呻き声すらあげない奇妙な人の群れ。それを守るように現れた悪霊レギオン。かなりの密度のMAGを持っているのだろうか、群体と言っても過言ではない恐ろしい巨大さになっていた。
アレをデオン一人に任せるのは少し怖い所があるが、適材適所だ。
まず、やらなければいけないのは洗脳されたと思わしき人々がどんな状態にあるかの確認だ。
「...まずはサンプリングからだな。縁、障壁で人を封鎖してくれ。多分あの爆発した方向にMAGを集めたいんだろう。いけるな?」
「はい、やってみせます!」
上空での激闘のために、術式のコントロールは乱せない。
なので、サンプリングはちょっと荒っぽい方法になる。
スマートウォッチのある左手で先頭にいた奴の頭を鷲掴みにして、接触型での探査を試みる。
案の定混乱や魅了などの簡単な方式ではない。魂に術式を刻み込んでいるのだろう。脳改造の可能性は今のところ薄い。
「千尋さん!壁にぶつかってくる人たちが!」
見れば、障壁近くの人々のMAGが急速に活性化しているのが見える。
あれは、自爆の兆候だろう。
「仕方ない。サモン、メドゥーサ!傷が痛むだろうが、頼む!」
「ドミニオンのお陰で傷は塞がっているので問題はありません。ご心配なく。
自爆寸前の人々を石へと変化させる。対処療法だが、仕方がないだろう。
だが、敵の想定はこちらの間に合わせを上回っていたようだ。
それは、こちらの対処法は何もないと、この企みは止められないのだと言われているかのようだった。
『サマナー!レギオンが膨張した!爆発とリンクしている!』
『すまんデオン!あと4人吹き飛ぶ!増援は必要か⁉︎』
『...なんとかしてみせる!それよりサマナーは原因を取り除いてくれ!』
その言葉を最後に、デオンは戦闘に集中し始めた。上を見る限りでは、数多の触手をデオンが剣舞で切り抜けているというのが現状のようだ。
アレではジリ貧だ。だが、時間は稼いでくれている。
レギオンが強くなるのは、人が高純度マグネタイトを持って爆散することが原因。それを止めるには、爆発を止める必要が...?
「いや、思考を固めるな。要は爆発の原因を取り除けばいいんだ。つまり、着火させなきゃいい!」
魂の爆発にはどんな術式が使われているかはわからない。だが、どんな術式にも始動のための活性マグネタイトが必要だ。
ならば、それを奪ってしまえばいい。
「
「...成る程、吸い尽くして殺さない程度に、しかし爆発をさせないようにですか。注文が多いですね。やりがいがあります」
メドゥーサは、契約のラインを通じて俺の作った術式に色をつける。完成のために必要な大切な色を。
「吸魔」
集められた生贄、生存者総勢58名が
「ついでです、騎士様の援護と参りましょう。
メドゥーサから放たれる極光の柱。それがレギオンの半分近くを消し飛ばした。
そして、光が消えた先には、踏み込んだデオンの姿がある。上のレギオンも、これで終わりだろう。
「縁、壁はもう大丈夫だ。レギオンのサマナーを探すぞ、倒れたフリをしてる奴が当たりだ」
「はい!」
その声に反応したのか、人々の群れの中からふらりと立ち上がる者が居た。
「お前、こっちが練りに練った作戦をいとも簡単にひっくり返しやがって。悪魔か」
「お前の事情とか知らねぇよ、下っ端。正直お前に関わってる暇はないから逃げていいぞ」
「...いやー、逃げた先に生きられる保証があるならいいんだが、そういう訳にもいかないんだよ。下っ端としてはさ」
挑発に乗ってこない。吸魔を受けて動ける事も考えるとかなりの実力者だろう。少なくともただの下っ端ではない。
「名前は?」
「人買いのヒューズなんて呼ばれてるよ」
「サマナーの花咲千尋だ。倍額払うから寝返れ、ついでに先の仕事はヤタガラスに保証させる」
「...成る程、この爆弾共を救う為か。良心的だねぇ?...まぁその割には突ける隙がなくて笑えるんですが」
「だったら笑えよ。こっちは対処のキャパシティいっぱいいっぱいで笑いたい気分なんだよ」
「じゃあ笑いましょうや」
「「はっはっはっはっ」」
「物凄く息のあったやり取り⁉︎」
まずい、向こうの狙いとこちらの狙いが噛み合ったが故にちょっとぐだぐだしてきた。
「それで、倍額の話は本当ですかい?」
「ああ、契約書類とかの確認はするがな」
「..,迷いますねぇ」
「何か問題が?」
「いや、私はファントム系列でそれなりに美味しい汁を吸ってきたもんでね。裏切るのは忍びないなーと思ってる訳ですよ」
「そりゃ、こんだけの生贄を動員できる訳だしな」
「ま、定石が通じなかった以上仕方ねぇですがね。依頼金の倍額は後で請求させて貰いますんで、これにて失礼。...ああ、その前に一つ」
「吹き飛んで死ね、クソサマナー」
「お前が死ね、ファントムの狗が」
「「サモン!」」
「バルドル!」
「モーショボー!妖刀ニヒル!」
タッチの差で、召喚は俺の方が早かった。
モーショボーの
掃射は、案の定妖刀により切り落とされたが、着弾と同時に起きた核熱属性反応により、妖刀ニヒルの刃は刃こぼれを起こしたのが見える。
だが、リロードの隙にニヒルで倒れている人にトドメを刺された。
人を斬る事で修復、強化されていく刀。知識を探ると一つ心当たりがあった。
人々にトドメを刺す事で強くなる、悪魔にまで昇華した妖刀ニヒル。
それは、持ち主に達人クラスの技術を与えるものだと知識の中にある。
奴が人買いをしていたのは、人を安全に斬り殺してニヒルを強化するという目的もあったのだろう。爆弾としてレギオンの餌になれば良し、そうでなくてもニヒルの強化がいつでもできるフィールドになれば良し。二段構えの作戦だったのだろう。
大目的は依然として不明だが、小目的は大体見えた。安全に殺してしまうとしよう。
「デオン!」
「わかっているよ、サマナー!」
だが、ヒューズは見てもいないのに片手で握ったニヒルでその斬撃を受け止めた。自動防御か。
だが、所詮は一人。デオンの斬撃を防いでいる間は肉体を守ることはできない。ヒューズの胴体に向けて劣化ウラン弾を叩き込んでいく。
力場に弾かれる様子はなし、しっかりと着弾し、大ダメージを与えているのがわかる。
だが、そんな死に体な体を無視してヒューズはデオンを弾き飛ばし、転がっていた人を斬り殺し体を回復させていった。
どうやら、ニヒルの回復能力は持ち主の肉体にまで及ぶようだ。
「性根が腐ってるのか、合理主義なのか、どっちなのかね」
「...サマナー、提案です。吸血術式により転がっている人々を皆殺すのはどうでしょう。敵の地の利を殺せます」
「ダメです!メドゥーサさん!目の前で救えるかも知れない命を見捨てるのだけは!」
「...いや、いい案だメドゥーサ。実行しろ」
『ってフリだけして奴をビビらせてくれ。すまん、囮にしちまうけど頼めるか?』
『...詐術士とは、あなたのような事を指すのでしょうね。いいです、乗りましょう。そちらの方が、早く奴を殺せそうです』
「千尋さん!」
「メドゥーサ!」
「吸血術式、展開」
「させるものかよ!蛇風情が!」
死体を足蹴に高速接近してくるヒューズ。スピードはデオンとタメを張れそうな程だ。
つまり、
ストレージからショートソードを取り出してメドゥーサを狙う一閃を逸らす。
妖刀と打ち合っても刃こぼれ一つしないとは本当に良い剣を買ったものだ。過去の俺を褒めてあげたい。
「剣士でない貴様にッ⁉︎」
「これでも、受太刀だけなら一級品とお前より頭おかしい魔剣使いに言われていたりするのさ」
まぁ、初太刀を受け流す場合に限るとの事でもあるのだがそこは言わないでおく。カッコつけたいし。
いや、一太刀目だけなら向こうの思考と狙いを予測して剣筋を逆算することができるのだ。だから受けれる。二の太刀以降は体と思考が追いつかないので防ぐとか無理だが。所長とかデオンとかどういう頭の構造しているのだろうか。
「だが、サマナーが前に出るとはなぁ!」
「当たり前だろ、
「そういうことだ妖刀使い。潔く死んでくれ」
「...え?」
男の背後からスパッと綺麗に首を刈り取る美しき剣。
騎士とか名乗ってる割に不意打ちに寛容なデオンだから、その剣はニヒルの自動防御を許さないほどに華麗だった。
「良し、作戦通り」
「サマナー、あまり前に出ないでくれ。正直肝を冷やした」
「ですが、まだ終わりでは無いようですね。首が落ちても剣が生きています。もっとも、目と耳を失ったことでまともに動けないようですが」
「...おっかない悪魔だな、妖刀ニヒルってのは。縁、浄化頼む」
「...千尋さん、またなんか嘘ついて騙す感じの事をしたんですか?」
「ああ、詐術は俺の武器だからな」
「...なんだかなぁ...いや、皆さんが助かったのは良い事なんですけど、やっぱり釈然としません」
などと愚痴りつつ渋々と妖刀の浄化をする縁。破魔の光に反応して斬りかかってきたが、しれっと白刃取りして浄化を進めている。なんでそんな事できるん?と先輩の威厳(笑)が保てない事に若干の恐怖を覚える自分であった。
妖刀ニヒルを浄化し、完全に死体となったヒューズを足蹴にしつつ奴のCOMPを漁る。
グレムリンによるハッキングを試みるも霊的ファイアウォールがあることがわかり早々に引き上げた。その他持ち物を探ってみるも特に身分証明できるものは無し、死ぬつもりで来たのだろうか。
「そもそも、なんでこんなとこに陣を敷こうとしたんだ?ファントムは」
「...そういえば、他の皆さんの方にも爆弾になった人たちがいましたよね⁉︎大丈夫なんでしょうか」
「所長んとこには志貴くんがいるから大丈夫。“直死の魔眼”って奴なら理屈をすっ飛ばして爆弾化現象を処理できる筈だから。ミズキさん達の方は少し心配ではあるけど、総合戦闘力じゃあ最強なのはあの組だ。なんとかできるだろ」
ミズキさんはぶっちゃけて言うならトルーパーズの中どころか遡月の街で最強クラスだ。他の比較対象を所長しか知らない辺りが本当に頼りになる。
ミズキさんの操る斉天大聖と沙悟浄、猪八戒はいずれも強力な単体技と多様な合体技を持ち、ミズキさん自身も回復系の魔法を扱える異能者である。
よーいどんの戦いでないならまだやりようはあるが、正面戦闘において比肩するのは本当に所長くらいしかいないだろう。
そして、共に行動しているのは忍者の風魔。
うん、隙が無さすぎて敵が不憫になる。
「縁、すまんがまた連絡任せるわ。俺はこの人たちの自爆処理を解除しないといけないから」
「はい。お願いします千尋さん」
「でも、術者は死んでしまったのだろう?どうやって解除するんだい?」
「多分だけど、この人たちに仕込まれた自爆術式は遠隔操作式で、作動はこのCOMPを使ってるんだと思う。なら、ハッキングしちまえばいいのさ」
「だが、グレムリンにはファイアウォールを越えることはできないのだろう?」
「だから、外側から霊的ファイアウォールを排除するまでよ。霊的ファイアウォールって基本的にはCOMPのメインコンピュータ部位に悪魔の思念が入らないように結界を張ってるだけなんだ。だから、物理的に接触できる距離なら、解除も可能なのさ。...まぁ、手間と技術は必要だけど」
まぁその辺の手間は採取したヒューズの血液を媒介にしてハッキングするので、まぁ大丈夫だろう。
「千尋さん、所長さん達もミズキさん達も人たちの対処はできたそうです。というか、急に人たちの足が止まったのだと。この人を倒したからですかね?」
「多分な。...うし、解呪完了。グレムリン、行け」
「りょうかーい。ま、後は知性派のオイラに任せるといいよ」
グレムリンの侵入により、ヒューズのCOMPのロックが解除される。
魔法陣展開代行プログラムの欄を見ると、几帳面に遠隔操作術式などがタグ分けされていた。ありがたい。
「じゃ、自爆セーフティをオンにして、移動座標を...避難所になってる市民会館でいいか。あとは向こうがなんとかするだろ」
起き上がって歩き始める人々、
まぁ、術式のコントロールは奪えたのだから問題はないか。
「じゃあ、行ってらっしゃーい」
「千尋さん、あの人たち目が虚ろなままですけど大丈夫なんですか?」
「...多分大丈夫だろ」
「でも、悪魔に襲われたりとか...」
「ヤタガラスと有志が巡回して殺して回ってるから、悪魔がどうこうってのは確率的に無視していいと思うぜ?」
「そうなんですかね?」
「そうそう」
ひとまずファントムの企みを挫けた所で、周囲を見回す。ヒューズは強敵だったが、それだけだとは思えない。平成最期の一日に起こす事が、こんな生易しいものであるわけがないだろう。
「鬼が出るか蛇が出るか、悪魔が出るかかね?」
その答えは、すぐに出た。
天に浮かぶ船から降り注ぐ、数多の宝具によって。
縁の守りの盾で稼いだ一瞬でデオンが俺と縁をビル内部に放り込む。とりあえずの初撃は躱すことができたが、実際に見るとちょっと冗談じゃない。
刺さってる魔剣の二、三本売ればひと財産築けそうだ。戦闘の折に拾えないだろうか、という邪心が生えてくるが正直すると死ぬのが目に見えている。
そして、無理な移動の折に何かしらの誤タップが起きたのか、作戦目的のメモがヒューズのCOMPに開かれていた。
目的は、黄金の王を仲魔に引き入れる事。そのための大悪魔召喚術式として奴隷を使った召喚陣敷設、だそうだ。
「...すまん、ヒューズさん。紛らわしい事したあんたが悪い、とは言えないよなぁ...」
いや、無辜の?一般人を生贄にしていた時点で殺害対象であることには変わりはないから法的問題はないのだが、同じ敵を目的にしていたのだから別の終わり方もあったのだろうとは思わなくはない。
「えー、緊急連絡。金ピカC地点に来ました。ついでに攻撃されました。これから作戦通りキルゾーンに誘導します」
バルドルを背に送り、メドゥーサを
ここからキルゾーンまでは500メートル。事前の計算ではいけると算出できたが、やはり恐ろしい。
何せ、俺は
「金ピカ。その鎧クーリングオフした方がいいんじゃないか?ダサくて見てられないぞ」
とりあえずの挑発。これで乗ってくれると嬉しいが、まぁバレるだろう。どうにも、向こうは全てを見通すかのような目の良さがあるように思える。勘だが、外れてはいないと体で感じている。
現在見通されているのは、俺なのだから。
「...ほう、
「だったらやめてくれ、俺が死ぬ」
「死にに来たのではないのか?貴様は」
「それはちょっと違うな」
「命懸けて、守ろうとしてんだよ。お前からも、他の邪悪からも、この世界に生きる人たちの命を」
「ハッ、人間などどこにいる?」
「いっぱいいるよ。お前の時代の人とはかなり違うだろうけどさ」
「吐いたな?ならば力を示せ!雑種!」
「残念ながら、正面からは戦わねぇよ!デオン!」
「わかっているよサマナー!走れペガサス、全速力で!」
体に引っ掛けた鎖から、自分を引っ張る力を感じる。足の摩擦係数をゼロにする
「イタチの最後っ屁だ、喰らえ!」
そして今回のための支給品、MGL140グレネードランチャーを構えて、船の上に弾が乗ればいい位の適当な狙いでぶっ放す。
挑発用の面白弾丸を。
「ほう?我の頭に当ててくるか、だが力場とやらは抜けなかったようだ...な...?」
まさか玉座に当たるとは。グレポンの才能が実はあったのかもしれない。
事が収まったら自分用の奴を買おう。うん。
「雑種ぅううううう!」
ブチ切れる黄金の王。そりゃそうだ。
ストレージにMGL140をしまい、ショートソードを取り出す。ペガサスのスピードが上がっていくにつれ後ろ向きジェットコースターじみた恐怖はあるが、それは今目の前で嵐のように乱射され始めた聖剣魔剣の雨あられよりはマシだろう。掠ったら死ぬな、うん。
「サマナー、やりすぎたんじゃないかい⁉︎」
「俺もそう思う!どうしよう!死ぬわコレ!」
「発案者千尋さんなのに何言ってんですかぁ⁉︎」
「我をここまでコケにするとはいい度胸よなぁ!疾くと死ね雑種!」
「死んでたまるか畜生!いや、今回はかなりの割合で自業自得だけども!」
上からの射撃では当たらないと見たのか、ヴィマーナの下に黄金のストレージが開き、水平に砲門が開いた。
鎖で引っ張られている俺を集中砲火するのではなく、ペガサスごと狙いに来たようだ。怒りはあれど、冷静さは欠いていないのだろう。殺す為の最適解を選び始めている。
「うわ、えげつねぇ」
「言ってる場合かいサマナー!舌を噛むよ!」
ペガサスが天を駆け上がる。だが、鎖の長さは10メートル程。それだけの間上への力が俺にはかからない。
水平に飛んでくる剣の雨を躱す術は俺にはない。
『デオン、行くぞ!』
『ああ、最初に当たるのは右胸に当たる直剣だ!』
ショートソードを構え、剣に剣を添えて力を外に逃がす。まず一本。
この時点で体は流れるが、それをコントロールするのがデオン。鎖を巧みに操ることで俺の体勢を整えてみせた。
では、次だ。上空からも砲門が開いたのをMAG感知で感じる、この分だと、クロスファイアの地点は俺の位置だろう。それだけあの挑発は効いたようだ。いや、俺もここまで上手く行くとは思わなかったが。
ペガサスに引っ張られる形で浮いたことにより、水平の砲門からの剣雨はある程度回避できる。が、このままでは足がズタズタになるだろう。
その上、ヴィマーナからの打ち下ろしだ。事前情報では黄金の射出型ストレージを二門以上同時に開けるとは知らなかったため、こっちの対処は完全に不可能だ。
仕方ないが、切りたくなかった札を切ることにしよう。
「縁!」
「はい!...応えて、
タラスクの鱗の盾が、ヴィマーナから放たれる剣雨から俺を守る。
決め技に繋ぐ為の札だったため見せたくはなかったが仕方ない。タラスクの鱗ならば、持ち主を持たない剣程度なら弾いてくれる。
なので、水平方向のみを対処すればいい。足元の
これは持ち主の意思がある限り追尾するのをやめなさそうなので、空いている手にてその剣を握り奪う。そして、
抵抗は思ったより少なかった。やはり、あの黄金の王は剣の持ち主ではあっても剣の使い手ではないのだろうか。
なんにせよ、投げると絶対に当たる剣ゲットだぜ。
...鱗の盾の向こうからさらに怒りのオーラが伝わってくるのは気にしないようにする。
『サマナー、あと2秒だ』
ペガサスに引きずられている俺は、自身にもっと注目が向くように何かしら罵ろうかと思ったが、それより早く攻勢に出たせっかちさんが居た。
多分、今なら確実に取れると踏んだのだろう。奇襲の予知をされていると勘付いてタイミングをあえてずらしたとかの理由で。
「
遡月市最強の一角が、その全力を持って上空から大上段を叩き込んだ。
流石に黄金の王は致命傷を避けるために回避を選んだようだが、船ごと大地に叩きつけられた結果ヴィマーナは翼を失った。
「先走らないで下さい!」
「結果オーライでしょ!」
そうして地面に落ちた黄金の王に向けて、3人の影が襲いかかる。
「雑種風情が!」
砲門が開いての全方位射撃。
それを放とうとした瞬間に所長の二の太刀が放たれる。嵐の剣は未だ解かれず。迷いなく王の首を取りに行った。
力場の減衰によるものか、鎧の首鎧により受け止められた結果命までは取れなかったようだが、迎撃のインターセプトには成功したようだ。
「
そして、力場の内側から暴風が放たれる。黄金の王の首を取ることは出来ずとも、その顔面をズタズタにすることは可能なのだと言わんばかりに。
「チィッ!」
それをどこからか取り出した斧でクレイモアをカチ上げて、暴風の中心を力場の外に逸らす黄金の王。全く近接ができないというわけではないのか。
だが、三方からの同時襲撃は防げはしないだろう。
「抜かせたな、雑種ども!」
ゲートから飛び出す、数多の鎖によって上空から襲撃した志貴くん、斉天大聖、風魔の3人は瞬く間に捕らえられた。
ゲートを遠くに開いての奇襲という点もあるだろうが、それでも魂に刻まれた戦闘勘を持つ志貴くん、純粋な強者である斉天大聖、空中を自在に跳ね回る能力を持つトビカトウの使い手である風魔の3人を同時に捕らえるのはいささか向こうに都合が良すぎる。
直感か未来予知か、あるいは高精度の感知技術かを持っている可能性が高い。この黄金の王を攻略するにあたって最も打ち崩さなくてはならないのは数多の武具でも無敵の鎧でもなくその技術だろう。
「伸びろ、如意棒!」
鎖に繋がれた状態で、斉天大聖が動き出す。
如意棒の巨大化現象による射程の増加での本丸狙いだろう。
それと同時に、地面を駆ける3つの影が見え隠れする。沙悟浄と猪八戒とミズキさんだ。
一手を止められても、それを次の一手の布石にする。言うのは容易い事をミズキさんは実行している。
だが、ただ手をこまねいているだけではその次の一手も無駄に終わってしまうだろう。黄金の王は、それだけの力を持っている。
なら、ここは攻める時だ。
「サモン、クー・フーリン!ぶっぱ任せた!」
「あいよ!
クー・フーリンの足を使った奇妙な投法により、槍が黄金の王の胸を打つ。鎧にヒビすら入らないが、衝撃は通った。
「ペガサス、旋回飛行!デオンと縁は前に出ろ!奴の懐が安全地帯だ!」
鎖を外して俺も前に出る。当然迎撃の剣雨はあるが、今それに介入できる位置に所長はいる。
近接距離ならどれだけの耐性を持っていたとしても所長ならやってくれる。
あの人は、生粋の
「...いささか面倒になってきたな」
如意棒の突きをすんでのところで回避した黄金の王は、斧を片手に、もう片手で更なる鎖のコントロールをしてみせようとしたが
戦いの鬼はそれを許すことはしなかった。
差し向けられた斧を払い、空の手甲を打ち据え、返す刀で目を狙う。
自分への脅威の対処と、味方の援護と、敵への攻撃。通常なら時間的に不可能なそれを実現させているのが所長の技術、
自身の身体への負担は度外視して、ただ疾く敵を斬り殺すために。
「やるな雑種。だが、その剣では俺の力場とやらは抜けぬようだな」
「知ってるよ。でも、私は一人じゃない。お前を殺す方法を練り上げてくれると信じられる子が後ろにいるんだよ。だから、私は私の出来ることをする」
ここで、あの黄金の王に対して行なっていたアナライズ結果が画面に出る。破魔、呪殺無効、他全属性耐性。それが、あの黄金が無敵やってる理由か。ちょっと自重しろと思わなくないが、無効ではなく耐性なら幾らでもやりようはある。
「サモン、バルドル、メドゥーサ!畳み掛けろ!」
ヴィマーナの残骸の上に降り立ったデオンと縁の側にバルドルとメドゥーサを召喚する。これで、こちらの全勢力の射程距離だ。
まずするべきことは、こちらのジョーカーである志貴くんを回収すること。全属性耐性を抜くには、万能属性魔法による攻撃が定石だが、理外の技による攻撃という手もあるのだ。死の線をなぞることで耐性に関係なく殺すという直死の魔眼はまさしく理外の技、攻撃の主軸に据える。
その為にするべきことは、鎖のコントロール奪取。これまでの武具同様奴が所持権を持っていないなら数秒で済む。
「ペガサス!」
旋回軌道で最高速まで乗ったペガサスに背中の
流石に痛みはあるが、死ななければ安い。
志貴くんを縛る鎖に捕まり、勢いを殺す。今の引っ張りで斉天大聖を縛る鎖がたわむのが見えた。これの鎖はどうやら、枝分かれした一本の長い鎖のようだ。何度も処理しないで済むのはありがたい。
「志貴くん、無事か?」
「千尋さんこそ、ペガサスに跳ね飛ばされてたろ」
「クッションがなければ即死だった。てのは置いといて!刻印術式起動!ハックスタート!」
着地し、身構える。
現在の状況は、所長が全力で黄金の王と斬り合っているのが主戦場。その隙を伺いつつ援護に回ろうとしているのがデオンたち。遠距離から一発かまそうとしているのがミズキさん。そしてその外側に今解放された鎖に繋がれた面々がいるというのが現状だ。
所長と黄金の王の戦いが激し過ぎて、なかなか手出しが出来ないのだ。黄金の王はいつの間にやら周囲に数枚の円盤を浮かばせている。あれがあるせいで所長は無駄な攻め手を打たねばならず、結果連打をする羽目になり援護の介入をできなくさせている。
あのペースでの戦闘なら、もってあと5分か?
それまでに、奴の未来予知で見えない奇襲で仕留めなくてはならない。
所持品、距離、奴の目線、味方の位置。それらの情報を組み合わせて、どうすれば良いかを考える。
...算段はついた。相手の感知が直感ならば逆手に取られるが、これ以外に所長の戦闘可能時間内で奴を仕留める策はない。
『所長、行きます!』
『オーケー、任せた!』
MGL140グレネードランチャーをストレージから取り出し、装填されている弾が間違っていないかを確認し、発射。そして、もう一つのアイテムをストレージから取り出して作戦を開始する。
「行くぞ、金ピカ!」
「座興も飽きた。死ぬか?雑種」
所長のクレイモアを宙に浮く円盤が止め、その首を斧が狙う。
所長はすんでのところでクレイモアを手放してバック宙で距離を取る。
それは、今までインターセプトしていた奴の砲門が解き放たれる事である。実際俺たち全員に対して黄金のストレージが向けられた。射出まであと数旬といったところだろう。
つまり、タッチの差でこちらの奇襲が早い。
「ッ⁉︎目眩しか!」
先程発射し、所長がバック宙する事で奴の視界の中に入れたもの。それは、フラッシュバン。
閃光が周囲を襲った。
その中で最初に動き出したのは遠距離から一発を狙っていたミズキさん。沙悟浄の
見ていたのか察知していたのか、
奴の性格プロファイリングが正しいかなら、自分を傷つけた者を優先的に攻撃する筈だからだ。
故に、その奇襲は成立する。
見てもいないところに円盤が防御しに行く事に少し驚いたが、その円盤は風魔の刹那五月雨撃ちと呼ばれる投擲技により撃ち落とされた。
これで、志貴くんの攻撃を邪魔できるものは何もない。
ナイフが振られ、斜め一閃に鎧が切り落とされた。次の一閃で終わりだ...ッ⁉︎
「鎧を切った程度で安心したか?戯けが」
瞬間、上半身を覆っていた無敵の鎧が弾け飛んだ。
情報爆発だろう。鎧に込められていたマグネタイトを爆発させるだけの技。超一級品の黄金の鎧であるからこその大威力であり
その一撃で、奇襲に参加していた味方は全員吹き飛ばされた。
確認できないが、死んだ者もいるかもしれない。
「それで、次は何をするつもりだ?雑種」
黄金の王は、俺をしっかりと見つめて、そう言ってきた。
「手品のタネを明かすマジシャンがいると思うか?」
「さて、貴様はサマナーではなかったか?」
「しまった、軽口を先に潰された」
状況は絶望的。戦闘可能な仲間はミズキさんと沙悟浄。デオンと縁にメドゥーサとバルドル。少し離れたところにクー・フーリンと風魔に斉天大聖。
さて、どうやってコイツを殺したものか。
なんて事を、次の一瞬でどう生き残ればいいかを棚に上げて考える。
面倒極まりない鎧を破壊したぞ!(慢心削除という超デメリット)
というところで一旦切ります。
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
-
評価機能を使用した
-
評価機能を使用していない