ぐだぐだと書いていたら1話分まで膨らんでしまったので投稿です。
トルーパーズの本部、ヤタガラス遡月支部の第3会議室にて映像が流される。黄金の王が天に浮かぶ船から様々な武器を射出して民草を皆殺しにする様が。
こんな未来、絶対に辿り着かせてはいけない。
だが、いささか解せない点がある。
「なぁ、カオル。お前の予知ってヴィジョンまで見えるものだったのか?」
まずはコレ、映像まで見えるほどにカオルの予知は正確ではなかった。なのにこれほどまでに鮮明に情報を引き出せるのは、何か裏があるのではないかとの考えだ。
その問いへの返答は、正直予想だにしないものだった。
「あいにくと、私だけじゃないの。占いに適性を持った人間全てが見てる。ここまでくると新手の犯行予告よ」
「イメージの押し付けね」とカオルは語った。
「それで、そのアウタースピリッツの詳細は?」
「...不明です」
「アーカイブの使用許可は出なかったんですか?」
「いいえ、アーカイブの使用はもうしました。その結果不明だとわかったんです」
見えたヴィジョンの情報をアーカイブに打ち込んだ結果、絞り込めた情報は無し、エラーを吐いたのだと。
魔剣グラム、魔鎌ハルペー、巨剣イガリマ、シュルシャガナ。その他ありとあらゆる伝説の武器を射出しているその黄金の王。
騎乗しているのはインド神話の空飛ぶ船ヴィマーナと言うらしい。
「属性てんこ盛り...アウタースピリッツって合体とかできるのか?」
「...不可能です。魂のあり方が悪魔とは違いますから。最新の合体法則検索でもアウタースピリッツの作成は不可能です」
「サマナー、私に使う
「どんな凄腕の成金でも、概念装備を湯水のごとく投げ捨てるような馬鹿な真似はしないと思うぞ?いや、可能でそれしかないならやるけどさ」
「千尋さん、やるんですね」
「そりゃ死なないためなら金くらいは投げ捨てるだろ」
「話逸らさないでください、花咲さん達」
長いようで短かった映像が終わり、プロジェクターが停止する。
「それで花咲さん。アウタースピリッツ討伐のエキスパートであるあなたとして、何か気付いたことはありませんか?」
「なんか凄い異名付きましたね...アウタースピリッツは、必ずしも歴史に名を残した戦士ってわけじゃありません。偉業を残しさえすればなんでもいい、といったら変ですけどそんな感じなんでしょう。第2号のシェヘラザードが王の前で1000の物語を語ったというのが術として使えるようになったように、この王様もなにかの偉業の結果としてあらゆる宝物を湯水のように扱えるってなったのだと俺は考えます」
「その偉業とは?」
「例えば、刀鍛冶。伝説の剣を多く作った結果として、数多の製作物をストレージにしまえるようになったのだとか」
「...刀鍛冶があのド派手な鎧を着る?」
「...王様兼刀鍛冶とか?」
「適当じゃないか、サマナー」
「だが、方向性は間違ってないと思うぞ。盗賊から王様になったとか、財宝を集める武器狩りみたいなのを行ったから奪った武器が使えるとかな」
「...ひとまず、その線で再びアーカイブに検索をかけてみます。情報が多いのでレッドラインを超えてしまわないか不安ですが、令和の前の大事。多少の無茶は押し倒しましょう」
「...ミズキさん。私またあの変なのに接続するんですか?」
「情報に見合った報酬はお支払いします。お嫌ですか?」
「...なんなりと、必ずあの金ピカの正体を見つけて見せましょう」
あ、心の天秤が金に傾いた。カオルの奴アーカイブ使うのは嫌なのな。
まぁ、変われるポジションでなし。頼むとしよう。
「では、トルーパーズは各自自由行動。黄金の男の前に現れるアウタースピリッツの存在とて無視はできません。各自要件を済ませてから、散って備えてください」
「了解」と声が揃う。別に軍属というわけではないのに全員ピタリと揃うのは、それだけ目的意識が共有されているからだろう。
世界を守る。その為に俺たちは戦っているのだから。
「あ、ミズキさん。志貴くんの紹介とアーカイブの使用許可が欲しかったんですけど、今は無理目ですか?」
「七夜志貴くんについてはまだ内偵を終えていないので、花咲さん付きの仮採用という扱いにさせてください。今は組織づくりに割いている時間はありませんから」
「了解です。アーカイブの方は?」
「...残念ながら、私たちが暫くの間使わなくてはならないので花咲さんのリスト作成も後回しにさせて下さい」
「そっちも了解です。頑張って下さいね」
残念ながら、アウタースピリッツ図鑑を埋めるのはまたの機会になりそうだ。
「リストって何か作ってたんですか?千尋さん」
「いや、単なる趣味」
始めた頃は傾向でも分かればと思って作り始めたリストだが、連中共通項がなさ過ぎてどうにもならなかったのだ。
まぁ、アウタースピリッツが、異世界の英雄がこの世界にいたのだという記録を残しておきたいという気持ちはあるので、やはり趣味というのが正しいだろう。うん。
「それで花咲さん。私たちの行動方針はどうしますか?ただ散るだけでは有効とは思えません」
「ああ。大事だし人数を分けて簡単な警邏をしようと思う。割り振りは俺、志貴くん、風魔の3人を分けてあとは適当に。まぁ、アウタースピリッツと遭遇する可能性は相当に低いから、本当にただの警邏で終わりそうだがな」
「じゃあ、私は志貴くんと行こうかな。事務所の新人だし」
「いや、構わないですけど、大丈夫なんですか?」
「知らん、神に祈れ」
「...祈る神とかいるのか?」
それこそ知らん。が、所長としても志貴くんをしっかりと見定めておきたいのだろう。あの人は、力の意味を分かっている人だから。
志貴くんは善良な子であるため、心配ないとは思うのだが。
「私は風魔さんと行きたいです!新しい仲間なんですから!」
「ありがとう。...えっと」
「縁です。神野縁。サマナー兼バスターをやってます」
「よろしくね、縁」
「はい!」
あっちはすんなりと決まった。スカウト系中衛とガチ近接タイプのコンビ。そうそうヤバイのでなければ瞬殺はされないだろう。
「じゃあ、俺は単独行動だな。まぁ、仲魔がいるからどうにかなるってことはないだろうが」
「では、警邏のルートですね」
「じゃあついでに雑務もこなしちゃいましょう。所長と志貴くんはCOMP買いに行ってください。ついでに消耗品の類も」
「わかった。ストーンの類も入荷ないか見ておくね」
「ありがとうございます。次に俺ですが、そろそろ悪魔合体しないと敵の強さに太刀打ちできなくなってきそうなので、馴染みの合体施設の方に行きます。西地区ですね」
「とすると私たちは南地区ですか。繁華街ですね」
「じゃあお買い物しましょうよ!風魔さんこっちに来てから日が浅いって聞きました。案内します!」
「ありがとう、縁」
とりあえずの方針は決まった。あとは大雑把な巡回ルートと定時連絡間隔を決めて、パトロールといこう。
「しかし、戦力的にはエニシたちの組が少し弱いと思うのだが、大丈夫なのかい?サマナー」
「いや、感知タイプが奇襲を防げば縁はそうそう死なないぞアイツ。戦いの経験値は濃い上に防御タイプだ。あらかたの攻撃の防ぎ方を心得ている。時間稼ぎに関しては俺たちより有用だよ」
「...とすると、一番死にやすい組は私たちというわけか」
「そゆこと。まぁ死なないように努力はするけどな」
坂を上りながら周囲を警戒。この辺りは大分前に再開発が行われたそうだが、それでも残る古い建物がいくつかある。魔術的な防護が行われていた家だ。
もともとこの街には2つの魔術師の家系が居たらしい。が、楽園戦争のゴタゴタと、政府主導の密令“魔導技術公開令”による廃統合などが進んだ結果この霊地を海馬に吸収合併された家系が牛耳る事となったらしい。
まぁ、その後海馬も程よく零落し、今ではこの遡月の街にしか血筋を残せていないらしいのだとか。諸行無常だ。
さて、この街の魔術師は元は...何という名前だったか。楽園戦争時に割と近くで戦っていたっぽい志貴くんならなにか知ってたりしないだろうか。
「サマナー、上の空だよ」
「すまん、どうでもいい事考えてた」
坂の上の屋敷に到達する。軽く回った感じでは、異常は見当たらないようだ。まぁ、異常があればドクターが俺に言うだろう。「研究の邪魔者を排除しろぉ!」みたいな感じで。
「...悪魔合体か」
「不安か?」
「というか、寂寥だね。雪女郎たちには本当に世話になったからね。別れるのは寂しいものさ」
「でも、雪女郎の霊基じゃあ
「...弱い事は、罪なのかな」
「弱い事をそのままでいいと認められないサマナーが罪人なんだよ」
坂の上の屋敷に着く。ドア横のインターホンのさらに横にあるスキャナーに手をかざすと、ガチャリと門の鍵が開く音が聞こえた。
「入るか」
「...そうだね」
二階から飛び降りてくる気配は無し。研究に没頭している時のドクターだ。
一応ノックしてからドアを開ける。すると、地下の研究施設からドカバキと音がするのが聞こえてきた。何かのトラブルだろうか。
「デオン、前頼む」
「サマナー、恨むよ?」
「...いや、俺が前行って死ぬのとか冗談にしても笑えないオチだぞ?」
「それなら、コボルトを先行させるのはどうだい?」
「こいつ、仲魔を売りやがった。でもナイスアイデアな。サモン、コボルト」
「...あっし、合体素材になれるって聞いて契約したんですが、仕事多くないですかね?」
「今日でお役御免だから安心しろ」
「それなら諦めて行くでやんすよ」
コボルトの犠牲(予定)により、安全な道を確保して進む。
地下研究室では、重機が入っていた。設備の拡張工事でもしているのだろうか。
「ドクター、来たぞー」
「フゥーッハッハッハ!よくぞ来たサマナーよ。だが少し待て、新造の装置の設置をしているのだ」
「今度は何作ったんですか?」
「ハイ・アナライズデータから逆算して悪魔を安全に召喚する装置。機械化された悪魔全書だッ!」
「マジですか⁉︎」
「...だが、ハイ・アナライズとはあの長い分析だろう?そう種類は作れないんじゃないか?」
「いや、そうでもない。悪魔を仲魔にするときに、その存在の情報はしっかりとCOMPに記録されるからな。だから、これまで仲魔にした悪魔と同種の悪魔を召喚できるって訳だ」
「もっとも、その悪魔の再構築という訳じゃない。なので記憶や経験、性格は引き継がれないのだがな。情報を基に新造するというのが正しい表現だ」
「成る程」
「あ、配線くらいは手伝いますよ」
「微力ながら、私もやらせて貰うよ」
「危険はないみたいでやんすから、あっしはこれにて」
「...そうだな、サンキューコボルト。今まで色々助かった」
「いいでやんすよ。強い悪魔になる為でやんすから」
その後10分ほどで、デオンの重機顔負けの怪力と俺とドクターの知識による作業効率化により新しいカプセルはすぐに設置できた。
改めて思うが、何でこの華奢な腕からあのパワーが出るのだろう。謎だ。
「では、合体だったな?プランはあるのか?」
「
「手持ちの悪魔を見せるがいい...フム、これは早速我が機械式悪魔全書を使う事になりそうだな」
「...とすると、マッカが吹き飛びそうですね」
「戦力と命には変えられまい。何、テスト運用がてらだ。使用料の現金は8割引きにしておいてやる」
「そこはゼロまで引き下げて下さいよ」
「何を言う、炉心稼働にかかるMAG量を考えれば必要なコストだ。譲れんさ」
「サマナー、彼2割で元が取れると言っている気がするのだが」
「俺もそう聞こえた。守銭奴の家系かなー」
とはいえ、8割減額はありがたい。今のうちに試せるだけ試してみよう。
まず、コボルト2体による合体によりアーシーズを。スプリガンとピクシーによる合体でエアロスを作り出す。
彼らは精霊と呼ばれ、合体に用いるとそれぞれの種族においてクラスの同じ悪魔に変換させる事が出来るという性質を持っている。
それに加えてここの合体システムの肝、悪魔合体に際しての生贄のMAGを追加できるというシステムを用いる事により、同種族で強力な悪魔にランクアップさせる事ができる...筈だ。
まぁ、そのあたりは合体予想と睨めっこして決めるとしよう。
「じゃあ、まずは雪女郎から」
「ええ、これでお別れですね。ですが私の魂はサマナーと共にあります。それをお忘れなきように」
「ありがとう。じゃあ、いつも通りコイツで」
「ふふっ、サマナーも好きモノですね」
この日の為に用意していた大吟醸九段仕込みにて盃を交わす。
「「別れに」」
その別れに涙はない。互いに納得して、次に進む為の別れなのだから。
アーシーズと雪女郎をそれぞれカプセルに入れ、合体を開始する。
追加MAGは5000、ミドルクラス上位からハイクラス悪魔狙いだ。
「サーキットロック!ターゲット、雪女郎、アーシーズ!...GO」
「あ、掛け声変えたんですね」
「こっちの方が格好いいからな!」
二つのカプセルの中で分解されたMAGが伝道パイプを通って混ざり合い、追加のMAGがそれを活性化させていく。
そうして、徐々に形が作られていく。どこか懐かしい、蛇の髪の女が。
「私は鬼女メドゥーサ。ゴルゴン3姉妹が末妹。...縁とは、不思議なものですね。違う私の残した願いが、私を貴方と出会わせました」
「...それは本当に、奇縁だな。改めて名乗らせて貰う。俺は花咲千尋。
「では、私の命が続く限り貴方を守ると誓いましょう。その方が面白そうですから」
「ああ、よろしく頼むよ。メドゥーサ」
「ええ、今後ともよろしくお願いします。サマナー」
アウタースピリッツであったメドゥーサとは違い、髪は蛇のものであり、下半身は蛇のものになっている。
それでも精神性が似ているというのは、きっと違う世界でも同じ思いで生きていたからだろう。
「じゃあ次だ。ラームジェルグとエアロスを頼む」
「サマナー、別れか」
「ああ、別れだよ。今まで世話になった...んだが、どうしてあの時お前は俺と契約したんだ?そこだけずっと気になってたんだ」
コイツとの出会いは、
そこを少しだけ、妙だと思っていたのだ。
「...良き女が、涙を流していた。鬼と化した身とはいえ、見過ごせるほど薄情にはなりきれなかっただけの事だ」
「...お前、そういう事は早く言えよ。裏切り系合体素材と思って扱いちょっと雑にしてたじゃねえか、マジでごめん」
「気にするな。それに、男が多くを語るものではない」
「だからなんでそのキャラを前面に出してこなかったよお前」
どこかぐだぐだになりつつも、盃を酌み交わす。
「「別れに」」
ラームジェルグとエアロスをカプセルに入れる。こちらも追加MAGは5000、ハイクラス悪魔であるメドゥーサを引き当てられた事の験担ぎだ。
「サーキットロック、ラームジェルグ、エアロス!...GO!」
再びの合体シークエンス。合体予想は邪鬼オーガ。強靭な肉体を持つ頼れる前衛だった。
が、ここでも起きる奇妙な事象。「ム?」じゃねぇよ。
計器が吐き出すのはエラー表示。また合体事故か!
「...フム、邪鬼という括りでは魂が高潔すぎたのだろうな。種族の変質か」
「...オイ、どういう事だ?」
「合体事故という訳でではない。邪鬼としてではなく、闘鬼としてラームジェルグは生まれ変わるという事だ」
「...闘鬼?」
煙が晴れ、カプセルが開く。
そこには、逆立つ髪の毛に額に輝く光輪。そして左右の目の大きさが奇妙に変わる男がいた。
「...チッ、この程度の霊基に乗っちまった。まぁそれも戦を楽しむ為って思えば悪かぁねぇか!」
「...俺は
「あー、狙った訳じゃねぇのな。なら名乗らせて貰うわ。俺は闘鬼クー・フーリン。やっぱお前がサマナーなのな。違う俺を殺した手腕で俺を使いこなしてみせな!それが俺の契約の対価だ!」
「...上等!後になって働かせ過ぎだとか後悔するなよ?」
「ハッ、言うねぇ!」
どちらともなく手を差し出して握手をする。が、クー・フーリンの力の入れすぎで俺の右手が超痛い。
「...お前、いきなりの反逆か?」
「だったらどうすんだ?」
試すようなその言葉。そんなもの決まっている。生殺与奪を握っているのはこちら側だ。
「MAG供給をカットする。干上がれ」
「...流石に遊び過ぎたな。すまん、悪ふざけだ」
「俺の右手が形を保ってる時点で手加減してくれたのは知ってるよ。クッソ痛かったけどな!」
「悪かったなサマナー。俺を殺したのがどんな奴なのか気になってたんだ。こっちの俺と繋がるサマナーは稀だからよ」
「...言わずと知られた幻魔に、異世界の英雄、次いで闘鬼ときた。そのうち戦隊でも作れるんじゃねぇか?クー・フーリンで」
「...戦隊?」
「5人くらいの人数で悪と闘う者達の事をそう言うそうだ。フィクションでのことだがね」
「ありがとよ...お前さん」
「デオンだ。これからよろしく、クー・フーリン」
デオンとクー・フーリンが握手をする。今度はクー・フーリンの顔が歪み始めた。
「なんつー力してんだこいつ⁉︎」
「君がサマナーに危害を加えるとは思えないけど、もしそうしたら僕が斬る。忘れないように」
「上等!いい団を作ったなサマナー!」
「そう思うよ、特に最近はな」
まぁ、弱体系魔法の使い手だったり回復魔法の使い手だったり、欲しい人材ならぬ悪魔材はいっぱいいるのだが。そこは技量で誤魔化すとしよう。どうせ強者は
そんな横道に逸れまくった考えは、思いがけない仲魔の一声で引き戻された。
『...サマナー、良いか?』
『どうした?オセ』
『あの者と、一手死合いたい。頼めるか?』
『...ああ、わかった』
その言葉に、強い覚悟を感じた。なら、これ以上の言葉は無粋だろう。
「サモン、オセ」
「...へぇ、やろうってか」
「己を測る為、一手願いたい」
「断る理由はねぇな!」
両者の合意は成った。武人同士は話が早い。
「てな訳で、あそこ使っていいか?ドクター」
「構わん。が、壊すなよ」
「だってさ」
「承知」
「ま、互いに縛られてんなら死合いに影響はねぇか。互いに近接型だしよ」
そんなわけで移動して地下の修練場。楽園戦争以後海馬の魔術師により改築されたこの家だが、魔術や武術の訓練と色々と便利なこの広いスペースは残していたらしい。
「堕天使、オセ」
「闘鬼、クー・フーリン」
「「いざ!」」
よーいどんの掛け声はなく、互いが互いの虚を突こうとした結果として同時に走り出したようだ。
が、互いに無理と判断してからはオセの動きが一手先んじた。オセは豹の身軽さを利用して練兵場を跳ね回り、小さな冥界波を小刻みに放っていた。体力の消費を最小限にしての小手調べだろう。
クー・フーリンはその冥界波の雨を、何処からか抜いた槍にて迎撃する。冥界波と同等以上の威力の槍の払いで相殺しているのだ。
体勢は、崩れない。流れるような動きだ。
「...しからば!」
遠距離戦闘はジリ貧であると断じたオセが攻めに出る。
スピード、パワーどちらにおいても劣っているのが今のやりとりで分かったのだろう。クー・フーリンはハイクラス悪魔であり、オセはミドルクラス悪魔だから当然といえば当然だ。
故に、オセが勝つには先手を取り続けなくてはならない。
「ハッ!」
小刻みのMAGチャージにて剛剣と化した右の剣を振り下ろし、その勢いで二撃目のタメを作るオセの基本剣技。それは長剣二刀流という独特なスタイルで戦ってきたオセの必勝パターンだ。
「見え見えだが、悪かねぇな!」
右の剣を槍で逸らし、流す。それで剛剣は躱されるが、続く二の太刀がクー・フーリンを襲う。
それに対して、クー・フーリンは
「何ッ⁉︎」
「長剣二刀、使いこなしてるのはわかるんだがな。振り下ろしてから二の太刀までに一瞬隙がある。俺たちレベルのスピードなら、突けるぜ?」
踏み込んだことにより長剣の柄を体に受けるクー・フーリン。二本の剣はこれで封じられた。だが、このレンジでは槍を十分に振るう事も出来ないはず。
そんな常識は、
「クッ!」
「終わりか?」
「当然、否!」
「じゃねぇと面白くねぇよなぁ!」
今度は攻守が入れ替わる。チャージを開始したオセに対してクー・フーリンの雨のような刺突が放たれる。
それを両の剣にて払い、躱し、しかし押し込まれていくオセ。
しかしそれでもチャージは止めなかった。強者であるクー・フーリン相手に一矢報いる為。否、勝利する為にその力が必要なのだとわかっているからだ。
「この戦闘速度で溜めを止めねぇか。本当にいい根性してんなオイ!」
「それしか、能がない!」
戦いながら集められたMAGが、十分量溜まる。ここからのオセの一撃は、必殺だ。
普段はここから冥界波を放つのがパターンだが、それにはいささか近すぎる。どうする?
「じゃあ、ギア上げてくぜ!」
クー・フーリンの槍がブレ、穂先が増えたように見える。刺して引く。たったそれだけの動作を超高速で行なっているためにそう見えてしまうのだろう。
名付けるのなら、百烈突きといったところだ。これを喰らえばまともな悪魔ならタダでは済むまい。
だがオセはその突きの雨に対して
ダメージ覚悟の特攻ではない。どんなに穂先が増えて見えても実像は一つ。故に、必要な反撃も一つだけだ。
それを見抜くセンスを、オセは持っている。
「ウォオオオオ!」
チャージした力をもって、オセが二刀で槍をカチ上げ吹き飛ばす。
流石のクー・フーリンでも槍を握り続ける事を諦める程に、その力は強かったのだ。
そして、武器を失ったクー・フーリンに対して二刀でのアドバンテージを活かして着実に攻めて行くつもりだろう。これは、番狂わせが起きるかもしれない。
そんな予想は、次の瞬間にひっくり返された。
クー・フーリンが弾き飛ばされた槍に向けて跳び、
「曲芸を!」
「舐めるなよ、この
中距離から投げられたその槍は正確にオセの霊核を貫き、絶命させた。
「...見事」
「お前も、悪くなかったぜ」
まさに絶技だ。腕の3倍力のある足を使っての投法、単純威力で3倍という訳ではないだろうが、かなりの威力の遠距離技となっている。
そして何より恐ろしいのは、あの投げ槍は貫通力に秀でているという事だ。それはつまり力場抜きの能力が優れているという事。耐性力場くらいなら抜いて殺し得るだろう。
クー・フーリンは、本当に頼りになる仲魔だ。心強い。
だかそれと同時に、別れも訪れる。オセがクー・フーリンとやり合いたいと言い出したのは、自分の力では足りないと感じ始めたが為。己をかけた戦いで負けたのだ。それを引き止めるような契約は、俺とオセの間にはない。
地返しの玉を使ってオセを蘇生させる。その目は、どこか満足しているようだ。
「いいのか?お前の力は、通用しなかった訳じゃないんだぞ?」
「構わない。...いや、違うな。俺の最高の力が届かなかったのだ、武人を名乗った身として納得ができたのだよ。美しく舞う剣舞にも、力強く闘う槍術にも俺は届かなかった。だが、悔いはない」
「この野郎...わかった、お前は今度はどんな悪魔になりたい?予定になかった合体なんだ。プランは自由だぞ」
「...なら、回復の力を持った悪魔になってみたい。ただ戦うだけでは、新たな仲魔たちの二番煎じにしかならないからな」
「了解だ。攻撃も回復もできるオールラウンダーに仕立ててやる」
「それは楽しみだ」
かつてハイ・アナライズをした中で高位の回復魔法を使える敵をピックアップしようと検索する...該当なし。それならば合体先で回復魔法が使える種族を逆算...作成難易度を考えると、天使が良さそうだ。外道と掛け合わせれば天使が作成できる。
...うん、堕天使と外道を混ぜると天使になるとか割と意味わからないが、そこはいいだろう。
外道族の中では、ハイ・アナライズした敵の中にドッペルゲンガーがいたはずだ。戦闘力は高くなかったが霊格はなかなかの相手だったと記憶している。所長が瞬殺したが。
密室殺人事件の容疑者全員を縛り上げ、ハイ・アナライズをしてドッペルゲンガーを引っ張り出したという脳筋スタイルで解決した事件がデオンと出会う前にあったのだ。だってアリバイ崩しとかより物証引っこ抜く方が早いし。
「では、サマナー」
「ああ」
修練場から戻り、再び研究室へと赴く。
足取りは、少し重い。
オセの戦う様を見て、閉じ込めていた念がすこし漏れてきたのだろう。
やはり、別れは別れだ。生き残る為のものだとしても、苦しさは変わらない。
だから、万感を込める。
「じゃあなオセ。短い間だったが、お前には世話になった。本当にありがとう」
「こちらも、得難い経験ができた。ありがとうサマナー」
酒を注ぎ合い、盃を交わす。
「「別れに」」
そうしてオセは消え、新たに天使ドミニオンが仲魔となった。
「私は主の声を第一とします。ですが、貴方の命に従うことを誓いましょう。この名もなき二刀に誓って」
「ああ、ありがとうドミニオン。これからよろしく頼む」
青い髪に白い羽、白いローブのドミニオンは、天秤と聖書の代わりにその服装に似合わない無骨な二刀を携えていた。オセの信念の産んだ残留現象だろう。消えて尚俺に残してくれるのは、それだけ俺との暮らしを楽しんでくれていたから。それを思うと、心の中でもう一度「ありがとう」と想った。この想いはもう二度と、伝わる事はない。
だから、せめて笑っていよう。消え去ったオセに冥府で笑われないように。
「メドゥーサ、クー・フーリン、ドミニオン。盃を」
「...こういう催しは縁がありませんでしたので新鮮です」
「何、大して構えるもんじゃねぇ。ノリでいいんだよ」
「ノリですか...まぁ、無粋に騒ぐでもなし。やるとしましょう」
「「「「出会いに、乾杯!」」」」
酒を一飲み。出会いの喜びを素直に喜ぶ。苦しみはあれど、喜びは本当のことなのだから。
少し離れた所から、サマナーが盃を交わす様を見る。
今までのサマナーに足りなかったのは力だ。逆に言えば、力以外の全てをサマナーは持っていた。心の強さと、優しさを。
それが今、足りなかった力を手に入れた。もう、自分がいなくても大丈夫だろう。
寂しいが、嬉しい。
今はまだ大丈夫だが、
「ふむ、どうしたのだ白百合の騎士よ。新たな仲魔ができたにしては浮かない顔だが」
「...少し、別れが辛くなっただけさ」
咄嗟に嘘をつく。内心を悟らせてはならない。
「そう警戒するな。一歩下がったそのあり方は好ましいが、それだけではないのだろう?お前は、何かを恐れている」
「...そうだね、仲魔の力は千尋の力だ。それが強くなって道を違えてしまわないか不安なのさ」
「まぁ、そんな心配は無用だとわかっているのだがね」と付け加える。これでどうにか取り繕えた。もう、ボロは出さない。
「フゥム、些か釈然としないがいいだろう。別にお前に興味があるわけでもない。さぁ、お前のサマナーが呼んでいるぞ。古参の仲魔として新参どもにレクチャーをするといい」
そう言ってドクターは合体装置と悪魔全書の計器を確認し始めた。
怪しまれても何だ。サマナーの元に向かうとしよう。
今のサマナーなら、全力の私を殺し得る。その事に安堵と、一抹の寂しさを感じていたと悟らせないように仮面を被り直して。
合体を終えて海馬の館を去る。皆の警邏の様子を確認してみるも、問題は無し。所長達がガイア教と、縁達がメシア教と遭遇したらしいが、目的は共に警邏だったため情報を共有して終わったそうだ。
「メシアンとガイアーズが警邏に動いてるか...やっぱ令和が発表された事で緊張が増してんのかね」
「それはわからない。だが、いざという時に頼れる組織が一つでないというのは素敵な事だよ、サマナー。メシア教もガイア教も、それぞれの理由で人の世界を守っているのだから」
「...そだな。まぁ本命の黄金の王は影も形も掴めずって...そだ。もう一つツテを尋ねてみるか」
思いついたが吉日。早速サーバを通じて連絡を取ってみる。
『何?』
『寝起きか?内田』
『...ちょっとばかり疲れてるだけよ。アイツは御せないって事がよくわかっただけだったわ』
『あー、お疲れ様?』
『...ありがと。それで、何の用?私は次の英霊の勧誘に向けてそこそこ忙しいんだけど』
『そのアウタースピリッツの話だ。ヤタガラスの外部協力者からの情報なんだが、占い適合者に向けてヴィジョンが押し付けられたんだ』
『...知ってるわ。下手人ウチの問題児だもの』
『...予想外の展開だな。それで、黄金の王は何が目的なんだ?』
『人類の裁定よ。アイツは最初から最後まで未来がどうあるべきかを見定めてた。ヴィジョンによる犯行予告をしたのは、腹を決めたからじゃない?傍観よりも殲滅を選んだのよ、アイツは』
『制御できてないのか?』
『あの金ピカを制御できるわけないじゃない』
『ひっでぇ言われよう』
というか金ピカって。さらっとDisるのな。
『それで、お前は黄金の王の情報を、俺に流すか?』
『甘く見ないで。あんなのでも、地獄の中で救いをくれた恩人なの』
『じゃ、この内通もこれまでか?』
『いいえ、これは続けさせて。貴方が生きていたらだけど』
『...まぁ、敵側へのホットラインは貴重だからな。互いに大目的は一致しているんだし。切る理由はないか』
『...そうね』
『でも、私は譲れないわよ。結界の縮小と加速化による黒点解決方法の模索って手は』
『こっちだって譲れるか。世界を縮める事で何人死ぬと思ってる』
『ニセモノのヒトが何人死んだところで、世界には関係ないわ』
『そのニセモノは今の人類だよ。なんでそこが分からないかね』
『...色々あるのよ、こっちにも』
『そうか...すまん、色々無遠慮に踏み込み過ぎた』
『普通、情報を得るためならもっと来るものなんじゃない?』
『それは...違うな、俺のやり方じゃあない』
『何、無意味なポリシーでもあるの?』
『当たり前だ、男にはカッコつけたい一線って奴があるんだよ』
『俺は、お前も今の人類も全部含めた未来を掴みたい。だから、こうして道を探してる』
なんとなく、息を飲む音が聞こえた気がした。
『...馬鹿じゃないの?適度に切り捨てないと重荷で死ぬのは貴方よ、花咲千尋』
『わかってる。けど、やめられないから俺は無茶をしてんだよ』
『...本当に、馬鹿ね』
二度目の馬鹿は、なんとなく意味合いが違うような気がした。認められたのか、呆れられたのか。前者であれば嬉しいが、後者だろう。
『私は彼を止める事は出来ない。だから言えるのはこれだけよ』
『死なないで、あんたは私が殺すんだから』
『お前にも、殺されるつもりはない』
そんなやり取りを最後に念話は切れた。
あの内田が御し切れないアウタースピリッツ。純粋戦闘力ならトップクラスだろうことは容易に想像できる。
襲撃の開始は結界更新日。4月30日から5月1日にかけて。
残り時間はそう長くない。それまでに、策を練らねば。
天高く飛ぶ黄金の王を落とし、2体以上のアウタースピリッツにて襲いかかってくる内田を止め、結界を更新させる。
やるべき事は山積みだが、やらねばならぬ理由はある。
とりあえずは、あの黄金の王の目を俺に絞らせる方法を考えるとしよう。
闘鬼クー・フーリンである作品を思い出した人、多分正解です。自分がオリジナルメガテン世界観を書こうと思ったきっかけが実はあの作品ですから。エタってしまったのが残念です。
ちなみにその作品はこちら。
デビルサマナー外典 ソウルガーディアン
http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=7357&n=0#kiji
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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