえず情報は出した感じだが、なにか疑問点とかあるか?」
「質問です!」
「はい、縁さん」
「歌女さんはなにが目的なんですか?」
「それがわかったら苦労はしない。が、推測はできる。多分だが歌のテストをしたんだと思うぜ?歌を聴いても悪魔にならなかった志貴くんという前例がいたから、自分の力の実験をしたいと思ったんだろ。そういう意味じゃあ、金さえ払えば依頼の通るファントム経由でってのは理に適ってる」
「質問だ。歌女とメシアンとの繋がりは?」
「現状不明。だがテンプルナイトに偽の命令を送れるほどの立場の人が悪魔に与してるとは思えん。メシアンの知り合いに指令内容の確認を取ってもらうよ。それが藪なら、メシアンの自浄作用で勝手に消えるさ」
「じゃ、事情聴取兼作戦会議は終了な。ミズキさんにちゃんとした報告してくるわ」
事務所から出て電話をミズキさんに電話をかける。ヤタガラスとして自分たちを監督しているという訳ではないのだが、ヤタガラスで縁が一番深いのはミズキさんだ。話は通しておくべきだろう。
ミズキさんの方からも何か情報が得られるかもしれないのだし。
「もしもし、花咲さんですか?」
「ミズキさん、どうもです。ちょっと厄介な事に友人が巻き込まれたので、報告がてら連絡させてもらいました。今大丈夫ですか?」
「...すいません、今少し立て込んでいますので、報告は書面でお願いします」
「何か問題でも?」
「ええ、人食いのシフターが街に放たれたとメシアから情報が入りまして。現在警戒レベルを引き上げているんです。逃せばこちらの想定を超える力を手に入れてしまうかも知れませんから」
「...そいつの名前は?」
「メシアンからの情報によると、幻魔クルースニクのデビルシフター、ハリマというらしいです」
「...そう来たか」
どうにも、逃げているうちに先に手を打たれてしまったようだ。ヤタガラスがハリマを悪だと断じてしまえば在野のサマナーバスターがこぞってハリマを殺しに来る。シフターとわかっていれば話し合いなどしないのだから、情報の隠匿も完璧だ。
歌女に有利に動いているこの盤面、ひっくり返さねば。
友人の命がかかっている。
「花咲さん?」
「それ、情報が錯綜している可能性が高いです。ハリマは自分と同じ高校に通う友人です。その人となりはメシアンよりは知ってます。ハリマは、人食わずの
「それが、信じるに足る理由ですか?」
「感情的に考えると、友人を信じる方に傾くタチなんです。それで、メシアンはどこからハリマの名前を出したんですか?アナライズからなら欺瞞情報を流された可能性があります。容量大きいですが、名前を隠すインストールソフトの存在は確認しています。その技術の発展として、名前を偽るものができていたとしてもおかしくありません」
「あいにくと、情報が出たのはファントム系列の依頼書からです。信憑性は高いですよ」
となると、依頼主がグルか。
「じゃあ、被害者は?誰が食われたんですか?」
「依頼主。食い残しの歯型が依頼書の登録MAGと一致したの」
「こっちで以前登録したMAGデータをそっちに送ります。照合お願いできますか?多分登録MAGデータが書き換えられてます」
「そこまでの権限は私にはないわ。私はあくまでトルーパーズの臨時隊長でしかないから」
「だから、掛け合ってみるだけよ?期待しないで」
「ミズキさんのそういう所、かなり好きですよ」
「大人をからかわないの」
できる上司を得ると、部下は楽でいい。
...できない上司が実際の上なのは考えないでいよう、うん。
「しっかし、ハリマがお尋ね者になるとはなー。お前の運の悪さにはちょっと同情するぞ」
「?俺の運は良い方だろう」
「そりゃまたどうして?」
「友人に恵まれている」
「そりゃ、ありがたい評価をどーも」
ここ事務所ビル地下のセーフルーム。シェルターのようなものだ。
ここなら、依頼客に偶然見つかるなんて事は万に一つもないだろう。
『んじゃ、連絡は密に取り合うぞ。お前の視点の情報が多分一番真実に近い』
『ああ、しかし便利だな。ラインを繋ぐというのは』
『これ、極論言えば奴隷を作るための術式だぜ?奴隷の首輪自慢がしたいんじゃないならそういう事は口外しない方がいい』
『そんなものなのか』
『位置も言葉も命さえも握られる。そういう状況は奴隷のものだろ?まぁ、俺はそういうのは感じさせないで自主的に従うように仕向けるが』
『相変わらず、悪魔のような事を言う』
『そりゃ、サマナーだからな』
嗜好品の類と満タンのMAGアブゾーバーを確認してから部屋を離れる。これなら暇をする事はないだろう。
「気をつけろよ、花咲」
「まぁ、普段通りに行けば大丈夫だろ」
そんな会話を最後に、セーフルームから出る。入り口は所長の私室からの隠し階段のみであるため、見つかることはそうそう無いだろう。
あるとすれば内通者だが、それはありえない。皆、ハリマが人食いではないとわかっているからだ。
「さて、どっから手をつけるかね」
とりあえず確認するのは、格安スマホに入れている暗号念話アプリだ。歌女について知っているかもしれない人物との連絡はこれですると取り決めたのだ。なんでも、彼女の仲間の中島という人物が片手間に作ったものらしい。軽く中身のコードを確認したが、機械的にも魔導的にも非の打ち所がないプログラムだった。天才の所業だな。
『もしもし、繋がってる?』
『ああ、久しぶりか?サーバ』
『ええ...ってほど時間経ってないじゃない』
『あー、ちょっと時間の流れの速いとこにいたから、その時差ボケだ。許せ』
『別に気にしてないわよ。それで、アリスへの連絡よね?』
『ああ、中継頼む』
『いいんだけど、会話内容私に丸聞こえなのよね』
『仕方ないだろ、お前がパイプ役なんだから』
『ディムナと愛し合ってる時に声が響くと、萎えるのよ』
『それはすまん。んで、今は大丈夫なのか?』
『ええ、でもディムナ達はこの拠点に侵入者が居ないか確認してるわ』
『駄目じゃねぇか』
『情報は私に回されてるから平気よ。じゃあ読み上げるわよ』
『仮称ディーヴァ。堕天使の世界侵攻の際に現れている敵。アリスも何度も歌を聞いているけど姿を捉えたことは無いんだって。霊体の可能性アリってメモに書いてあるわ』
『成る程、そっちでもそんなにわかってないのか』
『ただ、発現の予兆はこっちで感知できるらしいわ。詳細は聞かされてないけど、英雄の発現先に向かえるのも同じ理屈なんだって』
『そこ知りたいところなんだけどなー』
『私も教えられてないんだって』
『じゃあ質問。ディーヴァは堕天使の軍勢か?』
『推定YES、堕天使の有利な状況になるようなタイミングで歌が流れてるらしいわ』
『悪魔化した人は、どうなる?』
『殺すしかないわ。高い知能を持った悪魔の存在がどう転ぶかはわかるでしょう?』
『やりきれないな...悪魔化の原因は?歌の力ってだけじゃないんだろ?』
『解析不能。耳には聞こえてもCOMPには聞こえない、そんな性質を持ってるみたいね』
『目新しい情報はなしか...ありがとう、とりあえずこっちは足使って探してみる』
『気をつけなさいよ、あなたが死んだら私アリスの小間使いにされそうなんだから』
『就職先があるだけありがたいと思えよ、弱小悪魔』
『ぐぬぬ』
サーバとの暗号念話を切る。ちょうどいいことにミズキさんからの連絡が入った。これだけ早かったという事は、恐らく失敗だろう。
「ハリマの登録MAG情報ありがとうございました。花咲さん」
「駄目でしたか...」
「いえ、メシアンにも違和感を覚えていた人が居たらしくすんなりと通りました。照合結果は、エラー。歯型とハリマは全くの別人です」
「...とすると、やはり口封じの線が強いですね。ハリマは現状2人しかいない悪魔化の歌を聞いた人物ですから」
「もう一人の、七夜くんでしたか?彼の安否は?」
「ウチの事務所に居ます。セキュリティに引っかかったのは居ないので、とりあえず安心かと」
「わかりました。それで、念のための確認なんですが...花咲さんはこれから動きませんよね?」
「いや、動きますよ。何言ってんですか」
ボソリと「仕事がまた増えるッ!」と愚痴ったのが聞こえてしまった。すみません。
「デリケートな問題に発展しそうなので、ヤタガラスのIDは極力出さないでください。それが条件です」
「了解です」
さて、まずは現場百回だ。
荒れ放題な所長の私室を通り抜け、事務所へと戻る。
「デオン、行くぞ」
「了解だ、サマナー」
「私達はどうします?」
「んー、とりあえずハリマの家張ってる奴から話を聞いてみたい。ファントムのIDはハリマから借りたから、戦闘になる事は無いはずだ。ただ一枚しかないから行けるのは俺とデオンだけだな」
「そうですか...」
「ただまぁ、何が起こるかはわからないから準戦闘待機くらいにはしておいてくれ」
「はい!」
「私はハリマくんの護衛?」
「お願いします、所長。ただ、戦闘になったら呼ぶんで、その時はハリマも連れてきて下さい」
「いいのかい?」
「あいつは守られるだけの雑魚じゃありません。ケツを拭く力くらいはありますよ」
「そうだね。ハリマくんを連れて行けば目が取られて殺しやすくなる。いい事だよ」
「..いや、情報源を潰さないでくださいよ」
「だって殺し合いしてる中で手加減とか、失礼じゃない?」
「時と場合によると思いますよ、マジに」
キルゼムオールじゃ成り立たないこともあるのだ。まぁ、大体において正解であるのがこの業界の悲しい事だが。
「じゃあ、社用車は黒い方使いますね」
「どうして変えるの?」
「さっき回った時のナンバー覚えられてたら面倒ですから、念のためです」
「千尋くん、細かいねぇ」
「じゃないと死ぬじゃないですか」
武力に秀でていないのだから、頭を使わねばならないのだ。悲しいね。
ハリマの家の周囲には、先ほどよりも使い手が増えていた。早速情報収集といこう。
「どーも、どうですか?」
「お前は?」
「同業ですよ。人食わずが人を食ったって聞いて面白そうだなと」
「若いのは楽そうでいいねぇ。そっちのは...造魔って奴か?」
「ああ、名をデオンと言う」
「良い名前だな、大事にしろよ?まぁ、大事にしすぎて呪われるなんてのがこの業界だがな!」
「それもそうだ。それで人食わずはどうですか?籠城中です?」
「さぁな、張ってはいるが空振り臭い。式神を飛ばしているが反応がない、シフターの感知力なら逃げるなりをしてるはずなのにな」
「成る程、ありがとうございます。じゃあ他の人も似たり寄ったりな情報しか持ってなさそうですね」
「そりゃそうだ。俺たちはおこぼれ狙いでしかないからな」
「とすると、人食わず討伐の本隊はもう結成されているんですか?」
「ああ、知り合いの話だが暗殺チームがもう結成されているらしい。本部お抱えの連中だよ」
「うわ、大人げねぇ。たかがシフター1匹にそこまで動きますか」
ナイス情報だ。絡んでいるのはファントムソサエティの本部クラス。堕天使勢力との繋がりはファントムにあるのか?断定はできないが、想定はしておこう。
いや、シェムハザと堕天使の軍勢のコンボとか悪魔すぎるわ。
「動いてる大将の情報は流れているか?」
「いや、流石にそこが流れるのはねぇよ」
「あー、売り込みしたかったのに」
「残念だったな坊主」
「んじゃ、情報料です。魔石を5点セットで」
「地味にありがたいな。お前はこれからどうする?」
「別口で、人食わずが最後に依頼を受けた異界の情報を知れたんでその辺当たってみます。案外まだその周辺に隠れてるって事もありそうですし」
「お、良い情報だな。幾らで売る?」
「眉唾なんで、売れるとは思いませんよ。メシアの地元近くですよ?合ってたら合ってたで問題です」
「...うん、無駄足にならないように祈ってるぜ」
「ありがとうございます、けどやっぱそう思いますよねー」
車に乗ってその場を離れる。次の目的地は異界の方だ。
「サマナー、ああいった情報交換はよくあるのかい?」
「そりゃな。メシアとガイアでもなきゃ、お互い死ぬことなんざ望んでないんだ。情報を話す口は軽くなるんだよ」
「成る程、ファントムソサエティとやらはヤタガラスと敵対はしていないんだね」
「ああ、ファントムは人道的や法律的にアウトな事をやらかしてはいるが、一般構成員はただの雇われだからな。上層部が政治的に殴り合ってるが、下っ端はそんな仲悪くはないんだよ。依頼で敵対していなきゃだけど」
「だから先ほどの男は君のIDを確認しなかったのか」
「だろうな、7:3でフリーだと気付かれたと見てるよ。それで言及してなかったって事は、多分向こうも思う所はあるんだろ。サマナーネットにハリマの住所がばらまかれる前に家を知ってたって事は、それなりの知古なんだろうしさ」
あるいは、暗殺を狙うまでの間柄である可能性か。...ハリマが狙われる理由が思いつかない。この線は捨て置いた方がいいな。
「サマナー、前を見てくれ」
「...結界だな、効果は道を惑わすもの。弾けるか?」
「ああ、問題はない。だが車で行くのは危険そうだね」
「そうだな、下にグレネード投げ込まれたら社用車が壊れる。こっちは適当にしか作ってないから頑丈じゃあないんだよ」
「その心は?」
「予算の都合だよ」
路地裏に入ってから外に降りて、車をストレージにしまう。
ここから先は歩きだ。不意打ち警戒にオセあたりを出しておくか迷うが、メシアンを下手に刺激したくはない。バルドルと同様に召喚待機状態に置いておくだけに留めていよう。
「封鎖はされていないね」
「メシアンは国家権力へのアクセスが遅いからな。まぁそれも今の内だけ、ささっと入っちまおう」
封鎖はなくても監視くらいはあると警戒していたが、それもない。不気味だ。
そして、何よりも不気味なのは、残っている事だ。
異界への入り口が。
「テンプルナイトが放置した?何のために?」
「サマナー、周囲に人影はない。監視はされていないよ。...入るのかい?」
「...皆を呼ぶ。異界の入り口が放置されてる理由がわからない以上、最大戦力で行くのが定石だ」
「わかった、周囲の警戒は?」
「この路地に入る道は3本、だが上空からなら同時に見張れる。サモン、カラドリウス」
「了解さ!」
「なるほど、カラドリウスを合体の素材にしないのはその為か」
「コスト小さい索敵要員だ。手放すには惜しいってことさ」
その後、30分この周辺を見張ったが侵入者は無し、カラドリウスの監視網に他のメシアンが来る事はなかった。おかしい、メシアンなりの増援が来る事が普通のはずなのにだ。
「花咲、来たぞ」
「言われた通り全員でね。それだけの異界かい?」
「ええ、ほぼ間違いなく内部からは出れないタイプ、連絡も取れないんでしょう。情報はありません。コボルトを中に入れてみましたけど念話すら通じませんでした」
「想定したシナリオはこう。内部に精鋭部隊が入ったが定時連絡がなかった為に救出の為に突入して二次遭難。ただその時になんらかの原因があって増援部隊が送られてきていない。そんな感じかと」
「何らかの理由とは?」
「デビルシフターの捜索とかじゃないか?」
「成る程、道理だ」
「こういう時、千尋さんが居ると早いですね」
「というか、理論立てて説明してくれるのがありがたい。俺の時は大体行き当たりばったりだったからな」
所長を先頭にして異界に侵入する。内部の様子をハンドサインで送ってこないという事は、入り口が長いのか。
「...次からはペアで行くぞ。俺と縁、ハリマと志貴くんは手を繋いで同時に入る。内部構造は思ったよりも複雑かもしれない、気を抜くなよ」
「「「了解」」」
そうして異界に侵入する。俺はデオンを含めて手を繋いで行くので両手が塞がるのが少し怖いが、縁とデオンの防御力なら大事にはならないだろう。
そうして異界の中に侵入すると、そこには灰色の壁の迷宮があった。
「...所長がいない。別の場所に飛ばされたか」
「とすると、志貴くん達も⁉︎」
「まぁあの二人は大丈夫だろ。どっちも歴戦だ。志貴くんの退魔衝動も、コントロールできないわけじゃないしな」
ものは試しに念話を試してみる。所長とのラインとハリマとのラインはまだ繋がっている。連絡は可能か?
『所長、ハリマ、繋がってるか?』
『繋がってるよ千尋くん』
『花咲、こちらも通信は良好だ』
『了解、合流を目指そう。COMPのマッピングに霊子リンクを付ける。これでお互いの相対位置と向きくらいはわかるはずだ。だが、くれぐれも慎重にな』
壁の材質を確認する。石だが、高度のMAG密度を誇っている。これを砕くのは現実的ではないだろう。順繰りと迷宮を進んで行くしかないようだ。
すると、ガーガーと懐にしまっていた魔力探知機が反応する。この石の壁は魔力でできているようだ。異界の主がアウタースピリッツなのか?
今いるのは十字路。四路五動の状況だ。止まって2組の動きから迷宮の構造を逆算するというのも不可能ではないからだ。まぁ、欲しい6つ目の異界から出るというのは封じられているのだが。
「縁、なんか天啓とか受けてないか?どっちに進むべきかって」
「...勘ですけど、右に。邪悪なものの気配がします」
「マップ的にも、そっちが合流に近そうだな。うし、行こう」
虎穴に入らずんば虎子を得ず。行くとしよう。
「千尋さんからの通信はできたのか?」
「ああ、この迷宮を巡って合流を目指すのが基本方針のようだ」
「...それ、最短路でいけるかもしれない」
「何をする気だ?」
「殺すのさ、この迷宮を」
迷宮の壁は高密度の情報で守られている。だが、そこに終わりがなくなったというわけではない。
故に志貴には見えるのだ。この壁の
「点が見えればもっと楽なんだろうが、勝手に安全装置かかってんだろうな、多分」
壁に流れる死の線をなぞるようにナイフを通す。それだけで、破壊不可能と思われていた迷宮の壁は崩れ落ちた。
「...ナイフの切れ味ではないな。弱所を見切ったのか?」
「そんなとこ。さぁ行こう、ハリマさん」
そうして通った壁の向こうには、息も絶え絶えなテンプルナイトの集団がいた。
「貴様は、ハリマ!」
テンプルナイトの集団を確認する、どうにも死にそうな隊員すらいるのに、魔導的な手当ての跡がない。
物資が切れたのかとハリマは思う。重症の者を救う為に、今何をするべきなのかを考えると、特に躊躇いを覚えることなくストレージから魔石を取り出した。
「とりあえず、魔石だ。奥の死にかけてる奴に使ってくれ」
「...は?」
「お前達が俺をどう見ているのか、デビルシフターがどういうものなのかは知っている。だが、俺は人死にが嫌いだ。人を食うのはもっと嫌いだ。だから、人食わずをやっている」
「...お前?」
「死なない程度にじっとしていろ、俺達が異界の主を討伐する」
その目から疑いの心が消えた訳ではない。だが、テンプルナイトは差し出された魔石を受け取った。それが、とりあえずの休戦の証だった。
「待て」
「何だ?」
「異界の主は移動型だ。両手に大斧を持つ巨人、或いは牛人間。教本にあったミノタウルスの亜種だろう。パワー勝負は分が悪い、気をつけろ」
それが故に、その心の内に信頼の種が芽吹くのは、必然だったのだろう。疑いの心はあれど、この人食わずは芯の強い男なのだとその背中は語っていたのだから。
「情報、感謝する」
「フン、ただの魔石の礼だ」
人食わずのハリマと志貴は、真っ直ぐに進んでいった。
今はただ、信じられる仲間と合流する為に。
迷宮の描写って難しいなー、まぁ牛君のバレンタイン礼装を参考に頑張ってみます(尚、迷うとは言ってない)
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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