白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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スマブラにジョーカーが参戦したので早速使ってみましたが、難しいキャラで使ってて楽しいです。相手にするとガノンクラスのクソゲーですが。ペルソナついてる時に弱がバースト技になるってちょっとおかしいと思うんですけどね!
もっとも、それを補うペルソナついてない時の弱さがあるので、楽しいキャラなんじゃないかなーと思います。


平成331年4月30日 その1

嵐のような日々だった、というわけではない。

 

その日が近づくにつれて各勢力は大人しくなり、しかし悪魔や異界の討伐には皆積極的だった。

遡月の街は今、最良のコンディションに整えられている。大儀式の準備は完璧だ。

 

だが、息を潜めていた者たちが暴発的に蜂起することもなかったのだ。メシア教、ガイア教の過激派、ファントムソサエティ、歌女や堕天使の軍勢。そして内田たまき。

 

全ての者たちが息を潜めて、その時を待っていた。

 

時代が変わる、瞬間を。

 


 

午前6時。少しの眠気を収めてヤタガラス本部、トルーパーズ本部に集合する。

 

令和結界の構築陣の起動が始まるのは、午前7時。順調に完了すれば午後4時には起動準備が完了する。

 

つまり、9時間術者を守り抜けばひとまずの勝利ということになる。

 

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。これからトルーパーズの最終ミーティングを開始します」

 

無言で頷く皆。

 

「ヴィジョン映像を解析した結果、黄金の王の襲撃時刻は12時前後。出現はもう少し前と踏んで11時から周辺を張ります。前線を張る私、花咲さん、は三方に散って、薊、縁さん、志貴くんは別れてサポートを。...敵の逸話がわからなかった以上戦闘は力押しになります。が、戦闘区域の人払いは済ませました。被害が出ても問題はありません。全力を撃ち込みましょう」

 

「了解」

「では、参りましょう。生きて、令和の日を迎える為に」

 


 

黄金の王の襲撃現場周辺のビルの屋上にて、デオンと縁と共に周囲を見張る。

 

「とはいっても、暇な者だね」

「それはそうだろ。ヤタガラスの全戦力が出張ってるんだ。それに他の組織の有志たちもいる。そんな大した事は...ありそうだ」

 

明らかに様子のおかしい人が、眼下にいる。

 

「アレは、ミクリアさん?ガイアの有志がなんで単独行動を...ッ⁉︎」

 

一目で状況を理解するのは難しかった。

だが、わかることはある。

 

今、デオンが駆けなければミクリアさんは蒸発していたということだけだ

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「この騎士は、花咲か!」

 

「縁、降りるぞ!」

「はい!」

 

ビルの屋上から飛び降りる。

あの伸びる斬撃バルムンクによる迎撃はなかった。サマナー殺し狙いなら真っ先に障害となる者を殺しにくるだろう。

 

理由は不明だが、セットしていたバルドルの簡易召喚が使われずに済んでよかった。バルドルの逸話防御ではバルムンクほどの範囲攻撃は防ぎ切れないないだろうからだ。

 

縁の障壁でもそう容易く防げるものではないだろう。

 

ジークフリートの目的が不明だ。

サマナーとの仲違い?それにしては殺意がない。無機質だ。

 

「ミクリアさん、何があったんですか?」

「...わからない。ジークフリートが突然苦しみ始めて、暴走を始めた」

「何かの条件は?歌や術、MAG波なんかのサインはありましたか?」

「...ない」

 

魔剣にMAGを込めながら、苦しみを抑えてジークフリートが声を出す。

 

「俺を、殺せ!」

「何言ってるジークフリート!そんな真似ができるか!」

「俺を、操っているのは、()()だ!止まらん!」

 

「サマナー、彼は殺すしかない」

「...デオン?」

 

「あの段階までいったアウタースピリッツは止まらないし、止まれない。そういうものらしい」

「...他に手はあるさ!ミクリアさんMAG供給のカットを!」

「もうしている!それでも、干上がる様子がない!」

「繋がってるのか、世界と!外の世界と!」

 

こちらの思考など構わないとばかりに幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)が振り下ろされる。

 

『やれるな?デオン』

『いつか言ったろう?任せてくれ、サマナー』

 

その斬撃を、デオンが真正面から斬り飛ばす。幻想としか言い表せない翠色の斬撃を力と技のみで吹き飛ばしたのだ。

 

「うん、やれないことはないね」

「けど結構心臓に悪いから撃たせないようにしよう、うん」

 

「サモン、メドゥーサ、バルドル、クー・フーリン、ドミニオン、カラドリウス!」

「千尋さん。あの人、苦しんでます!」

「だから、殺すしかないんだよ!」

 

デオンとジークフリートが剣を合わせる。

筋力はやや優勢。敏捷性は互角。

 

そして、剣技ではデオンが上手。ジークフリートの大剣の振りの遅さをサーベルの速度で

 

「横槍準備はしておけよ、皆。純粋剣技だけで終わる相手じゃあない」

 

メドゥーサとバルドル、カラドリウスの向上(カジャ)系魔法がデオンを覆う。若干上回っていただけの剣技が、命を断てるほどに強化された。

 

そして、デオンはジークフリートのバルムンクを弾き上げ、返す刀で首への一閃を放ち

 

首に傷を負わせる程度で止められた。

 

力場ではない、肉体に作用するその現象はッ!

 

「逸話防御ッ⁉︎」

「やはりか。斯様に奇怪な鎧だ、何かあるとは思っていたよ!」

 

弾かれても握り続けられたバルムンクの返す太刀にて一閃が放たれるも、わかっていたようにするりと回避した。

 

「ミクリアさん、弱点は⁉︎」

「...いいや、私も知らない。だが、胸の輝く傷でないことは確かだ」

「その心は?」

「弱点を吐かせられる可能性を考えて、対呪術式(カウンターカーズ)で偽の情報を流すよう仕込んだ。これはジークフリートも知っている!」

「つまり、胸の傷はブラフか...強いな」

 

作戦を練る。敵の逸話防御を抜く手段が聖剣魔剣の類なら意味は無いが、試せるだけは試そう。

クー・フーリンに微弱な攻撃術式をしこんだカラーボールを投げ渡し、まずは全身をくまなく探査しようと決めた所で、声がかかった。

 

ジークフリートの、血を吐くような声だ。

 

「背中、だ!」

 

たったそれだけの事を言うのにどれだけの強制力を弾き返したのだろうか。ジークフリートの目はもう無機質にデオンを見ていた。

 

だが、想いは伝わった。

 

「ミクリアさん、良いですね?」

 


 

自分ミクリアは大した人物にはなれないと自覚していた。かつて強大な地母神を従えていた家系であることは知っていたが、その召喚、制御の術式は失われて久しい。

 

ガイア教徒になった理由とて、ただの惰性だ。かつて家がガイアに連なる者だったからガイアに身を置いただけ。

 

そんな自分は、当然のように戦い、破れ

 

そして、運命に出会った。

 

翠色の閃光が、目に焼き付いて離れない。

騎士、そんな言葉が頭に浮かんでくる。そんな男に、俺は救われた。

 

「すまない、危険と見て割って入った。無事か?」

「...ああ、なんとか生きてる」

「できれば、ここがどこか教えてほしい。やはり、ヴァルハラには行けなかったのだろうか」

「あんたが何を言っているのかは分からんが、ここが何処かならすぐにわかる。あんたが主を倒してくれたからな」

「主?...あの怪物のことか」

 

崩壊が始まり、弾き出されたのは山奥。自分の家系の保有する霊地だ。

 

「...恩人に名乗ってなかったな。無礼を許してくれ。俺はミクリア、悪魔召喚士(デビルサマナー)だ」

「...デビル、サマナー?」

「...どうやら、そっちは訳ありのようだな。恩人相手だ、便宜は図ろう」

「ああ、どうやら俺は生まれ変わった、のか?」

「そこは疑問形なのか。...それで、あんたの事はなんて呼べばいい?」

「...ジークフリートだ。呼び方は、なんでも構わない」

「じゃあ、ジークフリート。その分じゃ寝ぐらもないんだろう?ウチに来るといい」

「ミクリア、お前は人が良いな」

「少し違うな」

 

「なんとなく、お前に借りっぱなしは嫌なだけだ」

「あの程度、貸しとは思わないが」

「俺が思うんだ。だから素直に受け取ってくれ」

 

それが、長い付き合いになるジークフリートとの出会いだった。

 


 

それからなんとなくジークフリートが悪魔のようなものだとわかり、なんとなく契約を結び、なんとなく共に戦いを続けていた。

 

ジークフリートと出会った事で、俺は未知を知った。この世界に本来伝わっていた筈の歴史というものを、神話というものに興味を持ち始めた。

 

口伝で伝わる楽園戦争前の事、悪魔の語る自身の語られた時のこと、サマナーネットに流れる出典不明の情報たち。

 

そういったものが、輝いて見えるようになったのだ。友人の語った、ただ一つの英雄譚、邪龍ファヴニールを討伐したと言っただけの、内容も何もない簡素な事がどれだけの偉業なのかを確かめるために、歴史を探し求め始めた。

 

不器用に優しい、新しい友人と共に。

 

「...この世界は妙だ。300年の歴史の中で、進歩はある。技術のブレイクスルーというのか?そういった劇的なものも確かにある。だが、何故それが外へと向かない?」

「外?」

「この世界の外側にだ。魔界があるのなら、海の先に夢を見るものがいてもおかしくはないだろう」

「...それもそうだな。外があるなんて考えもつかなかった。お前の視点は面白いな、ジークフリート」

「では、次の目的地は海沿いの街を提案する」

「それなら、良い土地があるな。...遡月市」

 

「次の目的地は、遡月市としよう」

 


 

そうして現地のガイアに渡りを付け、実家の資材を投じて作り上げた船を浮かべて外に向かう。どんな災害に遭っても大丈夫なように高密度MAGコーティング、霊的防壁を備えたこの船は大きくはないものの、十分な渡航能力を備えていた。

 

「ジークフリート、出航の時はお前の世界では何と言うんだ?」

「Abfahrt...だろうか。すまないが、水夫の知り合いはいなかったから実際に聞いた事はない。間違いかもしれないぞ」

「構わない。それが間違いかは、これから確かめに行くんだからな!」

 

エンジンを始動させ、結界更新前で不安定になっていた隙間を抜けて外に出る。

 

そして、全てが繋がった。

何故、歴史を途切れさせなければならなかったのか。

何故、外に関する資料が途切れていたのか。

 

「抜け...た...」

「...サマナー!戻るぞ!」

 

その光景は、なんと表現するのが正しいかはわからない。

だが、あえて言うならば、“世界の終わり”だ。

 

黒が、全面を覆っていた。

 


 

それから、どう戻ったのかは正直覚えていない。

 

だが、目にした事実は変わらない。

 

「ジークフリート...あれは、なんだ?」

「良きものではない。それは確かだ。」

「...なんとか、できるのか?」

「さぁな。だが、まだ学ばなくてはならない未知は多いようだ」

「...お前となら、それも楽しそうだな」

 

瞬間、ジークフリートの目が狂気に惑った。

戦闘時でもないのにバルムンクを顕現(マテリアライズ)させたのがその証拠だ。

 

「サマナー、俺を送還(リターン)しろ!何かがおかしい!」

「ああ!」

 

『どうだ、ジークフリート』

『まるで指示の強制をされているようだ。サマナー、悪魔召喚プログラムの調子はどうだ?』

『いや、問題は...あるな。見たことのないエラーコードが出ている。outer code?』

『外からの信号か...確かに、サマナー以外の誰かに、操られているような、気分だ』

『大丈夫なのか?』

『...すまない』

『...そうか』

『死人が生きることがおかしかったのだ。なら、これは元に戻るだけのこと...と思うには、少し思い出がありすぎたか』

 

その言葉に、諦めていた何かが燃え上がるのを感じた。

自分は感情的な人間ではないと自覚していたが、そんなことはなかったようだ。

 

『...ジークフリート、俺はお前に死んで欲しいとは思っていない。何か手があるはずだ!まだ!』

『そうだと、いいな』

 

船を陸につけて、バイクを顕現させて走る。こういった不明コードの問題なら、西区のジャンクショップにツテがある。COMPの改造を行えるあそこならアウターコードとやらを停止させる方法を知っているかもしれない。

 

か細いツテだが、そこに賭けるしかない。

 

 

走る、走る、走る

ジークフリートの俺を消去(デリート)しろとの声を無視して、ひたすらにアクセルを開ける。

 

だが、その声も止まり数瞬経ったのち、不注意から転倒してしまった。

 

その一瞬が、命運を分けた。

 

召喚プログラムを起動していないにもかかわらずジークフリートは現れ、横薙ぎの一閃を放ったのだ。

 

「サマナー、逃げ、ろッ!」

「ジーク、フリート...」

 

その狂乱を抑え込んでいる目を見てわかってしまった。

 

生き残るには、ジークフリートを殺すしかないのだと。

ジークフリートの誇りを守るためには、殺してでも止めるしかないのだと。

 

だから...

 


 

「俺がやらなきゃいけないことなのはわかってる。だが、今の俺にはその力が無い!頼む花咲、ジークフリートを、俺の友人を!...殺してやってくれ」

 

その、血を吐くような叫びに、俺とデオンは頷いた。縁も、覚悟を決めたようで、その手にガントレットを構築していた。

 

「縁は伸びる斬撃からミクリアさんを守ってくれ!他の皆隙を見て背中を狙え!行くぞ、デオン!」

「ああ、サマナー!」

 

再び始まるデオンとジークフリートの剣戟。止まることなく動き続ける2人の動きは演舞のようで、背中を撃ち抜くなどということは不可能だった。

 

()()()()()()()()

 

『行けるな?クー・フーリン』

『おうよ、任せな!』

 

槍を顕現させ右足にて掴む奇妙な、しかし必殺の構え。

あれこそはクー・フーリンの絶殺の投槍術、蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)だ。

 

火力は十分、だが、そちらにジークフリートが背中を向けることはなかった。殺気を感じ取ったのだろう。

 

狙い通りに。

 

遅延起動(ディレイブート)0.3、石化回復薬(ディストーン)!メドゥーサ!」

「ええ、私の視界に入った事を後悔して死になさい。石化の魔眼(ペトラアイ)!」

「仲魔ごとか⁉︎」

 

剣戟空間を作り上げていたデオンごと纏めて石化の魔眼の領域に入れる。これならば、戦闘速度は関係なく動きを止められる。

 

そして、ペトラアイが着弾すると同時に契約のラインを通して石化回復薬(ディストーン)をデオンに投与する。これでこちらのデメリットはない。

 

だが、こんな程度の単純な手が英雄と呼ばれる男に通じる訳も無かった。

 

石化の力が弾かれたのだ。力場の内側で。

 

つまりは、逸話防御。石化だけが通じないのか、あるいは低ランクの他の力全てをシャットアウトしているのか。

 

おそらくは、後者だろう。

 

そして、デオンがジークフリートを弾き飛ばす。仕切り直しのタイミングを与えてしまうが、それどころではないのだろう。

 

その顔には、確かな焦りがあった。

 

「サマナー、剣筋が変わってきた。頑強さ頼りの特攻だ」

「ジークフリートの抵抗の意思が削られているのか...なら、短期決戦で決める!全員総攻撃、鎧の上から押して隙を作るぞ!」

 

「溜めに溜めたんだ、一番槍は貰うぜ!蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

槍がジークフリートの力場を貫き、肉体に僅かに刺さった。鎧の力で力のほとんどをシャットアウトさせられたのだろう。

 

しかし、あの技の役目は果たしている。

蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)は、呪いの槍技なのだ。

 

「グッ⁉︎」

 

刺さった槍先から爆ぜるように槍が生える。必中で、必殺。それがクー・フーリンのゲイボルクなのだ。

 

もっとも、流石にあそこまで減衰されていたのなら流石に必殺とはいかなかったようだ。

だが、ダメージは与えた。良いところに。

 

クー・フーリンはジークフリートが絶対に自分を警戒すると見て、絶技の矛先を足に向けたのだ。

 

次の一撃に繋ぐために。

 

気を伺っていた他の仲魔たちが、一斉に攻めかかる。背中を狙える位置に近いのは、ドミニオンだ。

 

「チャージは完了しています。一撃、受け取りなさい!」

 

ドミニオンの斬撃がジークフリートのバルムンクをカチ上げ、そして二の太刀をモロに食らって吹き飛ぶ。

だが、バルムンクはしっかりと握られており、その翠色の伸びる斬撃により背中に攻撃は届かないようにしていた。

 

その状況を切り崩す為に、バルドルが攻めかかる。

背後からの万魔の乱舞。仲魔が強くなり相対的に弱くなったバルドルの事を気にする余裕はなかったのだろう。

 

故に、反応は一手遅れた。

 

「死ねや半裸野郎!」

 

だが、バルムンクは止まらない。翠色の伸びる斬撃で体勢を整えたジークフリートは、そのままにバルドルを切りつけた。

必殺の斬撃だ。当たればタダでは済まない。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「効かねぇなぁ!」

 

上段から振り下ろされた光剣を身体で受け止めてそのまま進むバルドル。力場抜きの万能属性魔法を両手に宿したバルドルは、ジークフリートの体に()()()()()()()万能属性魔法を投げつけた。

 

そして、その五発の魔弾全てには、契約のラインを通じて仕込んだ俺の遠隔操作術式が仕込まれている。

 

5つの方向から一斉に襲う魔弾。だが、ジークフリートはさして慌てるでも無く一つ一つ丁寧に切り裂いていった。

だが、その一瞬でバルドルに向いていた目は外れ無敵の悪魔がフリーになった。

 

『行け、バルドル』

『あとで覚えてろよ?サマナー』

 

抱きつくかのような形でジークフリートの体をバルドルが押しとどめる。力がどうこうの問題ではない。人型であるジークフリートは関節部の可動域などに縛られている為に一瞬で振り払うなどという真似はできない。

 

そして、デオンに意図的にMAGを放出させる事で目線をそちらに向ける。

 

本命を隠す為に。

 

ジークフリートはバルドルに押さえつけられた体をなんとか動かして、デオンの方を向いた。

 

それは、本命に背を向けるという行為だとも知らずに。

 

「では、終わりにしましょう。極大電撃魔法(ジオダイン)

 

MAGを極力外に発露させないで術式を構築させた、極大魔法が解き放たれる。収束された極大魔法は光の柱となり、メドゥーサから一瞬でジークフリートの背中に着弾した。

 

「ガハッ!」

「畳み掛けろ!」

 

機動力は、バルドルとクー・フーリンが潰した。

生命力は、メドゥーサがほとんど削りきった。

 

あとはデオン、ドミニオン、メドゥーサ、クー・フーリンの四方からの同時攻撃で、王手だ。

 

だが、まだ決まりきってはいない。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 

横薙ぎ一閃。無事だった左足を軸足にしてジークフリートが回転する事で全方位への同時迎撃を行った。バルドルは振り払われ、地面に転がっている。

 

どこにそんな力が残っていたんだ!とは思わない。ジークフリートはデオン同様歴史に名を残した英雄なのだろうから。

 

死力の向こう側くらいは使ってくるだろうと予測していた。

 

「デオン、クー・フーリン、合わせろ!」

「任せろ、サマナー!」

「はっ、俺の剣使いこなして見せな!デオン!」

 

ラインを通じてデオンに意思を伝える。交錯は一瞬だ。バルムンクの伸びる回転半径から考えると、次の一回転で前に出ている自分もズタズタになるだろう。しかも、バルムンクの放出が伸びるほどに回転速度も上昇している。まるで嵐だ。

 

だから、初撃を躱したデオンにその嵐を断ち切る力をインストールする。

 

夢幻降魔(D・インストール)、クー・フーリン!」

 

闘鬼クー・フーリンの輝く剣。あんまりなMAG消費から通常の使用を抑えていたが、ここでは真正面からぶち抜く以外ないのだ。

D・インストールによるステータスの向上と、デオン自身の技量による強化。戦闘開始時にかけられた三色の強化魔法。

全てをもって、翠色の暴風を両断する!

 

「...これが、私たちの全力だ!光り輝く破軍の剣(クルージーン・カサド・ヒャン)!」

 

光剣が嵐を断ち切り、その中心にいたジークフリートにトドメの一閃を与えた。

 

その目は狂気から解放された事からか、あるいはミクリアさんを殺さずに済んだ事からか笑みを浮かべているように見えた。

 

輝く剣の向こう側で。

 


 

「結界の外に出た⁉︎」

「ああ、その後の事だ。アウターコードというエラーコードが現れ、ジークフリートは...ああなった」

「...心当たりがあるな?デオン」

「...ああ。ヤタガラスのキュウビから、アウタースピリッツに刻まれた命令を実行段階に移すためのコードがあるらしいとは聞いた」

「その命令ってのは?」

「...現人類の抹殺、だそうだ」

「...そうか。ならなおさら感謝しないといけないな。ジークフリートに望まぬ殺しをさせないでくれてありがとう。花咲」

「...礼なら、最後まで抵抗していたあの英雄様に言えよ。最初から十全の力を出していたら、どうなっているかわからなかった」

 

だが、それにしては妙な点もある。ジークフリートの能力を完全に活かすなら、わざと護衛対象から離れていた俺に対して集中砲火を加えなかった。そうであるならばヤタガラスの交流スペースにてメディラマストーン10個と交換して手に入れていた物反鏡にて一撃で終わっただろうに。...それを読んでいた?

 

いや、種付きを現人類と認めていないと考えるのが自然か。だが、恐らくは旧人類とも認めていない。狭間の存在といえばいいのだろうか。

そう仮定するならば、縁の方に攻撃が向かなかった理由も説明は一応つく。あとで殺すつもりだったとかならアレだが。

 

「考えることは多いが、とりあえずは終わりだな。バルムンクの薙ぎ払いで受けたダメージ以外に大きいものはない。ドミニオン、皆の回復を頼んだ」

「承知しました、サマナー」

 

最後に放ったバルムンクの回転斬り。予備動作が大きかったが故に皆一応の回避はすることができていたが、余波だけでもかなりのダメージを負ったのだ。アレを直撃していたらと思うと、肝が冷えるばかりだ。

 

「すまん縁、定時連絡任せた。俺はジークフリートとの戦闘記録から他に何か得られないか探してみる。なにせ、初のアウターコード発動者との戦闘だからな」

「...はい、わかりました」

「不満だったか?」

「そりゃ、そうですよ。ジークフリートさんは望まないのに無理やり戦わされていた。なら、そんな悲劇なら!...千尋さんが何とかしてくれるんじゃかいかって期待してました。すいません、勝手に失望なんかしたりして」

「...実際救うことができるかも知れない手段は、いくつか思いついていた。情報凍結による遅延処置からコードの解析を行って、無理矢理に上書きするとかな。だが、あの戦闘の中でそれができるとは思えなかった。だから、次に闘う黄金の王との戦いに備えて俺たちの戦力を温存できる形で戦いを終わらせる事を選んだ。...俺は、命を救わないことを選んだんだ。失望するのが普通だよ」

「...いいえ、やっぱり千尋さんは千尋さんでした。すいません、変なこと考えて」

「考える自由を侵害したつもりはないんだがなー」

 

そんな言葉を最後に、()()()アウターコード適応者、ジークフリートとの戦いは一つの区切りを迎えた。

 


 

再びビルの屋上へと監視に戻る。ミクリアさんは危険区域に入らないようにマップデータを渡したので、偶然の野良悪魔に襲われるなんて事がない限り死ぬ事はないだろう。次会う時までにジークフリートに代わる前衛を揃えないといけないのは辛いだろうが、サマナーとしての実力は十分なのだ。きっと苦難を乗り越えてくれるだろう。

 

その時にも、ミクリアさんが敵になっていない事を祈るばかりだ。

 

「定時連絡終わりました。皆は大丈夫ですか?」

「ああ、やっぱ一流の悪魔ってのは違うわ。維持費の分だけしっかり働いてくれる。流石に結界が更新されたあとじゃあ維持コスト考えて劣化処理行わないとまずいとは思うけどさ」

「劣化処理ですか?」

「まぁ、情報の中抜きだよ。悪魔が情報存在だってのは知ってるよな?」

「はい。いまいち理解はできてないですけど」

「ちゃんと勉強しとけって、役に立つから」

「はーい」

「劣化処理ってのは、根幹にある情報を保護した状態で筋力だったり耐久性だったりを司る表面上の情報を削る事だ。合体みたいに構成MAGに干渉する特殊な設備が必要だが、まぁそこそこに役に立つ技術らしい」

「へー」

「お前がタラスクを制御しきれなかったらドクターに頼んでやってもらうつもりだったよ。扱う情報量が少なくなれば、それだけ制御も簡単になるからな」

「でも、制御って何をするんですか?私、タラスクに命令だー!って感じに頼み込んだ事はないですよ?」

「情報存在でしかない悪魔をこの世界に過不足なく顕現させる事、それが悪魔召喚における制御だよ。過不足なく顕現できれば、悪魔との契約も結ばれた状態で顕現するわけだから、サマナーの言うことをちゃんと聞く。そういうカラクリなんだよ」

「じゃあ、私はタラスクをちゃんと制御できてるって事なんですか」

「そ。制御に関しては本当に天性の素質がモノを言うから、邪龍タラスクを扱えてるお前は、案外サマナーとしての適性も高いのかもな」

「私が、サマナーですか...」

「まぁ、軽く考えとけ。お前の聖女としての力だけでも十分に強いんだからな」

 

雑談をしていると、ドミニオンによる回復処理が終了した。

皆に確認を取ってみると、ダメージの影響はもうほとんどないそうだ。あとはCOMPの中で少し休めば万全の状態に戻せるだろう。

 

ドミニオンは治療するにあたり術の行使に少し自前のマグネタイトを使用した為、念のため活性MAG結晶(チャクラドロップ)をいくつか食べさせる。まぁ、流石にオールラウンダーのドミニオンが活性MAGを使い果たすような死闘になるとは思いたくないが、こればかりは念のためだ。いざって時にMAG不足で回復ができない!なんてのは最悪なことこの上ないのだから。

 

「しかし...人がいないとこの街、結構寂しいんですね」

「そりゃそうだろ。街ってのは人が居て初めて息づくものなんだから」

「...考えたことありませんでした、そんなこと」

「それが普通さ。街から人が居なくなるなど変事の時と相場は決まっている。そして、変事を予想できるものはいない。空想は、するかも知れないけどね」

 

そんなゴーストタウンと化した遡月の街に、やはり予想もつかない変事が起きる。

 

ふらふらと人が戻り始めてきたのだ。人払いの効いているこの戦闘区域に。

見れば、何やら尋常でない様子。

通信をしてみると、どこの地点でも起きているようだ。

 

「...ここ、あの金の人との戦いの場になるんですよね?」

「ああ、巻き込まれてしまうかも知れない。どうにかしないとな」

 

効果があるとは思えないが、広域に人払いの結界を張ってみる。案の定、効果は見られない。何かに操られるかのように人々は集まっていく。

 

そして、先頭にいる1人が()()()

 

脈絡も被害もない、意味のわからないただの爆発。

 

ただ、妙に生体MAGの密度が高いのが気にかかる。生贄?何のために?

 

「千尋さん!助けないと!」

「敵の目的がわからないにしても、目論見を通すのは良くないって事は分かるな!」

 

そうして再びビルの屋上から飛び降りる。

 

今度は、空中で迎撃された。予想していただけに対応は可能だったが、面倒なのがやってきた。

 

「デオン、奴の相手を頼む。俺と縁で下の人たちは何とかするから」

()()を一人で相手取るのはいささかキツイのだがね!」

「それしかないんだ、頼む」

「なら、良い店のチョコレートを頼むよ!」

 

反発(ジャンプ)の魔法陣を足場にしてデオンが敵と向かい合う。

 

「我はレギオン、多勢なるが故に」

「何でも良いさ、ここで斬らせてもらうのだからね!」

 

空中での多勢との戦闘と、地上での人々の救出。どちらも完遂しない事にはここでの動きは敵に利するものとなってしまう。

 

残念なことに今日はまだ始まったばかり。戦いはこれからだ。

 




今回はちょっと短め。リアルが忙しいのもありますが、区切りの良い所で切るとこうなりました。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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